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裁判例


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平成19年10月29日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成18年ワ第10128号特許権侵害差止等請求事件()
(口頭弁論終結の日平成19年9月3日)
判決
原告P1
訴訟代理人弁護士久田原昭夫
同久世勝之
訴訟代理人弁理士永田元昭
補佐人弁理士永田良昭
同西原広徳
被告株式会社日本育児
訴訟代理人弁護士藤原唯人
訴訟代理人弁理士西谷俊男
補佐人弁理士角田嘉宏
同市川友啓
同山田久就
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告は,バギー及び乳母車用のスタンディングボード(商品名「NEOママつれ
てって!」及び同「NEWママつれてって!)を製造,輸入,販売及び販売の申」
出をしてはならない。
2被告は前項のバギー及び乳母車用のスタンディングボードを廃棄せよ。
3被告は原告に対し,1000万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平
成18年10月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,バギー及び乳母車用のスタンディングボードに関する後記の特許権(以下
「本件特許権」といい,その特許を「本件特許,後記請求項1記載の発明を「本件」
発明」という)を有する原告が,被告が販売する商品(商品名「NEOママつれて。
って!」及び同「NEWママつれてって!。以下,まとめて「被告製品」という)」。
が本件特許権を侵害すると主張して,被告に対し,本件特許権に基づく被告製品の販
売等の差止,廃棄及び不法行為に基づく損害賠償を請求する訴訟である。
1当事者間に争いのない事実
原告の特許権(1)
原告は,次の特許権を有している。
ア特許番号第3759878号
イ発明の名称バギー及び乳母車用のスタンディングボード
ウ出願日平成10年8月20日
エ登録日平成18年1月13日
オ特許請求の範囲の記載
バギー及び乳母車用のスタンディングボード(3)であって,スタンディン
グボードのボード部(22)から,前方かつ上方に円弓状に曲がって延びる複
(,),()数の装着アーム511によってバギー若しくは乳母車のフレーム2
に対して回動可能に装着され,前記複数の装着アームが使用時にスタンディン
グボード(3)に対してスタンディングボードの各々の固定部(14,15)
を介して固定されると共に,該装着アームの端部の水平部分が,スタンディン
グボードの該各々の固定部に設けられた軸受部材(17)に挿入され,スタン
ディングボードの複数の前記固定部(14,15)が,前記複数の装着アーム
の互いの間隔を様々に変更して前記軸受部材(17)を取付ける手段を有する
ことを特徴とするスタンディングボード。
構成要件(2)
本件発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分説した各構成
要件をその符号に従い「構成要件①」のように表記する。。)
①バギー及び乳母車用のスタンディングボード(3)であって,
②スタンディングボードのボード部(22)から,前方かつ上方に円弓状に曲
がって延びる複数の装着アーム(5,11)によって,バギー若しくは乳母車
のフレーム(2)に対して回動可能に装着され,
③前記複数の装着アームが使用時にスタンディングボード(3)に対してスタ
ンディングボードの各々の固定部(14,15)を介して固定されると共に,
④該装着アームの端部の水平部分が,スタンディングボードの該各々の固定部
に設けられた軸受部材(17)に挿入され,
⑤スタンディングボードの複数の前記固定部(14,15)が,前記複数の装
着アームの互いの間隔を様々に変更して前記軸受部材(17)を取付ける手段
を有する
⑥ことを特徴とするスタンディングボード。
被告の行為(3)
被告は,被告製品を,業として輸入し,販売し,販売のための申出をしている
(なお,製造のおそれの有無については争いがある。被告製品は,別紙被告製。)
品説明書のとおりのものである。
被告製品は,本件発明の構成要件①ないし③,⑥を充足する。(4)
