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平成14年(行ケ)第122号 特許取消決定取消請求事件(平成15年1月27
日口頭弁論終結)
          判           決
       原      告   株式会社シンセイ
       訴訟代理人弁理士   永 島 郁 二
       被      告   特許庁長官 太 田 信一郎
       指定代理人      吉 國 信 雄
       同          渡 邊   真
       同          高 木   進
       同          宮 川 久 成
          主           文
      原告の請求を棄却する。
      訴訟費用は原告の負担とする。
          事実及び理由
第1 請求
   特許庁が異議2001-72306号事件について平成14年2月15日に
した決定を取り消す。
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
   原告は,下記特許異議の申立てに係る下記特許(以下「本件特許」といい,
その特許発明を「本件発明」という。)の特許権者であり,その手続の経緯は次の
とおりである。
  平成 8年12月24日 特許出願
  平成12年12月15日 設定登録(特許第3138916号「間歇回転形充
填包装機における熱シール時の真空方法」)
  平成13年 8月23日 特許異議の申立て(異議2001-72306号)
  平成14年 2月15日 本件特許を取り消す旨の決定(以下「本件決定」と
いう。)
  同   年 3月 6日 原告への決定謄本送達
 2 本件発明の要旨
   搬送する包装袋を円形テーブルに周設する各作業ステーションに順次吊下げ
正対させ,該包装袋内に内容物を充填しエアー抜きして後,該包装袋の開口部を熱
シールにより閉塞して搬出するようにした間歇回転形充填包装機における熱シール
時の真空方法において,内容物を充填した前記包装袋の開口部よりエアー吸引ノズ
ルを該包装袋内に進入させるとともにスポンジ状の柔軟な押えバーにて該エアー吸
引ノズルごと開口部上端を両側から押え閉じして該包装袋内のエアーを吸引し,吸
引完了後開口部を押えバーの押え閉じにより閉塞したまま該エアー吸引ノズルの先
端を前記押えバー間内の位置にとどまるように引上げておいて該押えバー直下の前
記開口部を熱シールして閉塞するようにしたことを特徴とする間歇回転形充填包装
機における熱シール時の真空方法。
 3 本件決定の理由
   本件決定は,別添決定謄本写し記載のとおり,本件発明は,特開平7-22
33号公報(本訴甲4,以下「刊行物1」という。)及び特開昭53-23785
号公報(本訴甲5,以下「刊行物2」という。)記載の各発明並びに周知技術に基
づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項
の規定に違反して特許されたものであり,本件特許は同法113条2号に該当し取
り消されるべきものとした。
第3 原告主張の本件決定取消事由
 本件決定は,本件発明と刊行物1記載の発明との一致点の認定を誤る(取消
事由1)とともに,両者の相違点(a)及び(b)についての判断をそれぞれ誤っ
た(取消事由2,3)ものであり,また,本件特許異議手続において,適法な取消
理由通知が行われなかった等の手続違反がある(取消事由4)から,本件決定は違
法として取り消されるべきである。
 1 取消事由1(一致点の認定の誤り)
   本件決定は,本件発明と刊行物1記載の発明との一致点として,「熱シール
時の真空方法」である点を認定する(決定謄本5頁第1段落)が,誤りである。す
なわち,刊行物1(甲4)記載の発明は,本件発明の押えバーに相当する構成がな
いため,開口部が開いたエアーが流通する環境の中で,エアー吸引を完了したノズ
ルを開口部より上方に引抜いた後,当該開口部をシールして閉塞するものであるか
ら,袋内の内容物と閉塞した開口部との間にはエアーがあることが明らかであり,
熱シール時の真空方法の発明とはいえない。なお,刊行物2(甲5)記載の発明が
ガス置換による脱気を行うものであることは後述するとおりであるから,これを
