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平成21年2月25日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成19年(行ケ)第10424号審決取消請求事件(特許)
口頭弁論終結日平成21年1月28日
判決
原告株式会社デンソー
訴訟代理人弁理士碓氷裕彦
同伊藤高順
被告カルソニックカンセイ株式会社
訴訟代理人弁理士三好秀和
同豊岡静男
同工藤理恵
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2005−80303号事件について平成19年11月26日にし
た審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が,昭和61年10月21日,名称を「無線式ドアロック制御装
置」とする発明につき特許の出願をし,平成7年3月8日,出願公告(特公平7−
21264号)を受け,平成10年2月27日その設定登録(特許第213514
2号)を受けたところ,これに関し被告が平成17年10月27日付けで無効審判
請求をしたので,特許庁がこの請求を無効2005−80303号事件として審理
し,平成19年11月26日,特許第2135142号に係る発明についての特許
を無効とするとの審決をしたことから,特許権者である原告がその取消しを求めた
事案である。
1特許庁等における手続の経緯
(1)第1次審決
原告は,昭和61年10月21日,発明の名称を「無線式ドアロック制御装置」
とする特許出願をし,平成7年3月8日,出願公告がなされ(特公平7−2126
4号,平成10年2月27日,特許第2135142号として設定登録を受けた)
(請求項は1∼4。以下,この特許を「本件特許」という。。)
上記特許に対し,平成17年10月27日,被告が無効審判請求を行ったところ,
特許庁は,同請求を無効2005−80303号事件として審理し,平成18年9
月27日,請求不成立との旨の審決(第1次審決(甲12)をした。)
(2)第2次審決(本件審決)
これに不服の被告が,審決取消訴訟を提起し,知的財産高等裁判所は,平成19
年4月25日,上記審決を取り消す旨の判決(甲20)をし,同判決が確定した
(甲23。以下「第1次判決」という)ので,特許庁において,上記無効200。
5−80303号事件の審理が再び続けられることとなった。
そして,特許庁は,平成19年11月26日「特許第2135142号の発明,
についての特許を無効とする」旨の審決(第2次審決,本件審決)をし,その謄。
本は,平成19年12月5日原告に送達された。
(3)訂正審判事件
原告は,同審決取消訴訟を提起した後,平成20年1月29日付けで訂正審判請
求(甲24。全文訂正明細書は甲25)をし,特許庁はこれを訂正2008−39
0012号事件として審理することとなったが,当裁判所は,特許法181条2項
により本件審決を取り消すという決定をすることなく本件審決取消訴訟の審理を続
けた。そして,特許庁は,上記訂正審判請求を訂正2008−390012号事件
として審理し,平成20年6月11日「本件審判の請求は,成り立たない」と,。
の審決(訂正拒絶審決)をした。そして,これに不服の原告が,審決取消訴訟を提
起したところ,知的財産高等裁判所は,これ(平成20年(行ケ)第10268号
事件)を本件と同じ裁判体によって審理し,平成21年1月28日に口頭弁論を終
結し,同年2月25日に判決の言渡しをしている。
2特許請求の範囲
本件特許の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(本件発明)は,次のとおりで
ある。
「キーシリンダに挿入され,各種機器を作動させるキープレートと,
このキープレートの一端に設けられ,このキープレートを操作するためのつまみ
部と,
このつまみ部に設けられる送信スイッチと,
前記つまみ部に内蔵され前記送信スイッチが操作されると予め定められたコード
信号を送信する送信機と,
前記送信機から送信されるコード信号を受信して,ドアロックアクチュエータを
制御する受信機とを備える無線式ドアロック制御装置において,
前記キープレートが前記キーシリンダに挿入されているとき所定の検出信号を発
生する検出手段と,
この検出手段が前記検出信号を発生すると,前記無線式ドアロック制御装置の作
動を禁止する禁止手段とを備えることを特徴とする無線式ドアロック制御装置」。
3審決の内容
審決は,前記のとおり,特許第2135142号に係る発明についての特許を無
効としたものである。その理由の要点は,本件発明は,甲1(実願昭59−199
303号(実開昭61−115466号)のマイクロフィルム。以下「刊行物1」
といい,これに記載された発明を「引用発明1」という)及び甲2(特開昭60。
−70284号公報。以下「刊行物2」といい,これに記載された発明を「引用発
明2」という)に記載された事項並びに周知の技術に基づいて当業者が容易に発。
明をすることができたものであるから,本件発明の特許は,特許法29条2項の規
定に違反してなされた,としたものであり,その具体的な内容は,次のとおりであ
る。
「第5.甲第1号証及び甲第2号証の記載事項
1.甲第1号証の記載事項
本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第1号証(以下「刊行物1」という),。
には「車両用遠隔解施錠装置」に関して,図面とともに,次の事項が記載されている。,
(1イ「(1)車両の解施錠手段に対する解錠又は施錠を指令する信号を送信する送信機と,)
車両に搭載され送信機からの送信信号を受信し解施錠手段に解錠信号又は施錠信号を出力する
受信機と,を有する車両用遠隔解施錠装置において,送信機にイグニツシヨンキーを一体的に
装着したことを特徴とする車両用遠隔解施錠装置。
(2)前記イグニツシヨンキーにアンテナコイルを形成し,このアンテナコイルから送信機
の出力信号を送信することを特徴とする実用新案登録請求の範囲第1項記載の車両用遠隔解施
錠装置(実用新案登録請求の範囲)。」【】
(1ロ「本考案は,前記従来の課題に鑑みてなされたものであり,その目的は,イグニツシ)
ヨンキーと送信機とを別々に所持する不便さを解消することができる車両用遠隔解施錠装置を
提供することにある(明細書第3頁第6∼10行)。」
(1ハ「本実施例は,第1図に示されるように,送信機10に,メカニカル式イグニツシヨ)
ンキー30を一体的に装着したものであり,受信機の構成は従来のものと同様であるので,受