2争点
被告製品は,本件発明の構成要件④を充足するか。(1)
ア原告の主張
ア装着アーム部品(判決注・装着アーム部品」とは被告製品の部品を特()「
定するための単なる用語であり,その部品が本件発明の「装着アーム」の一
部に該当することを意味するものではない)Fは本件発明の装着アームの。
端部の水平部分,装着アーム部品Eは本件発明の軸受部材に該当するから,
被告製品は本件発明の構成要件④を充足する(以下,この主張を「原告の主
張ア」という。()。)
a装着アーム部品Fは装着アームの一部をなしており,かつ被告製品が使
用されている状況では地面と水平をなしている。したがって,同部品Fは
装着アームの端部の水平部分ということができる。
b本件発明においては,軸受部材につき,アームの水平部分が軸受部材に
対して回転運動や直進運動が可能であることとの限定をしていない。軸受
部材は,文字どおり軸となる部材が中に挿入されている部材という以上の
意味を有するものではないのである。
このことは,以下のように本件発明の課題,作用効果からみても明らか
である。
従来のスタンディングボードは,バギーの2つの後輪をつなぐ水平なホ
イールシャフトに装着していたところ,それではホイールシャフトのない
バギーにはスタンディングボードが装着できない。そこでフレームにアー
。,ムを接続してスタンディングボードを装着する方法が考えられるしかし
バギーのフレーム幅はバギーによって異なるため,あらゆるバギーに装着
可能なスタンディングボードがなかった。本件発明は,構成要件⑤「スタ
ンディングボードの複数の前記固定部(14,15)が,前記複数の装着
アームの互いの間隔を様々に変更して前記軸受部材(17)を取付ける手
段を有する」ことを可能にすることにより,様々なフレーム幅に対応でき
るようにしたのである。この構成要件⑤は,固定部が,軸受部材の固定位
置を調整することにより,装着アームの間隔を様々に変更することを可能
にするというものである。
c本件発明に軸受部材が用いられているのは,スタンディングボードが地
面に水平になるように調整するためである。したがって,軸受部材は,ス
タンディングボードを地面に水平になるように調整するため装着アームが
位置を変えることなくスタンディングボードを回動可能にするものという
ことになる。
d被告製品では,装着アーム部品Cにより,装着アーム部品Fの回転運動
は装着アーム部品A,Bに伝達されず,その結果,アームを動かすことな
くボードを回動することができる。装着アーム部品Eは,装着アーム部品
Fが軸として挿入され,装着アームが位置を変えないまま,スタンディン
グボードを地面に水平になるように調整するためスタンディングボードを
回動することを可能にしている。したがって,装着アーム部品Eは本件発
明の軸受部材に該当する。
そして,装着アーム部品Fは,装着アーム部品Eに挿入状態にあるか
ら,被告製品は「装着アーム端部の水平部分(装着アーム部品F)が,,
軸受部材(装着アーム部品E)に挿入され」ており,構成要件④を備えて
いる。
イ仮に,装着アーム部品Eのみをもって軸受部材ということができないと()
しても,装着アーム部品Fは本件発明の装着アームの端部の水平部分,装着
アーム部品C,Eは本件発明の軸受部材に該当するから,被告製品は本件発
(,「」。)。明の構成要件④を充足する以下この主張を原告の主張イという()
a前述のように,本件発明の軸受部材は,装着アームに対してスタンディ
ングボードが地面に水平になるように調整できるように,アームを動かす
ことなくスタンディングボードを回動できるようにするものである。つま
り,回動運動をするボードの回転軸を支持する部材をいうものということ
になる。
装着アーム部品Eと同部品Cは,共に回動可能に接続されている。その
ため,スタンディングボードの回転軸となる装着アーム部品Fはその回転
を同部品A,Bに伝達させることはない。これにより,同部品A,Bを動
かすことなくボードを回動することができるようにしている。
装着アーム部品C,Eは,同部品Fを支持し,かつスタンディングボー
ドの回転動作を装着アーム部品A,Bに伝達しないものであるから,本件
発明の軸受部材に該当する。
b被告は,水平部分(装着アーム部品F)と装着アーム(装着アーム部品
,)(),ABとの間に軸受部材装着アーム部品Cが介在することを理由に
