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平成23年8月31日判決言渡
平成22年(ネ)第794号配転命令無効確認等請求控訴事件
主文
1本件控訴及び当審における訴えの変更に基づき,原判決中,被
控訴人オリンパス株式会社及び被控訴人P1に関する部分を次の
とおり変更する。
(1)控訴人が,被控訴人オリンパス株式会社ライフ・産業システ
ムカンパニー統括本部品質保証部システム品質グループにおい
て勤務する雇用契約上の義務がないことを確認する。
(2)被控訴人オリンパス株式会社及び被控訴人P1は,控訴人に
対し,連帯して220万円及びこれに対する平成20年2月2
8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3)控訴人の被控訴人オリンパス株式会社及び被控訴人P1に
対するその余の請求を棄却する。
2控訴人の被控訴人P2に対する控訴を棄却する。
3訴訟費用は,控訴人と被控訴人オリンパス株式会社及び被控訴
人P1との間では,1・2審を通じ,これを5分し,その2を控
訴人の,その余を被控訴人オリンパス株式会社及び被控訴人P1
の負担とし,控訴人と被控訴人P2との間では,控訴費用のすべ
てを控訴人の負担とする。
4この判決は,第1項(2)に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2主文第1項(1)と同旨。
3被控訴人らは,控訴人に対し,連帯して1000万円及びこれに対する平成
20年2月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1被控訴人オリンパス株式会社(以下「被控訴人会社」という。)は,デジタル
カメラ,医療用内視鏡,顕微鏡,非破壊検査機器(以下「NDT」という。)
等の製造販売を主たる業とする株式会社であり,控訴人は,昭和60年1月か
ら被控訴人会社に勤務している。被控訴人P1は,被控訴人会社のIMS事業
部事業部長であり,被控訴人P2は,IMS事業部の一部門であるIMS国内
販売部の部長である。
2控訴人は,平成18年11月から,日本法人であるオリンパスNDT株式会
社(以下,「ONDT」といい,被控訴人会社を「OT」ということがある。)
においてNDTシステムの営業に携わっていたが,翌19年4月1日,OND
Tが被控訴人会社に吸収合併されたため,同日から,被控訴人会社IMS事業
部のIMS国内販売部NDTシステムグループ営業チームリーダーの職につ
いた。
被控訴人会社は,控訴人に対し,平成19年10月1日付けで,IMS事業
部IMS企画営業部部長付への配置転換を命じた(以下「第1配転命令」とい
う。)。
3本件は,控訴人が,控訴人に対する第1配転命令は,控訴人が被控訴人P1
や被控訴人P2らによる取引先企業の従業員の雇入れについて被控訴人会社
のコンプライアンス室(以下「コンプライアンス室」という。)に通報したこ
となどに対する報復としてされたもので無効であるなどと主張して,控訴人が
被控訴人会社IMS企画営業部部長付として勤務する雇用契約上の義務がな
いことを確認することを求め(以下「第1の訴え」という。),また,違法な第
1配転命令と,その後の上司による業務上の嫌がらせ(パワーハラスメント)
等により控訴人の人格的利益が傷付けられたなどと主張して,被控訴人らに対
し,民法709条,715条,719条に基づく損害賠償請求として,賞与の
減額分23万9100円,慰謝料876万0900円及び弁護士費用100万
円の合計1000万円並びに平成20年2月28日(訴状送達の日の翌日)か
ら支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の各連帯支払を求
めた事案である。
被控訴人らは,第1配転命令には業務上の必要性があり,不当な動機・目的
はなく,また控訴人には第1配転命令による不利益はなく,第1配転命令後に
控訴人がパワーハラスメント等を受けたことはない旨主張して争った。
4原審は,第1配転命令には業務上の必要性があり,また,同命令が,控訴人
が取引先企業従業員の雇入れについて被控訴人P1に意見を述べたりコンプ
ライアンス室に通報したことを理由にされたものとは認められず,被控訴人ら
が第1配転命令後に控訴人を精神的に追い詰め退職に追い込もうとした事実
は認められないなどとして,控訴人の請求をいずれも棄却したため,控訴人が
控訴した。
被控訴人会社は,控訴人に対し,原審口頭弁論終結後の平成22年1月1日
付けで,被控訴人会社ライフ・産業システムカンパニー統括本部品質保証部部
長付への異動を命じ(以下「第2配転命令」という。),さらに,当審係属中の
同年10月1日付けで,同品質保証部システム品質グループへの異動を命じた
(以下「第3配転命令」という。)。このため,控訴人は,当審において,まず,
第1の訴えを「控訴人が,被控訴人会社ライフ・産業システムカンパニー統括
本部品質保証部部長付として勤務する雇用契約上の義務がないことを確認す
る。」と変更し(以下「第2の訴え」という。),次いで,第2の訴えを主文第
1項(1)記載のとおりに変更した(以下「第3の訴え」という。)。
第3前提事実(当事者間に争いのない事実及び各項目末尾の証拠によって認定す
ることができる事実)
1当事者等
(1)被控訴人会社は,デジタルカメラ,医療用内視鏡,顕微鏡,NDT等の
製造販売を主たる業とする株式会社である。
(2)被控訴人P1は,被控訴人会社のIMS事業部事業部長で,IMS事業
部を統轄する権限を有する。被控訴人P2は,IMS事業部の一部門である
IMS国内販売部の部長で,被控訴人P1のすぐ下の職位にあり,同じくI
MS事業部の一部門であるIMS企画営業部に控訴人が異動になる前は,控
訴人の直属の上司であった。
(3)控訴人は,昭和60年1月から被控訴人会社に正社員として勤務してい
るが,被控訴人会社においては,職能ゾーン資格制度を採用し,従業員をE
(エグゼクティブ),P(プロフェッショナル)及びS(スタッフ)の三つ
のゾーンに分けており(甲201),控訴人の資格はP2(係長各相当)で
あった。
2NDTシステムの概要及び控訴人の職歴
(1)NDTシステムの概要
NDTとは,Non-destructiveTestingの略で,超音波探傷技術及び渦流
探傷技術を利用し非破壊的に鉄鋼製品等の傷を探知する検査機器をいい,N
DTシステムとは,NDT機器の中でもフェイズドアレイという高度技術を
使う特に高度な技術レベル装置をいい,主に鉄鋼会社の製造ラインにインラ
インで設置し,約20年間,24時間稼働で使用するものである。NDTシ
ステムは,取引先の注文に応じて設計製造され,検査規模や検査対象により
金額が異なるが,大型であれば1機あたり2億円前後で取引され,その商談
には最低でも半年程度の綿密な打合せが必要となる。実際に納品するには,
約1か月から2か月を要し,被控訴人会社担当者は,取引先工場において,
ほぼ連日常駐して作業を行う。納品後も被控訴人会社による継続的な保守管
理及びサポート体制を必要とする。
被控訴人会社に吸収合併された日本法人ONDTは,NDTシステムを販
売するビジネスを行なっていた。P3株式会社(以下「P3」という。)は,
上記合併前にONDTによって買収された会社であり,鉄鋼製品のうち丸棒
鋼を製造するP4株式会社(以下「P4」という。)から大型NDTシステム
国内第1号機を受注し,平成16年に第1号機を納入し,平成18年8月に
第2号機を備え付けた。そのため,P4はP3の最重要顧客であった。
(2)控訴人の職歴
控訴人は,昭和60年から平成4年まで,被控訴人会社の技術開発センタ
ー及び辰野事業場においてカメラの研究開発業務に従事した。
控訴人は,平成6年,希望して営業職に転換し,国内販売部門,海外営業
部門,ニューヨーク駐在,関連会社であるP5株式会社のデジタルカメラ開
発企画部門に順次配属された。
平成17年10月1日,控訴人は,被控訴人会社IMS事業部に異動し,
1年間IMS事業部IMS企画営業部工業用内視鏡販売部門に配属され,販
売部門チームリーダー及びマーケティング部門チームリーダーの職に就いた。
控訴人は,平成18年11月から日本法人であるONDTにおいてNDT
システムの販売に携わることになった。被控訴人P1は,同年10月12日
に上記ONDTへの異動を内示する際,控訴人に対し,P3の副社長であっ
たP6が有するNDTシステムに関する知識,業界人脈,ケベックとの人脈
などを早く吸収し,NDTシステム事業を成功させることが控訴人の最優先
事項である旨述べた。
ONDTが平成19年4月1日に被控訴人会社に吸収合併されたため,控
訴人は,同日から,被控訴人会社のIMS事業部IMS国内販売部NDTシ
ステムグループ営業チームリーダーの職につき,NDTシステム営業販売業
務の統括責任者として業務に従事することとなった。
3第1配転命令ないし第3配転命令
(1)被控訴人会社は,控訴人に対し,平成19年10月1日付けで,IMS
事業部IMS企画営業部部長付への配置転換(以下,「第1配転」という。)
を命じた。第1配転によって,控訴人は,新事業創生探索活動として,主と
してSHM(構造ヘルスモニタリング,StructuralHealthMonitoring以
下,「SHM」という。)のビジネス化に関する調査研究を行う業務を担当す
ることになった。SHMは,一定期間にわたって時間軸上で対象物(構造物)
の健全性を監視するシステムであり,航空機のメンテナンス等の場面におい
て注目されている。
(2)その後,被控訴人会社は,控訴人に対し,平成22年1月1日付けでラ
イフ・産業システムカンパニー統括本部品質保証部部長付への配置転換(以下
「第2配転」という。)を命じ,さらに同年10月1日付けで,同品質保
証部システム品質グループへの配置転換(以下「第3配転」という。)
を命じた。
4被控訴人会社の就業規則及び労働協約の規定
被控訴人会社の就業規則(以下,単に「就業規則」という。)33条には,
「業務の都合により従業員に対し,同一事業場内の所属変更および職種の変更
を命ずることがある。」との定めがあり,34条には,「前2条の場合,従業
員は正当な理由がなければ,これを拒むことができない。」との定めがある。
被控訴人会社と控訴人が加入するP7労働組合との間の労働協約(以下,単
に「労働協約」という。)40条は,「会社は,職務の任免にあたっては,組
織の必要性と効率性の観点から最も合理的に行う。」とし,41条(1)には,
「会社は業務の都合により,組合員に事業場間の派遣,転勤,転籍または社外
勤務を命ずることができる。」との定めがあり,同条(3)は,「会社は異動に
あたり,人材の適材適所を狙いとしたチャレンジシステムを有効に活用する。」
と規定する(甲137)。
5被控訴人会社の企業行動憲章及びコンプライアンスヘルプライン運用規定
被控訴人会社は,オリンパスグループ企業行動憲章を定め,その前文で「法
令遵守はもとより,高い倫理観を持って企業活動を行う」とし,社員に徹底さ
せていた(甲2,3,6,7,192)。オリンパスグループ行動規範は,企
業行動憲章を実現するための役員・社員に対する行動指針であり,「第1章総
則」,「第2章行動規範」,「第3章運用体制」から構成され,第3章で
は,行動規範の実効性を確保するためヘルプラインを設置したこと,ヘルプラ
インへの通報は秘密が厳守され,通報したことにより何らの不利益を課される
ものではないことが明記されている(甲193)。
被控訴人会社のコンプライアンスヘルプライン運用規定(以下「運用規定」
という。)は次のように定めている(甲4,5)。
(利用対象事項)
第4条従業員等は,従業員等が関与する以下の事項について,上長また
は専門部署への相談・報告が困難である場合,ヘルプラインを利
用して通報することができる。
(1)組織的または個人による,法令,社規則,企業行動憲章・行
動規範に反する,または反する可能性があると感じる行為(以
下,法令違反等)
(2)業務において生じた法令違反等や企業倫理上の疑問や相談
(通報要領)
第8条従業員等は,ヘルプラインを利用して法令違反等の通報をする際,
次の事項に留意する。
(1)通報内容は,法令違反等に関して客観的で合理的根拠に基づ
いた誠意あるものに限られるものとし,個人的利益を図る目
的,個人に対する私怨,誹謗中傷する目的,個人の不平不満
や意見を表明する目的で通報をしてはならない。
(2)通報する際は,客観的な合理的根拠とそれに基づく推測とを
区別して述べ,噂を含む曖昧な事実を客観的事実として断言
したり,誤解を与えるような表現をしたりすることは避けな
ければならず,付表の連絡シートの内容に従って,「いつ・
どこで・誰が・何を・どのように」をできる限り明確にし,
原則として所属部署及び氏名を明らかにしなければならな
い。
(通報者への連絡)
第13条コンプライアンス室は,通報者に対して,通報内容に関する事
実調査及び是正措置の結果について連絡する。
(守秘義務)
第14条ヘルプライン宛てに送信された電子メール・書面・電話は,原
則としてコンプライアンス室長及び限定されたコンプライアン
ス室の担当者のみが受信するものとする。
2コンプライアンス室の担当者は,通報者本人の承諾を得た場合
を除き,通報者の氏名等,個人の特定されうる情報を他に開示
してはならない。
3コンプライアンス室及び調査・対応チーム等,通報された事案
に関与した全ての者は,調査・対応上必要な場合を除き,通報
内容及び調査内容を他(自らの所属長を含む。)に一切開示し
てはならない。
(通報者の保護)
第16条国内オリンパスグループは,通報者に対して,ヘルプラインを
利用したという事実により不利益な処遇を行ってはならない。
不利益な処遇とは,解雇,降格,減給等の懲戒処分や不利益な
配置転換等の人事上の措置のほか,業務に従事させない,専ら
雑務に従事させる等の事実上の措置を含む。
第4争点及び争点に関する当事者の主張
1訴えの変更の可否
(控訴人)
平成22年1月1日付けの第2配転命令及び同年10月1日付けの第3配
