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平成23年4月26日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成21年(ワ)第26662号不正競争行為差止等請求事件
口頭弁論終結日平成23年3月15日
判決
東京都豊島区<以下略>
原告株式会社エクシブ
同訴訟代理人弁護士黒野德弥
同三ツ村英一
同瀬川千鶴
同水島直也
同新名由美子
同藤井裕子
埼玉県さいたま市<以下略>
被告株式会社しまむら
同訴訟代理人弁護士川井理砂子
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告は,別紙被告商品目録記載1及び2の商品(以下,同目録記載1の商
品を「被告商品1」,同目録記載2の商品を「被告商品2」といい,両商品
を総称して「被告商品」という。)を販売し又は販売のために展示してはな
らない。
2被告は,被告商品を廃棄せよ。
3被告は,原告に対し,2億0445万4800円及びこれに対する平成2
1年8月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,「SIGNDENIMPT」という名称のデニム素材のパン
ツ(以下「原告商品」という。)を製造,販売する原告が,被告商品は原告
商品の形態を模倣したものであり,被告が被告商品を販売した行為は不正競
争防止法(以下「不競法」という。)2条1項3号の不正競争に該当すると
主張して,被告に対し,同法3条1項に基づく被告商品の販売等の差止め及
び同条2項に基づく被告商品の廃棄を求めるとともに,同法4条に基づく損
害賠償として,2億0445万4800円及びこれに対する不正競争の後で
ある平成21年8月22日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所
定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1争いのない事実等(末尾に証拠を掲記した事実以外は,当事者間に争いが
ない事実である。)
(1)当事者
原告は,アパレル商品の企画,製造,卸,販売等を業とする株式会社で
あり,「COCOLULU」というブランド名(以下「ココルル」という。)
の商品の企画,販売等を行っている(甲1)。
被告は,総合衣料品の販売等を業とする株式会社であり,「ショッピン
グセンターしまむら」などの衣料品の販売店舗を全国に展開している。
(2)原告商品の製造,販売
原告は,原告商品のデザインを企画し,外部業者に製造を依頼して,平
成20年6月29日から,原告の直営店舗などにおいて原告商品を販売し
ている(甲33∼37)。
(3)被告商品の製造,販売
被告は,株式会社サンフォード(以下「サンフォード社」という。)か
ら被告商品を仕入れ,遅くとも平成21年3月ころから,被告が運営する
「ショッピングセンターしまむら」において,被告商品を販売し又は販売
のために展示している。
(4)原告商品及び被告商品の形態
原告商品の形態は,別紙原告商品・被告商品形態表(以下「別紙商品形
態表」という。)の「原告商品(前身)」,「原告商品(前身・拡大)」,
「原告商品(後身)」及び「原告商品(後身・拡大)」の写真及び図柄の
とおりである。
被告商品1の形態は,別紙商品形態表の「被告商品1(前身)」,「被
告商品1(前身・拡大)」,「被告商品1(後身)」及び「被告商品1(後
身・拡大)」の写真及び図柄のとおりであり,被告商品2の形態は,同表
の「被告商品2(前身)」及び「被告商品2(後身)」の写真及び図柄の
とおりである。
2争点
(1)被告商品の形態は,原告商品の形態を模倣したものか(争点1)
ア被告商品の形態は,原告商品の形態と実質的に同一か(争点1−1)
イ被告商品は,原告商品の形態に依拠して製作されたものか(争点1−
2)
(2)被告は,被告商品が原告商品を模倣したものであることにつき善意かつ
無重過失であったか(争点2)
(3)原告の損害(争点3)
3争点に関する当事者の主張
(1)争点1−1(被告商品の形態は,原告商品の形態と実質的に同一か)に