水平部分を装着アームの端部に該当しないという。しかし,本件発明は,
装着アームが分離不能な一体のものであるとはしていない。それゆえ,全
体としての装着アームに軸受部材が組み込まれることを排除するものでは
ない。
cまた,被告は,軸受部材が分離できない一体のものであることを前提と
した主張をする。しかし,本件発明の軸受部材は,分離分解ができない一
体のものであるとはされていない。
ウ仮に装着アーム部品Eのみ,又はC及びEが本件発明の軸受部材に該当()
しないとしても,装着アーム部品E,Fは本件発明の装着アームの端部の水
平部分,装着アーム部品Cは本件発明の軸受部材に該当するから被告製品は
本件発明の構成要件④を充足する(以下,この主張を「原告の主張ウ」と()
いう。。)
a装着アーム部品E,Fは一体として,装着アームの端部の水平部分を構
成するということができる。そして,装着アーム部品Cには,この装着ア
,。ームの端部の水平部分に該当する装着アーム部品EFが挿入されている
装着アーム部品E,Fは,スタンディングボードの回転運動における回
転運動軸をなしており,装着アーム部品Cはその軸を支えている。このよ
うに解する場合には,装着アーム部品Cは,軸方向を支えるスラスト軸受
ということになり,本件発明の軸受部材に該当する。
b被告は「挿入」について,一般的に「長いものを中に差し入れる」と,
いう意味であると主張する。しかし「挿入」は「中に差し入れる」とい,,
う以上の意味を持つものではなく,挿入するものの長短を問うものではな
いし,部分的なものであっても挿入であることに変りはない。
c被告は「設ける」という言葉について「一の部材が他の部材の表面又,,
は内部に位置するとするのが一般的な意味である」として,軸受部材と固
定部が接する関係になければならないと主張する。しかし「設ける」と,
は,備え付けるとか設置するという広範な意味を持つ言葉であり,被告の
主張するような限定した意味のものではない。ある物体Aに別の物体Bを
備え付ける場合,その間に何かが介在していたとしても,それは備え付け
る,つまり設けるというのが「設ける」の一般的な意味である。被告の,
主張は根拠がない。
イ被告の主張
ア原告の主張ア(装着アーム部品Eが本件発明の軸受部材)について()()
a「軸受」とは「機械などで,固定部と回転部との間にあって回転部を,
支える装置。往復運動軸を支えるものも含む(広辞苑「回転運動また。」),
は直線運動をする軸を支える役目をするもの(機械用語辞典,日刊工業。」
新聞社)と定義される語である。したがって「軸受部材」とは「回転運,,
動又は直線運動をする軸を支える部材」である。
装着アーム部品Eは「回転運動又は直線運動をする軸」を支えていな,
い。よって,装着アーム部品Eは,本件発明の軸受部材に該当しない。
b原告は,本件発明の軸受部材について「スタンディングボードを地面,
に水平になるように調整する」という目的達成のため「スタンディング,
ボードを回動可能にする」という手段を実現するものと定義するが,この
目的と手段は対応しておらず,原告の定義は当てはまらない。
本件発明において「スタンディングボードを地面に水平になるように,
調整する」という目的は,ブッシング(軸受部材)を固定部14,15に
対し,任意の円周方向の相対位置を変えるという手段によって行うもので
ある。
また,そもそも,本件発明において「スタンディングボードを地面に,
」,水平になるように調整するためという機能を果たすための具体的構成が
本件発明の構成要件には記載されていない。
軸受部材について「スタンディングボードを回動可能にする」という手
段が用いられるのは,スタンディングボードをコンパクトにするという目
的を実現するときである。つまり,本件特許出願の願書添付の明細書(以
下「本件明細書」という)の記載によれば,スタンディングボードを含。
む軸受部材と装着アームとが互いに回動可能に形成されている。
また,本件明細書では,スタンディングボードを地面に水平になるよう
調整するときは,装着アーム及び軸受部材をスタンディングボードの固定
部より引き抜き,それから装着アーム及び軸受部材を固定部の水平なスタ
ンディングボードに対応する位置に挿入しなければならないため,装着ア
ームの位置を変えることが前提とされている。よって「装着アームの位,
置を変えることなく」という原告の軸受部材の定義は,本件明細書の記載
に反している。
