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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を広島高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 (1)被告人A本人(2)被告人B本人(3)被告人C本人(4)被告人D本人
(5)被告人四名の弁護人岡林辰雄、同福田力之助、同霧生昇、同関原勇、同原田
香留夫、同三浦強一、同丸茂忍(6)被告人四名の弁護人原田香留夫(7)被告人
四名の弁護人正木・(8)被告人四名の弁護人霧生昇の各上告趣意書(上告趣意訂
正申立書を含むが昭和二九年一二月二一日以後に提出された各上告趣意補充書は所
定趣意書差出最終日経過後提出のもので判断を必要としないものである)は後記の
とおりである。
 先ず、原判決の是認した第一審判決が認定したように、被告人四名が原審相被告
人Eと判示のとおり共謀の上判示日時判示F方に共同して押し入りE及び被告人A、
B、Cの手でF及びその妻Gを殺害しA、E等の手でF所有現金を奪取したとの事
実につき、判決に重大な事実誤認がないか否かを、当裁判所は職権により本件記録
(押収の証拠物を含む)について調査する。
 この判決で(1)単にEとは右Eを指す。各被告人については概ね姓だけを示す。
(2)月日だけを示すのは概ね昭和二六年のそれ、日だけを示すのは同年一月のそ
れを指す。(3)A警二回とはAの司法警察職員に対する第二回供述調書を指す。
その他これにならう。(4)検とは検察官に対する供述調書を指す。(5)証拠等
の引用の場合に公判とは概ね第一審公判を指す。(6)供述等の引用の場合の鍵括
弧「……」の中の文言は必ずしも原文どおりでなくその趣旨を変更しないで要旨を
引用したものである。
 第一 共犯の可能性とE単独犯行の可能性
 その一 Eと被告人等との共犯の可能性
 昭和二六年一月二五日午後五時から二六日午後三時までの間行われた警察最初の
山口県熊毛郡a村大字bF方検証調書(二冊二八二丁)、F、同G各死体解剖鑑定
書(二冊二五三丁、二六四丁)、検証現場にあつた押収の薪割用長斧(証四)切れ
紐(証六)、細引(証七)等によると、二四日夜同家で何者かがFとGを殺害し、
また金品を捜索奪取し、なお犯行が早く発覚しないようにするため、恰かも二人が
夫婦喧嘩をして灰をまきちらしGはFを殺した上鴨居で首吊自殺をした如く擬装工
作をし戸締をして立ち去つたように推測することができる。そしてFは頭部、顔面
に七ケ所、胸部に一ケ所の重傷(頭部に頭骨骨折、陥没を来たす割創四個、顔面に
下頸骨切断及び深さ口腔に達する等の割創三個、胸部に胸骨骨折を来たす創傷一個)
を受けこれによつて死亡したのに、Gには頸部に索溝があるが、Gは「索溝のでき
る以前に第三者より頸部を索状以外の何物かによつて搾扼されて死に至らしめられ
たもの」と推測される。また、Fの敷布団下の畳が同人が動かなくなつてから上げ
られたようであることは、右検証調書におけるFの枕許より電燈点滅用紐一本が垂
れ下り同人の死体の畳の裏側に喰い込んでいるとの記載などから推測できる。(被
害発見当初F方は内部から戸締がなされていたことは公判証人H、I、J各調書一
冊六六丁、五〇丁、七六丁などによつて認められる。)
 一 右被害の客観的状況においてFの傷の多いことと一審判決の説示したように
殺害が同時であると認められるのに殺害の方法は違つているところから、Fに対す
る八回強打とGの頸部搾扼は二人以上の人によつてなされた可能性がある。
 二 F、Gが被害後少くとも動かなくなつてから、灰撒きや畳上げ或は重く扱い
にくいと思われるGを鴨居に吊るす擬装工作をしかつ戸締をすることも、二人以上
でなされた可能性がある。
 三 単独犯行なら、犯人は前記被害状況に見られるような擬装工作などのために、
余り多くの労力を費やし余り長く現場に居残らないのが通常ではないかと思われる。
 四 被告人等が、EとF方での犯行を共謀し共同実行することが絶対にない間柄
であるとは断定できない状況であつたことは、一、二審判決挙示の証拠によつて認
めることができる。すなわち、一審判決のいう被告人四名とEが仲よく毎日の様に
集まり雑談や遊びにふけり、金があれば酒を買つて皆で飲み或は近くの娘のいる家
に遊びに行く等行動を共にしていた状況や、一月一五日頃金につまつていた五名は
どこかよいところに物とりに入ることを考え始め、同月一九日頃K旅館に五名が集
まつた際右の話が出て押入先を物色しF方がよいということに大体話が落ちついた
ような状況(五回公判E供述二冊四六〇丁、E警六回三冊六〇四丁、A警四回四冊
八〇七丁、B警三回四冊八七〇丁、C警三回四冊八三七丁、D警五回五冊九一七丁、
三回公判証人L証言二冊三七一丁等)や、なお、Aに関しては、Eが一月一五日午
后一〇時頃a村農業協同組合前路上でM所有自転車一台を窃取し、これにEとAが
二人乗りしてcの遊廓に登楼しAはBと偽名しEは右自転車を担保に入れたこと(
A警一回四冊七八一丁、五回公判E供述二冊四六二丁、E警五回三冊六〇〇丁、E
検六回三冊六五二丁)や、Eの昭和二五年中の三回の窃盗の賍品の処分にAが関係
していること(A二月二二日附検四冊七三三丁)などについては証拠資料は存する
のである。
 その二 E単独犯行の可能性
 一 Eは二四日宵の口には単独行動をとつた
 Gの死体鑑定書(二冊二六九丁)はGは食後一時間ないし二時間を経過した頃殺
害されたものと推定するという。だから一月二四日のGの最終食事時刻が判れば殺
害時刻を推知することができるのであるが、当日のGの最終食事時刻についての証
拠資料は記録上存しない。記録によれば被告人四名が二四日夜d橋に集まりF方に
行つたという多くの供述があるとともに、d橋にもF方にも行かなかつたという多
くの供述もある。そして、被告人四名の当夜の行動の時刻についての供述としては、
三回公判証人N証言(二冊三八二丁)、公判証人O調書(一冊一六一丁)、巡査P
の上申書(二冊四〇六丁)、同人の公判証人調書(一冊一二二丁)、被告人の家族
等の供述があるが、その時刻についての供述が真実であることの物的証拠はなく、
必ずしも正確とは考えられない。
