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平成30年4月5日判決言渡
平成28年(行ウ)第147号外務員職務停止処分取消請求事件
主文
1本件訴えを却下する。
2訴訟費用は原告の負担とする。5
事実及び理由
第1請求
被告がA証券株式会社に対し平成27年10月6日付けでした,同日から平
成29年4月5日まで,原告につき外務員の職務の停止を命ずる旨の処分を取
り消す。10
第2事案の概要
金融商品取引法(特段の断りのない限り,平成27年法律第32号による改
正前のもの。以下「金商法」という。)に基づき所属の金融商品取引業者の外
務員(以下,単に「外務員」という。)に係る登録事務の委任を受けている認
可金融商品取引業協会である被告は,同法64条の5第1項に基づき,平成215
7年10月6日付けで,自己に所属する金融商品取引業者であるA証券株式会
社(以下「A証券」という。)に対し,同社の従業員であり同社のために同法
64条1項各号の行為を行う外務員として登録を受けている原告につき,1年
6か月間外務員の職務の停止を命ずる旨の処分(以下「本件職務停止処分」と
いう。)をした。本件は,このように本件職務停止処分の対象とされた原告が,20
被告を相手に,同処分の取消しを求める事案である。
被告は,本件職務停止処分の適法性を主張するとともに,本案前の主張とし
て,同処分に係る職務の停止期間は既に経過しており,原告は同処分を取り消
すことにより回復すべき法律上の利益を有しないため,本件訴えは訴訟要
件(訴えの利益)を欠く不適法なものであるなどと主張して,本件訴えの却下25
を求めている。
1関係法令の定め
別紙1記載のとおり
2前提事実(争いのない事実,顕著な事実及び掲記の証拠により容易に認めら
れる事実)
⑴当事者等5
ア被告は,金商法67条の2第2項に基づく内閣総理大臣の認可を受けて
設立された認可金融商品取引業協会であり,同法64条の7第1項に基づ
き,内閣総理大臣から所属の外務員に係る登録事務(外務員の登録に関す
る事務のほか,外務員に対する監督上の処分等に関する事務を含む。)の
委任を受けている。10
イA証券は,被告の協会員として被告に所属する金融商品取引業者である。
ウ原告(昭和52年▲月▲日生)は,平成22年7月,A証券の従業員と
して採用され,金商法64条に基づき,同社の申請により,同社のために
同条1項各号所定の行為(有価証券に係る売買及びその媒介等)を行う外
務員として,被告において登録された者である(外務員は,その所属する15
金融商品取引業者に代わって,上記所定の行為に関し,一切の裁判外の行
為を行う権限を有する〔同法64条の3〕。)。
原告は,A証券におけるB営業部(以下「本件営業部」という。)にお
いて,C基金等に対する金融商品販売を担当していた。
⑵本件職務停止処分に至る経緯等20
ア証券取引等監視委員会は,A証券の本件営業部が顧客であるC基金の役
職員への接待を行った際,その接待につき他の顧客を接待したものと偽っ
て接待交際費の申請をしたこと(いわゆる顧客名の付替え)につき,本件
営業部から自主的な申告を受けたことを踏まえ,平成25年4月18日を
基準日として,本件営業部による特別の利益の提供の有無等について検査25
を行った(以下「本件検査」という。)(甲4)。
イ証券取引等監視委員会は,平成25年12月5日,A証券に対する本件
検査の結果,法令違反の事実が認められたとして,内閣総理大臣及び金融
庁長官に対し金融庁設置法20条1項に基づく行政処分を行うよう勧告す
るとともに,その旨を同委員会のホームページに掲載して公表した(乙
3)。同委員会により認定されたA証券に係る法令違反行為の内容は,下5
記のとおりである。

C基金の役職員はみなし公務員であるところ,A証券の本件営業部は,
以下のとおり3つのC基金の理事長らに対して接待等を行い,金融商品
取引契約につき多額の利益提供をしていた。これらの行為は,金商法310
8条7号(平成26年法律第44号による改正前のもの。同改正後は8
号)に基づく金融商品取引業等に関する内閣府令117条1項3号に掲
げる「金融商品取引契約につき,(略)顧客若しくは第三者に対し特別
の利益を提供する行為」に該当するものと認められる。
(ア)平成22年10月から平成24年12月までの間,D基金の理事15
長らに対して,同基金の運用にA証券グループが組成した指数連動債
等(以下「指数連動債等」という。)を組み入れさせる目的で,海外視