信機の構成の説明は省略する。
送信機10は,第2図に示されるように,アツパーケース32,ロアケース34,スイツ
チ16,マイクロコンピユータを構成するLSI36,赤外線LED38,40などを有し,
スイツチ16,LSI36,LED38,40が回路基板42上に実装されている。回路基板
42はねじ44によりロアケース34に固定されている。この回路基板42とロアケース34
の側壁との空間部には電池46,48,50が収納されており,接点52を介してLSI36
などに電力が供給されている。回路基板42上のスイツチ16には操作ボタン16aが装着さ
れる(明細書第4頁第2∼18行)。」
(1ニ「そして,スイッチ16がON操作されるとスイッチSW1∼SW4の操作に基づく)
キーコードが赤外線LED38,40から送信される(明細書第6頁第1∼3行)。」
(1ホ「本実施例は,第4図に示されるように,イグニツシヨンキー30の基端部に矩形状)
のアンテナコイル30Aが形成されている。そして,このイグニツシヨンキー30を収納する
ために,ロアケース34には平板状の仕切板64が配設されており,仕切板64の底部には収
納室66が形成されている。この収納室66はロアケース34に固定されたイグニツシヨンキ
ー30を収納可能なスペースとされている。またアンテナコイル30Aにはねじ孔30B,3
0Cが刻設されており,仕切板64には貫通孔64a,64bが刻設されている。このため,
仕切板64上に回路基板42を装着し,さらにアツパーケース32を装着した後アツパーケー
ス32のねじ孔32b,32cからねじ60を挿入し,アツパーケース32をロアケース34
に固定すれば,キーホルダー30を仕切板64に固定することができる(明細書第6頁第1。」
0∼第7頁第6行)
(1ヘ「また本実施例においては,第5図に示されるように,トランジスタTr1,赤外線)
LED38,40などの赤外線送信回路の代りに,電波送信部70が回路基板42上に実装さ
れており,アンテナコイル30Aが電波送信部70に接続され,アンテナコイル30Aから専
用のキーコードが送信されるように構成されている(明細書第7頁第7∼13行)。」
上記記載事項並びに図面に示された内容を総合すると,刊行物1には次の発明(以下「引,
用発明1」という)が記載されていると認められる。。
(引用発明1)
「キーシリンダに挿入され,各種機器を作動させるイグニツシヨンキー30と,
このイグニツシヨンキー30の一端に設けられ,このイグニツシヨンキー30を操作する
ための,アツパーケース32とロアケース34から成るキーケースと,
このキーケースに設けられる操作ボタン16aと,
前記キーケースに内蔵され前記操作ボタン16aがON操作されると,スイッチSW1∼
SW4の操作に基づき予め定められたキーコードを送信する電波送信部70と,
前記電波送信部70から送信されるキーコードを受信して,ドアロック装置を制御する受
信機を備える車両用遠隔解施錠装置」。
(なお,刊行物1に上記の引用発明1が記載されている点につき,当事者間に争いがない)。
2.甲第2号証の記載事項
本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第2号証(以下「刊行物2」という),。
には「車両用施錠制御装置」の発明に関して,図面とともに,次の事項が記載されている。,
(2イ「1)所定の固定信号を無線送信する携帯用送信機と;)(
車体側に設けられ,かつ前記固有信号を受信する受信手段と;
前記受信された固有信号が車体側に予め設定された固有信号に一致するか否かを判別する
固有信号照合手段と;
ドアロック等の車体所定部位の錠を施錠・解錠操作するロツクアクチユエータと;
前記固有信号の一致が判定された場合に限り,前記ロツクアクチユエータを駆動するロツ
クアクチユエータ駆動手段と;
前記ロツクアクチユエータの駆動を禁止するアクチユエータ駆動禁止手段とを具備するこ
とを特徴とする車両用施錠制御装置。
(2)前記アクチユエータ駆動禁止手段は,イグニツシヨンキーが鍵孔に挿入されているか
否かを検出するイグニツシヨンキー挿入検出部と,該イグニツシヨンキー挿入検出部によつて
イグニツシヨンキーが鍵孔に挿入されていることが検出されている期間中は,前記ロツクアク
チユエータの駆動を禁止するアクチユエータ駆動禁止部とからなることを特徴とする特許請求
の範囲第1項記載の車両用施錠制御装置(特許請求の範囲)。」【】
(2ロ「≪産業上の利用分野≫)
この発明は,無線式にドアロツク等の錠の解錠・施錠を行なう車両用施錠制御装置に関す
る(公報第1頁右下欄第10∼12行)。」
(2ハ「≪発明の背景≫)
本願出願人は,先に,特願昭57−132118号(未公開)において『電波式キーシス
テム』提案している。この電波式キーシステムは,例えば車両のドアロックに適用され,運転
者がキーを所持する代わりに送信機を持ち,この送信機を所持したものが上記ドアに設けられ
たスイッチを操作した場合のみドアロックの解錠あるいは施錠が行なわれる構成となっている
ものである(公報第1頁右下欄第13行∼2頁左上欄第1行)。」
(2ニ「このように,カード型送受信機1側のコード信号と車両側の制御回路2に登録され)
ているコード信号とが一致した場合に限りドアロツクの解錠・施錠が行われることによつて,
例えば上記カード型送受信機1を所持しない者がドアロツクを解錠しようとしても,ドアロツ
クは解錠されない。また,コード信号の異なるカード型送受信機1を携帯した者がドアロツク
を解錠しようとしても同様にしてドアロツクは解錠されない。これによつて,上記カード型送
受信機1は,従来の機械式キーと同様の防犯性を有するものとなる。また,上記カード型送受
信機1は,ポケツトや鞄等の中に収納した状態で使用可能であるため,従来の機械式キーのよ
うに,解錠あるいは施錠の都度,キーを取り出す手間が省けることとなる。
なお,上記アクチユエータ17は,駆動毎にドアロツクの状態を反転させる構成となつて
おり,駆動前にドアロツクが施錠されていれば解錠動作を行ない,駆動前に解錠状態となつて
いれば施錠動作を行なう(公報第2頁左下欄第10行∼右下欄第10行の≪発明の背景≫)。」
(2ホ「ところが,このような車両用施錠制御装置にあつては,上記カード型送受信機1が)
車両側の制御装置2の近傍に存在し,かつ上記スイツチ12が操作された場合には,必然的に
ドアロツクの施錠・解錠が行なわれる構成となつているため,例えば,上記カード型送受信機
1を所持した運転者が車室内に存在し,各ドアロツクを施錠して居眠りをしていた場合などに,
