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平成30年5月24日判決言渡
平成28年(行ウ)第545号射撃教習資格不認定処分取消等請求事件
主文
1東京都公安委員会が原告に対して平成27年11月25日付けでした,
射撃教習を受ける資格につき不認定とする処分を取り消す。5
2原告のその余の請求を棄却する。
3訴訟費用は,これを2分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の
負担とする。
事実及び理由
第1請求10
1主文1項と同旨
2東京都公安委員会は,原告に対し,原告が平成25年11月15日付けで
した射撃教習を受ける資格の認定申請に対する認定処分をせよ。
第2事案の概要
原告は,銃砲刀剣類所持等取締法(以下「銃刀法」という。)4条1項115
号の規定による猟銃の所持の許可を受けようとする者が受けなければならな
いとされている同法9条の5第1項所定の射撃教習(教習射撃指導員が政令
で定めるところにより教習用備付け銃を使用して行う猟銃の操作及び射撃に
関する技能の教習をいう。以下同じ。)を受けるため,同条2項に基づき,
射撃教習を受ける資格(以下「射撃教習資格」という。)の認定申請(以下20
「本件申請」という。)をした。これに対し,東京都公安委員会(処分行政
庁)は,原告が同法5条1項18号所定の欠格事由(他人の生命,身体若し
くは財産又は公共の安全を害するおそれがあると認めるに足りる相当な理由
がある者。以下「本件欠格事由」という。)に該当する(したがって,同法
5条の4第1項ただし書に規定する者〔同法5条の許可の基準に適合しない25
ため猟銃の所持の許可を受ける資格を有しないと認められる者〕に該当する
ことから,同法9条の5第2項に定める射撃教習資格の認定の除外事由に該
当する。)ことを理由に,本件申請に係る射撃教習資格につき不認定とする
処分(以下「本件処分」という。)をした。
本件は,原告が,①原告につき本件欠格事由に該当するとした東京都公安
委員会の判断は誤りであること,②本件処分は行政手続法(以下「行手法」5
という。)8条1項本文所定の理由提示義務に違反してされたものであるこ
とを理由に,本件処分の違法を主張して,その取消しを求める(以下,この
請求を「本件取消請求」という。)とともに,本件申請に対する認定処分の
義務付けを求める(以下,この請求を「本件義務付け請求」という。)事案
である。10
1関係法令等の定め
(1)本件に関する銃刀法の定めは,別紙2記載のとおりである。
(2)審査基準
東京都公安委員会は,行手法5条3項に基づき,銃刀法9条の5第2項に
定める射撃教習資格の認定申請に係る審査基準(以下「本件審査基準」とい15
う。)を公にしているところ,本件審査基準は,「法5条1項18号の『相
当の理由』とは,銃砲又は刀剣類の所持の許可を受けた者の現時点及び過去
の言動,生活環境や周囲の人間関係等から,当該所持の許可を受けた者が,
銃砲又は刀剣類を使用して他人の生命,身体若しくは財産若しくは公共の安
全を害し,又は自殺をするおそれがあることが,社会的に見て客観的・合理20
的に存在すると認められる場合等をいう。」と定めている(乙12)。
2前提事実(争いのない事実,顕著な事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨
により容易に認められる事実)
(1)原告は,昭和41年▲月▲日生まれの男性である(甲5)。
(2)前回申請について25
ア原告は,平成24年4月3日,東京都公安委員会に対し,射撃教習資格
の認定申請(以下「前回申請」という。)をした。
イ警視庁石神井警察署(以下「石神井署」という。)生活安全課警部補F
(以下,その後の役職の変動にかかわらず,当時の役職に従って「F警
部補」という。)は,前回申請に関し,原告が銃刀法5条の4第1項た
だし書に規定する者に該当するか否かについての調査(以下「前回調5
査」という。)を開始したところ,原告には以下の犯罪歴があることが
判明した。
(ア)平成6年11月1日,道路交通法(以下「道交法」という。)違反
により検挙され,罰金1万円の有罪判決を受けた。
(イ)平成8年5月19日,軽犯罪法1条2号違反(凶器携帯)により検10
挙された(刑事処分は不明)。
(ウ)平成15年4月15日,運転免許の効力停止処分を受けていた期間
中に車両を運転したため,道交法違反(無免許運転)により現行犯逮捕
され,罰金20万円の有罪判決を受けた。
(エ)平成19年3月18日,軽犯罪法1条2号違反(凶器携帯)により15
検挙され,起訴猶予を理由とする不起訴処分を受けた。
(以下,上記の各犯罪歴を順次,「平成6年道交法違反」,「平成8年軽
犯罪法違反」,「平成15年道交法違反」及び「平成19年軽犯罪法違
反」という。)
ウ原告は,平成24年5月23日,前回申請を取り下げた。20
(3)本件申請について
ア原告は,平成25年11月15日,東京都公安委員会に対し,銃刀法9
条の5第2項に基づく射撃教習資格の認定申請(本件申請)をした。
イ東京都公安委員会(処分行政庁)は,平成27年11月25日付けで,
原告に対し,本件申請に係る射撃教習資格につき不認定とする処分(本25
件処分)をし,本件処分の理由につき次のとおり記載した書面によりこ
