弁護士法人ITJ法律事務所

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       主   文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
       事実及び理由
第1 請求
1 被告が原告に対し,平成11年2月9日に告知した平成11年1月29日付け
の難民の認定をしない処分を取り消す。
2 被告が原告に対し,平成11年5月19日に告知した出入国管理及び難民認定
法第61条の2の4に基づく異議の申出は理由がない旨の平成11年5月19日付
け裁決を取り消す。
第2 事案の概要
 本件は,エチオピア連邦民主共和国(以下「エチオピア」という。)国籍を有す
る原告が,出入国管理及び難民認定法(以下「法」という。)61条の2第1項に
基づいてなした難民の認定申請(以下「本件難民認定申請」という。)について,
被告が,平成11年1月29日付で,難民の認定をしない処分(以下「本件処分」
という。)をなし,さらに,本件処分に対して原告が法61条の2の4に基づいて
なした異議の申出について,同11年5月19日付けで,被告が原告の異議の申出
に理由がない旨の裁決(以下「本件裁決」という。)をなしたことにつき,原告
が,本件処分及び本件裁決はいずれも違法であると主張して,その各取消しを求め
た事案である。
1 前提となる事実(争いのない事実及び証拠により容易に認定できる事実)
(1) 本件処分に至る経緯
ア 原告は,昭和47年2月19日,旧エチオピア国領現エリトリア国において出
生した,エチオピア国籍を有する外国人である。
イ 原告は,平成9年3月12日,エチオピア国内務省からエチオピア旅券を取得
し,同日,エチオピアからの出国査証を取得した上で,同年4月2日,アディス・
アベバ空港から出国した。
ウ 原告は,平成9年4月30日,新東京国際空港に到着し,東京入国管理局成田
空港支局入国審査官から,法別表第1の3の表に掲げる「短期滞在」の在留資格及
び在留期間90日の上陸許可を受けて本邦に上陸した。
エ 原告は,平成9年5月9日,在本邦オーストラリア連邦(以下「オーストラリ
ア」という。)大使館において,オーストラリアの難民人道査証による同国への移
住申請(以下「本件移住申請」という。)を行った。
オ 原告は,平成9年5月26日,三重県松阪市所在の株式会社やな川水産におい
て水産加工員として稼働中のところを,名古屋入国管理局(以下「名古屋入管」と
いう。)入国警備官に,法24条4号イ(資格外活動)該当容疑で摘発され,同
日,名古屋入管主任審査官が発付した収容令書により,名古屋入管収容場に収容さ
れた。
カ 名古屋入管入国審査官は,平成9年5月27日,名古屋入管入国警備官から原
告の引渡しを受け,同日,原告に対し審査を実施した結果,原告が法24条4号イ
に該当する旨認定し,原告にこれを通知したところ,原告は,同日,口頭審理の請
求を放棄をする旨の文言の入った調書に署名押印し,名古屋入管主任審査官は,同
日,原告に対し,退去強制令書を発付し,引き続き原告を名古屋入管収容場に収容
した。
 なお,原告は,平成9年6月2日,名古屋入管から入国者収容所西日本入国管理
センター(以下「西日本センター」という。)へ移収され,引き続き,西日本セン
ターに収容された。
(2) 本件難民認定申請及び本件処分等
ア 原告は,平成10年8月5日,被告に対し,法61条の2第1項の規定に基づ
き本件難民認定申請を行った。
イ これに対し,大阪入国管理局(以下「大阪入管」という。)難民調査官が,同
年10月8日及び同月13日,原告から事情聴取を行うなどの調査を行ったが,そ
の結果,被告は,平成11年1月29日,本件難民認定申請は,法61条の2第2
項所定の期間(以下「申請期間」という。)を経過してなされたものであり,かつ
同項ただし書の規定を適用すべき事情も認められないとして,本件処分をし,同年
2月9日,原告にその旨通知した。
ウ 原告は,平成11年2月12日,被告に対し,本件処分を不服として法61条
の2の4の規定に基づき,異議の申出を行ったので,大阪入管難民調査官が,同年
2月19日,原告から事情聴取を行うなどの調査を行った。その結果,被告は,同
年5月19日,本件難民認定申請が申請期間を経過してなされたものであり,かつ
同項ただし書きの規定を適用すべき事情も認められないので,本件処分に誤りはな
いとして,原告の異議の申出には理由がない旨の本件裁決をし,同日原告にその旨
通知した。
エ 在本邦オーストラリア大使館移民多文化関係省首席移民官は,平成11年2月
5日付けで,原告に対し,本件移住申請について,原告が難民人道査証の発給基準
を満たしていないため認められなかった旨通知した。
 なお,原告は,平成11年6月9日,仮放免許可により,西日本センターから出
所した。
2 争点
(1) 法61条の2第2項が申請期間を60日以内と定めることが難民の地位に
関する条約(以下「難民条約」という。)及び難民の地位に関する議定書(以下
「難民議定書」という。)に反し無効か
(2) 本件難民認定申請において,法61条の2第2項ただし書所定の「やむを
得ない事情」が存するか
(3) 原告の難民該当性
(4) 理由不備の違法
3 争点に関する原告の主張
(1) 争点(1)について
ア 原告が,難民条約及び法に定める「難民」に該当することは明らかなところ,
法における難民認定とは,事実の確認行為であり,創設的行為ではない。したがっ
