弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人を無期懲役に処する。
未決勾留日数中400日をその刑に算入する。
理由
【犯罪事実】
被告人は,仕事がなかなか見つからず,自宅にいると母親から早く仕事を探すよ
うにと小言を言われることから,家を出て自転車で付近を徘徊して時間をつぶす生
活をしていたが,そのことなどによる鬱積した気持ちを晴らすため,放火をしよう
と考えるようになった。そして,次の各行為をした。
第1平成24年8月4日午後3時30分頃,大阪府東大阪市aaab丁目ac番
ad号所在の次の建物に放火しようと考え,同建物1階玄関から管理人A1の
管理する同建物共用部分に侵入した。そして,同建物1階の階段下収納部分に
積まれていた新聞紙にライターで火を付け,その火を同建物に燃え移らせてそ
の一部約260平方メートルを焼損するとともに,その頃,同建物において,
居住していたA2(当時64歳)及びA3(当時60歳)を一酸化炭素中毒に
より死亡させた。
[建物]種類共同住宅(A4)
構造木造瓦葺2階建
床面積合計約509.35平方メートル
現に居住していた者(以下「居住者」という。)
上記A2,A3ら12名
現にいた者(以下「現在者」という。)
上記A2,A3ら6名
第2平成24年9月17日
1午後2時32分頃,大阪市ba区bbbc丁目bd番be号所在の次の建物
内において,同建物に放火する目的で,木製棚に置かれていた布切れにライタ
ーで火を付け,その火を同棚を介して同建物に燃え移らせてその一部約14.
8平方メートルを焼損した。
[建物]種類事務所資材置場
構造木造塩化ビニール波トタン葺平屋建
床面積約23平方メートル
所有者B株式会社
居住者・現在者なし
2午後3時40分頃,大阪市ca区cb町cc丁目cd番ce号所在のマンシ
ョン「C」北側駐輪場において,置かれていた他人所有のソファーにライター
で火を付け,その火を周囲にあった木板や同駐輪場の木柵等に燃え移らせてこ
れらを焼損し,人の住んでいる同マンション等に燃え移るおそれのある状態に
した。
第3平成24年9月19日
1午後0時28分頃,大阪府東大阪市da町db丁目dc番dd号所在の次の
建物甲内において,同建物に放火する目的で,かつ,その南側に隣接する次の
建物乙に燃え移るかもしれないことを認識しながら,建物甲の木製棚に置かれ
ていた軍手にライターで火を付け,その火を同棚を介して同建物に燃え移らせ
てこれを全焼させるとともに,その火を建物乙に燃え移らせてその一部約5.
4平方メートルを焼損した。
[建物甲]種類住居兼倉庫
構造木造カラーベスト葺一部木造トタン葺平屋建
床面積合計約109平方メートル
居住者D1
現在者D1
[建物乙]所在同市da町de丁目df番dg号
構造木造瓦葺2階建
床面積合計約76.98平方メートル
所有者D2
居住者・現在者なし
2午後1時45分頃,大阪府東大阪市eaeb丁目ec番ed号所在の共同住
宅E1南側敷地内において,ライターでティッシュペーパーに火をつけ,その
火を置かれていたE2所有の洗濯機のビニールカバーに燃え移らせ,その火を
同洗濯機に燃え移らせてこれらを焼損し,人の住んでいる同共同住宅等に燃え
移るおそれのある状態にした。
3午後2時15分頃,大阪市fa区fbfc丁目fd番fe号所在の共同住宅
F南側敷地内において,置かれていた他人所有の木製物置内の布切れにライタ
ーで火を付け,その火を同物置に燃え移らせてこれらを焼損し,人の住んでい
る同共同住宅等に燃え移るおそれのある状態にし,実際に同共同住宅の外階段
の木製支柱及び側壁下部の木製縁板に燃え移らせて約0.26平方メートルを
焼損した。
4午後5時18分頃,大阪府八尾市gagb丁目gc番gd号所在のG1方住
宅付近において,G2株式会社が所有する上記住宅南西側の木製板塀にライタ
ーで火を付けてその一部約0.56平方メートルを焼損し,人の住んでいる同
住宅等に燃え移るおそれのある状態にした。
第4平成24年10月10日午後2時20分頃,大阪府東大阪市hahb番hc
号所在の次の建物内において,同建物に放火する目的で,雨合羽を同建物南側
木製階段上に置いてライターで火を付け,その火を同建物に燃え移らせてその
一部約76.35平方メートルを焼損した。
[建物]種類共同住宅(H1)
構造木造瓦葺2階建
床面積合計約433.15平方メートル
居住者H2ら3名
現在者H2
第5平成24年10月14日
1午前11時53分頃,大阪府東大阪市iaib丁目ic番id号所在の次の
建物東側路上において,同建物に放火する目的で,同建物資材置場の東側の柵
に接して置かれていた紙箱にライターで火を付け,その火を同資材置場に置か
れていた新聞紙等を介して同建物に燃え移らせてこれを全焼させた。
[建物]種類住宅
構造木造瓦葺2階建
床面積合計約69.4平方メートル
居住者Iら2名
2午後0時20分頃,大阪府東大阪市jajb丁目jc番jd号所在の次の建
物西側路上において,同建物の木製外壁にライターで火を付け,その一部約0.
