弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を札幌地方裁判所室蘭支部に差戻す。
         理    由
 (控訴の趣意)
 各被告人及弁護人坂谷由太郎の控訴の趣意はそれぞれ提出の控訴趣意書記載のと
おりであるからこれを引用する。
 (弁護人の控訴趣意に対する判断)
 本件の起訴状には、被告人両名に対する訴因として「右公職選挙の期間中同選挙
に関し文書図画の頒布につき禁止を免れる行為をなし」と記載され、罪名及び罰条
として公職選挙法違反公職選挙法第百四十六条第一項同法第二百四十三条五号が掲
げられている。
 公職選挙法第百四十二条は選挙運動のために頒布する文書図画を選挙用である旨
を示した一定数の通常葉書に制限し、それ以外の文書図画を選挙運動のために頒布
することを禁止したものである。従つて、選挙運動のためにするのでなければ同条
の禁止にふれないことは云うまでもない。そうして同条に云う選挙運動とは一定の
公職につき一定の公職の候補者を当選させるためにその候補者に投票を得させるに
有利な行為をなすことを<要旨>云うのであつて、一定の候補者を落選させるために
する行為は同条に云う選挙運動ではない。次に同法第百四十六条は右法条の
脱法行為を禁止する趣旨、すなわち、外見上選挙運動のためでないような文書図画
を、その外見に藉口して、第百四十二条の制限外に頒布し、以つて選挙運動の目的
を不法に達することを禁止するものと解すべきである。故に頒布行為が同条に違反
すると云うがためには、一定の公職の候補者を当選させる目的(文書自体に明にあ
らわれていない目的)がなければならない。かく解して本件の起訴状を見ると、こ
れには昭和二十七年十月五日施行のA教育委員選挙に際して立候補したBの名をB
医師と表示した「悪質ボスを村にはびこらすな!」と題する印刷物多数を頒布した
旨記載されているが、右の頒布行為がB候補者の当選を目的としたものでないこと
は右の記載自体によつても明かである。然らば何人の当選を目的としたものである
か、起訴状にはこの点につき明確な記載はなく、またこれを推知させる記載もな
い。本件の起訴状の訴因の記載は不十分と云わねばならぬ。この点を釈明して被告
人の防禦にも遺憾なからしめた上でなければ判決はできないわけである。記録を調
査すると、原審はこの点を不問に付したまま審理し、判決にもこの点つき何等判示
するところがないのであつて、右は該当法案の解釈適用を誤つたものと云うべく、
その結果判決に影響を及ぼすことが明かである。論旨は結局理由がある。
 よつて、各被告人の控訴の趣意に対する判断を省略して、刑事訴訟法第三百九十
七条第三百八十条第四百条本文に従い主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 熊谷直之助 判事 成智寿朗 判事 笠井寅雄)

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