れを通知した(甲1。以下,上記書面に記載された処分理由を「本件不
認定理由」という。)。
「あなたは,粗暴な言動を繰り返しており,銃砲刀剣類所持等取締法第
5条第1項第18号に規定する他人の生命,身体若しくは財産若しくは
公共の安全を害するおそれがあると認めるに足りる相当な理由がある者5
に該当すると認められることから,教習資格を認めない。」
ウ原告は,平成28年1月14日,東京都公安委員会に対し,本件処分に
対する異議申立て(以下「本件異議申立て」という。)をした。
エ東京都公安委員会は,平成28年9月2日,本件異議申立てを棄却する
との決定をした。10
オ原告は,平成28年11月22日,本件訴えを提起した。
3争点
(1)原告は本件欠格事由に該当するか
(2)本件処分は行手法8条1項本文所定の理由提示義務に違反してされたも
のか15
4争点に関する当事者の主張の要旨は,別紙3のとおりである(なお,別紙3
において定義した略語は,本文中でも用いることとする。)。
第3当裁判所の判断
当裁判所は,本件取消請求については,原告は本件欠格事由に該当すると認
められる(争点(1))ものの,本件処分が行手法8条1項本文所定の理由提示20
義務に違反してされたものである(争点(2))ことから,同違反による違法を
理由に同請求を認容すべきものと判断し,他方,本件義務付け請求については,
理由がないから棄却すべきものと判断する。その理由の詳細は,以下のとおり
である。
1認定事実25
前提事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認めら
れる。
(1)前回申請について(後掲の証拠に加え,乙21及び証人F)
ア原告は,前回申請時に提出した経歴書(以下「前回経歴書」という。)
の犯歴欄に,次の①及び②のとおり記載した。なお,前回経歴書の備考
には,申請人が記載するに当たっての留意事項として,犯歴欄に罰金5
以上の刑が定められた罪に当たる違法な行為について記載すべき旨が記
載されている。(乙2)
①(年月日の記載なし)
(犯歴の内容として)交通違反
②(年月日として)平成16年ごろ10
(犯歴の内容として)軽犯十徳ナイフ
イ原告は,F警部補から,警察の取調べや検挙等の経験について聴取され
た際,交通違反で何度か切符を切られたことがある旨や,平成16年こ
ろα駅で十徳ナイフを所持していたことを理由に取調べを受けた旨を述
べたにとどまり,平成6年道交法違反及び平成15年道交法違反につい15
ては,言及しなかった(乙3)。
ウ前回調査に当たったF警部補は,原告の近隣住民や親戚,勤務先等の周
辺者に対する聞き取り調査(以下「聞き取り調査」という。)を実施し,
10名前後の者から話を聞いたところ,以下の(ア)~(オ)のとおり,本件
被聴取者ら5名(別紙3の1(1)イ①参照)が,原告に猟銃を所持させる20
ことに反対である旨の意見を述べた。その余の者は,原告に猟銃を所持さ
せることにつき反対の意見を述べなかったが,賛成する意見も述べなかっ
た。また,本件被聴取者らはいずれも,原告からの報復を恐れ,聴取内容
を原告に知らせないようにしてほしい旨希望した。(乙3,4の3~7)
(ア)本件被聴取者Aは,平成24年4月17日及び同月28日の聴取に25
おいて,原告の性格は短気であり,物によく当たる,暴言を吐かれたこ
とがある,人や動物を傷つけるなど非常識で危ない行動をする人である,
銃を持たせたら危険なので絶対に許可をしないでほしい,逆恨みして仕
返しされることが怖いので話したことは絶対に言わないでほしいなどと
述べた(乙4の3)。
(イ)本件被聴取者Bは,平成24年4月9日の聴取において,原告は気5
が短く,罵声をしょっちゅう浴びせていた,動物を虐待しても何とも思
わない性格である,自分勝手な性格で何をしでかすか分からない,銃で
動物を傷つけたり,苛立つと人に銃を向けて危害を加えたりする可能性
も十分にあると思うので,銃を持たせるのは危険であるなどと述べた
(乙4の4)。10
(ウ)本件被聴取者Cは,平成24年4月9日の聴取において,原告は銃
の管理をしっかりすることができるような性格ではなく,原告の銃の所
持には反対であるなどと述べた(乙4の5)。
(エ)本件被聴取者Dは,平成24年4月13日,同年5月6日及び同月
11日の聴取において,原告が銃を持つことに不安を感じている,原告15
は動物の命を何とも思っていないので,銃を持って人や動物に危害を加
えることがあったら大変である,原告には法律を守ろうという気持ちは
ないと思う,何らかの理由でトラブルとなったことがある,原告の性格
は短気でけんか早く,自分勝手な性格である,何かあってからでは遅い
ので絶対に許可しないでほしいなどと述べた(乙4の6)。20
また,本件被聴取者Dが石神井署長に対して提出した平成24年5月
11日付け書面(乙13)には,原告につき,「小さい頃から知ってい
ますが,短気で自分勝手な性格で,話し合いもしっかりできません。」
「過去には交通違反を何度も繰り返して免許が取り消しになったこと,
(中略)動物の命を軽く見ていること等から,法律を守る性格ではなく,25
むしろ何をしてもおかしくない性格で,銃を持ったら人や動物に危害を
加える可能性は十分にあると思っています。」「何を考えているのか分