ついて
[原告の主張]
ア他人の商品の形態を「模倣する」(不競法2条1項3号)とは,「他
人の商品の形態に依拠して,これと実質的に同一の形態の商品を作り出
すことをいう。」(同条5項)。仮に,ある商品の形態について,他人
の商品の形態と相違する部分が存在するとしても,その相違がわずかな
改変に基づくものであって,他人の商品と酷似していると評価できるよ
うな場合は,その商品の形態は,他人の商品の形態と実質的に同一であ
るといえる。
イ原告商品と被告商品は,いずれも,青色デニム素材のカジュアルパン
ツであり,次のとおり,その基本的形態が共通する上,その細部の形態
(図柄のデザインの特徴的部分)においても,多数の共通点が存在する
(甲38,39の1・2,甲42)。そのため,原告商品と被告商品は,
商品全体の印象が同一であると評価することができ,両商品の形態は実
質的に同一である。
(ア)基本的形態における共通点
①表面全体が「総柄」(商品全体にくまなく柄プリントが施されて
いるもの)であり,パンツの表面に,英語等が内部に記載された,
米国の交通標識を想起させる円形,三角形,長方形及び六角形等の
図柄が,不規則に隙間なく重なり合って配されている。
②上記図柄は,「抜染」と呼ばれる,布地から色を抜く染色技術が
用いられている。
(イ)細部の形態における共通点
①実際には米国の交通標識に利用されていないと思われる,ハート
型の図柄を使用している。
②使用されている図柄は,円形,三角形,四角形,六角形及びハー
ト型のみである。
③図柄には,円形,三角形,四角形,六角形及びハート型の内部に
英語,数字,矢印を表記し,その英語,数字,矢印部分を白くして
いるものと周囲を白抜きにしているものを組み合わせている。
④四角形の図形の内部に,ジグザグの矢印を記載している(甲42
・図①)。
⑤六角形の図形の内部に,英語の三段表記をしている(甲42・図
②,③)。
⑥長方形の図形の内部の中心に,真っ直ぐの矢印を施し,その上下
に,矢印よりも小さい文字で英語を表記している(甲42・図④)。
⑦縦長の長方形の図形の内部に,英語を表記している(甲42・図
⑤)。
⑧円形の図形の内部に,湾曲した矢印を表記している(甲42・図
⑥)。
⑨円形の図形の内部に,二桁の数字を表記している(甲42・図⑦)。
⑩三角形の図形の内部に,英語を表記している(甲42・図⑧)。
⑪ハート型の図形の内部に,英語を表記している(甲42・図⑨)。
[被告の主張]
ア本件において問題となる商品は,主に若年層を対象として販売される
衣料品であり,商品の同一性を検討するに当たっては,このような商品
の特性を踏まえ,次の点を十分に考慮する必要がある。
(ア)ファッション業界においては,各年のシーズンごとに,世界3大
コレクションに端を発する流行が発生し,もともと,同時期に発売さ
れる商品に類似性のみられることが大きな特徴である。国内の大手衣
料品メーカー(ブランド)においても,上記3大コレクションの流れ
を受けた商品開発を行っている(乙2の1∼4)。
(イ)原告が原告商品の特徴であると主張する交通標識柄は,外国の交
通標識をモチーフとしたデザインであり,原告のオリジナルではない。
上記図柄は,もともと,アメリカンコミックの図柄等として,ファッ
ションの素材としても用いられてきたものである。また,2007年
(平成19年)秋,2008年(平成20年)春夏のパリコレクショ
ンにおいて,「ジェレミースコット」というブランドが発表した,交
通標識柄を用いたコレクションが話題を呼び,平成19年から20年
にかけて,世界的な流行となっていた(乙3,4)。
ジェレミースコットの上記コレクションも,原告商品と同様,交通
標識を想起させる図柄が,商品の外面全体に不規則に隙間なく重なり
合って配されている。原告が原告商品を企画した時期は平成20年1
月ころであるから,原告商品も,明らかに上記コレクションを意識し
た上で製作されている。
(ウ)原告が原告商品のもう一つの特徴であると主張する「総柄デニム」
という着想も,古くは,平成12年ころに発売された「ヒステリック
グラマー」というブランドや,「オゾンコミュニティ」というブラン
ドの商品にみられたものである。また,平成19年から20年にかけ