察旅行の費用負担及び約40回の接待を行い,約394万円に相当する
利益を提供した。
(イ)平成23年12月から平成24年12月までの間,E基金の理事20
らに対して,同基金の運用に指数連動債等を組み入れさせる目的で,約
30回の接待を行い,約143万円に相当する利益を提供した。
(ウ)平成22年6月から平成24年12月までの間,F基金の理事ら
に対して,同基金の運用に指数連動債等を組み入れさせる目的で,海外
視察旅行の費用負担及び約30回の接待を行い,約90万円に相当する25
利益を提供した。
ウ金融庁は,上記イの勧告を受けて,平成25年12月12日,A証券に
対し,金商法51条に基づき,A証券が策定した再発防止策を確実に実
施・定着させること等を内容とする業務改善命令をした(乙4)。
エ原告は,平成25年12月25日,贈賄の公訴事実により東京地方裁判
所に起訴された。5
オA証券は,平成26年1月23日付けで原告に対する懲戒解雇処分を
し(甲4),同年3月14日,被告に対し事故連絡書を提出した(乙5)。
この事故連絡書には,前記イのとおり証券取引等監視委員会により認定さ
れた行為に関して,原告が上記3基金のうち2基金の主担当者として接待
等の行為を行っていたことなどが記載されていた。10
カ原告は,平成26年7月16日,東京地方裁判所において,贈賄罪によ
り懲役10月・執行猶予3年の有罪判決を受けた(以下「本件有罪判決」
という。)。本件有罪判決においては,原告がE基金の理事らに対し17
回の接待により合計87万4036円の賄賂を供与した事実(前記イ(イ)
の一部に相当する。)が認定されている。原告は,本件有罪判決を不服と15
して控訴したが,同判決は,同年11月21日,控訴取下げにより確定し
た。(甲4)
キA証券は,平成27年6月26日,上記カを踏まえ,被告に対し,金商
法64条の4第2号に基づき,原告について同法29条の4第1項2号ハ
の規定に該当することになったとの欠格事項該当の届出をした。20
クA証券は,平成27年7月3日,被告に対し,事故顛末報告書(乙6の
1)を提出した。
この事故顛末報告書には,①A証券の本件営業部では,C基金の役職員
への接待を行った際の経費の申請において顧客名を付け替えていたこと,
②この付替えの一部については本件営業部が自主的に申告をしていたと25
ころ,証券取引等監視委員会(関東財務局)の本件検査により全容解明
が進み,最終的に平成25年12月12日に3基金(D基金,E基金,
F基金)に対する行為が特別の利益の提供であるとの認定を受けたこと,
③その後のA証券における社内調査等も経て,原告が,担当していたD
基金の理事長らに対して海外視察旅行のA証券による費用負担及び数多
くの接待により多額の利益の提供行為を行った事実や,担当していたE5
基金の理事らに対しても,数多くの接待を行い,多額の利益の提供行為
をした事実が確認されたこと,④A証券では,従来からみなし公務員へ
の接待は原則禁止と定めているが,原告は担当しているC基金の役職員
がみなし公務員であることを認識していながら,顧客名を偽り,みなし
公務員ではない顧客名を使って接待交際費の申請をしていたため,A証10
券の内部管理部門においてC基金への接待の状況について把握すること
ができなかったこと等が記載されていた。
ケ被告は,平成27年7月17日,A証券から,事故顛末報告書(上記
ク)に係る事故について,その行為の概要等につき改めて詳細な報告を記
載した事実関係確認書(乙9)の提出を受け,同年9月10日,A証券を15
当事者,原告を参加人として,聴聞を実施した(乙10)。
コ被告は,平成27年10月6日付けで,A証券に対し,金商法64条の
5第1項に基づき,原告について,同日から平成29年4月5日までの1
年6か月間,外務員の職務の停止を命ずる旨の本件職務停止処分をした。
本件職務停止処分の理由は,原告が,平成22年10月から平成24年20
12月までの間,金融商品取引契約につき,D基金及びE基金の役員等
に対し,特別の利益供与を68回(合計537万4000円)行い,う
ち17回(合計87万4000円)について贈賄罪として有罪判決を受
けたことをいうものであった。(甲1)
サ原告は,平成28年3月31日,本件訴えを提起した(顕著な事実)。25
⑶被告における協会員の役職員に対する処分の方針等
被告においては,平成22年9月14日付けで「協会員の役職員に対する
処分の考え方」(甲5。以下「考え方」という。)が定められているが,こ
