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平成29年11月16日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成28年(ワ)第19080号損害賠償請求事件
口頭弁論終結日平成29年9月5日
判決
原告株式会社ヨコハマ・モーターセールス
同訴訟代理人弁護士村西大作
弓削田博
河部康弘10
藤沼光太
同補佐人佐々木智也
貞島亮介
被告株式会社トノックス15
(以下「被告トノックス」という。)
同訴訟代理人弁護士岡林俊夫
竹内教敏
被告有限会社マルチデバイス
(以下「被告マルチデバイス」という。)
同訴訟代理人弁護士日下隆浩25
主文
1被告トノックスは,原告に対し,12万7000円及びこれに対す
る平成25年2月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を
支払え。
2原告の被告トノックスに対するその余の請求及び被告マルチデバイ
スに対する請求をいずれも棄却する。5
3訴訟費用は原告の負担とする。
4この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
被告らは,原告に対し,連帯して4億6750万円及びこれに対する平成210
5年2月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,消防支援車Ⅰ型(以下「支援車Ⅰ型」という。)の製造等を行って
いる原告が,一般競争入札で支援車Ⅰ型17台を落札して製造した被告トノッ
クス及びその製造に関与した被告マルチデバイスに対し,被告トノックスは不15
当に安い金額で支援車Ⅰ型を落札したほか,支援車Ⅰ型の製造に当たり原告が
提供した資料を流用するなどし,また,被告らは原告が著作権を有する支援車
Ⅰ型の制御プログラム,タッチパネル画面,取扱説明書及び警告用のシールの
複製権又は翻案権を侵害したと主張して,主位的には上記一連の行為による不
法行為に基づく損害賠償請求(民法709条,719条1項前段)として,予20
備的には上記各著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条,
719条1項前段,著作権法114条1項又は3項)として,損害金4億67
50万円及びこれに対する不法行為の日又はその後の日である平成25年2月
13日(被告トノックスによる支援車Ⅰ型の納車日)から支払済みまで民法所
定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。25
1前提事実(争いのない事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨により容易に認
められる事実)
当事者
ア原告は,自動車,キャンピングカー及びその部品等の製造並びに販売等
を業とする株式会社である。
イ被告トノックスは,自動車,中古車及びその部分品の開発,製造等を業5
とする株式会社である。
ウ被告マルチデバイスは,通信用電子機器の設計,製造,販売等を業とす
る有限会社である。
支援車Ⅰ型の機能等
ア支援車Ⅰ型とは,災害時に被災地で消防隊員等が寝泊まりしながら救援10
活動を行うために,情報事務処理スペース,資機材積載スペース,トイ
レ,シャワー,キッチン,ベッド等が備えられている車両である。
イ支援車Ⅰ型には,居室等の空間を車両内に収納し,停車時に当該空間を
車両側面から突出させることにより,車両内の空間を拡幅する機能(以
下「拡幅機能」という。)を備えるものがある。15
原告による支援車Ⅰ型の製造等
ア原告は,平成17年頃から拡幅機能を備える車両の製造に関与するよう
になり,平成19年3月頃,拡幅機能を備える支援車Ⅰ型を製造し,神奈
川県相模原市消防局等に納品した。この時製造された車両には,車両の拡
幅操作等を行うためのプログラム(以下「原告プログラム①」という。)20
及びタッチパネル(甲61。以下「相模原市消防局車両向けタッチパネ
ル」という。)が搭載されていた。原告プログラム①のうち,拡幅操作に
関する部分は別紙1のとおりである。
イ消防庁は,平成22年2月10日,拡幅機能を備える支援車Ⅰ型47台
の製造を一般競争入札(以下「平成22年入札」という。)に付し,同25
年4月5日の入札により,第一実業株式会社(以下「第一実業」とい
う。)がこれを落札した。
ウ第一実業は,上記イの落札の後,原告に対し,支援車Ⅰ型47台の製造
を委託した。原告は,第一実業からの委託を受けて支援車Ⅰ型47台を
製造するに当たり,被告マルチデバイスに対し,車両のシーケンス制御,
電気回路や電気配線の設計,部品製作及び取付け作業等を含め,電機部5
門の作業の一切を委託した。
エ原告が製造した拡幅機能を備える支援車Ⅰ型47台(以下「原告車両」
と総称する。)は,平成23年3月に消防庁に納品された。
被告トノックスによる支援車Ⅰ型17台の落札等
ア消防庁は,平成24年2月3日,拡幅機能を備える支援車Ⅰ型17台の10
製造を一般競争入札(以下「平成24年入札」という。)に付し,同年
4月5日の入札により,被告トノックスが1台当たり5750万円の価
格でこれを落札した。
イ被告トノックスは,平成25年2月頃,被告トノックスが製造した拡幅
機能を備える支援車Ⅰ型17台(以下「被告車両」と総称する。)を消15
防庁へ納品した。
原告車両及び被告車両の仕様等
ア原告車両及び被告車両には,それぞれ車両を制御するためのプログラム
(以下,原告車両のプログラムを「原告プログラム②」と,被告車両の
プログラムを「被告プログラム」という。)が組み込まれており,車両20
の拡幅操作等を行うためのタッチパネル(以下,原告車両のタッチパネ
ルを「原告タッチパネル」と,被告車両のタッチパネルを「被告タッチ
パネル」という。)が搭載されている。
原告プログラム②のうち,画面制御に関する部分は別紙2のとおりであ
り,被告プログラムのうち,拡幅操作に関する部分は別紙3の,画面制25
御に関する部分は別紙4のとおりである。また,原告タッチパネルの各
画面は別紙5のとおりであり(ただし,⑪の番号が付されている画像を
除く。),被告タッチパネルの各画面は別紙6のとおりである。
イ原告車両及び被告車両には,それぞれ車両の設備や機能及びその取扱方
法等を記載した取扱説明書(以下,原告車両の取扱説明書を「原告説明
書」と,被告車両の取扱説明書を「被告説明書」という。)が付属して5
おり,原告説明書には別紙7「取扱説明書対照表」の「原告説明書」欄
の,被告説明書には同対照表の「被告トノックス説明書」欄のとおりの
説明文が記載されている(ただし,各欄における下線,文字色及びライ
ンマーカーは原告代理人が付したものである。)。
ウ原告車両及び被告車両のキャブルーフ部には,立ち入ってはならない旨10
を示すため,絵柄と「NOSTEP」という文字とを組み合わせたシ
ール(以下,原告車両のシールを「原告警告シール」と,被告車両のシ
ールを「被告警告シール」という。)がそれぞれ貼られている。原告警
告シールは別紙8のとおりであり,被告警告シールが被告車両に貼付さ
れている様子は別紙9のとおりである。15
2争点
以下のア~エによる原告の利益の侵害と不法行為の成否
ア不当な価格での入札による原告の利益の侵害
イ資料流用による原告の利益の侵害
ウ原告車両の形態等の模倣による原告の利益の侵害20
エ原告タッチパネル画面,原告説明書又は原告警告シールの利用による原
告の利益の侵害
以下のア~オの著作権侵害の有無
ア原告プログラム①
イ原告プログラム②25
ウ原告タッチパネル画面
エ原告説明書
オ原告警告シール
被告らの故意過失及び関連共同の有無
原告の損害額
消滅時効の成否5
3争点に対する当事者の主張
ア(不当な価格での入札による原告の利益の侵害の有無)について
(原告の主張)
入札においては,仕様書が求める水準を満たし,現場での使用に耐え得る
支援車Ⅰ型を納品することが大前提となるところ,被告トノックスは,支援10
車Ⅰ型を製造販売した経験がなく,僅か1年で17台もの支援車Ⅰ型を製造
することができないことを認識していたにもかかわらず,平成24年入札に
おいて1台当たり5750万円という不当に安い価格で入札をし,支援車Ⅰ
型17台を落札した。1台当たり5750万円という価格では,十分な水準
を備えた製品を製造することが不可能であり,実際に,被告トノックスが納15
品した支援車Ⅰ型は,種々の不具合があり,現場での使用に耐え得るもので
はなかった。
原告は,被告トノックス以外の平成24年入札の入札者との間で,これら
の者が落札をした場合にはこれらの者から支援車Ⅰ型17台の製造を受注す
る旨の口頭の合意をしていたところ,被告トノックスによる入札は,公正か20
つ自由な競争原理によって成り立つ取引社会において到底許されないもので
あり,著しく不公正な手段を用いて原告の営業活動上の利益を侵害するもの
原告の主張欄記載の
一連の行為により原告から支援車Ⅰ型17台の受注機会を喪失させたもので
あり,これら一連の行為は不法行為を構成する。25
(被告トノックスの主張)
被告車両は,仕様書が求める水準を満たし,現場での使用に耐え得る製品
である。また,被告トノックスの落札金額である1台当たり5750万円と
いう金額は,適正な利益額での製造であれば,妥当なものである。
原告は平成24年入札には参加しておらず,下請企業にすぎないから,被
告トノックスと市場において競合していない。5
争点イ(資料流用による原告の利益の侵害の有無)について
(原告の主張)
ア被告トノックスは,平成24年4月14日,原告との間で支援車Ⅰ型1
7台の製造を原告に発注する旨合意し,同月17日,原告に対し,原告の
車両概要図,シャーシ関係図,ぎ装関係図等を要求した。原告代表者は,10
同時点では被告トノックスが原告に対して支援車Ⅰ型の発注をすることが
確実であると考えたため,支援車Ⅰ型17台を受注する前提で,同月18
日,被告トノックスに対して最大安定傾斜角度計算書等(甲20の1~
5)を提供した。しかし,被告トノックスは,原告に対して支援車Ⅰ型の
製造を発注しなかった。被告トノックスは,原告に対し支援車Ⅰ型17台15
の製造を発注すると原告を誤信させ,その誤信に基づき原告が提供した資
料を利用するなどして支援車Ⅰ型を製造した。
イまた,原告は,同月11日,被告トノックスに対し,キャブチルト等に
関する図面(甲16の2)を提供したところ,被告トノックスは,原告が
提供したキャブチルト等に関する図面を流用することにより,キャブチル20
トの角度やウェザストリップの取付場所等の試行錯誤の段階を省略し,コ
ストを抑えて被告車両を製造した。
ウ被告トノックスによる上記各行為は,公正かつ自由な競争原理によって
成り立つ取引社会において許される行為ではなく,著しく不公正な手段を
用いて原告の営業活動上の利益を侵害する行為である。当該行為は,前記25
の原告の主張欄記載の行為と一連のものとして不法
行為を構成するとともに,当該行為自体が単独で不法行為となる。
(被告トノックスの主張)
ア被告トノックスは,同年4月17日,原告に対し,総務省に提出するた
めの資料として車両の概要図やシャーシ関係図等の提供を依頼したが,こ
れは,原告に支援車Ⅰ型の製造を委託した場合には,被告トノックスが予5
定していたいすず製のシャーシではなく,日野製のシャーシが用いられる
こととなり,図面の差し替えが必要となるためである。被告トノックスは,
原告に上記各資料の提供を依頼した時点では,原告に製造を委託した場合
の見積額が被告トノックスによる落札価格を上回ることは認識していなか
ったのであり,これを認識していれば,上記依頼をすることはなかった。10
また,キャブチルト等に関する図面(甲16の2)はそもそも受け取っ
ていない。
イ被告トノックスは,原告に対して支援車Ⅰ型の製造を委託しなかったた
め,原告から提供を受けた最大安定傾斜角度計算書等(甲20の1~5)
を総務省に提出していない。また,シャーシ自体にいすず製と日野自動車15
製の違いがあるため,これらの資料は被告車両の製造に当たり参考になら
なかった。そもそも,原告から提供された数枚の図面で支援車Ⅰ型を完成
させることは不可能である。
なお,仮に被告トノックスが原告から提供された資料を流用していたと
しても,原告と被告トノックスとの間には,当該資料の使用制限や秘密保20
持に関する合意は何ら存在していないし,原告は,被告トノックスに資料