て,パンツを含む「総柄アイテム」は,一大ファッショントレンドと
なっており,被告でも,「総柄アイテム」の商品を多数仕入れて販売
していた(乙4,7,8)。
イ以上のとおり,ファッション業界自体が,そもそも,模倣と改変,創
作から成り立つ性格を持っており,交通標識柄の総柄デニムパンツとい
う原告商品及び被告商品も,その例外ではない。現実に,原告の商品に
は,他社の模倣をしたとしか考えられない製品が多数存在する(乙6)。
したがって,原告商品と被告商品の実質的同一性の有無を検討するに
当たっては,単に,交通標識柄を用いた総柄のデニムパンツという点が
一致することのみを理由に実質的同一性を認めることはできず,両者が,
これらの既存の着想をどのように組み合わせ,商品化しているかという
観点から検討するべきである。
ウ原告商品と被告商品とを比較すると,次のような相違点が存在する。
(ア)サイン(標識)柄の内容,大きさ及び配置
原告商品の交通標識柄の大きさは,丸型の図案が直径約9cm,箱
型の図案が大きいもので約14cm×10cmであり,かなり大きめ
である。これに対し,被告商品の図柄の大きさは,丸型の図案が直径
約7cmの楕円形であり,箱型の図案が9cm×6cm又は4cm×
8cmであって,原告商品よりも小さめである。また,被告商品の図
柄には,原告商品の図柄と同一のものは用いられていない。
さらに,原告商品は,直径約9cmのスマイリーマークをパンツ前
面に7個も配置し,同マークの印象が強いことが特徴である。スマイ
リーマークは,その成り立ちについて諸説あるものの,1970年代
に「ラブ&ピース」の象徴等として全世界に広まったキャラクターで
あり,雑貨品,衣料品の図柄としてもたびたび用いられ,消費者の認
知度も極めて高い。消費者が原告商品を認識する際にも,このスマイ
リーマークが大きなポイントとなっていることは間違いない。
(イ)パンツの形状及びデザイン
原告商品のパンツの裾周りは,45cm程度であり,ゆったり,だ
ぼっとしたシルエットを特徴とする。これに対し,被告商品の裾周り
は,38cmであり,原告商品よりも引き締まったシルエットを特徴
とする。このような原告商品の「ゆったり」としたシルエットは,原
告自身も自社商品の特性として強く意識しており(甲19,20),
消費者の視点からも,重要なポイントとなっている。
(ウ)素材及び風合い
原告商品は,オーバーダイ加工を用い,ユーズド感(古着のような
風合い)を出している。これに対し,被告商品は,図柄の印刷が明瞭
でくっきりしており,外観上受ける印象が原告商品とは全く異なる。
(エ)ボタン及びリベット
原告商品は,ボタン及びリベットをシルバー系の色で統一している。
これに対し,被告商品は,より目立ちやすい蛍光イエローを用いてい
る。
エ以上のとおり,原告商品と被告商品は,サイン(標識)柄を用いたデ
ニムパンツであるという点こそ共通するが,図柄の内容,大きさ及びプ
リント方法,パンツの素材,パンツ自体の形状デザイン(シルエット)
並びに装飾品については,むしろ相違点が多い。とりわけ,原告が原告
商品の特徴であると主張するプリント柄において,その大きさや風合い
が異なることにより,両商品の印象は大きく異なるものとなっている。
したがって,原告商品と被告商品とは,実質的に同一であるといえる
程度に酷似しているとはいえない。
[被告の主張に対する原告の反論]
原告商品の最大の特徴は,英語等が内部に記載された,米国の交通標識
を想起させる,円形,三角形,長方形及び六角形等の図柄を商品の表面全
体に使用し,これを不規則に隙間なく配している点にある。被告商品は,
このような原告商品の特徴と同一の特徴を備えるものであり,被告の主張
する相違点が存在することによって上記特徴を脱しているとはいえない。
各図柄の内部に表記されている英語の内容や数字等が異なること,スマ
イリーマークがないこと,パンツのシルエットや染めの風合いが異なるこ
と,ボタンの色彩が異なることなどは,いずれも,ささいな相違にすぎず,
全体的印象において需要者に異なる印象を与えるものではない。一般需要
者も,被告商品は原告商品に酷似していると認識している(甲46∼5
2)。