転命令は,いずれも平成19年10月1日付けの第1配転命令の不当な目的
を継続する意図の下にされたものであって,業務上の必要性はなく,労務環
境や業務実態は変わっていないから,3つの配転命令は,一体として控訴人
に対する人事権が濫用されたものである。したがって,各訴えには請求の基
礎の同一性がある。
(被控訴人ら)
第1の訴え,第2の訴え及び第3の訴えには請求の基礎の同一性がなく,
また第2の訴え及び第3の訴えへの変更は訴訟手続を著しく遅滞させるから
不適法であり,いずれも却下されるべきである。
2第1ないし第3配転命令は,それぞれ被控訴人会社が配転命令権を濫用した
ものか
(1)被控訴人会社は,従業員に対し,キャリアプランの結果に基づき適材適
所の人事配置をすることを労働契約上義務づけられているか
(控訴人)
就業規則及び労働協約によれば,被控訴人会社は,労働契約上,控訴人を
適材適所に配置すること,また,それを確保する上で説明と納得のための手
続を履行すべき義務を負う。
特に,能力成果主義処遇制度の下における異なる職種への配置転換は,そ
れが過去のキャリア形成や専門能力を無にするような場合には,従業員の昇
格や昇給に多大な負の影響を及ぼすから,個々の従業員の年齢や適性,それ
までの経験を踏まえたものであることが必要である。すなわち,相当年数以
上被控訴人会社に在籍する従業員については従来の蓄積が重視されるべきで,
異なる職種における能力開発が,当該従業員にとって「1からの出直し」と
なってはならないことは,配転命令権を画する重要な要素である。
そして,被控訴人会社は,能力主義について「能力開発ガイドライン」を
基礎とする職能ゾーン資格制度を導入し,昇格は能力開発ガイドラインによ
る専門能力評価と昇格試験によっているところ,その土台となるのがキャリ
アプランである。すなわち,キャリアプランとは,従業員のラインに立つ上
司が当該従業員との話合いを通じて将来性を評価した上で決定承認するもの
で,当該従業員が「能力開発ガイドライン」の示す水準を達成し,昇格する
ための重要なツールである(甲137,129の2,130)。したがって,
被控訴人会社は,従業員に対し,キャリアプランの結果に基づき適材適所の
人事配置をすることを労働契約上義務づけられている。
平成19年8月当時,控訴人のキャリアプランが被控訴人P2によって承
認された結果,控訴人と被控訴人会社の間で,控訴人は,所属していたIM
S国内販売部NDTシステムグループにおいてNDTシステムの取引先への
定着及び同システムの市場開拓をもってキャリア形成を図ることが合意され
ていた。
よって,控訴人に対し営業職からSHMを主とする新事業創生探索活動と
いう全く異なる職種への異動を命じる第1配転命令は,控訴人のキャリアプ
ランを無視し,適材適所の人事配置をする労働契約上の義務に違反するもの
で,債務不履行を構成し,就業規則34条の配転命令を拒否できる「正当な
理由」に該当する。品質保証という営業職とは全く異なる職種への異動を命
じる第2及び第3配転命令についても同様である。
(被控訴人ら)
控訴人の主張は争う。労働協約・就業規則にキャリアプランに関する規定
はなく,キャリアプランは職能ゾーン制度や賃金体系とは別個の制度である。
すなわち,キャリアプランは,上司と本人とのコミュニケーションツールに
過ぎず(甲130,196),キャリアプランに対する上司のコメントは次の
人事異動がないことを約束するものではない。
また,被控訴人会社においては,職種変更を伴う配転は珍しいものではな
く,異動後の職種の経験がないことが人事評価上の不利益にならないように
配慮されている(甲129の2)。
(2)業務上の必要性の有無
(控訴人)
以下のように本件第1ないし第3配転命令には業務上の必要性がない。
aSHM業務の位置づけ及び第1配転命令後の状況について
SHM業務は,平成17年からIMS事業部IMS企画営業部マーケテ
ィンググループが担当していたが,同グループリーダーや担当者は,SH
Mについて「実用化は10年先」あるいは「ほど遠い」などと評価し,そ
の実用化はかなり先のことと判断していたのであり,同業務は実用化され
た技術の販売戦略を検証する段階にはなかった。被控訴人らは,IMS事
業部の方針(乙4の2)の記載をもってSHMが重要視されていた旨主張
するが,これはIMS事業部全体の基本方針の一つとして掲げられていた
に過ぎない。140PB期(平成19年10月~平成20年3月)におけ
るSHM業務は,IMS企画営業部マーケティンググループの業務からは
ずされ(甲51,52),SHMの知識が全くない控訴人が,チームやグル
ープに属さない部長付として孤立させられた上,SHM業務に従事させら
れ,控訴人の直属の上司も「部長の委任を受けた定年後の再雇用者」であ
るP8担当部長であり,そのP8もSHMとは別のマーケティンググルー
プ関連業務に従事しているという状況であった。このように,被控訴人P
1らは,SHMの実用化についての上記の低評価を踏まえ,控訴人に無為
な時間を過ごさせることを目的として第1配転命令をした。
また,控訴人は,P8らから成果を上げるための援助も受けられず,む
しろ逆に社外人脈との接触禁止その他のパワーハラスメントによって成果
を上げることを阻害された。
b第1配転命令には人選の合理性がないことについて
控訴人が新たに担当することになった新事業創生探索活動とは,主にS
HMのビジネス化に関する調査研究を行う業務である。このSHMは,非
常に技術的専門性が高く,配転命令を受けるまで15年以上営業職であっ
た控訴人に適任の業務とはいえない。控訴人の技術者としての経験は研究
開発に携わったものではなく,控訴人の積んできた経験と技能にはSHM
担当としての汎用性が全くない。「あと1年,ターゲットを絞った活動の結
果で方向性を見極める」(甲83)という専門性の高いSHM探査業務に控
訴人は不向きである。また,控訴人の英語能力も,営業活動に有用なビジ
ネス英語についてのもので,技術的専門性の高い専門英語についてのもの
ではない。
c第2及び第3配転命令についても,控訴人をこれまで経験したことがな
い品質保証業務に選任したことに合理性はなく,控訴人に無為な時間を過
ごさせることを目的としてしたものである。
(被控訴人ら)
第1配転命令は,業務上の必要性に基づくものである。
a控訴人の主張のaにつき,被控訴人会社は,SHMビジネスが被控訴人
会社の非破壊検査ビジネスの拡大に寄与することを期待して平成17年か
ら取組を開始し,IMS事業部は,平成19年度及び平成20年度の事業
部方針において,SHM技術のフィージビリティー(実現可能性)と事業
性の検討を継続推進することを重点施策とした(乙4の1,4の2)。この
ように,SHMに関する新事業創生探索は,毎期毎に活動項目の一つとさ
れ,地道に活動が継続されてきたのである。控訴人主張の141PA期の
IMS企画営業部マーケティンググループのGL方針(甲52)にSHM
に関する新事業創生探索の記載がないのは,控訴人がグループに属さない
専任者として新事業創生探索活動に従事するようになったからに過ぎず,
その重要性が低下したためではない。控訴人の前任者であるP9は他の業
務と掛け持ちで同活動に従事していたのに対し,第1配転命令によって控
訴人が同活動の専任として配置されたのであるから,SHMに関する新事
業創生探索の活動体制が従来から後退したものではない。
b控訴人の主張のbにつき,控訴人は,米国駐在経験があり英会話にたん
能であること,工業高等専門学校出身であること及びNDT機器の販売業
務に従事し営業職の経験があることから,SHMのような新事業創生探索
活動の担当者として適任であった。控訴人は,研究開発に携わったことは
ない旨主張するが,新事業創生探索活動は,自らが新技術の研究・開発を
するものではないから,控訴人が適任であったことに変わりはない。
(3)不当な動機・目的の有無
(控訴人)
ア内部通報前後の経過
a平成18年12月,P4の従業員であるP10がONDTに入社した。
同人は,被控訴人会社がONDTを吸収合併した平成19年4月1日付
けで被控訴人会社のIMS事業部IMS国内販売部NDTシステムグル
ープ技術チームリーダーに任命された。
控訴人は,同年2月15日,P4のP11取締役から,ONDT,特
にP10とP4の現場技術担当者とが直接接触しないように厳しく要求
され,同年3月3日にはP10を同社だけでなく競業他社の担当からも
外すことを要求された(甲199)。
b控訴人は,平成19年4月上旬,NDTシステムグループ技術チーム
に入ることになったP12から,P10が,「P4からP10の後輩が
入社することになっている,3号機の受注をおみやげとして持ってくる」
と言っていたと聞いた。
c控訴人は,上記aのP11取締役の要求等から,P4から1度ならず
2度も社員を引き抜くことは,企業倫理上・道義上問題があると考えた。
また,被控訴人会社の他の取引先ないし商談先は,丸棒鋼及び特殊製鋼
の製造面でP4と競合する会社がほとんどであるから,NDT導入や保
守管理及びサポートのためにP10のようなP4退職直後の者が他の取
引先に常駐することになれば,一方で,P4にとってNDTシステム検
査ノウハウ等の同社の営業秘密が競合他社に漏洩される虞があり,他方
で,競合他社にとっては,P10を通じて自社の営業秘密がP4に漏洩
される虞があるなどの懸念が生じ,被控訴人会社のビジネスに支障が生
じるとともに,不正競争防止法に違反する虞があると考えた。
dそのため,控訴人は,同年4月12日,被控訴人P1に対し,上記b
の,P4から二人目の転職者が転職とともにNDTシステム3号機の受
注のおみやげを持ってくるとP10が言っていたという話を通報し,P
4からの二人目の転職希望者の採用はとりやめるべき旨を述べた。これ
は,控訴人が,P10及び被控訴人P2が,二人目の転職候補者をそそ
のかし,その在職中に正当に取得できるP4内の営業秘密を,転職後に
不正使用,開示することを約束させて転職の便宜を図る,すなわち刑事
罰の対象となる不正競争防止法21条1項5号関連の共犯行為がまさに
生じようとしていると考えたことに基づくものであった。同年5月15
日,被控訴人P1及び同P2がP4を訪れて,同社のP11取締役に対
し,二人目の転職候補者であるP13の転職についての了解を求めたが,
翌16日,控訴人はP11取締役から怒りの電話を受けた。
e被控訴人P1及び同P2は,同年5月21日,P10とともに控訴人
を被控訴人会社新宿本社(P14)25階応接室に呼び出し,ホワイト
ボードで入り口を封鎖し控訴人が容易に出られないようにした上,被控
訴人P1は,控訴人に対し,手に持っている紙をペンでたたきながら,
「なにをがたがたやっているんだ」,「あれほど口を出すなといったじ
ゃないか」とどう喝して威圧し,口封じと責任追及をしようとした。控
訴人は,被控訴人P1の形相に恐怖を感じ,たまたま控訴人の携帯電話
に電話がかかってきたことを理由に大急ぎでホワイトボードの下を何と
かくぐり抜け,応接室から脱出した。
f控訴人は,同年6月11日,コンプライアンス室に電話をし,OND
Tの経理部に所属していたP15に伴われて同室長P16とP17に会
って,P4からの従業員引抜きの件を説明し,顧客からの信用失墜を防
ぎたいと考えている等との相談をした(以下「本件内部通報」という。)。
gP16は,同年7月3日,控訴人に対し,相談に対する回答として,
「重要取引先から続けて二人を採用することについては,たとえ本人の
意思による転職であっても,先方に対する配慮を欠いていたといわざる
を得ない。」という内容を含む電子メールを送信したが(甲12。以下
「本件回答」という。),当該電子メールは,被控訴人P1,被控訴人
会社人事部長P18(P18人事部長)にも同時に送信され,さらにあ
て先には控訴人のほかP12も含まれていた。被控訴人P1は,同年7
月ころから控訴人の配置転換を検討し始めた。
なお,控訴人がコンプライアンス室の担当者に対し,控訴人が通報者
であること及び通報内容が関係者に知られることになることを承諾した
ことはない。
h上記gのメールによって,控訴人がコンプライアンス室に本件内部通
報をした事実が被控訴人P1に判明したため,P16の提案により,同
月12日に関係修復の会が開かれ,控訴人,被控訴人P1,同P2,P
12,IMS事業担当役員であるP19取締役及びP16が参加した。
しかし,P16は,2,3分で退席し,P19取締役は,被控訴人P1
及び同P2に「厳重注意」と述べ,まもなく秘書が呼びに来て退席し,
その後,被控訴人P1は,本件内部通報をしたことについて「覚悟して
言っているのか」などと強い口調で控訴人を責め,どう喝した。
i被控訴人会社は,同年8月末,控訴人が所属していたNDTシステム
グループを同年10月1日付けでIMS国内販売部からIMS企画営業
部へグループごと異動する組織編成を行うことを決定し,控訴人を除き,
当時NDTシステムグループに所属していた社員全員をそのままIMS
企画営業部に異動させた。しかし,控訴人は,第1配転命令により,N
DTシステムグループから外され,チームにもグループにも所属しない
IMS企画営業部部長付に異動させられた。そして,同年8月28日,
控訴人は,被控訴人P2から顧客訪問をすべてキャンセルするように指
示された。また,同年10月1日の異動前に,異動後に直接の上司とな
るP8から被控訴人会社が貸与しているパソコンのモバイル用通信カー
ドと携帯電話を返却するように指示されたが,新たに担当することにな
った新規事業創生探索について何らの引継ぎを受けることがなかった。
j控訴人は,第1配転命令等について被控訴人会社代表取締役あてに電
子メールを送信して異議をとなえたが,被控訴人会社は産業医を受診す
るように求めるだけであった。
イコンプライアンス室の対応の問題点
aコンプライアンス室の本件内部通報内容についての認識
被控訴人らは,コンプライアンス室は,「P4従業員の採用は取引先
との関係において配慮を欠く部分はあった可能性はあるものの,法令に