 Eは同日夕方までにa村Q方で焼酎約四合を飲んだ上、いくらか焼酎の入つた同
家の三合瓶一本(証三)を持つて、少し酔つて、夕方同家を出た。(Q検一冊二二
二丁によれば、同人が午後五時頃帰宅するとEが来ており焼酎二合位を飲み自分が
帰つてからも四合位を二人で飲んで帰つたと供述するが、Eの去つた時刻について
は供述していない。)
 しかし、被告人四名及びEのいずれの供述によつても、Eは二四日宵の口以後五
名が同夜d橋に集まつたという時刻までRのS方にも行かず被告人四名中の誰にも
会つていないことになつている。次項に列挙するd橋集合と犯行との時刻について
のE供述によると、EはQを出て峠附近の草原に伏し、その辺をうろつき或はA方
に寄りb部落を歩き廻つたということになつている。だから同日宵の口以後もEは
宵の口までのように単独行動をとり単独犯行をしたのではないかとの疑念も起り得
る。そして、或はEは同夜早い時刻に単独犯行をした後何処かに隠れ或は人目を避
けつつ二五日午前〇時四〇分頃e町Tタクシー店に現われたのかもしれないとの疑
念も起り得る。(V検一冊二〇八丁、W検一冊二〇六丁)
 二 E供述における時刻のずれ
 二四日夜五人がd橋に集まりF方に行つて殺害及び金員奪取をしたという時刻に
ついては、Eは捜査の終頃の段階で時刻を前よりも少しずらして供述し、公判では
時刻が遅かつたように供述すること次のとおりである。これはEが或は同日夕方早
い時刻に単独犯行をしながら、被告人四名のアリバイの立たないように、他の者の
供述に合わせて偽つて犯行時刻を遅かつたように供述したのかも知れないとの疑念
も起り得るのである。
 今左にこの点についての供述の要旨を示す。(ここでは時刻はすべて一月二四日
の午後を指す。)
 (1)一月二六日附E警一回三冊五四七丁「八時頃Qを出て峠附近の草原に伏せ、
e町に向い、また自宅に戻り、地蔵尊側の石に腰を下ろしF方に行く」(単独犯供
述)
 (2)二八日附B警一回四冊八五〇丁「一〇時前頃d橋に行く」
 二八日附E警四回三冊五六四丁「Qで六時半頃飲み終り、峠で一休みし、d橋に
出て六人で八時半頃か九時頃F方に行く」(六人犯行供述)
 (3) 二九日附C警一回四冊八二二丁」一〇時一〇分か二〇分頃d橋に着き相
談の後F方に行く」
 (4) 三〇日附D警二回四冊八八七丁「一〇時過S方を出て、家に寄り、Aと
d橋に行く」
 三〇日附A警二回四冊七九一丁「一一時頃d橋に集合しF方に行く」
 三〇日附A警三回四冊七九九丁「一〇時頃家に帰り風呂、夕食をすませ打合せの
一一時の時間頃d橋に行く」
 (5) 三一日附B警二回四冊八五九丁「九時四〇分か四五分頃d橋に行く」
 三一日附D警三回五冊八九七丁「一〇時二〇分過Sを出て、A方に寄りd橋に行
く」
 (6) 二月一日附C警二回四冊八三〇丁「一〇時d橋に集合することの伝言に
従い集まり相談の後F方に行く」
 一日附E警五回三冊五八一丁「六時半頃か七時頃Qを出てA方に行きA方を出て
b部落を歩き廻り、d橋を渡り九時過頃四人に会い、F方状況などを探る」
 (7) 二日附C警三回四冊八三九丁「九時一〇分前S方を出てD、X、B方に、
更にA方に寄り、帰宅後d橋に行き一〇分位後五人集まり段取りをきめF方に行く」
 二日附B警三回四冊八七三丁「九時四五分頃d橋に行く」
 二日附E警六回三冊六〇八丁、六二一丁「d橋を渡り、九時半頃四人に会い相談
の後F方に行く、金の分配が済んでからAが「警察で調べられたときは云々」とい
つた時刻は一一時半前頃と思う」
 (8) 三日附E検一回三冊六二四丁「九時半か一〇時頃d橋に行き相談の後F
方に行く」三日附A警四回四冊八〇九丁「当日、今晩一〇時頃d橋に集まろうと申
し、自分はその晩夕食をすまして直ぐd橋に行つた」
 (9) 一四日附E検四回三冊六三八丁、六四二丁「一〇時過頃Qで貰つた瓶を
持つてd橋に行くと四人に会いF方戸外に行き、悪い事をしたのは一一時前後では
ないかと思う」
 (10) 六月八日公判検証E供述一冊三〇丁「一〇時頃d橋に行く」
 (11) 昭和二七年二月一一日八回公判E供述四冊七六三丁「一一時頃四人と
共に忍び込み殺害した」
 (12) 同二八年七月二二日控訴公判E供述一三四五丁「Aは二四日夜一〇時
か一一時頃来ればよいといつた」
 三 Eが単独犯行をする動機があるとみることも可能である
 一審判決がEのみに対する追起訴状に基いて認定したところの、Eが単独で昭和
二五年f町、a村で三回の窃盗、また同二六年一月一五日a村字g農業協同組合前
路上でM所有自転車一台の窃盗をした事実は、同判決挙示の証拠によつて認めるこ
とができる。そして一月一五日Eが路上で粘土車の枠を外す悪戯をしたため、A、
B等がEのためYらに酒を買つて謝まつたので、Eが「謝まり酒」の代金を返済す
べく迫られており、二二日hバス停留所でもそのことを督促され、Eが当時特に苦
慮していた事情を認める証拠資料は存するのであつて(E警一回三冊五四三丁、検
七回三冊六五五丁、公判証人Z調書中のE供述一冊一四六丁、A警一回四冊七八一
丁、七八九丁、三回公判証人L証言二冊三八〇丁、控訴公判E供述一三四七丁)、
Eが単独で本件犯行をするについての動機もあるとみることも可能なのである。
 四 犯行後の行動
 犯行後Eだけがc遊郭へ行つている。そしてEと被告人四名の左記供述を検討し
てみると、犯行後右五名はd橋附近で別れたが、その時Eだけが自分はcに行くと
いつてそちらに向い、他の四人はそれを承認しそれぞれ自宅に帰つたことになつて
いる。
 この点についての警察供述は次のとおりである。
 (1)E警五回三冊五九三丁「金の分配が済んでから……自分はBに「俺はcの
方に出て見よう」といつてBと別れた」
 (2)E検三回三冊六三六丁「Bに対し「cに行く」というと、Bは「cの兄(
Eの)に二四日は昼から兄の家におつたようにいうて貰うよう頼んでおけ」といつ
た」
 (3)B警一回四冊八五三丁「自分はその二千円を貰つてEと共に自宅に帰る様
にさそつたが、Eは「cに行く」といつて別れ、他の者もそれぞれ自宅に帰つて行
つた」
 (4)B警二回四冊八六五丁「Eに「帰ろう」と誘つたら、「俺は今からcに行
く」というたので自分だけ一人先に別れた」
 (5)B警三回四冊八七六丁「自分はEに「帰らんか」と誘つたら、「俺は今夜