47平方メートルを焼損した。
[建物]構造木造瓦葺平屋建
床面積合計約114.2平方メートル
所有者J
居住者・現在者なし
3午後0時30分頃,大阪府八尾市kakb丁目kc番地所在の次の建物甲の
トイレ内において,同建物に放火する目的で,かつ,その南側に隣接する次の
建物乙から丁までに燃え移るかもしれないことを認識しながら,同トイレの側
壁にライターで火を付け,その火によって建物甲の一部約173平方メートル
を焼損し,さらに,その火を建物乙から丁までに燃え移らせ,建物丙を全焼さ
せるとともに,建物乙の一部約0.3平方メートルと建物丁の一部約9.9平
方メートルを焼損した。
[建物甲]種類貸倉庫
構造木造瓦棒葺トタン張平屋建
床面積約204平方メートル
所有者K1
居住者・現在者なし
[建物B]所在同市kakd丁目ke番地kf
種類住宅
構造木造スレート葺2階建
床面積合計約75.89平方メートル
居住者K2ら3名
[建物C]所在同市kakg丁目kh番地ki
種類住宅
構造木造瓦葺2階建
床面積合計約79.28平方メートル
居住者・現在者K3ら3名
[建物D]所在同市kakj丁目kk番地kl
種類住宅
構造木造スレート葺2階建
床面積合計約121.72平方メートル
居住者K4ら4名
現在者K5ら2名
4午後0時52分頃,大阪府八尾市lalb丁目lc番地のld所在の株式会
社L所有の工場西側資材置場において,置かれていた他人所有の合成樹脂製コ
ンテナ袋にライターで火を付け,その火を周囲にあった木製パレット等に燃え
移らせてこれらを焼損し,同工場等に燃え移るおそれのある状態にし,実際に
同工場の木製内壁に燃え移らせてその一部約6.5平方メートルを焼損した。
5午後1時35分頃,大阪府八尾市ma町mb丁目mc番地所在の次の建物内
において,同建物に放火する目的で,置かれていた農具にライターで火を付け,
その火を同建物に燃え移らせてこれを全焼させた。
[建物]種類農具小屋
構造木造トタン葺トタン張平屋建
床面積約17.1平方メートル
所有者M
居住者・現在者なし
第6平成24年10月24日
1午後1時17分頃,大阪府八尾市na町nb丁目nc番nd号所在のN1が
管理する共同住宅N2敷地内に,放火の目的で南側出入口から侵入した。
2午後2時20分頃,大阪府八尾市oa町ob丁目oc番地od所在の次の建
物甲西側路上において,同建物に放火する目的で,かつ,その北側に隣接する
次の建物乙及び南側に隣接する次の建物丙に燃え移るかもしれないことを認
識しながら,建物甲の西側外壁裏側の木材にライターで火を付け,その火によ
って同建物を全焼させ,さらに,その火を建物乙及び丙に燃え移らせ,建物乙
を全焼させるとともに,建物丙の一部約55平方メートルを焼損した。
[建物甲]構造木造スレート葺2階建
床面積合計約57.16平方メートル
所有者株式会社O1
居住者・現在者なし
[建物乙]所在同市oa町oe丁目of番地og
種類作業場
構造木造瓦・亜鉛メッキ鋼板葺2階建
床面積合計約181.38平方メートル
現在者O2ら2名
[建物丙]所在同市oa町oh丁目oi番地oj
構造軽量鉄骨造波型スレート葺2階建
床面積合計約121.48平方メートル
所有者株式会社O3
居住者・現在者なし
3午後3時15分頃,大阪府東大阪市pa町pb丁目pc番pd号所在の次の
建物甲南側路上において,同建物に放火する目的で,かつ,その東側に隣接す
る次の建物乙に燃え移るかもしれないことを認識しながら,建物甲南側板壁の
隙間に差し込んだ紙片にライターで火を付け,その火を建物甲に燃え移らせて
これを全焼させるとともに,その火を建物乙に燃え移らせてその一部約80平
方メートルを焼損した。
[建物甲]種類物置小屋
構造木造トタン鋼板葺平屋建
床面積約13.9平方メートル
所有者有限会社P1
居住者・現在者なし
[建物乙]所在同市pa町pe丁目pf番pg号
構造木造瓦葺一部2階建
床面積合計約129.68平方メートル
所有者P2