れが定められるに至った経緯及びその内容は,次のとおりである。
ア被告においては,平成20年5月20日付けの報告書(内部者取引防止
に関する内部管理態勢等検討ワーキング報告書)により,協会員の役職5
員が関与するインサイダー取引に対する一層の抑止力向上を目的として,
インサイダー取引に関与した協会員の役職員に対して現状以上の厳しい
措置を用意すべきであるとの考え方が示されたことや,インサイダー取
引のみならず金融商品取引業の信用を著しく失墜させる法令等違反行為
が後を絶たないことから,こうした法令等違反行為の抑止を目的として,10
協会員の役職員に対する処分の在り方全般について検討することとし,
同年9月にワーキンググループを設置して検討を行った。
上記ワーキンググループにおける検討の結果は,平成21年2月17日
付け「協会員の役職員に対する処分について」にまとめられたが,その
うち「4.処分の検討要素等の明示」との項目において,「協会員の役15
職員処分全体に通ずる考え方を示すこととすれば,処分の透明性及び予
見可能性が高まり,法令等違反行為の抑止の一助となるため,本協会が,
協会員の役職員に対する処分において考慮してきている処分の検討要素
や審査に際しての指針について,協会員の役職員に対して明示すること
が望ましいと考える。」という提言が記載された(乙13)。20
被告は,上記提言を踏まえ,平成22年9月14日付けで「考え方」を
定め,これを,被告の協会員に対して通知し,各協会員を通じてその所
属の役職員に対しても周知するものとしているほか,被告のホームペー
ジにも掲載している(甲15)。
「考え方」の概要は,以下のとおりである。25
イ「考え方」は,まず「Ⅰ.処分の検討要素」と題して,協会員の役職員
に対する処分を行うに際しては,法令等違反行為の内容,罰則の有無及
び重さ,常習性(違反回数,行為の期間),取引金額,事故金額,顧客
被害の程度(顧客数,顧客被害額),過去の行政処分及び自主規制処分
の有無,役職,情状(故意,隠ぺいの有無,動機,原因,方法,手口,
利得の有無,被害者との関係,被害の弁償状況,利得の還元等の状況,5
発覚の経緯等),刑事訴追の有無並びに反社会的勢力の関与の有無等の
諸点を考慮し,行為の重大性,悪質性,反復可能性,社会的影響度等を
総合的に審査するものとした。
ウ次に,「考え方」は,「Ⅱ.審査の指針」と題して,処分に際しての審
査の指針を示しているところ,その要旨は次のとおりである。10
(ア)登録を受けている外務員が金商法64条の5第1項2号又は3号に
該当する場合で,その行為が金融商品取引業の信用を著しく失墜させる
ものであるときは,登録取消しとし,登録取消しに至らないものである
ときは,職務停止の検討を行う。そして,この検討に当たっては,法令
等違反行為の内容,罰則の有無及び重さ,常習性(違反回数や期間),15
取引金額,事故金額並びに顧客被害の程度に応じた処分とすることを基
本に,行為の重大性,悪質性,反復可能性,社会的影響度等を総合的に
審査する。また,こうした総合的な審査の際には,①過去の行政処分及
び自主規制処分の有無,②役職の高さ,③情状(故意,隠ぺいの有無,
動機,原因,方法,手口,利得の有無等)などの事情を考慮するものと20
し,上記①及び②の事情に応じて加重し,上記③の事情に応じて加重又
は軽減する。
(イ)特に,顧客資産の横領及び顧客への詐欺的行為,金商法上重い罰
則のある行為(相場操縦やインサイダー取引等)並びに役員等による協
会員の法令等違反を主導する行為(以下,併せて「不都合行為」とい25
う。)については,登録の取消しを原則とし,登録取消しとならない場
合であっても重い職務停止処分とする。また,過去に法令等違反行為を
行った者が再度法令等違反行為を行った場合(①1月を超える期間の処
分を受け,その決定を受けた日から5年以内に,再度1月を超える期間
の処分に相当する事由が生じた場合,②処分を受け,その決定を受けた
日から5年以内に,再度処分を受け,かつ,当該5年以内の期間中にさ5
らに処分に相当する事由が生じた場合〔以下,これらを「再違反行為の
場合」という。〕)においても,不都合行為の場合と同様に,登録の取
消し又は重い職務停止の処分とする(なお,登録取消処分ではなく職務
停止処分を選択する場合,どの程度の停止期間とすべきかについての記
載はない。)。10
(ウ)金商法29条の4第1項2号イからトまでに定める欠格事項(同