cに行く」といつて帰らんので……」
 (6)D警三回五冊九〇八丁「自分達が「いのう」といつても動かずEが「cが
面白いぞ」というような事を一寸いつておつたので、何処かへ行くのだと思つた」
 公判供述としては次のものがある。
 (7)公判F方検証中E供述一冊三八丁「別れる時自分は「cの兄の処へ行く」
といつたところ、Bが自分に「お前はバレても今日昼頃からcの兄の処にいた様に
いえ」といつた」
 (8)控訴公判E供述一三〇八丁「皆と別れるとき自分は「cに行く」といつた
ら、「cの兄によういうとけ」といつた」
 (9)控訴公判E供述一三五八丁「自分が「cへ行こう」といつたら、皆んなが
「出たらいかぬぞ」といつた……自分が「cへ行くぞ」といつた、Bは「行かぬ方
がよいが、どうしてもcへ行くのなら姉さん(cにいる自分の姉のこと)に昼から
いたといつて貰う様に頼んで置け」といつた」
 Eの供述によると、Aはしばしば警察に捕まつた場合の細かい注意等を与えたこ
とになつている。(五回公判二冊四七三丁、八回公判四冊七七三丁、控訴公判一三
三八丁、警六回三冊六一九丁、六二一丁、各供述、なお、C警三回四冊八四三丁、
D警五回五冊九一九丁)
 しかるに犯行後の重大時期にEだけが(しかも、後記のように血のついた服装の
ままで)c遊郭に行くのを、Aら四人が何もいわず黙認するのは、犯罪が直ぐ発覚
するような危険な行動をEに許すことであつて、Aのその前の態度と矛盾しいかに
も不合理である。
 以上のような状況から、本件犯行及び擬装工作はE単独の犯行及び擬装工作であ
ることの可能性もあるといい得る。
 その三 現場の灰に残つた足紋
 一審判決が証拠に引用した一月二五日から二六日にかけての警察最初の検証調書
添付写真(二冊二八七丁、三〇七丁写真三二)をみると、Fの死体の横たわる納戸
室の灰に人の足の一部が印せられた痕があり、これに足紋が現われているようであ
る。若しこの紋跡をその写真原版(ネガチフ)を拡大してEの足紋と比較すること
によりこれがEのものでないこと、進んで被告人四名中の誰かのものであることが
判れば、共同犯行か単独犯行かの判断に一資料を加えることになろうが、この点の
取調がされていない。
 第二 被告人等の警察供述の任意性と信用性
 本件記録を調べてみても、司法警察職員に対する被告人等の警察調書の内容たる
供述が拷問、強制、欺罔等により任意性を欠くようなものとは認められないとする
趣旨の原判決の判示は不当ということはできない。尤もこのことはこれらの供述の
信用性の有無とは別問題である。
 その一 供述の甚しいくいちがい
 数名の被疑者、被告人の間でその供述がくいちがうことはあり得ることであり、
裁判所はこれを取捨選択して事実判断をすべきものであるのみならず、本件では警
察の捜査前予め被告人間に警察で取調を受けたときはでたらめ(テレンポレン)を
いい供述が合わないようにしようとの打合せをした旨のEの供述もあることはある
(公判検証一冊三八丁、五回公判二冊四七四丁、控訴公判一三四四丁、一三五一丁、
警四回三冊五六七丁、警六回三冊六一九丁等)。けれども、かような打合せをした
という供述を含む諸供述そのものが措信できるか否かが本件の問題であつて、これ
を判断するについては供述の甚しいくいちがいの点もまた看過することができない。
 今、一審判決挙示のE及び被告人四名の供述調書を見ても、その供述内容は多く
の点においてまちまちであり、いずれが真実であるか容易に理解できないものがあ
る。その主要なものを示せば次のとおりである。
 一 d橋集合と謀議
 (1) 先ず、d橋に集まるべきことを何時謀議したかの点を見よう。E六回は
「一月一五日午後七時過自分等五人がa村gの娘の処に行く途中、d橋を渡つた頃、
Aが「エ―トコがあつたら金を取りに行こう」といつた……一九日晩K旅館で五人
が集まつたとき、「Fにするか」と一おう話が決まつた……二三日晩A方で五人が
「明晩九時か一〇時頃やろう、その頃にd橋に行こう」と決めた」と供述し、B一、
二回は「一月一五日A方で五人が集まつた際EがAに「F方で一回やろうではない
か」といい、その後はかような話は出合つてもなかつたが、二四日午後九時三〇分
頃Cが来て「今からd橋まで出て呉れ」といつた」、D三回は「一月一五日A方で
Eが四人に対し「二四日頃やろう、d橋に集まろう」といつた」と供述し、B三回
は「一九日K旅館でAが「Fを一回やろう」という話を出し、皆の者も賛成した、
二三日A方で同人は「明日の晩Fに行こう」といい皆の者が行くことに定めた……
二四日午後九時三〇分頃Cが自分方に来て「今からFに行くから一本松の処に来い」
といい、自分は九時四五分頃行つた」と供述し、C一回は「二四日午前一一時頃D
方でAは「今晩良い儲けがあるから一〇時頃d橋へ来て呉れ」といつた」、A二回
は「二四日当日かねてD方で五人が金を盗むことを話し合つた、午后一一時頃d橋
に集まつた際F方にはいつて金を盗むことになつた」、同三回は「二四日午后四時
過仕事を終りD方で四人が一儲けしようではないか、今夜一一時頃d橋に集まると
いうことにした」、同四回は「二二日(二三日か)自分は三人に「明晩一〇時頃d
橋に集まれ、F方にはいろう」といつた」と供述する。
 (2) d橋辺での共謀内容を見よう。E六回は「自分は「俺が先に入つて開け
てやるからついて来いよ」といい、Aは「Dはロープを探す、Cは人が来たら口笛
を吹く……Bは婆さんを叩いて首を締める、俺が薪割を探す……爺さんはEに叩か
せる、そして自分、B、C、Dの順で一回ずつ殴ろう、婆さんは叩かずに首を締め
よう、その後で夫婦喧嘩の様に見せかけよう」といい一同賛成し、この時殺すとい
うことが決まつた」と供述し、C三回は「Aが「段取りをきめる、Eは戸を開け、
俺とBも直ぐ入る、Dは縄を探しておけ、Cは見張りせ、若し人が来たら指で口笛
吹け、Eは入つて感付いたら縛れ、何ぢやつたらばらしてもええ、道具が何処にあ
るかよう見ておけ、見付かつたら何処でも殴れ」といつた」と供述し、B三回は「
午後九時四五分頃d橋近くの一本松の処に行くとAは自分等四人に対し「今からF
に行くから手配しよう」といい、自分(B)とA、Eの三人は主人を斧か何かでや
つつける、C、Dはお婆さんを締めるという様に役割を定めた」と供述する。しか
