弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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          主文
   1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
   事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は,控訴人に対し,2957万1712円及び平成13年7月1日か
ら控訴人自宅建物(名古屋市昭和区a町b-c所在,鉄筋コンクリート造3
階建,居宅)の引渡し済みに至るまで1か月5万2000円の割合による金
員を支払え。
3 訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。
第2 事案の概要
 事案の概要は,次のとおり加除・訂正するほか,原判決の事実及び理由
欄の「第2 事案の概要」に摘示のとおりであるから,これを引用する。な
お,控訴人は,当審において請求を減縮したものである。
 (1) 原判決2頁12行目冒頭から同13行目末尾までを削る。
(2) 同15行目及び同19行目の各「発注者」を「注文者」とそれぞれ改め
る。
(3) 同19行目の次に行を改めて次のとおり加え,同20行目の「(2)」を
「(3)」と改める。
「(2) 本件請負契約によって完成した建物(以下「本件建物」という。)を契
約者に引き渡しているか。
   (被控訴人の主張)
 被控訴人は,平成12年10月21日までに,本件建物を完成して,
契約者であるAに引き渡した。
   (控訴人の主張)
 控訴人は,被控訴人から本件建物の引渡しを受けていない。本件
建物には64か所の瑕疵があるので,控訴人としては本件建物の引
渡しを受ける意思はない。」
(4) 同22行目冒頭から同23行目末尾までを次のとおり改める。
「本件建物には多数の瑕疵があるため,契約の目的を達することがで
きない。その結果,控訴人は次のような損害を被った。」
第3 当裁判所の判断
1本件契約の注文者について判断する。
(1) 甲1,3,4,6,7号証,乙8号証並びに原審における証人Aの証言及
び控訴人本人尋問の結果によれば,本件請負契約書における発注者
欄,着工時に支払う代金についての被控訴人の請求書の宛先,建築
確認申請における建築主欄には,いずれも控訴人とAの2名の名前が
記載されており,本件請負契約の代金は,控訴人名義の銀行口座から
支払われ,控訴人とAとは夫婦であり,本件建物は家族の居住用建物
として建築されたものであることが認められる。
上記認定事実によれば,本件請負契約の注文者は,控訴人とAの2
名であると認めるのが相当である。
(2) これに対し,乙1ないし3号証及び原審における証人Aの証言によれ
ば,被控訴人との本件請負契約の交渉は全てAが行い,本件請負契
約書の発注者欄の控訴人の氏名もAが代筆したが,工事着工後に控
訴人が被控訴人の施工する工事にいろいろと口を出すようになり,工
事進行の妨げとなったため,Aは,控訴人との間の一切の問題は自分
の責任と負担において処理する旨の確約書や確認書を被控訴人宛に
差し入れ,平成12年10月ころ本件請負契約書の発注者欄の控訴人
の氏名押印を抹消したことが認められる。また,証人Aは,原審におい
て,本件請負契約の建築資金は,Aが以前経営していた浴場及び駐車
場の賃料によって得た資金から支出したものである旨証言している。
(3) しかしながら,Aと控訴人が夫婦であることからすれば,一方が他方
に契約交渉を基本的に委ね,署名の代筆を承諾することは不自然で
はないので,実際の契約交渉をAが行い,契約書の作成においてAが
控訴人の氏名を代筆したからといって,Aのみが注文者であるとはいえ
ない。また,本件請負契約成立後に,Aにおいて契約書の発注者欄の
控訴人の氏名押印を抹消しても,控訴人の同意がない限り,注文者が
Aのみに変わるものではないところ,控訴人がこれに同意したとは認め
られない。建築資金の出所についてのAの証言は,仮にそうであるとし
ても,控訴人名義の銀行口座から請負代金が支払われている以上,
全てAの特有財産と見るのは相当でなく,夫婦の共有財産から支払わ
れたということにすぎず,Aのみが請負代金を支払ったとは認められな
い。
(4) そうすると,本件請負契約の注文者は,控訴人とAの2名であると認
められる。
2 控訴人は,本件建物には多数の瑕疵があって契約の目的を達すること
ができないことを理由として,被控訴人に対し,本件請負契約代金相当額
その他の損害賠償請求をしているものである。
  ところで,目的物の引渡しを要する請負契約において瑕疵が存在した場
合に,注文者が有する瑕疵の修補に代わる損害賠償請求権は,注文者
が目的物の引渡しを受けたときに発生すると解するのが相当である。な
ぜならば,民法637条1項によれば,この損害賠償請求権は,目的物の
引渡しを受けたときより1年以内に行使しなければならない旨定められて
いるので,目的物の引渡しを受けたときに請求権が発生すると解するの
が自然であるし,実質的にも,瑕疵による損害は注文者が目的物の引渡
しを受けることによって初めて現実化するものであるからである。
  本件請負契約は建物の建築を内容とするものであるから,目的物の引
渡しを要する請負契約である。そして,原審における証人Aの証言及び控
訴人本人尋問の結果によれば,控訴人は未だ本件建物の引渡しを受け
ていないことが認められ,今後も引渡しを受ける意思がないと主張してい
るのであるから,控訴人の被控訴人に対する本件建物の瑕疵の存在を
理由とする損害賠償請求権は,未だ発生していないというべきである。
  したがって,本件建物の瑕疵の有無について判断するまでもなく,控訴
人の本訴請求は理由がないことになる。
3 よって,これと結論を同じくする原判決は相当であり,本件控訴は理由が
ないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
 名古屋高等裁判所民事第4部
裁判長裁判官小   川   克   介
裁判官黒   岩   巳   敏
裁判官永   野   圧   彦

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