を提供した3か月後に,業界の専門雑誌でその内容を公表しているから,
被告による流用行為が不法行為となることはない。
争点ウ(原告車両の形態等の模倣による原告の利益の侵害の有無)につ
いて25
(原告の主張)
被告トノックス及び被告マルチデバイスは,原告から受領した資料や原告
車両の製造時に原告が被告マルチデバイスに作成させた資料等に基づき,次
の①~㉑に係る原告車両の商品形態を模倣して被告車両を製造した。被告ら
によるこれらの模倣行為は,原告が長年かけて培ってきた支援車Ⅰ型の製造
ノウハウにフリーライドするものである。5
①屋根に設置した太陽光発電装置の保護枠の形状,デザイン,材質,
サイズ及び塗装色
②配電盤の供給電源表示帯のデザイン及び表示方法
③車両内部の配電盤表示部のスイッチ等の配置及びデザイン
④屋根に設置したルーフ一体成形のFRP縞板10
⑤屋根に設置した折り畳み指揮台
⑥ガス給湯器の取付け位置
⑦車両右側の拡幅部分の窓の形状
⑧運転席と助手席間のセンターコンソールボックスの形状,デザイン,
サイズ及び取り付けられている部品15
⑨運転席頭上のワーニングモニターの警告部位及びイラスト表示マーク
⑩配電盤取り付けキャビネットの形状デザイン及び設計寸法
⑪車両内部のウォークスルーステップ部の構造及びデザイン
⑫車両内部のコーションラベル
⑬車体両側面に貼られた「総務省消防庁」,「支援車」,「各県20
名」等の文字の位置
⑭車両正面の上部ルーフの前部赤色警光灯2個の取付け位置及び取付
け部の座面形状
⑮車両後部の屋根上スピーカーの形状及び取付け位置
⑯テーブル収納部位置,形状及び固定方法25
⑰ステンレス製シンク,液晶テレビ,冷蔵庫,電子レンジ及びガスコ
ンロの配置とこれらに係るキャビネットの形状
⑱発電機の固定方法
⑲車体左側面の乗降扉と乗降用電動ステップの動作条件
⑳車両ぎ装の動脈に相当するメインワイヤーハーネス各種
㉑被告マルチデバイスが所持する原告の発注した電気回路図等5
(被告トノックスの主張)
原告が類似点であると主張する①~㉑のうち,①~⑪,⑬~⑰について原
告車両と被告車両に類似する点があること,⑫についてコーションラベルの
文言が同一であることは認める。他方,⑱は一般的な方法にすぎず,⑲はご
く一般に採用されるものである。⑳はシャーシが異なるため類似するとはい10
えない。
平成24年に被告トノックスが落札した支援車Ⅰ型17台は,平成22年
入札により納品された原告車両の追加配備分であるため,平成24年入札の
仕様書の内容は平成22年入札のものとほとんど変わらないものであった。
被告トノックスは,消防庁から車両の外観,内部や装備する器具備品等を可15
能な限り原告車両と同じものとするよう要望されたため,消防庁とともに原
告車両の現物も確認しながら,支援車Ⅰ型17台の製作を行った。したがっ
て,被告車両と原告車両とで外観や器具備品等に類似する点があることは当
然である。
被告トノックスは,原告が類似点であると主張する①~㉑のうち,②,③20
及び⑨については被告マルチデバイスに発注をし,全てを任せていた。㉑に
ついても,被告マルチデバイスに全てを任せており,被告マルチデバイスが
作成した電機回路図をそのまま消防庁に提出したにすぎない。
(被告マルチデバイスの主張)
原告車両と被告車両に類似点があることは認める。類似点があるのは,発25
注者である消防庁の意向によるものである。また,原告が類似点であると主
張する①~㉑のうち,②,③,⑨及び㉑は,原告車両及び被告車両の当該部
分をいずれも被告マルチデバイスが作成したものであるから,類似するのは
当然である。被告マルチデバイスが原告車両の作成の際に自ら作成したもの
を被告車両に利用することは,何ら問題がない。
争点エ(原告タッチパネル画面,原告説明書又は原告警告シールの利用5
による原告の利益の侵害)について
(原告の主張)
被告トノックスの行為が後記~で述べる原告タッチパネル,原告説明
書又は原告警告シールの著作権侵害に当たらないとしても,被告トノックス
が被告タッチパネル,被告説明書及び被告警告シールを作成等した行為は,10
公正かつ自由な競争原理によって成り立つ取引社会において,著しく不公正
な手段を用いて他人の法的保護に値する営業活動上の利益を侵害するものと
して,不法行為となる。
(被告らの主張)
争う。15
争点ア(原告プログラム①についての著作権侵害の有無)について
(原告の主張)
ア原告プログラム①の著作物性
支援車Ⅰ型は,タッチパネル形式で拡幅操作やポップアップフロアの
操作などを行うことが求められているため,これらの一連の動作の順番20
につきシーケンス制御と呼ばれる制御が行われる。そして,支援車Ⅰ型
におけるシーケンス制御のためには,PLCと呼ばれる制御装置が使用
される。PLCでは,ラダー図と呼ばれる特殊なプログラム言語が使用
されるところ,ラダー図の設計は自由度が非常に高く,同じプログラマ
ーが一度作成した同内容のシーケンス制御をするラダー図を作成しよう25
としても,同一のラダー図を作成することができないほどである。
被告プログラムの各ブロックのうち,原告プログラム①のブロックの
要素を全て含むブロックは22ブロックある。このうち,2通り以上の
記載方法があるブロックは20ブロックであるから,上記共通部分の表
現方法は,どんなに少なく見積もったとしても104万8576通り
(2の20乗)あることになる。実際には,各ブロックには複数の要素5
が含まれており,表現方法が1000通りを超えるブロックもあるので
あって,上記20ブロックのほか,原告プログラム①として抽出した拡
幅操作部分以外のラダー図も考慮すると,その表現方法は天文学的な数
字になる。原告プログラム①は,このように天文学的な数の回路構成が
考えられる中から1通りを選択したものであり,同じ回路構成を想到す10
ることはほとんどあり得ず,その選択の幅の広さからすれば,独創性及
び創造性が認められることは明らかである。なお,各ブロックは表現の
幅を数値化するための便宜的なものであり,各ブロックの表記が短いこ
とは,原告プログラム①の著作物性には何ら影響しない。原告プログラ
ム①の著作物性は,ブロックの集合体について判断されるべきものであ15
る。
ラダー図の描き方にどれだけ裁量の余地があり,描き方の違いによ
ってラダー図の表現方法にどれほどの影響があるかについて,原告プロ
グラム①のブロックY25を例に,説明をする。
Y25のラダー図を言語により表現すると,20
①MR202,MR302,MR402及びMR912のいずれ
かがONであって,かつ,MR205,MR305,MR406
及びMR913のいずれかがOFFのとき,R30203がON
になる
となる。25
これは,論理的には,次の②~④を組み合わせた表現と同じ意味であ
る。
②MR202,MR302,MR402及びMR912のいずれ
かがONのとき,MR990がONになる。
③MR205,MR305,MR406及びMR913のいずれ
かがOFFのとき,MR991がONになる。5
④MR990及びMR991がONのとき,R30203がON
になる。
この②~④を組み合わせた表現をラダー図で表現したものは,別紙1
0のラダー図変形例記載1のとおりである。
さらに,Y25の論理を言語により表現する方法には,以下の⑤~⑪10
を組み合わせる方法もある。
⑤MR202又はMR302がONのとき,MR990がONに
なる。
⑥MR402又はMR912がONのとき,MR991がONに
なる。15
⑦MR990又はMR991がONのとき,MR992がONに
なる。
⑧MR205又はMR305がOFFのとき,MR993がON
になる。
⑨MR406又はMR913がOFFのとき,MR994がON20
になる。
⑩MR993又はMR994がONのとき,MR995がONに
なる。
⑪MR992及びMR995がONのとき,R30203がON
になる。25
この⑤~⑪を組み合わせた表現をラダー図で表現したものは,別紙1
0のラダー図変形例記載2のとおりである。
このように,同じシーケンス制御をする回路構成でありながら,視覚
的に受ける印象が全く異なる描き方が多数存在するのであって,その中
からY25のような表現方法を選択した原告プログラム①に,独創性及
び創造性が認められることは明らかである。5
なお,被告マルチデバイスが主張するビギナーズテキストは,使用方
法の説明書のようなものであり,表現方法を限定するものではない。ビ
ギナーズテキストは,支援車Ⅰ型の制御という具体的な制御方法につい
ては何ら触れていないのであり,ビギナーズテキストを参考にしたから
といって,表現の選択肢が絞られるものではない。10
イ原告プログラム①の著作権者
原告プログラム①は,平成19年3月頃,相模原市に支援車Ⅰ型を納品
するため,原告が当時原告の従業員であったDに作成させたものであるか
ら,著作権法15条2項により,原告が著作権者となる。
ウ原告プログラム①の複製権又は翻案権侵害15
原告プログラム①と被告プログラムの作成日時は,いずれも平成19年
3月6日13時14分30秒であり,被告プログラムが原告プログラム
①に依拠していることは明らかである。
原告プログラム①と被告プログラムは拡幅操作部分だけでも一致部分が
22ブロックもあるところ,当該部分は原告プログラム①のデッドコピ20
ーであり,実質的に同一であるから,被告プログラムは原告プログラム
①を複製したものである。また,被告プログラムからは原告プログラム
①の本質的特徴を直接感得することができるから,被告プログラムは原
告プログラム②を翻案したものである。
エ被告トノックスの著作権侵害についての認識25
被告トノックスは,原告が提供した資料により,被告マルチデバイスが
原告車両の製造に関して原告から業務委託を受けていたことを認識してい
た。被告トノックスは(住所は省略)の会社であるのに対し,被告マルチ
デバイスは(住所は省略)に所在する資本金350万円の小企業であるこ
とからすると,被告プログラムの作成以前に被告トノックスと被告マルチ
デバイスとの間に取引関係があったとは考えられない。被告トノックスが5
被告プログラムの作成をあえて被告マルチデバイスに依頼したのは,被告
マルチデバイスが原告から業務委託を受けていたためである。このような
状況からすれば,被告トノックスは,被告マルチデバイスによる被告プロ
グラムの作成に関し,原告の著作権を侵害するとの認識を有していた。
(被告トノックスの主張)10
ア原告プログラム①は,自動制御のためのプログラムとして極めて一般的
なプログラムであり,表現自体に特段の創作性を有していないから,著作
物とはいえない。
イ仮に原告プログラム①が著作物に当たり,原告がその著作権者であると
しても,被告トノックスは被告プログラムの作成をすべて被告マルチデバ15
イスに依頼しており,原告の著作権を侵害するものであることの認識がな
かった。
(被告マルチデバイスの主張)
ア原告プログラム①において,どのような動作をどのような順番でプログ
ラムするか,すなわち,各ブロックの内容及びその順番は,著作権法1020
条3項3号の「解法」に該当し,著作物としての保護を受けない。また,
原告プログラム①は,株式会社キーエンスが製作したKV-5000/3
000というプログラマブルコントローラを使用して作成されているとこ
ろ,原告プログラム①と被告ブログラムにおいて表記が一致する各ブロッ
クは,いずれも僅か数行のごく短い表現にすぎず,同社が配布している同25
コントローラ用のビギナーズテキストを参考にすれば簡単にプログラミン
グできるありふれた表現にすぎない。したがって,原告プログラム①に創
作性は認められない。
イ被告プログラムは,原告プログラム①に依拠したものではない。
争点イ(原告プログラム②についての著作権侵害の有無)について
(原告の主張)5
ア原告プログラム②の著作物性
原告プログラム②と被告プログラムの画面制御部分とは,いずれも56
ブロックからなるものであるが,原告プログラム②の各ブロックと被告プ
ログラムの画面制御部分の各ブロックの表現は完全に一致している。この
56ブロックのうち,2通り以上の記載方法があるブロックは少なくとも10
39ブロックであるから,原告プログラム②と被告プログラムの共通部分
の表現方法は,どれだけ少なく見積もっても5497億5581万388
8通り(2の39乗)あることになる。
ラダー図の表現の自由度が高いこと,原告プログラム②には独創性及び
創造性が認められること等は,原告プログラム①について主張したところ15
と同様である。
イ原告プログラム②の著作権者
