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平成20年3月26日宣告
平成19年(わ)第168号,第190号,第217号,第268号,第269号,
平成20年(わ)第13号
主文
被告人Xを懲役6年に,被告人Yを懲役3年6月に,被告人Zを懲
役3年に処する。
被告人らに対し,未決勾留日数中各90日を,それぞれその刑に算
入する。
被告人Zに対し,この裁判が確定した日から4年間その刑の執行を
猶予する。
被告人Xから,山形地方検察庁で保管中の大麻1袋(平成20年領
第16号符号1)を没収する。
理由
(罪となるべき事実)
第1被告人Xは,
1Aと共謀の上,投資名下に現金を詐取しようと企て,真実は受領した現金
を第三者に貸さず,また,利息を付けて返済する意思も能力もないのに,これあ
るかのように装い,
(1)平成16年4月22日ころ,山形県a市大字b番地c所在のB(当時2
1歳)方にいた同人の携帯電話に電話をかけ,同人に対し,被告人Xが,「ある
社長に150万円貸すと,1か月後に30万円プラスになって返ってくる。借用
書も書くし,社長の全財産を担保に取っている。もし返ってこなかった場合,す
ぐに弁護士にかけてもらえば100パーセント返ってくるお金だから。最初にこ
の話に乗ってくれた人には10万円ずつやっているんだ。絶対間違いのないもう
け話だから,明日出てきてやってみないか。」などとうそを言い,同月23日,
同県a市大字b番地の4所在のO駅前店駐車場において,被告人Xが,上記Bに
対し,「塗装屋の社長をやっている人に150万円貸すと,1か月後にプラス3
0万円の180万円になって返ってくる。借りた150万円は建設会社の社長た
ちに貸すんだ。今,銀行も簡単に金を貸さないし,サラ金から借りるとイメージ
悪くなるから,建設会社の社長も借りてくれる。」などとうそを言い,さらに,
同日,a市bc丁目d番e号所在のO二丁目店駐車場において,被告人Xが,上
記Bに対し,「今回準備してもらったのは130万円なので,1か月後にはプラ
ス20万円の150万円を返すから。」などとうそを言った上,上記Aが,上記
塗装屋の社長を装い,上記Bに対し,「1か月後くらいには必ず150万円にし
て返すから。」などと申し向けて借用書を交付し,上記Bをしてその旨誤信させ,
よって,同日,同所において,同人から現金130万円の交付を受け(平成19
年12月27日付け被告人Xに対する公訴事実第1),
(2)同年11月16日ころ,同県a市周辺を走行中のC(当時21歳)運転
の普通乗用自動車内において,同人に対し,被告人Xが,「俺の知り合いの金貸
しを通じて会社の社長に200万円貸すと,2か月後に60万円増えて返ってく
る。借用書も書く。やってくれるなら,最初に10万円やる。俺もこれでだいぶ
もうけたんだ。絶対に間違いない話だから。金がないならサラ金から借りればい
い。」などとうそを言い,上記Cをしてその旨誤信させ,よって,同月19日,
別表記載のとおり,前後4回にわたり,同県a市bc番地所在の株式会社O店駐
車場ほか3か所において,同人から現金合計180万円の交付を受け(平成19
年12月27日付け被告人Xに対する公訴事実第2),
2D,Eらと共謀の上,
投資名下に現金を詐取しようと企て,平成18年9月中旬ころ,a市bc二丁
目d番e号所在のPにおいて,F(当時20歳)に対し,真実は,受領した現金
を企業に貸し付ける意思もなく,これに利息を付けて同人に返済する意思も能力
もないのに,これあるように装い,被告人Xが,「俺の会社に投資しないか。俺
は東京で企業だけに金を貸す貸金業をしている。お金を貸しても会社の不動産な
どを担保に取っているから,貸した金を取り損ねたということはない。」,「投
資した金額の1割を1か月あたりの利息にして計算する。2か月金を貸して欲し
い。だから2か月後には元金に2か月分の利息を上乗せして返す。」などとうそ
を言い,上記Fをしてその旨誤信させ,よって,同月22日午後3時10分ころ,
a市bc丁目d番地先路上において,同人から現金170万円の交付を受け(平
成19年10月17日付け公訴事実),
3D,Eと共謀の上,
貸金業への投資名下に現金を詐取しようと企て,平成19年4月中旬ころ,同
市bc丁目d番e号Q店駐車場に駐車した普通乗用自動車内において,真実は,
被告人らは貸金業等を営んでおらず,受領した現金に利息を付けて返済する意思