抵触するものではない」と判断したと主張する。
しかし,平成19年7月3日のP16の本件回答(甲12)には,P
4からの2人目の転職候補者であるP13の引抜き問題に関し,「重要
取引先から続けて2人を採用することについては,…,先方に対する配
慮を欠いたといわざるを得ない。」,「人事部では,取引先担当者の採
用に関する明文化された基準はないが,基本的には道義的な問題があり,
採用は控える,というのが原則…。採用する場合には,…取引先と当社
との間で機密保持契約を含む同意が成立しない限り行なわないこととし
ている。」と記載され,被控訴人P1らによるP13の引抜きに企業倫
理上問題があったことを指摘し,営業秘密の漏洩又は侵害の可能性を示
唆する内容となっているから,コンプライアンス室は,不正競争防止法
違反の可能性を認識していた。仮にコンプライアンス室が,法令違反で
はないと判断したとしても,P4等取引先の機密情報の保護が問題とな
った本件は,少なくとも企業行動憲章・行動規範(第1章第2項)に関
係する。そして,運用規定第4条の「法令違反」には法令,社規則違反
に限らず企業行動憲章・行動規範をも含むから(甲5),コンプライア
ンス室は,本件が運用規定上の「法令違反」に該当すると判断すべきで
あった。
b本件内部通報が被控訴人P1らに知れたことによる控訴人の配転
運用規定は,コンプライアンス室は調査結果をコンプライアンス担当
役員に報告すること,通報者本人の承諾を得た場合を除き,通報者の氏
名等を他に開示せず,必要な場合を除き,通報内容及び調査内容を他に
開示せず,通報者に関する情報は極秘扱いとすることなどを規定してい
るところ,P16は,本件の調査結果をコンプライアンス担当役員に報
告せず,かえって前記アのgのように控訴人が開示に同意していないに
もかかわらず,守秘義務に違反して,被控訴人P1に対し控訴人が通報
者であることを告げた上,事情聴取をし,被控訴人P1や人事部のP1
8に本件回答(甲12)を送付した。その結果,控訴人が本件内部通報
によって是正・処分を求めている当の相手方本人である被控訴人P1が
本件内部通報を知り,同人によって第1配転命令がされた。
控訴人が開示に同意していないのは次のことから明らかである。
ⅰ控訴人は,自らの通報が露見することをおそれたからこそ,P16
らとの面談は社外の喫茶店で行い,調査状況を照会するのも自宅から
携帯電話で行なっていた。被控訴人らは,事実確認又は関係者間の関
係修復のために控訴人が通報者及び通報内容の開示に同意した旨主張
するが,事実確認のために通報者を明らかにする必然性はないし,ま
た控訴人がコンプライアンス室に対し関係者との関係修復を依頼した
こともない。
ⅱP16は,控訴人に対し,控訴人が通報者であること及び通報内容
を明らかにしたことについて謝罪した。すなわち,本件回答のあて先
にはP12が含まれていたため,P12が直ちにコンプライアンス室
に連絡を取ってP16とP17を呼び出し,コーヒー店で控訴人,P
12及びP15が同人らと面談し,P15が,通報者は社規則で極秘
情報扱いとされているにもかかわらず,上記メールが被控訴人P1及
びP18人事部長に配信され通報者が明らかにされたことについて苦
情を述べ抗議したところ,P16とP17は口頭で謝罪した。数日後,
控訴人は,P16に対し,念のために文書で謝罪してほしい,宛先は
通報者でもないのに通報者とされたP12宛でよいが,控訴人に対す
る謝罪も記載してほしいと要請し,P16は本件回答を通報者以外に
送信したことについて控訴人に謝罪するメールを送付した。
ウ第1配転命令が内部通報に対する報復を目的とするものであること
以上のように,平成19年6月11日の控訴人による本件内部通報が同
年6月27日に被控訴人P1に知れるところとなり,被控訴人P1は同7
月ころから控訴人の配置転換を検討し始めたのであるから,第1配転命令
は,控訴人の本件内部通報に対する報復を目的としてされたものである。
また,控訴人をNDTシステム担当等から外すことによってP4とのトラ
ブルを収束させる目的でされた恣意的なものでもある。また,後記3の配
転後のパワーハラスメントは,それ自体,不法行為であるが,同時に控訴
人を被控訴人会社から排除することを目的とするもので,第1配転命令の
動機が本件内部通報に対する報復という違法・不当なものであることを推
認させる間接事実でもある。
そして,本件内部通報に対する報復としてされた第1配転命令は,内部
通報をしたことを理由として職務,職場配置や賃金などの労働条件につい
て不利益な取扱いをしてはならないとの被控訴人会社の義務にも反するも
のである。すなわち,公益通報者保護法5条は,公益通報をしたことを理
由とする不利益な取扱いを禁止し,当該規定は,強行規定として労働契約
関係を規律する。そして,運用規定16条は,ヘルプラインを利用したと
いう事実により不利益な処遇を行ってはならないと規定する。そして,公
益通報者保護法3条1号は,労務提供先に対する公益通報については,通
報対象事実である犯罪行為が「生じ,又はまさに生じようとしていると思
料する場合」と規定し,通報対象事実である犯罪行為が生じ,又は生じる
疑いがあることについての認識は通報者である労働者の主観で足りるとし
ている。さらに,被控訴人会社の運用規定は,ヘルプラインの利用対象事
項を,法令違反に加え,社規則,企業行動憲章・行動規範に反する,又は
反する可能性があると感じる行為にまで広げ,かつ利用対象事項の認識に
ついて従業員らの主観で足りるとしているから,運用規定による不利益取
扱禁止の対象範囲は,公益通報者保護法のそれより広いものである。した
がって,控訴人の内部通報の内容が客観的なものであった場合はもちろん,
主観的な疑いを根拠に法令違反,さらには倫理違反となりかねない行為を
通報するものであった場合を含め,被控訴人会社は,控訴人に対し,労働
契約上,内部通報をしたことを理由として職務,職場配置や賃金などの労
働条件について不利益な取扱いをしてはならない義務を負うから,本件内
部通報に対する報復としてされた第1配転命令は,当該義務にも違反する。
エ第2及び第3配転命令も,第1配転命令の延長として本件内部通報に対
する報復を目的とするものである。
(被控訴人ら)
ア控訴人の主張アについて
aの前段は認め,後段は不知。P11取締役はP10の転職を了承して
いた(乙16)。同取締役の苦情や懸念については,控訴人の陳述書やP2
0,P21の陳述書以外の客観的証拠がない。
bは知らない。
c及びdのうち,平成19年4月12日,控訴人が被控訴人P1に対し,
「P4からの二人目の転職希望者の採用はとりやめるべきである」旨述べ
たことは認め,その余は知らない。控訴人は,被控訴人P1に対し,「重要
案件を漏らしたP10氏を処分するべきである」とも述べた。
eのうち,平成19年5月21日に控訴人,被控訴人P1,被控訴人P
2及びP10の4人が,被控訴人会社新宿本社25階応接室において会議
を行ったことは認め,その余は否認する。
fは認める。
gの1文は認める。
hのうち平成19年7月12日に被控訴人P1らと控訴人及びP12と
の間の関係修復の会合が持たれたこと,その会合に控訴人,被控訴人P1,
被控訴人P2,P12,P19取締役及びP16室長が参加したことは認
め,その余は否認する。P16は「コンプライアンス室が直接何かしなけ
ればならない問題ではないため,ここから先はP19取締役にお願いし,
退席したい」旨断って退席したもので,P19取締役は,1時間程度,話
合いに同席し,被控訴人P1らと控訴人の双方に注意をした上,事業部全
体を良くするために前向きに進んでほしいなどという話をした。
iのうち,NDTシステムチームがIMS企画営業部の所属となったこ
と,控訴人が平成19年10月1日付けでチームにもグループにも所属し
ないIMS企画営業部部長付きとなったこと,同年8月28日,被控訴人
P2が控訴人に対し顧客訪問をすべてキャンセルするように指示したこと,
控訴人の新たな直属の上司となったP8が控訴人に対し被控訴人会社が貸
与しているパソコンのモバイル用通信カードと携帯電話を返却するように
指示したことは認め,その余は否認する。
jは認める。
イ控訴人の主張イについて
aは争う。
bのうち,P16が本件の調査結果をコンプライアンス担当役員に報告
しなかったことが運用規定に反することは争い,控訴人が開示に同意して
いなかったこと,P16が,本件回答を被控訴人P1とP18人事部長に
同時に送信したことによって控訴人が本件内部通報の通報者であること及
びその通報内容が明らかになったことについて控訴人に謝罪したこと,及
び被控訴人P1によってされた第1配転命令が本件内部通報の結果である
ことは否認し,その余は認める。
コンプライアンス室は,以下のように,関係者間の関係修復をするため
に控訴人の承諾を得た上で,被控訴人P1らに本件回答を同時に送信した。
すなわち,控訴人は,平成19年6月11日の面談の際,P16が,「一連
の状況を関係者に確認する必要があり,その場合には通報者及び通報内容
が関係者にわかることになるが,それでもよいか」と質問したのに対し,
情報開示を明確に許可しなかったが,同月26日,P17が電話で,「コン
プライアンス室が関係者の間に入って関係修復の対応をすることはできる
が,関係者に通報者及び通報内容が明らかになってもよいか」と重ねて質
問したところ,「かまわないからお願いしたい。」と回答し,開示を承諾し
た。
P16は,控訴人からP4の従業員の採用についての情報源はP12で
あると聞いたことなどから,P12をも通報者と誤解して本件回答のあて
先に入れて送信したため,P12に謝罪したのであり,控訴人に謝罪した
のではない。
ウ控訴人の主張ウについて
本件内部通報については,本件回答(甲12)記載のとおりの判断及び
対処がされており,既に社内の正規の手続にのっとった対応が完了してい
るから,被控訴人会社が,かかる過去の通報に対して報復などする理由が
ない。また,本件内部通報は,公益性や正当性が認められる内部告発でも
正当な権利行使でもない。すなわち,P4のP13の転職情報を拡散させ
たのは控訴人であり,P4のP11取締役にまで転職情報を漏洩した。ま
た,控訴人はP10に対してライバル意識を抱き,P10の職場における
地位を下げることを意図して通報したものである。そうでないとしても,
控訴人の通報の目的は,控訴人自身のメール(甲18)にあるように,P
4とのビジネス関係,IMS事業部内の人間関係の正常化についての相談
であった。
エ控訴人の主張エについて
否認ないし争う。
(4)第1ないし第3配転命令によって被る不利益・不合理性
(控訴人)
営業職からSHM業務に異動する第1配転命令は,次のように控訴人に著
しい不利益を与えるもので,かつ被控訴人会社の労働契約上の義務に反する
著しく不合理なものである。
ア控訴人の営業職におけるキャリヤプラン(従来の蓄積)を無視するもの
で,被控訴人会社の人事制度における待遇決定の不可欠な基盤である職能
形成の可能性が否定される。
昇格の適否については職場(職種)毎に作成した「能力開発ガイドライ
ン」による評価が重視されるから,異なる職種への異動は昇格の機会を喪
失させ(甲129の2),ひいては退職金,退職年金の減少をもたらす(制
度の改定後,P2とE5では,掛金だけでも208万8000円の差があ
り,現実の受給額は,確定給付年金では指標利率により,確定拠出年金に
ついては運用利率によりさらに差が生じる。)。
また,昇給についても,能力開発ガイドラインに対して専門能力レベル
がどの位置にあるか,前年度に比してどの程度向上したかを評価し,昇給
に反映させるとされているから,異なる職種への異動は昇給の機会を喪失
させるものである。
イ取引先や社内関係者との接触を包括的に禁止され,仕事を通じて形成さ
れた対内的,対外的な人間関係を否定された。
ウ上記のように昇格,昇給する機会を奪われ,また職場内外における労働
者としての人格的評価を貶められることによって,退職への無言の圧力を
与えられ続けた。このような精神的圧力は配置転換に伴い通常甘受すべき
不利益をはるかに超えている。
エ第2配転命令及び第3配転命令による不利益も上記アないしウと同様で
ある。
(被控訴人ら)
控訴人の主張は否認する。第1配転命令は,控訴人をIMS事業部内で異
動させるものにすぎず,仕事も与えられ,控訴人の勤務地,給与その他の処
遇に関して一切変更は生じていない。職種変更を伴う配転があり得ることは
人事制度に関する冊子も前提としている。昇格,昇給がなかったのは控訴人
の反抗的態度等によるものである。
(5)まとめ
(控訴人)
以上のように,第1ないし第3配転命令は,被控訴人会社が労働契約上義
務づけられているキャリアプランの結果に基づく適材適所の人事配置に反し,
業務上の必要性がなく,控訴人による本件内部通報を無化するとの報復の意
図・動機に基づくものである。また,内部通報をしたことを理由に職務・職
場の配置や賃金などの労働条件について不利益な取扱いをしない運用規定に
も反するものである。よって,被控訴人会社が控訴人に第1配転命令に従わ
せることは,配転命令にかかる権限を濫用するものであり,第1配転命令は
違法・無効を免れない。第2及び第3配転命令も同様である。
(被控訴人ら)
否認ないし争う。
3不法行為の成否
(1)被控訴人らの不法行為
(控訴人)
ア第1ないし第3配転命令の不法行為性
控訴人による本件内部通報は,秘密保持契約を結ぶ取引先の基幹従業員
を連続して引き抜くという上司(被控訴人P1及び同P2)の問題行為を
中止させ,取引先との信頼関係を回復し,被控訴人会社の企業倫理と名誉
の維持を目的とするものであったところ,被控訴人P1及び同P2は,本
件内部通報に対する報復・制裁を目的とし,業務上の必要性のないことを
認識した上で,第1配転命令をし,その延長として第2配転命令及び第3
配転命令をした。これらの命令は,人間としての誇りや尊厳という控訴人
の人格的利益を傷付けるものであるから,控訴人に対する故意による不法
行為となる。仮に故意が認められないとしても過失による不法行為が成立