原告プログラム②は,原告車両の製造に際し,原告が被告マルチデバ
イスに対して原告プログラム①を複製させた上で,原告プログラム①を
基礎として作成させたプログラムであり,原告プログラム①の翻案物で20
ある。したがって,原告は原著作者として原告プログラム②の著作権を
有する。
仮に被告マルチデバイスが著作者であったとしても,原告は,原告車
両の製造の際に,被告マルチデバイスに対し,原告プログラム②の作成
を含む電気系統全般の製造業務の委託料として,合計で4763万9125
00万円を支払っている。このような関係からすれば,契約書等により
明示されていなくても,被告マルチデバイスは原告に対し原告プログラ
ム②の著作権を譲渡していたといえる。また,上記製造業務の委託料に
つき被告マルチデバイスの代表者との間で取り交わした書面(甲77)
には,手書きで「クレーム部品」,「クレーム外注費」,「ハード・ソ
フト」などと追記がされている。これは,後に問題が起きた場合に対処5
するための費用や,原告プログラム②の著作権譲渡を含む知的財産権一
切の費用が含まれていることを示すものであり,当該内容は原告代表者
と被告マルチデバイス代表者との間で合意されたものである。
被告マルチデバイスは,原告が原告プログラム②の著作権者であると
しても,その著作権は原告から第一実業や消防庁に移転したと主張する10
が,第一実業や消防庁は自ら支援車Ⅰ型を製造することはなく,原告プ
ログラム②の著作権を必要としないため,原告から第一実業又は消防庁
に原告プログラム②の著作権は譲渡されていない。
ウ原告プログラム②の複製権侵害
被告プログラムは原告プログラム②に依拠したものである。そして,原15
告プログラム②と被告プログラムは画面制御部分だけでも一致部分が56
ブロックもあるところ,当該部分は原告プログラム②のデッドコピーであ
り,実質的に同一であるから,被告プログラムは原告プログラム②を複製
したものである。
エ被告トノックスの著作権侵害についての認識20
上記で主張したとおりである。
(被告トノックスの主張)
原告プログラム①について主張したところと同様である。
(被告マルチデバイスの主張)
ア原告プログラム②は,原告プログラム①を基礎にしたものではあるが,25
被告マルチデバイスがその大半を自ら作成したものであり,原告プログラ
ム①の翻案プログラムではない。
イ原告プログラム②も,原告プログラム①と同様に,各ブロックの内容及
びその順番は「解法」に該当し著作物としての保護を受けない。また,各
ブロックの内容は,ありふれた表現にすぎず,創作性が認められない。
ウ仮に原告プログラム②が著作物であったとしても,原告はその著作権者5
ではない。すなわち,原告プログラム②は被告マルチデバイスが原告から
の委託を受けて作成したものであり,原告と被告マルチデバイスは,原告
プログラム②の著作権の帰属について何の取決めもしていない。被告マル
チデバイスが原告から受領した業務委託料のうち,原告プログラム②の作
成に係る報酬は,タッチパネルの作成と合わせて僅か141万円であり,10
著作権の譲渡代金を含むものとは考えられない。したがって,原告プログ
ラム②の著作権者は被告マルチデバイスである。
エなお,仮に原告プログラム②の著作権が被告マルチデバイスから原告に
移転しているならば,原告プログラム②の著作権は,その後,原告から第
一実業又は消防庁に移転したものといえる。15
オ被告プログラムは原告プログラム②に依拠しているが,いずれも被告マ
ルチデバイスが作成したものであるため,当然のことである。
争点ウ(原告タッチパネル画面についての著作権侵害の有無)について
(原告の主張)
ア著作物性20
原告タッチパネルの各画面は,支援車Ⅰ型の操作に必要な様々な場面に
ついて,それぞれ独特の画面配置,配色,ボタンのデザイン及び表示文言
等を用いたものであり,その画面の枚数も考え合わせると,ありふれたも
のとはいえず,創作性が認められる。
なお,被告マルチデバイスが指摘するクイックデザインテキストは,一25
般的なタッチパネル画面の作画方法は記載されているものの,支援車Ⅰ型
の具体的な操作方法とタッチパネルの関係について記載するものではない。
また,タッチパネルの作画について選択肢を示してはいるものの,どのよ
うな画面を作画するかという点や,それぞれの選択肢をどの組み合わせる
かという点についての限定は一切ない。したがって,クイックデザインテ
キストは,原告タッチパネルの各画面の著作物性を否定する根拠とはなら5
ない。
イ著作権者
原告タッチパネルの画面のデザインは,原告が原告車両を製造する際
に原告従業員に作成させたものであるから,著作権法15条1項により,
職務著作として原告が著作権者となる。10
原告タッチパネルの画面は,原告車両の製造に当たり,原告が作成し
た相模原市消防局車両向けタッチパネル画面を基礎とし,当該タッチパ
ネル画面に存在しない画面については,原告代表者が表示画面のイメー
ジ画を作成して被告マルチデバイスに提示し,被告マルチデバイスが電
子化した画面につき原告代表者が修正を要求するという過程を繰り返し15
て作成されたものである。このように,原告が原告タッチパネルの各画
面の表現を決定している一方,被告マルチデバイスは手直し程度の貢献
しかしていない。したがって,原告タッチパネルの各画面の著作権は原
告に帰属する。
仮に,原告タッチパネルの各画面の著作権の全部が原告に帰属しない20
としても,原告がその創作に深く関与していることは明らかであるから,
原告タッチパネルの各画面は,少なくとも原告と被告マルチデバイスの
共同著作物に当たる。したがって,被告マルチデバイスは,原告の合意
なくして原告タッチパネルの各画面についての著作権を行使することが
できない。25
ウ原告タッチパネルの複製権又は譲渡権侵害
原告タッチパネルと被告タッチパネルの各画面は,①スタート画面,②
暗証番号入力画面,③機能選択画面,④安全確認画面,⑤拡幅操作タッチ
パネルモード画面,⑥センサーステータス画面,⑦非常停止画面,⑧ジャ
ッキ操作画面,⑨拡幅操作リモコン画面,⑩燃料残量警告画面(2種類),
⑪暗証番号登録情報画面,暗証番号新規登録画面Ⅰ及びⅡ,暗証番号変5
更・抹消画面,暗証番号管理者登録画面,⑫メンテナンスモード画面にお
いて,表示が実質的に同一であるから,被告タッチパネルの各画面は原告
タッチパネルの各画面を複製したものである。
原告タッチパネルの各画面が共同著作物である場合には,被告マルチデ
バイスは,原告の合意なくして原告タッチパネルの各画面についての著作10
権を行使することはできないから,被告マルチデバイスによる複製行為や
譲渡行為は,複製権又は譲渡権の侵害となる。
(被告トノックスの主張)
ア原告タッチパネルの各画面は,特段目新しい表現をするものではなく,
創作性があるとはいえないから,著作物には当たらない。15
イ仮にこれが著作物であるとしても,原告タッチパネルは株式会社キーエ
ンス製のものであり,その画面は,付属のソフトウェアの表示画面に若干
の変更を加えたものにすぎないから,著作権者は制作者であるキーエンス
である。
ウ仮に原告が著作権者であるとしても,被告トノックスは被告タッチパネ20
ルの作成をすべて被告マルチデバイスに依頼しており,原告の著作権を侵
害するものであることの認識がなかった。
(被告マルチデバイスの主張)
ア原告タッチパネルの各画面は,株式会社キーエンスが製作したVT-S
TUDIOという作画ソフトを使用して作成されている。同社は,同ソフ25
トのクイックデザインテキストを配布しており,このテキストを参考にす
れば簡単に画面の作画ができるようになっている。したがって,原告タッ
チパネルの各画面に創作性は認められず,原告タッチパネルの各画面は著
作物ではない。
イ仮に原告タッチパネルの各画面が著作物であったとしても,原告はその
著作権者ではない。すなわち,原告タッチパネルの各画面は被告マルチデ5
バイスが原告からの委託を受けて作成したものであり,原告と被告マルチ
デバイスは,その著作権の帰属について何の取決めもしていない。被告マ
ルチデバイスが原告から受領した業務委託料のうち,原告タッチパネルの
作成に係る報酬は,原告プログラム②の作成と合わせて僅か141万円で
あり,著作権の譲渡代金を含むものとは考えられない。したがって,原告10
タッチパネルの各画面の著作権者は被告マルチデバイスである。
ウなお,仮に原告が原告タッチパネルの各画面の著作権者であるとしても,
その著作権は,その後,原告から第一実業又は消防庁に移転した。
エ仮に原告にタッチパネルの各画面の著作権が帰属していたとしても,原
告タッチパネルの各画面と被告タッチパネルの各画面とでは表示が異なる15
部分がある。タッチパネルの画面は表現の幅がそれほどあるものではない
ことを考慮すれば,原告タッチパネルの各画面と被告タッチパネルの各画
面とに多少の類似点があるからといって,実質的同一性があるとはいえな
い。
オ被告タッチパネルの各画面は原告タッチパネルの各画面に依拠している20
が,いずれも被告マルチデバイスが作成したものであるため,当然のこと
である。
争点エ(原告説明書についての著作権侵害の有無)について
(原告の主張)
ア著作物性25
原告説明書は,その分量も膨大であり,構成や表現がありふれたもの
でないことは明らかであるから,言語の著作物に当たる。
原告説明書は,次の点において,支援車Ⅰ型の使用方法の説明につき
取捨選択を行った結果が表現されており,作成者の個性が表現されてい
る。したがって,原告説明書には,編集著作物としての著作物性が認め
られる。5
①各頁に掲載する情報の量
②拡幅操作部分については説明をせずに拡幅操作説明書に任せてい
ること
③「はじめに」及び「各部の名称」から始まり,「鍵の種類」,
「ワーニングモニターパネル」,「配電盤」,「外部電源入力」,10
「発電機」,「バッテリー充電」,「室内各部スイッチ」,「FF
ヒーター」,「換気扇」,「LPガスシステム」,「給湯器」,
「冷蔵庫」,「座席,簡易ベッド,テーブル」,「リヤシート,折
り畳みベッド」,「給水口,給水タンク」,「排水タンク,排水用
水中ポンプ」,「エントランスドア」,「エントランスステップ」,15
「外部収納庫」,「シャワー(シャワールーム,アウターシャワ
ー)」,「折畳み指揮台」,「キャブティルト」,「パワーゲー
ト」,「ラップポントイレ」,「センターコンソールボックス(無
線機,サイレンアンプほか)」という項目立てとその順番
④写真を使用して説明する場合には,左側に写真を配置し,説明文20
を右側に配置していること(MicrosoftWordのよう
な一般的な文書作成ソフトを使用する場合,写真を右側に配置する
方が編集しやすい。)
イ著作権者
原告説明書は,原告の指示に従って原告従業員が作成したものであり,25
原告説明書の表紙に原告の社名が記載されていることから明らかなとおり,
原告の法人名で公表するものであるから,著作権法15条1項に規定する
職務著作に該当する。したがって,原告説明書の著作権者は原告である。
ウ原告説明書の複製権及び翻案権侵害
被告説明書は原告説明書に依拠したものであるところ,被告説明書の
文言が原告説明書と一致する部分は9割を超え,実質的に同一であると5
いえるから,少なくとも原告説明書の文章部分については,被告説明書
が原告説明書を複製したものであることは明らかである。
また,原告説明書と被告説明書は本文から注意書きに至るまで,文章
部分はほとんどデッドコピーといえるものであり,図や写真の配置及び
項目立て等の構成もほぼ同一であるから,被告説明書からは,原告説明10
書の本質的部分を直接感得することができる。したがって,被告説明書
は原告説明書を翻案したものである。
被告説明書は,原告説明書の編集著作物としての著作物性を基礎付け
分についてはその表現のほとんどが原告説明書と一致しているから,原15
告説明書に依拠して作成されたことは明らかであり,原告説明書の複製
権及び翻案権を侵害する。
(被告トノックスの主張)
ア被告説明書は原告説明書を参考にしているが,原告説明書に記載されて
いる内容は,支援車に設置された装備及び機器の名称や操作方法といった20
客観的事実についての説明であり,シンプルな表現が用いられている。こ
のため,その表現は必然的にありふれたものとなっており,特段の創作性
は見当たらない。したがって,原告説明書は言語の著作物には該当しない。
イ製品の取扱説明書に係る編集著作物性を判断するに当たっては,次のよ
うな内容や表記方法は,原則としてありふれた表記であるとされる。25