も能力もないのに,これあるように装い,かつ,受け取った現金は自らの用途に
費消する意図であるのに,これを秘し,上記DがG(当時22歳)に対し,「知
り合いにまとまったお金を預けて,その人が利益を出してお金をもらうの。私も
アイフルとかから借りて,それを預けてる。預けて2か月すると知り合いからお
金を返してもらえるし,それで完済できるから。」などとうそを言い,同月29
日ころ,同市bc丁目d番e号R二丁目店駐車場に駐車した軽四輪乗用自動車内
において,被告人Xが,上記Gに対し,「消費者金融から借りればいいんだよ。
お金を渡してくれたら,すぐに消費者金融への2か月分の支払いは先払いするし,
間違いなく2か月後に借り入れ分と一緒に利息も払う。例えば100万円を預け
れば,利息は1か月に10パーセントの割合でつくし,それが2か月間だから2
0万円になる。だから120万円を2か月後に返すことになるんだ。借用書も書
くから。」などとうそを言い,上記Gをしてその旨誤信させ,よって,いずれも
同人から,同年5月1日午前10時30分ころ,同市ab丁目c番d号S株式会
社T支店駐車場において,現金20万円,同日午後4時ころ,同市bc丁目d番
e号U駐車場において,現金150万円の各交付を受け(平成19年12月27
日付け被告人X及びDに対する公訴事実),
もって,それぞれ人を欺いて財物を交付させ,
4みだりに,平成19年9月2日,同市ab丁目d番e号VB棟206号室
の当時の被告人X方において,大麻約3.27グラム(平成20年領第16号符
号1)を所持し(平成20年2月1日付け公訴事実),
第2被告人X,同Yは,分離前の相被告人Hと共謀の上,前記第1の3同様企
て,平成19年8月21日午後9時ころ,同市bc丁目d番e号有限会社▽▽店
駐車場において,前記第1の3同様装い,かつ,前記第1の3同様秘し,上記H
がI(当時21歳)に対し,「さっき仕事の話を聞いたけど,正直大変だよね。
俺も前までは親が蒸発して,借金を抱えていて,本当に大変だったんだ。だけど,
今は,知り合いの社長から頼まれた仕事をして稼いでるんだ。その社長と知り合
ってから,すぐにお金が稼げて借金を返せた。どう,考えてみない。」などとう
そを言い,同日午後11時ころ,同市bc丁目d番e号N二丁目店駐車場に駐車
した軽四輪乗用自動車内において,被告人Yが,上記Iに対し,「お金借りても
らって,一旦社長に預けると簡単にお金が稼げるんだよ。前にこの話をしていた
人が急にやらないってなって困っているの。お願い。やってくれない。」などと
うそを言い,さらに,そのころ,同所において,被告人Xが,上記Iに対し,
「借りてもらったお金の利息分もあらかじめ渡すから,お金なくてもできるんだ。
預けてもらったお金には,月10パーセントの利息が付くし,2か月したら預け
てもらった元金にその利息も付けて返すから,絶対に損はしない。借用書も書く
よ。借りてくれたら,バイト代も払う。」などとうそを言い,上記Iをしてその
旨誤信させ,よって,いずれも同人から,同月22日午後5時40分ころ,同市
bc番d号M店駐車場において,現金130万円,同日午後6時15分ころ,同
市bc丁目d番e号L店駐車場において,現金50万円の各交付を受け,もって,
人を欺いて財物を交付させ(平成19年11月7日付け公訴事実),
第3被告人ら3名は,上記Hと共謀の上,金品を強取しようと企て,平成1
9年8月31日午前1時30分ころ,同市大字a地内KK公園南駐車場において,
J(当時21歳)に対し,被告人X及び上記Hが,上記Jの顔面及び腹部等を手
拳で多数回殴打し,さらに,その腹部及び両足等を多数回足蹴にするなどの暴行
を加え,その反抗を抑圧して,同人所有又は管理に係る現金約1万600円在中
の財布1個及び軽四輪乗用自動車1台(時価合計約80万4000円相当)を強
取し,その際,上記暴行により,同人に全治約10日間を要する顔面・右上肢・
右下肢挫創,体幹・両下肢打撲症の傷害を負わせた(平成19年9月21日付け
公訴事実)。
(証拠の標目)
省略
(事実認定の補足説明)
まず,判示第3の強盗致傷(以下「本件犯行」という。)について,①被告人
X(以下「X」という。),同Y(以下「Y」という。)及び同Z(以下「Z」
という。)は,公判廷において,いずれも「金員を強取しようと企てたことはな
い,」,「綿密な話合いはしていない。」などと判示共謀を否定する趣旨の供述
