弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
被申立人が申立人に対し昭和四五年九月五日付でした在留期間更新不許可処分の効
力を本案(当庁昭和四五年(行ウ)第一八三号)判決の確定に至るまで停止する。
申立費用は被申立人の負担とする。
       理   由
一 申立人の申立ての趣旨および理由は、別紙(一)記載のとおりであり、被申立
人の意見は、別紙(二)記載のとおりである。
二 当裁判所の判断
 本件申立ては、在留期間更新不許可処分の効力の停止を求めるものである。
 ところで、在留外国人に対して在留期間の更新を許可するかどうかは、法務大臣
の広範な裁量にまかされていること明らかであるが、このことから、法務大臣がな
んらの事実上の根拠に基づかないでも不許可処分をなす権能を有するものと断定す
ることは許されず、不許可処分が全く事実の基礎を欠く場合には違法となり、この
点の法務大臣の認定が裁判所の審判に服すべきことは、当然であるといわなければ
ならない。
 また、在留期間更新不許可処分の効力が停止されても、在留外国人が法務大臣の
許可なしに本邦に在留する権利を取得するに至るものではなく、ただ不許可処分が
なかつたのと同じ状態が作出されるにすぎないことも、多言を要しないところであ
る。しかし、法が、在留期間の更新を受けようとする外国人は、在留期間の満了す
る日の一〇日前までに法務大臣に対し文書をもつて更新許可の申請をしなければな
らず、法務大臣は当該外国人が提出した文書により、相当の理由があると認めると
きは、これを許可することができる旨規定し(出入国管理令二一条、同令施行規則
二〇条参照)、また、在留外国人が在留期間を経過して本邦に在留するときは退去
強制をされ、刑罰に処せられることとなつている(同令二四条四号ロ、七〇条五号
参照)ことに徴すれば、法は、在留外国人に対して在留期間更新許可の申請権を認
め―これに対応して、適法な在留期間更新許可の申請に対しては許否いずれかの処
分をなすべきことを法務大臣の義務とし―ているのであつて、在留期間更新許可の
申請をした者は、その申請が権利の濫用にわたる等特段の事情のないかぎり、許否
いずれかの処分がなされるまでは、たとえ旅券に記載された在留期間が徒過した後
においても、不法残留者としての責任を問えないという意味において、本邦に残留
することができるものと解するのが相当であり、在留期間更新不許可処分の効力の
停止は、まさに、申請人に対して右のごとき法的状態を回復させるものであるか
ら、これを認める利益があるものというべきである。
 いま、本件についてこれをみるのに、申立人は、アメリカ合衆国国籍を有する外
国人であるが、一九五八年(昭和三三年)ハワイ大学美術科(極東美術・日本美術
専攻)を卒業し、ハワイ州で公立学校の教師等をした後、「アジア平和奉仕団」の
一員となつて一旦韓国にわたり、東京都千代田区<以下略>所在の「ベルリツツ・
スクール」の英語教師として勤務する目的で、一年間の予定滞在期間をもつて在韓
国日本国大使館発給の査証を取り付け、昭和四四年五月一〇日下関入国管理事務所
下関港出張所入国審査官から出入国管理令四条一項一六号、特定の在留資格及びそ
の在留期間を定める省令一項三号の在留資格者として、在留期間一年の上陸許可の
証印を受けて本邦に上陸し、昭和四五年七月二九日在留期間一二〇日間の期間の更
新が認められ、さらに、同年八月二七日在留期間更新許可の申請をしたところ、申
立人が入国わずか一七日後前記「ベルリツツ・スクール」を無断退職して東京都千
代田区<以下略>所在の財団法人「英語教育協議会」の英語教師となつたものであ
り、かつ、さきの在留期間更新の許可は、出国準備のために与えられたもので、そ
の期間も相当であつてこれを更新する必要はないという理由で、本件不許可処分が
なされるにいたつたことは、当事者間に争いがない。しかし、本件疎明によると、