製品の概要(機能,構造,部品やその名称),取扱方法,発生し得
るトラブルやその対処方法,注意ないし禁止事項などを,文章や図面・
イラストによって説明する。
説明内容を示すタイトルを付けたり,説明内容の重要度に応じて,
文字の大きさや太さに変化を付ける,強調のための文字飾りを付す,注
意を促すマークを付すなどする。5
説明内容を理解しやすくするため,説明文の近くに,製品を簡単に
デフォルメしたイラストや,製品そのものの写真を掲載する。
ウ原告が原告説明書の編集著作物性の根拠としてあげるもののうち,原告
た,同②は,拡幅機能を持つことが支援車Ⅰ型の1つの特徴であることか10
らすれば自然なことであり,同③についても,仕様書の記載から導かれる
項目立てとして特別なものではなく,順番に創作性があるともいえない。
したがって,原告説明書は編集著作物に当たらない。
エ仮に原告説明書に著作物性が認められるとしても,その著作権は,第一
実業又は消防庁に移転している。15
争点オ(原告警告シールについての著作権侵害の有無)について
(原告の主張)
ア著作物性
原告警告シールは,絵のデザインや配色,これらの配置や大きさなどが
ありふれたものとはいえず,著作物に該当する。20
イ著作権者
原告警告シールは,原告車両の製造の際に,原告が原告従業員に作成を
指示したものであり,支援車Ⅰ型は原告が製造したものとして消防庁に納
品しているから,原告が自己の名義で公表するものとして,職務著作に該
当する(著作権法15条2項)。したがって,原告警告シールの著作者は25
原告である。株式会社アクトは,原告による警告シールのデザインをシー
ルにするための業務を請け負ったにすぎない。
ウ原告警告シールの複製権侵害
被告トノックスは,原告が提供した資料や,原告の元従業員からの情報
を通じて,原告警告シールのデザインを知ることができた。また,被告警
告シールは原告警告シールのデッドコピーといえるものであり,原告警告5
シールに依拠していることは明らかである。
被告警告シールは,絵のデザイン,配色,文字のフォント,それらの大
きさの比率や配置が全て原告警告シールと全く同一であり,原告警告シー
ルのデッドコピーといえ,原告警告シールを複製したものである。
(被告トノックスの主張)10
ア原告警告シールは,足で踏み込むことを禁止する警告機能を目的とする
ものであるところ,足の図に×を組み合わせた図形であり,警告機能をそ
のまま表現したありふれたものであって,創作性がないから,著作物とは
いえない。
イ仮に原告警告シールが著作物に当たるとしても,原告警告シール及び被15
告警告シールは,いずれも株式会社アクトが製作したものであるから,同
社が著作権者である。また,被告トノックスは株式会社アクトが著作権者
であると認識していた。
ウ原告警告シールと被告警告シールとは,縦横の寸法が異なり,全く同一
ではない。20
(被告マルチデバイスの主張)
いずれも争う。
争点(被告らの故意過失及び関連共同の有無)について
(原告の主張)
被告トノックスは,平成24年4月14日に原告との間で支援車Ⅰ型1725
台の製造を原告に委託することに合意して原告に資料を提供させた上で,合
意を守らず,資料を無断で流用した。また,被告トノックスは,原告資料や
原告から引き抜いた従業員及び被告マルチデバイスを通じて,原告が以前製
作した支援車Ⅰ型の構造や使用,支援車Ⅰ型に関する原告の著作物を認識し
つつ,これに依拠して原告車両を模倣した。
被告マルチデバイスも,原告から原告車両に関して委託を受けた際に作成5
した電機回路図等を流用し,被告車両の製作に協力した。
したがって,被告らには,一連の不法行為及び各著作権侵害についての認
識があり,故意又は過失が認められる。また,以上で述べたところによれば,
被告らによる一連の不法行為及び各著作権侵害は,被告らの共同不法行為に
当たる。10
(被告らの主張)
争う。
争点(原告の損害額)について
(原告の主張)
ア受注機会を喪失させた不法行為による損害額15
原告は,被告らの一連の不法行為により,支援車Ⅰ型17台の受注の機
会を喪失した。
原告が製造する支援車Ⅰ型1台当たりの売上額は●(省略)●円であり,
変動費等を控除した限界利益の額は●(省略)●円である。したがって,
支援車Ⅰ型1台当たりの利益額は2500万円を下らず,2500万円20
を利益額とすると,支援車Ⅰ型17台の受注機会を失ったことによる損
害額は4億2500万円である。
上記の不法行為と相当因果関係のある弁護士及び弁理士費用の額は,4
250万円を下らない。したがって,上記不法行為による原告の損害額
は,合計4億6750万円である。25
原告は,被告トノックスが被告車両を納車したことにより支援車Ⅰ型1
7台の受注機会を失い,同時点をもって損害が現実化したといえるから,
上記不法行為に基づく損害賠償請求権の遅延損害金の起算日は,被告ト
ノックスが被告車両を納車した日である平成25年2月13日となる。
イ著作権侵害行為全体による損害額
著作権法114条1項に基づく損害5
被告らは,複数の著作権侵害行為により被告車両を製造し,これを消
防庁に譲渡したから,被告らが「譲渡した物」である支援車Ⅰ型の譲渡
台数17台に,支援車Ⅰ型1台当たりの原告の利益額である2500万
円を乗じた額が原告の損害額と推定される(同項)。したがって,原告
の損害額は4億2500万円である。10
同条3項に基づく損害
原告が各著作物を被告らにライセンスすることはあり得ないため,同
項に基づくラインセンス料相当額は4億2500万円である。
弁護士及び弁理士費用相当額並びに遅延損害金の起算点
上記侵害と相当因果関係のある弁護士及び弁理士費用の額は425015
万円を下らない。
また,被告らは,遅くとも被告車両を消防庁に納車した日までには各
著作権侵害行為を行っているから,遅延損害金の起算日は,遅くとも平
成25年2月13日となる。
ウ各著作権侵害行為による個別の損害額20
同法114条1項に基づく損害
原告プログラム①,原告プログラム②,原告説明書,原告タッチパネ
ル及び警告シールは,いずれも支援車Ⅰ型の販売を伴わない単体での取
引がおよそ想定されないものであるから,上記各著作物の著作権侵害に
よる損害額は,支援車Ⅰ型1台当たりの利益額を基礎として計算すべき25
であり,原告が製造する支援車Ⅰ型1台当たりの利益額が2500万円
であることは上記アのとおりである。
原告プログラム②の支援車Ⅰ型の利益額に対する寄与率は,1台当た
り50%を下らないから,原告プログラム②の著作権侵害による損害額
は,2億1250万円(2500万円×17台×50%)である。
原告プログラム①の支援車Ⅰ型の利益額に対する寄与率は,1台当た5
り45%を下らないから,仮に原告プログラム②の著作権侵害が認めら
れなかったとしても,原告プログラム①の著作権侵害による損害が発生
しており,その損害額は1億9125万円(2500万円×17台×4
5%)である。
原告説明書の支援車Ⅰ型の利益額に対する寄与率は,1台当たり110
5%を下らないから,原告説明書の著作権侵害による損害額は,637
5万円(2500万円×17台×15%)である。
原告タッチパネルの支援車Ⅰ型の利益額に対する寄与率は,1台当た
り2.5%を下らないから,原告タッチパネルの著作権侵害による損害
額は,1062万5000円(2500万円×17台×2.5%)であ15
る。
原告警告シールの支援車Ⅰ型の利益額に対する寄与率は,1台当たり
2.5%を下らないから,原告警告シールの著作権侵害による損害額は,
1062万5000円(2500万円×17台×2.5%)である。
同条3項に基づく損害20
原告プログラム②に係る著作権のライセンス料相当額は,被告車両の
売上額の20%を下らないから,原告プログラム②の著作権侵害による
損害額は,1億9550万円(5750万円×17台×20%)である。
原告プログラム①に係る著作権のライセンス料相当額は,被告車両の
売上額の18%を下らないから,原告プログラム①の著作権侵害による25
損害額は,1億7595万円(5750万円×17台×18%)である。
原告説明書に係る著作権のライセンス料相当額は,被告車両の売上額
の6%を下らないから,原告説明書の著作権侵害による損害額は,58
65万円(5750万円×17台×6%)である。
原告タッチパネルに係る著作権のライセンス料相当額は,被告車両の
売上額の1%を下らないから,原告タッチパネルの著作権侵害による損5
害額は,977万5000円(5750万円×17台×1%)である。
原告警告シールに係る著作権のライセンス料相当額は,被告車両の売
上額の1%を下らないから,原告警告シールの著作権侵害による損害額
は,977万5000円(5750万円×17台×1%)である。
弁護士及び弁理士費用相当額10
被告らによる著作権侵害行為により要した弁護士及び弁理士費用相当
額は,2975万円を下らない。
(被告トノックスの主張)
ア損害に関する主張は,いずれも争う。
イ原告は,原告が支援車Ⅰ型を製造する場合の1台当たりの利益額は2515
00万円を下らないと主張するが,利益額は純利益を基礎として計算され
るべきであり,その額は約301万円程度である。
ウ著作権法114条1項により損害額が計算される場合,各著作物の支援
車Ⅰ型の利益額に対する寄与率は,原告プログラム①,原告プログラム②
及び原告タッチパネルにつきいずれも0.21%,原告説明書につき0.20
1%,原告警告シールにつき0.01%程度にすぎない。
同条3項により損害額が計算される場合,各著作物のライセンス料相当
額は,原告プログラム①,原告プログラム②及び原告タッチパネルにつ
き,いずれも被告車両の売上額の0.01%,原告説明書につき0.0
05%,原告警告シールにつき0.0005%程度にすぎない。25
(被告マルチデバイスの主張)
いずれも争う。
争点(消滅時効の成否)について
(被告トノックスの主張)
仮に,原告の主張を前提とした場合であっても,原告が受注機会を失い損
害を被ったのは,平成24年4月5日に被告トノックスが支援車Ⅰ型17台5
を落札したからにほかならない。そうすると,受注機会を喪失させた不法行
為に基づく損害賠償請求権については,同日が消滅時効の起算点となり,そ
の消滅時効は本件訴訟が提起される前である平成27年4月5日に完成して
いる。
また,仮に被告車両の納品日である平成25年2月13日を上記請求権に10
係る消滅時効の起算点であるとした場合でも,その消滅時効は本件訴訟が提
起される前である平成28年2月13日に完成している。なお,原告は,平
成27年12月11日付けの通知書の送付が民法153条に定める催告に該
当すると主張するが,同通知書は,著作権侵害以外のいかなる不法行為につ
き請求を行うものかが全く読み取れない極めて抽象的な記載であるから,受15
注機会を喪失させた不法行為に基づく損害賠償請求権との関係では,催告に
当たらない。
よって,被告トノックスは,上記損害賠償請求権につき,消滅時効を援用
する(平成28年9月27日の第1回弁論準備手続期日において陳述した被
における意思表示)。20
(原告の主張)
支援車Ⅰ型を落札した場合でも,落札者が辞退をする等の理由により,他
社が落札をすることができる可能性は依然として存在する。したがって,平
成24年4月5日の時点では損害は具体化しておらず,同時点は受注機会を
喪失させた不法行為に基づく損害賠償請求権についての消滅時効の起算点と25
はなり得ない。
また,支援車Ⅰ型の納車日である平成25年2月13日を消滅時効の起算
日とした場合についても,原告が平成27年12月11日付けで被告トノッ
クスに送付した通知書の記載からは,支援車Ⅰ型17台に関する不法行為に
基づく損害賠償請求権を問題とするものであることが理解できるから,同通
知書の送付は民法153条の催告に当たる。そして,原告は同通知書が被告5
に到達した日(平成27年12月14日)から6か月が経過する前の平成2
8年6月8日に本件訴訟を提起しているから,消滅時効は中断している。
第3当裁判所の判断
1前記前提事実に加え,証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認めら
れる。10
平成24年入札に係る被告トノックスと原告との間の交渉等
ア平成24年入札には,被告トノックスのほか,株式会社モリタ(以下
「モリタ」という。),帝国繊維株式会社(以下「テイセン」という。)
及び第一実業が参加した。
イ入札に当たっては,納入物品が仕様書を満たすものであることを示す資15