「熱シール時の真空方法」と認定した点も誤りである。
 2 取消事由2(相違点(a)についての判断の誤り)
 (1) 本件決定は,本件発明と刊行物1記載の発明との相違点(a)として,
「本件発明では,『スポンジ状の柔軟な押えバーにて該エアー吸引ノズルごと開口
部上端を両側から押え閉じして』エアーを吸引し,吸引完了後『開口部を押えバー
の押え閉じにより閉塞したまま』エアー吸引ノズルの先端を引上げるのに対し,刊
行物1に記載されたものでは,押え閉じを行わない点」(決定謄本5頁第2段落)
を認定した上,当該相違点(a)について,「刊行物1記載のものに刊行物2記載
の技術を適用するにあたり,周知の機構に倣ってガイド管を省略し,また,押えバ
ーにて開口部を気密に閉塞する必要上,エアー吸引ノズルごと直接,押え閉じを行
うようにして・・・相違点のように構成することは,当業者が容易に想到し得たこ
とである」(5頁最終段落以下)と判断するが,誤りである。
 (2) 刊行物1,2記載の各発明は,ともに充填包装機における脱気に関するも
のであるが,刊行物1記載の発明は,小形,軽量で,脱気板による脱気の際の液の
こぼれ落ちを防止するものであるのに対し,刊行物2記載の発明は,刊行物1記載
のものとは比較にならないほどに大型で,内容量の多い包装袋に関するものであっ
て,しかもガス置換による脱気であるから,両者は脱気の技術分野を全く異にして
おり,刊行物2記載の発明を刊行物1記載の発明に適用することが,当業者の容易
にし得たものとはいえない。
    また,刊行物2記載の発明は,ガイド管内にノズルを入れることによっ
て,ノズルの径を太くしてガス置換の効率を高めるという目的を達成するととも
に,切口部の気密の保持を安定させてガス置換作業を自動制御にするという目的を
達成することもできるのである。したがって,特開昭62-287824号公報
(甲7,以下「刊行物4」という。)に開示されたノズルを直接押え閉じする技術
が周知であるとしても,本件決定のいうように,刊行物2記載の発明のガイド管を
省略し,切口部にノズルを直接入れて押え閉じするようにした場合,押え閉じをス
ムースにするためにはノズルを太径にすることができず,また,ガス置換の完了後
にノズルを押えバーとの間でスリップさせながら上昇させるようになることから,
気密洩れの不安があり,ガス置換作業を自動制御にすることもできず,刊行物2記
載の発明の目的を達成できなくなる。すなわち,刊行物2記載の発明は,ガイド管
を必須の構成要件とするものであるから,これを省略することはできないというべ
きであり,刊行物2記載の発明のガイド管を省略すれば相違点(a)に係る構成を
当業者が容易に想到することができるとの本件決定の上記判断は誤りである。
 3 取消事由3(相違点(b)についての判断の誤り)
 (1) 本件決定は,本件発明と刊行物1記載の発明との相違点(b)として,
「本件発明では,エアー吸引ノズルの先端を,『押えバー間内の位置にとどまるよ
うに』しておいて『押えバー直下の』開口部を熱シールして閉塞するのに対し,刊
行物1に記載されたものでは,エアー吸引ノズルの先端を押えバー間内の位置にと
どめておかない点」(決定謄本5頁第3段落)を認定した上,当該相違点(b)に
ついて,「熱シールの障害になることを防止するためには,エアー吸引ノズルをシ
ール機構と干渉しない位置まで上昇させれば十分であり,熱シール以前にエアー吸
引ノズルを包装袋の開口部から完全に引き抜かねばならない特段の事情もないか
ら,エアー吸引ノズルを引抜く際のもれ等を考慮して,例えば刊行物3(注,実願
昭51-23297号(実開昭52-118756号)のマイクロフィルム,本訴
甲6,以下「刊行物3」という。)に記載されたものと同様に,開口部を閉塞する
までエアー吸引ノズルを押えバー間内の位置にとどめておくようにすることは,当
業者であれば適宜採用することができる程度の事項にすぎない」(同6頁第2段
落)と判断するが,誤りである。
 (2) 刊行物3(甲6)記載の発明は,吸引パイプを開口部に入れてその中途を
開口部ごとクランピング部材(押えバー)で押え閉じしておいてエアーを吸引し,
吸引完了後は吸引パイプを引き上げることなく,そのままの状態で吸引パイプ下端
の下側をヒートシールするものである。すなわち,刊行物3には,上記相違点