て,そこには自由裁量の余地がなく,その点で,法務大臣の広範な自由裁量に委ね
られている出入国管理行政と性格を異にし,さらに,難民条約は難民の受入れを締
結国には義務付けておらず,難民認定することと,これを受け入れるか否かは全く
別の問題である。
イ 法61条の2第2項は,実体審査に入る前に満たすべき要件と解釈され,現に
そのように運用されている。一般にこれは「60日ルール」と称され,この規定に
より,日本において難民と認定されるためには,難民に該当するほか,やむを得な
い事情がない限り,60日以内に難民認定申請を行わなければならないという要件
まで充足しなければならないこととなり,難民条約及び難民議定書で規定された難
民の概念に,新たな「時間的制約」を加えるに等しいものである。
ウ 本来,法は,2条3号の2において,難民概念につき,難民条約及び難民議定
書の難民概念を採用しているにもかかわらず,その難民について,60日ルールと
いう時間的制約によって,法自体が,難民を難民と認定しないという自家撞着に陥
っている。
エ 難民条約及び難民議定書を批准したわが国としては,加盟国としてこの条約の
遵守義務を負っており,さらに,憲法98条により,難民条約及び難民議定書自体
が,わが国の国内法として,法(入管法)に優位する効力を有すると解されるとこ
ろ,法61条の2第2項は,法に優位する難民条約及び難民議定書に規定された難
民の定義の変更を図るものであり,難民の定義を定めた難民条約1条及び難民議定
書1条,さらに難民の定義については留保も許されないとする難民条約42条に違
反するものであり,また,60日ルールによって難民を難民と認定しないことによ
って,難民条約及び難民議定書によって保護された難民自身の権利,例えば難民条
約33条が規定するノン・ルフールマンの原則,すなわち,どの国家も,いかなる
方法をもってしても,難民を迫害を受ける場所へ送還することは許されないという
原則を否定することになるのであって,これが難民条約及び難民議定書に違反する
ことはいうまでもない。
オ 被告の主張に対する反論
(ア) 被告は,難民認定手続は,締約国の立法政策の問題であり,難民条約及び
難民議定書違反の問題が生じる余地はない旨主張するが,60日ルールが,単に難
民認定申請者に対して60日以内の申請を促す訓示規定と解されるならともかく,
当該ルールを遵守しない難民認定申請者に対し,難民認定の実体的審査そのものを
行わないことは,単なる手続規定を超え,難民の定義を独自に狭く変更するもので
あり,やはり,難民の定義を定める難民条約等に違反するものである。
(イ) また,被告は,60日ルールの合理性について,通常,難民条約で定める
難民に該当する者は,その恐怖から早期に逃れるため速やかに他国の庇護を求める
ものである等と主張するが,その主張自体,例外的場合に当該難民を無視する点で
問題であり,かつ,実際には,60日ルールを含めた難民認定制度の存在及び内容
自体が広く知られているわけではないし,難民の中には,母国の状況を見守った
り,母国に対する裏切りであるとか,親族の迫害を恐れる等の考えから,難民申請
を躊躇することもあるし,難民認定のための資料を収集する期間が必要な場合もあ
るなど,難民それぞれに様々な状況が存するのであり,速やかに難民申請をしなか
った事実も,難民該当性に関する一つの要素として判断すれば足りるのであり,6
0日ルールを遵守しなかったことの一事を持って難民非該当と判断できるものでは
ない。そして,難民に該当する者が申請期間内に難民認定申請をしないケースはほ
とんど考えられないとの被告主張は論証されておらず,かつ妥当でもない。
(ウ) さらに,被告は,60日ルールによって難民認定されない者について,ノ
ン・ルフールマンの原則に違反するという事情は,当該外国人に対して在留特別許
可を与えるか否かの判断に際し,積極的事情として考慮されるから,難民認定申請
の如何に関わらず,迫害にかかる申立てについて十分に検討されるし,迫害にかか
る申立てをしたものの在留特別許可が認められずに退去強制されることが確定した
外国人の送還先については,難民の認定を受けているか否かにかかわらず,ノン・
ルフールマンの原則に違反しない地域に送還することになるとして,60日ルール
の妥当性を主張する。
 しかしながら,本来ノン・ルフールマンの原則は,難民認定の効果ないし目的で
あり,難民条約及び難民議定書は,難民に対して庇護を与えることまで規定してお
らず,迫害国への送還の禁止がほとんど唯一かつ最大の難民に与えられる効果であ
って,難民認定の判断は,迫害国への送還禁止の前提であり,実際は難民認定の判
断と,迫害国への送還禁止は同時かつ一体的に判断がなされることが予定されてい
る。したがって,法において難民認定制度を規定する以上,この制度の中でノン・
ルフールマンの原則についても判断することが予定されているはずであって,在留
特別許可や退去強制の執行段階で,ノン・ルフールマンの原則を考慮することを予
定して,法が難民認定制度において60日ルールを規定したとは考え難く,むし
ろ,難民認定手続という特別かつ慎重な手続で一括判断させる方がはるかに合理的
である。
 そして,実際の運用としても,在留特別許可手続や退去強制の執行段階で,難民
であるから特定国に送還するなとの主張があったとしても,既に難民不認定となっ
ている以上,不認定後の特別な事情が主張されない限り,当該段階で,別途ノン・