する。
イ第1配転命令後のパワーハラスメント
第1配転命令による配置以降,第3配転命令による現在の配置に至るま
で,被控訴人P1,同P2及びその関係者は,控訴人に対し,意図的・組織
的に不当な業務制限,業務指示,業務評価等のパワーハラスメントを加え
ており,その人格権侵害の程度は,控訴人に自殺の思いを抱かせるほど重
大なもので,被控訴人P1らの故意による不法行為を構成する。仮に,そ
うでないとしても,これらの嫌がらせを辞めさせるなど適切な措置をとら
ずに放置した。
ウ被控訴人P1らの上記不法行為は被控訴人会社の事業を執行するにつき
行われたものであるから,被控訴人会社は,その使用者として損害賠償義
務がある。
(被控訴人ら)
控訴人の主張はいずれも否認ないし争う。
(2)損害
(控訴人)
控訴人は,被控訴人らの不法行為により以下の損害を被った。
ア経済的損害
控訴人は,本件配転命令後の被控訴人会社の不当な人事評価により,不
合格点(100点未満)とされ,平成19年4月から同21年3月まで次
のように賞与が減額された。
a140PA期(平成19年4月から同年9月まで)
基本給41万8600円
賞与妥結月数3.7か月
合格点とした場合の賞与額154万8820円
総支給額147万1400円
差額7万7420円
b140PB期(平成19年10月から同20年3月まで)
基本給41万8600円
賞与妥結月数3.3か月
合格点とした場合の賞与額138万1380円
総支給額131万2300円
差額6万9080円
c141PA期(平成20年4月から同年9月まで)
基本給42万1000円
賞与妥結月数2.8か月
合格点とした場合の賞与額117万8800円
総支給額111万9900円
差額5万8900円
d141PB期(平成20年10月から同21年3月まで)
基本給42万1000円
賞与妥結月数1.6か月
合格点とした場合の賞与額67万3600円
総支給額63万9900円
差額3万3700円
e差額の合計23万9100円
イ慰謝料
被控訴人らの不法行為によって控訴人の受けた精神的苦痛を慰謝する
ための金額は,876万0900円を下らない。
ウ弁護士費用
弁護士費用としては100万円が相当因果関係のある損害である。
エまとめ
以上のとおり,控訴人が被った損害の合計は1000万円である。
(被控訴人ら)
否認する。
第5当裁判所の判断
1訴え変更の許否
第1配転命令,第2配転命令及び第3配転命令は,配転時期,配転先及び配
転後の業務内容をそれぞれ異にするが,第2配転命令は原審口頭弁論終結後に,
第3配転命令はその9か月後の当審係属中にされたもので,いずれについても,
控訴人を従来経験したことがない職務に配転したことについて,業務上の必要
の有無,各配転命令の目的等をめぐり,被控訴人らが人事権を濫用したか否か
が争点となり,控訴人は,第2配転命令及び第3配転命令は第1配転命令の延
長線上にあると主張しているから,第1配転命令ないし第3配転命令の無効を
主張し,各命令に従って就労する義務のないことの確認を求める第1の訴えな
いし第3の訴えは,いずれもその請求の基礎を同一にするというべきである。
被控訴人らは,第2の訴えへの変更及び第3の訴えへの変更の申立ては,著
しく訴訟手続を遅滞させると主張するが,上記のとおり,第2配転命令は原審
口頭弁論終結後に,第3配転命令は,控訴人本人尋問が実施された平成22年
12月20日の第5回口頭弁論期日の直前である同年10月1日にされたも
のであり,各訴えの変更は,被控訴人会社によるこれらの配転命令に対応して
されたものであるから,これらの申立てが著しく訴訟手続を遅滞させるものと
いうことはできない。
よって,第1の訴えから第2の訴えに,第2の訴えから第3の訴えにそれぞ
れ交換的に変更することについて,これを許さない旨の決定はしない。
なお,被控訴人らは,上記各訴えの変更に異議を述べているが,その趣旨は,
第2の訴え及び第3の訴えの追加に異議を述べるもので,交換的変更に伴う第
1の訴え及び第2の訴えの取下げについて異議を述べるものではなく,交換的
変更が認められる場合には,これらの取下げに同意するものと認められる。
2第3配転命令は被控訴人会社が配転命令権を濫用したものであるか否か(そ
の前提として第1配転命令及び第2配転命令は被控訴人会社が配転命令権を
濫用したものであるか)について
(1)被控訴人会社は,従業員に対し,キャリアプランの結果に基づき適材適
所の人事配置をすることを労働契約上義務づけられているか
ア控訴人は,被控訴人会社は「能力開発ガイドライン」を基礎とする資格
制度を導入しており,その土台となるのがキャリアプランであるから,被
控訴人会社は,従業員に対し,キャリアプランの結果に基づき適材適所の
人事配置をすることを労働契約上義務づけられており,その観点からする
と従業員が蓄積してきたキャリアを無にするような場合には,異職種への
配転は許されないと主張するので,まずこの点につき判断する。
イ証拠(甲25,129の2,130,135,137,196,201,
乙1,7,原審における被控訴人P1)及び弁論の全趣旨によれば,次の
事実が認められる。
被控訴人会社におけるキャリアプランデータベースとは,各PA期(各
年の4月から9月)の期初の育成面接において,労働組合員全員が自らの
キャリアプランを登録するものである。人事部はこれを活用して,より職
場ニーズや従業員本人のニーズにあった人事異動を実現できるよう尽力す
るものとされ,職制もこのデータベースを活用して,常に部下のキャリア
プランを意識した育成を実施するように求められている。キャリアプラン
データベースの登録内容としては,現職について感じていること,現在ま
での担当業務と達成目標,これまでに経験した職種,今後就きたい職種,
能力開発テーマ,本人への育成コメント等がある。
しかし,被控訴人会社の就業規則及び労働協約にはキャリアプランに関
して被控訴人会社の義務を定める規定はなく,被控訴人会社作成の「活力
ある人と組織を目指してオリンパスの人事制度」及び「オリンパス『職
場マネジメント』ハンドブック」(甲129の2,196)によってもキャ
リアプラン自体の位置づけあるいはキャリアプランについての上司の承認
と配転との関係は,必ずしも明確ではない。そして,本件において控訴人
の140Pキャリアプランである「IMS国内販売部NDTシステムグル
ープにおけるNDTシステムの取引先への定着等」(最終更新日平成19年
8月20日付け。甲135)を承認したのは第3階層(BM)である国内
販売部長の被控訴人P2であり,本件第1配転を決定した被控訴人P1は
第2階層(HM)であり,同プランに目を通していない。
このようにキャリアプラン自体は原則的に従業員が作成するもので,上
司の承認も単なるコメントの色彩が強く,人事部は,人事異動の際,従業
員の希望に沿った人事異動を実現できるよう尽力するにすぎない。
ウ以上の諸点を総合すると,キャリアプランの記載自体を根拠として従業
員の配置についての被控訴人会社の労働契約上の義務を認めることはでき
ない。したがって,被控訴人会社は,労働契約において職種が限定されて
いない限り,業務上の必要に応じ,その裁量により労働者の勤務内容を決
定することができるものと解され,控訴人と被控訴人会社との間に営業職,
開発(技術)職というような職種の限定に関する明確な合意があったこと
を認めるに足りる証拠はない。
(2)就業規則34条の「正当な理由」
他方,使用者は,業務上の必要に応じ,その裁量により労働者の勤務場所
を決定することができるものというべきであるが,転勤,特に転居を伴う転
勤は,一般に,労働者の生活関係に少なからぬ影響を与えずにはおかないか
ら,使用者の転勤命令権は無制約に行使することができるものではなく,こ
れを濫用することの許されないことはいうまでもないところ,当該転勤命令
につき業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であ
っても,当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもってされたものであると
き若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせ
るものであるとき等,特段の事情の存する場合でない限りは,当該転勤命令
は権利の濫用になるものではないというべきである(最高裁判所昭和61年
7月14日判決)。そして,業務上の必要性については,当該転勤先への異動
が余人をもっては容易に替え難いといつた高度の必要性に限定することは相
当でなく,労働力の適正配置,業務の能率増進,労働者の能力開発,勤務意
欲の高揚,業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められ
る限りは,業務上の必要性の存在を肯定すべきである(上記最高裁判所判決)。
本件における就業規則34条の「正当な理由がなければ,これ(配置転換)
を拒むことはできない」との規定も,上記の観点から判断をすべきである。
(3)不当な動機・目的の有無について
ア証拠(甲1,9,12ないし23,28ないし35,37ないし39,
41,43,44,61,74,78,96,101,129,130,
134ないし136,143,155,186,192,193,198,
199,乙1ないし17,原審における証人P18,証人P16,証人P
22,控訴人本人及び被控訴人P1本人)及び弁論の全趣旨によれば,次
の事実が認められる。なお,個別の事実の認定に関する主要な証拠は括弧
内に掲記した。
(ア)第1配転命令前の状況
控訴人は,平成17年10月1日付けで,P5株式会社デジタルカメ
ラ部門から被控訴人会社IMS事業部へ異動し,平成18年2月1日,
同事業部のIMS企画営業部IMS東京グループのチームリーダーとな
った(甲39)。控訴人は,同年5月16日,自らの「139Pキャリ
アプラン」に,担当業務の内容として顧客密着型(国内セールス,開発
と協業)のスペシャルオーダーの受注及び販売拡大と記載し,被控訴人
P1は,同年6月1日,その育成者コメント欄に,「卓越した推進力と,
困難な利害対立の場面もその障害を取り除き,正しい方向に導く交渉能
力を有する。一方で,あまりにも率直な為,時として仕事の繋がり・目
的・計画性が見えづらくなったり,強引になってしまうことがあり,問
題意識を当事者意識としてより強く意識し取り組んでいってもらうこと
を期待する。」と記載した(甲134)。
同年7月1日,控訴人は,IMS企画営業部IMSマーケティンググ
ループアプリケーションチームのチームリーダーとなった(甲39)。
被控訴人会社は,控訴人について「2007年度Eゾーン昇格候補者
推薦書」(Eゾーンは経営職層としての最上位資格である)を作成し,
推薦機能として「営業販促」とし,被推薦者の今後の課題として,上記
「139Pキャリアプラン」の育成コメントとほぼ同様の記載がされた
が(甲143),同年10月ころ作成された「2007年度Eゾーン昇
格検討業務最終分科会用評定集計表」は,控訴人について,「フィージ
ビリティー(実現可能性)のある具体的な戦略の策定において指導力を
発揮し具体的な提案としての成果が必要」と指摘し,昇格はなかった(乙
15)。
同年10月12日,被控訴人P1は,控訴人に対し,ONDTへの異
動を内示した。このころ,被控訴人P2は,控訴人に対し,取引先の従
業員が中途採用によりONDTに入社する予定があることを伝えた。
同年11月,控訴人は,ONDTにおいてNDTシステムの営業を担
当することとなり,同年12月,P4からP10がONDTに入社した。
平成19年2月15日,控訴人は,P4を訪問した際に,P4のP1
1取締役からP10にP4の従業員との連絡を取らせないように言われ,
被控訴人P2にその旨を伝えた。
同年3月28日,被控訴人P2は,控訴人の139PB期の評価表を
作成し,第1次評価として116点とし,「課題としては,NDTシス
テムG統括として,技術,営業をしっかりとマネジメントし,且つ顧客
の信頼を維持向上させながらも,Quebecを巻き込んだ新体制構築
をできるだけ早期実現させる事に向かっての取り組みである」と記載し
た(甲32)。
同年4月1日付けで,ONDTは,被控訴人会社に吸収合併され,同
日付で,控訴人はIMS事業部のIMS国内販売部NDTシステムグル
ープ営業チームリーダーに(甲39),P10は同グループ技術チーム
リーダーにそれぞれ任命された。控訴人の名刺には,「部長付NDTシ
ステム統括」との肩書が付された(原審における控訴人本人)。
同月上旬,控訴人は,同グループ技術チームに入ったP12から,P
10が,「P4からP10の後輩が入社することになっている,3号機の
受注をおみやげとして持ってくる,P23には内緒にしておくように。」
と言っていたことを聞かされ,同月12日,被控訴人P1に対し,P4
からの二人目の転職希望者の採用はとりやめるべきであるなどと述べた。
翌13日,控訴人は,被控訴人P2に対し,上記のP12から聞き取っ
たP10の発言内容及びP10の発言は社内機密事項の漏洩であり厳し
い措置と指導が必要という意見を記した電子メールを送り,被控訴人P
2は,同P1に上記電子メールを転送して相談したが,同P1は,同P
2に対し,「P23にはあまり大騒ぎするなと言ってください,他に大
事なことはたくさんあります」などという電子メールを送信した(乙1
3)。
そして,同月16日9時56分,被控訴人P1は,控訴人に対し,「控
訴人が被控訴人P1に提言しに来たのは大間違い,控訴人のボスは被控
訴人P2だ,すべてのことはP1-P2-控訴人-メンバー(顧問であ
るP6。元P3社の副社長)の指揮命令系統で動くことだ,被控訴人P
2がP4のことは任せろと控訴人に指示したにもかかわらずP6のコメ
ントを伝えるのも大間違い」などという内容の電子メールを送信した(甲
9)。同日11時28分,被控訴人P2は,控訴人に対し,「P10君
にはP2より口頭にて厳重に注意する,当日の参加者及び他のメンバー
へのアクションは起こさない」などという内容の電子メールを送信した