(b)に係る構成である「吸引完了後・・・エアー吸引ノズルの先端を前記押えバ
ー間内の位置にとどまるように引上げておいて該押えバー直下の前記開口部を熱シ
ールして閉塞する」ことが記載されておらず,この構成が周知であるとする本件決
定の認定は根拠を欠くというべきである。
    また,本件発明は,上記相違点(b)に係る構成を備えることによって,
エアー吸引ノズルの先端開口が押えバーの下半でふさがれることになるため,エア
ー吸引完了から熱シール閉塞までの間,エアーが袋内に戻り流入することがなく,
また,熱シールが,押えバーの直下という開口部の上端近くの位置で行われるた
め,袋内を広くして内容量を多くし,熱シールの上方でカットする(刊行物3〔甲
6〕6頁3行目参照)手間も生じないものとなる。このような点においても,刊行
物3記載の発明と異なることは明らかであり,相違点(b)に係る構成が,当業者
の適宜採用し得る程度のものとはいえない。
 4 取消事由4(適法な取消理由通知の欠缺及び決定の理由不記載)
 (1) 本件特許異議手続で原告に通知された取消理由通知書(甲2)において
は,本件発明と刊行物1記載の発明との相違点に係る構成は,刊行物2に記載され
ているとの認定(2頁(1)の項の第3段落)に基づいて,その容易想到性の判断が示
されているところ,本件決定では,取消理由通知書に記載の相違点を,前記相違点
(a),(b)に分けた上,それぞれ,上記2(1),3(1)で引用したとおりの理由
で容易想到性の判断を行ったものであるが,本件決定が,相違点(a)は刊行物2
中のガイド管を省略すれば,刊行物2記載の発明より容易に想到し得るとしたこ
と,さらには相違点(b)は刊行物3記載の発明と同様に適宜採用し得るとしたこ
とは,取消理由通知書に記載された上記取消理由からは全く読み取ることのできな
い新たな取消理由であり,この点について反論する機会も与えられていない。この
ように取消理由通知書からは読み取れず,また,意見書により反論する機会も与え
られていない取消理由の変更は新たな取消理由ということになるから,特許法第1
20条の4第1項の規定により,特許権者である原告に通知し,相当の期間を指定
して意見書提出の機会を与えるべきところ,被告はこれを怠った違法がある。
 (2) 原告は,上記取消理由通知を受けて,刊行物2には,上記相違点に係る構
成が記載されていない旨の意見書を提出したところ,本件決定は,この反論には全
く触れることなく,上記のとおりの取消理由の変更を行ったものである。したがっ
て,上記意見書の反論について採用しない理由を記載すべきであるのに,これを怠
った点で,本件決定には特許法第120条の5第1項第4号の規定に反する理由不
記載の違法があるというべきである。   
第4 被告の反論
   本件決定の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由は理由がない。
 1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について
   刊行物1記載の発明は,間歇回転形充填包装機のエアー吸引ノズルによるエ
アー除去後,熱シールによる袋口の密封まで包装袋内の真空を維持する方法であっ
て,しかも,充填包装機における包装体内の空気の除去に関する発明でもあるか
ら,エアーが少々残るとしても,まさしく熱シール時の真空方法の発明であり,本
件決定が,刊行物1に記載された発明を熱シール時の真空方法と認定した点に誤り
はない。
 2 取消事由2(相違点(a)についての判断の誤り)について
   刊行物1,2記載の各発明は,いずれも充填包装機における包装体内の空気
の除去に関する発明であり,空気を除去して包装体内の真空度を高める点に関する
手段自体は適用可能なものであるから,刊行物1記載の発明に刊行物2記載の発明
の適用を妨げる特段の事由があるとはいえない。
   また,原告は,刊行物2に記載された発明はガイド管を必須の構成要件とす
る旨主張するが,ノズルを挿入したまま,押えバーで包装袋の開口部を押さえて,
空気が漏れることを防止するものにおいて,ガイド管を介することなく,ノズルを
柔軟な押えバーに対して上下に摺動させるものも周知であるから(刊行物4等),