ルフールマンの原則の判断はなされていないはずである。
 以上のとおり,仮に在留特別許可を与えるか否かの判断がなされる場合であって
も,難民不認定となった者について,ノン・ルフールマンの原則の検討はなされて
いないというべきである。
 また,在留特別許可は,法50条に規定されているとおり,退去強制手続におけ
る法務大臣の裁決の際に「特別に在留を許可すべき事情」がある場合に初めて検討
されるのであり,その前段階である入国審査官の認定,特別審理官の判定の際に
は,退去強制事由の有無しか判断されない。そして,これらの退去強制手続の内容
を当該外国人が認識していることはほとんどなく,通常退去強制事由があるとの認
定を受けた段階で異議の申出もなさず,結局,在留特別許可を与えるべきかの判断
の対象ともならない。
 加えて,60日ルール違反を含めて難民不認定となった者については,わが国は
難民として扱わないのであるから,退去強制の送還先の決定に際しても,難民に適
用されるノン・ルフールマンの原則は,少なくとも不認定の後特段の事情が生じな
い限り判断されるはずがなく,「迫害にかかる申立てをしたものの在留特別許可が
認められず退去強制される外国人」について,ノン・ルフールマンの原則が適用さ
れるとは考えられない。
 原告については,60日ルールによって難民性の判断がなされず,かつ退去強制
手続において異議申出をなしえなかったから,別途ノン・ルフールマンの原則の適
用も検討されず,エチオピアを送還先とする退去強制令書が発付されたものであ
り,難民認定の申請をした原告に対し,難民性の判断も,ノン・ルフールマンの原
則の適用の検討も行わなかったことは,難民条約及び難民議定書が締約国であるわ
が国に課した難民の迫害国への送還禁止の前提としての難民認定の義務に違反する
ものである。
(2) 争点(2)について
ア 法61条の2第2項ただし書の「やむを得ない事情」には,病気,交通の途絶
等で60日以内に申請することができなかった場合のほか,本人が第三国向け出国
を希望していたために難民の認定をしなかったが,最終的に本邦に定住する意思を
固めて難民の認定申請をするようになった場合も含まれると解される。
イ そして,原告が本件難民認定申請をなすに至った経緯は以下のとおりである。
(ア) 原告は,オーストラリアには原告のいとこのaが滞在しており,また相当
数のエチオピア人が滞在しているため,エチオピアを出国する時点から,オースト
ラリアに移住するつもりであった。
(イ) そこで,原告は前記前提となる事実記載のとおり,日本に入国して,本件
移住申請を行ったが,原告はこれを難民認定申請であると理解していた。
 原告は,名古屋入管に収容された後も,オーストラリア大使館に進行状況を確認
するため何度も手紙を書き,また直接電話を掛けたが,その返事は,「待つよう
に」「調査中」というものであった。
(ウ) その後,b神父は,原告がオーストラリアに難民申請をしているが手続が
進行していないと聞き,オーストラリアのNGO組織に問い合わせたところ,オー
ストラリアへの移住は容易ではないこと,UNHCR(国際連合難民高等弁務官事
務所)の難民認定が必要なことを知り,又同神父はUNHCRに問い合わせて,U
NHCRは日本にいる者についてはその者が日本国政府に難民認定申請をしなけれ
ば,支援をしないことを知った。原告はこの事実を伝えられ,又UNHCRのc法
務官が西日本センターに来ると聞き,平成10年7月下旬ころ,UNHCRに電話
をしたところ,同法務官は電話に出られず,UNHCR職員は,まず,原告が日本
国政府に対して難民認定申請をする必要がある旨説明した。
(エ) そこで,原告は本件難民認定申請をしたものであり,本件難民認定申請の
理由は,オーストラリアへの移住が認められるUNHCRの認定を受けるためであ
り,同時にオーストラリアへの移住が認められない場合は,日本国に定住すること
を決意し,日本国の難民認定そのものを受けるためであった。
ウ 以上の経緯のとおり,原告は,オーストラリアへの移住申請手続を行い,これ
がなかなか進まないことから,これを有利に進めるのに必要だとされるUNHCR
の難民認定を得るため,及びオーストラリアへの移住が認められない場合には日本
で定住するとの意思を固めて本件難民認定申請を行ったのであって,本件難民認定
申請は,第三国への出国移住を真摯に希望している場合にはまずその結果を待ち,
第三国への出国移住が期待できる限りは,日本に定住するかどうかの意思を決定す
るのは困難であったという,上記ア記載の解釈が前提とする事情が存した場合に該
当するから,原告には,本件難民認定申請について,法60条の2第2項に規定す
る「やむを得ない事情」があったというべきである。
エ 被告の主張に対する反論
(ア) 被告は,原告が本邦入国から60日以内に,日本国への難民認定申請を行
う意思があったのにこれをしなかった旨主張するが,原告は当初からオーストラリ
アに庇護を受ける意思があり,現にオーストラリアへの移住申請(原告の理解では
難民認定申請であった。)を行っていたのであり,法務省に行こうとしたのも,念
のため手続を確認するつもりであり,結局場所が分からなかったのも,日本に難民
認定申請をする意思がその時点でなかったからに他ならず,原告は当初日本への難
民認定申請の意思はなかったものである。
(イ) また,被告は,原告が本邦に定住する意思を固めて本件難民認定申請をし
たとは認められない旨主張するところ,たしかに,原告は,第一次にはオーストラ