かりません。」「今も昔と性格などはまったく変わっていません。」
「絶対に銃の許可しないよう,お願い致します。」などと記載されてい
る。
(オ)本件被聴取者Eは,平成24年4月13日の聴取において,原告は5
とにかく自分勝手な性格で,ものの善し悪しの判断ができない,銃を持
つことは原告の性格から非常に危ないので絶対反対である,絶対に許可
しないようお願いする,何かあってからでは遅いなどと述べた(乙4の
7)。
なお,上記(ア)~(オ)の本件被聴取者らの陳述等は,上記のような各評10
価に関わる原告の具体的な言動を明らかにした上でされたものであった
(乙21及び証人F)。
(2)本件申請について(後掲の証拠に加え,乙22及び証人G)
ア原告は,本件申請時に提出した経歴書(以下「本件経歴書」という。)
の犯歴欄に,次の①及び②のとおり記載した。なお,本件経歴書の備考15
欄の記載は前回経歴書と同様である。(乙7)
①(年月日として)平成10年
(犯歴の内容として)練馬石神井免許取消し
②(年月日として)平成25年
(犯歴の内容として)交通違反・平成18年から平成25年無違反,20
以前の記録経歴証明書記載なし
イ本件申請に係る調査(以下「本件調査」という。)に当たったG巡査部
長は,前回調査における被聴取者を含む15名前後の者に対して聞き取
り調査を行ったところ,以下の(ア)~(オ)のとおり,本件被聴取者ら5
名(前回調査において前記(1)ウのとおり回答した本件被聴取者A~Eと25
同じ。)は,原告に猟銃を所持させることに引き続き反対である旨の意
見を述べた。その余の者は,原告に猟銃を所持させることにつき反対の
意見を述べなかったが,賛成する意見も述べなかった。また,本件被聴
取者らのうち約2名は,自ら積極的に,聴取内容を原告に知らせないよ
うにしてほしいと懇願し,その余の者も,聴取内容を原告に知られない
方がいいかとの質問に対し,聴取内容を原告に知らせてほしくない旨を5
述べた。(乙8の1~5,14,証人G16頁)
(ア)本件被聴取者Aは,平成25年12月5日,平成26年1月10日
及び平成27年2月28日の聴取において,原告は異常な性格で何を考
えているのか分からないため,銃を持つことに絶対反対である,もとも
と短絡的で短気で粗暴な人間であり,自分に気にくわないことがあると,10
怒鳴りつけたり,物に当たったりしていた,このような人に銃を持たせ
たら何をされるか分からず恐ろしいなどと述べた(乙8の1)。
(イ)本件被聴取者Bは,平成26年1月15日,平成27年6月4日及
び同年10月10日の聴取において,原告は短気な性格である,動物虐
待の話などを聞くことがある,猫や鳩にエアガンを撃ったりしているの15
を実際に見たことがある,物を投げたり,何か壊したりするところをよ
く目にした,身勝手な性格は変わらないと思うし,思いつきで何をする
かわからない人間である,銃で動物や物に危害を加えることも十分に考
えられるので,原告に銃を持たせるのは危険なことだと思うなどと述べ
た(乙14)。20
(ウ)本件被聴取者Cは,平成25年12月5日の聴取において,原告は
短気である,怒っているところを見た,原告の性格からして銃を持った
ら何をするか分からない,原告の銃の所持には賛成できないなどと述べ
た(乙8の3)。
(エ)本件被聴取者Dは,平成25年12月14日の聴取において,原25
告は動物虐待を繰り返すなど素行に問題がある,トラブルを起こしたこ
とがある,性格は自分勝手で,短気でけんか早い,原告が銃を持つこと
については絶対反対であるなどと述べた(乙8の4)。
(オ)本件被聴取者Eは,平成25年12月24日の聴取において,原告
は自分勝手な性格で,周りの意見に耳を傾けず,何を考えているのか分
からない,怒鳴るなどの問題もある,原告の性格から銃を持たせること5
は危険である,銃を持たせたら何をするか分からない,原告の銃の所持
について絶対反対であるなどと述べた(乙8の5)。
なお,上記(ア)~(オ)の本件被聴取者らの供述は,上記のような各評価
に関わる原告の具体的な言動を明らかにした上でされたものであった
(乙22及び証人G)。10
ウG巡査部長は,平成26年1月10日,原告に対する再聴取を行い,①
経歴書における犯歴欄の記載が不備であったことに関する理由の確認,
②経歴書に記載義務のない犯歴(平成8年軽犯罪法違反,平成19年軽
犯罪法違反)の詳細の確認,③原告の素行についての追加調査等を行っ
た。15
上記①につき,G巡査部長から,犯歴照会の結果(罰金以上の刑が定め
られた犯罪歴として,平成6年道交法違反及び平成15年道交法違反が
あること)を指摘した上,本件経歴書の犯歴欄における記載内容(前記
ア)との相違について質問したところ,原告は,(ア)違反はしたが,い
つ頃違反をしたのか,いくら罰金を払ったのか,何回違反をしたのか全20
然覚えておらず,真実と異なることを書いてはいけないと思い,書くこ
とができなかった,(イ)警視庁のホームページによれば,欠格事由につ
き刑の執行から5年を経過していないものとされていたため,古い犯罪
歴を記載する必要はないと思ったなどと述べた。さらに,原告は,逮捕
された事実について質問されると,泊まりはあったかもしれないが何の25
違反のときだったか覚えていないと述べた。
上記②につき,原告は,平成8年軽犯罪法違反については,今回質問さ