第3者が車外からスイツチ12を操作した場合には施錠されていたドアロツクが解錠されてし
まうこととなり,安全上好ましくない事態を招くことが考えられる(公報第2頁右下欄第1。」
0行∼右下欄第20行の≪発明の背景≫)
(2ヘ「≪発明の目的≫この発明は上記の事情に鑑みてなされたもので,その目的とする)
ところは,携帯用送信機を所持した者が,車室内に存在している場合に車外からの解錠・施錠
操作を禁止することのできる車両用施錠制御装置を提供することにある(公報第3頁左上欄。」
第1∼6行)
(2ト「≪実施例の説明≫)
以下,本発明の実施例を第4図以下の図面を用いて詳細に説明する。
第4図は,本発明に係る車両用施錠制御装置の一実施例におけるカード型送受信機の構成
を示すブロツク図,第5図は同じく車体側に設けられた制御装置の構成を示すブロツク図であ
る。
第4図に示すカード型送受信機30は,前記第2図に示した従来例と同様に,ほぼ名刺大
の薄板状カード型のケース内に収納されており,運転者が従来の機械式キーとともに携帯する
ものである(公報第3頁右上欄第3∼13行)。」
(2チ「駆動回路46a∼46eは,上記AND回路45a∼45eからON信号が供給さ)
れるのに応答して,各駆動回路に対応して接続されたアクチュエータ47a∼47eを駆動す
るものである。これらの駆動回路によって駆動されるアクチュエータ類47a∼47eとして
は,同図に示す如く,運転席側ドアのドアロックの解錠・施錠を行なうための運転席ドアロッ
クアクチュエータ47a,助手席側ドアロックのドアロックの解錠・施錠を行なうための助手
席ドアロックアクチュエータ47b,車体後部のトランクロックの施錠・解錠を行なうトラン
クロックアクチュエータ47c,グローブボックスロックの施錠・解錠を行なうためのグロー
ブボックスロックアクチュエータ47d,ステアリングハンドルのロッキングを行なうための
ステアリングロックアクチュエータ47eが設けられている。従って,上記ループアンテナ4
1aとスイッチ42aとタイマ43aとスイッチ回路44aと,AND回路45aと,駆動回
路46aと,運転席ドアロックアクチュエータ47aとによって,運転席側ドアロック回路a
が構成されており,同様にして,助手席ドアロック回路b,トランクロック回路c,グローブ
ボックスロック回路d,ステアリングロック回路eとが構成されている(公報第3頁右下欄。」
第17行∼第4頁右上欄第1行)
(2リ「次に,第6図(A)に示すフローチヤートは,上記カード型送受信機30内のマイ)
クロコンピユータ50において実行される処理の内容を示すもので,同様にして,第6図
(B)に示すフローチヤートは,上記車体側制御装置40内のマイクロコンピユータ50にお
いて実行される処理の内容を示すものである。以下,これらのフローチヤートを用いて,本実
施例装置の動作を説明する。
今仮に,車両のドアロツク等が全て施錠されていると仮定し,上記カード型送受信機30
を携帯した運転者が車両に乗り込むため運転席側ドアロツクを解錠しようとした場合の動作を
一例として説明する。また,この場合には,イグニツシヨンキースイツチIGNにはキー63
が挿入されていない(運転者が所持している)状態である。
この場合,運転者が行なう操作としては,運転席側ドアのドアハンドル近傍に設けられた
車外側のスイツチ42aを手動操作するのみで良い(公報第5頁左上欄第15行∼右上欄第。」
4行)
(2ヌ「すなわち,上記スイツチ42aが操作される以前においては,カード型送受信機3)
0側では,マイクロコンピユータ33は送信リクエスト信号の受信待機状態を継続しており,
他方制御装置40側のマイクロコンピユータ50においては,上記スイツチ42a∼42eの
ON操作の待機状態,すなわち多入力OR回路48からのON信号の待機状態を継続している。
そして,多入力OR回路48からON信号が供給されると,第6図(B)のステツプ(1
0)の判別結果がYESとなつて,次のステツプ(11)の処理が実行されて,送信リクエス
ト信号発生指令出力が変調回路52へ供給される。
・・・中略・・・()
すると,変調回路52から出力された送信リクエスト信号は,上記能動状態となつている
ループアンテナ41aから送信されることとなる。
上記送信リクエスト信号が送信されると,カード型送受信機30においては,送信リクエ
スト信号がループアンテナ31で受信され,受信・復調回路32を介してマイクロコンピユー
タ33へ供給される。これに伴つて,第6図(A)のステツプ(1)の処理結果がYESとな
つて,次のステツプ(2)の処理が実行される。
上記ステツプ(2)の処理においては,予めメモリ34に記憶されている車両固有のコー
ド信号(例えば8ビツトのシリアルデータにおける“0“1”の組合せによつて設定され”,
る)を読込んで,次のステツプ(3)の処理によつて,上記読込まれた固有コードデータに対
応するパルス列信号を変調回路35へ出力する処理がなされる。
・・・中略・・・()
そして,上記カード型送受信機30から固有コード信号が送信されると,車体側の制御装
置40において,上記能動状態となつているループアンテナ41aによつて,上記固有コード
信号が受信される(公報第5頁右上欄第16行∼右下欄第18行)。」
(2ル「このようにして,受信コードと車体側の固有コードとが一致したときのみ,かつO)
N操作されたスイツチに対応するロツクアクチユエータのみが駆動される構成となつており,
上記カード型送受信機30を所持しない第3者がロツクを解錠しようとしても解錠動作は行わ
れない(施錠動作も同様に行なわれない。)
・・・中略・・・()
各ロックの解錠・施錠を開始させる機会を与えるスイッチ42a∼42eは,各錠毎に設
けられており,これによって,カード型送信機30を所持している者は,解錠あるいは施錠を
行なおうとする錠のみを選択して作動させることができ,例えば,ドアロックを全て施錠した
状態でトランクロックのみを解錠したい場合にはトランクロック回路cのスイッチ42cを操
作することによってトランクロックのみを解錠させることができるのである。
他方,上記カード型送受信機30を携帯している運転者が車両に搭乗して,イグニツシヨ
ンキー63をイグニツシヨンキー孔に挿入した場合には・・・中略・・・各錠の解錠・施錠()
動作は行なわれないこととなる。
上記の動作によつて,カード型送受信機30を所持している者が車両内に搭乗している場
合には,上記イグニツシヨンキースイツチIGNにキー63を挿入しておけば,車外からドア
ロツク等を解錠される虞れがなく,防犯性の向上を図ることができる(公報第6頁右上欄第。」
17行∼右下欄第14行)
(2ヲ「発明の効果》)《