リアでの庇護を求めて,それが認められない場合には日本での定住を求めるとの点
で予備的な意思といえるかも知れないが,難民として受け入れられずに迫害を受け
る恐れがある本国に送還される危険に直面している者が,予備的な手続をすること
が非難されるいわれはない。
 あえて,法的にいえば,本件難民認定申請当時の原告の意思は予備的仮定的であ
ったが,オーストラリアへの移住申請が拒否されたことを知らされた平成11年2
月5日,原告の日本定住の意思は確定的になり,これにより本件難民認定申請時に
あった瑕疵は治癒されたというべく,これは,オーストラリアに対する移住申請が
拒否されて直ちに日本に対して難民認定申請を行った場合(これは前記ア記載の
「やむを得ない事情」がある場合である。)と実質的に相違はなく,やはり「やむ
を得ない事情」があったというべきである。
(3) 争点(3)について
ア 入管法第2条3項の2及び難民条約によれば,難民認定申請の対象となるべき
「難民」とは,「人種,宗教,国籍若しくは特定の社会集団の構成員であること又
は政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有
するために,国籍国の外にある者であって,その国籍国の保護を受けることができ
ないもの又はそのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望ま
ないもの(後略)」をいう。
 エチオピアは,1991年7月以降,エチオピア人民民主革命戦線(EPRD
F)が政権を握っており,その中心はティグレ族によって構成されているティグレ
人民解放戦線(TPLF)である。これに対し,原告はオモロ解放戦線(OLF)
に所属しており,OLFはエチオピア南部に居住するオロモ族の分離独立を要求し
ている。エチオピアで内戦が始まった1992年6月,OLFが政府と対立するよ
うになってからは,OLFのメンバーが逮捕・拘置されることが急増した。OLF
を含む反政府政党は,1995年の選挙をボイコットし,1998年6月には,紛
争によってオロモ族,ゲデオ族,グジ族の者が合計3000名死亡している。そし
て,オロモ人自治区では,EPRDFがOLFに対抗させるために組織させたオロ
モ民族民主同盟(OPDU)とOLFとの紛争が続いている。
イ 原告は,1991年ころからOLFに所属し,EPLF(エリトリア人民解放
戦線)の関する情報収集を担当していたところ,1993年4月,政府高官30名
が爆破された事件の犯人の疑いがあるとして治安警察によって逮捕された。原告に
は全く身に覚えはなく,事件の存在自体も知らなかったが,原告がOLFのメンバ
ーらしいという理由だけで逮捕されて3か月以上も拷問を受け,1994年の4月
か5月ころに釈放されるまで拘束されたのである。なお,原告は,釈放時に,治安
警察から,国外に出ることを禁止され,さらに「このような問題が起こるならば,
あなたの命に責任を持てないよ。」と忠告された。
 原告は,釈放後,d首相のガールフレンドであったeという人物の仕事を手伝っ
ており,エジプトに行って化学物質やカセットを輸入していた。その際,原告は,
エジプトへ行く機会を利用してOLFの資金で医薬品を買付けて密輸入し,アディ
スアベバの市場で転売してその利益をOLFの活動資金に充てていた。原告のこの
ような活動はOLFにとって非常に重要であるとともに,EPRDFが原告に対し
て迫害を加える理由となるものである。
 その後も,現エチオピア政府当局は,OLFに対する警戒を強め,多数のOLF
メンバーを逮捕・拘置しており,原告の知り合いのメンバーも逮捕され,また,d
首相が逮捕されたことから,eと関係が深かった原告には危険が及ぶと考えられ
た。
ウ 以上のような,エチオピアの政治状況及び原告の活動等に照らせば,原告が
「難民」に該当することは明らかである。
(4) 争点(4)について
 原告は,本件難民の認定をしない処分に対して異議の申出をしたものである。異
議の申出がなされた以上,異議に理由がないと判断する場合には難民認定をしない
処分の理由よりもさらに詳細に理由を付加すべきことは当然のところ,本件裁決で
はそれがなされていない。したがって,本件裁決には理由不備の違法がある。
4 争点に関する被告の主張
(1) 争点(1)について
ア 難民条約及び難民議定書は,難民の認定手続についてはなんら定めていないか
ら,どのような手続を定めるかについては締約国の裁量に委ねられていると解すべ
きところ,国家は,その国の事情に応じた法律を制定しうるのであるから,仮に難
民認定手続について外国の法制度と異なることがあったとしても,それは締約国の
立法政策の問題であって,難民条約及び難民議定書に違反する問題が生じる余地は
ない。
 そして,法61条の2第2項が,本邦に上陸した日(本邦にある間に難民となる
事由が生じた者にあっては,その事実を知った日から60日以内に難民の認定の申
請を行わなければならないと定めているのは,難民となる事実が生じてから長期間
経過後に難民の申請がなされると,その当時の事実関係を把握するのが著しく困難
になり,適正かつ公正な難民認定ができなくなること,迫害を受ける恐れがあると
してわが国に庇護を求める者は,速やかにその旨を申し出るべきであること,わが
国の国土面積,交通・通信機関,地方入国管理官署の所在地等の地理的,社会的実
情からすれば60日という期間は申請に十分な期間と考えられることなどを理由と