申立人が前記「ベルリツツ・スクール」を退職したことについては、同スクール側
にも責むべき点があつて、申立人のみの非違を論難しえない事情があること、転職
先の「英語教育協議会」は、かなり著名な英語教育機関であつて、その教育内容、
設備、規模、信用等の点において「ベルリツツ・スクール」に劣るものとは認めら
れないこと、在留外国人が入国の際申告した勤務先をかわつても、場合によつて
は、在留期間の更新が許可されていること、申立人は、右「英語教育協議会」の保
証書を所管庁に提出し、その受理を受けたうえで、すでに一年有余にわたり英語教
師として同所に勤務し、また、そのかたわら、日本古典音楽の伝承と海外紹介とい
う多年の宿願を果すべく、日本琵琶楽協会理事錦琵琶宗家Aに師事して琵琶を、ま
た、生田流琴曲教授Bに師事して琴の修練に精励していることを一応肯認すること
ができ、これらの事実からすれば、たとえ申立人には、在留期間の更新を許可する
ことを相当としない別異の事情があるとしても、少なくとも、被申立人の挙示する
前記不許可事由は、ただそれだけでは、本件不許可処分の真実の基礎をなすものと
は認め難く、もとよりその他の事情の有無について審理、判断するに由ない裁判所
としては、本件不許可処分を全く事実の基礎を欠く違法なものとして取り扱わざる
をえない。
 しかして、本件不許可処分によつて、申立人が、昭和四五年九月八日以降、出入
国管理令二四条四号ロ該当者となつて退去強制手続を進められ、入国警備官の臨
検、捜索、押収を受け、さらには収容されることもある等人権の侵害を余儀なくさ
れる危険にさらされていることは、明らかであり、右認定の妨げとなる疎明はな
い。
 されば、本件不許可処分によつて生ずる回復の困難な損害を避けるため緊急の必
要があるものと認められるので、その効力の停止を求める本件申立ては、理由があ
るものとしてこれを認容することとし、申立費用の負担につき行訴法七条、民訴法
八九条を適用して、主文の通り決定する。
(裁判官 渡部吉隆 園部逸夫 渡辺 昭)
別紙(一)
執行停止申請書
       申立の趣旨
 被申請人が申請人に対して昭和四五年九月五日付でなした申請人の在留期間更新
を許可しないとの処分の効力は本案判決確定に至るまでこれを停止する。
との決定を求める。
       申立の原因
第一、事実経過。
一、(一)、申請人はアメリカ合衆国々籍を有する外国人で、一九三五年四月三日
アメリカ合衆国<以下略>に生まれ、一九五八年ハワイ大学美術科を卒業(極東美
術・日本美術専攻)し、ハワイ州の公立学校の教師等をしていたが、従来から日本
古来の芸術に深く関心を抱き、ハワイにおいて琴を習つたり琵琶の演奏を聴いたり
し、是非日本に行つて日本古来の音楽を学びたいと念願するに至つた。
(二)、申請人は右の希望実現の第一歩としてアジア平和奉仕団に加入して韓国に
わたり、英語教育に従事するようになつたが、その間数度観光ビザで来日して、琵
琶・琴の勉学の機会および日本で英語教師をして生計を立てる方法を探した。
二、申請人は昭和四四年五月一〇日有効な旅券及びこれに対する韓国日本領事館発
行の査証を所持して下関港に到着し、同日下関入国管理事務所入国審査官より、出
入国管理令第四条一項一六号の三の在留資格(具体的にはエンプロイメントの資
格)で、一年間の在留期間で上陸許可の証印を受け入国した。
三、申請人は直ちに東京都千代田区<以下略>所在ベルリツツ英会話学校で英語教
師として勤務して生計を立てる傍ら、念願の琵琶・琴の勉学の機会を求め探し回
り、結局琵琶は日本琵琶協会理事錦琵琶宗家A氏に師事して週二回、琴は生田流B
氏に師事して週一回(なお琴については在米中二年半習つていた)修練に励むこと
ができるようになつた。
 なお申請人は約二ケ月右ベルリツツに勤務した後、千代田区<以下略> 財団法
人英語教育協議会(ELEC)に勤務先を替えて今日まで英語教師として月約九万
円の収入を得て生活しているものである。