以上詳細に説明したように本発明の車両用施錠制御装置にあっては,携帯用送信機を所持
している者(例えば運転者)が,車内に存在する場合に,車外からの解錠,施錠操作を禁止す
ることが可能となり,外部からの他人の侵入を防止し,防犯性を向上させることができる」。
(公報第7頁左上欄第9行∼15行)
上記記載事項によると,確かに,≪発明の背景≫欄,≪発明の目的≫欄《発明の効果》欄,
には「携帯用送信機を所持した者が車室内に存在している場合に,車外からの解錠・施錠操,
作(第3者が車外から車両のドア部に設けられたスイッチ12を操作した場合の解錠操作)を
禁止することができるものとするため」であると説明する記載がある。
しかし,上記(2ホ)の記載を更に検討すると,先に「このような車両用施錠制御装置に,
あっては,上記カード型送受信機1が車両側の制御装置2の近傍に存在し,かつ上記スイッチ
12が操作された場合には,必然的にドアロックの施錠・解錠が行なわれる構成となっている
ため」という文章があり,これに続いて「例えば」として「上記カード型送受信機1を所持,,
した運転者が車室内に存在し,各ドアロックを施錠して居眠りをしていた場合などに,第3者
が車外からスイッチ12を操作した場合には施錠されていたドアロックが解錠されてしまうこ
ととなり,安全上好ましくない事態を招くことが考えられる」との記載が挙げられているの。
である。
そうすると,刊行物2には「カード型送受信機1が車両側の制御装置2の近傍に存在し,
スイッチ12が操作された場合には,必然的にドアロックの施錠・解錠が行われる」という従
来技術の問題があり,その一例として,ロックアクチュエータの駆動を禁止する理由が「携帯
用送信機を所持した者が車室内に存在している場合に,車外からの解錠・施錠操作(第3者が
車外から車両のドア部に設けられたスイッチ12を操作した場合の解錠操作)を禁止すること
ができるものとするため」であることが挙げられているものと理解することができる。
また,刊行物2の特許請求の範囲(上記(2イ)参照)においても,携帯用送信機が「イ
グニッションキーとは別体である」こと(以下「付随事項(1」という)及び,ロックア,,)。
クチュエータの駆動を禁止する理由が「携帯用送信機を所持した者が車室内に存在している場
合に,車外からの解錠・施錠操作(第3者が車外から車両のドア部に設けられたスイッチ12
を操作した場合の解錠操作)を禁止することができるものとするため」であること(以下,
「付随事項(2」という)を構成要件とはしていないことが認められる。)。
さらに,≪実施例の説明≫欄には,上記(2ト(2チ)及び(2ル)の記載があり,ド),
アロックとは別に,トランクロック,グローブボックスロック,ステアリングロックを禁止す
る構造の記載もある。
以上によれば,刊行物2は,広く,従来技術において,カード型送受信機が車両側の制御
装置の近傍に存在し,スイッチが操作された場合には,必然的にドアロック,トランクロック,
グローブボックスロック,ステアリングロックといった車体所定部位の錠の施錠・解錠が行わ
れることを,カード型送受信機と機械式キーを携帯した運転者が,イグニッションキーをイグ
ニッションキー孔に挿入することで,意識的に禁止する技術を開示するものであり,運転者が
望まないのに,車両のドアが不本意に開いてしまうという安全上好ましくない事態が生じると
いうことを前提とするひとまとまりの技術として把握することができる。
したがって,ドアアクチュエータの駆動禁止理由を「携帯用送信機を所持した者が車室内,
に存在している場合に,車外からの解錠・施錠操作(第3者が車外から車両のドア部に設けら
れたスイッチ12を操作した場合の解錠操作)を禁止することができるものとする」こと,す
なわち,付随事項(2)が刊行物2において特有の技術であるとはいえない。
,携帯用送信機が「イグニッションキーとは別体である」という付随事項(1)についても
上記と同様であって,刊行物2において特有の技術であるとはいい難い(判決第21頁第1。
0行∼22頁第1行参照)
してみれば,上記記載事項並びに図面に示された内容を総合すると,刊行物2には次の発
明(以下「引用発明2」という)が記載されていると認められる。,。
(引用発明2)
「所定の固有信号を無線送信する送信機と;前記送信機から送信される固有信号を受信し
て,ロックアクチュエータを制御する受信手段を備える無線式車両用施錠制御装置において,
イグニッションキーが鍵孔に挿入されているか否かを検出するイグニッションキー挿入検出部
と,該イグニッションキー挿入検出部によってイグニッションキーが鍵孔に挿入されているこ
とが検出されている期間中は,前記ロックアクチュエータの駆動を禁止するアクチュエータ駆
動禁止部とからなる無線式車両用施錠制御装置」。
3.対比,判断
(1)本件発明と甲第1号証記載の発明との対比
そこで,本件発明と引用発明1とを対比すると,その機能ないし構造から見て,引用発明
1における「イグニツシヨンキー30」は本件発明における「キープレート」に,引用発明1
における「キーケース」は本件発明における「つまみ部」に,引用発明1における「操作ボタ
ン16a」は本件発明における「送信スイッチ」に,引用発明1における「キーコード」は本
件発明における「コード信号」に,引用発明1における「電波送信部70」は本件発明におけ
る「送信機」に,引用発明1における「ドアロック装置」は本件発明における「ドアロックア
クチュエータ」に,引用発明1における「受信機」は本件発明における「受信機」に,引用発
明1における「車両用遠隔解施錠装置」は本件発明における「無線式ドアロック制御装置」に,
それぞれ相当するといえる。
そうすると,両者は,
「キーシリンダに挿入され,各種機器を作動させるキープレートと,
このキープレートの一端に設けられ,このキープレートを操作するためのつまみ部と,
このつまみ部に設けられる送信スイッチと,
前記つまみ部に内蔵され前記送信スイッチが操作されると予め定められたコード信号を送信
する送信機と,
前記送信機から送信されるコード信号を受信して,ドアロックアクチュエータを制御する受
信機とを備える無線式ドアロック制御装置」である点で一致し,次の点で相違するというこ。
とができる。
(相違点)
本件発明が「前記キープレートが前記キーシリンダに挿入されているとき所定の検出信号,
を発生する検出手段」と「この検出手段が前記検出信号を発生すると,前記無線式ドアロッ,
ク制御装置の作動を禁止する禁止手段」とを備えるのに対して,引用発明1がこのような構成
を備えていない点。