上記周知の機構にならって,ガイド管を省略することは当業者の容易に想到し得た
ことというべきである。
 3 取消事由3(相違点(b)についての判断の誤り)について
   吸引完了後,エアー吸引ノズルの先端を引上げておいて開口部を熱シールし
て閉塞することは,刊行物1に記載されているところ,本件決定は,開口部を閉塞
するまでの間ノズルを押えバー間内の位置にとどめておくようにすることが当業者
において適宜採用できる程度の事項にすぎないとしているものであって,その判断
に誤りはない。
 4 取消事由4(適法な取消理由通知の欠缺及び決定の理由不記載)について
   取消理由通知では,本件発明と刊行物1記載の発明との相違点を一つの相違
点として挙げているのに対して,本件決定では,相違点(a),(b)と二つの相
違点に分けたにすぎない。取消理由通知も本件決定も,本件発明は,刊行物1,2
記載の各発明及び周知技術から当業者が容易に発明をすることができたというもの
であって,取消しの理由が異なるものではなく,新たに取消理由通知を出さなかっ
たことに何ら違法はない。また,本件決定には,結論に至る理由が詳細に記載され
ており,理由不記載の違法もない。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について
   原告は,刊行物1記載の発明は「熱シール時の真空方法」の発明とはいえな
いから,この点を本件発明との一致点とした認定は誤りである旨主張する。しか
し,「真空」の用語が,理論的には,何らの物質も存在しない空間を意味するにせ
よ,少なくとも,本件発明や刊行物1記載の発明のような,いわゆる真空包装ない
し真空包装機の分野における「真空」が,このような厳密に理論的な意味での「真
空」を意味するものではなく,内容物の充填時に容器から空気を吸引排気して減圧
密封するという程度の技術を含む広い意味で用いられることは,例えば,JIS工
業用語のZ0108の「真空包装」の項に「内容物の充てん時に容器から空気を吸
引排気して密封し,物品の変質などを防止することを目的とする包装」との記載
が,同じく「真空包装機」の項に「個装・内装用機械の一種で,ガス遮断性の優れ
た包装材料で包装対象品を真空又は減圧密封包装する機械」との記載があるとお
り,当業者の技術常識に属する事項であり,また,このことは,刊行物1(甲4)
中に,「真空圧」の調整,設定等の用語が用いられていること(段落【001
6】,【0018】等),エアーの戻り流入が生ずると原告の指摘する刊行物3
(甲6)記載の発明が「真空包装装置」との名称を付されていること等からも十分
裏付けられるものである。
   そして,刊行物1記載の発明が,一対の脱気板と真空ポンプに連通された吸
引ノズルとを用いて,包装袋内の脱気を行う方法に関するものであることは明らか
であるから,原告の指摘するように,本件発明の押えバーに相当する構成がないた
めに若干の空気の流入が避けられないとしても,これを「熱シール時の真空方法」
の発明であるとした本件決定の認定に誤りはないというべきである。
   なお,原告は,刊行物2記載の発明についても,これを「熱シール時の真空
方法」の発明であるとした認定は誤りである旨主張するが,そもそも本件決定は,
刊行物2記載の発明が「熱シール時の真空方法」の発明であることを前提とした容
易想到性の判断をするものとはいえないから,本件決定の誤りをいう主張としては
失当である。
 2 取消事由2(相違点(a)についての判断の誤り)について
 (1) 原告は,刊行物1,2記載の各発明は,脱気の対象の容量及び脱気の方法
の違いがあることを理由に,両者は脱気の分野を異にし,刊行物2記載の発明を刊
行物1記載の発明に適用することは容易ではない旨主張する。しかし,この両者
は,いずれも,充填包装機における包装体内の空気を除去した上シールにより開口
部を閉塞する方法に関するものであるから,少なくとも,包装体内の脱気及び気密
性の保持に係る構成に関する限り,同一の技術分野に属する発明として,その組合
せないし置換を妨げる理由はないというべきである。そうすると,原告の主張する
ように,刊行物2記載の発明は比較にならないほどに大型であるとか,刊行物1記
載の発明が脱気の際の液のこぼれ落ちを防止することを目的の一つとするものであ