をし,同人らの弁護人もこれに沿い,いずれも,本件公訴事実の外形的事実の存
在は争わないとした上で,本件犯行の共謀はしていない旨主張する。
さらに,②Xは,判示札入れ(以下「本件財布」という。)の奪取につき,本
件犯行の被害者(以下,単に「被害者」という。)を「困らせることが目的であ
って,お金を取ることが目的ではありません。」などと述べ,同人の弁護人も,
本件財布及び判示軽四輪乗用自動車(以下「本件車」という。)の奪取につき不
法領得の意思はない旨主張し,Yの弁護人も,予備的主張として,本件車の強取
につきYには不法領得の意思がない旨主張している。
そこで,以下,これらの点に対する当裁判所の判断を示すこととする(なお,
日時については,断りのない限り,平成19年のものを指す。)。
第1前提事実
検察官及び弁護人らが特段その存否を争っておらず,各被告人の公判供述を含
む関係証拠より認められる本件犯行前後の状況及び犯行状況等は概ね以下のとお
りである。
1被告人らの関係等
X,分離前の相被告人H(以下「H」という。)及びYは,かねてからいわ
ゆる出会い系サイトで知り合った男性に対し,虚偽の投資話を持ちかけ,投資名
下に金員を詐取するなどという犯行を繰り返していた。
また,YとHはかねてから交際していた。
Zは,8月下旬ころ,以前いわゆるナンパされ,2回ほど遊んだことがあった
Xと偶々再会し,同人は当時無職だったZに対し,飲んで盛り上げる仕事を紹介
する旨の話をした。
2本件犯行に至る経緯
(1)Yは,8月下旬ころ,被害者と出会い系サイトで知り合い,X,H及び
Yは,同人から投資名下に金員を詐取するべく,同月26日,バーベキューや飲
酒をするなどした。なお,その際,被害者は参加者らより,「酒豪」などと呼
ばれていた。
そして,上記バーベキューの際,Xが被害者に虚偽の投資話を持ちかけたとこ
ろ,同人は投資を承諾する旨の返事をした。
しかし,その後,被害者は酔いつぶれてしまい,Xらに送られてビジネスホテ
ルに宿泊した。
(2)X及びYは,同月27日,ビジネスホテルに被害者を迎えに行き,同人
に金員を準備させるために,消費者金融の無人契約機に連れて行ったが,同人が,
カードが作れなかったなどと虚偽を述べて金員を借りようとしなかったため,X
らは,投資金名目での金員の詐取を断念した。
(3)Xは,同月30日午後9時ころから,Y,Z及びHらとa市内の居酒屋
で飲酒するなどした。
その際,Xが,「やっちゃおうか。」などと発言したところ,H,Y及びZも
これを了承し,被害者を呼び出し,暴行を加える旨の合意をした。
Yは,同日午後11時ころ,被害者に「ナニしてる!?」,「足湯に行きた
い」などと被害者を呼び出す旨のメールを送ったところ,同人はこれを承諾した。
(4)被告人らは,同月31日午前1時過ぎころ,居酒屋の閉店時刻となった
ため店外に出た。その際,Xが,Zに対し車を貸すように依頼すると,同人はこ
れを承諾した。
そして,ZはYの車に乗り,同人と共に被害者との待ち合わせ場所であるa市
内のコンビニエンスストア(以下「コンビニ」という。)に行った。
(5)Y及びZが被害者と上記コンビニで落ち合うと,何をして遊ぶかという
話になり,Yらが「KKに夜景を見に行きたい。」などと述べたので,これを承
諾した被害者と共に本件車に乗り込み,判示公園の駐車場(以下「本件駐車場」
という。)に向かった。
(6)他方,Xは,Hと共にZの車に乗り,コンビニでタオル,軍手,はさみ,
生卵及びコーラを購入するなどした上で,本件駐車場に赴いた。
3本件犯行状況等
(1)Y及びZは,本件駐車場に到着すると,「こっちだったら夜景見えるか
な。」などと言い,被害者と共に本件駐車場西側に行った。
すると,先に到着していたXとHは,それぞれ顔面の下半分にタオルを巻くな
どした上で被害者に近づき,同日午前1時30分ころ,被害者が身につけていた
ネックレスを引きちぎった上,同人の顔面及び腹部等を手拳で多数回殴打するな
どし,さらに,その腹部や両足等を多数回蹴るなどの暴行を加えた上,コーラを
掛け,生卵をぶつけるなどした。そして,同人らは,被害者のポケットの中から
本件財布,本件車の鍵及び携帯電話を奪い,携帯電話はその場で折り,これを破
壊した。
なお,その際,Y及びZらは少し離れたところからその様子を見るなどしてい
た。
(2)その後,Xは,Hが被害者に対してなお暴行を加えている最中に,Y及