するものであり,しかも,法61条の2第2項ただし書は,申請期間の例外とし
て,「やむを得ない事情」があるときは,60日の申請期間経過後の申請を認めて
おり,法務大臣は,申請期間経過後の申請に対しては,かかる「やむを得ない事
情」の有無について判断するのであって,以上のとおりの法61条の2第2項の規
定は,内容的にも何ら不合理ではない。
 また,法の定める「難民」とは,難民条約1条及び難民議定書1条の規定により
難民条約の適用を受ける難民をいうところ(法2条3号の2),上記各規定によれ
ば,「難民」とは「人種,宗教,国籍若しくは特定の社会的集団の構成員であるこ
と又は政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖
を有するために,国籍国の外にいる者であって,その国籍国の保護を受けることが
できないもの又はそのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを
望まないもの及びこれらの事件の結果として常居所を有していた国の外にいる無国
籍者であって,当該常居所を有していた国に帰ることができないもの又はそのよう
な恐怖を有するために当該常居所を有していた国に帰ることを望まないもの」をい
うのであって,そこにいう「迫害」」とは,「通常人において受忍し得ない苦痛を
もたらす攻撃ないし圧迫であって,生命又は身体の自由の侵害又は抑圧」を意味
し,また,「迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有する」と
いうためには,「当該人が迫害を受けるおそれがあるという恐怖を抱いているとい
う主観的事情のほかに,通常人が当該人の立場に置かれた場合にも迫害の恐怖を抱
くような客観的事情が存在していることが必要であると解されている。
 したがって,難民条約及び難民議定書で定める難民に該当する者は,その恐怖か
ら早期に逃れるため速やかに他国の庇護を求めるのが通常であり,わが国の地理
的・社会的実情に照らせば,このような者が難民認定の申請をすべきか否かについ
ての意思を決定し入国管理官署に出向いて手続を行うには,60日という申請期間
は十分と考えられるから,速やかに難民であることを主張して保護を求めなかった
という事実自体,その者の難民非該当性を物語っているというべきであって,実際
上は,難民条約に定める難民に該当しながら,申請期間内に難民申請をしないとい
うケースはほとんど考えられないというべきである。
 以上のとおり,法61条の2第2項の規定が難民条約1条,42条,難民議定書
1条に違反するものでないことは明らかである。
イ 原告は,法61条の2第2項がノン・ルフールマンの原則に背き,難民条約及
び難民議定書に違反する旨主張するが,外国人を本邦外に退去させるか否か,ま
た,退去させるとしてどの地域を送還先として指定するかは,難民の手続とは別個
の手続である退去強制手続において判断されるものであって,仮に難民条約に定め
る難民が,法61条の2第2項に定める申請期間の制限によってわが国において難
民の認定を受けることができなかったとしても,このことをもって,当該外国人が
直ちに本国に戻ることを余儀なくされたり,本国に送還されることにはならない。
 すなわち,退去強制手続において迫害に係る申立てをした外国人から,法49条
1項に基づく異議の申出があった場合には,法務大臣は,当該外国人の退去強制が
著しく不当であるか等について判断した上で,当該外国人に在留特別許可(法50
条)を与えるか否かを決しているのであって,当該外国人について,退去強制する
とすれば迫害を受ける国に送還せざるを得ない,すなわちノン・ルフールマンの原
則に違反するという事情は,当該外国人に対して在留特別許可を与えるか否かの判
断に際し,積極的事情として考慮されるのであるから,難民認定申請の如何に関わ
らず,迫害に係る申立てについては十分に検討されている。
 さらに,迫害に係る申立てをしたものの在留特別許可が認められず,退去強制さ
れることが確定した外国人の送還先については,難民の認定を受けているか否かに
かかわらず,法務大臣が,日本国の利益又は公安を著しく害すると認める場合を除
き,ノン・ルフールマンの原則に違反しない地域に送還することになる(法53条
3項)。
 したがって,法61条の2第2項に定める申請要件を満たしていない難民認定申
請について,難民該当性についての実体判断をすることなく難民不認定処分をする
取扱いをしたとしても,それをもって,当該外国人が,直ちに難民条約に定める難
民が本国に戻ることを余儀なくされたり,本国に送還されることに該当することに
はならず,難民条約及び難民議定書によって保護された権利を否定することにもな
らない。
(2) 争点(2)について
ア 法61条の2第2項が申請期間を60日と定めているのは,上記被告の主張
(1)ア記載のとおりであるところ,同項ただし書は,申請期間の例外として,申
請期間の経過に「やむを得ない事情」があるときは,申請期間経過の申請を認めて
おり,被告は,申請期間後の難民認定申請に対してはこの「やむを得ない事情」の
有無についても判断する。
 ところで,上記「やむを得ない事情」とは,申請期間を60日と定めた法の趣旨
からすると,本邦に上陸した日又は本邦にある間に難民となる事由が生じた場合に
あってはその事実を知った日から60日以内に難民認定の申請をする意思を有して