イ原告の主張イ(装着アーム部品C,Eが本件発明の軸受部材)につい()()

a構成要件④では「装着アーム」の一部分(端部)である水平部分が・,
・・軸受部材(17)に挿入され」という文言があるから,本件発明に「
おいては「装着アーム」と「軸受部材」は別の部材である。,
被告製品について,装着アーム部品C,Eを「軸受部材」ととらえるな
らば,原告は「装着アーム」としては,装着アーム部品A,Bを想定し,
ていることになる。そうすると,装着アーム(装着アーム部品A,B)と
(),(,水平部分装着アーム部品Fとの間には軸受部材装着アーム部品C
),。Eか介在することになり装着アームと水平部分が離間することになる
,,「」,よって水平部分は装着アームの端部に該当しないことになるから
この点で構成要件④を充足しない。
原告は,軸受部材を構造中に含む装着アームも本件発明の装着アームで
あると主張する。しかし,本件明細書の発明の詳細な説明を参酌すると,
例えば水平部分が装着アームの一部となっていることが前提とされている
記載がなされており(0028】ないし【0030,別部材を介して【】)
水平部分が装着アームとつながることを想定するような記載はない。この
ような記載内容に鑑みれば,別部材を介する場合までも水平部分が装着ア
ームの一部となると解する構成は,当業者は想定できないから,本件明細
書の記載に基づいて当業者が実施し得る構成を超えている。したがって,
上記の構成は,本件発明の技術的範囲に属しない。
b装着アーム部品Cと同部品Eは互いに回動するものであり,これらを一
体として1つの部材としてとらえることは不自然である。被告製品の「装
着アーム」を分解するに当たり,まず容易に分解できるのは,装着アーム
部品Dのねじを外すことで,同部品AないしC及びGの一群と,同部品E
及びFの一群の2つになる。同部品CとEは構造上,完全に別物ととらえ
られるべきである。
,,,原告も被告製品の説明をするに当たって装着アーム部品AないしC
同F及びGをひとかたまりとし,他方で同部品Eをひとかたまりとすると
(1)いう具合に分類していた(平成18年11月22日付け原告準備書面
2頁カラー図。)
c装着アーム部品Fは,同部品Eを補強するための補強部材にすぎない。
装着アーム部品Fは,同部品Eに固定されており,回転運動をしない。よ
って,装着アーム部品C,Eは「軸受部材」に該当しない。,
ウ原告の主張ウ(装着アーム部品Cが本件発明の軸受部材)について()()
,「」「」。a本件発明においては装着アームと軸受部材は別の部材である
被告製品について,装着アーム部品Cを「軸受部材」ととらえるならば,
原告は「装着アーム」としては,装着アーム部品A,Bを想定している,
ことになる。そうすると,装着アーム(装着アーム部品A,B)と水平部
分(装着アーム部品E,F)との間には,軸受部材(装着アーム部品C)
か介在することになり,装着アームと水平部分が離間することになる。そ
して,軸受部材を構造中に含む装着アームが本件発明の技術的範囲に属さ
ないことは前記イaのとおりである。よって,水平部分は,装着アーム()
の「端部」に該当しないことになるから,この点で構成要件④を充足しな
い。
b「挿入」とは,一般的に「長いものを中に差し入れる」という意味であ
るところ,原告主張の構成では,水平部分(装着アーム部品E,F)と軸
受部材(装着アーム部品C)は接しているものの,水平部分が軸受部材に
「挿入」される関係になっていない。よって,被告製品は構成要件④を充
足しない。
c「スタンディングボードの・・・固定部に設けられた軸受部材」との構
成について「一の部材が他の部材に設けられた」というような場合は,,
少なくとも一の部材が他の部材の表面又は内部に位置するとするのが一般
的な意味である。本件明細書の発明の詳細な説明でも「固定部14,1,
5が,挿入されたブッシング(判決注・軸受部材)の周囲に嵌合し,固定
する」とあり,本件特許の出願過程において,原告は「スタンディングボ
ードの固定部が,挿入された軸受部材の挿入深さを調整することにより互
いの間隔を様々に変更して,バギー等の対象の幅に適合させて軸受部材を
取り付ける平成17年8月4日付け意見書として構成要件④の設」(),「
ける」とは,軸受部材が固定部に挿入されて設けられていることを意味す
ると共に,軸受部材と固定部が接することを前提としている。