びZに対し,「遊びに行くべ。」などと言って本件車に乗るように促したところ,
Y及びZはこれに乗り込み,Xがこれを運転して本件駐車場を出た。そして,Z
やYは,本件車内に自己の指紋が付着しないように,自席付近を軍手で拭くなど
した。
また,Hは,Xらが本件駐車場を出た後,Zの車に乗ってその場を後にした。
(3)Xらは,本件車を運転し,本件駐車場から約1.5キロメートル離れた
山形市内の果樹園に本件車を止めると,Hがこれを鉄パイプで叩くなどして壊し
た上,その場に放置するなどした。
その際,YとZはその様子を見るなどしていた。
(4)それから被告人ら3名とHは,Zの車に乗って移動し,Y及びZは,上
記コンビニ付近でX及びHと一旦別れ,同コンビニに停車していたYの車に乗り
込むなどした。
そして,Y及びZは,再度X及びHとX宅付近のコンビニで合流し,Xは,H,
Y及びZに対し,「財布に1万円入ってたんだけどもらっていい。」などと言っ
たところ,皆これを承諾し,その後,解散した。
その後,夜が明けると,X,Y及びZは,Hの指紋が付着した卵のパックを本
件駐車場に置き忘れてきたため,それを回収するべく本件駐車場に向かうなどし
た。
第2本件犯行の共謀及び不法領得の意思の有無について
1前記認定に係る前提事実からの推認
(1)以上を前提にすると,弁護人らも特にその存在を争わず,前記認定事実
から優に認められるところの本件公訴事実の外形的事実及びXとHの実行行為の
内容は,Yが被害者を呼び出し,被害者運転車両にYとZが同乗して,判示深夜
の時間帯に,判示山中の公園駐車場まで被害者を連れて行き,Yらとは無関係で
あることを装い覆面をしたHとXが,少し離れたところにいるYとZの目の前で,
2人がかりで被害者の顔面及び腹部等を手拳で殴打し,腹部及び両足等を足蹴に
するなどの暴行を加え,反抗できない状態となっている被害者から本件財布,本
件車の鍵及び携帯電話を奪い取り,さらにHが被害者に対する同様の暴行を加え,
被害者が同様に反抗できない状態にある最中に,XがYとZを促して被害者が乗
ってきた本件車に同乗させてこれを約1.5キロメートル運転して移動させ,そ
の後,Hが,本件駐車場まで乗り付けていたZの車に乗って合流し,Hが本件車
を鉄パイプで叩いて壊すなどして,その場に放置して立ち去ったというものであ
る。
そうすると,これらXとHの実行行為の外形,すなわち,深夜の人気のない山
中で,2人がかりで加えられた暴行により反抗ができない状態となっている被害
者から,判示現金在中の本件財布及び本件車の占有を奪って移転し,その際,被
害者を負傷させた行為は,強盗致傷罪の外形的事実に該当するものと優に評価す
ることができる。
しかも,本件は,このような外形的事情のうち,YとZが,Xによる本件財布
の占有取得行為を認識していたか否かを除けば,とりわけ,本件車の占有移転行
為を含めてその余の外形的事実を,犯行現場にいた被告人3名が認識していたこ
とも優に認められ,また,Hは本件公訴事実を争っていないという事案である。
(2)そして,上記のような実行行為の外形的事情に関する各被告人の認識の
程度に加え,本件においては,前記認定のとおり,X,Y及びZは,Hと本件犯
行前飲食を共にし,その際,少なくとも,山中に呼び出した被害者を痛めつける
ことについて合意していたことが認められるところ,その後,一方で,Hは,本
件犯行時にXが本件車の鍵を奪ったのを現認し,かつ,それに協力しており,他
方で,Y及びZは,犯行後,Xが本件財布内の現金を自己のものにする旨の承諾
を求めた際,何らの異議も驚きも示すことなくこれを承諾するなどしていたこと
に加えて,とりわけ,X及びHが被害者に対する前記認定に係る暴行を開始した
直後に,ネックレスを引きちぎるという身体的な苦痛を与えるに止まらぬ行為に
及んでいる事態の推移について,何ら異議を唱えることもなくその状況を見るな
どしていたところ,Xが,Hが被害者に暴行を加えている間に,Y,Zに本件車
に乗るよう促し,従って,同人らにも,Xが被害者からその場で本件車の鍵を奪
ったことが明らかな状況で,現場にはZの車があったにもかかわらず,躊躇なく,
本件車に乗り込み,Xがこれを運転し,Hに殴られている被害者を置き去りにし
て,約1.5キロメートルの距離を移動しており,その後Hも合流して本件車の
損壊行為に及んでいることなどに鑑みると,被告人3名とHとの間に,現場にお
いて,被害者からの財物強奪に関する共謀が成立していたことは明らかであるば