いた者が,病気,交通の途絶等の客観的事情により物理的に入国管理官署に出向く
ことができなかった場合のほか,本邦において難民認定の申請をするか否かの意思
を決定するのが客観的にも困難と認められる特段の事情がある場合をいうものと解
すべきである。
 例えば,申請者が,本邦において難民としての保護を求めるよりも,第三国にお
いて難民としての保護を求めることを希望し,その目的で第三国への入国申請等具
体的な手続を行っている場合において,結果的にこれが認められず,その時点で既
に申請期間が経過し,あるいは,期間満了が切迫していたような場合には,第三国
への入国申請が認められなかったときから本邦における難民認定の申請に要すると
認められる合理的期間内に申請がなされれば,同条項ただし書にいう「やむを得な
い事情」があったものと認める余地がある。もっとも,この場合でも,上記合理的
期間とは,同条項本文で本来の申請期間が60日に限定されていることとの均衡
上,これを最大限緩やかに解するとしても,60日を超えないと解すべきである。
イ そこで,本件難民認定申請に,法61条の2第2項ただし書にいう「やむを得
ない事情」があったかどうかについて検討するに,原告は,「本邦に上陸した日か
ら60日以内に難民認定の申請をする意思を有していた者」に該当せず,かつ「病
気,交通の途絶等の客観的事情により物理的に入国管理官署に出向くことができな
かった場合」に該当しないことは明らかである。
 そして,原告は,本件移住申請をなしたことが,「申請者が,本邦において難民
としての保護を求めるよりも,第三国において難民としての保護を求めることを希
望し,その目的で第三国への入国申請等具体的な手続を行っている場合において,
結果的にこれが認められず,その時点で既に申請期間が経過し,あるいは,期間満
了が切迫していたような場合」ないし「本人が第三国向け出国を希望していたため
に難民の認定申請をしなかったが,最終的に本邦に定住する意思を固めて難民の認
定申請をするようになった場合」に該当する旨主張するが,本件難民認定申請がさ
れた時点では,本件移住申請が認められないとの通知はされていないほか,原告
は,本件難民認定申請時点で本件移住申請を有利に進めるという意図のほかに本邦
に定住する意思を固めていたとは認められず,上記各場合に該当するとは認められ
ない。
 加えて,上記各場合が「本邦において難民認定の申請をするか否かの意思を決定
するのが客観的にも困難と認められる特段の事情がある場合」に該当するとされる
のは,諸外国においては,既に第三国で難民としての保護を受けている者について
は難民としての保護を与えないことを原則としている国もあるところ,本邦及び第
三国において難民としての保護を受けることを希望する者が,仮に本邦において難
民認定の申請をしてこれが認められたときには,もはや当該第三国において難民と
しての保護を受けられないおそれがあるため,このような事態を憂慮して,やむを
得ず申請期間内に本邦における難民認定申請をしないということも考えられること
から,このような場合には「本邦において難民認定の申請をするか否かの意思を決
定するのが客観的にも困難と認められる特段の事情がある場合」と評価し得ること
によるものである。
 しかるに,本件移住申請と本件難民認定申請との間には法的な関連がなく,本邦
で難民認定申請をしたことを理由として本件移住申請が認められないという関係に
立つものではないから,原告において,本件移住申請が認められなくなることを憂
慮して,申請期間内に本件難民認定申請をしなかったという事情は認められない。
 したがって,本件難民認定申請について法61条の2第2項ただし書所定の「や
むを得ない事情」があるとの原告の主張は失当である。
(3) 争点(3)について
 エチオピアの一般的状況については概ね認めるが,その余の点については不知。
(4) 争点(4)について
 法61条の2の4に基く異議の申出について,法務大臣が裁決をするに当たって
は,行政不服審査法48条及び41条1項に基づき,理由を附して行う必要がある
ところ,行政不服審査法が,理由附記を要求している趣旨は,決定機関の判断を慎
重ならしめるとともに,審査決定が審査機関の恣意に流れることのないように,そ
の公正を保障するためと解される。したがって,異議の申出に理由がないと判断す
る場合の理由附記の程度としても,法務大臣の判断の慎重・合理性を担保してその
恣意を抑制するに足りる程度のものであればよく,原告の主張は,異議に理由がな
いと判断する場合には難民認定をしない処分の理由よりもさらに詳細に理由を付す
べきことは当然であるとの前提自体に誤りがあり,失当である。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)について
(1) 難民条約及び難民議定書は,難民の認定手続についてはなんら定めておら
ず,当該手続をどのように定めるかについては締約国の裁量に委ねられていると解
すべきところ,国家は,その国の事情に応じた法律を制定しうるのであるから,仮
に難民認定手続について外国の法制度と異なることがあったとしても,それは締約
国の立法政策の問題であるといえる。
 ところで,法61条の2第2項の趣旨は,被告主張のとおり,難民となる事実が
生じてから長期間経過後に難民の申請がなされると,その当時の事実関係を把握す
るのが著しく困難になり,適正かつ公正な難民認定ができなくなること,迫害を受