四、申請人は、在留期限の迫つた昭和四五年四月三〇日、更に英語教育ならびに琵
琶・琴の勉学を続ける必要があつた(申請人は日本古典音楽の研究者としてこれを
米国に持ち帰り教えたいと念願していたが、それには少なくともあと二年間の勉学
が必要であつた)ので、被申請人に対し右を理由として一年間の在留期間更新を申
請した。これに対して被申請人は約三ケ月間も何らの処分をなさなかつたうえ、同
年八月一〇日になつて突然申請人に対し「出国準備期間として同年五月一〇日から
九月七日まで一二〇日間の在留期間の更新を許可する」との処分をなした。
五、右処分は、処分が遅れた三ケ月間の在留を正当化し、出国準備のため約一ケ月
間出国を猶予するというもので、実質的な不許可処分であつたが、形式上更新許可
処分であつたため、申請人は、昭和四五年八月二七日、被申請人に対して前回申請
と同様の理由で一年間の在留期間再更新の申請をなした。これに対し、被申請人
は、同年九月五日付で申請人に対し在留期間更新を許可しないとの処分(以下本件
処分という)をなした。
第二、本件処分の違法性。
一、在留期間更新に関する法務大臣の処分が自由裁量であるとしても、それが裁量
権の範囲を著るしく逸脱するときは該処分が違法性を帯びることは判例の認めると
ころである(東京高裁昭和四四年一二月一日決定 判例タイムズ二四一号二八三頁
以下等)。
二、ところで右裁量権の範囲は次のように厳格かつ制限的に定められるべきであ
る。
(一)、日本国憲法はその前文及び第九八条から明らかな通り、国際協調主義をた
てまえとし、諸外国々民との友好関係を重視し、「全世界の国民が等しく平和のう
ちに生存する権利を有」すると宣言している。また交通情報機関の発達により国際
化した現代社会においては、人間が諸活動を営むうえで国境を越えた自由な交流を
する必要性が急増している。従つて諸外国々民は原則として日本に入国し在留する
権利を有するというべきで、憲法の趣旨に照らして合理的であると認めるに足りる
理由なしにこの権利は制限されてはならない。
(二)、また、在留期間更新許可処分は、入国許可処分とは全く別個の新たな恩恵
的処分であるということはできない。なぜならば、入国許可処分が適正に行なわれ
る以上、当初入国するに適格であると判断された者はひきつづき在留する適格もあ
ると考えられるのが通常であるし、勉学や就職のために入国したものは通常在留期
間の更新を受けて四年、五年と在留しなければ入国の目的が達せられないからであ
る。従つて在留期間更新許可処分とは、ひきつづき在留させることを前提としつ
つ、特段の事情変更や、在留者に出入国管理令第二四条各号の要件が生じたという
例外的なケースをチエツクする機能を営むものとしてあると解すべきである。従つ
て在留期間更新許可処分は従来在留外国人に与えてきた権利・利益をそのまま維持
させることであり、不許可処分はこの権利・利益を奪うものであるから、行政法の
原則により特段の合理的理由のある場合にのみ許されるものである。
三、ところが、本件処分については何ら合理的な理由が存在せず、本件処分は被申
請人に許された裁量権の範囲を著るしく逸脱した違法な処分である。
(一)、申請人は今日まで、ベルリツツないしエレツクの英語教師として英語教育
に従事する一方、余暇を利用して琵琶・琴の研究に精進し、あるいは全く合理的手
段で反戦活動をしてきたもので、真面目な生活を営み、日本の法令に触れる行為は
もとより、日本の利益に反する行為は一度もしたことがなく本件処分は誠に理解に
苦しむものである。
(二)、他方、申請人の日本在留は、申請人にとつて必要不可欠であるだけでなく
日本の英語教育及び日本古典音楽の振興・継承のためにも必要不可欠であり、日本
及び日本国民に多大の利益をもたらすものである。
(三)、更に、日本国憲法が保障する基本的人権の享受が在日外国人にも及ぶこと
は判例もこれを認めるところであるが、申請人は前記の経緯で英語教育に従事する
一方、アジア音楽の研究者・日本古典音楽の継承者を志してこれらの研究に励んで