ところが,原告主張の構成では,軸受部材(装着アーム部品C)が固定
部(14,15)と離間しており,軸受部材が固定部の表面又は内部に位
置していない。よって,軸受部材が固定部に設けられていないことになる
から,被告製品は構成要件④を充足しない。
被告製品は,本件発明の構成要件⑤を充足するか。(2)
ア原告の主張
被告製品においては,スタンディングボードの固定部に差し込まれた装着ア
,,,,ーム部品EFはその固定部において挿入の度合いを調整することにより
その位置を適宜調整できるようになっている。調整の結果位置決めをした装着
アーム部品E,Fは,固定部にある位置決めガイドにおいて固定ねじを締める
,。,,ことによりその位置を固定される装着アーム部品EFの位置決めにより
軸受部材に該当する部品の取付位置も決定され,これにより装着アーム(5,
11)の間隔が変更される。このことは,原告の主張アないしウのいずれ()()
。,()の解釈による場合でも同様にいうことができるよつて被告製品の構成e
は,本件発明の構成要件⑤を充足する。
イ被告の主張
被告製品が構成要件⑤を充足するには,被告製品に軸受部材が存在する必要
がある。しかし,原告の主張アによった場合,被告製品には軸受部材は存在()
しないから,構成要件⑤も充足できない。
また,原告の主張イ,ウによった場合でも,本件発明においては「装着()(),
()()アーム」と「軸受部材」は別の部材である。ところが,原告の主張イ,ウ
によると「装着アーム」に「軸受部材」が含まれることになるため「装着ア,,
ーム」の端部を挿入する対象たるべき「軸受部材」は「装着アーム」の外部に
存在しないことになる。よって,被告製品は,構成要件⑤を充足しない。
原告の損害(3)
ア原告の主張
被告は,平成18年1月13日以降,被告製品を1台当たり6800円の価
格で,少なくとも1万台を販売した。被告製品1台当たりの利益は1000円
を下らない。よって,被告は,被告製品により少なくとも1000万円の利益
を得ている。被告の損害は同額である。
イ被告の主張
否認ないし争う。
第3当裁判所の判断
1争点(構成要件④充足性)について(1)
原告の主張ア(装着アーム部品Eが本件発明の軸受部材)について(1)()
ア本件発明の軸受部材について
ア構成要件④は「装着アームの端部の水平部分が・・・固定部に設けら(),
れた軸受部材(17)に挿入され,構成要件⑤は「前記固定部(14,1」,
5)が・・・前記軸受部材(17)を取付ける手段を有する」というので,
あるから,本件発明における「装着アーム「軸受部材「固定部」の関係」,」,
は,装着アーム側から「装着アームの端部の水平部分,水平部分が挿入さ」
れた「軸受部材,軸受部材が取付けられた「固定部」の順に配置されてい」
なければならない。換言すると,軸受部材は「装着アームの端部の水平部,
分」と「固定部」の間にあり「固定部」に取付けられているものというこ,
とができる。
イ証拠(乙1,2)及び弁論の全趣旨によれば,辞書類では「軸受」と(),
は「回転運動をする軸を支える装置(大辞林第2版,1995年「機械,」),
などで,固定部と回転部との間にあって回転部を支える装置。往復運動軸を
支えるものも含む(広辞苑第5版,1998年「回転運動または直線運。」),
動をする軸を支える役目をするもの(図解機械用語辞典第4版(日刊工業。」
新聞社,2005年)と定義されることが認められる。なお,上記図解機)
械用語辞典第4版は本件発明の出願後の辞典であるが技術分野からして軸,「
受」の意味が出願時から変更があったとは認めがたく,出願時にも同様の定
義であったと推認される。
ウ「軸受」の辞書的意味が上記のとおりであるとしても,本件発明の特許()
請求の範囲からは,上記「軸受部材」の技術的意義(いかなる運動をする何
を支える装置であるのか等)が一義的に明確であるということはできない。
本件明細書の記載を参酌すると,証拠(甲2)によれば,本件明細書にお
いて「軸受部材」の技術的意義に関する記載としては,発明の詳細な説明,
の欄に次の記載があることが認められる。
「0012(発明を実施するための最良の形態)本発明を添付図面に示【】
された実施例を参照して,より詳細に説明する「0027】このため,。」,【
装着アームが,好ましくはスタンディングボードのボード22の一部分であ
る固定部14,15に適宜,所定位置で装着されるブッシング(軸受部材)