ける恐れがあるとしてわが国に庇護を求める者は,速やかにその旨を申し出るべき
であること,わが国の国土面積,交通・通信機関,地方入国管理官署の所在地等の
地理的,社会的実情からすれば60日という期間は申請に十分な期間と考えられる
ことなどから定められたと解するのが相当であるところ,このような法61条の2
第2項の趣旨及び内容に照らせば,法61条の2第2項は,もっぱらわが国におけ
る難民認定に関する手続を規律する規定であって,難民条約及び難民議定書に定め
る難民の定義を実体的に変更したり,当該定義をわが国が留保したりする趣旨の規
定であるとは解されないことは明らかであり,そうすると,立法政策の問題とし
て,当該規定の一定の合理性がある限り,わが国の立法裁量の範囲内にあるものと
して,難民条約及び難民議定書違反の問題は生じないというべきである。
 そして,法61条の2第2項の趣旨は上記のとおりと解されるところ,このよう
な趣旨を手続に反映させることはもとより当然許されるところであり,さらに申請
期間を60日と設定したこと,やむを得ない事情がある場合には申請期間徒過にか
かわらず申請を認める余地を残していることなど,法61条の2第2項の規定内容
には合理性があることは明らかであるから,当該規定は,わが国の立法裁量の範囲
に属するものとして,難民条約及び難民議定書に違反するとは認められない。
 原告のこの点に関する主張は,手続と実体を混同するものであって,採用できな
い。
(2) また,原告は,難民条約1条及び難民議定書1条に定義される難民が,本
邦入国後直ちに難民申請をするとは限らず,難民それぞれに様々な状況が存するの
であって,これらの事情は難民該当性判断の一要素として考慮すれば足りるのに,
法61条の2第2項所定の申請期間の不遵守によって一律に難民非該当と判断する
のは不当である旨主張するところ,上記説示のとおり,法61条の2第2項が申請
期間を定めていることについては合理性があり,しかも,当該合理性は,上記のと
おり,難民の定義から導かれる難民の性質とも基本的に合致するといい得るうえ,
当該規定は,やむを得ない事情がある場合にはなお難民認定の申請を認める構造に
なっており,やむを得ない事情の有無の判断において,難民申請者の個別具体的事
情がしんしゃくされる機会があることに照らすと,この点に関する原告の主張も採
用できない。
(3) さらに,原告は,法61条の2第2項所定の申請期間を定めることが,難
民条約33条に定めるノン・ルフールマンの原則等の難民の権利を否定する結果に
なり,難民条約及び難民議定書に違反する旨主張するが,仮に難民条約に定める難
民が,法61条の2第2項に定める申請期間の制限によってわが国において難民の
認定を受けることができなかったとしても,法は,難民認定手続とは別途の手続で
ある退去強制手続において,ノン・ルフールマンの原則に配慮した規定を設けてい
ることが認められる。
 すなわち,法は,退去強制手続において,迫害に係る申立てをした外国人から,
法49条1項に基づく異議の申出があった場合には,法務大臣は,法50条に基づ
き,当該外国人の退去強制が著しく不当であるか等について判断した上で,当該外
国人に在留特別許可を与えるか否かを決することができ,この場合,ノン・ルフー
ルマンの原則に違反するという事情は,当該外国人に対して在留特別許可を与える
か否かの判断に際し,積極的事情として考慮され得るといえるし,さらに迫害に係
る申立てをしたものの在留特別許可が認められず,退去強制されることが確定した
外国人の送還先については,法53条3項により,難民の認定を受けているか否か
にかかわらず,法務大臣が,日本国の利益又は公安を著しく害すると認める場合を
除き,ノン・ルフールマンの原則に違反しない地域に送還することになる旨規定し
ているのであって,法が定めるこれらの諸規定に照らすと,難民認定手続によって
難民と認定されるか否かにかかわらず,法は全体として,ノン・ルフールマンの原
則に適合するよう定められていると解され,そうとすると,法61条の2第2項が
申請期間を定めていることが,直ちにノン・ルフールマンの原則に違反するとは到
底言えず,この点からも,法61条の2第2項が,難民条約及び難民議定書に違背
するとは認められない。
 なお,原告は,法の運用実態や原告の個別処遇を挙げて,法61条の2第2項の
申請期間の定めがノン・ルフールマンの原則に反する旨主張するが,上記説示のと
おり,法は全体としてノン・ルフールマンの原則に適合するよう定められているの
であり,法の難民条約適合性は,このような法の全体構造との対比において検討さ
れるべき問題であって,原告が主張する上記のようなことがらをもって,法の条約
適合性の判断要素として考慮するのは不適切であって,採用できない。
(4) 以上によれば,法61条の2第2項の定めが,難民条約及び難民議定書に
違反するとは認められない。
2 争点(2)について
(1) 法61条の2第2項ただし書は,申請期間の例外として,申請期間の経過
に「やむを得ない事情」があるときは,申請期間経過の申請を認めているところ,
上記「やむを得ない事情」とは,本邦に上陸した日又は本邦にある間に難民となる
事由が生じた場合にあってはその事実を知った日から60日以内に難民認定の申請
をする意思を有していた者が,病気,交通の途絶等の客観的事情により物理的に入
国管理官署に出向くことができなかった場合のほか,本邦において難民認定の申請