り,刊行物2記載の発明はガス置換による脱気である等の点で,刊行物1,2記載
の各発明に違いがあるとしても,柔軟な押えバーで開口部を気密に閉塞するという
刊行物2記載の技術を,刊行物1記載の発明に適用することを困難とするような技
術分野の違いを基礎付けるものとはいえず,原告の上記主張は理由がない。
 (2) 次に,原告は,刊行物2記載の発明は,ノズルの径を太くしてガス置換の
効率を高め,切口部の気密の保持を安定させてガス置換作業を自動制御にするとい
う目的を達成するためにガイド管を必須の構成要件とするものであるから,これを
省略することはできない旨主張する。
    しかし,まず,ノズルの太径化をいう点については,刊行物2(甲5)の
「合成樹脂フィルム等の積層体からなる袋にお茶を充填し,その充填口をシールし
た後,内部の残存空気を窒素ガス置換するシステムがあるが,この場合,その袋の
胴部等に・・・フィルター付針突刺口が設けられ,ここにガス置換針を突刺した後
ガス置換して流通過程に供していた。しかしながら,この場合・・・ガス置換針は
突刺す必要があるため通常1㎜以下であり,ガス置換能力が小さく時間が経かる
こと等の大きな欠点を有していた」(1頁右下欄4行目以下),「本発明による装
置では,ガス出入口が突き刺し針に比較し,十分大きな径を使用することが可能な
ため,従来より包装速度が増加され,且つ包装内部は十分ガス置換可能であ
り・・・等の特徴がある」(2頁右下欄5行目以下)との記載によれば,刊行物2
記載の発明のノズルの径を太くしてガス置換の効率を高めたとの点は,従来技術と
して示されている直径1㎜以下程度のガス置換針を用いる技術との対比において記
載されているにすぎず,ガイド管を用いることとの関係については何ら触れられて
いないことが明らかであって,ノズルの太径化という観点から,ガイド管を用いる
ことが刊行物2記載の発明の必須の構成要件であるとは認められない。
    次に,切口部の気密の安定をいう点については,刊行物2記載の発明のよ
うに,挿脱可能なノズルを包装体内部にさし込んで脱気する包装装置において,ガ
イド管を用いることなく,弾性体でノズルの周囲を閉塞する方法は,刊行物4に見
られるように本件出願前周知の技術と認められるものであって,切口部の気密の安
定において違いが生ずるとしても,程度の差にすぎないというべきである。そうす
ると,刊行物2記載の発明におけるようにガイド管を用いるか,上記の周知技術に
おけるようにガイド管を省略するかということは,切口部の気密の安定という観点
から考えても,当業者において適宜採用可能な選択肢にすぎないというべきであ
り,原告の主張するように,刊行物2記載の発明の必須の構成要件として省略ので
きないものということはできない。
    したがって,原告の取消事由2の主張は理由がない。
 3 取消事由3(相違点(b)についての判断の誤り)について
 (1) 原告は,刊行物3には,相違点(b)に係る構成である「吸引完了
後・・・エアー吸引ノズルの先端を前記押えバー間内の位置にとどまるように引上
げておいて該押えバー直下の前記開口部を熱シールして閉塞する」ことが記載され
ておらず,この構成が周知であるとする本件決定の認定は根拠を欠く旨主張する。
確かに,刊行物3(甲6)の「実施例では,真空包装される包装を上下動するよう
に説明したが,包装はそのまゝにしておき,吸引パイプ(1),クランピング部材(3)
及びヒートシール部材(5)を機体にセットし,これらを上下動しても同様な結果が
得られる」(4頁第2段落)との記載に照らすと,刊行物3には,吸引パイプ(エ
アー吸引ノズル)をクランピング部材(押えバー)との相対的な位置関係において
上下させることが開示されているとはいえないから,相違点(b)に係る構成を開
示ないし示唆するものではなく,本件決定が,「例えば刊行物3に記載されたもの
と同様に,開口部を閉塞するまでエアー吸引ノズルを押えバー間内の位置にとどめ
ておくことは,当業者であれば適宜採用することができる程度の事項にすぎない」
(本件決定6頁第2段落)として,この文脈で刊行物3を援用している点は適切さ
を欠くといわざるを得ない。しかしながら,刊行物3による開示の有無とは関わり
なく,下記(2),(3)のとおり,相違点(b)に係る構成は当業者の適宜採用するこ
