弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役一年六月に処する。
     原審における未決勾留日数中一二〇日を右刑に算入する。
     この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。
     押収してあるセルロイド板三枚(当庁昭和六一年押第四八号の一、二)
を没収する。
     原審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。
         理    由
 本件控訴の趣意は、弁護人白井孝一が提出した控訴趣意書に、これに対する答弁
は、検察官鮫島清志が提出した答弁書に、それぞれ記載されたとおりであるから、
これらを引用する。
 控訴趣意第一について
 所論は、要するに、原判決の認定した事実関係によると、被告人のAに対する行
為は、同人の逮捕遂行の意思を制圧するに足りる程の強度を有するとはいえず、刑
法二三八条に定める暴行には当たらないから、被告人の本件行為について強盗致傷
罪が成立するとした原判決には、判決に影響を及ぼすことの明らかな法令適用の誤
りがある、というのである。
 そこで、所論にかんがみ、まず原判決の事実認定を職権で調査すると、関係証拠
によれば、被告人が右A(当時三四歳)に逮捕されようとした際の具体的状況とし
て、次のような諸事実、すなわち、
 一 被告人は、原判示のとおり、パチンコ店「B」においてパチンコ玉を窃取し
たところを店員のAに発見されたため、素早く店内を駆け抜け、南側出入口から店
外に出て逃走しようとしたが、同店前の幅約二・九メートルの歩道を横切りその歩
道と車道の境目あたりまできたとき、追跡してきた同人に追いつかれたこと、
 二 Aは、追い掛けながら、被告人の背後から、右手をその右肩越しに胸のあた
りに当て、左手をその左わきの下から回して抱きかかえ、被告人を捕まえようとし
たが、まだ被告人の身体や衣服をつかんではいなかつたこと(なお、原判決は、右
のような態様の行為を目して「羽交締め」と判示したものと解される。)、
 三 被告人は、その瞬間、逃げたい一心から、これを振りほどこうとして、とつ
さに、「えい」という声(もつとも、それが強い力を出すときのいわゆる掛け声で
あつたとは断定し難い。)を出しながら、上半身を前に倒して前かがみとなり、右
肩を左下方向にひねつたこと、
 四 Aは、走りながら、しかもその片足が車道より一段高い歩道上に残つている
状態で、すでに車道に降りている被告人を背後から抱きかかえる形になつており、
その身長も被告人より約一〇センチメートル高いなどの転倒し易い条件があつたう
えに、被告人が右のような動作をしたため、そのはずみでいつたん被告人の背中に
乗り、勢い余つて被告人の右斜め前方の路上に落下し横転するに至つたもので、被
告人が積極的にAを投げ飛ばそうとしたり、ことさら転倒させようとしたりしたわ
けではなかつたこと、
 五 Aは、路上に落下し横転した際、原判示のように加療約三週間を要する腰椎
捻挫、両肘部挫創などの傷害を負い、かつ、一瞬ぼうつとなつたが、二、三秒です
ぐ起き上がり、被告人を更に六〇メートル位追跡して難なく逮捕したこと
 がそれぞれ認められる。
 そうすると、原判決が、「罪となるべき事実」において、背中に乗つたAを右前
方に落下させる暴行を加えた旨、いかにも被告人が意識的にAを振り落としたかの
ような響きをもつ判示をし、また、「弁護人らの主張に対する判断」において、
「えい」という掛け声もろとも長身のAを完全に背中に乗せる程の力を瞬間的に出
したというような趣旨の判示をしているのは、当時の被告人の意思や行為の態様
が、前記認定と比べより積極的で、攻撃的であつたと認定したものにほかならず、
事実を誤認したものといわなければならない。
 <要旨>以上の事実関係に基づいて、被告人の行為が事後強盗罪にいう暴行に当た
るか否かについて考察するに、本件のように、窃盗犯人が、逃走中に、追跡
してきてその犯人を背後から抱きかかえ、逮捕しようとした者に対し、投げ飛ばす
などの積極的、攻撃的な暴行を加える意思がなく、ただ逃げたい一心から、相手の
腕を振りほどいて逮捕を免れようとし、上半身を前に倒して前かがみとなり、右肩
を左下方向にひねるという防御的な動作をしたにすぎないときは、たとえそのはず
みで相手が勢い余つて転倒し、傷害を負うという事態が発生したとしても、その行
為は、不法な有形力の行使とはいえるがいまだ相手の逮捕遂行の意思を制圧するに
足りる程度の暴行の域にまでは達していないものと解するのが相当である。本件に
おいては、右の傷害が意外に重く、また、被告人の右行為により一時的に逮捕が妨
げられてはいるが、これらの結果から、本件行為の性質についての評価が変わるも
のとは思われない。
 したがつて、被告人の本件行為は、刑法二四〇条前段の強盗致傷罪には当たら
ず、窃盗罪と傷害罪の併合罪として処断するほかないものであるから、原判決には
判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認及び法令適用の誤りがあるといわなけ
ればならない。論旨は結局理由がある。
 よつて、控訴趣意第二に対する判断を省略したうえ、刑訴法三九七条一項、三八
二条、三八〇条により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書により、当裁判所におい
て更に次のとおり判決する。
 (罪となるべき事実)
 被告人は、
 第一 昭和六〇年七月九日午後零時三五分ころ、静岡市a町b番c号所在のパチ
ンコ店「B」において、パチンコ遊技機の受皿部から手製のセルロイド板を差し入
れるなどして不正に玉を出す方法で、C管理のパチンコ玉約三〇〇個(価額約一二
〇〇円)を窃取し、
 第二 その後間もなく、同店前路上において、追跡してきた同店店員A(当時三
四歳)に背後から上半身を抱きかかえられたので、同人の腕を振りほどいて逮捕を
免れようと考え、とつさに、同人に対し、上半身を前に倒して前かがみとなり、右
肩を左下方向にひねる暴行を加え、同人を路上に横転させ、よつて、同人に対し、
加療約三週間を要する腰椎捻挫、両肘部挫創などの傷害を負わせ
 たものである。
 (証拠の標目)(省略)
 (法令の適用)
 判示第一の所為は刑法二三五条に、同第二の所為は同法二〇四条、罰金等臨時措
置法三条一項一号にそれぞれ該当し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、
判示第二の罪について懲役刑を選択したうえ、同法四七条本文、一〇条により判示
第一の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で、被告人を主文の刑に処し、原審
における未決勾留日数の算入につき同法二一条、刑の執行猶予につき同法二五条一
項、没収につき同法一九条一項二号、二項、原審における訴訟費用につき刑訴法一
八一条一項本文をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 坂本武志 裁判官 田村承三 裁判官 本郷元)

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