号ハ〔禁錮以上の刑に処せられ,その刑の執行を受けることがなくなっ
た日から5年を経過しない者〕もこれに含まれる。)のいずれかに該当
することとなり,かつ,①欠格事項の起因となった行為が金融商品取引
業又はこれに関連するものである場合,②欠格事項の起因となった行為15
が刑法上の重大な犯罪である場合,③金融商品取引業及び金融商品取引
市場に対する信頼を失墜させる場合のいずれかに該当する場合には,登
録取消しとする。
3争点及びこれについての当事者の主張の要旨
本件の争点は,⑴原告は本件職務停止処分の取消しを求める原告適格を有す20
るか,⑵原告は本件職務停止処分の取消しを求める訴えの利益を有するか,⑶
本件職務停止処分が適法であるかであり,これらについての当事者の主張の要
旨は,別紙2記載のとおりである。
第3当裁判所の判断
当裁判所は,原告は本件職務停止処分に定められた停止期間の末日である平25
成29年4月5日の経過により同処分の効果がなくなった後においてもなお同
処分の取消しによって回復すべき法律上の利益(行政事件訴訟法9条1項括弧
書き)を有する者とはいえない(争点⑵)から,本件訴えは訴訟要件(訴えの
利益)を欠く不適法なものであって,その余の争点について判断するまでもな
く,本件訴えは却下すべきものであると判断する。その理由の詳細は,次のと
おりである。5
1争点⑵(原告は本件職務停止処分の取消しを求める訴えの利益を有するか)
について
⑴平成27年10月6日付けでされた本件職務停止処分は,A証券に対し,
その所属の外務員であった原告について,同日から平成29年4月5日まで
の1年6か月間,外務員の職務の停止を命ずるものであるところ,上記停止10
期間の末日である平成29年4月5日が経過したことは明らかであるから,
これにより,本件職務停止処分の効力はなくなった。そして,金商法64条
の5第1項は,登録を受けている外務員が同項各号のいずれかに該当する場
合には登録取消処分又は2年以内の期間を定めた職務停止処分をすることが
できる旨を定めているが,これらの処分をするに当たり,当該外務員が過去15
において職務停止処分を受けたことを理由として登録取消処分の選択が義務
付けられ,あるいは,停止期間をより長期のものとするなどの不利益な取扱
いをすべき旨を定めた規定はない。したがって,本件職務停止処分の効果が
なくなった後に同処分を受けたことを理由として法律上不利益な取扱いを受
ける余地はないから,原告は,本件職務停止処分の効果が停止期間の経過に20
よりなくなった後においてもなお同処分の取消しによって回復すべき法律上
の利益(行政事件訴訟法9条1項括弧書き)を有する者には当たらないとい
うべきである。
⑵以上に対し,原告は,被告の定める「考え方」(前提事実⑶)は行政手続
法12条1項に基づく処分基準に当たり,先行の処分を受けたことを理由と25
して後行の処分に係る量定を加重する旨の不利益な取扱いを定めたものであ
るから,原告は,本件職務停止処分の効果が停止期間の経過によりなくなっ
た後においても,上記処分基準の定めにより上記の不利益な取扱いを受ける
べき期間内であれば,なお同処分の取消しによって回復すべき法律上の利益
を有する(最高裁平成27年判決参照)旨を主張する。
アそこで検討するに,「考え方」の内容は前記前提事実⑶のとおりである5
ところ,「考え方」は,まず「処分の検討要素」として,登録取消処分
又は職務停止処分をするに際しては,①法令等違反行為の内容,罰則の
有無及び重さ,常習性(違反回数,行為の期間),取引金額,事故金額,
顧客被害の程度,②過去の行政処分及び自主規制処分の有無,役職,③
情状(故意,隠ぺいの有無,動機,原因,方法,手口,利得の有無等),10
④刑事訴追の有無,反社会的勢力の関与の有無等の諸事情を考慮した上
で,行為の重大性,悪質性,反復可能性,社会的影響度等につき総合的
に審査する旨を明らかにしているのであり,過去の行政処分及び自主規
制処分の有無については,上記①~④のような審査の際に考慮される事
情の一つとして掲げるにとどめている。15
また,「考え方」は,上記「処分の検討要素」に続いて,「審査の指
針」との表題の下に具体的な審査の在り方を定めているが,ここにおい
ても,まず,登録を受けている外務員が金商法64条の5第1項2号又
は3号に該当する場合につき,その行為が金融商品取引業の信用を著し
く失墜させるものであるときは登録取消処分とし,これに至らないもの20
であるときは職務停止処分の検討を行うとした上で,その検討に当たっ