いるものであり、現在の時点で申請人を国外に追いやることは原告の長年の夢を破
壊し、音楽の研究を中座させ、結局は原告の憲法上の権利である幸福追求権(憲法
第一三条)・学問の自由(同第二三条)・居住の自由(同第二二条)を奪うことに
なる。
以上の通り本件処分は著るしく不合理である。
四、更に本件処分は、憲法第一四条及び出入国管理令第一条に違反し違憲違法であ
る。
 すなわち、憲法第一四条は国民の法の下の平等を保障し、これは在日外国人に対
しても合理的範囲で保障されることは疑いなく、出入国管理令第一条は出入国管理
が公正になされるべきことを規定している。
 従つて、在留期間更新に関する処分は不公平又は恣意的になされてはならず、言
葉をかえれば、同一条件下にある者には同一の処分をなし思想信条等による差別を
してはならないのである。
(一)、ところが、申請人と同じく日本人の英語教育機関で働く外国人英語教師た
ちの多くは、殆んど皆在留期間の更新を二度、三度、そして数度にわたつて受けて
おり(ELECで働く申請人の同僚たちを含めて)、申請人に対してのみことさら
差別して更新を認めないことを合理化する理由がない。
(二)、申請人は、日本に入国してしばらくしてから、全く合法的に反戦活動を行
なつて来たが、被申請人の本件処分の理由を強いて考えるとすれば申請人の反戦思
想以外にありえない。そうであれば申請人の思想信条による差別をするものであ
る。
五、(一)、法務省入国資格審査課係官が申請人に対し昭和四五年九月三日非公式
に明らかにしたところによると、本件処分の理由は次のようなものである。
 「申請人はベルリツツに英語教師として勤務するというので審査を遂げて入国を
許可したところ一ケ月足らずで、ベルリツツとトラブルを起して勝手に退職し、エ
レツクに職を替えた。このような事情は入国審査を無にするばかりであり、又彼を
在留させるにふさわしくない好ましからざる人物と判断するに足るものである。」
(二)、しかし右説明は次の二点で到底承服しかねるものである。
 第一に、被申請人は右の「トラブル」の原因をベルリツツにのみ照会し、申請人
に何らの弁解のチヤンスを与えないで申請人の責に帰したのであるが、申請人がベ
ルリツツを辞めたのは以下の事情による。
(1) 申請人は本国でも韓国でも教師をしていたので、自分なりの教育方法をも
つており、ベルリツツの教育方法が生徒の能力からいつて無理があり、他の方法で
やろうと思つたが、ベルリツツはこれを認めず、金がもうかればよいのだと云つ
た。
(2) 申請人は琵琶・琴の勉強のため定まつた余暇を欲し、ベルリツツのスケジ
ユールはきちんとしているというので就職したが、申請人にベルリツツを紹介した
Cなる人物が居なくなるとスケジユールがひどく乱れ、申請人が当日学校に行つて
みなければ授業が何時から何時まであるのかまるで解らず、ひどい時は一日一四時
間も割りあてられた。
(3) 給料が遅配されたり、現金化するのが不便なような小切手で渡される等の
事情が重つた。
(4) 当初ベルリツツは韓国から来日するに際しての旅費を支払うと言つておき
ながら、後日これはコントラクトではないといつて一方的にこれを撤回した。従つ
て申請人もベルリツツとの契約はコントラクトではなく拘束力がないものと思つて
いた。
 また無断退職というのも事実に反する。申請人はベルリツツの事務局に退職する
旨通知しているのである。なおベルリツツ側から退職のことで苦情等を云われたこ
とはこれまでに全くない。
 以上のように、被申請人の判断は明らかに事実誤認にもとづくものである。
 第二に「入国後すぐ職を替えたことは入国審査の意味を無にするもので、そのよ
うな人物には在留期間を更新するわけにはいかぬ」という論理は余りに一方的であ
り、又具体的事実に対する適格な判断を怠つたものである。
 すなわち、申請人が転職したことは前述のようにやむを得ない事情にもとづくも