居住者・現在者なし
【証拠の標目】(各証拠書類に付記した番号は,検察官請求の証拠番号である。)
すべての事実について
・被告人の公判供述
第1の事実について
・捜査報告書(甲362~365,374)
・A1の警察官調書抄本(甲415)
第2の1の事実について
・捜査報告書(甲352)
第2の2の事実について
・捜査報告書(甲353)
第3の1の事実について
・捜査報告書(甲380)
第3の2の事実について
・捜査報告書(甲354)
第3の3の事実について
・捜査報告書(甲355)
第3の4の事実について
・捜査報告書(甲356)
第4の事実について
・捜査報告書(甲387)
第5の1の事実について
・捜査報告書(甲392)
第5の2の事実について
・捜査報告書(甲357)
第5の3の事実について
・捜査報告書(甲395)
第5の4の事実について
・捜査報告書(甲358)
第5の5の事実について
・捜査報告書(甲359)
第6の1の事実について
・捜査報告書(甲360)
・電話聴取書(甲416)
第6の2の事実について
・捜査報告書(甲402)
第6の3の事実について
・捜査報告書(甲361)
【法令の適用】
1被告人の行為は,それぞれ次の刑罰法令に当たる。
第1の行為のうち
邸宅侵入の点刑法130条前段
現住建造物等放火の点刑法108条
第2の1,第5の2,第5の5,第6の3の各行為
それぞれ刑法109条1項
第2の2,第3の2,第3の3,第3の4,第5の4の各行為
それぞれ刑法110条1項
第3の1,第4,第5の1,第5の3,第6の2の各行為
それぞれ刑法108条
第6の1の行為刑法130条前段
2第1の邸宅侵入と現住建造物等放火との間には手段と結果の関係があるので,
刑法54条1項後段,10条により1罪として重い現住建造物等放火罪の刑で処
断する。
3定められた刑のうち,第1の罪について無期懲役刑を,第3の1,第4,第5
の1,第5の3,第6の2の各罪について有期懲役刑を,第6の1の罪について
懲役刑をそれぞれ選択する。
4以上は刑法45条前段の併合罪であるから,同法46条2項により第1の罪の
無期懲役刑で処断し,他の刑を科さない。
5被告人は審理中に身柄を拘束されていたから,刑法21条を適用して主文のと
おり未決勾留日数の一部をその刑に算入する。
6訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させな
い。
【量刑の理由】
本件は,放火目的の邸宅侵入1件を含む16件の無差別な連続放火事案である。
その件数の多さはもちろん,ほとんどの犯行が住宅密集地で行われていることや,
古い木造家屋を狙ったり,木製階段下に置かれた新聞紙の束からその一部を引き出
し,垂らした下の端に点火するなど,燃えやすいように細工をしたりしていること
からすれば,いずれも燃料までは用いていないものの,重大な結果が生じかねない
非常に危険な犯行である。実際に,第1のA4では2名の尊い命が失われたほか,
大きな財産的被害が生じ,周辺住民に大きな不安,恐怖感を与えている。動機にも
酌むべき点はない。そして,2名の死者が出たことを知りながら,なおも放火を続
けたことは極めて悪質であって,強い非難に値する。
そうすると,本件は,現住建造物等への連続放火事案の中でも極めて重いもので
ある。平成20年4月以後の量刑資料には殺人を伴わない放火で無期懲役とされた
ものはなく,最も重いものでも懲役30年に止まっているが,本件はそれら過去の
事例よりも相当重いと評価すべき事案である。そこで,被告人が捜査段階から素直
に罪を認め,反省の態度を示していることなどを考慮しても,無期懲役を選択する
ことはやむを得ないと判断した。
(求刑-無期懲役)
平成26年5月23日
大阪地方裁判所第9刑事部
裁判長裁判官長井秀典
裁判官武田正
裁判官安藤巨騎

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