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裁判例


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          主          文
1 本件控訴及び附帯控訴に基づき,原判決を次のとおり変更する。
(1) 控訴人(附帯被控訴人)は,被控訴人(附帯控訴人)らに対し,各金868
万2759円及び内金845万8019円に対する平成11年1月18日から支
払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被控訴人(附帯控訴人)らのその余の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを10分し,その6を控訴人(附帯被控訴
人)の負担とし,その余を被控訴人(附帯控訴人)らの負担とする。
3 この判決は,1(1)限り,仮に執行することができる。
          事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人(附帯被控訴人,以下「控訴人」という。)
(1) 原判決中,控訴人敗訴部分を取り消す。
(2) 上記取消しにかかる被控訴人(附帯控訴人,以下「被控訴人」という。)らの請
求をいずれも棄却する。
(3) 被控訴人らの附帯控訴を棄却する。
(4) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。
2 被控訴人ら
(1) 原判決を次のとおり変更する。
(2) 控訴人は,被控訴人らに対し,各1400万1259円及びこれに対する平成11
年1月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。(ただし,内金
各22万4740円については,当審において確定遅延損害金の請求が予備的に
追加された。)
(3) 控訴人の本件控訴を棄却する。
(4) 訴訟費用は,第1,2審とも控訴人の負担とする。
第2 事案の概要
 本件は,自転車で走行中,交通事故に遭って死亡した被害者の遺族である被控
訴人らが,加害者である控訴人に対し,不法行為に基づく損害賠償を求めた事案
であり,争いのない事実等及び争点(当事者の主張を含む。)は,次のとおり,原判
決を訂正し,当審主張を付加するほか,原判決「事実及び理由」の「第二 事案の
概要」の各該当欄に記載のとおりであるから,これを引用する。
1 原判決の訂正
 原判決6頁4行目の「二二四七万円」を「2247万4050円」と改める。
2 控訴人の当審主張
(1) 逸失利益の中間利息控除の割合について
ア 将来損害の計算要素の中で,中間利息のみあげつらうことは全体の慣行の
バランスを崩すものであり,この点のみを変更することで,将来損害の算定が
正確なものとなるとは思われない。
イ わが国において,今後さらに12年もの間,ゼロ金利時代が継続するとは考
えにくい。公定歩合,預金金利等の金利の動向を予測するのは困難であり,
実務慣行として確立し,伝統的確信の域に達している5%論に帰るのが正当
な判断と思われる。
ウ 鑑定的意見を述べるD弁護士の意見要旨は,中間利息控除は法的事実認
定の問題であって,経済予測ではないことを前提に,①長期間の資金運用利
益の水準は推定困難であること,②遅延損害金における法定利率とのバラン
スを考慮する必要があること,③年5%の利率が長期間にわたって実務に採
用されてきており,法的安定性ないしは裁判の予測性を保つためには,容易
に他の比率を採用すべきでないことなどの理由をあげ,比較的短期と思われ
る12年の期間についても,5%を維持すべきであるとしている。
(2) 慰謝料額について
ア 原審が認定するように,被害者方では夫である亡Aが一家の経済的支柱で
あったところ,実務慣行としては,一家の経済的支柱の死亡の場合でも慰謝
料は2500万円前後とされ,2700万円はあまりに高額すぎる。
イ 原判決は,控訴人が飲酒していたことに悪質性を認め,慰謝料を増額したと
も考えられるが,被害者においても,深夜2m幅の歩道があり,1m幅の路側
帯がある本件道路で,車道に80cm程進入して走行していた被害者の落ち度
も考慮されるべきである。
(3) 確定遅延損害金の請求について
 本件事故の発生から自賠責保険金が支払われるまで,219日のずれがある
が,保険請求側にも様々な事情があり,請求行為自体が遅れることもあるため,
その間の損害金は問わないとするのが社会慣行であり,法的確信として確立し
ていると解すべきである。
3 被控訴人らの当審主張
(1) 自賠責保険金の確定遅延損害金