れるまで忘れていた,知人の家に行く途中で,やたら元気のいい年下の
警察官に職務質問された,車にげんのうを積んでいたと思う,友達から
もらったものを車に積みっぱなしにしていたなどと述べた。また,平成
19年軽犯罪法違反については,α駅構内でスイス製の十徳ナイフを所5
持していたが,持っていていけないものだとは夢にも思っていなかった,
職務質問のときに年下の警察官から「おい,貴様」と言われ,警察官の
扱いに腹が立ったなどと述べた。
上記③につき,原告は,おもちゃの銃は持っているかとの質問に対し,
ハンドガンは友達にもらったりした,がらくたの中にあるかもしれない,10
買ったことはないと回答し,長物を持っていたかとの質問に対しては,
購入について濁して答えなかった。
そのほか,原告は,βにおいて,少年に絡まれ,トラブルになり,いき
なり突き飛ばされて右太ももをナイフで刺されたことがあるなどと述べ
た。(以上につき,乙9の1及び2,原告本人)15
(3)原告による動物虐待について
アF警部補及びG巡査部長は,本件訴訟において証人として出廷し,前回
調査及び本件調査における聞き取り調査について証言したが,その際,
本件被聴取者らからの具体的な聞き取り状況については,当該被聴取者
の特定に至らないと考えられる限度において明らかにした。これらの証20
言によれば,本件被聴取者のうち少なくとも3名は,原告による動物虐
待の具体的な態様を述べており(証人G18頁),これには,前記(2)イ
(イ)で本件被聴取者Bが述べたような猫や鳩にエアガンを撃つ行為が含
まれており,また,虐待の対象となった動物に傷を負わせるような態様
のものが含まれていた(証人F20頁,証人G19頁)。そして,上記25
の3名によるこれらの供述は,それぞれが個別の具体的なエピソードを
伴うものであった(証人G17~18頁)。
イ前記(1)ウ及び(2)イのとおり,前回調査における聞き取り調査の対象と
なった本件被聴取者ら5名については,本件調査においても聞き取り調
査の対象とされている上,前回調査において本件被聴取者Aにつき2回,
同Dにつき3回の聴取が行われ,本件調査において本件被聴取者Aにつ5
き3回,同Bにつき3回の聴取が行われている。このように,1回の調
査の中でも一部の被聴取者につき複数回の聴取が行われたのは,本件被
聴取者らの供述のうち特に慎重な吟味を要するものについて,複数回に
わたる聴取を通じてその供述内容に矛盾や不整合があるか否かを確認す
るためであった(証人F14頁)。10
そして,このような慎重な吟味をしつつ本件被聴取者らに対する聞き取
り調査が実施された結果,上記アのとおり,少なくとも3名の者から,
原告による動物虐待の具体的な態様に関する供述が得られ,これらの供
述には相互に矛盾や不整合は見られなかった(証人F18頁,証人G1
7頁)。15
これらの供述に接し,F警部補は,原告の行為に関するエピソードは背
筋が凍るような気持ちを抱かせるものであるとの印象を受け,G巡査部
長は,当該行為が目撃されたとしたら,その目撃者はびっくりし,近く
にそういう人が住んでいると思うと怖いと感じるであろうとの印象を受
けた(乙21,証人G19頁)。20
ウ本件被聴取者らには,警察の聞き取り調査に対し虚偽の事実を述べて原
告に対し殊更に不利益を与えようとする動機となるような事情はうかが
われない。なお,原告自身も,本件訴訟において,親戚や仕事仲間等の
周辺者につき,原告に殊更に不利益となるような供述をする者の心当た
りはない旨供述している(原告本人23頁,25頁)。25
(4)平成15年道交法違反について
平成15年道交法違反に係る原告の行為の態様は,運転免許の効力停止処
分を受けていた期間中に車両を運転し,小学校のスクールゾーンにおいて,
通学時間帯であったにもかかわらず,クラクションを鳴らしながら車両を暴
走させたというものであった。なお,原告が無免許運転をした事実について
は,前回調査における犯罪歴の調査により判明したものであり(前提事実5
(2)イ,乙4の2),具体的な走行態様については,前回調査における聞き
取り調査によって判明したものである(証人F4頁)。
原告は,平成15年道交法違反によって現行犯逮捕され,警察署の留置施
設に留置された後,罰金20万円の有罪判決を受けた(前提事実(2)イ(ウ),
証人F5頁,原告本人13頁)。10
2事実認定の補足説明
(1)証人F及び証人Gの証言の信用性について
証人F及び証人Gは,上記1の認定事実に沿う内容の供述をするところ,
上記両証人において虚偽の供述をする動機となるような事情は見受けられな
い。そして,上記両証人とも銃の所持に関する申請に係る業務を相当数担当15
したことがあるにもかかわらず,聞き取り調査の対象者が申請人の銃の所持
に反対する旨の意見を述べた事案は原告の申請に係るもののみであったとい
うのであり(証人F2頁,証人G7~8頁),原告の申請に係る聞き取り調
査は上記両証人において強く印象に残ったものと考えられる。また,上記両
証人は,聞き取り調査を行った際に,本件被聴取者らから聞き取った内容に20
つき,被聴取者ごとに聴取内容を記載した書面を作成しており(本件調査に
おいては聴取日ごとに作成している。),上記両証人の証言する聞き取り調
査の実施は,これらの書面によっても裏付けられているものといえる。上記