(乙13の2)。
同月下旬,控訴人は,P12に誘われ,P10からP4から入社する
ことになっているのは同社設備部所属のP13であり,内定しているこ
とを聞き出したところ,被控訴人P1から再度,P4のことは被控訴人
P2に任せろという内容の電話がかかってきた(甲96)。
同年5月15日,被控訴人P1は,P4を訪れて同社のP11取締役
と面談し,P13の転職につき了解を得ようとしたが,同取締役がP1
3の件を既に知っており不快感を示したため,話を進めるのを断念した。
控訴人は,翌日,立腹したP11取締役から電話を受けた。
同月21日,控訴人,被控訴人P1,被控訴人P2及びP10が,被
控訴人会社新宿本社の25階応接室で会合し,応接室にはホワイトボー
ドが置かれた。控訴人は,携帯電話に電話がかかってきたのを機に自ら
応接室を退出した。
同年6月11日ころ,控訴人は,被控訴人会社のコンプライアンスヘ
ルプラインに電話をかけ,コンプライアンス室長のP16とその部下で
あるP17が,控訴人及び控訴人に付き添ったP15と会い,控訴人及
びP15は,P16及びP17に,P4からの従業員(P10)転職の
件を説明し,P4からの第2,第3の従業員引抜きが発生する可能性を
否定できない,顧客であるP4からの信頼失墜を招くことを防ぎたいと
考えている等と相談した。
同月27日,P16とP17が,通報者が控訴人であることを告げた
上,被控訴人P1から事情を聴取した(乙9,原審における被控訴人P
1本人,弁論の全趣旨)。
同年7月3日14時36分,P16が,控訴人に対し,コンプライア
ンス室への相談に対する回答として電子メールを送信した(以下「本件
回答」という。)。その内容は,P10の採用については「取引先担当
者を採用することは,取引先との良好な関係を維持・継続するうえで十分
な注意が必要である。」,その後の採用については「OT人事部から慎
重な対応を求めるなど,注意を促すなかで本件が発生し,中止されてい
る。…重要取引先から続けて2人を採用することについては,たとえ本
人の意思による転職であっても,先方に対する配慮を欠いたといわざる
を得ない。…先方への事前調整等があってしかるべきであった。」,本
件に対する処置については「取引先担当者の採用に関する注意喚起採
用に関しては人事部がチェックし,問題があれば個々に注意しており,
改めて注意喚起を行うかどうかは人事部に一任する。人事部では,取引
先担当者の採用に関する明文化された基準はないが,基本的には道義的
な問題があり,”採用は控える”というのが原則だと考えている。採用
する場合には,当事者が当社への転職を希望し,取引先と当社との間で
機密保持誓約を含む同意が成立しない限り行わないこととしている。」,
などというものであった。そして,この電子メールは,控訴人に加えP
12をも宛先としており,被控訴人P1,P18人事部長へも同時に送
信された(甲12)。そのため,同日,P15,P12,控訴人,P1
6,P17の5名が会合を持ち,P16は,控訴人及びP12に対し,
P12を通報者として扱ったことについて謝罪した(控訴人に対して機
密保持の約束を守らなかったことについて謝罪したか否かについては,
後記イの(イ)において判断する)。
同日20時58分,P16は,被控訴人P1に対し,控訴人及びP1
2らに深く謝罪したこと,被控訴人P1にも直接事情を説明したい旨の
電子メールを送信し,控訴人にも同時に送信した(甲13)。
P16は,翌4日9時49分,控訴人に対し,「昨日は大変ご迷惑を
お掛けしました。重ねてお詫び申し上げます。」との電子メールを送信
し,同日12時23分,P12に対し,本件回答の宛先に「(控訴人の
名前と共に)P12様のお名前を記載しましたが,本件ヘルプラインに
P12様は関係しておらず,誤って記載・配信してしまいました。また,
本件に関し,機密保持の約束を守らずにP12様およびP1HM,P1
8BMにメールを配信してしまいました。上記2点,訂正させていただ
くとともに,重ねて深くお詫び申し上げます。」との電子メールを送信
し,控訴人にも同時に送信し(乙6),さらに同日13時10分,P1
2に対し,直前の上記電子メールの「本件に関し,機密保持の約束を守
らずに」の部分を「本件に関し,P23様との機密保持の約束を守らず
に」と訂正した電子メールを再度送信し,控訴人にも同時に送信した(甲
14)。
同月9日15時38分,P16は,控訴人に対し,「P19取締役も
入ってもらって,被控訴人P1,被控訴人P2,控訴人,P12及びP
16とで関係正常化への打合せを設定したい,7月12日御都合はつく
でしょうか」などと記載した電子メールを送信し(甲16),同日16
時17分,控訴人は,P16に対し,「1.日時7月12日(木)P
M1:30以降なら何時でもOKです。2.メンバーあくまで,業務
及び人間関係両側面の正常化が狙いである事の軸は振れておりませんの
で,P2BMは勿論入って頂き,以下のメンバーでお願いします。P1
9取締役,P1HM,P2BM,P16BM,P12,P23」などと
記載した電子メールを返信した(甲18)。
同月12日,P19取締役,被控訴人P1,被控訴人P2,P16,
P12及び控訴人との関係修復の会合が持たれた。
被控訴人P1は,同月ころ,控訴人の第1配転命令について検討を始
めた(原審における被控訴人P1)。
同年8月8日,P19取締役,被控訴人P2及び控訴人が姫路のP4
を訪問し,P19取締役は,P4のP11取締役に対し,同社からP1
0に続きP13の採用を予定していたことについて謝罪した。
同年8月18日,控訴人は,被控訴人会社に対し,具体的な異動希望
について,短期的,中期的及び長期的のいずれも,「事業部や商品分野」
としては「NDTシステム」,「希望部署名」としては「IMS国内販
売部NDTシステムグループ」と記載した「140Pキャリアプラン」
を提出し,同月20日,被控訴人P2は,上記プランの育成コメント欄
に「非破壊分野とは言え,IMS事業部に取って全く新しいビジネスと
なるシステム製品の販売を担当している。従来組織からの世代交代を押
し進めつつ新販売体制構築に取り組んでいる。今までに蓄積した知識と
経験をフルに活用し事業拡大に尽力することを期待する。」と記載した
(甲135)。
(イ)第1配転命令
控訴人は,平成19年8月27日,被控訴人P1,被控訴人P2及び
IMS企画営業部長であるP22部長と面談し,同年10月1日付けで
予定されていた第1配転命令の説明を受けた(甲23)。控訴人は,被
控訴人P2及びP22に席を外してもらって被控訴人P1と2人で話を
し,さらに同被控訴人とともにP19取締役の部屋を訪れるなどしたが,
異動に納得できなかった。翌28日,被控訴人P2は,控訴人に対し,
「明日以降のユーザー訪問をキャンセルして,明朝,被控訴人会社の新
宿本社に出社」することを指示するメールを送信した(甲20)。
控訴人は,同月29日,被控訴人会社代表取締役社長に対し,P16
が作成した平成19年7月3日20時58分の被控訴人P1に対する電
子メール(甲13)及び同月4日13時10分のP12に対する電子メ
ール(甲14)を添付して,「オリンパスにとって,高価なシステムの
採用を英断して頂いた,P4殿からの信頼が大失墜している中,一歩間
違えると会社にとっても本当に大変な事になりかねない,信頼回復に向
け,会社として決してマイナスにはならない様,これまでの経緯,状況
精査」してほしい旨の電子メールを送信した(甲78)。
控訴人は,第1配転命令の話や外部との接触禁止の指示等に精神的シ
ョックを受け,労働組合の担当者のアドバイスもあって,同月31日か
ら同年9月14日まで,有給休暇と代休を取得した(甲96,186)。
被控訴人P2は,同年9月3日,控訴人に対し,ユーザー訪問キャン
セルを指示した理由はユーザー側で混乱が生じているので窓口を一本化
することと説明し,同様の理由により,当面,控訴人が全ユーザー,業
務委託先,ONDT等担当者へメール,電話等による連絡を取らないこ
とを指示する電子メールを送信した(甲21)。
被控訴人P2とP22は,同年9月24日,控訴人に対し,同年10
月1日付けでIMS企画営業部部長付となり,新事業創生探索活動業務
に携わるとの人事異動を内示した。異動先において控訴人には部下はお
らず,新たな直属の上司は定年後再雇用されたP8であった。同日,控
訴人は,正式な異動前であったが,P8から被控訴人会社から貸与され
たモバイル通信用カードと携帯電話を返却するように指示された。
同年10月1日,控訴人は,IMS企画営業部部長付に着任した。な
お,NDTシステムグループの所属はそれまでのIMS事業部のIMS
国内販売部から同事業部のIMS企画営業部に変更され,国内販売部の
部長である被控訴人P2はP4を取引先とするNDTシステムグループ
を担当しなくなり,また,控訴人の後任として,新事業創生探索活動業
務を担当していたP9がグループリーダーに就任した(甲23)。
被控訴人P2は,同年12月5日,控訴人と,140PA期(平成1
9年4月から同年9月まで)の評価フィードバックを行うための面接を
した(甲29,30の1及び2)。その際,交付された「第140PA
業務目標設定カード」の「リーダー評価」欄及び対象期140PAの「評
価表」の「一次評価」欄のいずれにも,「業務指示違反及び社内情報の
顧客への漏洩」との記載があったが,控訴人の抗議により被控訴人P2
は後者の「社内情報の顧客への漏洩」を「組織の規律を乱した」に書き
換えた(乙7)。
(ウ)第2配転命令。
控訴人は,被控訴人会社の平成22年1月1日付け第2配転命令によ
って,被控訴人会社ライフ・産業システムカンパニー統括本部品質保証部
部長付への異動を命じられた(乙26)。
(エ)第3配転命令
控訴人は,被控訴人会社の平成22年10月1日付け第3配転命令に
よって,被控訴人会社ライフ・産業システムカンパニー統括本部品質保証
部システム品質グループへの異動を命じられた(乙26)。
イ以上の認定事実を前提として検討する。
(ア)控訴人によるコンプライアンス室に対する通報内容及びコンプライ
アンス室の認識について
控訴人が平成19年6月11日,コンプライアンス室のP16及びP
17に対し,P4からの従業員引抜きの件を説明し,それが今後も実行
されるかもしれないし,顧客からの信頼失墜を招くことを防ぎたいと考
えているとの本件内部通報をしたことは前記認定のとおりであるところ,
同年7月3日の本件回答は「P4(株)から担当者(技術TP10TL)
を採用したこと」などについて回答するものであったこと,同年8月2
9日に控訴人が被控訴人会社代表取締役社長に送信した電子メールには,
P4からの信頼を失墜している中,信頼回復に向けて精査されたいなど
と記載されていること等を総合すれば,控訴人の本件内部通報の内容に
ついてのコンプライアンス室の認識も,取引先のP4従業員の被控訴人
会社への転職によって生じるおそれのある,同社を始めとする取引先か
らの信用失墜などのビジネス関係の悪化に関するものであったと認めら
れる。控訴人は,営業秘密の漏洩又は侵害等,不正競争防止法違反の可
能性なども通報の内容であった旨主張し,控訴人本人はこれにそう供述
をする(原審)が,控訴人の平成19年6月12日付けのP16への転
送メール(被控訴人P1及び同P2とのやり取りを転送したもの),同
年8月29日の被控訴人会社代表取締役に対する電子メール及び控訴人
代理人の同年12月25日の内容証明郵便のいずれにおいても,不正競
争防止法についての言及はないことなどに照らすと,上記供述は採用で
きない。
このように,控訴人の通報内容は取引先からの信用が失墜することを
危惧するものであり,P10が入社後の平成19年2月に控訴人がP4
を訪れた際,同社のP11取締役が,P10に同社の従業員と連絡をと
らせないよう申し入れるなど,P10の転職について相当の警戒感,不
快感を示したこと(甲96,198,199,原審・控訴人本人)など
に照らすと,その危惧は相当の根拠を持つものであったというべきであ
り,現に,同年5月にP4を訪れた被控訴人P1は,「この二人目の方
も先方にご相談にいかにゃいかんなということで,私はP4さんのほう
に参りまして…,既にP4さんのほうの責任者の方がこの二人目の希望
者のことを御存じでありました。大変気分をもう既に害されておられま
して,それ以上は私のほうからその話を進めるわけにいかなくなりまし
た」と供述し(原審における被控訴人P1),P19取締役から「人材
採用の件はP4との間でも一件落着したと認識している。十分に反省し
て,二度と取引先との間で問題を起こさないように。」などとの注意を
受けた旨陳述し(乙7),P16も「P1事業部長は,『P4の元従業
員であるP10氏についてはP4の役員の了解を得た上で採用したが,
二人目についてはP4から抗議を受けたため採用を取りやめており,こ
の件に関してP4との関係は既に決着している』と話していました。」
と陳述している(乙8)ところである。もっとも,被控訴人P1本人(原
審)は,P10の転職についてはP4側も快諾していたと供述し,同人
の陳述書(乙7)にも同旨の記載があるが,乙16号証(P10の件に
関する被控訴人P1のP4P11取締役宛のメール)に添付された平成
18年11月13日付けの同取締役のメールの記載内容(「今後とも貴
社とはフェーズドアレイで密接な関係を持つ事になりますが,今回の件
に関連してご相談をさせていただく事が出てくると思います。」)や,
上記の平成19年2月の同取締役の対応に照らすと,上記供述等は,た
やすく採用できない。
また,被控訴人らは,控訴人がP4のP11取締役に二人目の転職情
報を漏洩した旨,また,本件内部通報の意図は控訴人がライバル意識を
抱いたP10の職場における地位を下げることであった旨主張し,被控
訴人P1本人の原審における供述及び陳述書(乙7)にはこれにそう部
分がある。しかし,前者については,控訴人の立場上,そのようなこと
を取引先のP11取締役に伝えることは不合理であって,原審における
控訴人本人尋問の結果に照らしても,被控訴人P1の上記供述部分等は