し、C一回は「Eが「盗みに入ろう」Aが「お前らは見張せえ」といつた」、D二
回は「Eが「Fの家に今夜入ろう」といい、自分は「俺とCは見張するぞ」といつ
た」、同三回は「Eは自分、B、Cに「自分は先に入り戸を開ける、お前らは入つ
てもよいし見張をしてもええが、ついて来ることはついて来い、中のことは自分に
任せ」といつた」と供述する。
 二 F方への侵入口
 A二回は「Bと思うが母屋と部屋の中間の硝子戸を開け、B、自分、D、Cが入
り、裏側にいたEも同じ所から入つた」、同三回は「EとBが侵入口を探し、Bが
横手の板戸を開け、自分達を呼んだので自分、C、Dが其処へ行つた」、同四回で
は「Eと二人で北側に廻り、Eはどこからか先に入つて北側の戸を開け、自分はそ
こからはいつて前側の硝子戸を開けてB、D、Cを入れた」と供述し、B一回、二
回は「E、Aが裏手に廻つて約一〇分か一五分でAが母屋と部屋の中間の硝子障子
を開けた」、C一回は「E、A、Bが裏の方の何処からか入つた、自分とDは風呂
の傍にいた」、同三回は「Eと思うが母屋と部屋の間の硝子戸を開け、自分とDが
そこから入つた」、D五回は「Eが正面北側出入口の硝子障子を開け、自分、B、
C、Aが入つた」と供述する。そしてE六回は「Aが部屋の横の中連の所で硝子障
子を動かしていた、自分は裏手に廻り、板戸の下の壁につけた板をはぐり、床の下
から入つた」旨供述する。
 三 殺害行為
 E六回は「Fは薪割でA、B、自分、Cの順序で殴つた」と供述するが、Gにつ
いては、同調書前段では「Bが婆さんを叩いて首を締めることに打合わせた」旨、
後段では「前もつて話し合わせた通り自分が婆さんの首を締め、次でA、Bの順に
首を締めた」と供述し、A二回は「斧を自分が見付けEが出刃をくれたのでBに渡
し、斧はEに渡した、Eは斧で爺さんを叩いた」と供述し、同三回は「Eが爺さん
を盛んに殴り始めた、婆さんはEとBがねじ伏せた、Cが紐をもつてきてEがそれ
で首を締めた」、同四回は「爺さんはE、自分、B、D、Cの順に殴り、婆さんは
Eが首を締め、Cが紐、Dが細引を探してきて皆で吊つた」旨供述する。B一回前
段は「Eが婆さんの首を締めそれからAが爺さんを薪割で殴つた」、同後段は「F
さんはAとEの二人が薪割で殴り殺したことは知つている、婆さんはどうして殺し
たのか自分は知らない」と供述し、B二回は「奥の方でEが何か振り上げて下ろし
たと思つたと同時にポカンと音が聞えた、Eが婆さんの後から馬乗りの中腰で首を
締めた」、同三回は「E、Aが次々に斧を振り上げて打ち下した、自分も打ち下し
た」と供述する。C一回は「自分とDは外で見張をした」、同二回は「自分、D、
Bは外で見張をしていたが、呼ばれて中に入ると、Fは血もぐれになつて横たわつ
ていた、死んだようになつている婆さんを皆で吊り下げた」、同三回は「婆さんも
爺さんも倒れていたが、婆さんが動いたからDがローブを持つて来た、Aが婆さん
の顔を殴つた」、D二回は「Eが「アツ起きた」とどなり……炊事場辺にあつた薪
割を持つて納戸に走つて行き上向に寝ている爺さんの頭へ打ち込んだ、一回位では
ないかと思う、Eが婆さんを後から両腕や紐で咽喉をしめつけた」、同三回は「E
が先に入つた、中から変な音がした、Eが右腕を巻きつけて婆さんの首を締めた、
爺さんは動く気配がなかつた」、同五回は「Eが爺さんを切るか叩くかしたらしく、
中から爺さんの悲鳴が聞えた、Eが婆さんに飛びかかり首を締めた」旨供述する。
 四 奪取金額とその分配
 E六回は「自分は千円札八枚、百円札二〇枚位、十円札五〇枚位、五円、一円取
り合わせ一〇〇円余(計約一万六〇〇円)を取り、B、C、Dに各一、〇〇〇円ず
つ分配し、AもB、C、Dに二、〇〇〇円(或は三、〇〇〇円)ずつ分配した」旨
供述する。A二回は「Dから二、〇〇〇円もらつた」、同三回は「EとBが盗金を
出し、自分が各人に千円札一枚、百円札二枚、十円札四、五枚ずつ分け、自分は二、
六〇〇円位とつた」、同四回は「四人に大体千六、七百円位ずつ渡し自分は二、五
〇〇円とつた」と供述する。B一回は「金はEとAから一、〇〇〇円ずつ二、〇〇
〇円もらつた」、同二回と三回では「Eから千円札一枚、Aから百円札で一、〇〇
〇円もらつた」と供述し、C一回は「Aから二、〇〇〇円(千円札二枚)、Eから
五〇〇円(百円五枚)もらつた」、同二回は「Aから、一、〇〇〇円(千円札一枚)
もらつた」、同三回は「Aから一、〇〇〇円(千円札一枚)、Eから百円札五枚と
十円札六、七枚もらつた」と供述し、D二回は「Eから五〇〇円(百円札五枚)も
らつた、CもEから五〇〇円もらつた、EがAに二、〇〇〇円(千円札二枚)渡し
たので、自分はAから千円札一枚借りた」、同三回は「Eから自分とCが五〇〇円
(百円札五枚)ずつもらい、EがAにいくらか渡したのでAから千円札一枚借りた」、
同五回は「Eから五〇〇円、Aから一、〇〇〇円もらつた、EはCに五〇〇円、B
に五〇〇円か、一、〇〇〇円、Aに二、〇〇〇円渡した、AはCに五〇〇円、Bに
五〇〇円か一、〇〇〇円渡した」と供述し、容易に金額を捕捉し難い。
 以上のように、同一被告人の数回にわたる供述相互間のくいちがいは甚しく、同
一調書中でも前後くいちがつているものがあり、さらに、他の被告人の供述と対比
すれば、くいちがいは全く甚しい。
 その二 供述の不自然な点
 一 d橋での共謀内容
 一審判決は、一月二四日当夜F方に侵入兇行するに先立ち、Eと被告人四名とは
d橋に集合し、Aから「家の勝手をよく知つているEは先に侵入して戸を開けるよ
うに、自分はBと侵入し長斧を探す、Cは見張し、Dはロープを探すように」と各
人の分担を指図し、その外終つた後の始末や、発覚したときの対策等について話し
合い、場合によつては老人夫婦を殺害することを相互に了解し、以て被告人五名は
F方から金品を奪い取ることの共謀を遂げた旨を認定した。
 しかし、F方に長斧やロープがあることをd橋共謀当時右五名中の誰かが知つて
いたこと、またどうして知つたかは記録上明らかでない。従つてAがd橋で「自分
は長斧を探しDはロープを探す」ようにいつたという点は不自然で疑念の生ずると
ころである。
 d橋で誰が長斧を探し誰がロープを探すという点まで共謀をしたとの供述は、E
及び被告人の警察、検察官に対する供述中ただ一審判決挙示のE警六回三冊六〇八