料として製品仕様書や図面等を事前に消防庁に提出する必要があった。第
一実業が提出した図面等は,日野自動車製のシャーシをベースとするもの
であり,原告が作成したものであった。被告トノックスは,いすず自動車
製のシャーシをベースとした図面等を作成して消防庁に提出し,モリタも
いすず自動車製のシャーシをベースとした図面等を提出した。また,テイ20
センが提出した図面は,原告が作成したものではなかった。(甲71~7
4)
ウ平成24年入札における入札価格は,被告トノックスが1台当たり57
50万円,モリタが1台当たり6650万円,テイセンが1台当たり68
50万円,第一実業が1台当たり7170万円であった。(甲11)25
エ被告トノックスが支援車Ⅰ型17台を落札した後である平成24年4月
6日,第一実業の従業員であるA(以下「A」という。)は,被告トノ
ックスに対し,支援車Ⅰ型17台の製造を第一実業及び原告に委託する
話を持ちかけた。原告代表者及びAは,同月7日に被告トノックスを訪
れ,上記製造の委託に関し,被告トノックスの営業部長であるB(以下
「B営業部長」という。)及び技術部長であるC(以下「C技術部長」5
という。)と面談をした。(原告代表者本人,被告トノックス代表者本
人)
オ原告代表者は,同月11日までに,被告に対して支援車Ⅰ型量産フロー
チャート(甲16の1。以下「フローチャート」という。)及びFRP
縞板のサンプルを交付した。(原告代表者本人,被告トノックス代表者10
本人)
カ原告代表者は,同月14日に被告トノックスを訪れた際,被告トノック
スから,支援車Ⅰ型17台の製造委託に関する見積書の提出を求められ,
「見積書は元請である第一実業から発行する。」旨を伝えた。(甲76,
被告トノックス代表者本人)15
キ同月17日,被告トノックスは,原告に対し,落札者が総務省に提出し
なければならない資料として,車両の概要図,シャシ関係図,ぎ装関係
図等の提供を依頼した。なお,これらの資料の提供を依頼した時点では,
被告トノックスは,後記クの見積書を受領していなかった。(甲19,
原告代表者本人,被告トノックス代表者本人)20
ク第一実業のAは,同日,被告トノックスのB営業部長宛ての電子メール
で,支援車Ⅰ型17台の受注額を税抜きで総額11億6790万円(1
台当たり6870万円)とする見積書を提出した(甲18)。
ケ同月18日,原告の担当者は,被告トノックスのC技術部長に対し,依
頼されていた資料に関連した資料として,最大安定傾斜角度計算書,車25
両の外観図及び室内配置図等(以下「最大安定傾斜角度計算書等」とい
う。)を電子メールによって送付した(甲20の1~5,甲21)。
原告が被告トノックスに送付した最大安定傾斜角度計算書等は,第一実
業が平成24年入札に当たり消防庁に提出した書面に含まれていたもの
であり,日野自動車製のシャーシをベースとするものであった(甲7
2)。5
コ被告トノックスのB営業部長は,同月19日頃,原告代表者に電話をか
け,見積金額を安くしてもらえないかという趣旨の話をした。原告代表
者は,これに対し,第一実業と価格交渉をしてほしい旨を回答した。
(原告代表者本人)
サ原告代表者は,同月下旬頃,被告トノックスの担当者に対し,支援車Ⅰ10
型の部品については,第一実業を介さずに販売することも可能である旨
を伝えた。(原告代表者本人)
シ原告代表者は,同年7月頃,被告トノックスのC技術部長から部品購入
の見積り等についての問い合わせを受けたため,見積書を交付した。ま
た,被告トノックスは,この頃,原告から「支援車Ⅰ型販売用艤装部15
品」と題する書面(甲13。以下「販売用部品一覧」という。)の提供
を受けた。(甲78,原告代表者本人,被告トノックス代表者本人)
ス原告は,同月28日に被告トノックスに対して再度見積書(甲22)を
交付したが,被告トノックスは原告に対して部品の発注をしなかった。
セ原告は,平成25年1月19日,被告トノックスに対し,原告が被告ト20
ノックスに提供した資料として,フローチャート,販売用部品一覧及び
FRP縞板一体ルーフ標本3種の返却を要求し,最大安定傾斜角度計算
書等のデータの廃棄を求めた。被告トノックスは,FRP縞板一体ルー
フ標本3種のうちの2種を原告に返却したが,その余の資料は返却して
いない。(甲14,15)25
ソ原告と被告トノックスの間で,被告トノックスが支援車Ⅰ型を製造する
に当たり,原告から提供を受けた資料を使用してはならない旨の合意や,
原告車両の構造等を参照してはならない旨の合意がされたことはない。
被告トノックスによる被告マルチデバイスへの業務の委託
ア被告トノックスは,平成24年7月頃,被告マルチデバイスに対し,支
援車Ⅰ型17台の電気部分に関する業務を委託した。被告マルチデバイ5
スが受託した業務は,具体的には,車両制御プログラム,タッチパネル
の各表示画面,配電盤及びワーニングモニターの作成業務並びにこれら
の車両への取付業務並びに電気回路図の作成等であった。(乙ロ9)
イ被告マルチデバイスは,被告プログラム,被告タッチパネルの各画面,
被告車両の配電盤,ワーニングモニター及び電気回路図等を作成し,被10
告車両に取り付けるなどして,被告トノックスに納品した。
被告トノックスによる被告車両の納入等
ア平成24年入札による支援車Ⅰ型の納入期限は,平成25年3月31日
とされていたが(甲10),被告トノックスは,納入期限の前である同
年2月に被告車両を消防庁へ納品した。(甲10,前記前提事実イ)15
イ平成26年頃,被告車両のうちの2台につき,走行中又は停車中に拡幅
部分が10~30センチメートル程度張り出すという不具合が生じた。
被告トノックスは,当該不具合を受けて,被告車両にロック機能を追加
した。(被告トノックス代表者本人)
2争点ア(不当な価格での入札による原告の利益の侵害の有無)について20
原告は,被告トノックスは,支援車Ⅰ型17台を製造する能力がないことを
認識していたにもかかわらず,平成24年入札において不当に安い価格で入札
をして,原告の営業上の利益を侵害したと主張する。
しかし,入札は当該事業の発注のために行われるものであって,入札者の能
力が低いなどの事情が落札後に当該事業の発注者との関係で問題となることが25
あり得るとしても,入札に参加することが他の入札者やその関係者,競合企業
との関係で直ちにその利益を侵害し違法であるとして不法行為となることはな
いというべきである。そして,被告トノックスは,実際に支援車Ⅰ型を納期に
納入し,また,その後生じた不具合にも対処したことが認められるのであり
(前記1ア及びイ),被告トノックスが支援車Ⅰ型17台を製造する能力が
なかったと認めるに足りる証拠はなく,また,他の入札者の入札価格や原告が5
主張する支援車Ⅰ型1台当たりの利益額(2500万円)等を考慮すれば,被
告トノックスによる入札価格が不当に安い価格であると認めるには足りない。
その他,被告トノックスによる入札への参加が原告との関係で違法となるよう
な特別の事情があることを認めるには足りない。
以上によれば,その余を判断するまでもなく,被告トノックスによる入札へ10
の参加により原告の営業上の利益が侵害された旨の原告の主張は,採用するこ
とができない。
3争点イ(資料流用による原告の利益の侵害の有無)について
原告は,被告トノックスは原告に支援車Ⅰ型17台の製造を発注する旨原
告を誤信させた上で,平成24年4月17日にシャシ関係図等の提供を依頼15
し,原告は当該誤信に基づいて最大安定傾斜角度計算書等を提供したところ,
被告トノックスが当該資料を流用して被告車両を製造したと主張する。
上記誤信を生じた理由に関し,原告は,同月14日に原告代表者と被告
トノックス代表者との間で原告に対して車両の製造を委託する話がまとまっ
ていたと主張し,原告代表者も同旨の供述をする。しかし,同日時点では見20
積書も提出されておらず,価格に関する交渉も開始されていないこと(前記
1カ),被告トノックスからの車両製造の委託に関しては第一実業が元請
企業となるものとされており(原告代表者本人),原告と被告トノックスの
間で委託についての合意をすることは不自然であることに照らせば,同日,
車両の製造の委託に関する話がまとまった旨の原告代表者の上記供述は採用25
することができない。また,原告代表者は,被告トノックスが原告に対して
シャシ関係図等の提供を依頼したことから,原告が車両の製造を受注するこ
とが決まったと解釈した旨の供述もしている。しかし,本件の事実経過(前
記1カ~コ)によれば,被告トノックスが上記資料の提供を依頼した時点
で受注金額が決まっていないことは原告代表者も認識していたと認められ,
受注の成否が金額に左右されることは当然であるから,上記のような段階で5
受注が確実であると考えることはできないというべきである。そうすると,
被告トノックスからシャシ関係図等の提供依頼があったために受注が決まっ
たと解釈したことは合理的であるとはいえない。
他方,被告トノックスは,同月17日の資料提供の依頼について,被告
トノックスが支援車Ⅰ型を製造する場合と原告らに製造を委託する場合とで10
は使用されるシャーシが異なるため,原告らに委託をする場合に備えて総務
省に提出する資料の提供を依頼したものであると主張する。被告トノックス
が使用を予定していたシャーシはいすず製のものであり(前記1イ),原
告が提供した最大安定傾斜角度計算書等が日野製のシャーシに関するもので
あることに照らせば(同ケ),被告トノックスが,上記の理由により資料提15
供の依頼をしたことは不合理なものではない。そして,他に被告トノックス
が原告に製造を委託する旨原告を誤信させるような言動をしたという事実は
うかがわれない。
以上によれば,被告トノックスが原告を誤信させて最大安定傾斜角度計
算書等を提供させたと認めることはできない。20
なお,被告トノックスが最大安定傾斜角度計算書等を流用したことを裏
付ける具体的な証拠はないこと,上記のとおり被告車両はいすず製のシャー
シを用いるものである一方,最大安定傾斜角度計算書等は日野製のシャーシ
を前提とするものであることに照らせば,被告トノックスが被告車両の製造
に当たりこれらの資料を流用したと認めることもできない。25
原告は,被告トノックスにはキャブチルト等に関する図面(甲16の2)
も提供したところ,被告トノックスは当該資料を流用して被告車両を製造し
たとも主張する。
この点に関し,原告代表者は,同月7日にフローチャート及び販売用部品
一覧とともにキャブチルト等に関する図面を被告トノックスに交付したと供
述するが,これを裏付ける証拠はない。そして,平成25年1月19日に原5
告が被告トノックスに対して返還を求めた資料の中に同図面が含まれていな
提供したと認めることはできない。
以上によれば,資料の流用による原告の利益の侵害に関する原告の主張は,
採用することができない。10
4争点ウ(原告車両の形態等の模倣による原告の利益の侵害)について
原告は,被告トノックスが原告車両の形態等を模倣して被告車両を製造し
たと主張する。被告車両は,少なくとも①屋根に設置した太陽光発電装置の
保護枠の形状,デザイン,材質,サイズ及び塗装色,②配電盤の供給電源表
示帯のデザイン及び表示方法,③車両内部の配電盤表示部のスイッチ等の配15
置及びデザイン,④屋根に設置したルーフ一体成形のFRP縞板,⑤屋根に
設置した折り畳み指揮台,⑥ガス給湯器の取付け位置,⑦車両右側の拡幅部
分の窓の形状,⑧運転席と助手席間のセンターコンソールボックスの形状,
デザイン,サイズ及び取り付けられている部品,⑨運転席頭上のワーニング
モニターの警告部位及びイラスト表示マーク,⑩配電盤取り付けキャビネッ20
トの形状デザイン及び設計寸法,⑪車両内部のウォークスルーステップ部の
構造及びデザイン,⑫車両内部のコーションラベル,⑬車体両側面に貼られ
た「総務省消防庁」,「支援車」,「各県名」等の文字の位置,⑭車両正
面の上部ルーフの前部赤色警光灯2個の取付け位置及び取付け部の座面形状,
⑮車両後部の屋根上スピーカーの形状及び取付け位置,⑯テーブル収納部位25
置,形状及び固定方法,⑰ステンレス製シンク,液晶テレビ,冷蔵庫,電子
レンジ及びガスコンロの配置とこれらに係るキャビネットの形状に関し,原
告車両と類似する点があることは,当事者間に争いがない。
しかし,上記は,原告車両の構造,装置,形状,デザインに関わるもので
ある。原告は,原告車両の上記構造,装置,形状,デザインについて,特許
権,意匠権,商標権又は著作権を有することを主張するものではないし,被5