(2)争点1−2(被告商品は,原告商品の形態に依拠して製作されたもの
か)について
[原告の主張]
原告商品と被告商品の形態は,前記(1)[原告の主張]のとおり,実質
的に同一である。また,被告商品の販売開始時期は,原告商品の販売開始
よりも後であり,かつ,後記(3)[原告の主張]のとおり,原告商品は,
その販売開始以来,広く広告宣伝され,高い人気を博してきた。
したがって,被告商品の形態が原告商品とは独立して開発されたものと
は考えられず,被告商品が原告商品の形態に依拠して製作されたものであ
ることは,明らかである。
[被告の主張]
被告商品は,原告商品に依拠して製作されたものではない。被告商品は,
前記(1)[被告の主張]のとおり,2008年春夏のパリコレクションで
話題を呼んだジェレミースコットというブランドのモチーフ(サイン柄)
に,サンフォード社が着目し,同社において,独自に企画,デザインをし
たものである。
(3)争点2(被告は,被告商品が原告商品を模倣したものであることにつき
善意かつ無重過失であったか)について
[被告の主張]
ア仮に,被告商品の形態が原告商品の形態を模倣したものであったとし
ても,被告は,被告商品を自ら製造したものではなく,被告商品をサン
フォード社から仕入れて販売したにすぎない。
したがって,被告は,「他人の商品の形態を模倣した商品を譲り受け
た者」(不競法19条1項5号ロ)に該当し,当該商品の譲受け時に,
同商品が模倣されたものであることを知らず,かつ知らないことについ
て重大な過失がない場合には,不競法3条(差止請求権)及び4条(損
害賠償)等の規定の適用が除外される。
被告は,被告商品をサンフォード社から仕入れた当時,原告商品の存
在を把握しておらず,被告商品が原告商品の模倣品であることを知らな
かった。また,後記イのとおり,被告は,被告商品が原告商品の模倣品
であることを知らなかったことについて重大な過失があったともいえな
い。
イ被告に重大な過失があったというためには,同一業種の一般的な取引
人の見地に立った場合に,少しの注意を払っていれば被告商品が原告商
品の形態を模倣したものであると知り得たはずであるとの事情を必要と
する。このような事情として一般的に考えられるのは,当該商品の市場
における知名度や当該商品の形態自体の独自性等である。
(ア)この点,原告商品や被告商品のような衣料品を販売している事務
所は全国に約16万店存在し,衣料品の年間売上高は10兆円以上に
上る(乙16)。これに対し,原告の事業規模は,店舗数が33店舗
であり,売上高が約27億円であるにすぎず,上記衣料品市場全体か
らすれば,ほんの一角であるといわざるを得ない。また,原告商品の
流通数量となると,原告の主張どおりであるとしても,1年強(平成
20年6月から平成21年7月末日まで)の間に2万7000本が販
売されたにとどまる。このように,原告ないし原告商品が,衣料品市
場全体の中で,注目されるべきレベルでのシェアないし認知度を形成
していたとは,到底いえない。なお,原告は,後記[原告の主張]の
とおり,原告が原告商品について広告宣伝を行い,複数の雑誌に原告
商品が掲載されていることを強調するものの,原告商品が掲載されて
いるのは,ほとんどが原告自身による自社の宣伝ページであり,雑誌
の紙面の中に取り上げられたものではない。また,広告が掲載された
対象は特定の4誌に集中しており,国内で発売されている女性雑誌は,
被告において確認することができたものだけでも108誌に上るか
ら,その中の数冊,それも当該雑誌の全ページ数のうちのごく一部に
原告の広告が掲載されたからといって,その広告の中で取り上げられ
た1商品が市場に広く認知されたものであるとはいえない。
(イ)原告は,原告商品と被告商品の共通点として,両者がいずれも「総
柄」のデニムパンツであり,その図柄が「サイン(標識)柄」である
ことを強調する。
しかしながら,サイン(標識)柄は,前記(1)[被告の主張]のとお
り,古くはアメリカンコミックのモチーフとして広く知られていたも
のである上,原告商品の開発の直前に行われたパリコレクション(2
008年春夏)においても話題を博していたものであって,原告が独