丁に判示のような供述とE検一回三冊六二五丁に「縄はDが持つて来ることにし」
たとの供述とEの公判供述に存するに止まる。(控訴公判一三四三丁)
 なお、d橋共謀の際、Aが「爺さんはEに先に叩かせる、そして自分が叩きその
後B、C、Dの順で一回ずつ殴ろう」というような殴打順まで定めたということは、
真実であろうか。一審判決の引用したE警六回三冊六〇八丁にはかような供述があ
るが、夜間数名が侵入して二人を殺すような場合には彼我の態勢次第で殺害者側は
臨機応変の挙動にいでなければならないかも知れないから、予め殴打順を打ち合せ
ておくようなことは無意味なことで、しない方が自然であろうと思われる。
 二 数人がFを代る代る長斧で順次強打したということ
 一審判決は「Aは先ず右F家にあつた長斧で、六畳の納戸に寝ていたFの頭部を
一回強打し、同時にEは、驚いて起き上つたGに飛びかかり、手で同女の口を塞ぎ
首を締め、次いでB、E、Cがかわるがわる右長斧でFの頭部及び顔面等を殴りつ
け、一方A、Bが更に手でGの首を締めつけた」旨認定した。
 同判決挙示の証拠その他の証拠にはEと被告人四名が金品奪取の目的からF方に
侵入し犯行をしたことの証拠資料はあるが、それ以外の怨恨等の感情をもつていた
ことの証拠資料はない。とすれば、Eと被告人A、B、Cが金品強取だけの目的か
ら代る代る長斧で強打するというようなことは、余り有り得ない不自然な殺害方法
のように思われる。また、Fは頭部、顔面に七ケ所の出血を伴う重傷を受けている
(同人死体解剖鑑定書)のであるから、左様なことをしたのなら、右被告人三名の
身体や着衣には、も少しその血がついたのではなかろうかと思われるが、被告人等
の身体と着衣にそのような人血痕の存することの物的証拠の乏しいことは後に(第
三その三で)述べるとおりである。要するに、「爪、着衣の血痕検査書」(二冊四
〇〇丁)によれば、被告人等の爪、押収の各着衣に存する血痕は、ルミノール及び
べンチヂン試験法をしても、人獣血の区別もつかず、血液型も判定できないほど微
量であり、また一月二四日頃附着したものか、久しい以前に附着したものかも明ら
かでないのである。
 第三 本件犯罪の物的証拠
 その一 Eに特段の物的証拠
 Eが本件犯行の犯人であつて人違いはないということについての物的証拠として
は次のものがある。
 (1) 被害が最初発見された一月二五日朝F方北裏口外側に焼酎の臭いのする
サイダー瓶(二合瓶)一本(証二)が発見され、それに指紋が認められた(F方一
月二五日警検証二冊二八八丁)。その指紋の一つはEの左手中指の指紋と一致する
(二月五日附現場指紋対照書二冊四八三丁)。
 (2) 右警察最初の検証の際被害者の寝室の箪笥内に発見された番号一一一三
二二二号の新品同様の一〇円紙幣七枚(証二三)と同番号の新品同様の一〇円紙幣
を、Eは二五日午前〇時四〇分頃e町タクシー業Tの妻Vに、c町までの自動車賃
の一部として五枚(証一四)を支払い(V検一冊二〇八丁、W検一冊二〇六丁)、
Eは寄道せずにc町iに登楼しそこでやはり同番号の一〇円紙幣一〇枚(証一七)
をも支払つた。(仲居Ab検一冊二一〇丁、接客婦Ac検一冊二一二丁、公判証人
Ad調書一冊一〇二丁、同人の捜査報告一冊二四九丁)
 (3) iでもEの着ていたジヤンパー(証三二)には(Fの血液型と同じ)B
型の血痕が附着し蜘蛛の巣がついていた。Eの右眉部、右耳翼、右手拇、示、中環、
小各指爪、左手各指爪、右足・趾爪、右足・趾にも血痕が附着していた。が、Eの
血液型はO型である。(Ae、鑑識課長の物品検査回答二冊四〇三丁、Ae鑑定書
二冊二七五丁)
 (4) Eは犯行当夜曲つた金棒バールを持つていたが同夜F方南の堆肥中に投
げ込んだと検察官にも公判検証の際にも自供した(E検八回三冊六六三丁、公判検
証一冊三二丁)。果してそのバールは一審公判の途中一一月一八日偶然発見せられ
押収せられた。(警実況見分書五冊九三五丁、一〇回公判証人J証言五冊九四三丁)
 このことはバールがF方構内に棄てられてあることをEが知つていたこと、すな
わちEがF方現場に行つたことの証拠である。
 しかし、バールとF方東表ガラス窓枠に金物でこねた傷痕とがある(公判検証一
冊四二丁)ということは、たとえそれがバールの跡だとしても誰かが右バールでこ
の部分をこじ開けたことの証拠にはなるが、そのもの自体は被告人中の一人または
数人がこじ開けたことの物的証拠にもならず、Eがこじ開けたこの部分から被告人
らが侵入したことの物的証拠にもならない。
 (5) F方台所と炊事場の境の板戸に刃物の先で突いたような九つの傷穴があ
ることを、六月八日一審公判F方検証の際被告人四名とともに立会つたEが始めて
自ら指摘して供述した(同検証一冊三二丁、四二丁)。
 これまたEがF方屋内に来て板戸の細部をまでEが知つていたことの証拠である。
 その二 E及びC、B、Aに共通の物的証拠
 二月二日附E、C、B及び二月三日附Aの各警察供述では、いずれも犯行後d橋
の上からAの言葉に従い、A、E、C等がj川に手袋、足袋、靴下等を棄てたと供
述した。(二月二日附E警六回三冊六一八丁、同日附C警三回四冊八四三丁、同日
附B警三回四冊八七五丁、二月三日附A警四回四冊八一二丁)(D警察供述にはd
橋から物が投げ棄てられたことの供述はない。)
 これらの供述の後、二月五日警察職員はj川下流を検証捜索した結果、d橋下流
j川の中から日本手拭一本(証二六ノ一)、西洋手拭二本(証二六ノ二)、雑巾二
枚(証二七)、AfからF宛金銭請求書一枚(証二八)を、
その箇所から少し下流で
 白木綿手袋片手分一つずつ(証一一、証一二)がそれぞれ離れて存するのを発見
し、すべて差し押えた。
 右日本手拭一本の中に右西洋手拭二本、雑巾二枚、請求書が包まれるような具合
になつて発見されたというのである。
 手拭、雑巾はF方で使つていたものであるとの上申書が出た。(二月五日附警検
証調書三冊五三一丁、捜索差押調書三冊五〇九丁、Ag上申書三冊五三六丁)
 公判証人Adは「Eの供述に基き(手袋をd橋の上から川中に捨てたという供述)
Ah部長刑事に検証をやらせ川中より手袋を発見した。それはd橋から大分遠くに
流されていた」旨供述する。(同Ad調書一冊一〇八丁)