たやすく信用できず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。後者につ
いては,前記認定事実によれば,控訴人は,P10の,P4からの転職
情報を被控訴人会社内に漏らしたという言動を問題として指摘したもの
と認められ,被控訴人ら主張のような意図があったことを認めるに足り
る証拠はない。
そうすると,本件内部通報は,少なくとも運用規定第4条(1)の行動規
範(第1章第2項「企業活動を展開する上で,企業活動を行なう国や地
域の法令や文化,慣習を理解することに努めます。したがって,法令は
もとより,倫理に反した活動や,これにより利益を得るような行為はし
ません。」との規定)に反する,または反する可能性があると感じる行
為に該当するし,さらには運用規定第4条(2)の「業務において生じた法
令違反等や企業倫理上の疑問や相談」にも該当する。したがって,コン
プライアンス室のP16らは,控訴人の秘密を守りつつ,本件内部通報
を適正に処理しなければならなかったというべきである。
(イ)コンプライアンス室の対応及び被控訴人P1が本件内部通報を知っ
たことについて
運用規定第14条2項は,コンプライアンス室の担当者は,通報者本
人の承諾を得た場合を除き,通報者の氏名等,個人の特定されうる情報
を他に開示してはならないと定めているところ,コンプライアンス室長
であるP16は,平成19年7月3日14時36分,控訴人に対し,本
件回答として電子メールを送信したが,この電子メールは,控訴人とP
12を宛先として,被控訴人P1,人事部長であるP18へも同時に送
信したものであった(甲12)。被控訴人らは,P16及びP17は,
控訴人の承諾を得た上で被控訴人P1らに同時に送信した旨主張し,そ
れに沿った陳述及び供述をする(乙9,同11。原審における証人P1
6)。しかし,控訴人本人がこれを明確に否定する供述をしている(原
審)ことに加え,P16は,翌4日9時49分,控訴人に対し,「昨日
は大変ご迷惑をお掛けしました。重ねてお詫び申し上げます。」との電
子メールを送信し(甲15),同日13時10分,控訴人にも同時に送
信したP12宛ての電子メールにおいて,「本件に関し,P23様との
機密保持の約束を守らずにP12様およびP1HM,P18BMにメー
ルを配信してしまいました。」と記載したこと(甲14。原審証人P1
6は,「P23様との機密保持の約束を守らずに」の部分は控訴人の要
求によって挿入したものである旨供述するが,後記のとおり,虚偽の記
載を強いられたという趣旨においては採用できない。)に照らすと,控
訴人が自らの氏名等の特定情報及び通報内容の開示を承諾したという上
記陳述等は直ちに採用できない。
もっとも,P16は,本件回答の冒頭で「今回の通報は,通報者とそ
の内容を人事部および職制に開示することについて承諾を得た上で,具
体的な経過を確認」したと,控訴人の承諾を得たことを前提とした記載
をしている(甲12)が,被控訴人らの主張によっても控訴人が承諾し
た相手はP17であり,同人とP16との間で意思疎通の齟齬があった
結果,このような記載になった可能性も否定できないから,この記載を
もって控訴人の承諾があったと直ちに認めることはできない。また,秘
密保持を守らなかったことについての謝罪文言がある電子メール(乙6,
甲14)がともにP12宛とされ,控訴人に対してはカーボンコピー送
信(CC)とされたことについて,控訴人本人は,原審において,「私
宛にしてくれと言ったら,P16さんがちょっと抵抗するだろうと,や
ってくれないだろうと,そういうことで,私は,P12君でいいから,
私はCCでいいから,事実だけを書いて下さいということで言った」た
めであると供述し,開示を承諾していないという控訴人の発言としては
やや不自然であるが,その当時は,通報していないにもかかわらず通報
者とされたP12の怒りが強く,控訴人がそのことにも配慮した結果と
理解できないものではない。かえって控訴人から氏名等の開示について
承諾を得たと主張しているP16が,平成19年7月3日にP12と控
訴人に責め立てられてやむなく要求を受け入れ,その翌日に「本件に関
し,機密保持の約束を守らずに」という謝罪の電子メール(乙6)を送
信し,さらにその直後に,控訴人から要求されるままに,当該部分を「本
件に関し,P23様との機密保持の約束を守らずに」と訂正した謝罪の
メール(甲14)を送信した(乙9,原審証人P16)というのは,虚
偽の訂正をしたという趣旨であるとすると,コンプライアンス室の対応
として余りに安易であり,不自然極まりない。また,乙6号証の「本件
に関し,機密保持の約束を守らずにP12様およびP1HM,P18B
Mにメールを配信してしまいました。」という内容は,通報者である控
訴人以外のP12,被控訴人P1及びP18に電子メールを送信したこ
とを控訴人に謝罪していることを意味すると解するのが自然であるから,
結局,同号証と甲14号証の内容は同様である。
以上のとおり,控訴人が自らの氏名等の特定情報及び通報内容の開示
を承諾したと認めることはできず,コンプライアンス室の対応は本件規
定第14条の守秘義務に違反したものというべきである。
(ウ)第1配転命令の動機・目的
被控訴人P1が,本件内部通報に先立つ平成19年4月12日に控訴
人からP4からの二人目の採用は取りやめるべきであると言われたこと
について,同月16日,控訴人に対し,被控訴人P2にやり方は任せろ
と指示したはずで,控訴人は大間違いをしている旨の電子メールを送信
したことは前記認定のとおりであるところ,証拠(甲57,乙7,8,
13,原審における被控訴人P1本人)によれば,被控訴人P1は,そ
の後同年5月15日に被控訴人P2と共にP13の転籍について了解を
得るためにP4を訪問したが,同社のP11取締役が既にP13が転職
を希望していることを知り大変気分を害していたため,話の進めようが
なかったこと,同月21日に控訴人,被控訴人P1,被控訴人P2,P
10の4名が本社25階の会議室で面談したが,被控訴人P1は中途半
端な面談であったと感じ,再度控訴人と2人だけで話しをすることを希
望したこと,しかし,その後も被控訴人P1と控訴人との面談はされな
かったこと,同年6月27日に被控訴人P1がP16とP17からP4
からの転職者等について事情聴取され,それを通報したのは控訴人であ
ることを知ったこと,同年7月12日の関係修復の会合でP19取締役
からP4からの人材採用の件で注意されたことが認められる。さらに,
乙7号証及び原審における被控訴人P1本人の尋問結果によると,被控
訴人P1は,上記のとおり平成19年5月15日にP4を訪れた際,同
社のP11取締役がP13の被控訴人会社への転職希望を知っていたの
は,控訴人が同取締役に告げていたからであると認識しており,P13
の採用につきP4の了解を得る話を進めることができず,結局これを断
念せざるを得なかったのは,控訴人のこの言動に一因があると考えてい
たことが認められるが,P4がP10の転職を快諾していたとまではい
えないこと及び控訴人がP11取締役にP13の件を告げたことが認め
られないことは前記のとおりである。
もっとも,P10やP13の被控訴人会社への採用の可否は,対外的,
対内的に様々な要素を考慮すべき人事案件として,徒に多くの者が関与
して判断すべきものではないが,控訴人は,P4を重要な顧客とするN
DTシステムグループの営業チームリーダーとして,同社の従業員の被
控訴人会社への転職の情報を得た場合,その事情を調査し,取引上の影
響が危惧される場合に,上司にその旨を具申するのは当然であって,こ
のことは被控訴人P1も認めるところである(原審・被控訴人P1本人)。
そして,控訴人がP11取締役にP13の件を告げたことなどが認めら
れないことは前記のとおりであり,他に控訴人の言動が,上記の立場を
超えるものであったことを認めるに足りる証拠はない。
また,証拠(甲37,96)によれば,平成19年8月8日にP19
取締役らがP4に赴きP13の件などについて謝罪した後も,P4側は,
被控訴人会社に対する不信感,不快感を抱いており,控訴人も完全に信
用されていたわけではないことが認められるから,被控訴人会社として
は,「部長付NDTシステム統括」との肩書でP4との取引を担当する
控訴人を配転してNDTシステムグループから外すことにより,同社と
の関係の修復を図るということも考えられるが,そうであれば,P10
らの転職に関与していない控訴人に対しては,配転を内示するに当たり,
その趣旨を説明すべきところ,このような説明がされたことについては,
主張も立証もない。前記のとおり,控訴人は,第1配転の説明を受けた
後,組合からアドバイスは受けたこともあって2週間程度有給休暇等を
とっているが,その間,被控訴人P2とはメール等で連絡が取れており,
また,上記第1配転の説明から配転命令まで1か月以上あったのである
から,控訴人の休暇取得のために配転命令の趣旨の説明ができなかった
ということはできない。
以上の事実を総合すれば,被控訴人P1は,控訴人の言動によってP
4からの二人目(P13)の転職を阻止されたと考え,さらにはその後
もIMS事業部内における被控訴人P1らと控訴人との人間関係の悪化
が解消しなかったことを問題視し,不快の念を抱いたと推認できる。
これに加えて,第1配転命令は,控訴人がNDTシステムグループ営
業チームリーダーの職位に就いた僅か半年後にされたものであること,
被控訴人P1が第1配転命令を検討し始めたのは控訴人が本件内部通報
をしたことを知った直後の平成19年7月であり,第1配転命令の予定
が控訴人に説明されたのが同年8月27日であること,及び後記(4)で認
定の第1配転命令の内容や,これについての業務上の必要性の程度に鑑
みれば,被控訴人P1は,控訴人のP4の従業員転職に関する本件内部
通報を含む一連の言動が控訴人の立場上やむを得ずされた正当なもので
あったにもかかわらず,これを問題視し,業務上の必要性とは無関係に,
主として個人的な感情に基づき,いわば制裁的に第1配転命令をしたも
のと推認できる。そして,控訴人が本件内部通報をしたことをその動機
の一つとしている点において,第1配転命令は,通報による不利益取扱
を禁止した運用規定にも反するものである。
もっとも,被控訴人P1が,控訴人がP4のP11取締役にP13の
件を事前に告げたと認識していたことは前記のとおりであり,これが事
実であれば,被控訴人会社の従業員としての控訴人の言動に問題があっ
たといえるが,上記事実が認められないことも前記のとおりであって,
被控訴人P1は,この点につき,少なくとも過失責任を免れない。
(エ)第2配転命令及び第3配転命令の動機・目的
第2配転命令及び第3配転命令により控訴人が配置されたライフ・産
業システムカンパニー統括本部品質保証部は,IMS事業部長である被
控訴人P1の担当する部署ではないが,第2配転命令が控訴人の本件訴
訟提起後に,第3配転命令が第2配転命令の9か月後にされたものであ
ること,後記認定のとおり,各配転命令による配置先における控訴人の
担当職務は,第1配転命令前の控訴人の経歴にそぐわないものであるこ
と等をしんしゃくすると,第2配転命令及び第3配転命令は,いずれも
本来の業務上の必要性や控訴人の適性とは無関係に,第1配転命令の延
長としてされたものと推認できる。
(4)業務上の必要性(人員配置の変更を行う必要性)の有無について
ア新事業創生探索活動について
(ア)新事業創生探索活動の内容及び重要性についての認定判断は,原判
決37頁23行目から38頁13行目までに説示のとおりであるから,
これを引用する(ただし,原判決38頁11行目の「このような」から
13行目末尾までを「このような最先端技術の動向を見すえ,常に新規
事業の開拓可能性を検討し続けてゆく活動は極めて重要である。」に改め
る)。
(イ)被控訴人会社における新事業創生探索活動の取組み及び人員配置の
変更を行う業務上の必要性が認められることについては,以下のとおり
付加訂正するほかは,原判決38頁14行目から40頁16行目までに
説示のとおりであるから,これを引用する。
a原判決39頁1行目の「IMS周辺新事業探索」から3行目末尾ま
でを「IMS事業部方針及び重点施策として,IMS周辺新事業探索
-将来成長に向けてという項目があり,その細項目の一つとして,構
造物ヘルスモニタリング技術フィージビリティーと事業性検討が掲げ
られていた(乙4の1)。」に改め,24行目の「(甲51)」を削る。
b原判決40頁11行目の「乙4。」を「乙4の2。」に,12行目か
ら14行目までを以下のとおりに,それぞれ改める。
「以上の認定事実を総合すれば,新事業創生探索活動としてのSH
Mのフィージビリティーと事業性の検証作業は,短期的な成果を期
待できないものの,長期的な成果が否定されるものではなく,被告
(被控訴人)会社の非破壊検査ビジネスの拡大という観点から検証
作業を継続することが必要かつ重要であったことが認められる。」
(ウ)控訴人の新事業創生探索活動の担当者としての適性について
a証拠(甲39,218,230,乙5,7,原審における被控訴人
P1本人,当審における控訴人本人)及び弁論の全趣旨によれば,次
の事実が認められる。
控訴人は,P24高等専門学校で機械工学を専攻し,卒業後はP2
5株式会社に3年間勤務した後,昭和60年に被控訴人会社に入社し,
入社後約9年,技術者としてカメラの研究開発部門に所属したが,そ
の後,営業部門に移り,国内及び米国において営業職の経験をし,被
控訴人会社IMS事業部への異動後は,NDT機器の販売営業業務に
従事していた。また,控訴人は,上記のとおり,被控訴人会社の米国
法人において数年間営業職を務めた経験を有しており,いわゆるビジ
ネス英語にたん能である。
そして,前記のように新事業創生探索活動の具体的内容は,自らが
研究開発をするのではなく,文献や研究者,技術者,ユーザーなどが
集うシンポジウム等から情報を収集して,諸外国におけるSHMの研
究やビジネス化の動向,市場のSHMに対するニーズの状況等を把握