なお,上記の一致点及び相違点につき,当事者間に実質的な争いがない。
(2)相違点の検討
ところで,刊行物2に開示された引用発明2の「イグニツシヨンキーが(車室内の)鍵孔
に挿入されているか否かを検出するイグニツシヨンキー挿入検出部と,該イグニツシヨンキー
挿入検出部によつてイグニツシヨンキーが鍵孔に挿入されていることが検出されている期間中
は,前記ロツクアクチユエータの駆動を禁止するアクチユエータ駆動禁止部」を備えるという
構成が,上記相違点に係る本件発明の「前記キープレートが前記キーシリンダに挿入されてい
,,るとき所定の検出信号を発生する検出手段」と「この検出手段が前記検出信号を発生すると
前記無線式ドアロック制御装置の作動を禁止する禁止手段」とを備えたという構成に相当する。
この点については,当事者間に実質的な争いがないといえる。
そうすると,本件相違点に係る本件発明の構成は,刊行物2に引用発明2として開示され
ており,引用発明1に引用発明2を組み合わせることができれば,本件発明の構成となるので,
引用発明2を引用発明1に組み合わせることが当業者において容易に想到し得るものであるか
否かについて検討する。
(ア)ところで,一般に,スイッチが露出して設けられている場合,意図しない接触等によ
り,スイッチの誤操作が生じ得ることは,経験則上明らかな事項であり,例えば,実願昭58
−110621号(実開昭60−17863号)のマイクロフィルム(判決における「甲9マ
イクロフィルム)及び実願昭58−112117(実開昭60−19649号公報)のマイ」。
クロフィルム(判決における「甲10マイクロフィルム)に,イグニッションキーなどに発」。
光素子を取り付けた照明付キーにおいて,操作ボタンがつまみ部の平面部分に位置するため,
誤って操作ボタンを押下する場合が多いことが問題点として指摘されていることからも,明ら
かである。したがって,露出して設けられているスイッチによって施錠したり解錠したりする
構造のものにおいては,スイッチの無意識的な誤操作によりロックが解除されるという事態が
起こり得ることは,技術常識というべきである。そして,スイッチの無意識的な誤操作により
ロックが解除された事態が起こり得る以上,その対策が,当該技術における当然の技術課題と
なることは明らかである。
このことは,本件発明の共通又は近似の技術分野において,多数の公知文献が存在するこ
とによっても裏付けられる。例えば,発明の名称を「キーレスエントリ装置」とする特開昭6
0−37380号公報(判決における「甲4公報)において「受信したコード信号が現実」。,
にドアをアンロックするためのものであるか,誤操作によるものかを判別する方法はなく,こ
のため誤操作によるコード信号を受信した場合も当然アンロック状態となる。従って使用者が
意図していない場合にもロック状態が解除されてしまうという不都合があった。例えば,本出
願人が先に提案したように,送信機の送信スイッチを押圧するごとに交互にロック・アンロッ
ク状態が反転する方式を採用した場合には,無意識のうちに送信スイッチを押圧してロック状
態と思っていても実際にはアンロック状態となっており,これに気付かないで車両から離れる
おそれがある不都合があった(1頁右欄ないし2頁左上欄第1段落)との記載があり,。」
発明の名称を「施錠制御装置」とする特開昭60−164571号公報(判決における
「甲5公報)において「カード型送信機1の携帯者が起動スイッチをONすることによっ」。,
て,施錠・解錠する構成である。このため例えば,前記携帯者が無意識にスイッチを2度操作
してしまい,あるいは操作忘れをしてしまい,施錠をしたつもりで車両を離れたが,実は解錠
状態のままであるという事態の発生も考えられる(2頁右下欄最終段落ないし3頁左上欄第。」
1段落)との記載があり,
発明の名称を「トラックの荷台のドアロック解錠装置」とする特開昭61−221475
号公報(昭和61年10月1日公開,判決における「甲6公報)において「このような従」。,
来例にあっては,トラック(A)が運転状態のときに,送信器(1)が動作状態になっていると,
送信器(1)から発せられる解錠コード信号が常に受信部(2)にて受信され,ドア(7)の電気錠
(5)が解錠されたままトラック(A)が運転されることになり,走行中の安全性に問題があっ
た(1頁右欄最終段落ないし2頁左上欄第1段落)との記載があり,。」
発明の名称を「車両用施錠制御装置」とする特開昭60−119874号公報(判決にお
ける「甲7公報)においては「少なくとも前記信号強度検出手段,受信信号強度変化検出」。,
手段,判定手段は,車体所定部位の錠を施解錠するキーがイグニッションキーシリンダに差込
まれている場合には作動しないことを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の車両用施錠制御
装置(特許請求の範囲(5))との記載がある。。」
,これらは,いずれも,スイッチによって施錠したり解錠したりする構造のものにおいては
スイッチの無意識的な誤操作によりロックが解除された状態となることが起こり得るという技
術常識を前提に,この課題をどのように解決するかを問題としていることが認められる。
上記技術常識を勘案すると,引用発明1においては,イグニッションキーとは別にドアを
開閉する機器が存在しないから,第三者によるドアの開閉が行われるという不都合がないこと
は明らかであるが,イグニッションキーを携帯する使用者がその操作ボタンを誤操作して,解
錠のための起因となるべき信号が発信されるという不具合が存在し,そのため,その対策が当
然に技術課題となるものというべきである(判決第25頁第7行∼第27頁第5行参照)。
(イ)一方,引用発明2は,前記第5.2.のとおり,運転者が望まないのに,車両のドア
が不本意に開いてしまうという安全上好ましくない事態が生じるということを前提とする技術
であり,スイッチが操作されると,車両のドアが不本意に開いてしまうという安全上好ましく
ない事態が生じないように,カード型送受信機とイグニッションキーを携帯した運転者が,イ
グニッションキーをイグニッションキー孔に挿入することで,ドアロック等の車体所定部位の
錠の施錠・解錠を,意識的に禁止するものである。
そして,引用発明2もまた,スイッチによって施錠したり解除したりする構造のものにお
いては,スイッチの無意識的な誤操作によりロックが解除された状態となることが起こり得る
という技術常識を前提にしており,そのための対策として,イグニッションキーをイグニッシ
ョンキー孔に挿入することで,ドアロック等の車体所定部位の錠の施錠・解錠を,意識的に禁