自に考案した図柄ではない。また,原告商品が開発された時期には,
原告商品のようないわゆる「総柄」アイテムが多数流通しており(乙
4,7),その点でも,原告商品は目新しいものではなかった。
(ウ)原告が有するブランド「ココルル」は,渋谷109というファッ
ションビルへの出店を機に,店舗を全国に展開している。しかしなが
ら,同ビルには,「ココルル」と競業関係に立つ同傾向のファッショ
ンテナントが,77店舗も出店されており,これらの店舗において扱
われている商品数も,相当多数に上る。また,上記テナントを含む,
若年層の女性をターゲットとするファッションブランドは,被告にお
いて店頭写真を確認することができたものだけでも,145店舗に及
ぶ(乙18の1∼145)。
仮に,衣料品の仕入れを行う業者が,商品を仕入れるに当たり,当
該商品と上記各ブランドの相当多数の商品(なお,衣料品は,季節ご
との商品の入替えも激しい。)との間の模倣の有無を一つずつ調査し
なければならないとなると,100件を超えるブランドショップを常
に巡回するか,個別に情報収集をするなどして,仕入商品と照合する
との労を強いられることとなる。これは,あまりにも過大な負担を仕
入業者に課すものであるといわざるを得ない。
ウ以上のとおり,本件においては,被告の重大な過失を基礎付ける事情
は存在しないというべきである。
[原告の主張]
被告は,平成21年3月以降にサンフォード社から被告商品を仕入れる
に際し,次のとおり,被告商品が原告商品の形態を摸倣した商品であるこ
とを知っていたか,又は知らなかったことについて重大な過失があった。
ア原告商品の流通性
原告商品は,ココルルの人気商品であり,ココルルは,新聞・雑誌等
で,女子中高生を中心に若い女性に人気のブランドであると評されてい
る(甲3∼9)。
原告は,平成20年6月29日から,渋谷109を含む原告直営店等
全国20以上の店舗及びオンラインショップにおいて,原告商品の販売
を開始した(甲33∼37)。また,原告は,原告商品の販売を開始し
て以来,積極的な広告宣伝活動を行っており,原告商品及び被告商品の
需要者である女子中高生を主な読者層とする「Popteen」(発行
部数約30万部),「Ranzuki」(発行部数約20万部),「e
gg」(発行部数約15万部)及び「Fine」(発行部数約12万部)
などのファッション雑誌に,多数の原告商品の写真入りの広告記事が掲
載された。これらの広告は,平成20年8月1日発行の「egg」から,
定期的に掲載されている(甲10∼23)。
上記広告宣伝の効果もあり,原告商品は,そのターゲットとする女子
中高生の間に広く浸透して人気を博し,平成21年6月末までに約2万
7000本を販売するヒット商品となった。
イ被告の故意又は重過失
(ア)被告は,自社で商品開発を行うのではなく,サプライヤーから提
案された企画に基づき商品販売をすると主張する。
しかしながら,商品を販売するに当たり,サプライヤーからの提案
を市場調査もせずに漫然と受け入れることはあり得ない。被告商品は
若い女性をターゲットにしているのであるから,被告は,被告商品を
販売するに当たり,当然,若い女性に人気と評されるブランドの動向
の調査等を行ったはずである。
原告の1号店が入店している渋谷109には,若い女性に人気があ
るファッションブランドが多数並んでおり,若い女性のトレンドを探
るためには,これらの店舗における市場調査が最低限必要である。被
告も,渋谷109や類似の店舗の調査を行っていたことは,容易に推
認することができる。なお,渋谷109には,原告の店舗以外にも多
数の店舗が存在するものの,渋谷109の全店舗の市場調査を行わな
くとも,少なくとも,人気店における人気商品については調査してい
るはずであり,調査も容易に行うことができる。この点原告のブラ
ンドである「ココルル」は,日本経済新聞等の記事にも掲載されてい
ることから(甲4∼9),渋谷109に入っている他のテナントと比
べ,特に若い女性から人気の高いブランドである。
そうすると,被告は,ココルルの人気商品である原告商品を調査し
ていたか,又は,調査することが容易であったといえる。
(イ)被告がファッション雑誌等における広告宣伝についても強化を行
