弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

       主   文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
       事   実
一 控訴代理人は「原判決中、被控訴人に関する部分を取り消す。被控訴人の請求
を棄却する。控訴人と被控訴人の間に生じた原審の訴訟費用、及び当審の訴訟費用
はいずれも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の
判決を求めた。
二 当事者双方の主張は、次のとおり付加・訂正し、かつ、当審における主張・認
否を加えるほか、原判決の事実摘示と同じであるから、これを引用する。
1 (原判決事実摘示についての付加・訂正)
(一) 原判決四丁裏九行目の「乱入して、」の次と、五丁表六行目、同裏二行目
及び八行目六丁表三行目及び八行目の各「乱入し、」の次に、それぞれ「管理者の
中止命令を無視して、」を加える。
(二) 同八丁表一行目の「行つたものである。」の次に「なお、右各非違行為の
うち、①管理者の中止命令・退去命令に従わなかつた点は右就業規則五九条三号に
該当し、②局舎裏門を損壊したこと、ジグザグデモ、集会、アジ演説、シユプレヒ
コール等を行い、又はそれらを指導、指揮したことは、それぞれ同規則五条五項、
六項に違反して、五九条一八号に該当し、③線路庁舎移転反対の実力行為を事前に
計画指導した点及び共通事務室を喧騒状態に陥れた点は同規則五九条一九号に該当
するほか、④これらの行為は全体として同規則五条八項に違反し、五九条一八号、
二〇号に該当するものである。」を加える。
(三) 同八丁表末行の「移転に」の次に「反」を加える。
(四) 同一一丁表六行目冒頭から七行目の「該当すると」までを「就業規則五九
条三号にいう『上長の命令に服さないとき』に該当する事由があつた旨を主張」
と、同裏一行目の「の退去命令」を「主張にかかる中止命令・退去命令」と、同四
行目の「本件」を「右中止命令・」と、同七行目から八行目にかけての「退去」を
「右各」と、それぞれ改める。
2 (当審における主張・認否)
(一) 控訴人の主張
 線路庁舎の移転阻止を標榜する八月一八日の行動は、共通事務室への立ち入りを
含め、すべて事前に企画、立案された計画に基づいて行われたものであるところ、
被控訴人は、右企画、立案に積極的に参加した「中心的メンバー」の一人であるう
え、少くとも、共通事務室及びその周辺以外の場所における諸行動に際しては、ジ
グザグデモの最前列でデモ隊を指揮するなど、第一審相原告Aに次ぐ積極的役割を
果していたものである。そうとすれば、仮に被控訴人が共通事務室及びその周辺に
おける行動に加つていなかつたとしても、そのことは被控訴人に対する本件停職処
分の基礎事実にさしたる影響を及ぼすものではなく、右処分に控訴人の裁量権の範
囲を逸脱した違法があるということはできない。
(二) 被控訴人の認否
控訴人の当審における主張は、すべてこれを争う。
三 証拠関係(省略)
       理   由
一 本件についての当裁判所の事実認定は、後記第三項において付加するほか、当
事者間に争いのない点を含め、すべて原判決理由第一項及び第二項1の説示すると
ころ(原判決一四丁裏七行目から二五丁裏五行目まで)と同じ(ただし、原判決一
五丁裏三行目から四行目にかけての「及び成立ともに真正に成立したものと」を
「とその成立の真正が」と改め、五行目の「第四号証」から六行目の「とも)、」
までと、八行目の「第三五号証の二及び六、」をいずれも削除し、一六丁表四行目
の「乙第二二号証」の次に、「、控訴人主張の写真であることにつき争いのない乙
第四号証の一ないし二二、第三五号証の二、六、」を、八行目の「結果」の次に
「(現場及び録音テープ)」を、各加える。)であるから、これを引用する。な
お、いずれも、弁論の全趣旨により成立を認める乙第三八号証の一ないし三、第三
九、第四〇号証の各記載及び原審証人B、当審証人Cの各証言中、共通事務室内に
乱入した者のうち被控訴人が含まれていたことをいう趣旨の部分は、これを否定す