止することにしているものである。したがって,引用発明2は,引用発明1における上記課題
に対して,一つの解決策を提供するものである。
なお,引用発明1においては,イグニッションキー30の一端に設けられたキーケースに
操作ボタン16aが設けられているが,車体所定部位の錠の施錠・解錠であることには,変わ
りがないのであるから,引用発明2を,引用発明1に適用することを妨げる事情にはならない
ものというべきである。
その他,引用発明1と引用発明2とを組み合わせることを妨げるような格別の事情も見当
たらない(判決第27頁第6行∼25行参照)。。
(ウ)このように,引用発明1と引用発明2とは,いずれも,車両のドアロックの施錠・解
錠を,無線を利用して行うというものであって,技術分野を共通にしており,また,スイッチ
の誤操作による解錠を防ぐという技術課題も共通しており,引用発明1と引用発明2とを組み
合わせることを妨げるような格別の事情も見当たらないのであるから,引用発明1と引用発明
2とを組み合わせることについての動機付けがあると認められる。
してみれば,引用発明1に引用発明2の技術を適用し,本件発明の構成とすることは,当
業者が容易に想到しうることである。
そして,本件特許明細書に記載の「本発明は,上記の構成および作動により,キープレー,
トをキーシリンダに挿入して操作する時に誤って送信指令スイッチを押してしまっても,無線
式ドアロック制御装置が作動することはない。これにより,望まないのにドアロックが作動す
るという操作者の不快感をなくし,このような誤作動をなくすことで,消費電力をも軽減する
ものである(特公平7−21264号公報の第2頁第4欄第7∼13行参照)という効果を。」
みても,引用発明2を引用発明1に組み合わせた構成である本件発明において,当然に奏する
効果であって,各発明のそれぞれの効果を足し合わせた以上の格別の効果を奏するというもの
ではない。
したがって,本件発明は,甲第1号証及び甲第2号証に記載された事項,並びに従来より
周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第6.むすび
以上のとおり,本件発明は,本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証及び
甲第2号証に記載された事項,並びに従来より周知の技術に基いて当業者が容易に発明をする
ことができたものであるから,本件発明の特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してな
されたものであり…無効とすべきである」。
第3原告主張の審決取消事由
本件審決には,次に述べるとおり誤りがあるから,違法として取り消されるべき
である。ただ,本件審決が確定判決(第1次判決)と同様の事実認定及び判断を行
っている旨まで否定するものではなく,確定判決の効力の観点においては,本件審
決が確定判決(第1次判決)に沿ったものであることは争わない。
1取消事由1(相違点の認定の誤り)
本件発明と引用発明1との相違点の認定に当たっては,本件審決が陥っているよ
うに,特許請求の範囲の文言を表面的に見ることにより発明の本質を見失うことが
ないようにすべきであり,本件審決のような認定ではなく「本件発明が『前記,,
送信スイッチが設けられた前記つまみ部が操作されて前記キープレートが前記キー
シリンダに挿入されているとき所定の検出信号を発生する検出手段』と『この検,
出手段が前記検出信号を発生すると,前記キーシリンダに挿入された前記キープレ
ートの一端の前記つまみ部を操作する時,前記送信スイッチを押して前記送信機が
前記コード信号を送信しても,前記無線式ドアロック制御装置の作動を禁止する禁
止手段』とを備えるのに対して,引用発明1がこのような構成を備えていない
点」と認定すべきである。。
2取消事由2(相違点の判断の誤り)
(1)本件発明は,単なるスイッチの誤操作防止に関する技術ではなく,送信機
のスイッチを押してドアロックアクチュエータを解錠,施錠する動作と,キープレ
ートをキーシリンダに挿入して各種機器を作動させる動作という本来全く関係がな
かった動作が,送信機及び送信スイッチをキープレートのつまみ部に設けた結果,
使用者の意図に反してつながってしまうという点に着目したものである。
そのため,本件発明は,その効果の前提として,イグニッションキーのつまみ部
に送信スイッチが設けられていることが重要な構成要素となるものであって,付随
事項ではないところ,この重要な構成要素が刊行物2に記載されていない。
また,同様の理由により,本件発明の「禁止手段」は,単純にロックアクチュエ
ータの駆動を禁止するというものではなく,イグニッションキーのつまみ部を操作
する際,送信スイッチを誤って押したときにロックアクチュエータの駆動を禁止す
るというものであって,この点が本件発明の構成上重要な要素となるものであり,
付随事項ではないところ,この重要な要素も刊行物2に記載されていない。
(2)引用発明2は,乗員が車内にいるときに第三者が意図的に運転席側ドアの
ドアハンドル近傍に設けられたスイッチ42aを操作してドアを開けてしまうこと
の防止を技術的課題としており,そのため,キーイン検出スイッチ62で「乗員が
車内にいること」を検出するようにしたものであるから,そのキーイン検出スイッ
チ62は,イグニッションキー63を操作してイグニッションキー63がキーシリ
ンダに挿入されている状態を検出しようとしたものではないし,送信機の送信スイ
ッチが設けられている部位の操作を検出することもできない。
(3)したがって,本件発明の「検出手段」及び「禁止手段」は,刊行物2には
開示されておらず,刊行物2を引用発明1と組み合わせたとしても,上記相違点の
構成とはならないから,審決の判断は誤りである。
第4被告の反論
1取消事由1(相違点の認定の誤り)に対し
本件審決は,第1次判決(甲20)の拘束力に従ってなされなければならないと
ころ,第1次判決(甲20)は次のように判示している。
「引用発明1が,本件相違点に係る本件発明の構成,すなわち『前記キープレー,
』,トが前記キーシリンダに挿入されているとき所定の検出信号を発生する検出手段
及び『この検出手段が前記検出信号を発生すると,前記無線式ドアロック制御装,
置の作動を禁止する禁止手段』との構成を具備していないことは,…当事者間に争
いがない(16頁1行∼5行)。」
すなわち,第1次判決は,本件発明と引用発明1との相違点が「前記キープ,『
レートが前記キーシリンダに挿入されているとき所定の検出信号を発生する検出手