っていたことは,前記「Popteen」誌に被告の商品の宣伝広告
を掲載していることから明らかである(甲73)。また,効果的に宣
伝を行うために,広告宣伝等を掲載する雑誌について,これまでにど
のような記事が掲載され,どのような傾向があるかを事前に確認する
ことは,取引通念上の常識である。「Popteen」誌には,被告
が広告宣伝を行う以前の平成20年11月1日発行号及び同年12月
1日発行号において原告商品が掲載されており(甲20,21),被
告が宣伝広告を掲載した平成21年2月1日発行号においても,原告
商品が掲載されている(甲73)。
これらの事実から,被告は,ココルルが若い女性に人気の高いブラ
ンドであること及び原告商品の存在について,認識していたか又は認
識することが容易であったといえる。
また,どの雑誌に宣伝広告を掲載するかを決定するに当たり,多数
の雑誌を検討するであろうことが取引通念上推認できることから,被
告は,自社の商品を宣伝広告する雑誌を決めるに当たり,「Popt
een」誌以外の,女子中高生を主な読者層とする「Ranzuki」
誌,「egg」誌及び「Fine」誌などのファッション雑誌につい
ても検討していたことが推認される。これらの雑誌に多数の原告商品
が写真入りで紹介されていることについては,上記アのとおりである。
したがって,この点からも,被告は,原告商品を認識していたか,
又は認識することが容易であったといえる。
(4)争点3(原告の損害)について
[原告の主張]
ア被告は,被告商品を少なくとも2万7000本販売した。また,原告
は,原告商品を1本9800円で販売しており,原告商品を1本販売す
ることによる原告の利益額は,6884円である。
したがって,被告の不正競争によって原告の被った損害の額は,1億
8586万8000円(2万7000本×6884円)を下らない(不
競法5条1項)。
イ原告は,被告の不正競争行為により,弁護士を委任して本件訴訟を提
起せざるを得なかった。その弁護士費用相当額は,1858万6800
円を下らない。
ウよって,原告は,被告に対し,不競法4条に基づく損害賠償として,
上記ア及びイの合計額である2億0445万4800円及びこれに対す
る不正競争の後である平成21年8月22日(訴状送達の日の翌日)か
ら支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め
る。
[被告の主張]
原告の主張を否認ないし争う。
第3当裁判所の判断
1争点1−1(被告商品の形態は,原告商品の形態と実質的に同一か)につ
いて
(1)原告商品の形態と被告商品の形態の共通点及び相違点
証拠(甲19,20,38,39の1・2,甲42,乙1)及び弁論の
全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア原告商品の形態と被告商品の形態は,以下の点において共通する。
(ア)被告商品1について
a表面が「総柄」(商品全体にくまなく柄プリントが施されている
もの)であり,米国の交通標識を想起させる円形,三角形,四角形,
六角形及びハート型の図柄が,不規則に隙間なく重なり合って配さ
れている。
b上記図柄の内部には,英語,算用数字又は矢印を表記し,これら
の英語等を白くしているものと周囲を白抜きにしているものとを,
組み合わせている。
c上記図柄は,「抜染」と呼ばれる,布地から色を抜く染色技術が
用いられている。
dパンツの前面に,中央上部(ウェストバンド部分)に1個のボタ
ン(ウェスト部を留めるボタン)を配置し,ポケットの部分に6個
のリベット(向かって左側のポケットに4個,同右側に2個)を配
置している。
eパンツの後面に,向かって右上(ウェストバンド部分)に,横長
の長方形のパッチ(ラベル)が付けられている。
fデニム素材の丈の長いカジュアルパンツである。
(イ)被告商品2について
a上記(ア)aないしeと同じ。
bデニム素材のカジュアルパンツである。
イ他方,原告商品の形態と被告商品の形態は,以下の点において相違す
る。
(ア)被告商品1について
a被告商品1の図柄に,原告商品の図柄と同一のものは用いられて
いない。