すること,これらをレポートにまとめ情報を共有すること,被控訴人
会社内でどのようにビジネス化するかについて関連部門の担当者と議
論して協議することにある。
しかし,現在のところ,SHM技術の専門性は著しく高度であり,
控訴人の上司であったP8はP26大学工学部の,前任者であるP9
はP27大学大学院の出身であるのに対し,工業高等専門学校出身の
控訴人がこれを理解するのは多大な努力をもってしても相当に困難で
あり,控訴人の英語能力も技術的専門性の高い専門英語についてのも
のではない。また,SHMの実用化は相当先であり,控訴人の営業経
験を活かして評価することが可能な段階,すなわち実用化された技術
の販売戦略を検証する段階にはなかった。そして,P8及びP9は,
いずれも新事業創生探索活動以外の業務も担当していたのに対し,第
1配転命令は,控訴人に新事業創生探索活動の業務に専心することを
求めるものであった。
b以上の事実を総合すると,新事業創生探索活動の担当者として控訴
人に適性があると判断したことについては,合理性・必要性を全く否
定することはできないものの,相当程度の疑問があり,NDTシステ
ムグループ営業チームリーダーの職に就いて僅か半年しか経過してい
なかった控訴人に新事業創生探索活動の業務に専心させることとした
ことについて,業務上の必要性が高かったものとは認め難い。
イ第2配転命令及び第3配転命令による品質保証業務について
(ア)品質保証業務については,被控訴人会社が精密機械等の製造会社で
ある以上,一般論として,当該業務に業務上の必要性が認められること
はいうまでもない。
(イ)しかしながら,50歳になろうとする控訴人が第2配転命令及び第
3配転命令により担当することとされた業務は,顕微鏡及び品質保証の
勉強と月1回のテストであって(甲226~228),この業務は,新
入社員と同様であり,上記ア(ウ)の控訴人の能力や経験とも関係がない
(甲204,207,208,213,)から,品質保証業務の担当者
として控訴人を選択したことには大きな疑問がある。
(5)第1配転命令ないし第3配転命令によって被る不利益・不合理性につい

控訴人を,その営業職におけるキャリアプラン(従来の蓄積)とは異なる
職種に配転することが,被控訴人会社の労働契約上の義務に反するといえな
いことは前記(1)のとおりである。
しかし,昇格及び昇給の適否は「能力開発ガイドライン」による評価が重
視され,ガイドラインは職場(職種)毎に作成されるから,平成19年当時,
47歳であった控訴人を全く未経験の異なる職種に異動させることは,従来
のキャリアの蓄積をゼロにして,事実上,昇格及び昇給の機会を失わせる可
能性が大きいといえる。実際,第1配転命令後,控訴人の昇格はなく,平成
21年4月及び同22年4月の昇給もなかった(なお,第1配転命令後の平
成20年4月に昇給があったが,それは被控訴人会社の昇給制度が各年の1
0月から翌年9月までの人事考課を翌々年の4月の昇給に反映させるもので
(甲115,129の2),平成20年4月の昇給は,第1配転命令前の平
成18年10月から同19年9月までの業務に対する評価によるものだった
からである。)。そして,昇格の機会の喪失は,退職金の減少(掛金は従業
員の資格に応じて被控訴人会社が全額負担する。)をもたらすし(甲222),
昇給がないことは賞与の減少をもたらす。
さらに,後記4の(1)のイのように,控訴人にとって著しく達成困難な課題,
あるいは全くの新人と同様の課題を設定することは,それ自体不合理であり,
いずれも控訴人に屈辱感を与えるなど精神的負担を与えるものと認められる。
(6)まとめ
以上のとおり,①第1配転命令は,被控訴人P1において,P4から転職
者の受入れができなかったことにつき控訴人の言動がその一因となっている
ものと考え,被控訴人会社の信用の失墜を防ぐためにした控訴人の本件内部
通報等の行為に反感を抱いて,本来の業務上の必要性とは無関係にしたもの
であって,その動機において不当なもので,内部通報による不利益取扱を禁
止した運用規定にも反するものであり,第2及び第3配転命令も,いわば第
1配転命令の延長線上で,同様に業務上の必要性とは無関係にされたもので
あること,②第1ないし第3配転命令によって配置された職務の担当者とし
て控訴人を選択したことには疑問があること,③第1ないし第3配転命令は
控訴人に相当な経済的・精神的不利益を与えるものであることなどの事情が
認められるから,第1ないし第3配転命令は,いずれも人事権の濫用である
というべきである。したがって,第3配転命令については,控訴人には就業
規則34条の「正当な理由」があり,これを拒絶できるというべきである。
3不法行為の成否
(1)被控訴人らの不法行為
ア第1ないし第3配転命令の不法行為性
上記2のように,第1配転命令及び第2配転命令は,いずれも被控訴人
P1が人事権を濫用したものであり,第3配転命令もその影響下で行われ
たものであって,これらにより,控訴人に上記2の(5)のような昇格・昇給
の機会を事実上失わせ,人格的評価を貶めるという不利益を課すものであ
るから,被控訴人P1の上記行為は,不法行為法上も違法というべきであ
る。
これに対し,被控訴人P2は,前記のとおり,平成19年8月20日の
時点では,控訴人がNDTシステムグループに残留することを前提とした
育成コメントを作成している(甲135)のであって,控訴人に対する第
1配転命令の決定に積極的に関与したことを認めるに足りる証拠はなく,
後記の業務命令等も,上司である被控訴人P1の決定した方針に従ってし
たものであることが窺われるから,これをもって不法行為法上,違法とい
うことはできない。他に,被控訴人P2について,控訴人に対する配転命
令に関し,不法行為というべき行為を認めるに足りる証拠はない。
イ第1配転命令後,第2配転命令までのパワーハラスメント
(ア)控訴人は,被控訴人らは,第1配転後,何らのトラブルが生じた事
実がないにもかかわらず,控訴人に対し,社外接触禁止という業務命令
を行った旨主張するので検討する。
被控訴人会社は,平成19年10月31日,控訴人の140PB期の
達成目標とその実施方法を次のように設定した(甲43の1)。
①目標「SHMに関わる知識レベルを高めるP8SBMレベルに到
達している」,実施方法「社内外有識者等による勉強有効な顧客か
らの勉強」
②目標「ONDT(以下においては,米国に本社をおく外国法人を指
す)とのコミュニケーションレベルを高める1)ONDT情報提供
5件以上2)OT及びONDT共通認識のプロジェクト現実的進
捗」,実施方法「Pierre及びONDTSHMメンバーとの定
期的打ち合わせ,情報交換会の実施」
③目標「これまでになかった新しい情報の収集新情報10件以上発
掘」,実施方法は「社内外有識者,研究開発機関,部門からの情報収
集」
④達成目標「TechnologyApplicationMa
pの完成度を高める」,実施方法「ONDT側チームとのコミュニケ
ーションによる確からしさのレビュー実施」
これらによれば,平成19年10月の第1配転命令直後は,P22及
びP8は,控訴人の業務として社内外有識者等による勉強や顧客からの
勉強,ONDTのSHMメンバーとの打ち合わせ等を想定していたが,
甲74号証によれば,控訴人が本件訴訟を提起した日の翌日である平成
20年2月19日,P8が,控訴人に対し,システムビジネス担当時に
知りえた社外企業,その他の社外との接触を禁止し,ONDTメンバー
との接触に関しても,P8を通してのコミュニケーションとする旨を指
示・命令したことが認められる。このような社外接触禁止命令は,当初,
被控訴人会社が設定した控訴人の業務目標の実施方法と相反するもので
あること,そもそも新事業創生探索活動の具体的内容は,文献調査に加
え,研究者,技術者,ユーザーなどが集うシンポジウム等から情報を収
集して諸外国におけるSHMの研究やビジネス化の動向,市場のSHM
に対するニーズの状況等を把握することを重要な内容とするものである
こと,第1配転以降,控訴人と社外の人間との間に何ら支障が生じてお
らず,社外との接触を禁ずることにはせいぜい抽象的なトラブルの予防
としての意味しかなかったこと(原審における証人P22),そして控
訴人が再三にわたり,その理由の説明を求めたにもかかわらず,同年3
月5日に至ってP8がようやくメールで理由を説明したが,その理由も
結局はトラブルの予防に過ぎなかったこと(甲74,214,215の
1,218)からすると,接触禁止命令はその必要性がなく,控訴人を
孤立させて無力感を抱かせることを目的としたものと推認できる(なお,
被控訴人らは,控訴人が株式会社P28に対して送ったメール(乙29
の5)が軽率な内容であったとして接触禁止命令が正当であった旨主張
するが,同メールによってSHM業務を含め被控訴人会社の業務に支障
が生じたり,他社に迷惑をかけたと認めることはできない。)。さらに,
接触禁止命令によって翌141PA期から,業務目標の実施方法が「W
eb,文献による勉強」に変更された(甲85の1)が,上記のように
新事業創生探索活動の具体的内容は,研究者,技術者,ユーザーなどが
集うシンポジウム等から情報を収集して諸外国におけるSHMの研究や
ビジネス化の動向,市場のSHMに対するニーズの状況等を把握するこ
とを重要な内容とするものであるから,社外接触禁止命令は,それ自体,
新事業創生探索活動の実施方法を徒に制限し,ひいては業務目標の達成
を困難にするものといえる。
(イ)控訴人は,P8らは,達成が著しく困難な業務目標を設定し,達成
できないことを理由に控訴人に対し低い評価をしたと主張するので以下
検討する。
a業務目標について
ⅰ上記(ア)記載の①の「SHMに関わる知識レベルをP8SBMレ
ベルに到達するまで高める」は,業務目標として余りに抽象的で達
成度が確認できる客観的目標とはいえず,また達成したか否かを判
断するのは到達目標とされる当のP8自身(甲214,215の1
9,215の20)という不合理なものであった。同②の「OND
Tとのコミュニケーションレベルを高める」は,上記(ア)の接触禁
止命令によって業務方法だけでなく業務目標自体が否定された(な
お,翌141PA期以降,②の業務目標はなくなった(甲85の
1))。同③の「これまでになかった新しい情報の収集新情報1
0件以上発掘」は,少なくともSHMの基礎知識がなければ困難で
あり,同④の「TechnologyApplication
Mapの完成度を高める」については,情報を正確に理解した上で,
市場性や実用性を分析・評価することが要求されるものであるか
ら,より高度の知識がなければ,達成するのは不可能であった。こ
のことは,P8が,①のSHMに関わる知識レベルが一定程度にな
らなければ,②から④の目標を達成することは不可能であると述べ
ている(甲214,215の2,218)ことから明らかである。
しかるに,控訴人はそのようなSHMに関する知識を得る研修など
も経ないままに社外の人脈とも切り離されほぼ独学でSHMに関
する知識を習得することを迫られたのであるから,上記③及び④の
目標は達成が極めて困難な目標であったといえる。
ⅱ情報整理について
翌期の141PA期中の平成20年7月18日,控訴人は,P8
から,同月末までに過去にIMSが収集した情報の体系的整理(方
法としてはアプリケーション・マップへのアドレス付与)を業務目
標とする旨指示され(乙19),その後,同21年2月までほぼ毎
月ごとに最優先でこれに取り組むように指示された(乙20,24,
25)。
この作業について,控訴人は誠実に遂行したと主張するのに対
し,被控訴人らは平成20年7月18日に指示したにもかかわら
ず,翌21年3月になっても作業を完成しなかった旨主張する。こ
の両者の主張の相違は,以下のような情報整理の方法及び整理対象
の情報の範囲についての両者の認識の相違により生じたものと思
われる。すなわち,控訴人は,①業務目標とされた「情報整理」
の指示された方法はアプリケーション・マップへのアドレス付与で
あったが,整理対象の資料数が膨大で,かつ各資料毎に複数の情報
があるため,控訴人が工夫して作成したマップ(甲223)上に整
理することは事実上不可能であった,②アドレス付与のためには,
資料内容を正確に理解する高度な知識が必要であるところ,控訴人
の知識レベルはそれに達していなかった,③そのため整理の方法
を,含まれる情報を理解しながら資料をフォルダ毎に整理する方法
に切り替えて作業を進め,その結果が甲149号証である旨主張す
る。これに対し,被控訴人らは,「情報整理」の方法はアドレス付
与であり,アドレス付与とは,IMS事業部内の既存資料を分類ツ
ールとして用いるアプリケーション・マップの座標軸上に配置して
いくだけの作業であるので負荷は大きくないにもかかわらず控訴
人はこれを完成させなかった旨主張する。
そうすると,業務目標である情報整理について,その方法として
被控訴人らが主張するアプリケーション・マップへのアドレス付与
しか認められないのか,仮にそうだとするとそれが方法として適当
であったのかを検討すべきこととなる。
まず,当初の平成20年7月18日のP8の情報整理方法の指示
がアプリケーション・マップへのアドレス付与であることは明らか
である(乙19)。これに対し,控訴人は,一旦は情報整理のため
のアプリケーション・マップ(甲223)を作成したが,この方法
によると膨大な情報を一枚のマップに置ききれず,個別の情報内容
もマップ上に表示できないという情報整理として中途半端なもの
となるので,同年8月8日,P8に甲223号証を示した上,見や
すく使いやすいマップ作成のアイデアを相談したが,良いアイデア
は出ず,その結果,同年8月29日付けの「平成20年8月業務報
告」(甲106)記載のように「SHM関連でこれまで登録されて
いるレポート中の有益情報を,AE,GW等,順次TAマップ横軸
にある技術それぞれについてあてはめていく。今回は…GWに限定
してレポートからの情報があるか見極める。」こととなった旨陳述
及び供述する(甲230,当審における控訴人本人)。しかし,控