 これらによると、警察職員が二月二日と三日にE、C、B、Aの右供述を聴きそ
の調書を作成してから、二月五日j川を検証捜索したところ、果して右物件を発見
したという関係であるから、右押収物はEのみならず被告人C、B、Aの供述に合
う物的証拠であるということができる。(尤も、右手袋はEのものか、被告人中の
誰かのものか、第三者のものか、また、手拭もEだけが使つたものか、被告人中の
誰かが使つたものかはこれらの物自体からは判らない。)
 しかし、右の証拠だけでは、二月二日E、C、Bのうち誰が警察で最初に右の供
述をしたかの点、また、手拭、雑巾が棄てられた情況や、日本手拭に西洋手拭と雑
巾が包まれるような具合になつていた訳は判らない。一、二審ではこれら供述の経
過顛末等について更に具体的に充分の取調がなされるべきであつたのに、それがさ
れていない。
 その三 各被告人四名についての物的証拠
 本件犯罪の物的証拠は一審判決挙示の検証調書、両死体解剖鑑定書、長斧、着衣、
紙幣その他の押収物等多数存するが、しかし、犯人はEのほか被告人四名であつて、
余人ではないという、犯罪事実と被告人との結びつきを、供述以外から推測せしめ
る物的証拠としては
 1 右j川から発見押収された手袋、手拭、雑巾、F宛金銭請求書
 これについては前項その二において説示したとおりであつて、前記警察供述の経
過顛末等について更に具体的に充分の取調がされるべきであつたのに、それがされ
ていない。
 2 被告人四名の「爪、着衣の血痕検査書」(二冊四〇〇丁)並びにその検査目
的物となつた被告人等のズボン、ゆかた
  3 Aiより押収の一〇円紙幣七枚、Aの内妻Ajより押収の一〇円紙幣一枚
及びAkより押収の一〇円紙幣一枚
がある。2、3について以下に述べる。
 一 爪、着衣の血痕検査書
 昭和二六年二月五日熊毛総監発照会に対する同月二一日附国家地方警察山口県本
部刑事部検査者警察技官Al、鑑識課長の物品検査回答書と題する書面(「爪、着
衣の血痕検査書」と略称する)(二冊四〇〇丁)の趣旨は
 (一)ルミノール及びべンチヂン試験法によつて血痕検査をしたところ、
押収にかかるAのズボン(証二四)、同ゆかた(証二五)、Dの国防色ズボン(証
一八)、Cのカ―キ色ズボン(証一九)、同黒色ズボン(証二〇)
に血痕附着箇所を認めたがその血液型は微量のため判定出来ない。
右血痕は検査物品少量のため人、獣血の判定は出来ない。
 (二) 検査物である被疑者四名の手及び足の爪を右試験法によつて検査したと
ころ、被疑者B、A、Cの三名の手及び足の爪には血痕の附着を認めたが血液型は
微量のため判定できない。(Dの手足の爪に血痕の附着を認めた旨の記載はない。)
というにある。
 なお、五回公判で被告人五名は裁判長より「被告人等は爪の検査を受けたか」と
問われ、「受けました。爪を切り取られました。」旨答えている。(二冊四五九丁)
 当裁判所は、この検査書には左の欠点があると思料する。
 1 血痕の附着を認めたというのはB、A、Cの手及び足の爪全部であるのか、
誰の右手または左手の第何指の爪というように(少くとも、右手の指の爪というよ
うに)いずれの部分であるのか、区別して明示されていない。
 これはEについての鑑定書(二冊二七五丁)、物品検査回答書(二冊四〇三丁)

 「血痕附着個所……右手拇、示、中環、小各指爪、左手各指爪、右足・趾爪、左
足の・趾」と記載されているのにくらべ甚だ不正確である。
 2 身体、着衣の血は古いものか比較的新しいものか、大体何時頃附着したもの
か示されていない。
 されば、裁判所が一月二四日頃B、AまたはCのどの爪かに人血がついたであろ
うと認めるためには、右爪、着衣血痕検査書は、右検査の方法と結果についての検
査者の今少しく正確な証言若くは報告等によつて右検査結果が明確にされないまま
では、罪証としての証明力は甚だ乏しいものというのほかない。着衣の血痕につい
ても同様である。
 二 押収の一〇円紙幣
 (一)(1) 兇行の翌日一月二五日午後五時から二六日午後三時まで行われた
F方最初の警察検証の際、同家納戸室箪笥の下小抽斗より番号一一一三二二二の新
品同様の一〇円札七枚が発見されたが押収されず(警察検証二冊二八八丁)、Fの
長男Aiがa村へ帰つて二月二日提出し、領置された。(Ai警三冊五二四丁)(
証二三)
 (2) 二五日午前O時四〇分頃、Eがe町から乗つてc町まで行つた自動車の
代金として、Eから四五〇円の支払を妻の手により受け取つたタクシー業Tから、
翌二六日、番号一一一三二二二の新品同様の一〇円紙幣五枚が領置された。(V検
一冊二〇八丁、W検一冊二〇六丁、領置同二四六丁)(証一四)
 (3) 二五日午前一時頃Eが登楼したc町k区iことAmより、二七日警察職
員Adは番号一一一三二二二号の新品同様の一〇円紙幣一〇枚を領置した。捜査報
告によれば、これは新品で同楼金庫から発見されたもので、Eから受け取つた金の
中の八〇円と仲居Abが受け取つた二〇円だという。(捜査報告一冊二四九丁、領
置調書一冊二四九丁)(証一七)
 (4) 二九日午後三時頃Aとともにl駅に来たその内妻Ajは同日、番号一一
一三二二二の新品同様の一〇円紙幣一枚を警察に提出した。(Aj警三冊五二二丁、
領置同五二三丁)(証二一)
 (5) 三〇日午後三時過D方を捜索した警察職員は、Dの母Akから番号一一
一三二二二の新品同様の一〇円紙幣五枚を押収した。(捜索差押調書三冊五〇五丁)
(証二二)
 (二) 一審判決がこれら押収の新品同様の一〇円紙幣を証拠にかかげた理由は、
F方箪笥に残つていた七枚と同番号で、しかも同じく新品同様の一〇円紙幣が、兇
行後同じ夜、Eの手からT自動車店とiに一五枚支払われ、兇行の五日後Aの内妻
Ajが一枚を所持し、同じく六日後Dの家から五枚発見されたということは、E及
び被告人等の警察供述等と相まつて、これらがすべてF方から強取されたものの一
部であることを窺わしめる物的情況証拠であるとみたからと思われる。換言すれば、
これは、F方現金奪取の決定的直接証拠ではないが、多分、F方箪笥抽斗内にあつ
た番号一一一三二二二号の新品同様の一〇円紙幣の一部がEからT自動車店とi(
Am)の手に渡り、一方、F方箪笥からEが取つたものをA、Dが受け取るか、若
くは箪笥から直接AなりDなりが取り(E警六回三冊六一四丁、同五回三冊六八八