ては,上記①の各事情に応じた処分とすることを基本に,上記②の事
情(過去の行政処分等の存在,役職の高さ)に応じて加重し,上記③の
事情(情状)に応じて加重又は軽減するなどとしている。次に,特に再
違反行為の場合(1月を超える期間の処分を受け,その決定を受けた日25
から5年以内に,再度1月を超える期間の処分に相当する事由が生じた
場合等)については,登録取消処分を原則とし,登録取消しとならない
場合であっても重い職務停止処分とする旨を定めているが,いかなる場
合に職務停止処分の選択が許されるかを定めるものではなく,また,職
務停止処分を選択する場合にどの程度の停止期間とすべきかについても
定めるものではない。一方,金商法29条の4第1項2号イからトまで5
に定める欠格事項のいずれかに該当することとなり,その起因となった
行為が金融商品取引業に関連するものである場合や刑法上の重大な犯罪
である場合等には,登録取消処分とする旨を定めている。
以上のように,被告の定める「考え方」は,欠格事項に該当し一定の条
件を満たす場合には登録取消処分とする旨を定めているものの,基本的10
には,上記①~④のような諸事情を考慮した上で総合的に審査すべきも
のとしているのであり,過去の行政処分等の有無も,審査の際に考慮さ
れる諸事情の一つとして基本的に位置付けられ,そのうち,1月を超え
る期間の処分を受けた者について5年以内に再度1月を超える期間の処
分に相当する事由が生じたなどの再違反行為の場合についても,登録取15
消処分を原則とし,そうでない場合には重い職務停止処分とする旨が定
められているにとどまるのであって,どのような条件を満たせばどのよ
うな処分がされるかという対応関係が明確に定められているとはいえな
い。
そうすると,「考え方」は,被告が内閣総理大臣から委任を受けた権限20
により金商法64条の5第1項に基づく裁量権を行使するに当たって,
審査の過程で表れた諸事情を考慮した上で総合的に審査すべきこと及び
各事情の具体的な考慮の在り方に関する基本的な考え方ないし指針を定
めたものというべきであり,その裁量権の行使を拘束するものとして定
めたものということはできないから,行政手続法12条1項に基づいて25
定められ公にされている処分基準に当たるということはできない。
イなお,「考え方」が定められるに至った経緯(前提事実⑶)をみると,
法令等違反行為の抑止を目的として処分の在り方全般について検討する
ために被告内に設置されたワーキンググループの検討結果において,処
分全体に通ずる考え方を示すこととすれば処分の透明性及び予見可能性
が高まり法令等違反行為の抑止の一助となるため,被告が処分において5
考慮してきている処分の検討要素や審査に際しての指針について明示す
ることが望ましい旨の提言がされたことを受けて「考え方」が定められ
たと認められるのであって,このような経緯に照らしても,「考え方」
は,具体的な処分の量定等を定めることにより被告による裁量権の行使
を拘束する趣旨で定められたものではないといえる。10
また,被告における実際の運用としても,例えば本件において,原告は,
①みなし公務員であるC基金担当者に対する贈賄により懲役10月執行
猶予3年の有罪判決を受け,本件職務停止処分の時点では執行猶予期間
が満了していなかったのであるから,金商法29条の4第1項2号ハに
該当していたものであり,かつ,②その起因となった行為は,A証券に15
おける本件営業部でC基金に対する金融商品販売を担当していた原告に
より,顧客であるC基金に対する接待として行われたもので,金融商品
取引業に関連するものといえるから,「考え方」の定め(欠格事項該当
の場合)に従えば登録取消処分が選択されるはずである。それにもかか
わらず,被告はこの定めとは異なって職務停止処分を選択したのであり,20
このことによっても,被告自身が,「考え方」につき被告の裁量権の行
使を拘束するものとは認識しておらず,あくまでも処分に関する基本的
な考え方ないし指針を定めたものとの理解に立った上で,本件において
は原告に酌むべき事情があること等も考慮して職務停止処分を選択した
ことがうかがわれる。25
ウ以上のとおり,被告の定める「考え方」は,被告が金商法64条の5第
1項に基づく裁量権を行使するに当たっての基本的な考え方ないし指針を
定めたものにとどまるというべきであり,行政手続法12条1項に基づく
処分基準に当たるということはできない。そうすると,原告が,「考え