両証人は,本件被聴取者らからの具体的な聞き取り状況について,当該被聴
取者の特定に至らないと考えられる限度においてしか明らかにできないとい25
う制約はありながらも,本件被聴取者らのうち数名の者から聴取内容を原告
に知られないよう懇願された様子や,原告の言動につき聞き取った内容から
受けた自己の印象について,率直に述べている(証人F7頁,20頁,証人
G16~17頁,19頁)。
以上によれば,上記両証人の上記1の認定事実に係る各証言は,いずれも,
本件被聴取者らからの聴取内容について正確な記憶に基づき供述しているも5
のと認められ,信用性が高いということができる。
(2)原告の供述の信用性について
原告は,本人尋問において,①猫や鳩にエアガンを撃ったことはなく,そ
の他動物虐待といえるような行為もしたことがない,②平成15年道交法違
反に係る行為態様につき,スクールゾーンの指定外の時間帯である午前8時10
30分以降において走行したものであり,クラクションを鳴らしながら走行
したこともない旨供述する。
しかしながら,上記①については,上記(1)のとおり信用性の認められる
証人F及び証人Gの各証言及び前記1(3)の各事情に照らせば,原告が動物
虐待を行った事実については少なくとも3名の者が供述しており,その中に15
は,エアガンを用いて猫や鳩を撃つという,動物虐待行為の具体的態様に関
する供述も含まれていたのであり,しかも,本件聴取者らには殊更に原告に
不利益となるような供述をする動機は見受けられず,本件被聴取者らの供述
には相互に矛盾するような内容も見当たらないのであるから,これに反する
原告の供述は信用することができない。20
また,上記②については,原告は平成15年道交法違反によって現行犯逮
捕され,20万円の罰金刑に処せられた(認定事実(4))にもかかわらず,
本件調査における原告の再聴取において,道交法違反についてはその日時や
回数等を全く覚えていないなどと述べていたこと(認定事実(2)ウ)に照ら
せば,平成15年道交法違反に係る車両の走行態様についてその詳細を述べ25
る原告の供述は信用し難い(なお,原告は,平成15年道交法違反の態様に
つき記憶が曖昧であると主張していた〔原告第3準備書面〕ものであるとこ
ろ,原告本人尋問において,突如として,上記②のような詳細な供述をする
に至ったものである。)。他方,前記1(4)のとおり,平成15年道交法違
反に係る車両の走行態様については,前回調査における聞き取り調査の結果
判明したものであり,その聴取内容について虚偽であることをうかがわせる5
事情が認められないことは前記1(3)ウのとおりである。したがって,原告
の上記②の供述も信用することができない。
3争点(1)(原告は本件欠格事由に該当するか)について
(1)銃砲刀剣類は,その利用目的が多様であり,社会生活上有用なものもあ
るが,人畜を殺傷する機能を有していることから,凶器として各種犯罪の手10
段に使用される危険性があり,また,事故が発生した場合の危害が大きい。
このような危害を防止することを目的として,銃刀法は,銃砲刀剣類の所持,
使用等に関する危害予防上必要な規制について定めており(1条),銃砲刀
剣類の所持については,原則としてこれを禁止し,許可制とした上(3条1
項3号,4条,7条の3),5条において,危害を予防する観点から,銃砲15
刀剣類の所持を許可してはならない各種の事由(欠格事由)を定めている。
このうち,同条1項18号は,同項1号から17号までの類型的な事由に直
接該当しない場合であっても,「他人の生命,身体若しくは財産若しくは公
共の安全を害し,又は自殺をするおそれがあると認めるに足りる相当な理由
がある者」を欠格事由とするものである。20
上記のとおり,銃刀法の趣旨が銃砲刀剣類によりもたらされる危害の予防
を目的とするものであり,銃刀法においては銃砲刀剣類の所持が原則として
禁止されていること,また,同法5条1項1号から17号までにおいて規定
されている類型的な欠格事由は危害発生の抽象的な可能性を示すものである
ことに照らすと,同項18号にいう,他人の生命,身体等を害する「おそ25
れ」とは,他人の生命,身体等に対する危害が具体的,現実的に発生する可
能性があることを要求するものではなく,将来において危害が発生する抽象
的な可能性が存在することをもって足りると解するのが相当である。
また,銃刀法5条1項18号は,上記の「おそれ」につき,おそれがあ
ると認めるに足りる「相当な理由がある」ことをもって欠格事由に当たる
と定めているところ,このような同号の文理と,公共の安全を確保するこ5
とが,個人の生命,身体及び財産の保護に任じ,犯罪の予防,鎮圧及び捜
査等に当たる警察の責務と密接に関連するものであること(警察法2条1
項)に照らすと,同号所定の欠格事由該当性の判断については,都道府県
警察を管理するものとして置かれている都道府県公安委員会(同法38条
3項)の合理的判断に委ねる趣旨であると解するのが相当である。10
以上のとおりであるから,銃刀法5条1項18号所定の欠格事由がある
といえるか否かについては,申請人につき,他人の生命,身体若しくは財
産又は公共の安全を害する抽象的な可能性が存在するとした都道府県公安
委員会の判断が,合理的な根拠を有するものか否かという観点から審査す
るのが相当である。15