 亡Bの保険金等として,平成11年8月24日に2247万4050円が支払われ,
同額は損害賠償債権の元金に充当された。
 そうすると,事故発生日である平成11年1月18日から上記支払日までの確定
遅延損害金は67万4221円となるから,被控訴人らは,控訴人に対し,上記金
員の各3分の1である22万4740円の支払を求める。
(計算式)22,474,050×0.05×219/365=674,221(円)
(2) 中間利息控除の利率について
 東京地方裁判所のC部総括裁判官が,「損害賠償額算定基準」(いわゆる赤い
本2001)において,「労働能力喪失期間が数年という事案では,ここ3,4年で
実質金利が年5分に戻るとは考えにくいことから,年5分の利率により中間利息
を控除することの合理性を説明することは必ずしも容易ではありません。この場
合には共同提言にいう「特段の事情」があるものとして,年5分を下回る利率に
よる中間利息を控除する考え方も成り立ちうることです。」と述べるように,被害
者が高齢者である本件においては,現実の利率の運用の実態に合わせること
が合理的であるから,年2%とするのが最も妥当である。
 日本銀行が平成13年2月9日に公定歩合を5年半ぶりに引き下げて年0.35
%とするとともに,ロンバート型貸出しの新設を決めて超金融緩和の効果を市場
のすみずみまで浸透させ,コールレートの誘導水準を0.25%とする金融政策
を打ち出し,さらに,平成13年3月19日に「金融市場調整方式の変更と一段の
金融緩和措置について」を発表して,事実上のゼロ金利政策への回帰を決定し
たことにより,年5%論者が期待している民法所定の金利への復活は,さらにい
つ来るかもしれない永遠の彼方の物語となってしまった。平成13年4月15日の
日本経済新聞によると,10年もののスーパー定期の金利は税引き前で0.356
%,郵便局の定額性貯金は税引き前で0.090%でしかない。現実の金利運用
のこのような実態は長期に続くことが確実性をもって予想できるから,年2%であ
っても何ら不合理ではない。
(3) 過失相殺すべきでないことについて
 原審においては,控訴人は過失相殺の主張はしないとして,審理が進められ
た。よって,当審において,控訴人が被害者の落ち度を主張することは,信義に
反するだけではなく,時期に後れた攻撃防御方法として排斥されるべきである。
第3 当裁判所の判断
 当裁判所は,控訴人は,被控訴人らに対し,各868万2759円及び内金845万
8019円に対する平成11年1月18日から支払済みまで年5分の割合による金員
を支払うべきものと判断するが,その理由は,以下に原判決を訂正し,当審主張に
対する判断を付加するほか,原判決「事実及び理由」の「第三 争点に対する判
断」欄に記載のとおりであるから,これを引用する。
1 原判決の訂正
(1) 原判決19頁11行目冒頭から22頁2行目末尾までを次のとおり改める。
「4 中間利息控除
 控訴人は,中間利息控除の割合を年2%とすべきであると主張する。
 なるほど,逸失利益の算定における中間利息の控除は,被害者が将来の一
定の時点で受けるべき賠償金を被害者の死亡時点における現価に換算して
算定するため,当該将来の時点までの一般的な運用利益に相当する金員を
控除する趣旨により行われるものであるところ,一般的な運用利益を考えるに
ついては,公定歩合,預金金利等の動向も斟酌されるべきものということがで
きる。そして,証拠(甲30,32,64ないし66,84)によれば,わが国の公定
歩合は,平成3年末には4.50%であったものが,平成4年末には3.25%,
平成5年末に1.75%となり,平成7年末には0.50%となって,以後も低水
準で維持されていること,市中銀行の市場金利も低下し,長期10年ものの1
000万円以上の大口定期預金の利率でさえ,平成11年1月時点で,第一勧
業銀行,三和銀行が各1.15%,富士銀行が1.00%であること,平成12年
2月11日の日本経済新聞によると,新発10年国債の利回りは1.85%であ
ること,平成13年4月15日の日本経済新聞によると,10年もののスーパー
定期の金利は税引き前で0.356%,郵便局の定額性貯金の利回りは高くて
も税引き前で0.090%でしかないことが認められる。そして,このような低金
利の状況はいわゆるバブル経済の崩壊後継続しており,今後近い将来に金
利が年5パーセントに達するとの予測を立てるのは困難であることは,公知の
事実である。
 しかし,公定歩合,預金金利等が今後も長期間低い水準で推移するかどう
かについてはなお予見しがたいものがあり,今後数年間程度ならば格別,亡
Bが死亡した平成11年1月からその就労可能年数である12年間という期間