とのできる事項にすぎないとした本件決定の判断自体に誤りはないというべきであ
るから,この点は,本件決定の結論に影響を及ぼすものとはいえない。
 (2) 刊行物1記載の発明において相違点(b)に係る構成を採用することが当
業者の適宜採用し得る事項といえるかどうかを検討する。
    刊行物1(甲4)の「袋1内のエアー抜きが完了すると,駆動棒9を作動
して吸引ノズル6を袋1内より引抜いた後,熱板3を袋口に押付けて熱シールし
(図d1,d2),次いで駆動機構12を作動して脱気板4を袋1より開放して全
動作が完了する」(段落【0019】)との記載及び図4d1,e1によれば,刊
行物1記載の発明においては,エアー抜き完了後,エアー吸引ノズルを袋の開口部
から完全に引き抜いた上,熱シールを行うものと認められるが,エアー吸引ノズル
を袋の開口部から完全に引き抜くように動作させる技術的意義を明示的に説明する
記載はなく,上記記載及び図4の図示から理解されるのは,せいぜい熱シールを行
う熱板と吸引ノズルとの干渉を避けるという作用効果にとどまるというべきであ
る。そうすると,エアー抜きの完了後に吸引ノズルを引き上げるに当たって,熱板
との干渉が避けられる限り,袋の開口部から完全に引き抜くように動作させるか,
押えバー間内の位置にとどまるようにするかは,上記作用効果との関係で技術的に
差異はなく,当業者の適宜選択し得る事項にすぎないと解するのが相当である。な
お,刊行物1記載の発明と同様に包装袋の開口部に挿脱可能なノズルを用いて脱気
を行う刊行物4(甲7)記載の発明においても,脱気完了後はノズルを完全に引き
抜くこととされている(第38,39図及び関連記載)ところ,同発明において
は,袋口部のシールを行う際に,袋をシール装置のある位置まで水平方向に移動さ
せる構造としているため,袋の移動を妨げないようにノズルを完全に引き抜く必要
があることは当然であるが,刊行物1記載の発明においては,あえてノズルを完全
に引き抜くように動作させなければならない必然性は見当たらない。
 (3) 原告は,本件発明が相違点(b)に係る構成を採用した技術的意義とし
て,①エアー吸引完了から熱シール閉塞までの間,エアーが袋内に戻り流入するこ
とがない,②熱シールが,押えバーの直下という開口部の上端近くの位置で行われ
るため,袋内を広くして内容量を多くし,熱シールの上方でカットする手間も生じ
ないとの点を主張するが,いずれも,刊行物1記載の発明におけるように吸引ノズ
ルを包装袋の開口部から完全に引き抜く動作を行うものにおいても妥当するもので
あって,格別のものとはいえない。すなわち,刊行物1記載の発明におけるよう
に,吸引ノズルを包装袋の開口部から完全に引き抜いた上で開口部を熱シールして
閉塞した場合であっても,吸引ノズルの開口部が包装袋内にとどまるものでない以
上,上記①のエアーの戻り流入の問題は生ぜず,また,押えバーの前方(包装袋内
側)に吸引ノズルが突き出した状態のままで熱シールを行うことを避けることがで
きるのであるから,押えバー(刊行物2記載の発明の適用に係る押え治具)の直下
の開口部を熱シールして閉塞することが可能であり,その場合,上記②の「袋内を
広くして内容量を多くし,熱シールの上方でカットする手間も生じない」との作用
効果も,当然予想される効果であって,格別のものとはいえない。そうすると,原
告の主張する上記の作用効果という観点から検討しても,本件発明の相違点(b)
に係る構成のように,吸引完了後エアー吸引ノズルの先端を押えバー間内の位置に
とどまるように引き上げておいて,押えバー直下の開口部を熱シールして閉塞する
ように構成することは,当業者の適宜選択し得る事項にすぎないというべきであ
り,結局,原告の取消事由3の主張は理由がない。
 4 取消事由4(適法な取消理由通知の欠缺及び決定の理由不記載)について
 (1) 本件特許異議手続で原告に通知された取消理由通知書(甲2)は,本件決
定の引用する刊行物1~4と同一の刊行物を掲げた(1頁2項)上,本件発明と刊
行物1記載の発明とを対比して,両者の相違点として,「スポンジ状の柔軟な押え
バーにて該エアー吸引ノズルごと開口部上端を両側から押え閉じ」する点及び「吸
引完了後開口部を押えバーの押え閉じにより閉塞したまま該エアー吸引ノズルの先
端を前記押えバー間内の位置にとどまるように引上げておいて該押えバー直下の前