のであり、又被申請人が申請人の前回申請に対する処分をなした昭和四五年八月一
〇日当時には申請人がすでに一年余もエレツクで真面目に英語教師として勤務して
きたこと、およびエレツクが著名な英語教育機関で、その教育内容設備・規模・信
用等がベルリツツに勝るとも劣らないものであることは明らかになつていたし、そ
れだからこそ申請人の提出したエレツクの保証書を被申請人も受理したのである。
また、申請人は英語教育の目的で入国を許可されたので英語教育を続ける限り転職
してもさしつかえないと思つており、転職がいけないと被申請人から説明を受けた
こともなく、この程度の転職が重大問題とは夢想だにせず、ただよりよき労働条
件・教育環境を求めて善意で転職したのである。
 このような具体的事情を捨象してこの転職の一事を以て以後日本在留を一切認め
ないという本件処分は余りに過酷であり一方的である。
(三)、以上のように被申請人が申請人に対して明らかにした処分の理由も到底合
理的なものとはいえない。
第三、効力停止の必要性。
一、申請人は以上の理由で御庁に本件処分取消訴訟を提起しているが、昭和四五年
九月八日から、本件処分の効力により在留期間を超えて在留する不法在留者とな
り、収容令書により身柄を拘束され、強制退去令書により強制送還され、あるいは
出入国管理令違反の被疑者として逮捕・勾留されるおそれがある。
 そして、申請人の英語教師としての教育活動、琵琶・琴等の勉学活動等は全て中
絶され、生計を維持することが困難になるばかりでなく、申請人の日本古典音楽研
究者あるいは琵琶の継承者となる長年の望みは全て断念せざるを得なくなるのであ
る。
 従つて、すみやかに本件処分の効力を停止しなければ、申請人は回復しがたい重
大な損害を蒙ることになり、本件処分の効力停止の必要性は極めて大きいといえ
る。
二、他方申請人の住居は定まつており、身元保証人も居り、又前述したような在留
目的・在留状況からして申請人が逃亡したり、入管当局の呼出に応じないといつた
ことは到底考えられず、しかも申請人を拘束せずに在留させることによる公共の福
祉上の不利益も考えられない。
三、なお、本件処分の効力を停止した場合には、在留期間更新申請に対して何らの
有効な処分がなされていないことになり、在留期間を経過しても申請人は合法的に
在留できるものである。実務上も、更新申請に対して在留期間経過後に処分がなさ
れることがあり(申請人に対する昭和四五年八月一〇日の処分もこれにあた
る。)、在留期間満了から処分のなされる日までは合法的に在留できるものとして
取扱つている。
第四、結論
よつて、本件処分の効力の停止を求めて申立に及んだ次第である。
       疎明方法(省略)
別紙(二)
意見書
       意見の趣旨
 本件申請を却下する。
 申請費用は申請人の負担とする。
との裁判を求める。
       理   由
一、本件在留期間更新申請の不許可処分に至る経過
(一) 申請人は、アメリカ合衆国々籍を有する外国人で一九三五年(昭和一〇
年)四月三日アメリカ合衆国<以下略>に生まれ過去三回の本邦への出入国歴を有
するものであるが
(1、昭和四二年八月一日 目的観光、在留資格四ー一ー四
 同年九月一日 出国
2、昭和四三年一月六日 目的観光、在留資格四ー一ー四
 同年一月二三日 出国
3、昭和四四年一月一五日 目的観光、在留資格四ー一ー四
 同年三月一八日 出国)
申請人は、東京都千代田区<以下略>所在のベルリツツ・スクールの英語教師とし
て勤務する目的で、一年間の予定滞在期間をもつて在韓国日本国大使館発給の査証
を取り付け、昭和四四年五月一〇日下関入国管理事務所下関港出張所入国審査官か
ら出入国管理令四条一項一六号特定の在留資格及び在留期間を定める省令一項三号
に該当するものとしての在留資格(以下在留資格四ー一ー一六ー三という)、在留
期間一年の上陸許可の証印をうけ本邦に上陸した。
(二) 申請人は、昭和四五年五月一日被申請人に対し、東京都千代田区<以下略