を考えると,確実な予見は困難というべきである。
 また,中間利息控除は,実務において,被害者の将来収入,稼働予測期
間,生活費控除率など,種々の不確実な要素を数値化し,逸失利益を算定す
るに際し,長年にわたり年5%の割合によって行われてきたものであり,この
割合のみを見直すという手法をとるについては慎重であるべきこと,法的安定
性,裁判の予測可能性に対する配慮も必要であること,遅延損害金における
法定利率とのバランスも無視することはできないことなどをも総合して考慮す
ると,本件において亡Bの逸失利益を算定するについては,中間利息控除の
割合を5%とするのが相当と解される。
5 以上による逸失利益の算定
 就労可能年数経過前は,1536万0280円となり(計算式①),就労可能年
数経過後は,119万4558円となって(計算式②),これらの合計額は1655
万4838円である。なお,死亡時から12年間の年5%のライプニッツ計数は,
8.8632,その後の12年間の年5%のライプニッツ計数は(13.7986-
8.8632)である。
(計算式)
①2,888,400×(1-0.4)×8.8632=15,360,280(円)
②605,097×(1-0.6)×(13.7986-8.8632)=1,194,558(円)」
(2) 同26頁6行目冒頭から7行目末尾までを次のとおり改める。
「 以上の小計は,4514万8108円となり,ここから填補額を控除すると2267
万4058円となる。」
(3) 同27頁6行目冒頭から7行目末尾までを次のとおり改める。
「 被控訴人らの損害額合計は2537万4058円(被控訴人ら各自につき845
万8019円)となり,後記2(3)の確定遅延損害金各22万4740円を加えると,
被控訴人ら各自の認容額は,868万2759円及び内金845万8019円に対
する不法行為の日である平成11年1月18日から支払済みまで年5分の割合
による金員となる。」
2 当審主張に対する判断
(1) 控訴人の当審主張(1),被控訴人の当審主張(2)(中間利息控除の割合)につ
いては,上記1(1)に説示のとおりである。
(2) 控訴人の当審主張(2)(慰謝料額)について
 たしかに,引用にかかる原判決の認定事実によれば,亡Aが一家の経済的支
柱であったと認められ,また,証拠(甲36ないし38)によれば,亡Bは,2m幅の
歩道があり,1m幅の路側帯がある本件道路で,車道に80cm程進入して走行
していたことが認められる。
 しかし,これらの事情を考慮しても,引用にかかる原判決の認定・判断(第三の
三)のとおり,亡Bの死亡による慰謝料は,2700万円と認めるのが相当であり,
控訴人の上記主張は採用できない。
(3) 被控訴人らの当審主張(1),控訴人の当審主張(3)(確定遅延損害金)について
 証拠(甲12)によれば,控訴人らは,平成11年8月24日,自賠責保険金224
7万4050円を受領したことが認められ,弁論の全趣旨によれば,同金員は,損
害賠償金の元金に充当されたものと認めるのが相当である。
 そうすると,事故発生日である平成11年1月18日から上記支払日までの確定
遅延損害金は67万4221円となるから(計算式),被控訴人らは,控訴人に対
し,上記金員の各3分の1である22万4740円の支払を求める権利を有する。
 控訴人は,自賠責保険金については支払までの損害金は問わないとするのが
社会慣行である旨主張するが,被控訴人らにおいて,同損害金請求権を明示又
は黙示に放棄したという事実はこれを認めるに足りる証拠はないから,確定遅
延損害金請求権は存続しているものと解さざるを得ず,控訴人の上記主張は採
用できない。
(計算式)22,474,050×0.05×219/365=674,221(円)
られる。
(4) 被控訴人らの当審主張(3)(過失相殺)について
 引用にかかる原判決の認定事実(第三の三の1)及び上記2(2)の認定事実を
総合すると,当裁判所は,本件につき亡Bの若干の落ち度は認めるものの,過
失相殺をしないのが相当であると判断する。
第4 結論
 よって,本件控訴及び附帯控訴に基づき,上記と異なる原判決を変更することと
し,訴訟費用の負担につき民訴法67条2項,61条,64条,65条を,仮執行宣言
につき同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。
  名古屋高等裁判所民事第3部
      裁判長裁判官   福   田   晧   一
         裁判官   内   田   計   一
         裁判官   倉   田   慎   也

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