告トノックスが不正競争防止法に違反する行為をしたことを主張するもので
はない。そして,特許法,意匠法,商標法,著作権法又は不正競争防止法に
より保護されていない形状,構造,デザイン等を利用する行為は,上記の各
法律が規律の対象とする利益とは異なる法的に保護された利益を侵害したり,
自由競争の範囲を逸脱し原告に損害を与えることを目的として行われたりす10
るなどの特段の事情が存在しない限り,違法と評価されるものではないと解
するのが相当である。
原告が主張する前記①~⑰は,原告によって平成23年3月に消防庁に納
入された原告車両の形状,構造等である。原告車両も被告車両も消防庁の入
札に係る支援車Ⅰ型であり,同一の発注者に納入する製品の構造その他の仕15
様等の一部について,特段の事情がない限り,他者の権利に抵触しない範囲
において,同一又は類似のものとすることが自由競争の範囲を逸脱するもの
とは認められない。被告トノックスは原告から最大安定傾斜角度計算書その
他の資料を得たが,これらの資料は被告トノックスが原告を誤信させて得た
ものではないし(前記3),原告と被告トノックスとの間で,原告から得20
た資料や原告車両の構造等について,被告トノックスによる使用を禁止する
旨の合意がされたことはない(前記1ソ)。これらに加え,被告トノック
スと原告又は第一実業との間では見積書の交付を超えて,契約締結や発注に
ついての具体的なやりとりには至らなかったなどの前記交渉の経緯等に照ら
せば,被告トノックスが,仮に原告から得た資料の一部や既に消防庁に納入25
されていた原告車両の構造等に係る情報を何らかの形で利用したとしても,
当該行為が原告との関係で自由競争の範囲を逸脱するものとは認められない。
また,被告車両の前記①~⑰の形状,構造,デザイン等の利用について,特
許法,意匠法,商標法又は著作権法が規律の対象とする利益とは異なる法的
利益に保護された利益が侵害されたことを認めることはできない。したがっ
て,本件全証拠に照らしても,被告トノックスが原告車両と類似点を有する5
被告車両を製造したことにつき,特許法等が規律の対象とする利益とは異な
る法的に保護された原告の利益を侵害するなどの特段の事情や,自由競争の
範囲を逸脱し原告に損害を与えることのみを目的として行われたなどの特段
の事情を認めることはできない。
原告は,被告トノックスは著しく不公正な手段を用いて原告の営業上の利10
益を侵害し一般不法行為が成立すると主張するが,上記に照らし,採用する
ことができない。
したがって,原告車両の形態等の模倣による営業上の利益の侵害に関する
原告の主張は採用することができない。
5争点エ(原告タッチパネル画面,原告説明書又は原告警告シールの利用に15
よる原告の利益の侵害)について
原告は,被告トノックスによる被告タッチパネル,被告説明書及び被告警告
シールの作成行為は,原告タッチパネル,原告説明書及び原告警告シールに関
する著作権侵害行為に当たると主張するほか(前記争点原告
の主張),これらの行為は,著作権侵害行為に当たらなくとも不法行為を構成20
すると主張する。
このうち,被告警告シールの作成については,後記10のとおり,被告トノ
ックスによる著作権侵害が認められる。
他方,被告タッチパネル及び被告説明書の作成について,原告の著作権が侵
害されたとは認められない(後記8,9)。そして,著作権法に違反しない行25
為は,著作権法が規律の対象とする利益とは異なる法的に保護された利益を侵
害するなどの特段の事情が存在しない限り,違法とならないと解されるところ,
前記4で述べたところに照らし,被告トノックスの行為が不法行為となるこ
とはない。
その他,原告は,上記各行為や資料の流用行為,原告車両の形態等の模倣行
為等の被告トノックスが被告車両を製造するまでの一連の行為が原告に対する5
不法行為である旨主張するが,原告警告シールの著作権侵害を除き,上記各行
為について違法な行為であると認めることはできないことはこれまでの説示の
とおりであり,他に原告に対する違法な行為があるとは認めるには足りない。
また,それら行為が一連の行為とされたとしても,それらの行為が違法になる
とも認められない。原告の主張は採用することができない。10
6争点ア(原告プログラム①についての著作権侵害の有無)について
原告は,被告マルチデバイスは原告が著作権を有する著作物である原告プ
ログラム①を複製又は翻案したと主張するのに対し,被告らは,原告プログ
ラム①は著作物ではないなどと主張する。そして,原告が具体的に被告プロ
グラムとの対比を行い,著作物性及び複製権又は翻案権侵害を主張している15
のは,原告プログラム①のうちの拡幅操作部分であるので,以下,当該部分
の著作権侵害の有無を検討する。
証拠(甲41,43,45,46,乙ロ1,3)及び弁論の全趣旨によれ
ば,以下の事実が認められる。
ア機械や装置などの動作をあらかじめ決められた順序に従って制御するこ20
とをシーケンス制御といい,シーケンス制御を行うための装置をPLCと
いう。PLCによるシーケンス制御を行うためには,ラダープログラム
(ラダー図)と呼ばれるプログラムが必要である。
ラダープログラムにおいては,機器の接点や接続状況等を記号や端子の
番号等で表現した回路が示される。25
イラダープログラムに用いられる接点及び回路には,次のようなものがあ
る。また,各接点及び回路には,動作内容に関するコメントを付すことが
できる。
a接点
スイッチが入れられることによりオンとなる接点。
b接点5
スイッチが入れられることによりオフとなる接点。
AND回路
複数の接点が直列につながれた回路。全ての接点が条件を満たすこと
により動作する。
OR回路10
複数の接点が並列につながれた回路。いずれか一つの接点が条件を満
たせば動作する。
リレー回路
下図のように,リレー(下図では(M0))と同じ名称の接点を設
けることにより,リレーがオンとなると同じ名称の接点がいずれもオン15
となる回路。
ウ原告プログラム①及び被告プログラムは,株式会社キーエンス(以下
「キーエンス」という。)製のプログラマブルコントローラKV-500
0/3000を利用して作成されたラダープログラムである。
原告が指摘する原告プログラム①の拡幅操作部分は34ブロックであり,20
その内容は別紙1のとおりである。また,被告プログラムの拡幅操作部分
は36ブロックであり,その内容は別紙3のとおりである(以下,上記各
プログラムの個別のブロックについて,別紙1,3の記載に従い,「Y0
1」などということがある。)。
エ原告プログラム①の拡幅操作部分34ブロックと被告プログラムの拡幅5
操作部分36ブロックを対比した場合,原告プログラム①のうち,被告プ
ログラムと同一の回路構成となっているブロックは22ブロック(Y03,
Y04,Y07~17,Y22,Y25~32。以下,これらのブロック
を「共通ブロック」と総称する。)である(ただし,Y17と同一の回路
構成である被告プログラムのブロックT22には,接点の接続に関し,Y10
17とは異なる表現が用いられている部分がある。)。
オ共通ブロックのうち,Y07,Y12,Y14,Y22の各ブロックは,
いずれも接点が一つしかなく,当該接点に応じた命令も一つしか存在しな
い。
カ共通ブロックのうち,Y27及びY30~32の各ブロックは,いずれ15
も接点がなく,一つの命令のみで回路が構成されている。
キ共通ブロックのうち,上記オ及びカの各ブロックを除く14ブロック
(Y03,Y04,Y08~11,Y13,Y15~17,Y25,Y2
6,Y28,Y29)につき,各ブロックの回路を構成する接点等の要素
の数は,それぞれ以下のとおりである。20
Y035
Y048
Y084
Y0910
Y10325
Y114
Y138
Y158
Y165
Y1711
Y2595
Y269
Y284
Y293
原告は,ラダープログラムの設計は自由度が非常に高いところ,原告プ
ログラム①は天文学的な数の回路構成が考えられる中からある特定の回路10
を選択したものであり,その選択の幅の広さからすれば,原告プログラム
①には独創性及び創造性が認められると主張する。
イ共通ブロックのうち,Y07,Y12,Y1
4,Y22の各ブロックは,いずれも接点が1つしかなく,それに応じた
命令も1つしか存在しないブロックであり,Y27及びY30~32の各15
ブロックは,いずれも接点がなく,1つの命令のみで回路が構成されてい
るブロックである。そうすると,これら8つのブロックについては,他の
組合せを検討する余地がなく,回路の表現が1通りしか存在しないと認め
られる。したがって,これらのブロックには,作成者の個性が表れること
はなく,表現上の創作性があるとは認められない。20
ウその余の14ブロックについてみると,例えば,回路を構成する要素の
数が最も多いブロックY17(要素の数11。前記キ)は,拡幅待機と
いう動作の実行に関して,10個のb接点を全て直列で接続したAND回
路である。動作の実行に関して,関係する接点を全てAND回路で接続す
ることは極めて一般的でありふれた表現である。また,上記各接点の順序25
に技術的な意味はなく,その順序に個性が表れているということはできな
い。
また,Y09(要素の数10。前記キ)は,1つのスイッチにリモコ
ンモード,タッチパネルモード及びメンテナンスモードという3つのモ
ードが対応し,モードごとの動作を実行するため,上記各モードに応じ
て2つの接点からなるAND回路を設け,スイッチに係るa接点と各A5
ND回路をAND回路で接続するものである。命令の実行のために必要
な接点をAND回路で接続することは極めて一般的な回路の描き方であ
り,1つのスイッチに3つのモードが対応する場合に,各モードごとの
AND回路をスイッチに係る接点とそれぞれ接続するという構成も一般
的でありふれたものといえる。10
さらに,ブロックY25(要素の数9。同上)は,ポップアップフロア
を上昇させる動作を実行するためのブロックであるが,拡幅フロアの上
昇又は下降に関しては,拡幅フロア上昇に関する接点及び拡幅フロア下
降に関する接点がそれぞれ4つずつ存在するという状況下において,同
ブロックでは,拡幅フロア上昇に関する接点をa接点,拡幅フロア下降15
に関する接点をb接点とした上で,4つのa接点及び4つのb接点をそ
れぞれOR回路とし,これら2つのOR回路をAND回路で接続してい
る。拡幅フロアの上昇と下降という相反する動作に関する接点が存在す
る場合において,目的とする動作のスイッチが入り,目的に反する動作
のスイッチが入っていないときに,目的とする動作が実行されるために,20
目的とする動作の接点をa接点,これと反する動作の接点をb接点とし
てAND回路で接続し,命令をオンとする回路で表現することは,a接
点及びb接点の役割に照らすと,ありふれたものといえる。また,同一
の動作に関する接点が複数あり,目的とする動作の接点であるa接点の
いずれかがオンとなったときに目的とする動作が実行されるようにする25
ため,それらの接点をOR回路で表現することもありふれたものといえ,
Y25は,全体としてみても,当該動作を実行するために,ありふれた
表現であり,個性が発揮されたものとはいえない。
その他,共通ブロックの各ブロックは,目的とする動作を実行するため,
AND回路,OR回路を一般的又は自然に表現したものであり,個性が
発揮されたものとはいえない。5
エ原告は,ブロックY25を例に挙げ,ラダープログラムでは機械に一定
の動作をさせるための回路構成が多数存在するから,プログラムの表現
についての選択の幅が広いと主張する。
しかし,ブロックY25の表現は,上記のとおり,目的とする動作を実
行するために容易に導かれ,ありふれた表現といえるものであり,他の10
回路構成が多数存在するからといって,同ブロックで選択された表現に
作成者の個性が表れていると認めることはできない。なお,上記の主張
のほか,原告プログラム①の各ブロックの具体的表現につき,その表現
自体や表現の組合せ,表現順序からなるプログラムの全体に選択の幅が
あり,かつ,それがありふれた表現ではなく,作成者の個性,すなわち,15
表現上の創作性が表れていることについての原告による具体的な主張立
証はない。
オ以上によれば,被告プログラムには原告プログラム①と回路構成が一致
するブロックがあるが,その各ブロックの表現につき,創作性を認めるこ
とはできず,それらを著作物と認めることはできない。20
また,原告は,原告プログラム①の著作物性はブロックの集合体につ
いて判断されるべきであるとも主張する。しかし,上記のとおり,