かりか,そもそも,事前に,判示時刻に判示場所へ呼び出した被害者を痛めつけ
ることについては合意していた被告人3名とHが,現場における謀議なく,財物
強奪に関する共謀を前提とした前記行為に及んでいる経緯や奪取犯に対する無頓
着ともいえる被告人らの態度を併せ考慮すると,本件財物強奪に関する事前の共
謀が成立していたことも,相当に強く推認されるというべきである。
(3)また,前記認定のとおり,Xは,本件財布や本件車の鍵を被害者から取
るなどしているばかりか,その鍵を用いて本件車を自ら運転して,被害者を置き
去りにするために,本件犯行現場から移動するなどしている上,とりわけ,本件
犯行後,それまで保管し続けていた本件財布内の現金を自己のものにしているの
であって,これらXの本件犯行状況等に鑑みると,本件財布及び本件車に対する
不法領得の意思を有していたことが相当に強く推認され,さらに,Yについても,
前記のとおり,Xに促されて本件車に乗車した上,約1.5キロメートルという
決して短くない距離を移動していることなどに鑑みると,本件車に乗り,移動等
をする旨の不法領得の意思を有していたことが相当に強く推認されているといえ,
この点,その後本件車の損壊行為に及んでいることから,被告人らの本件車奪取
の目的が逃走用でないことが他方で認められるものの,このような器物損壊とい
う犯罪行為を目的として,これを実現するために本件車の占有を被害者から奪い,
約1.5キロメートルもの距離を走行させる行為について,単に,その最終目的
が本件車の損壊にあることのみによって,本件車をその経済的用法に従って利用
する意思がないなどといえないのは明らかである。
そこで以下,上記各強度の推認を妨げる特段の事情があるか否かをそれぞれ検
討する。
2本件犯行の共謀の推認を妨げる特段の事情の有無について
(1)被告人ら3名及びHの公判廷における供述内容
X,H,Y及びZの公判供述を総合すると,少なくとも,概ね以下のとおりの
会話が前記居酒屋で交わされたことが認定できる。
ア飲み会では,当初たわいもない話をしていたが,Yが「私のページにJま
だ入ってきてる。」などと自分の出会い系サイトのページに被害者の足跡が残っ
ている旨述べたところ,Xらが「しつこいね。下心あるんじゃない。」などと言
ってきたので,Yは,「キモい,あり得ない。」,「あいつむかつく。」などと
言った。すると,Xが「やっちゃおうか。」などと言い,YやHも,「やっちゃ
おうか。」などと答えた。
また,Xが,被害者の「財布も取っちゃおう。」と言ったところ,Yが,「あ
いつ金持ってないよ。電車賃すら持ってないよ。」などと言った。
Zはこれらの会話がされていた際,うなずくなどしていた。
そして,XがYに被害者を呼び出すように言い,Yが被害者にメールや電話を
するなどし,同人とa市内のコンビニで待ち合わせた上でKK公園に行くことに
なった。
イZが被害者が殴られることなどを知りつつ,Yと共にKK公園に向かった
のは,以前,Xから仕事をする上では仲間内での信用などが大事であるなどと言
われていた上,自分よりも年下のYや同年齢のHが盛り上がっていたので,話の
レベルを合わせようと思ったからである。
(2)特段の事情の有無の検討
以下,上記居酒屋における被告人3名及びHの会話を踏まえて上記特段の事情
の有無を検討する。
ア本件犯行の共謀について
上記Xの「やっちゃおうか。」,「財布も取っちゃおう。」などという供述か
らすると,同人は,被害者に暴行を加えるなどした上,その状況を利用して,財
布を奪取することを企図していたことが窺えるところ,Yは,かようなXの発言
を受けて,「あいつ金持ってないよ。」などと答えているのであるから,これは,
Xの提案に反対しているのではなく,むしろ,上記Xの発言の意図が「金」を取
ることにあるものと十分理解していた発言とみるべきである。現に,Yは,その
際の自らの認識についても,「まず取らないだろう。」などとXが,被害者が金
員を有してるならば,財物奪取等に及ぶことを理解していた旨の供述に及んでい
るのである。また,H及びZもこれらXとYの会話を聞くなどした上で,これに
異議を唱えることなどをすることもなく本件犯行に加担している。そうすると,
H,Y及びZは,少なくとも,Xが被害者から本件財布等を奪取する意図を有し
ていたことを未必的に認識していたと認められ,財物奪取に関する相応の意思疎
通があったといえる。