段,及び『この検出手段が前記検出信号を発生すると,前記無線式ドアロック』,
制御装置の作動を禁止する禁止手段』との構成を具備していないこと」であること
を認定しており,本件審決の相違点の認定は,第1次判決(甲20)の拘束力に従
ってなされたものであるから,これに反する原告の主張は失当である。
2取消事由2(相違点の判断の誤り)に対し
本件審決は,第1次判決(甲20)の拘束力に従って相違点の判断をしたもので
あることは明らかであり,仮に,本件発明の「検出手段」及び「禁止手段」が原告
引用発明の主張するように解釈できたとしても,第1次判決にいう引用発明2A(
2中の「所定の固定信号を無線送信する携帯用送信機と;前記送信機から送信される固有信,
号を受信して,ロックアクチュエータを制御する受信手段を備える無線式車両用施錠制御装置
において,イグニッションキーが(車室内の)鍵孔に挿入されているか否かを検出するイグニ
ッションキー挿入検出部と,該イグニッションキー挿入検出部によってイグニッションキーが
鍵孔に挿入されていることが検出されている期間中は,前記ロックアクチュエータの駆動を禁
を引用発止するアクチュエータ駆動禁止部とからなる無線式車両用施錠制御装置」の部分)
明1に組み合わせた構成は,原告の主張する本件発明の「検出手段」及び「禁止手
段」の構成になるのであるから,審決の相違点の判断に誤りはない。
第5当裁判所の判断
1審決取消訴訟において,特定の引用例から当該発明を特許出願前に当業者が
容易に発明することができたとの理由により,審決の認定判断を誤りであるとして
これが取り消されて確定した場合には,再度の審判手続に当該判決の拘束力が及ぶ
結果,審判官は同一の引用例から当該発明を特許出願前に当業者が容易に発明する
ことができたとはいえないと認定判断することは許されないのであり,したがって,
再度の審決取消訴訟において,取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決の認定
判断を誤りである(同一の引用例から当該発明を特許出願前に当業者が容易に発明
することができたとはいえない)として,これを裏付けるための新たな立証をし,
更には裁判所がこれを採用して,取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決を違
法とすることは許されない(最高裁平成4年4月28日第三小法廷判決・民集46
巻4号245頁参照。)
しかるに,前記のとおり,平成18年9月27日になされた第1次審決(甲1
2)の,請求不成立との判断は,平成19年4月25日言渡しの第1次判決(甲2
0)により取り消され同判決は確定したのであるから,本件審決(第2次審決)を
担当する審判官は,第1次判決(甲20)の有する拘束力の下で判断しなければな
らないことになる。
以上の見解に基づき,以下検討する。
2平成18年9月27日になされた第1次審決(甲12)は,本件発明につき,
次の(1)∼(5)の内容を含む認定判断をした。
「刊行物1には次の発明(以下「引用発明1」という)が記載されていると認めら(1),。
れる。
(引用発明1)
「キーシリンダに挿入され,各種機器を作動させるイグニツシヨンキー30と,
このイグニツシヨンキー30の一端に設けられ,このイグニツシヨンキー30を操作する
ための,アツパーケース32とロアケース34から成るキーケースと,
このキーケースに設けられる操作ボタン16aと,
前記キーケースに内蔵され前記操作ボタン16aがON操作されると,スイッチSW1∼
SW4の操作に基づき予め定められたキーコードを送信する電波送信部70と,
前記電波送信部70から送信されるキーコードを受信して,ドアロック装置を制御する受
信機を備える車両用遠隔解施錠装置(4頁25行∼38行)。」
(2)「刊行物2には次の発明(以下「引用発明2」という)が記載されていると認めら,。
れる。
(引用発明2)
「イグニツシヨンキーとは別体である所定の固定信号を無線送信する携帯用送信機と;前記
送信機から送信される固有信号を受信して,ロツクアクチユエータを制御する受信手段を備え
る無線式車両用施錠制御装置において,
携帯用送信機を所持した者が車室内に存在している場合に,車外からの解錠・施錠操作
(第3者が車外から車両のドア部に設けられたスイツチ12を操作した場合の解錠操作)を禁
止することができるものとするために,
イグニツシヨンキーが(車室内の)鍵孔に挿入されているか否かを検出するイグニツシヨ
ンキー挿入検出部と,該イグニツシヨンキー挿入検出部によつてイグニツシヨンキーが鍵孔に
挿入されていることが検出されている期間中は,前記ロツクアクチユエータの駆動を禁止する
アクチユエータ駆動禁止部とからなる無線式車両用施錠制御装置(7頁下から1行∼8頁。」」
13行)
(3)「本件発明と引用発明1とを対比すると,…両者は,…次の点で相違するということ
ができる。
(相違点)
本件発明が「前記キープレートが前記キーシリンダに挿入されているとき所定の検出信号,
を発生する検出手段」と「この検出手段が前記検出信号を発生すると,前記無線式ドアロッ,
ク制御装置の作動を禁止する禁止手段」とを備えるのに対して,引用発明1がこのような構成
を備えていない点(8頁16行∼9頁5行)。」
(4)「2)相違点の検討(
…引用発明1に刊行物2に記載の技術ないし引用発明2を適用することが容易といえるか
否かについて以下に検討する。
…以上のことから,引用発明1は,イグニツシヨンキー30が解施錠動作の起因となる信号
を発生する操作手段である「操作ボタン16a」を一体に備えているものであって,その操作
ボタン16aを押すことによってコードの送信・照合及び解施錠という一連の解施錠動作を自
動的に行なうことができるように構成されたものであるが,これに対して,引用発明2は,そ
の「携帯用送信機」が「所定の固定信号を無線送信する」ものではあるものの,コードの送,
信・照合及び解施錠という一連の解施錠動作を自動的に行なう起因となる信号を発生する操作
手段が車両側のドア部に設けた「スイッチ12」であって「携帯用送信機」が有していない,
ものであるという相違があるといえる。
そうすると,引用発明1には,イグニツシヨンキーを携帯する使用者がその操作ボタンを押
さない限り(その使用者が車内に居るか否かに拘わらず)第三者によるドアの開閉が行われ,,
るという不都合がない,いいかえれば,第三者による操作によって解錠のための起因となるべ
き信号が発信されるという不具合が存在しないのであるから,刊行物2に記載の技術ないし引
用発明2が解決すべき技術的課題が引用発明1には存在しないのであって,引用発明1に引用