丁、同四回三冊五七三丁、A警二回四冊七九五丁、同三回四冊八〇三丁、同四回四
冊八一二丁、D警二回四冊八九三丁、控訴公判E供述一三五三丁)、それをAは内
妻Ajに渡し、Dは自分の家においたのであろう、とみたように解される。EはF
方での兇行及び現金強取後、寄道せずに同夜(二五日)午前〇時四〇分頃右Tの自
動車でe町を出発同午前一時頃iに登楼し、二六日午前四時〇六分頃警察職員に逮
捕されたことになつている(公判証人Ad調書一冊一〇二丁)から、この番号の新
品同様の一〇円紙幣がa村、e町、c、m、l方面に多量に流通していない限り、
A、DがF方で直接入手したか、さもなければF方若くはd橋辺でEから受け取つ
たのでなければ、これがA、Dの手に渡り、それがAの内妻AjやDの母Akに渡
ることはあるまいとみたからのように解される。
 (三) 右Ajから押収の一枚とD方から押収の五枚は、F方にあつたものか、
或は左様でなく全く他の経路から来たものか。
 この点についての証拠資料として、原審からの照会に対する昭和二七年一二月二
五日附日本銀行広島支店の回答書(控訴審一一四七丁)がある。これによると、一
〇円日本銀行券一一一三二二二号は昭和二五年一〇月一〇日以降同二六年一月一二
日まで数回に分けて印刷局工場から同銀行発券局へ納入されたという。しかし、右
回答書によつては、同発券局から右番号の新しい一〇円紙幣が、右期間中の何月何
日頃、同銀行の広島、下関その他いずれの支店に、およそ何枚位送られ、何時頃届
いたかは判らない。
 先ず、右のうち最初昭和二五年一〇月一〇日発券局へ納入された分について考え
ると、それが、仮りに当時熊毛郡に近い銀行支店に到着しこの方面一帯の市中銀行
その他に多数払い出されたとしても、その大多数は転々流通の結果、間もなく汚れ
て(殊に同年末頃には)新品同様の状態ではなくなつたであろう。また、同方面か
ら遠い日本銀行本支店から払い出された分が同方面に、殊に新品同様の状態で出廻
ることは一層少いであろう、と思われる。
 けだし、一〇円紙幣は流通性、散逸性の最も高いものであるから、同銀行発券局
からその本店出納局若くは各支店に交付された右番号の新らしい一〇円紙幣の一回
分は、恐らく数回、十数回に逐次分割支払され、そのうち銀行、会社、官公庁、個
人等に一括して数千円、数万円交付されたものでも、その大多数は早速給与、代金、
釣銭等々に細分化されて流通散逸し、恐らく数日ないし十数日中に折り畳まれ、皺
が寄り、汚れて、新品同様の状態ではなくなつたであろう、ただそのうち少数のも
のだけが新品同様の状態のまま保存されたであろう、と思われるからである。
 また、印刷局から同銀行発券局に右最終の一月一二日(金曜日)に納入の分につ
いて考えると、それが早速同方面に近い同銀行支店に到着の上同月二三日ないし三
〇日頃までに同方面に出廻つた公算は、その間の日数が短いから、むしろ少いので
はなかろうか(同方面から遠い同銀行本支店からの出廻りはなお更ら少いであろう)
と思われる。
 してみれば、一般的には、一月中旬、下旬当時同方面に右番号の紙幣が新品同様
の状態で多数流通していたとはむしろいい難いのではなかろうか、それで、押収の
F方にあつた七枚、Tとiから押収の一五枚は、印刷局から発券局に、多分、右一
月一二日に納入された分でなく、その以前に納入された分であつて、それが、昭和
二五年一〇月中旬から同二六年一月初旬頃までの間に、そのまだ新品同様の時期に、
FかGが入手し保存していたものであろう、と推測されないことはない。とすれば、
押収の右同番号の新品同様の一〇円紙幣が一月二九日Aの内妻Ajの手に一枚、三
〇日D方に五枚あつたのは、或は偶然でなく、これらはF方箪笥内にあつたものが
一月二四日夜E、A、D等の手を経てAjとD方に渡つたことの可能性がないとは
いえないであろう。されば、これら押収の一〇円紙幣が被告人等の罪証として決定
的なものとはいえないとしても、これを一審判決の認定事実との関係上全然証明力
のないものということはできない。
 しかし、更に、右押収の一〇円紙幣(特定物)についてのみならず、一般に、番
号一一一三二二二号の新らしい若くは新品同様の一〇円紙幣が、一方Aj、D若く
はその家族、他方F、Gの手に入る可能性について特段の証拠調がなされるべきで
あつた。
 すなわち、
 (1)番号一一一三二二二号の一〇円紙幣が内閣印刷局で印刷され、同局から日
本銀行発券局へ納入され、同発券局から同銀行本店出納局若くは支店に、新たに、
交付された各年月日、本支店名及びその都度の枚数如何。
 (2)同銀行本支店から何時頃、およそ何枚位、その新しいものが払い出され、
それらが一月末頃までの間に熊毛郡及びその附近(c、m、lを含む)に多数出廻
つたようであつたか。
 (3)一月二五日F方で発見された押収の一〇円紙幣七枚はF若くはGが何時頃、
何処の銀行、郵便局若くは取引先その他の人から受け取つたものであろうか。
 (4)AjやD及びその家族が昭和二五年一〇月ないし同二六年一月当時右番号
の新品同様の一〇円紙幣を他から入手する可能性があつたか。
 等の点を出来るだけ調べた上この問題が検討されなければならない。
 以上説示の諸点をあわせ考えると、第一審及び原審に現われた証拠によつては、
被告人四名につき原審の是認にかかる第一審判決が認定した事実を肯認するに足り
ず、結局判決に影響を及ぼすべき重大な事実誤認の疑があることに帰し、原判決を
破棄しなければ著しく正義に反するものと認めなければならない。よつて、各上告
趣意に対する判断をするまでもなく、刑訴四一一条三号、四一三条により原判決を
破棄し本件を原裁判所である広島高等裁判所に差し戻すべきものとし、裁判官垂水
克己の補足意見あるほか裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
 裁判官垂水克己の補足意見は次のとおりである。
 一 本件では、公訴事実、一審判決認定事実及び記録上の証拠に照らし、次の点
が主要な問題となる。
 (1)被告人等は、原審相被告人EとともにF方での強盗殺人を共謀した上、一
月二四日夜共同してF方に侵入しFとGを殺害し金円奪取ないし擬装工作をしたの
であるか。
 (2)或は、被告人等は、単に強盗殺人若くは強盗(未必の強盗を含む)をEと