る原審証人D、当審証人Eの各証言、原審における相原告A及び被控訴人各本人尋
問の結果に照らし、また、共通事務室内の状況を撮影した写真である前顕乙第四号
証の一七ないし二二(これらの写真中には被控訴人を除く第一審相原告ら全員が撮
影されているにもかかわらず、被控訴人だけが撮影されていない。)に比照し、た
やすく採用できず、他に被控訴人が共通事務室及びその周辺部(局舎内)(以下
「共通事務室等局舎内」という。)に立ち入つたことを認めるべき的確な証拠はな
い。
二 右のとおり、被控訴人の共通事務室等局舎内立ち入りと、その立ち入りを前提
とした被控訴人の行動に関する控訴人主張の事実はこれを認めがたいが、右引用に
かかる原判決認定の事実関係からすれば、線路庁舎移転阻止等を標榜して八月一八
日に行われた諸行動(以下「本件阻止行動」という。)のうち、被控訴人の直接関
与した行為が少くとも控訴人の就業規則五九条三号、一八号(五条五項、六項、八
項違反)、二〇号に該当すること、したがつて、被控訴人について控訴人の就業規
則の定めによる懲戒事由のあつたことは明らかといわなければならない。
 ところで、被控訴人は、本件阻止行動は全体として正当な組合活動に該当するの
で、これを理由として懲戒処分を行うことは許されず、また、被控訴人及び第一審
相原告らに対する本件各停職処分は、団体たる組織自身の行為と評価すべき本件阻
止行動を理由に、控訴人の意にそわない組合幹部の懲戒責任を問うものであつて、
不当労働行為性が強く、違法であると主張する(引用にかかる原判決事実摘示中の
「原告らの反論」1及び4)。しかしながら、前記引用にかかる原判決認定の事実
関係からすれば、本件阻止行動は、分会(全電通船橋分会)内部で少数派にとどま
る被控訴人及び第一審相原告らが線路庁舎移転等に関する分会執行部と控訴人間の
合意を無視し、これに反対する立場から控訴人の線路庁舎移転作業を実力をもつて
阻止又は妨害し、惑いは少くとも右反対の立場を示威するため、企画、立案し、実
行したものであつて、その結果、移転作業当日の午前七時一〇分ごろから同一一時
五五分ごろまで、船橋局内を混乱に陥れ、その正常な業務の運営を妨げたものであ
り、このような本件阻止行動の動機、目的、結果、並びに同じく引用にかかる原判
決認定の本件阻止行動の態様、これについての各人の役割及び具体的行為などに照
らし考えれば、本件阻止行動は正当な組合活動の範囲を逸脱していることが明白で
あり、また、本件各停職処分はただ単に被控訴人及び第一審相原告らが労働組合の
幹部であるがゆえになされたものでないことも明らかなので、被控訴人の前記主張
はいずれも採用できない。
 なお、就業規則五九条三号該当事由不存在に関する被控訴人の主張(前示「原告
らの反論」2)に対する当裁判所の判断は、この点についての原判決の理由説示
(原判決二六丁表二行目から二七丁表九行目の「理由がない。」まで)と同一(た
だし、原判決二六丁表七行目の「退去命令」を「中止命令・退去命令等」と、同裏
三行目の「本件退去命令」を「右中止命令・退去命令等」と、同行から四行目にか
けての「基づく退去命令としてされた」を「基づき発せられた」と、二六丁裏一行
目、六行目、一〇行目の各「退去命令」をいずれも「命令」と、それぞれ改め
る。)であるから、これをここに引用する。
三 そこで次に、懲戒権濫用の主張について検討するに、被控訴人に対する本件停
職処分の前提として控訴人が認識しかつ、同処分の対象とした事実のうちには、被
控訴人が共通事務室等局舎内に立ち入り、他の第一審相原告らと行動を共にしたと
いう事実が含まれていたことは弁論の全趣旨により明らかであるが、右事実を認め
がたいことは前叙のとおりであるから、この点については控訴人に事実の誤認(以
下「本件事実誤認」という。)があつたものといわなければならないところ、控訴
人は、仮に共通事務室等局舎内立ち入り等の事実が認められないとしても、そのこ
とは被控訴人に対する本件停職処分の基礎事実にさしたる影響を及ぼすものではな
い旨主張する(控訴人の当審における主張)。そして、前顕Dの証言、同じく第一
審相原告A及び被控訴人各本人尋問の結果によれば、なるほど、本件阻止行動は被