また,X及びHは前記認定のとおり実際に本件犯行に及んでいる上,Yについ
てみても,同人は,前記認定のとおり,X及びHらと投資名下に金員を詐取する
ことを繰り返すなどしており,いわば詐欺グループの一員といえ,X,Hとの強
固な心理的一体感の存在が窺え,とりわけ,いみじくもY自身が公判廷において
述べるように「むかつく」などという被害者に対する悪感情から本件犯行に加担
していることを考慮すると,Yは本件犯行をまさに自らの犯罪であると認識して
いたといえる。
さらに,Zも,詐欺グループの一員でこそないものの,同人が公判廷で述べる
ように,仕事を紹介してもらうXに対する気兼ねや,自らと同年齢,さらには年
下の者までもが自発的に本件犯行に及ぼうとしている姿を目の当たりにし,周囲
に対する見栄などから自らも本件に加担する旨決意しているのであり,むしろ,
Zには,Xら他人の犯罪を心理的に援助,助長するために加担するという動機付
けは乏しいのであって,まさに本件を自己の犯罪と捉えてこれに加担したという
べきである。
このように,被告人3名及びHの公判供述は,上記推認を妨げる特段の事情を
説明するものではない。
3不法領得の意思の各推認を妨げる特段の事情の有無について
Xは,公判廷において,「財布が目に入ったので取った。」,「財布を取って
被害者を困らせようとした。」,本件車を奪ったのは「被害者の足をなくすとい
う目的ですね。」などと供述している。
しかし,他方で,被告人ら及びHは専ら毀棄,隠匿目的で奪取したのではあれ
ば,当然採るべき本件犯行現場での毀棄,隠匿行動等に及んでいない理由につき,
「その場の行き当たりばったりの行動だった。」などと不合理な供述をしており,
かようなXの供述が上記特段の事情を合理的に説明していないことは明らかであ
る。
また,Yも,公判廷において,本件車は「奪うためじゃなくて壊すために乗っ
ていった。」などと述べているところ,本件においては,このような目的だけで
不法領得の意思が否定されるものでないのは,前述のとおりである上,他方で,
「Xが言うんだから,まあ,乗っていくんだろうな。」などと思った旨供述して
おり,同人は本件車に乗り移動することを了解していたことが窺えるのであって,
Yの公判供述も上記特段の事情を説明するものではない(なお,Zも,公判廷に
おいて,本件車に乗り込み移動した理由につき,「私も置いて行かれるのも嫌だ
ったし,それで言われるままに被害者の車に乗った。」などとYと同様に本件車
に乗り移動することを了解していたことを窺わせる供述に及んでいることを考慮
すると,上記不法領得の意思の推認を覆す特段の事情を説明しているとはいえず,
Zについても本件車に対する不法領得の意思が優に認められる。)。
4総括
以上検討したところによれば,検察官及び弁護人らがその信用性につき縷々主
張している被告人3名及びHの捜査段階における供述等に依拠するまでもなく,
被告人3名及びHの間での本件犯行の共謀や,Xの本件財布,同人とYの本件車
に対する不法領得の意思がいずれも優に認められる。
そうすると,弁護人らは,前記居酒屋におけるXの発言の趣旨,被告人らの関
係,犯行の動機の有無,被告人らの行動ないし態度,本件車による移動距離,分
け前の有無,ひいては本件犯行における役割等を種々指摘し,本件犯行の共謀や
本件財布ないし本件車につき不法領得の意思はない旨を縷々主張しているが,こ
れらはいずれも上記各認定を左右する事情とはいえない。
(法令の適用)
省略
(量刑の理由)
1本件は,自ら詐欺グループを創設したXが,約3年半にわたり,共犯者A
と共謀の上,被害者らから建設会社等への融資名下に,130万円及び合計18
0万円(第1の1)をそれぞれ騙し取り,また,共犯者D及びEと共謀の上,2
名の被害者からXの事業への投資名下に,各170万円(第1の2,3)を,ま
た同様の手口でY及びHと共謀の上,被害者から合計180万円(第2)をさら
に騙し取り,また,同種詐欺の標的とされた本件強盗致傷の被害者のバーベキュ
ーでの言動や,同人への詐欺が失敗した腹いせなどから,判示のとおり,H,Y
及びZと共謀の上,山中の駐車場において,上記被害者に手拳での殴打や足蹴等
の暴行を多数回加えて財布や自動車等を強取し,同人に全治約10日間の傷害を
負わせ(第3),さらには大麻をも所持した(第1の4)という強盗致傷,詐欺
及び大麻取締法違反の事案である。