方」の定めにより,先行する本件職務停止処分を受けたことを理由として
後行の処分に係る量定を加重する旨の不利益な取扱いを受けるということ5
もできないから,この点からも,本件職務停止処分の効果が停止期間の経
過によりなくなった後においてもなお同処分の取消しによって回復すべき
法律上の利益を有する者に当たらないというべきである。したがって,原
告の上記主張は採用することができない。
⑶以上のほか,原告は,本件職務停止処分を受けたことにより被告が指定す10
る研修を受講しなければならないこと,過去に一定の処分を受けたことが外
務員登録原簿に記載されることなどを挙げて,原告が本件職務停止処分の取
消しによって回復すべき法律上の利益を有する旨を主張する。
しかしながら,処分の取消しの訴えは,その処分によって違法に自己の権
利又は法律上保護されている利益の侵害を受けた者がその処分の取消しによ15
って上記の法益を回復することを目的とする訴えであるから,処分の取消し
の訴えについて訴えの利益を肯定するためには,当該処分によって権利又は
法律上保護されている利益が侵害され,処分の取消しにより当該法益を回復
する可能性があることを要し,当該処分によって事実上の不利益が残存した
としても,それをもって行政事件訴訟法9条1項括弧書きにいう「処分の取20
消しによって回復すべき法律上の利益」に当たるということはできない(最
高裁昭和53年(行ツ)第170号同55年1月25日第二小法廷判決・裁
判集民事129号121頁,最高裁昭和53年(行ツ)第32号同55年1
1月25日第三小法廷判決・民集34巻6号781頁,最高裁昭和56
年(行ツ)第119号同年12月18日第二小法廷判決・裁判集民事13425
号599頁,最高裁昭和56年(行ツ)第171号同58年4月5日第三小
法廷判決・裁判集民事138号493頁等参照)。
これを本件についてみるに,被告が定めた「協会員の外務員の資格,登録
等に関する規則」(乙12)には,被告の協会員は,職務停止処分を受けた
者について速やかに被告が指定する研修を受講させなければならない旨の定
め(13条)があるところ,上記規則は,認可金融商品取引業協会である被5
告の自主的規制として定められたものであって,金商法その他の法令の委任
に基づくものではないと解されるから,仮に,原告が本件職務停止処分を受
けた結果として上記の研修を受講することとなったとしても,それは事実上
の不利益にすぎないものといわざるを得ない。また,上記規則3条に基づき
作成される外務員登録原簿に原告が本件職務停止処分を受けた旨が記載され10
ることに関しても,これにより原告が法令上不利益な取扱いを受けると認め
ることはできず,仮に名誉や信用等の社会的評価が低下するなどの不利益が
生じるとしても,事実上の不利益にすぎないものといわざるを得ないから,
これらの主張に係る不利益をもって,訴えの利益を基礎付ける権利又は法律
上保護されている利益が侵害されているということはできない。15
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
2よって,その余の争点について判断するまでもなく,本件訴えは訴訟要
件(訴えの利益)を欠き不適法であるから,これを却下することとして,主文
のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第51部
裁判長裁判官清水知恵子25
裁判官進藤壮一郎
裁判官池田美樹子

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◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
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残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
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連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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応募方法
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