b交通標識様の図柄の大きさは,原告商品が,丸型の図案が直径約
9cm,箱型の図案が大きいもので約14cm×10cmであるの
に対し,被告商品1は,丸型の図案が直径約7cmの楕円形であり,
箱型の図案が9cm×6cm又は4cm×8cmである。また,三
角形,六角形及びハート型の図柄の大きさも,被告商品に用いられ
ているものは,原告商品に用いられているものの2分の1ないし3
分の1程度である。
c原告商品は,直径約9cmのスマイリーマークの図柄を,パンツ
前面に7個程度配置し,パンツ後面に3個程度配置しているが,被
告商品1は,スマイリーマークの図柄を用いていない。
dパンツの裾周りは,原告商品が約45cmであるのに対し,被告
商品1は約38cmである。また,太ももやふくらはぎの周りの長
さ及びヒップも,原告商品の方が被告商品1よりも太い。その結果,
パンツのシルエットは,原告商品が,全体的にゆったりとして,だ
ぼっとしたものであるのに対し,被告商品1は,脚の線に沿った,
より引き締まったものとなっている。
e原告商品は,オーバーダイ加工を用い,古着のような風合いを出
しているのに対し,被告商品1は,そのような加工を用いておらず,
図柄の印刷が明瞭でくっきりしている。
f原告商品は,パンツの後面にリベットが付けられていないのに対
し,被告商品1は,パンツの後面の左右のポケット部分に各2個の
リベットが付けられている。
gボタン及びリベットの色彩は,原告商品がシルバー系の色である
のに対し,被告商品は蛍光イエローである。
h原告商品に付けられたパッチは,銀色の生地に,赤色の字で,「C
O&LU」,「HANDYHIGHESTQUALITY」,
「SINCE1998.」,「LEGITIMATEDENIM」
などと記載されている。これに対し,被告商品1のパッチは,オレ
ンジ色の生地に,黄色の字で,「AUTHENTICORIGI
NALGARMENT」,「ORIGINALJEANS」な
どと記載されている。
(イ)被告商品2について
a上記(ア)aないしc及びfないしhと同じ。
b原告商品は,パンツの裾周りが約45cmであり,太ももやふく
らはぎの周りの長さ及びヒップも太く,そのシルエットは,全体的
にゆったり,だぼっとしたものである。これに対し,被告商品1の
ヒップは,原告商品よりも細く,そのシルエットは,より引き締ま
ったものとなっている。
c原告商品は,オーバーダイ加工を用いることにより,古着のよう
な風合いを出している。これに対し,被告商品2は,古着のような
風合いを出しているものの,オーバーダイ加工を用いたものではな
い。
d原告商品は,丈の長いパンツであるのに対し,被告商品2は,シ
ョートパンツである。
(2)原告商品の形態と被告商品の形態の実質的同一性の有無
ア不競法2条1項3号にいう「模倣」とは,他人の商品の形態に依拠し
てこれと実質的に同一の形態の商品を作り出すことをいい(同条5項),
同条1項3号がいわゆるデッドコピーを禁止することを目的とするもの
であることから,実質的に同一の形態であるといえるためには,作り出
された商品の形態が他人の商品の形態と同一であるか,又は,実質的に
同一といえるほどに酷似していることを要するというべきである。
イこれを本件についてみるに,前記(1)認定の事実及び弁論の全趣旨によ
れば,原告商品の形態において特徴的な点は,①総柄のデニムパンツで
あること,②パンツの表面に,米国の交通標識を想起させる円形,三角
形,四角形,六角形及びハート型の図柄と,スマイリーマークの図柄(同
マークは,雑貨品,衣料品の図柄としてしばしば用いられる,著名なも
のである。)とが,不規則に隙間なく重なり合って配されていること,
③上記②の交通標識様の図柄の内部には,英語,算用数字又は矢印が表
記され,英語等を白くしているものと周囲を白抜きにしているものとを
組み合わせていること,④商品全体のシルエットが,ゆったりとした,
だぼっとしたものであること,⑤オーバーダイ加工を用いることにより,
古着のような風合いを出していること,にあり,このうち①ないし③の
点(ただし,②の点のうちスマイリーマークの図柄を配しているとの点
は除く。)については,被告商品の形態と共通することが認められる。