17に対して装着される【0028】ブッシング17は対応する装着アー。
ムの水平部分を挿入する孔19を有している【0029】これらの水平部。
分は,装着アームの円形部分に対して直角に折り曲がって,カットアウト1
8を介することによって,ブッシング17における固定位置に保持される。
【0030】装着アームの外側端部に適合し,装着アームをブッシングの内
部へ押し込んで,装着アームをカットアウト18に保持するバネ手段によっ
て,装着アームはブッシングに弾性的に取付けられる(バネ手段は図示せ
ず【0031】スタンディングボードが,バギーから解放され得る時,装)。
着アームが外側方へ引かれると,装着アームの間の間隔が増えて,上方のシ
ャフト端部12,13が,バギーにおける装着手段から解放される【00。
32】そして装着アームが回転させられて,シャフト端部が,ボード22の
,,。下側と接触し使用しない時のボードは占有空間ができるだけ小さくなる
【0033】ブッシング17がその外側に多数の突起部20を有しており,
好ましくはブッシングの円周部の周囲に,均等に分配される【0034】。
スタンディングボードの固定部14,15には,ブッシングの外側にある突
。【】起部に対応した溝21を有するブッシングに対応した穴がある0035
上方の装着アームのシャフト端部12,13が,バギーに装着される装着手
段に挿入される時,ブッシングはまた,水平なスタンディングボードに対応
する位置に向けられ得る【0036】固定部14,15が,挿入されたブ。
ッシングの周囲に嵌合し,固定することにより,ブッシングが既知の方法で
固定される【0037】ブッシングが正しく取付けられる時,カットアウ。
,,,ト18を具備したそのヘッド16が固定部1415の外側に位置すると
,,,ブッシングの固定部1415から出ている残りの部分が多少固定部14
15に押し入れられる【0038】この方法によって,装着アームの間の。
間隔を,変化させて,バギーの幅に適合させ,そうすることでスタンディン
グボードが使用される「0042】ブッシングにおける突起部と溝,及。」【
び,スタンディングボードの固定部もまた,固定部にブッシングを固定する
手段により,変更してもよい」。
以上の記載(特に【0027】ないし【0032)及び願書に添付され】
た図面(以下「添付図面」という)によれば,添付図面に示された実施例。
を参照して,より詳細に説明された本件発明における「軸受部材」は,装着
,,アームの水平部分が孔19に挿入されるものであるところ上記水平部分は
バギーへの取付け及び取外しに当たり押し込まれたり引き抜かれたりして軸
受部材の内部で(すなわち,挿入されている状態で)直線運動をすること,
及び上記水平部分は,スタンディングボードを折畳むに当たり軸受部材の内
部で回転運動をすることが認められる。
エ上記事実によれば,本件発明の「軸受部材」は,固定部に取付けられ,()
スタンディングボードの使用(バギーへの取付け及び取外しや折畳み等)に
当たり,上記水平部分が軸として内部で直線運動や回転運動をするのを固定
部との間で支える部材を意味するものと認められる。また,このことは,前
記「軸受」の辞書的な意味とも合致するものである。
イ被告製品における装着アーム部品Eと同部品Fの関係
本件全証拠によっても,バギーへの取付け及び取外しや折畳み等,スタンデ
ィングボードの使用に当たり,装着アーム部品Fが,同部品Eの内部で直線運
動又は回転運動をするとは認められない。かえって,別紙被告製品説明書及び
被告製品図面(第5−1図,5−2図)によれば,被告製品の使用に当たり,
バギーへの取付け及び取外しや折畳み等いずれの場面でも,装着アーム部品F
は同部品Eの内部で直線運動も回転運動もできないことが認められる。したが
,,って装着アーム部品Fを本件発明の装着アームの端部の水平部分とした場合
同部品Eは本件発明の軸受部材に該当しないこととなる。
また,他に,装着アーム部品Eの内部で直線運動や回転運動をする部材があ
ると認めることはできない。よって,装着アーム部品Eを本件発明の軸受部材
とすることはできない。
ウ原告の主張について
ア原告は,①軸受部材は,文字どおり軸となる部材が中に挿入されている()
部材という以上の意味を有するものではない,②本件発明の軸受部材は,ス
タンディングボードを地面に水平になるように調整するため装着アームが位
置を変えることなくスタンディングボードを回動可能にするものであり,軸