被告プログラムは原告プログラム①とは回路構成が異なるブロックを多
く含んでいるから,被告プログラムが原告プログラム①を複製又は翻案
したものであると直ちに認めることはできない。25
したがって,原告プログラム①についての複製権又は翻案権侵害を認める
ことはできない。
7争点イ(原告プログラム②についての著作権侵害の有無)について
原告は,原告プログラム②は原告が著作権を有する著作物であり,これを
被告マルチデバイスが複製して被告プログラムを作成したと主張している。
これに対し,被告マルチデバイスは,原告プログラム②の著作物性を争うほ5
か,仮に原告プログラム②が著作物に当たるとしても原告は原告プログラム
②の著作権を有しない旨主張する。
証拠によれば,以下の事実が認められる。
ア原告は,平成18年2月頃までに,福井県敦賀美方消防組合に納品する
車両として,拡幅機能を備える支援車Ⅰ型を製造した。当該車両にはシ10
ーケンス制御のためのラダープログラムが搭載されていた。当該プログ
ラムは,原告の従業員であったD(以下「D」という。)が作成したも
のであった。(甲75)
イ原告は,平成19年3月頃,拡幅機能を備える支援車Ⅰ型を製造し,神
奈川県相模原市消防局に納品した。Dは,上記支援車Ⅰ型の製造に当た15
り,上記アのプログラムを改良して原告プログラム①を作成した。(甲
75)
ウ原告は,平成22年4月頃,原告車両の製造に当たり,車両制御プログ
ラムの作成を含む電気部門の作業一切に関する業務を被告マルチデバイス
に委託した。被告マルチデバイスは,上記委託に基づき,原告プログラム20
①を参考にして原告プログラム②を作成し,原告に納品した。なお,上記
業務委託に際し,契約書は作成されなかった。(原告代表者本人,被告マ
ルチデバイス代表者本人)
エ被告マルチデバイス代表者は,平成23年1月頃,原告の指示を受けて,
上記アの委託代金(以下「本件委託代金」という。)の算定に関して「Y25
183ハーネス,制御盤製作業務費」と題する書面を作成した。同書面は,
人件費及び交通費,仕入れ部材,経費(電気,水道,燃料,灯油)及び会
社利益(社長報酬を含む)という項目それぞれについての金額が記載され
たものであり,各項目の金額の合計額は,4763万9100円と記載さ
れていた。(乙ロ6,原告代表者本人,被告マルチデバイス代表者本人)
オ原告代表者と被告マルチデバイス代表者は,同月下旬頃,上記エの書面5
に基づいて本件委託代金に関する協議を行った。このとき,原告代表者は,
上記エの書面の合計金額欄の下部余白部分に,手書きで「出張旅費」,
「クレーム部品」,「クレーム外注費」,「ハード・ソフト」,「トラブ
ルシューティング」と加筆した(甲77。以下,原告代表者による加筆後
の書面を「本件書面」という。)。10
原告は,原告プログラム②は,職務著作として原告が著作権を有する原告
プログラム①を翻案したものであるから,原告は原告プログラム②につき原
著作者として著作権を有すると主張する。
しかし,原告プログラム②は被告マルチデバイスによって原告プログラム
グラム②において,原告プログラム①のどのような表現の本質的特徴が存在
するかや,原告プログラム①のどのような表現の本質的特徴を感得すること
ができるかについて,何ら主張立証をしない。したがって,原告プログラム
②が原告プログラム①を翻案したものであると認めることはできず,原告プ
ログラム②につき原告が原著作者として著作権を有するとは認められない。20
原告は,原告プログラム②の著作者が被告マルチデバイスであるとしても,
本件委託代金には原告プログラム②の譲渡代金が含まれていて,原告プログ
ラム②の著作権は原告に譲渡され,本件書面において本件委託代金に原告プ
ログラム②の譲渡代金が含まれることが確認されていると主張する。
しかし,本件書面には,単に「ハード・ソフト」との手書きの文字が記載25
されているのみであり,原告プログラム②の著作権の帰属等に関する記載は
一切ない。原告代表者は,「ハード・ソフト」との記載をした際に,被告マ
ルチデバイス代表者に対し,ハード及びソフトに関する権利は原告に帰属す
るものであることの確認をした旨供述するが,被告マルチデバイス代表者は
これを否定し,原告代表者による上記記載は,ハードやソフトについて不具
合等が発生した場合であっても,追加代金は発生しない旨を確認したもので5
あると供述する。「ハード・ソフト」という記載は,ハード及びソフトに関
する何らかの話合いがされたことを推認させるが,当該記載から著作権譲渡
の趣旨を直ちに読み取ることはできない。権利の帰属が特に確認されたので
あればその旨の記載がされるのが自然ともいえるところ権利の帰属に関する
記載が何もされていないこと,「ハード・ソフト」との記載の前後の「クレ10
ーム部品」,「クレーム外注費」,「トラブルシューティング」などの原告
代表者によるその他の記載は,被告マルチデバイスが原告に納入した製品に
今後問題が生じたとしても合意された金額以上の代金が発生しないことを意
味するとも解され,被告マルチデバイス代表者の供述と整合的であることな
どに照らせば,原告代表者の上記供述を直ちに採用することはできない。そ15
うすると,本件書面に基づいて原告プログラム②の著作権が被告マルチデバ
イスから原告に譲渡されたと認めることはできず,その他,同譲渡を認める
に足りる証拠はない。
したがって,原告プログラム②の著作権譲渡に関する原告の主張は,採用
することができない。20
以上によれば,原告プログラム②の著作権が原告に帰属する旨の原告の主
張はいずれも採用することができず,原告プログラム②の複製権侵害に関す
る原告の主張は理由がない。
8争点ウ(原告タッチパネル画面についての著作権侵害の有無)について
原告は,原告タッチパネルの画面は原告が著作権を有する著作物であるか,25
原告と被告マルチデバイスが共同して著作権を有する著作物であるところ,
被告マルチデバイスは原告の同意なく原告タッチパネルの画面を複製又は翻
案して被告タッチパネルの画面を作成したと主張する。そして,①原告タッ
チパネルは原告従業員に作成させたものである,②原告タッチパネルの画面
は,原告が作成し原告の著作物である相模原市消防局車両向けタッチパネル
の画面を基礎として作成され,当該タッチパネル画面に存在しない画面は,5
原告代表者が表示画面のイメージ画を作成して被告マルチデバイスに提示す
るなどして作成されたものであると主張する。
アまず,原告タッチパネルの作成経緯について検討すると,証拠(乙ロ2,
原告代表者本人,被告マルチデバイス代表者本人)によれば,原告タッチ
パネルは,原告車両の製造に当たり,原告の委託を受け,被告マルチデバ10
イスがキーエンスのプログラムを使用して作成したものであると認められ
る。
原告は,原告タッチパネルは原告従業員に作成させ
たものであると主張するが,これを認めるに足りる証拠はなく,同事実
を認めることはできない。15
イ原告は,前記②のとおり主張し,原告タッチパネルの画面の一部は,
原告の著作物である相模原市消防局車両向けタッチパネルの画面を複製又
は翻案したものであり,その余の画面は原告代表者が創作したものである
ため原告に著作権が帰属すると主張する。
そこで検討すると,証拠(甲54,61)及び弁論の全趣旨によれば,20
原告は,平成19年2月頃,相模原消防本部に支援車Ⅰ型を納入したこ
と,同支援車には,拡幅操作に関する指示をするためのタッチパネルが
設けられていたこと,そのタッチパネルの画面には,楕円や長方形を基
礎とし,「動作確認」,「OPEN」,「CLOSE」などの説明を表
示したボタン等が設けられ,同種のボタンは上下,左右に配置されてい25
たこと,相模原市消防局車両向けタッチパネルの「タッチパネルモード
画面」,「リモコンモード画面」及び「メンテナンスモード画面」に表
示される機能の内容,ボタンの形や配置等と,原告タッチパネル画面の
うちの「拡幅操作タッチパネルモード」,「拡幅操作リモコンモード」
及び「メンテナンスモード」の3画面に表示される機能の内容,ボタン
の形や配置等が類似していることが認められる。5
しかし,相模原市消防局車両向けタッチパネルの上記各画面は,支援車
Ⅰ型を操作するためのボタンや表示画面,ボタンにより行われる動作の
説明の表示を組み合わせたものである。その各ボタンのデザインは楕円
や長方形を基礎とするありふれたものであり,各ボタンの配置も上下,
左右に同種のボタンを並べるなど単純なもので,ボタンにおける説明の10
表示も通常の表示である。そうすると,上記各画面には作成者の個性が
発揮されておらず,これらの画面に創作性を認めることはできないから,
その余を判断するまでもなく,これらの画面を著作権法により保護され
る著作物であると認めることはできない。したがって,これらの画面と
類似する画面が原告タッチパネルにあったとしても,原告タッチパネル15
の当該画面について原告が著作権を有することはない。
また,原告代表者が原告タッチパネル画面のイメージ画を作成して被告
マルチデバイスに提示したことを裏付ける証拠はない。原告は,原告タ
ッチパネルの画面は原告と被告トノックスとの共同著作物であるとも主
張するが,原告代表者がタッチパネル画面の創作に関与したと認めるに20
足りる証拠もない。
なお,上記7で原告プログラム②について説示したところと同様の理
由により,原告タッチパネルの著作権が被告マルチデバイスから原告に
譲渡されたと認めることはできない。
以上によれば,原告タッチパネルの画面の著作権侵害に関する原告の主張25
は,採用することができない。
9争点エ(原告説明書についての著作権侵害の有無)について
原告は,原告説明書について,分量も膨大であり,構成や表現がありふれ
たものでないことは明らかであるから,言語の著作物に当たると主張する。
原告は,別紙7の原告説明書欄記載の原告説明書の表現を問題とするとこ
ろ,それらの表現は,配電盤や発電機,キャブチルトの取扱方法等,支援車5
Ⅰ型の装備や機器の機能,操作方法等の客観的な事項を簡潔な表現で説明し
ているものであり,いずれも個別の表現に作成者の個性が発揮されているも
のとはいえない。そして,原告説明書に用いられている表現に作成者の個性
が発揮されていると認められない以上,原告説明書の分量が膨大であるから
といって,原告説明書に創作性が認められるものではない。10
したがって,原告説明書は言語の著作物であるとは認められない。
原告は,原告説明書について,①各頁に掲載する情報の量,②拡幅操作部
分については説明をせずに拡幅操作説明書に任せていること,③項目立てと
その順番,④写真を使用して説明する場合には,左側に写真を配置し説明文
を右側に配置していることという点において,説明内容につき取捨選択を行15
った結果が表現されており,作成者の個性が表現されているから,編集著作
物に該当すると主張する。
編集著作物とは,編集物で,素材の選択又は配列によって創作性を有する
ものであるから(著作権法12条1項),編集著作物として著作権法の保護
を受けるためには,素材の選択,配列に係る具体的な表現形式において,創20
作性が認められることが必要である。
ここで,原告が主張する上記①は素材の選択や配列に係る具体的な表現形
式であるとはいえない。また,拡幅機能は原告車両が備える特別な機能であ
ると認められるところ,製品の特別な機能に関して製品全体に関する説明書
とは別に説明書を作成することも通常考えられるといえるから,上記②によ25
り,原告説明書には素材の選択又は配列において創作性があるということは
できない。
上記③について,原告説明書の項目及びその順序は,「はじめに」,「各
部の名称」,「鍵の種類」,「ワーニングモニターパネル」,「配電盤」,
「外部電源入力」,「発電機」,「バッテリー充電」,「室内各部スイッ
チ」,「FFヒーター」,「換気扇」,「LPガスシステム」,「給湯器」,5
「冷蔵庫」,「座席,簡易ベッド,テーブル」,「リヤシート,折り畳みベ
ッド」,「給水口,給水タンク」,「排水タンク,排水用水中ポンプ」,
「エントランスドア」,「エントランスステップ」,「外部収納庫」,「シ
ャワー(シャワールーム,アウターシャワー)」,「折畳み指揮台」,「キ
ャブティルト」,「パワーゲート」,「ラップポントイレ」,「センターコ10
ンソールボックス(無線機,サイレンアンプほか)」というものであると
ころ(甲30),これらの項目はいずれも原告車両が備える設備,機能に関
するものであって,取扱説明書において必然的に説明を要するものであり,