記開口部を熱シールして閉塞する」点を認定(2頁(1)の項の第2段落)し,当該相
違点について,「押えバーにてエアー吸引ノズル及びこの外側に設けられたガイド
管ごと開口部上端を両側から押え閉じし,吸引完了後開口部を押えバーの押え閉じ
により閉塞したまま該エアー吸引ノズルの先端を前記押えバー間内の位置にとどま
るように引き上げておいて該押えバー直下の前記開口部を熱シールして閉塞するこ
とは,刊行物2に記載されており,両刊行物記載の発明はともに充填包装機におけ
る熱シール時の真空方法に関する発明であることから,当該刊行物2に記載の発明
を刊行物1に記載の発明に適用することは当業者が容易になし得るものである。ま
た,充填包装機における熱シール時の真空方法において,ガイド管のないエアー吸
引ノズル,及び,適宜の材料からなる柔軟な押えバーを用いることは,例えば,刊
行物3,及び,刊行物4にも記載されているように,周知の事項にすぎない」(2
頁(1)の項の第3,第4段落)として,本件発明は特許法29条2項の規定に違反し
て特許されたとの判断が示されていることが認められる。
 (2) 上記の取消理由通知書の記載によれば,その通知に係る取消理由は,刊行
物1を主たる引用例,刊行物2を従たる引用例として,両者に記載された発明の組
合せを中心として,刊行物3,4を周知例とする周知技術を補足的に用いることで
本件発明の容易想到性を判断していることが明らかであり,このような各刊行物の
位置付け及び組合せは,本件決定の判断と軌を一にするものである。
    そして,その具体的な認定判断においても,まず,本件発明と刊行物1記
載の発明との相違点の認定に関しては,本件決定では,取消理由通知記載の上記相
違点を,刊行物2に基本的な構成の開示のある相違点(a)と,刊行物2に構成が
開示されていない相違点(b)との二つに分けて整理し直したにすぎないと理解さ
れるものであって,両者の間に実質的な違いがあるとはいえない。また,相違点に
ついての判断に関しても,上記のように相違点を二つに整理し直したことに伴う構
成上及び表現上の変更はあるものの,本件発明と刊行物1記載の発明との相違点に
係る構成は,刊行物2に開示されているか,周知の事項として当業者が適宜選択す
ることができたとの趣旨が示されている点において,取消理由通知書記載の判断と
本件決定の判断とで実質的な違いがあるとはいえない。
    原告は,取消理由通知書の記載からは本件決定の判断する内容を読み取る
ことができないから,反論の機会を与えられることなく新たな取消理由に変更され
たことになる旨主張するところ,確かに,取消理由通知書に記載された取消理由と
本件決定に記載された取消理由とでは,原告の主張するような変更部分がないでは
ないものの,上記認定の限度で両者は軌を一にしているのであるから,本件決定と
実質的に同一の取消理由が原告に通知されたということができ,反論の機会に欠け
るところはなかったというべきである。
    したがって,本件特許異議手続における取消理由通知には,特許法120
条の4第1項に違反する違法はない。
 (3) 原告は,本件決定が,本件特許異議手続において原告の提出した「刊行物
2には相違点に係る構成が記載されていない」旨の意見書の反論を採用しない理由
を記載しなかったのは,理由不記載の違法であると主張する。しかし,本件決定
は,刊行物2に記載されていない構成に関しては,周知技術を補うことで容易想到
性の判断をしていることは,これまでの認定判断から明らかであり,原告の主張す
る理由不記載の違法があるとはいえない。
    したがって,原告の取消事由4の主張も理由がない。
 5 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に本件決定を
取り消すべき瑕疵は見当たらない。
   よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決
する。
     東京高等裁判所第13民事部
         裁判長裁判官 篠  原  勝  美
    裁判官 長  沢  幸  男
    裁判官 宮  坂  昌  利

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