(2)本件についてこれをみると,聞き取り調査の対象となった約15名(そ
のうち,前回調査及び本件調査を通じて対象となった者は約10名)のうち,
5名の者(本件被聴取者ら)が,原告の性格につき,短気,自分勝手,粗暴,
非常識,異常な性格,けんか早い,何をするか分からない,周りの意見に耳
を傾けない,ものの善し悪しの判断ができない,法律を守る性格ではないな20
どと評した上で(被聴取者によって表現は異なるものの,原告の性格に関す
る評価はおおむね一致している。),原告に銃を持たせると危険であるなど
として,原告の銃の所持に反対する意見を述べている。そして,本件被聴取
者らは,このような反対意見を述べるに当たり,原告の具体的な言動につき,
暴言を吐いた,罵声をしょっちゅう浴びせていた,気にくわないことがある25
と怒鳴りつけたり,物に当たったりする,トラブルになったことがあるなど
と指摘している。
特に,原告による動物虐待については,本件被聴取者らのうち少なくとも
3名の者から,その虐待の具体的な態様に関し,それぞれ個別の具体的なエ
ピソードを伴う供述が得られており,その中には,猫や鳩にエアガンを撃つ
行為が含まれ,また,虐待の対象となった動物に傷を負わせるような態様の5
ものが含まれていた。そして,これらの供述における虐待行為の態様は,調
査に当たったF警部補及びG巡査部長をして,当該行為を目撃する者を驚か
せ,背筋が凍るような気持ちを抱かせるものであるとの印象や,当該行為を
するような者が近隣に居住していると思うと怖いと感じるであろうとの印象
を抱かせるようなものであった。10
本件被聴取者らによるこれらの供述は,前回調査に続いて本件調査におい
ても本件被聴取者らにつき重ねて聞き取り調査が行われた上,1回の調査の
中でも一部の者につき複数回の聴取を実施するなどの慎重な方法によりその
供述内容が吟味された結果,相互に矛盾や不整合は見られなかったことや,
また,本件被聴取者らのいずれにおいても殊更に原告の不利益となるような15
虚偽の供述をする動機がうかがわれないことに照らせば,信用性があるとい
うことができる。
以上によれば,本件被聴取者らの供述する原告の具体的な言動,原告の性
格に対する評価及び原告の銃の所持に対し反対する旨の意見は,原告につき,
他人の生命,身体若しくは財産又は公共の安全を害するおそれの存在を基礎20
付けるものといえる。
(3)また,原告は,4件もの犯罪歴を有しており,そのこと自体,法令を遵
守しようとする態度に欠けることを示すものといえるところ,そのうち2件
(平成6年道交法違反及び平成15年道交法違反)については罰金刑に処せ
られ,特に平成15年道交法違反に係る行為の態様は,運転免許の効力停止25
処分を受けていた期間中に車両を運転し,小学校のスクールゾーンにおいて,
通学時間帯であったにもかかわらず,クラクションを鳴らしながら車両を暴
走させたという悪質かつ危険なものであり,その余の2件についても軽犯罪
法違反(凶器携帯)を被疑事実とするものであって,いずれも原告につき他
人の生命,身体等を害するおそれの有無を検討する上で軽視することができ
ないものといえる。5
さらに,前回経歴書及び本件経歴書の犯歴欄に平成6年道交法違反及び平
成15年道交法違反を記載すべきであったのにこれらを記載しなかったこと
は,所定の手続を遵守しなかったことを示すのみならず,原告が前回調査時
及び本件調査時においてこれらの違反行為や逮捕された事実についてほとん
ど覚えていなかったために上記の記載をしなかったと述べていることや,上10
記の犯罪歴に係る行為について反省する態度も見られないこと(認定事実
(2)ウ)に照らし,原告の規範意識が希薄であったことをうかがわせるもの
といえる。
(4)以上のとおり,前回調査及び本件調査における本件被聴取者らに対する
聞き取り調査の結果や,原告の犯罪歴及びこれに関する原告の認識等を考慮15
すれば,原告につき,他人の生命,身体若しくは財産又は公共の安全を害す
るおそれが存在し,銃刀法5条1項18号の欠格事由(本件欠格事由)に該
当するものとした東京都公安委員会の判断は合理的な根拠を有するというべ
きであるから,その判断に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用は認められない
というべきである。20
4争点(2)(本件処分は行手法8条所定の理由提示義務に違反してされたもの
か)について
(1)行手法8条1項本文が,申請により求められた許認可等を拒否する処分
をする場合に,申請者(名宛人)に対し,同時に当該処分の理由を示さなけ
ればならないとしている趣旨は,不利益処分(同法2条4号)の場合につい25
て定める同法14条1項本文と同様に,行政庁の判断の慎重と合理性を担保
してその恣意を抑制するとともに,処分の理由を名宛人に知らせて不服の申
立てに便宜を与える趣旨に出たものと解されるところ,同法8条1項本文に
基づいてどの程度の理由を提示すべきかについても,同法14条1項本文に
基づく理由の提示と同様に,当該処分の根拠法令の規定内容,当該処分に係
る処分基準の存否及び内容並びに公表の有無,当該処分の性質及び内容,当5
該処分の原因となる事実関係の内容等を総合考慮してこれを決定すべきもの
と解するのが相当である(平成23年最高裁判決参照)。また,提示すべき