素材の選択に作成者の個性が発揮されているとはいえない。また,原告説明
書における上記各項目の配列に格別の工夫があるとは認めるに足りず,その15
配列に作成者の個性が発揮されていると認めることはできない。
上記④についても,原告説明書における写真と説明文の配置は,製品の説
明書として一般的なものといえ,そこに創作性があるとはいえない。
したがって,原告説明書が編集著作物であると認めることはできない。
以上によれば,原告説明書の著作権侵害に関する原告の主張は,いずれも20
採用することができない。
10争点オ(原告警告シールについての著作権侵害の有無)について
原告は,被告トノックスは原告が著作権を有する著作物である原告警告シ
ールを複製したと主張し,被告トノックスは,原告警告シールの著作物性を
争うなどする。25
証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア原告は,平成22年6月頃,原告車両のワーニングモニター用デカール
及びキャブルーフに貼付する警告シールの製作を株式会社アクト(以下
「アクト」という。)に委託した。(甲76)
イ原告の従業員は,同年9月29日,警告シールのデザイン変更案を作成
し,アクトに対して提示した。アクトは,原告従業員から受領したデザ5
イン変更案に基づき原告警告シールを印刷し,原告に納品した。(甲6
2,63)
ウ原告警告シールは,別紙8のとおり,図柄と「NOSTEP」との文
字を組み合わせた縦長の長方形状のものであり,上記図柄は,黒色で縁
取られた黄色の略正方形状の四角の中に,白い足形のマーク(以下「足10
形マーク」という。)と対角線状の×印を描いたものである。×印は四角
を縁取る黒い線とおおむね同じ太さの黒い線で描かれており,足形マー
クはこれらよりも若干細い黒い線で縁取られている。足形マークは,人
間のすねから足先までを真横から見た形状であり,四角の右上にすねの
部分が,左下に靴の部分が位置するような状態で斜めに描かれ,靴が左15
上の先端が上がった状態で斜めに描かれている。また,足形マークは,
足首の部分が若干細くなっており,足首から上はズボンをはいた形を,
足首から下は靴をはいた形をしている。靴のデザインは,足先に向けて
細くなり,つま先がとがった形状となっているほか,靴底が平らではな
く,かかと部分に段差がある形状となっている。20
エ被告トノックスは,被告車両の製造に当たり,ワーニングデカール及び
キャブルーフに貼付する警告シールの製作をアクトに依頼した。被告ト
ノックスは,アクトからデザイン一覧表を提示され,同一覧表に掲載さ
れていた原告警告シールのデザイン(ただし,色が付されていないも
の)を被告警告シールのデザインに採用した。上記デザイン一覧表の下25
部には,「株式会社ヨコハマモーターセールス様」との記載があり,
設計年月日が「2011.01.11」と記載されていた。(乙イ7,
14)
立入り禁止や踏込み禁止という趣旨をイラストで表現するに当たり,足
のマークに×印を組み合わせること,目を引くように背景色に黄色を用いる
こと,図柄と「NOSTEP」という文字を組み合わせること自体は,あ5
りふれた表現であるといえる。
しかし,立入り禁止や踏込み禁止という趣旨を表すイラストにおいて足の
マークをどのように表現するかについては選択の幅があるところ,原告警告
シールにおける足形マークは,前記ウのとおり,ズボン及び靴をはいた状
態の足を描いたものであり,靴は足先に向けて細くなり,つま先がとがって10
いるなどの特徴を有するほか,四角の右上にすねの部分が,左下に靴の部分
が位置するような状態で斜めに描かれ,靴の全体も左上の先端が上がった状
態で斜めに描かれているという特徴を有する。このような足形マークと×印
等を組み合わせたという特徴を有する原告警告シールは,必ずしもありふれ
た表現であるとはいえず,作成者の個性が表れ思想又は感情を創作的に表現15
したものであって,著作物に当たると認められる。
被告らは,原告警告シールの表現はありふれたものであると主張するが,
上記で説示したところに照らし,採用することができない。
前記ア及びイによれば,原告警告シールは,原告従業員が,原告の業務
に従事する過程において,原告が同人名義で委託先に納入する車両に貼付す20
ることを目的として作成したものであると認められる。このような事情に照
らせば,原告警告シールの著作権は原告に帰属すると認めるのが相当である。
別紙9では,被告警告シールはデザインの一部が明らかではないが,デザ
インが明らかになっている部分は原告警告シールの表現と実質的に同一とい
えること,前記エのとおり,被告トノックスはアクトからデザイン一覧表25
の提示を受け,同一覧表に掲載されていた原告警告シールのデザインを被告
警告シールのデザインに採用したものであることからすると,被告警告シー
ルは,仮に寸法等が原告警告シールと異なるとしても,原告警告シールと実
質的に同一の表現であり,原告警告シールに依拠したものであると認められ
る。
したがって,被告警告シールは原告警告シールを複製したものであると認5
められ,被告トノックスによる被告警告シールの作成は,原告警告シールの
複製権を侵害する。
11争点(被告らの故意過失及び関連共同の有無)について
以上によれば,被告トノックスは原告警告シールの複製権を侵害している。
そして,前記10エによれば,原告警告シールのデザインは,アクトから10
被告トノックスに提示されたデザイン一覧表に掲載されていたものであるが,
同一覧表の下部には,原告の名称が記載されているのであるから,被告トノ
ックスには,少なくとも,同デザインの権利関係等につきアクトに確認をす
る義務があり,当該義務を怠った過失があるというべきである。被告トノッ
クスは,原告警告シールのデザインはアクトから提示されたものであり,ア15
クトが著作権を有すると認識していた旨主張するが,仮にそうであったとし
ても,上記の説示に照らせば,上記の過失を否定することはできない。
よって,被告トノックスによる被告警告シールの作成は,原告警告シール
の複製権を侵害する不法行為であると認められる。
原告は,被告トノックスの上記行為につき被告マルチデバイスに共同不法20
行為が成立すると主張するが,被告警告シールのデザインに被告マルチデバ
イスが関与したことを具体的にうかがわせる事情はない。なお,被告マルチ
デバイスは,平成24年9月19日にアクトに対し,原告車両について製作
されたものと同様のデカールの注文をしているが,当該注文に係るデカール
は表示確認用(赤色部後部からLED点灯)アクリル板に関するものであり,25
警告シールとは無関係である(甲23)。
したがって,共同不法行為に関する原告の上記主張は採用することができ
ない。
12争点(原告の損害額)について
以上のとおり,被告トノックスは,原告警告シールの複製権を侵害し,こ
れにより被った原告の損害を賠償する義務を負う。そこで,上記複製権侵害5
により被った原告の損害額を検討する。
原告は,損害につき,主位的に著作権法114条1項に基づく請求をする。
ア前記前提事実1イ,同ウ及び前記10によれば,被告トノックスは,
原告警告シールを複製して被告警告シールを作成し,被告車両17台の各
キャブルーフに被告警告シール(被告車両1台について1枚,合計1710
枚)を貼付して消防庁に納品したと認められる。
著作権者等が侵害の行為がなければ「販売することができた物」(著作
権法114条1項)とは,侵害品と市場において競合関係に立つ製品であ
ると解されるところ,原告警告シールは,シールとして原告に納品され
,原告車両に貼付されたものであって,原告車両とは別15
個の取引の対象として販売されることもあり得るものといえる。そして,
原告警告シールは,原告警告シールの役割等にも照らせば,被告警告シー
ルと市場において競合関係に立つ製品ということができ,「販売すること
ができた物」に当たるというべきである。
他方,上記に照らせば,原告警告シールの複製権侵害による損害額の検20
討に当たっては,原告警告シールが「販売することができた物」に当た
るのであり,原告車両全体が「販売することができた物」に当たるとい
うことはできない。
イ次に,原告警告シールの単位当たりの利益の額について検討すると,証
拠(甲81~83)によれば,以下の事実が認められる。25
原告は,原告車両の製造に関し,第一実業から1台当たり●(省略)
●円の委託料を受領した(甲81,82)。
原告が原告車両の製造のために支出した部品代及び外注費の合計額は,
●(省略)●円であった(甲83)。
第一実業が原告に対して交付した原告車両の発注書には,作業項目毎
に1台当たりの部品代や工賃が記載されており,「塗装ロゴデカール」5
に関しては,●(省略)●とされ,工賃には「キャブ補機部品脱着」,
「下地処理」,「ボディー朱色一色塗装」,「ロゴデカール貼り付け-
部品・工賃は塗装に含む」,「下回りブラック塗装」が含まれる旨が記
載されている(甲81)。
ウ原告警告シールはロゴデカールに含まれるものであるところ,上記認10
定事実によれば,原告車両1台当たりの塗装ロゴデカールに関する委託
料は合計で●(省略)●円である。そして,塗装ロゴデカールに関する
部品代や工賃には,下地処理やボディー朱色一色塗装,下回りブラック
塗装等,広範囲にわたる作業やその部品代が含まれている一方,原告警
告シールはキャブルーフの1か所に貼付されるものであって,その内容15
や形状等からして,作成に多額の費用がかかったり複雑な作業等を要し
たりするものとは認められない。これらに照らせば,上記委託料のうち,
原告警告シールの販売価格に相当する額は1万円と認めるのが相当であ
る。
また,前記ア及びイによれば,原告車両の1台当たりの利益率は620
0%を下らないと認められるところ,原告車両を構成する部品毎に利益
率が異なることをうかがわせる証拠はない。したがって,原告警告シー
ルの利益率は60%であると認めるのが相当である。
以上によれば,原告警告シールの単位当たりの利益の額は,6000
円であると認められる。25
エ上記ア~ウで述べたところによれば,原告警告シールの複製権侵害に
つき,著作権法114条1項に基づく原告の損害額は,10万2000
円(6000円×17枚)であると認められる。
これに対し原告は,原告警告シールの原告車両1台当たりの利益額に
対する寄与率は2.5%を下らないから,同項に基づく損害額は106
2万5000円であると主張する。しかし,前記のとおり,本件で「販5
売することができた物」は原告警告シールと解すべきであるから,原告
車両を基準とする上記主張を採用することはできない。他方,原告の損
害額に関する被告トノックスの主張は,控除すべき費用の額等に関する
裏付けも十分ではなく,採用することができない。
原告は予備的に同条3項に基づく請求をしているが,原告警告シールの著10
作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額が上記金額を上回ると認
めるに足りる証拠はない。
本件訴訟の内容,経緯,認容額等に照らし,原告警告シールの複製権侵害
と相当因果関係のある弁護士及び弁理士費用の額は,2万5000円と認め
るのが相当である。15
したがって,被告トノックスは原告に対し,複製権侵害に基づき上記損害
額の合計額である12万7000円及びこれに対する不法行為の後の日であ
る平成25年2月13日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅
延損害金の支払義務を負う。
なお,被告トノックスは損害賠償請求権の消滅時効の主張をするが,同主20
張は受注機会を喪失させた不法行為によって被った損害の賠償請求権に関す
るものであり,著作権侵害に基づいて被った損害の賠償請求権に関するもの
ではないから(前記第2の4),上記時効の主張を判断するには及ばない。
13以上によれば,原告の被告トノックスに対する請求は上記12の限度で
理由があるからこれを認容することとし,被告トノックスに対するその余の請25
求及び被告マルチデバイスに対する請求は理由がないから,これらをいずれも
棄却することとし,訴訟費用の負担について民訴法61条,64条ただし書を
適用して,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官柴田義明5
裁判官萩原孝基
裁判官林雅子
(別紙省略)25

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