をするか否かの意思を決定するのが客観的にも困難と認められる特段の事情がある
場合をいうものと解される。
 そして,「本邦において難民認定の申請をするか否かの意思を決定するのが客観
的にも困難と認められる特段の事情がある場合」とは,「申請者が,本邦において
難民としての保護を求めるよりも,第三国において難民としての保護を求めること
を希望し,その目的で第三国への入国申請等具体的な手続を行っている場合におい
て,結果的にこれが認められず,その時点で既に申請期間が経過し,あるいは,期
間満了が切迫していたような場合」又は「本人が第三国向け出国を希望していたた
めに難民の認定申請をしなかったが,最終的に本邦に定住する意思を固めて難民の
認定申請をするようになった場合」を含むと解される(法61条の2第2項ただし
書の「やむを得ない事情」をこのように解釈する限度では,原・被告に実質的な争
いはなく,当裁判所も上記のとおり解するものである。)。
 ところで,上記のように解釈する根拠は,諸外国においては,既に第三国で難民
としての保護を受けている者については難民としての保護を与えないことを原則と
している国もあり,本邦及び第三国において難民としての保護を受けることを希望
する者が,仮に本邦において難民認定の申請をしてこれが認められたときには,も
はや当該第三国において難民としての保護を受けられないおそれがあるため,この
ような事態を憂慮して,やむを得ず申請期間内に本邦における難民認定申請をしな
いということも考えられることから,このような場合には「本邦において難民認定
の申請をするか否かの意思を決定するのが客観的にも困難と認められる特段の事情
がある場合」と評価し得るからであると解されるからである。
 そうであるとすると,申請者が,本法において難民としての保護を求めるより
も,第三国において難民としての保護を求めることを希望している場合であって
も,本邦において難民認定を受けたことが第三国において難民としての保護を受け
るにあたって不利益とならない場合には,「本邦において難民認定の申請をするか
否かの意思を決定するのが客観的に困難と認められる特段の事情がある場合」とは
認められないというべきである。
(2) これを本件についてみると,前記前提となる事実記載の経緯及び原告の主
張に照らすと,原告が「本邦に上陸した日から60日以内に難民認定の申請をする
意思を有していた者」に該当しないことは明らかであり,かつ前記前提となる事実
記載の経緯に照らすと,原告が「病気,交通の途絶等の客観的事情により物理的に
入国管理官署に出向くことができなかった場合」に該当しないこともまた明らかで
ある。
 そして,原告は,オーストラリアでの庇護を求め,その後本件難民認定申請をし
ているところ,本件移住申請と本件難民認定申請との間には法的な関連がなく,本
邦で難民認定申請をしたことを理由として本件移住申請が認められないという関係
に立つものではないことは当事者間に争いがない。
(3) 以上の認定・説示によれば,原告が本件難民認定申請をなした際,原告に
「本邦において難民認定の申請をするか否かの意思を決定するのが客観的にも困難
と認められる特段の事情」が存したとは到底認め難く,ほかに本件難民認定申請が
法61条の2第2項本文が定める申請期間を徒過したことがやむを得ない事情があ
ったと認めることもできない。
3 争点(4)について
 法61条の2の4に基く異議の申出について,法務大臣が裁決をするに当たって
は,行政不服審査法48条及び41条1項に基づき,理由を附して行う必要がある
ところ,行政不服審査法が,異議申立に対する決定につき理由を附記すべきものと
しているのは,処分庁の判断を慎重ならしめるとともに,その判断が恣意に流れる
ことのないように,その公正を保障するためと解されるから,その理由としては,
請求人の不服の事由に対応してその結論に到達した過程を明かにしなければならな
いと解するのが相当である。
 これを本件についてみると,証拠(甲2)によれば,本件裁決の理由として「貴
殿からの難民認定の申請は,法61条の2第2項所定の機関を経過してなされたも
のであり,かつ,同項ただし書きの規定を適用すべき事情も認められない。」との
理由が附記されていることが認められ,これによれば,原告が本法に上陸した日か
ら60日以内に難民申請を行わなかったとの事実を認定したうえで,法61条の2
第2項を適用して,本件異議申立を却下したことは明らかであるから,その結論に
到達した過程を明らかにしているということができる。
 よって,本件裁決には理由不備の違法はなく,適法である。
第4 結論
 以上のとおり,法61条の2第2項は難民条約及び難民議定書に違反せず,か
つ,本件難民認定申請は,同項本文に定める申請期間を徒過してなされ,徒過した
ことについて,同項ただし書にいう「やむを得ない事情」は認められない。
 そうすると,原告について難民の認定をしない旨の本件処分は適法である。
 また,本件裁決に理由不備の違法があるとは認められず,ほかに本件裁決に固有
の瑕疵があるとも認められないから,本件裁決は適法である。
 したがって,原告の本件各請求はいずれも理由がないから棄却することとし,主
文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第二民事部
裁判長裁判官 三浦潤
裁判官 黒田豊
裁判官 中島崇

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