受部材につき,装着アームの端部の水平部分が軸受部材に対して回転運動や
直線運動を可能にするものに限定されていないと主張する。
しかし「軸受」は,辞書類では前認定のとおりの定義であって「軸とな,,
る部材が中に挿入されている」という意味とはされていない。しかも,本件
明細書の発明の詳細な説明及び添付図面における実施例を参照した説明で
も,軸受部材は,辞書類で定義される「軸受」としての機能を有することが
開示され,本件明細書にはそれ以外に「軸受部材」に関する説明はないので
あるから「軸受部材」は,本件明細書の発明の詳細な説明で開示された装,
着アームの端部の水平部分が軸受部材の内部で直線運動や回転運動をするの
を支える部材と解さなければ「軸受部材」の技術的意義が理解できない。,
原告の主張は,採用することができない。
イなお,構成要件⑤は「スタンディングボードの複数の前記固定部(1(),
4,15)が・・・前記軸受部材(17)を取付ける手段を有する」とい,
うものであって軸受部材は固定部に取り付けられていることは前示のとおり
である。そして,前記アウ認定に係る本件明細書の発明の詳細な説明(特()
に【0033】ないし【0036)によれば,スタンディングボードを地】
面に水平になるように調整するには,軸受部材を固定部14,15に対し,
任意の円周方向の相対位置で挿入可能かつ固定可能とし,軸受部材を固定部
,。1415に挿入し固定して取り付けることによって行うことが認められる
そうだとすると,スタンディングボードを地面に水平になるように調整する
際に軸受部材の果たしている役割は,軸受部材自身が固定部に固定されてい
る取付位置が変更されるにすぎないから,前認定に係る辞書の定義(回転「
」)「」運動または直線運動をする軸を支える役目をするもの等に照らし軸受
としての機能ではないというべきである。したがって,本件明細書の発明の
詳細な説明における実施例では「軸受部材」は,スタンディングボードを,
地面に水平になるように調整する際に一定の役割を果たすけれども,それが
「軸受」の機能ではない以上,同役割を果たすことを根拠として本件発明の
「軸受部材」に当たるとすることはできない。
原告の主張イ(装着アーム部品C,Eが本件発明の軸受部材)について(2)()
アア構成要件④は「該装着アームの端部の水平部分が・・・軸受部材(1(),,
7)に挿入され」というものであるから,本件発明においては「装着アー,,
ムは軸受部材とは別の部材と認められるそして水平部分は装」「」。,「」「
着アームの端部」にあって,それが軸受部材に挿入されるというのであるか
ら,装着アームは,軸受部材とは区別される状態で,連続してひとまとまり
となっている部材であり,その端部に「水平部分」があるものと解される。
換言すれば,装着アームは,複数の部品が連続しているものでもよく,それ
らの部品の中には,他の機能を兼ね備えた部品が存在することもありうるも
のの「軸受部材」であることを兼ね備えた部品が存在するということはな,
いと認められるのである。
構成要件②は「・・・複数の装着アーム(5,11)によって,バギー,
若しくは乳母車のフレーム(2)に対して回動可能に装着され」というも,
のであるから,被告製品では,少なくとも,装着アーム部品A,Bが本件発
明の「装着アーム」に該当することは明らかである。
ところで,被告製品について,装着アーム部品C,Eを「軸受部材」とす
るならば,これに挿入されている「装着アームの端部の水平部分」は装着ア
ーム部品Fとなる。すると,装着アーム部品A,Bと同部品Fは,間に装着
アーム部品C(軸受部材)を介在させており,軸受部材と区別される状態で
連続してひとまとまりということはできない。以上のとおり,被告製品につ
いて装着アーム部品CEを軸受部材とした場合には水平部分装,,「」,「」(
着アーム部品F)を「装着アームの端部」ということができなくなるため,
構成要件④を備えているということはできない。
イ原告の主張について()
原告は,本件発明は,装着アームが分離不能な一体のものであるとはして
いないと主張する。しかし,分離独立しているものを「端部」すなわち「端
の部分ということはできないから水平部分が端部である以上水」,「」「」,「
平部分」は装着アームの一部として装着アーム全体で連続してひとまとまり
となっていなければならない。
また,原告は,全体としての装着アームに軸受部材が組み込まれることを