訴人自身,同年9月11日の面談で,P22及びP8は,GW等の
SHM技術の内容の理解はひとまず置き,9月中にIMS企画営業
部に存在するSHM関連情報を,後に検索しやすいようにアドレス
付与をせよとの業務命令をしたと陳述し(甲230),P8も,控
訴人の同年9月25日付けの「平成20年9月業務報告」に対する
赤字によるコメントにおいて,「9月11日の8月業務進捗報告会
にて作業は完了しておらず,しかもGW技術領域に限定して整理す
るという指示と反する作業を行なっていたことが判明した。」と記
載している(乙24)から,同年8月8日に,P8と控訴人との間
で情報整理方法がアプリケーション・マップへのアドレス付与から
他の方法に変更することが合意されたと認めることはできない。
そうすると,控訴人は,自己の判断によって情報整理の方法をア
プリケーション・マップへのアドレス付与からフォルダ整理に変更
したことになり,P8らが情報整理方法をアプリケーション・マッ
プへのアドレス付与としたこととの関係を検討すべきこととなる。
まず,被控訴人らは,アプリケーション・マップへのアドレス付
与はIMS事業部内の既存資料をアプリケーション・マップの座標
軸上に配置していくだけの作業で負荷は大きくないとして,そのイ
メージを提示し,また整理の対象とした情報は「¥IMS企画営業
部¥マーケティングG¥04NDT関連」の中の「¥SHM」に
収納されている情報であって(乙20,甲149),データファイ
ル数(資料数)は67であり,1個の資料に含まれる情報が2個と
仮定しても134個に過ぎない旨主張する。
しかし,既存資料をアプリケーション・マップの座標軸上に配置
していくだけであっても,そのためには既存資料の中に果たしてど
の程度SHMと関係する情報があるかを理解する必要があり,その
ためには既存資料中の専門用語等についての知識を始めSHM関
連の知識が一定程度は必要であるから,負荷が大きくない作業とは
いえない。また,既存資料についてのアドレス付与は,要素技術と
アプリケーション毎に行なうとされており(乙19),この観点か
らすると一つの既存資料に複数の情報が含まれていることが多く,
被控訴人らの上記主張によっても情報数は134個であるところ,
134個の情報全てを一つのマップに配置することは,4つの資料
の情報しか配置されていない被控訴人ら提示にかかるイメージに
照らしても,果たして現実に可能かどうか疑問がある。そうすると,
情報整理方法を,その趣旨目的を明らかにしないまま,当初からア
プリケーション・マップへのアドレス付与に限定することに合理性
があるとはいえないから,情報整理との目標達成のために他の方法
を検討し,採用することも許容されるべきであるといえる。また,
整理対象の資料について,被控訴人らは,上記のように「¥IMS
企画営業部¥マーケティングG¥04NDT関連」の中の「¥S
HM」(乙20)に収納されている情報に限定されていたと主張す
るが,P8が情報整理を命じた同20年7月18日付けメール(乙
19)には「過去にIMSが収集した情報」としか記載されておら
ず,乙20号証はそれから約6か月後の平成21年1月16日付け
のものであり,そもそも控訴人が情報整理を指示された当初から整
理対象の範囲が明確に示されていたことを認めるに足りる証拠は
ない。さらに,控訴人の平成20年11月29日付けの「平成20
年11月度業務報告」における「IMS企画営業部内のSHM関連
の資料整理をする事という指示(P22からの指示)から,また逆
戻りして,SHMDB内の資料の整理並びに,P29TLが…SH
Mを担当していた当時に作成され,存在しているかも知れない,S
HM関連レポート,資料等を捜索する趣旨の業務指示となった10
月の業務」との記載は,整理対象の範囲が変更されたことをいう記
載と解されるところ,P8は同業務報告の他の記載についてコメン
トしながら上記記載に対して特にコメントしていないこと(甲10
6,乙25),P22は現在も情報整理の対象を「IMS事業部内
のデータベースに既に存在する様々な情報」と述べていること(乙
17)に照らすと,控訴人がIMS企画営業部の「¥SHM」(乙
20)のフォルダに加え,IMS事業部全体のSHM関連の資料を
も整理対象として,「¥IMS企画営業部¥マーケティングG¥0
4NDT関連」の中の「SHM資料整理08一時完了分プラス
091-2」フォルダを作成したことをもって,控訴人の独断に
よるものと評価することは相当ではない。そして,このフォルダに
よれば,控訴人が整理対象としたデータ数(情報数)はP9らによ
り一覧表化された特許・実用新案情報等を除いても500個弱で,
一つの資料中の情報数が2個と仮定しても,情報総数は被控訴人ら
主張の情報数の約7.5倍の1000個となり,その全てを一つの
マップに配置することは困難ないし不可能と認めるのが相当であ
る。したがって,控訴人が自己の判断によって情報整理の方法をア
プリケーション・マップへのアドレス付与からフォルダ整理に変更
したのは,形式的にはP8の指示と異なっているものの,情報整理
という目標を達成するためには合理的なものであったと認められ
る。
b業績評価
第1配転命令後,控訴人の140PB期から141PB期までの査
定は,第1次評価がそれぞれ58点,55点,51点と低下し,第3
次評価はいずれも90点であり(甲44の1及び2,85の1及び2,
148の1及び2),142PA期の第1次評価はさらに44.4点
に低下し(甲195),142PB期の前半3か月間の評価は60点
であった(甲224)(なお,第2配転命令後の142PB期の後半
3か月間の評価は93.5点であった(甲225))。
そして,140PB期から141PB期までの3次評価である90
点は,少なくとも138PA期(平成17年4月から9月)において
は,賞与の評価別支給係数表における最低評価の「E」評価であって,
出勤率40パーセント未満の病欠者等や全欠者がこれに該当し,昇給
区分において昇給据置きレベルとされるものである(甲86)。また,
平成17年作成の被控訴人会社の「職場マネジメント」ハンドブック
によれば,「C-評価以下はほとんどいません」とされている(甲87)。
このことに,従前,控訴人は,第1次評価において100点以下の評
価を受けたことがなかった(当審における控訴人本人)こと,被控訴
人P1も,平成18年6月に,控訴人について,あまりにも率直な面
があるとしつつ,「卓越した推進力と,困難な利害対立の場面もその障
害を取り除き,正しい方向に導く交渉能力を有する」と評しているこ
とを併せ考慮すると,担当業務が異なるとはいえ,控訴人の第1配転
後の評価は総じて異例に低いといえる。
そこで,控訴人においてそのように異例な低評価を受ける理由ない
し事情があるか否かを検討すると,上記aのように,そもそもP8が
設定した業務目標は控訴人にとって著しく達成が困難であったため,
目標が維持される限り,これを達成し高い評価を受けることはできな
かったこと,140PB期については,社外接触禁止命令が出された
平成20年2月までは,控訴人は外部のシンポジウムに参加してレポ
ートを提出しP8もこれを承認していたから(甲45の1ないし5),
一応の成果があったといえること,そして,他に控訴人が著しく低い
評価を受けるべき事情があったことを認めるに足りる証拠はないこ
と,以上の諸点を総合すると,前記の,第1次評価において50点台,
これを踏まえた第3次評価において90点という控訴人の評価は不当
に低いといえる。
次に,141PA期及び141PB期の控訴人の評価が低くなった
ことについては,前記のように141PA期中の平成20年7月に控
訴人が情報整理を命ぜられ,それをアドレス付与ではなくフォルダ整
理作業の方法によって実施したことが主たる理由となったと認められ
る(甲214,同215の7~18,乙17)。しかし,前記のよう
にアドレス付与ではなくフォルダ整理作業の方法の方が情報整理とい
う目標を達成するために合理的なものであったことを勘案すると,本
来は,方法の認識の食い違いについてP8らと控訴人が十分協議する
などして相応の評価がされるべきであったにもかかわらず,P8らが
質問や相談に応じなかったために,上記食い違いが解消されなかった
のであり(甲218,230),ほかに特段の事情も見当たらないか
ら,50点台の第1次評価及びこれを踏まえた90点の第3次評価は
不当に低いといえる。
以上のように,第1配転命令以降,第2配転命令前までの間,P8
らが,控訴人にとって著しく達成困難な業務目標を設定し,かつ控訴
人が目標を達成できないこと,さらにはアドレス付与作業を完成させ
なかったこと等を理由として著しい低評価をしたことについては,第
1配転命令に至る経緯を踏まえ,本来の客観的評価を離れた要素を加
えた判断がされたものと推認できる。
(ウ)その他のパワーハラスメント
控訴人は,控訴人についてのみ,毎月,P8及びP22の二人がかり
による進ちょく報告と題する面談がされ,暴言が繰り返された旨主張し,
証拠(甲214,215の3,218)によれば,控訴人に対し,毎月
上記二人による面談がされたことが認められる。そして,担当の上司2
名による面談がされたのが控訴人のみであることを認めるに足りる証拠
はないが,特定の者に毎月これが実施されることは通常とはいい難い。
また,P8の控訴人に対する発言には,控訴人を「オマエ」と呼ぶなど,
随所に侮蔑的表現がみられ,さらに,P8は,対面した座席で仕事をし
ている控訴人に,質問はメールによらなければ受け付けないと述べるな
どもしている(甲215の1~ないし3,7~18,29,甲218)。
ウ第2配転命令後のパワーハラスメント
控訴人は,第2配転及び第3配転後の業務の状況は,控訴人を通常の社内
業務と人間関係から隔離し,生産的な作業を何もさせないという一種の消極
的パワーハラスメントであると主張するところ,証拠(甲213,227,
228,230,当審における控訴人本人)によれば次の事実が認められる。
第2配転は品質保証部への配転であるところ,控訴人は同部署を経験した
ことも希望したこともなかった。配転当初の担当業務は,顕微鏡の規格の和
文英訳であったが,控訴人には当該分野の基礎的知識がなく,求められる時
間内に遂行することが不可能であったため,上司から取り上げられ,その後
は平成22年5月7日に「P23君教育計画」と題する書面を交付され,顕
微鏡に関する新人用テキストを読み込んで勉強する,そして時々上司から確
認テストを受けるという状態に終始した。第3配転後も,間もなく「P23
さん教育計画」と題する書面を交付され,新入社員向けの品質保証業務の初
歩のテキストの独習と毎月末の確認テストを受けるという従来と同様の状態
が続いている。
以上によれば,第2配転及び第3配転後の控訴人の業務の状況は,顕微鏡
又は品質保証についての基礎知識がないため,新人同様の勉強とテストを受
ける以外にないこと,それにもかかわらずそのことを揶揄するような「P2
3君教育計画」,「P23さん教育計画」などと題する書面を交付されるこ
とは,50歳となった控訴人に対する侮辱的な嫌がらせであり,不法行為法
上も違法というべきである。
エまとめ
(ア)控訴人に対する第1ないし第3配転命令が不法行為というべきもので
あり,被控訴人P1がこれにつき責任を負うことは前記アで説示のとおり
である。
(イ)また,P22及びP8の前記イの行為は,控訴人に対する不法行為と
いうべきであり,被控訴人P1は,IMS事業部長として両名の上司であ
ったのであり,両名の上記行為は,第1配転命令をした被控訴人P1の意
向を受けたものであると推認できる。
(ウ)さらに,前記ウの第2配転後の品質保証部における控訴人に対する処
遇も不法行為というべきである(控訴人の本訴提起がその一因となってい
たとしても正当化されるものではない。)。
(エ)そして被控訴人P1,P8及び品質保証部の管理職による上記不法行
為は,いずれも被控訴人会社の職務を執行するにつき行われたものである
から,被控訴人会社は,その使用者として損害賠償責任がある。
(オ)他方,被控訴人P2について,控訴人に対する不法行為というべき事
実が認められないことは前記のとおりである。
(2)損害
ア控訴人は,前記のとおり第1配転前においては合格点を下回る評価を受け
たことはなかったのであるから,被控訴人P1らの前記(1)の不法行為がな
ければ,140PA期から141PB期までの賞与において支給額の減額を
受けることがなかったものと推認できる。したがって,控訴人は,前記不法
行為により,実際に受けた賞与の減額相当分として23万9100円の損害
を被った(甲113の1ないし5,174,185)というべきである。
イ前記(1)の被控訴人P1らの行為によって控訴人が受けた精神的苦痛を慰
謝すべき金額は,176万0900円を下らないというべきである。そして,
控訴人は被控訴人P1らの不法行為による損害賠償を請求するために弁護
士に依頼することを余儀なくされたのであるから,控訴人が支払うべき弁護
士報酬のうち,上記損害額合計200万円の1割に当たる20万円が相当因
果関係のある損害である。
第6結論
以上の次第で,控訴人の当審での訴え変更後の請求(主文第1項(1))は理
由があり,被控訴人会社及び被控訴人P1に対する損害賠償請求は,220万
円及びこれに対する平成20年2月28日から支払済みまで年5分の割合に
よる金員の連帯支払を求める限度で理由があるが,その余は理由がなく,被控
訴人P2に対する請求は,すべて理由がない。
よって,上記判断に従い,本件控訴及び当審における訴えの変更に基づき,
原判決中被控訴人会社及び被控訴人P1に関する部分を主文第1項のとおり
変更し,被控訴人P2に対する控訴を棄却することとして,主文のとおり判決
する。
東京高等裁判所第23民事部
裁判長裁判官鈴木健太
裁判官髙野伸及び裁判官大沼和子は,いずれも転補のため署名押印すること
ができない。
裁判長裁判官鈴木健太

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