弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を広島高等裁判所に差戻す。
         理    由
 職権をもつて調査するに、原判決は、控訴趣意第二点の判断において、被告人A
は、「前記の事実を良く知りながら本件不動産の占有者である被告人Bと共謀して
擅に本件不動産につき自己に所有権移転登記をしたことを認め得るのであるから被
告人Aにも共謀による横領罪が成立するものといわねばならない」と判示している。
しかしながら同第四点について判示するところと第一審判決の判示によれば、被告
人Aは、被告人Bに対する元金二万八千円の債権に基きその代物弁済として昭和二
四年二月五日本件不動産の所有権移転登記を受けその所有権を取得したというので
あるから代物弁済という民法上の原因によつて本件不動産所有権を適法に取得した
のであつて、被告人Bの横領行為とは法律上別個独立の関係である。されば本件に
おいてたとい被告人Aが「前記の事実を良く知りながら」右所有権の移転登記を受
けたとしても、これをもつて直ちに横領の共犯と認めることはできないのである。
原判決はこの点において刑法の解釈適用を誤つた違法あるに帰する。
 さらに原判決は、控訴趣意第四点の判断において、「被告人Bが……昭和二十三
年九月六日右元金合計二万八千円の担保として本件不動産に二番抵当権の設定登記
をしたことは明らかであるが、右二番抵当権設定登記は昭和二十四年二月四日抹消
され被告人Bは本件不動産につきCのためにまたその占有を始めたのであるから被
告人両名が本件不動産につき更に判示の如く所有権移転登記をした以上その所為は
また横領罪に該当するものというべく……」と判示している。しかしながら仮りに
判示のように横領罪の成立を認むべきものとすれば、被告人Bにおいて不動産所有
権がCにあることを知りながら、被告人Aのために二番抵当権を設定することは、
それだけで横領罪が成立するものと認めなければならない。判示によれば、昭和二
四年二月四日右二番抵当権登記は抹消されたというが、第一審判決の認定によれば、
その翌日二月五日代物弁済により被告人Aに所有権移転登記をしたというのであつ
て、記録によれば、右二番抵当権登記の抹消は所有権移転登記の準備たるに過ぎな
かつたことを認めるに十分である。されば原判決がことさらに被告人Bが右二月四
日一日だけCのため本件不動産の占有を始めたという説明によつて右所有権移転登
記の時に横領罪が成立すると判断したことは、刑法の解釈を誤つた違法があるに帰
する。
 以上の理由により、所論について一々判断することを省略し、刑訴四一一条一号
により原判決を破棄し原審に差し戻すを相当とし同四一三条に則り裁判官全員一致
の意見で主文のとおり判決する。
 検察官 橋本乾三出席
  昭和三一年六月二六日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    本   村   善 太 郎
            裁判官    垂   水   克   己

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