他方,被告商品に用いられている交通標識の図柄は,原告商品に用い
られている図柄と同一のものではなく,各図柄の大きさ(面積)も,被
告商品に用いられているものは,原告商品に用いられているものの2分
の1ないし3分の1程度であり(そのため,被告商品の図柄は,原告商
品よりも相当密集しているとの印象を需要者に与える。),被告商品1
の図柄については,原告商品の図柄よりも明瞭でくっきりと印刷されて
いる。また,原告商品は,上記のとおり,パンツの表面に相当の数のス
マイリーマークを配することにより需要者に同マークを印象付けている
点や,パンツのシルエットが全体的にだぼっとしたものである点,オー
バーダイ加工を用いて古着のような風合いを出している点なども特徴と
するのに対し,被告商品は,前記(1)イのとおり,パンツの表面にスマイ
リーマークの図柄を配しておらず,パンツのシルエットは全体的に原告
商品よりも引き締まったものであり(なお,被告商品2は,ショートパ
ンツである点でも原告商品の形態と相違する。),オーバーダイ加工も
用いていないものであって,原告商品の上記特徴を有するものではない。
さらに,被告商品は,ボタンやリベットの色彩,後面におけるリベット
の配置位置,パッチの色彩等についても,原告商品の形態と相違する。
ウこのように,被告商品は,総柄のデニムパンツの図柄に米国の交通標
識様のものを用い,この図柄を不規則に隙間なく重なり合わせて配する
という,商品の形態の特徴の一部について,原告商品と共通する点があ
るものの,スマイリーマークの図柄の有無,パンツのシルエット,オー
バーダイ加工の採否という特徴については,共通するものではなく,交
通標識様の図柄の大きさや,ボタンやリベットの色彩等についても,原
告商品と相違する。そして,これらの相違点が存在することにより,被
告商品の形態は,全体として,需要者に対して原告商品とかなり異なる
印象を与えるものと認められる。
また,証拠(乙3,4,5の1・2)及び弁論の全趣旨によれば,①
総柄のデニムパンツは,原告商品以外にも,ヒステリックグラマーやオ
ゾンコミュニティというブランドによって,原告商品の発売される以前
である平成12年ころに販売されていたこと,②パンツの表面に,円
形,三角形,四角形及び六角形の交通標識様の図柄を不規則に隙間なく
重なり合わせて配するというデザインも,原告商品の製造,販売に先立
ち,ジェレミースコットというブランドによって,世界的に著名なコレ
クションの一つである2008年春夏のパリコレクションにおいて発表
され(ただし,同ブランドの交通標識様の図柄は,原告商品よりもカラ
フルなものである。),日本にも紹介されていたこと,が認められるも
のであり,原告商品の特徴とされる総柄のデニムパンツであるという点
や,米国の交通標識を想起させる図柄をパンツの表面に不規則に隙間な
く重なり合って配するというデザイン自体は,いずれも,先行商品にも
みられるものであって,原告商品独自のものではないと認められる。
上記の事情等を総合的に考慮すると,原告商品の形態と被告商品の形
態とは,これらが実質的に同一といえるほどに酷似していると認めるこ
とはできないというべきである。
エしたがって,被告商品の形態が原告商品の形態と実質的に同一である
ということはできない。
2よって,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも
理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官阿部正幸
裁判官山門優
裁判官柵木澄子は,転補につき署名押印することができない。
裁判長裁判官阿部正幸
別紙
被告商品目録
1商品名3/20ロゴヌキBFデニム
販売者被告
商品形態の特徴交通標識を想起させる図柄が,抜染により,外面
全体に不規則に隙間なく重なり合って配された青
いデニムパンツ
2商品名ロゴソウゾメSP
販売者被告
商品形態の特徴交通標識を想起させる図柄が,抜染により,外面
全体に不規則に隙間なく重なり合って配された青
いデニムショートパンツ
以上

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