理由の内容及び程度は,特段の理由のない限り,いかなる事実関係に基づき
いかなる法規を適用して当該処分がされたのかを,処分の相手方においてそ
の記載自体から了知し得るものでなければならず,単に抽象的に処分の根拠10
規定の該当条項を示すだけでは,それによって当該規定の適用の原因となっ
た具体的な事実関係をも当然に知り得るような例外の場合を除いては,行手
法の要求する理由の提示として十分ではないというべきである(最高裁昭和
45年(行ツ)第36号同49年4月25日第一小法廷判決・民集28巻3
号405頁参照)。15
(2)ア銃刀法5条1項18号は,欠格事由につき,「他人の生命,身体若し
くは財産若しくは公共の安全を害し,又は自殺をするおそれがあると認
めるに足りる相当な理由がある者」と定めているところ,いかなる場合
に上記の「おそれ」があるといえるかは,上記の文言からは直ちに明ら
かではなく,本件審査基準(第2の1(2))も上記の「相当の理由」につ20
き,「現時点及び過去の言動,生活環境や周囲の人間関係等から(中
略)おそれがあることが,社会的に見て客観的・合理的に存在すると認
められる場合をいう。」と定めるにとどまるから,申請に係る射撃教習
資格につき不認定とする処分の理由として同号の欠格事由に該当する旨
を指摘し又はその文言を記載しただけでは,具体的な事案においていか25
なる事実関係がこれに該当すると判断されたのかが明らかになるものと
はいえず,いかなる事実関係に基づき当該処分がされたのかを申請者
(名宛人)においてその記載自体から了知し得るとはいえない。
他方で,前記3(1)でみたとおり,銃砲刀剣類は凶器として各種犯罪の
手段に使用される危険性があり,また,事故が発生した場合の危害が大
きいことから,銃刀法は,5条1項1号から17号までの類型的な事由5
に加え,同項18号において上記の欠格事由を定め,将来における危害
が発生する抽象的な可能性が存在する場合には銃砲刀剣類の所持を許可
してはならないこととし,その可能性の有無については都道府県公安委
員会の合理的な判断に委ねているのであり,都道府県公安委員会又はそ
の管理下にある都道府県警察において,当該申請者に係る犯罪歴を調査10
したり,当該申請者やその周辺者から事情を聴取するなどして,上記判
断の基礎となる情報を的確に収集することが前提とされていると解され
る。そして,このように収集される情報のうちには,情報収集の目的が
上記のような将来における危害発生の可能性の有無の判断に関するもの
であるという事柄の性質からして,申請者の粗暴性や反社会性に関する15
情報も含まれ得ることが当然に想定されるものといえる。このような情
報について第三者から任意の提供を受ける場合には,提供を受けた内容
を申請者(名宛人)に明らかにすると,当該第三者が,申請者(名宛
人)から報復を受け,あるいは,報復を受けることに対する恐怖を抱き
ながら生活することを余儀なくされるなど,当該第三者の権利利益や生20
活の平穏を害するおそれがあり,ひいては,将来,同種の処分をする際
に,このようなおそれを懸念する第三者から有用な情報を的確に収集す
ることができなくなるおそれも否定できない。そうすると,射撃教習資
格の認定申請に対し銃刀法5条1項18号の欠格事由に該当するとして
不認定処分をするに当たり,処分行政庁である都道府県公安委員会にお25
いて,上記のような第三者の権利利益等が害されないように配慮をし,
処分理由の告知においてもそのような配慮から情報提供をした第三者の
特定につながるような事実関係の伝達を差し控えることにも,一定の合
理性があるものということができる。また,上記のような将来における
危害発生の可能性の有無の判断の基礎となる情報には,申請者の性格や
生活状況,日常における言動など,その日時,場所や態様等を個別具体5
的に明らかにすることが困難な情報も含まれ得ることが想定され,この
ことからも,申請者(名宛人)に告知される処分理由においてその事実
関係の詳細を明らかにすることには,一定の限界を伴う面があることを
否定できないものといえる。
イ以上のような銃刀法5条1項18号及び本件審査基準の規定内容,射撃10
教習資格の認定申請に関する処分の性質,処分に当たり収集される情報
及びその収集方法(特に第三者からの情報収集)等に照らすと,申請に
係る射撃教習資格につき不認定とする処分の理由として,単に同号に該
当する旨を指摘し又はその文言を記載するだけでは,行手法8条1項本
文に定める理由の提示として十分ではない一方,任意の情報を提供する15
第三者の権利利益等の保護への配慮が必要な場合や,申請者の言動につ
きその日時,場所や態様等を個別具体的に明らかにすることが困難な場
合もあり得ることを踏まえると,事実関係の詳細まで常に記載しなけれ
ばならないということもできず,行政庁の恣意を抑制し,不服の申立て
に便宜を与えるという理由提示の趣旨から,少なくとも,同号の欠格事20
由該当性を基礎付ける事実関係につき,申請者の言動が問題とされてい
るとすればそれがいかなるものであるのかが,抽象的であっても明らか
にされることを要し,また,行政庁が処分に当たって考慮した事実関係
の中に,情報提供者の保護への配慮を要しないもの(例えば,犯罪歴,
申請者の供述,警察官によって現認された申請者の言動等)がある場合25