2まず,被告人3名に対する量刑を決する上で特段の考慮を必要とする第3
の強盗致傷についてみると,被告人らは,かつて詐欺グループの標的としたもの
の現金を騙し取ることに失敗した被害者が,依然としてYに連絡してきたことな
どを知るや,被害者がバーベキューで泥酔したことや,その際の発言などに対す
る悪口を言い合い,Xの発案により被害者を痛めつけることなどを合意し,さら
に,財布,車等を奪うことを予期するなどした上で,Yが被害者を呼び出すなど
し,Xは,Hと共に顔を隠すためのタオルや,被害者の服を切り裂くためのはさ
み,指紋が付着しないための軍手や,さらにはコーラや生卵までをも準備して本
件駐車場に先回りして被害者らの到着を待ち構え,Y,Zによって人気のない山
中の駐車場におびき出された被害者が,「やめてください。」などと哀願するに
もかかわらず,判示のとおり,何十回にもわたり手拳で殴打したり足蹴にするな
どの苛烈な暴行を加えているばかりか,また,大量のコーラを頭から掛け,生卵
を数個投げつけるなどの種々嫌がらせ行為にも及んでいるのである。このように
本件は,相応の組織性,計画性を背景にしつつ敢行された,執拗かつ粗暴性の高
い悪質な犯行といえ,厳しい非難を免れない。
被害者は,本件財布及び自動車を無理矢理奪われ,判示のとおり,複数の挫創,
打撲症等により全治約10日間を要する軽くない傷害を負わされており,その肉
体的苦痛及び財産的損害は決して軽視できないばかりか,犯行直後,全身の痛み
から動くことや,携帯電話や車を奪われたために警察に通報することすら儘なら
ず,深夜,山中の駐車場で独り途方に暮れ,やむなく暗い山道を30分以上も歩
き救護を求めざるを得なかったのであって,本件犯行により被害者が受けた屈辱
感,精神的苦痛は極めて大きく,同人が犯人たちのことはどうしても許せないな
ど厳しい処罰感情を述べいているのも当然である。
そして,被告人らは,上記のとおり,被害者に対する種々嫌がらせを行ってい
ることからも明らかなように,上記バーベキューにおける被害者の言動への悪感
情や,同人に対する投資名下の詐欺が失敗したことへの腹いせというまさに極め
て身勝手な理由により本件に及んでいるのであり,かような犯行に至る動機,経
緯に酌むべき事情は一切ない。
加えて,被告人らは,犯行後,強取した車のガラスを鉄パイプで破壊した上,
ガードレールに衝突させて使用不能にさせるなど更なる嫌がらせ行為に及んでい
るばかりか,犯行に使用したタオルや軍手を投棄するなどの罪証隠滅行為にも及
んでいるのであって,これらの点からも被告人らの反社会性の高さを容易に看取
することができる。
以上からすると,本件強盗致傷事案の犯情は悪く,被告人らの刑事責任は,そ
の果たした役割等に応じて,相応に重いというべきである。
しかしながら,他方で,被告人ら及びHと本件強盗致傷の被害者との間で13
0万円を支払う旨の示談が成立して,そのうち25万円をXが,35万円をYが,
60万円をZがそれぞれ負担していること,本件強盗致傷の犯行は被害者への暴
行を主たる目的としたものであり,財物奪取に向けた強固な犯意までは認められ
ないこと,被告人らにはいずれもみるべき前科等がなく,本件で初めて身柄を拘
束されるなどした上で,被告人らはいずれも強盗致傷の外形的事実を争ってはい
ないこと,被告人らはいずれも若年であり,可塑性を喪失していないことなど被
告人らのために共通に斟酌すべき諸事情も認められる。
3そこで,本件強盗致傷罪にのみに関与しているZについては,ここで,同
人のために個別に斟酌すべき事情についてみると,同人は,本件強盗致傷への関
与の程度や意欲が弱く,共犯者内においても最も従属的な立場にあり,上記のと
おりの本件強盗致傷事案自体の財物奪取に向けた犯意の弱さとも相俟って,従属
的で初めて犯罪行為に関与した共犯者として,強盗致傷事案の中でも執行猶予を
付することが可能な犯情に止まっているものと評価できるところ,更に,実父が
出廷し,今後の監督及び,悩みを相談できるようコミュニケーションの機会を増
やすよう努力を誓い,Zの更生に尽力する旨述べ,Z自身もこれを受け,反省文
を作成するなどして強盗致傷の被害者の心情に理解を示した上で,今後は,実母
の仕事を手伝うなどし,家族,とりわけ養育すべき幼子を中心とした生活を送る
旨確約していること,その他Zのために個別に斟酌すべき諸事情が存することを
併せ考慮すると,同人については,酌量減軽を施した上,今回に限り社会内での
