弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄し、第一審判決を取消す。
     被上告人の請求を棄却する。
     訴訟費用は第一、二、三、審とも被上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人中尾英夫の上告理由第一について
 所論の点に関する原判決の認定は、原判決挙示の証拠に照らして正当として是認
することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権
に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものであつて、採用することがで
きない。
 同第二について
 原審が確定した事実関係によれば、(一)被上告人は、昭和四一年三月一二日、
訴外Aから第一審判決添付別紙目録記載の各土地(以下「本件土地」という。)を
買受け、同人から所有権移転登記手続をなすに必要な一切の書類を受領しながら、
右登記手続をしないでいた、(二)とことが、昭和四二年八月二四日付で本件土地
についてAから訴外B(被上告人の前記売買における代理人)に所有権移転登記が
なされているが、登記原因とされた昭和四二年八月ころに両者間に売買が行われた
形跡はない、(三)その直後の同月二六日付でBから訴外Cに売買を原因とする所
有権移転登記がなされた、(四)昭和四六年一、二月ころ、被上告人、訴外(仮
称)淡路島土砂積出事業共同企業体との間で本件土地を含む土地につき採土契約を
結ぶに際し、右企業体側から、本件土地がC名義になつている旨の事実を示して釈
明を求められ、遅くともそのころ本件土地が第三者名義となつていることを知つ
た、(五)しかしその後も被上告人が右登記を放置していたところ、上告人らは前
記C名義の登記が実体に合わないことを知らず本件土地を取得した(なお、本件土
地のうち第一審判決添付別紙目録一ないし三の土地については、昭和五一年三月一
日付でCから訴外大興土地開発株式会社に、同年四月一三日付で同社より上告人D
に、同四の土地については、同月一六日付で持分各三分の一につきCから承継前原
審控訴人E及び訴外Fに、同年八月二四日付で残三分の一につきCから訴外Gに、
さらに同年一〇月九日付で同人から上告人Dに、同年一一月八日付でFの持分三分
の一につき同人から上告人Hに、いずれも売買を原因として所有権移転登記が経由
されている。)、というのである。
 そして、原審は、本件について民法九四条二項を類推適用するためには、不動産
の買受人が所有権移転登記に必要な書類を受取つていながら移転登記をせずに放置
したり、第三者名義に登記されたことを知つた後もその回復の措置をとらなかつた
ことのみではなお足りず、少なくとも被上告人が実体上の権利関係に反する虚偽の
登記を作り出し、または作り出されたことにつき密接な項いをしたことを要するも
のと解すべきところ、本件には、この点を是認するに足りる証拠はないとして、民
法九四条二項の類推適用がある旨の上告人らの抗弁を排斥し、また、右事実関係か
ら、被上告人が、上告人らは本件土地の所有権を取得していないと主張すること
は、禁反言ないしは権利外観法理に照らして許されないものとは解されないとし
て、上告人らの右抗弁を排斥している。
 しかしながら、真実の権利者が、不実の登記の存在を知りながら、相当の期間こ
れを放置したときは、その登記を信頼して利害関係を持つに至る第三者の出現が予
測できるはずのものであるから、真実の権利者において当該不実の登記を是正する
手段を講ずべきものであり、これを怠つた者が、登記を信頼して取引関係に立つた
第三者よりも厚く保護されるべき理由はないから、少なくとも禁反言もしくは権利
外観法理により、真実の権利者は登記を信頼した善意の第三者に対抗することはで
きないと解するのが相当である。これと異なる見解のもとに上告人らの抗弁を排斥
した原審の判断は、禁反言もしくは権利外観法理の適用を誤つた違法があるといわ
ざるを得ず、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすこと明らかであるから、論旨は
理由がある。
 <要旨>そして、原審の適法に確定した事実関係によれば、被上告人は、本件土地
を買受けてから一〇年余、しかも第三者の不実の登記の存在を知つてから五
年余に亘つてこれを放置していたものであつて、その放置期間は極めて長期間であ
り、他方上告人D、同H、Eはその後に右不実の登記ないしはさらに第三者を経由
した登記を信頼して本件土地を買受けたものであるから、真実の権利者たる被上告
人は、禁反言もしくは権利外観法理により、善意の第三者たる上告人らに対抗でき
ないものというべきであり、被上告人の本訴請求は理由がないから、被上告人の請
求を認容した第一審判決に対する上告人らの控訴を棄却した原判決を破棄し、右第
一審判決を取消したうえ、被上告人の本訴請求を棄却すべきである。
 よつて民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、九六条、八九条に従い主文のとお
り判決する。
 (裁判長裁判官 大野千里 裁判官 田坂友男 裁判官 島田清次郎)

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