には,これらに係る具体的内容(その日時,場所や態様等を含む。)に
ついても,可能な範囲で明らかにされることを要するものと解するのが
相当である。
ウ以上を踏まえて検討すると,本件処分の際に原告に対して提示された本
件不認定理由は,銃刀法5条1項18号の欠格事由に該当する旨を指摘し,
同号の文言を記載しているほかは,原告が粗暴な言動を繰り返していた旨5
を記載しているにすぎない(第2の2(3)イ)ところ,ここで問題とされ
ている原告の粗暴な言動とはいかなるものであるかということが,抽象的
にも明らかにされているとはいえないから,いかなる事実関係に基づき本
件処分がされたのかを,処分の相手方である原告においてその記載自体か
ら了知し得るとはいえないものと評価せざるを得ない。10
また,本件不認定理由に記載された「粗暴な言動」という文言は,その
通常の意味内容に照らして,本件処分の理由として被告により主張されて
いる事実関係のうち,経歴書の犯歴欄への不正確な記載等の事情(被告主
張事実⑤)を含むものと解することは困難であって,この点においても,
いかなる事実関係に基づき本件処分がされたのかを,原告においてその記15
載自体から了知し得るとはいえない。
したがって,本件不認定理由は行手法8条1項が要求する理由の提示と
して十分ではないといわざるを得ず,本件処分は同項本文の定める理由
提示義務に違反してされた違法な処分であるというべきである。
(3)これに対し,被告は,本件被聴取者らが原告から報復されないよう,本20
件不認定理由は本件被聴取者らを特定することができないような記載にとど
める必要があったと主張する。
しかしながら,本件訴訟において被告が主張する本件処分の処分理由のう
ち,原告の犯罪歴や,前回調査及び本件調査における原告の供述等について
は,これらを具体的に記載したとしても,本件被聴取者らの権利利益等を害25
するおそれがあるとはいえない。また,本件被聴取者らに対する聞き取り調
査によって得られた情報についても,原告の言動に係る日時,場所や態様等
を個別具体的に明らかにしなくても,周辺者に対する聞き取り調査の結果,
原告の銃の所持に反対の意見を述べる者が複数存在したこと,これらの者か
ら,原告の性格につき短気,自分勝手といった指摘がされるとともに,原告
の言動についても,人を怒鳴り付ける,物に当たるなどの指摘のほか,動物5
虐待の具体的な指摘があったことなどの点については,これらの事実が現に
本件訴訟において被告の主張立証を通じて明らかにされており,これにより
本件被聴取者らの権利利益等が害されるおそれもうかがわれないことに鑑み
れば,このような記載をすることに支障があったということはできない。
したがって,被告の上記主張は,本件処分について理由提示義務違反であ10
るとする上記判断を左右するものとはいえない。
(4)そのほか,被告は,原告が過去に粗暴な言動を繰り返した事実はない旨
を主張して本件異議申立て及び本件訴えを提起していることからしても,本
件不認定理由の提示が,名宛人による不服申立てに便宜を与えるという行手
法8条1項本文の趣旨を没却しているとはいえない上,本件処分によって制15
限される原告の権利利益は,将来における猟銃の所持という比較的軽微なも
のにとどまる旨主張する。
しかしながら,行手法8条1項本文は処分の理由を名宛人に知らせて不服
の申立てに便宜を与えるのみならず,行政庁の判断の慎重と合理性を担保し
てその恣意を抑制するという趣旨に出たものであるところ,本件不認定理由20
の記載によっては行政庁の判断の慎重と合理性が担保されているとはいえず,
このことは原告が本件異議申立て及び本件訴えを提起したことをもって左右
されるものではない。また,本件においては,上記(3)のとおり,原告につ
き本件欠格事由に該当するとの判断の基礎となった具体的な事実関係を了知
し得るような記載をすることができた以上,本件処分によって制限される原25
告の権利利益が被告主張のような性質のものであることによって,前記(2)
の判断が左右されるものではない。
5小括
以上によれば,本件処分には行手法8条1項本文所定の理由提示義務に違反
してされた違法があるから,本件取消請求は理由がある。他方,前記1でみた
とおり,原告は本件処分当時において本件欠格事由に該当すると認められ,現5
在までに本件欠格事由該当の基礎となる事情に変化があったことはうかがわれ
ないから,東京都公安委員会が本件申請に対する認定処分をしないことがその
裁量権の範囲を超え又はその濫用となる(行政事件訴訟法37条の3第5項)
とは認められず,本件義務付け請求は理由がない。
第4結論10
よって,本件取消請求については認容し,本件義務付け請求については棄却
することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法64条
本文,61条を適用して,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第51部
裁判長裁判官清水知恵子
裁判官村松悠史20
裁判官和田山弘剛は,転補につき,署名押印することができない。
裁判長裁判官清水知恵子
(別紙1省略)

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