弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     原判決中上告人の敗訴部分を破棄する。
     前項の部分につき、被上告人らの控訴を棄却する。
     控訴費用及び上告費用は被上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人藤原和男の上告理由について
 一 原審が適法に確定した事実関係は、次のとおりである。
 1 被上告人らの被相続人である訴外D(当時満三六歳、以下「亡D」という。)
は、昭和五四年七月二九日午後一一時二五分ごろ、兵庫県美方郡a町b所在のEに
おいて、観光用荒湯桶を一周する遊歩道にd川に沿つて設置してある防護柵(以下
「本件防護柵」という。)から約一・五メートル直下のd川河川敷に設置してある
荒湯桶(以下「本件荒湯桶」という。)に転落し、全身火傷で死亡した。
 2 右観光用荒湯桶、本件防護柵、本件荒湯桶などは、上告人が設置、管理して
いるところ、右観光用荒湯桶では、現在なお摂氏九八度の熱湯が一分間に約四一五
リツトル湧出し、その熱湯は本件荒湯桶に流入し、d川に落ちているが、縦約三メ
ートル、横約五〇センチメートル、高さ約五〇センチメートルのコンクリート製の
本件荒湯桶に貯溜する湯は、付近住民が野菜、山菜、魚介類等を茹でるのに利用し、
その余り湯を更にd川の水と混合して洗濯用に利用し、このような湯煙り立つ荒湯
とその周辺の状況は、山峡の温泉として独特の情緒を醸し出しているため、温泉一
番の観光名所となつていた。
 3 本件防護柵は、前記遊歩道から観光客等がd川の河川敷に転落するのを防止
するため、本件荒湯桶上の部分を含めて約四〇メートルにわたり、コンクリート製
の支柱に太さ約二〇センチメートルの丸い鉄パイプ一本を通した構造の、遊歩道か
らの高さ約四〇センチメートルのものであつた。
 4 亡Dの転落地点付近の前記遊歩道上には、観光客等の休憩用として三個の長
椅子が本件防護柵に接して設置され、また、本件事故当時、本件荒湯桶付近には、
上告人において、荒湯が高温のため危険である旨を警告する立札が設置され、同所
付近に設置した水銀灯をもつて夜間でも右立札及びその周辺を昼間のように明るく
照らしていた。
 5 昭和二八年以降本件事故発生時までの間に、観光用荒湯桶に誤つて転落して
全身火傷により死亡する事故が三件発生したが、本件荒湯桶に転落する事故はもと
より、観光客等が誤つて本件防護柵からd川の河川敷に転落するという事故も発生
したことはなかつた。
 6 亡Dは、本件事故当日、午前中町内の野球大会に出場し、夕食をとらずに夕
方五時ころから九時ころまで残念会と称して同僚とビールを飲んだのち、隣町であ
るEのスナツクで二次会として同僚とビールやウイスキーを飲み、ついで同僚とと
もに右スナツクを出て、タクシー乗場に向かう途中、荒湯に立ち寄り、同日午後一
一時二五分ごろ、前記遊歩道において、本件防護柵に休憩のため腰掛けようとした
が、飲酒により泥酔という程ではないが相当銘酊していたため、身体の平衡を失い、
そのまま両手を上にあげたまま仰向けになつて、深さ約三三センチメートルの熱湯
が貯溜していた本件荒湯桶に転落した。
 二 原審は、以上の事実関係に基づいて、本件荒湯桶の設置、管理の状況からす
れば、本件荒湯桶は、その危険性につき十分な認識を欠く地元の子供らが付近で遊
ぶ際誤つてこれに転落したり、また、温泉場の観光名所としての場所柄のため、夜
間飲酒銘酊して同所に訪れることの多い観光客等が本件荒湯桶の存在に気付かない
まま、誤つて本件防護柵からこれに転落する危険があつたから、本件荒湯桶の湯桶
に蓋を取付けるとともに、本件防護柵のうち、少なくとも本件荒湯桶上の部分を従
前の二倍程度の高さのものに改める必要があつたものであり、上告人には、本件荒
湯桶の設置、管理の瑕疵があり、したがつて、国家賠償法二条一項に基づき、本件
事故により亡Dが被つた損害を賠償すべき責任があるとし、被上告人らの請求を棄
却した第一審判決を変更し、被上告人らの損害賠償請求の一部を認容した。
 三 しかしながら、本件荒湯桶の設置、管理の瑕疵を認めた原審の判断はたやす
く首肯することができない。その理由は、次のとおりである。
 国家賠償法二条一項にいう営造物の設置又は管理の瑕疵の有無については、当該
営造物の構造、用法、場所的環境等諸般の事情を総合考慮して具体的個別的に判断
すべきところ(最高裁昭和五三年(オ)第七六号同五三年七月四日第三小法廷判決・
民集三二巻五号八〇九頁)、前記事実関係に照らすと、前記遊歩道から本件荒湯桶
に転落するのを防止するため、本件防護柵が設置されており、その材質、高さ、形
状等の構造に加え、右遊歩道の状況や荒湯が高温のため危険であることを警告する
立札の設置、夜間照明の実施等の措置がとられていたことを考慮すると、本件防護
柵は、その本来の用法である転落防止の機能に欠けるところはなかつたものという
べきであり、更に、亡Dは隣町に住む当時三六歳の健康な男子であり、本件事故は、
同人が右遊歩道上を通行中に発生したものではなく、同人が飲酒により相当銘酊し
たうえ、近くに休憩用長椅子が三個も用意されていたのに、太さ約二〇センチメー
トルの丸い鉄パイプが一本通つている構造の本件防護柵に後向きに腰掛けようとし
て身体の平衡を失い、後方に転落したというのであつて、同人の行動は、本件防護
柵の本来の用法に即したものということができないから、同人の転落死亡事故は、
本件荒湯桶の設置管理者である上告人において通常予測できない行動に起因するも
のであつたということができる。また、前記のとおり、右遊歩道上から本件荒湯桶
への転落防止策としては、本件防護柵の設置をもつて足りるものとする以上、右遊
歩道上から本件荒湯桶に転落した亡Dとの関係においては、本件荒湯桶に蓋がなか
つたことをもつて、その設置、管理について瑕疵があつたものということはできな
い。そうだとすれば、右営造物につき通常有すべき安全性を欠いていたものという
ことはできず、亡Dのした通常の用法に即しない行動の結果生じた事故について、
上告人はその設置管理者としての責任を負うべき理由はない。
 したがつて、原審は、前記事実関係のもとにおいて、国家賠償法二条一項の解釈、
適用を誤つたものといわざるをえず、右違法が判決の結論に影響を及ぼすことは明
らかであるから、この違法をいう論旨は理由があり、原判決中上告人敗訴部分は破
棄を免れない。そして、原審の適法に確定した前記事実関係に照らすと、右説示に
徴し、被上告人らの本訴請求は理由がないというべきであるから、被上告人らの請
求を棄却した第一審判決は正当であり、被上告人らの控訴は理由がなくこれを棄却
すべきものである。
 よつて、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、九六条、八九条、九三条に従い、
裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    大   内   恒   夫
            裁判官    角   田   禮 次 郎
            裁判官    高   島   益   郎
            裁判官    佐   藤   哲   郎
            裁判官    四 ツ 谷       巖

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