排除するものではなく,軸受部材を構造中に含む装着アームも本件発明の装
着アームに含まれると主張する。しかし,装着アームとは別に,装着アーム
の端部が挿入されるべき軸受部材が存在すると解されることは前示のとおり
であるから,装着アームに軸受部材が含まれる場合があると解することはで
きない。
,,「」,イア被告製品について装着アーム部品CEを軸受部材とするならば()
これに挿入されている「装着アームの端部の水平部分」は装着アーム部品F
となることは前示のとおりである。
本件発明の軸受部材は,スタンディングボードの使用に当たり,挿入され
ている装着アームの端部の水平部分が,軸として内部で直線運動や回転運動
をするのを支える部材である。しかし,装着アーム部品Fは,装着アーム部
品Eの内部に挿入状態にはあるものの,スタンディングボードの使用に当た
り,同部品Eとの間で回転運動も直線運動もしないから,装着アーム部品E
を「軸受部材,装着アーム部品Fを「装着アームの端部の水平部分」とす」
ることはできない。
イもっとも,装着アーム部品Eは,装着アーム部品Cに対して回転運動を()
するため,その中にある装着アーム部品Fも,装着アーム部品Cに対して回
転運動をするという余地もある。しかし,本件発明の軸受部材は,固定部に
設けられ,スタンディングボードの使用(バギーへの取付け及び取外しや折
畳み等)に当たり,装着アームの端部の水平部分が,軸として内部で直線運
動や回転運動をするのを固定部との間で支える部材である。したがって,装
着アームの端部の水平部分が軸受部材の内部で行う運動は,固定部との関係
における同様の運動でなければならない。ところが,装着アーム部品Fが装
(,),着アーム部品Cひいては装着アーム部品ABに対して行う回転運動は
固定部と装着アーム部品Fの位置関係の変動をもたらすものではなく,固定
部との関係での回転運動ではないから,装着アーム部品Cに対する回転運動
を根拠として装着アーム部品Fを「装着アームの端部の水平部分」とするこ
とはできないことに変わりはない。
原告の主張ウ(装着アーム部品Cが本件発明の軸受部材)について(3)()
ア本件発明においては「装着アーム」は「軸受部材」とは別の部材であるこ,
と,装着アームは,連続して一体となっている部材であり,その端部に「水平
部分」があるものと解されること,被告製品では,少なくとも,装着アーム部
,「」,。品ABが本件発明の装着アームに該当することは前示のとおりである
そして装着アーム部品Cを軸受部材とするとこれに挿入されている装,「」,「
着アームの端部の水平部分」は,装着アーム部品E,Fということになる。
被告製品について,装着アーム部品Cを「軸受部材,装着アーム部品E,」
Fを一体として「装着アームの端部の水平部分」とするならば,装着アーム,
部品A,Bと同部品E,Fは,間に装着アーム部品C(軸受部材)を介在させ
ており,軸受部材と区別される状態で,連続して一体となっているということ
。,,「」はできないしたがって被告製品について装着アーム部品Cを軸受部材
,「」(,)「」とした場合には水平部分装着アーム部品EFを装着アームの端部
ということができなくなるため,構成要件④を備えているということはできな
い。
イまた本件発明では軸受部材が装着アームの端部の水平部分と固,,「」「」「
定部」の間にあって,固定部に取付けられていなければならないことは前示の
。,,「」,とおりであるところが被告製品について装着アーム部品Cを軸受部材
装着アーム部品E,Fを一体として「装着アームの端部の水平部分」とする,
と「固定部「装着アーム(装着アーム部品E,F「軸受部材(装着アー,」,)」,
ム部品C」の順に配置され,固定部に取付けられているのは装着アームであ)
って,軸受部材ではないことになる。したがって,そのように解すると,被告
製品は構成要件④を備えていないといわざるを得ない。
2結論
以上の次第で,被告製品が,本件発明の構成要件④を備えるということはできな
い。よって,その余について判断するまでもなく,原告の請求は,いずれも理由が
ないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官山田知司
裁判官高松宏之
裁判官村上誠子

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