更生の機会を与えるのが可能かつ相当であると判断した。
4その上で,さらに,X及びYについては,その敢行した詐欺事案の犯情を
併せ考慮した上で,同人らの刑責を検討することとする。
まず,第1の1の各詐欺については,Xは,いずれも自らの知人などから投資
名下に現金を騙し取ることを計画し,共犯者と口裏を合わせるなどして被害者を
安心させ,Xが言葉巧みに虚偽の投資話を被害者に信じ込ませた上,共犯者に投
資先の社長を演じさせるなどして巧妙に現金を騙し取り,また,第1の2,3及
び第2の各詐欺についてみても,Xは,Y,Hなどの共犯者と共謀の上,出会い
系サイトを利用して計画的に接触するなどした被害者らより,投資名下に現金を
騙し取ることを企図するなどし,同人らに対し,食事を奢るなどして貸金業で儲
けているとの話を信じさせ,共犯者らといずれもXに投資して儲けている旨口裏
を合わせるなどして被害者を安心させるという周到な方法により現金を騙し取っ
ている。
このように,Yらは,Xによる統率の下,綿密かつ臨機応変にその役割を分担
し,各人が連携して巧妙かつ手慣れた手口を用いるなどして相手を信用させてお
り,まさに職業的詐欺グループと化して本件を敢行している上,その述べるとこ
ろによれば,Yは判示犯行に加えて数名の者から現金を騙し取ることに関与して
いる上,Xにあっては,判示各詐欺の犯行のみならず,約3年半にわたり,合計
20名以上の者に対して同種犯行を繰り返すなどしていることに鑑みると,Yに
はこの種手口の詐欺に対する常習累行性が窺われ,また,Xにあっては,常習累
行性が顕著に看取できるのであって,Xが自ら率先して本件強盗致傷に及び,共
犯者内において主導的な役割を担っていたと評価できることや,本件大麻所持に
も及んでいることなどを併せ考慮すると,とりわけ同人の犯罪傾向の深刻さや規
範意識の鈍麻の程度は既に深刻な段階に達しているとみるべきである。
また,被告人らは,詐欺に係る被害者らが高利の消費者金融に対する多額の負
債を背負うとの二次被害の発生をも予定しつつも,これを厭わず,判断力が未熟
な若年者のお金を稼ぎたい旨の気持ちにつけ込むなどしているのであって,この
点においても卑劣な犯行といえ,本件各犯行により,各被害者らは,いずれも多
額の現金を詐取されたばかりか,上記負債に起因して生活苦に陥り,さらには自
己破産すら強いられるなどしているのであって,その財産的損害はもとより,精
神的な被害も軽視できず,同被害者らがいずれもXらの厳重処罰を希望している
のも当然である。それにもかかわらず,Xから同被害者らに対する慰謝の措置は
何ら採られていない。
5以上のとおり,本件各詐欺の犯行はいずれもその犯情が悪いことを併せ考慮
すると,前記強盗致傷に加えて,このような詐欺に加担するなどしたY,とりわ
け判示各詐欺を主導するなどしたXに関しては,その刑事責任は相当に重いので
あって,本件は,同人らをその刑責に応じて,相当期間服役させることによりそ
の更生を図ることが不可欠な事案というべきである。
しかしながら,他方で,前記被告人両名のために共通に斟酌すべき諸事情に加
え,Xに関しては,同人の実父が出廷し,開業予定のそば屋でXを稼働させる意
向を示し,X自身もそれに応じた上で,詐欺の各被害者に対する弁償に向けて努
力する旨供述しており,更生の意欲が窺えること,また,Yに関しては,本件強
盗致傷の実行行為を分担するなどしておらず,共犯者内において,主導的な役割
を果たしたとまでは評価できないこと,第2の詐欺の被害者に対して反省文を作
成するなど改悛の情を示した上で,自らの取り分と同額である25万円の被害弁
償を行っていること,同人の実父が出廷し,同人の稼働や勉学に協力する旨述べ,
Y自身も将来は調理師になることを希望し,稼働しつつ高校に通学する旨更生の
意欲を述べていること,詐欺の犯行の動機に家庭の事情等酌むべきものがあるこ
となど被告人両名にとって個別に斟酌すべき諸事情も認められる。
そこで,以上の事情を総合考慮し,Yに対しては酌量減軽を施した上,それぞ
れ主文のとおりの刑期を量定した(求刑被告人Xにつき懲役10年・大麻没収,
被告人Yにつき懲役6年,被告人Zにつき懲役3年)。
平成20年3月26日
山形地方裁判所刑事部
裁判長裁判官金子武志
裁判官光岡弘志
裁判官南雲大輔

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