控訴人も参加して企画、立案された計画に基づいて実行されたものであり、その計
画のうちには船橋電報電話局長に面会を求めるための共通事務室等局舎内への立ち
入りが含まれていたことが認められるほか、前記引用の原判決認定の事実からみれ
ば、共通事務室等局舎内以外の場所における本件阻止行動について、被控訴人が他
の第一審相原告ら(Aを除く。)と共に積極的役割を果していたことは否定でき
ず、また、被控訴人が共通事務室等局舎内に立ち入らなかつた理由は、第一審相原
告Aの指示により本件阻止行動終了後に開催すべき総括集会の会場借用手続に赴
き、その間、デモ隊を離脱して、右阻止行動を行わなかつたためであつて、その後
再び戻り来つて、他の場所における本件阻止行動に合流したことが明らかである。
しかしながら、被控訴人の参画した本件阻止行動の立案段階ですでに、前認定(原
判決引用)の共通事務室等局舎内において、現実に発生した第一審相原告らの具体
的な非違行為(管理者らの制止を押しのけて共通事務室の置かれている局舎内、さ
らには共通事務室内に乱入し、再三の退去命令をも無視し、管理者らに対し罵声を
あびせたり、シユプレヒコールを行うなどして、右事務室及びその周辺部を混乱状
態に陥れ、控訴人の正常な業務の運営を妨げた行為)を行うことまでが、あらかじ
め具体的に予定されていたものと認めるべき証拠はない。してみると、被控訴人が
本件阻止行動の立案に参画したこと(なお、参画の具体的内容、程度を認めるに足
りる証拠はない。)など、前記説示の事情を考慮しても、共通事務室等局舎内にお
ける第一審相原告らの右非違行為について、共通事務室等局舎内の非違行為を為し
ていない被控訴人にそれを為したと同様の責任を問うことは許されないというべき
である。しかも共通事務室等局舎内における本件阻止行動とそれ以外の場所におけ
る同阻止行動との間には、局舎の内外という場所的関係からみても、また前認定
(原判決引用)のそれぞれの行為の具体的態様からみても、控訴人の業務に及ぼす
影響面(業務阻害の結果等)において少なからぬ径庭があり、前者は後者に比較
し、より重大な非違行為にあたることが明らかである。果してしからば、かかる重
大な非違行為に関する本件事実誤認のもとになされた被控訴人に対する本件停職処
分には、控訴人の有する裁量権の範囲を逸脱した違法があり、無効と断ぜざるを得
ない。けだし、共通事務室等局舎内の本件阻止行動に参加しなかつた被控訴人に対
し、それに参加したと誤認してなされた停職六か月という懲戒処分は、局舎外にお
いて被控訴人と行動を共にしたほか、共通事務室等局舎内の右行動にも関与した第
一審相原告らに対する各懲戒処分、とりわけAを除く第一審相原告らに対する右と
同一期間の停職処分と明らかに著しく均衡を失し、ひいては本件阻止行動中の被控
訴人が関与した行為に対しても、明らかに著しく均衡を失するものというべきであ
り、しかも、過去の処分歴、その他懲戒処分の選択にあたり考慮すべき懲戒事由該
当の非違行為以外の諸事情についての主張立証はないうえ、記録上認められる本件
訴訟の経緯及び弁論の全趣旨によれば、かえつて、右諸事情において被控訴人とA
を除く他の第一審相原告らとの間にさしたる相違がないことがうかがえるのであつ
て、結局、本件全資料を検討すれば、本件事実誤認に基づいてなされた被控訴人に
対する本件停職処分は、信義誠実の原則、衡平の法理に照らして考量しても、著し
く合理性を欠くもの、すなわち社会観念上著しく妥当を欠き、懲戒権者の裁量権の
範囲を超えるものとして是認できないというほかないからである。
四 以上の次第で、被控訴人に対する本件停職処分はその効力を認めがたいから、
同処分の無効確認を求める被控訴人の本訴請求は理由がある。したがつて、同請求
を認容した原判決中の被控訴人に関する部分は相当であり、これに対する本件控訴
は理由がないものとして棄却を免れない。
 よつて、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判
決する。
(裁判官 後藤静思 奥平守男 尾方滋)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