>所在の財団法人英語教育協議会(THEENGLISH LANGUAGE E
DUCATION COUNCIL INC)の英語教師として在職および日本の
伝統的な音楽を勉強するためとして出入国管理令(以下入管令という)二一条二項
にもとずく在留期間更新許可申請をなした。(疎乙第 号証ないし同第 号証)
 右申請につき、被申請人が調査したところ、 申請人は昭和四四年五月一〇日前
記ベルリツツ・スクールの英語教師として勤務するということで入国を認められた
ものであるにもかかわらず、本邦入国後わずか一七日間でベルリツツ・スクールを
無断退職し、前記英語教育協議会の英語教師に転職し、しかもその退職の事情は、
申請人はベルリツツ・スクールにおいて入国後三週間にわたり教師となるべくトレ
ーニングをうけたのであるが、英語教師としての活動に従事する直前にいたつて勤
務態度がふまじめになつたため、学校側が申請人に対し注意したところ、同月二七
日無断で退職したもので、そのため学校側でも教育予定に支障をきたしたものであ
ることが判明した。
 そこで被申請人としては、後記第三項で述べる理由により、昭和四五年七月二九
日出国準備期間として在留資格四ー一ー一六ー三期間一二〇日の期間更新許可をな
した。
(三) 申請人は同年八月二七日、引続き英語教育協議会の英語教師およびびわの
勉学のためとして本件在留期間更新許可申請をなした(疎乙第 号証)が、前回の
在留期間更新の許可は出国準備期間ということでなされたものであり、すでに出国
準備に必要な期間を与えている以上、さらに在留期間の更新を認める必要はなく、
他にも、特に更新を必要とする事情が認められなかつたので、同月五日本件不許可
処分をなしたものである。
二、本件執行停止申請は回復困難な損害を避けるため緊急の必要があるときにあた
らない。
(一) 申請人は、同人が昭和四五年八月二七日づけでなした出入国管理令二一条
にもとづく在留期間の更新申請に対し、被申請人が同年九月五日になした不許可処
分の効力の停止を求めているのであるが、申請人が効力停止の必要性として主張す
るところは、昭和四五年九月八日から本件処分の効力により不法残留者となり、収
容令書による身柄の拘束、退去強制令書による強制送還等の処置を受けるおそれが
あるというのである。
 しかしながら、申請人が昭和四五年九月八日から不法残留者となるのは、申請人
に対し認められた在留期間が同月七日をもつて満了するためであつて申請人のなし
た本件在留期間の更新申請に対する不許可処分の効力によるものではない。すなわ
ち、在留期間の更新は外国人の申請にもとづき、法務大臣が更新を適当と認めるに
足りる相当の理由があるときにかぎりこれを許可するのであり、許可がないかぎり
更新されることがないのである(入管令二一条二項、三項)。
 したがつて、在留期間更新申請に対し不許可処分がなされた場合には、かりに不
許可処分の効力停止がなされたとしても、停止の時点から将来に向つて、不許可処
分の効力がない状態におかれるだけであつて、不許可処分の効力停止により、許可
があつた状態が形成されるわけではない。積極的に許可があつたのと同一の効果を
発生せしめることは、本来執行停止の観念と相容れないからである。そうであると
すれば、申請人は、本件不許可処分の効力停止により、期間更新申請をなしたがい
まだ許可、不許可の処分がなされていない場合と同様の法律関係に立つに過ぎない
のであり、積極的に本邦に在留しうる法的地位を取得するものではない。それ故、
在留期間が経過すれば当然に不法残留となるのであり、入管令二四条四号ロの退去
強制事由に該当することとなる。したがつて、不許可処分の効力停止がなされて
も、なされなくても、在留期間の経過により、申請人が退去強制事由に該当するに
いたることには変りがないのである。申請人は不許可処分の効力停止がなされれ
ば、在留期間を経過しても合法的に本邦に在留することができると主張している。