ともに謀議しただけで、F夫婦殺害、金円奪取ないし擬装工作は、Eがこの謀議に
基いて単独で行つたのであるか。
 (3)或は、被告人等は、単にEとともに窃盗の共謀若くはEに対する窃盗の教
唆をしただけであるのに、Eはこれに基いて単独でF方強盗殺人をまで行つたので
あるか。
 (4)或は、被告人等はF方における本件強盗殺人の事実には無関係であるか。
 第一、二審は、本件を、ほぼ右(1)の類型の事実のように(但しDは殺害行為
をせず擬装工作に加わつたと)認めた。しかも、原判示の態様での共謀や殺害行為
があつたものと認めた。
 これに対し、本判決は、証拠上、第一審判決が認定した事実を肯認するに足りず、
結局判決に影響を及ぼすべき重大な事実誤認の疑があることに帰する旨判断した。
これによると、本判決は、一審判決認定のような態様での強盗殺人の共謀及びその
実行行為があつたことについては疑があると判断したが、しかし、原判示と異る態
様における強盗殺人の共謀及び実行があつたことが認められるとも、認められない
とも言及しないのである。また、本件は、右(2)(3)或は(4)の場合である
とも、ないとも、本判決は判断を示さないのである。だから右(1)ないし(4)
の問題はなお今後に残されているこというまでもない。
 二(一)本判決は共同犯行の蓋然性と単独犯行の蓋然性といずれが多いかについ
ても判断を示さない。しかし、私かぎりの考からいうと、そのことから、すぐさま、
双方の蓋然性を五〇パーセント対五〇パーセントであつて、そのいずれであるかは
全く判らないともいえない。私は、被害状況から見ると、殺害及び擬装工作が二人
以上の者によつて行われた蓋然性の方が多くはないかとも思う。というのは、Eが
一人で六畳納戸室に侵入しFを長斧で八回も強打したとすると、同室に寝ていたG
が八回もの強打が終つてから始めて眼を醒まし、Eに首を締められたことになるの
であろうか。これは少し不自然ではないか。また、Eが一人でFの頭部顔面を七回
強打出血させたのなら、彼の身体や着衣にもつと多く血がついていそうなものだが、
彼のジヤンパーの裏一個所に少しついていた血痕のほかは、彼の他の着衣と爪の血
痕はすべて血液型の検査もできないほど微量であるという(二冊二七六丁)点をも
私は考えるのである。
 しかし、E単独犯行の蓋然性もあるのである。
 (二) 記録中に不自然な供述があつても判決が措信したと認められないときは、
一般には、その点からその判決の認定が経験則違反ないし事実誤認であるとはいえ
まい。(例えば、d橋で共謀の際被告人等がFを殴打する順序を定めたということ
や、犯行後d橋で別れる際Eがc遊郭に行くのをA等が黙認したということは、一
審判決の認定しないところである。)また、記録中の諸供述が互いにくいちがつて
いる場合には、裁判所はいずれを真実と認めるかを判断すべきであるから、一般的
には、そのくいちがいの多いことから、すぐさま真実は不明であるともいい難い。
なお、或事実について供述がなくても他の証拠から或事実を推認することもできる
筈である(例えば、物的証拠からEが当夜F方に侵入兇行したであろうと推認する
如き)。
 しかし、供述の不自然と甚しいくいちがいから、これは供述が架空なことの証左
ではなかろうか、原判決の認定した事実は真実でないのではないか、との疑を持つ
場合がないとはいえない。本件は結局かような場合に属するということが本判決に
おいていわれているものと私は思う。
 例えば、奪取金額についての供述のくいちがいがあつて、精確な金額を認定し難
くとも、裁判所は、現金の奪取されたらしい形跡があるばかりでなくEの奪取費消
した金額は大体判明していると見るような場合には、この金額に基き「金何円余を
奪取した」と認定してよいというのが一般の場合である。けれども、本件では、E
の奪取費消した以外にF方から奪取された金品はないのか、すなわち、当夜Eとと
もにF方で強盗殺人、擬装工作をしたという被告人等が、全然金品を自ら奪取せず
また分配もされないで満足していたと見てよいか、ということが問題なのである。
これに対する一つの答としては、被告人等はF所有金円を入手したが費消して終つ
たのであろう、そして被告人等はF方被害やEの逮捕を新聞や町の噂で知つてから
二、三日経て警察に呼び出されたので、その間に考えて金品奪取についても真実を
秘してことさら供述を二、三にするのであろうとの推測が出るかも知れない。それ
にしても、一審判決認定どおりの事実が果して真実であろうかとの疑は、一、二審
公判にあらわれた証拠の書面判断ではなお残るのである。
 三 記録だけで審査した被害結果によつて、私は数人犯行の蓋然性の方がどちら
かといえば多くはないかとも思うがE単独犯行の蓋然性もあると考え、また、被告
人等の供述調書のくいちがいのうちにも、被告人等がEと二四日夜d橋辺に集まつ
て通謀の上F方に行きそこで兇行が行われたことについては、被告人等が(めいめ
い自分に不利でないように供述しつつも)かなり一致して自供しているように、そ
こに或一貫した線が出ているようにも考えられると思う。(或は一、二審での当事
者双方の立証並びに証拠調、殊に早期捜査の不充分の結果かも知れないが)、しか
し、「爪、着衣の血痕検査書」内容の杜撰、その他の物的証拠の乏しさ等、本文説
示の諸点に鑑み、なお、私は一審判決認定事実には誤認があることの疑を持つので
ある。いずれの点に疑を持つかはここに触れない。
 裁判官本村善太郎は退官のため評議に関与しない。
 検察官安平政吉、同佐藤欽一、同田中万一出席
  昭和三二年一〇月一五日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    垂   水   克   己
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    小   林   俊   三

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答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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