この主張がいかなる法律的根拠にもとづくのかについては何ら述べるところがない
が法令上別段の規定のないかぎり在留期間の更新申請があれば、在留期間満了の効
果が生じないと解すべき理由はなく、申請人の主張は失当である。なお、申請人
は、実務上も更新申請に対して在留期間経過後に処分がなされることがあり、これ
は、処分のなされるまでは合法的に在留できるものとして取扱つていることになる
と主張している。しかし、在留期間経過後、在留期間の更新申請に対する許否の処
分のあるまでの間に、退去強制手続をとらなかつたことがあつても、それは、在留
期間の更新が許容されればそれまでになした退去強制手続が無益に帰すことからの
便宜的な措置にすぎず、合法的に在留できるものとして取扱つているわけのもので
はない。
 右に述べたように、本件執行停止申請は、かりに認容されたとしても、申請人の
本邦に在留することのできる法的地位の成否には何ら影響するところがなく、した
がつて退去強制手続の阻止には何ら益するところがないのであるから、執行停止を
求める必要性を欠くものであるというべきである(東京地決昭和二七・三・二四行
例集三・二・四一五、東京高決昭和二七・四・八行例集三・三・六〇二参照)。
(二) 右に述べたように、本件処分の効力の停止の有無にかかわらず、在留期間
経過により不法残留となり、退去強制事由の発生は避けられないのであるが、退去
強制事由に該当すると思料される外国人があるときは、入国警備官は違反調査に着
手し(入管令二七条)、違反調査の目的を達するため必要な取調をなし(二八条一
項)、必要に応じて容疑者の出頭を求め、容疑者を取調べることができ(二九条)
その他必要な調査をなしたうえ、容疑者が退去強制事由に該当すると疑うに足りる
相当の理由があるときは、入国警備官は、主任審査官に対し収容令書の発付を請求
し、主任審査官の発付した収容令書により容疑者を収容することになる(三九
条)。
 そして容疑者を収容したときは、入国審査官に引渡すのである(四四条)。
 入国審査官は容疑者の引渡を受けたときは、退去強制事由に該当するかどうかを
審査し(四五条一項)、審査の結果退去強制事由に該当すると認められた場合はそ
の旨の認定をなし(四七条二項)、この認定に異議を有する容疑者から口頭審理の
請求がなされたときは(四八条一項)、口頭審理官は口頭審理を行ない(四八条三
項)、口頭審理の結果入国審査官の認定に誤りがないと判断したときはその旨の判
定をする(四八条七項)。
 右判定に不服を有する容疑者は法務大臣に対し異議の申出をすることができ(四
九条一項)、異議の申出がなされたときは法務大臣は異議の申出が理由があるかい
なかを判断し、異議の申出が理由がないと判断された場合にも、さらに在留特別許
可を与えるべき事情の有無について考慮し(五〇条一項)、在留特別許可を与える
必要のないと判断されたときは異議の申出が理由がないと裁決するのである。
 法務大臣の異議の申出が理由がないとの裁決がなされた段階において、始めて、
主任審査官は退去強制令書を発付することができるのであり、そして同令書にもと
づく執行がなされるのである。このような慎重な手続経過により、収容・退去強制
が行なわれるのであるが収容および退去強制は収容令書の発付、退去強制令書の発
付という在留期間更新不許可処分とは別個独立の行政処分がなされなければ行なわ
れないものであり、不許可処分にもとづいて直ちに収容・退去強制が行なわれるわ
けのものではない。
 しかも収容令書の発付、退去強制令書の発付がなされた場合には、右各処分の執
行停止を求めることにより収容・退去強制によつて蒙るべき損害を避ける機会が与
えられているのであるから、申請人の保護に欠けるところはないのである。
 右のとおりであるから、在留期間更新不許可処分がなされた現段階において、右
処分の執行停止をしなければならないほどの回復困難な損害を避けるため緊急の必
要があるとはとうていいえないのである。
三、本件不許可処分は相当である。
(一) 在留期間更新の許可は入管令二一条三項に明らかなごとく、法務大臣にお
いて、当該外国人が提出した文書により在留期間の更新を適当と認めるに足りる相
当な理由があるときに限りなされるのであつて、申請があれば必ず許されるという
ものではなく、その許否は法務大臣の自由裁量に委ねられているのである。
 そして、外国人の入国及び在留の許否はもつぱら当該国家の自由裁量により決定
しうるのであつて、特別の条約がない限りは、国家は外国人の入国または在留を許
可する義務を負うものではないというのが国際慣習法上認められた原則で、わが国
の出入国管理令の各規定にもこの原則が反映されているとみられるのであつて、外
国人は自己を在留させよと他の国家に対して要求する権利はない。したがつて入管
令二一条が外国人に対し在留期間の更新を申請することができると規定してあるか
らといつても同令は外国人に在留期間の延長を権利として付与したものではなく、
法務大臣の自由裁量によつて恩恵的に在留期間の延長が許されるものであるから、
右申請をした外国人は単に更新申請が許可されることがありうるという事実上の期
待をもつだけである(大阪高判(刑事)昭和四三・四・九)。
 右のように在留期間更新を許可するか否かについての法務大臣の自由裁量権は、
その性質からみて、きわめて広範囲のものであり、自由裁量権の行使が裁量権の範
囲を逸脱し、あるいは裁量権の濫用となることによつて処分が違法となることはき
わめて例外的な場合であるといえよう。
(二) ところで、一般に英語教師の入国に当つては、厳重な審査を必要としてお
り、単に英語教師希望というだけでは入国を認めておらず、教師として勤務する施
設を特定させ、かつ、実際に有効な勤務契約が成立し、または成立することが確実
であることを確認したうえで、学校の規模、教師数、生徒数、経営内容を調査し
て、当該外国人が真実、かつもつぱら英語教師として活動することが確実であり、
入国を許可することがわが国にとつて利益であると認められる場合にのみ許可され
ている状況である。
 しかして申請人の入国を許可したのは、申請人が申請外ベルリツツが昭和四四年
三月に開講した有楽町スクールにおける英語教師として一年間勤務するとの申出が
確実であると認めたからである。
 しかるに申請人は、前述したように、入国後わずか二週間そこそこで一方的にベ
ルリツツを辞め、他の学校に移るにいたつたのである。
 このようにきわめて短期間に勤務先を変更するような者については、英語教師と
して入国を許可しないのが一般的な取扱いである。
 したがつて申請人がどのような事情によつて勤務先を変えたにしても、当初入国
の際に入国を許可されるにいたつた勤務先でない学校への勤務を続けることを希望
するからといつて、在留期間の更新を認めなければならない理由はなく、在留期間
の更新申請を不許可にしたことは当然である。
 本人のエレツクでの勤務も、本来は一度国外に出て新たな審査を受けるべきもの
であつた。
 申請人は、びわ、琴の研究をも期間更新の理由にしているが、さきに入国を許可
されたのは、英語教師としてであり、もしその目的において在留が認められた場
合、英語教師のかたわら、びわ、琴の研究をあわせて行なうことは自由であるが、
それらの研究のためとしてこの際在留を認めるべき理由はない。
 そして、前述したように、すでに出国準備のために一度在留期間更新を認めてい
るのであるから、これ以上申請人に対し在留期間の更新を認める必要はないのであ
る。
 以上述べたところから明らかなように、被申請人のなした本件不許可処分に裁量
権の逸脱ないし裁量権の濫用は存在しないのであり、本件申請は本案について理由
がないこと明らかであるといわなければならない。
四、よつて本件執行停止申請はすみやかに却下されるべきである。
       疎明方法(省略)

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