発明2の動作禁止制御手段を適用すべき前提となる動機付けが無いというべきである。
してみると,引用発明1に刊行物2に記載の技術ないし引用発明2を適用すべき前提となる
動機付けが存在しないのであるから,相違点に係る本件発明の構成が,当業者により容易に想
到し得たものということはできない(9頁7行∼11頁9行)。」
「そして,本件発明は,上述の解施錠動作のためのキーコードの送信操作を行うための
「送信スイッチ」が「キーシリンダに挿入され,各種機器を作動させるキープレート(イグ」
ニツシヨンキー)に設けられていることを前提とするものであって,本件特許明細書に記載の,
「本発明は,上記の構成および作動により,キープレートをキーシリンダに挿入して操作する
時に誤って送信指令スイッチを押してしまっても,無線式ドアロック制御装置が作動すること
はない。これにより,望まないのにドアロックが作動するという操作者の不快感をなくし,こ
のような誤作動をなくすことで,消費電力をも軽減するものである(特公平7−21264。」
号公報の第2頁第4欄第7∼13行参照)という効果を奏するものである(11頁10行∼。」
19行)
(5)「したがって,本件発明は,甲第1号証及び甲第2号証に記載の発明に基づいて当業
者が容易に想到し得たものということができない(11頁20行∼21行)。」
3これに対し,平成19年4月25日に言い渡されその後確定した第1次判決
(甲20)は,カルソニックカンセイ株式会社主張の取消事由として次の(1)の内
容を含む主張を摘示し,これに対する株式会社デンソーの反論として次の(2)の内
容を摘示した上,取消事由に対する判断として次の(3)の内容を説示して,第1次
審決を取り消した。
(1)カルソニックカンセイ株式会社の主張
「1取消事由1(引用発明2の認定の誤り)
審決は,引用発明2について,…と認定したが,上記記載のうち,①携帯用送信機を「イグ
ニッションキーとは別体である」と認定した点(以下「付随事項①」という,②ロックアク。)
チュエータの駆動を禁止する理由を「携帯用送信機を所持した者が車室内に存在している場合
に,車外からの解錠・施錠操作(第3者が車外から車両のドア部に設けられたスイッチ12を
操作した場合の解錠操作)を禁止することができるものとするために」と特定した点(以下
「付随事項②」という)は,本件発明に係る特許請求の範囲とは無関係な事項に関する認定。
であるのみならず,相違点についての判断の前提として不当なものであって,誤りである」。
「…引用発明2は「所定の固有信号を無線送信する送信機と;前記送信機から送信される,
固有信号を受信して,ロックアクチュエータを制御する受信手段を備える無線式車両用施錠制
御装置において,イグニッションキーが鍵孔に挿入されているか否かを検出するイグニッショ
ンキー挿入検出部と,該イグニッションキー挿入検出部によってイグニッションキーが鍵孔に
挿入されていることが検出されている期間中は,前記ロックアクチュエータの駆動を禁止する
アクチュエータ駆動禁止部とからなる無線式車両用施錠制御装置(以下「引用発明2A」と。」
いう,すなわち,審決認定の引用発明2から付随事項①及び②を除いたものと認定されるべ。)
きである」。
「2取消事由2(本件相違点についての判断の誤り)
(1)審決は,本件相違点についての認定判断において,引用発明2を前提とし「引用発明1,
には・・・第三者による操作によって解錠のための起因となるべき信号が発信されるという,
不具合が存在しないのであるから,刊行物2に記載の技術ないし引用発明2が解決すべき技術
的課題が引用発明1には存在しないのであって,引用発明1に引用発明2の動作禁止制御手段
を適用すべき前提となる動機付けが無いというべきである(審決謄本10頁最終段落ないし。」
11頁第1段落)と判断したが,引用発明2の認定が誤っていることは前記のとおりであるか
ら,上記判断は前提において既に誤りである。
(2)続いて,審決認定の引用発明2から付随事項①及び②を除いた引用発明2Aを,引用発明
1に組み合わせることが,当業者において,容易に想到し得るものであるか否かについて検討
する。…
…(中略)…
(4)したがって,誤ったスイッチ操作を防止するために,キープレートがキーシリンダに挿入
された状態で,解錠操作がされることを禁止する技術を開示する引用発明2Aを,引用発明1
の自明な課題を解決するために適用することは,当業者が容易に想到し得ることである」。
株式会社デンソーの主張(2)
「1取消事由1(引用発明2の認定の誤り)について
(1)…引用例2(甲2)においては《発明の背景》欄に「カード型送受信機1が車両側の制,,
御装置2の近傍に存在し,かつ(ドアに設けられた)上記スイッチ12が操作された場合には,
必然的にドアロックの施錠,解錠が行なわれる構成となっているため・・・第3者が車外か,
らスイッチ12を操作した場合には施錠されていたドアロックが解錠されてしまうこととなり,
安全上好ましくない事態を招くことが考えられる(2頁右下欄最終段落《発明の目的》欄。」),
に「この発明は上記の事情に鑑みてなされたもので,その目的とするところは,携帯用送信,
機を所持した者が,車室内に存在している場合に車外からの解錠,施錠操作を禁止することの
できる車両用施錠制御装置を提供することにある(3頁左上欄第1段落《発明の効果》欄。」),
に「以上詳細に説明したように本発明の車両用施錠制御装置にあっては,携帯用送信機を所,
持している者(例えば運転者)が,車内に存在する場合に,車外からの解錠,施錠操作を禁止
することが可能となり,外部からの他人の侵入を防止し,防犯性を向上させることができ
る(7頁左上欄第3段落)とそれぞれ記載されているのであるから,ドアアクチュエータの。」
駆動禁止理由を外部からの第三者の侵入防止と明確に説明しているものであり,また,それ以
外の説明はされていない。
したがって,原告の上記主張は失当であり,引用発明2の認定に誤りはない。
(2)原告は,審決が,引用発明2の携帯用送信機を「イグニッションキーとは別体である」と
認定したことは誤りであると主張するが,引用例2においては,カード型送受信機1をイグニ
ッションキー63とは明らかに別部材として記載しており,それ以外の記載は全くない。した
がって,原告の上記主張は失当であり,引用発明2の認定に誤りはない」。
「2取消事由2(本件相違点についての判断の誤り)について
(1)原告は,引用発明2に「誤ったスイッチ操作を防止するため,キープレートがキーシリン
ダに挿入された状態で,解錠操作がされることを禁止する手段」が開示されていることを前提
に,取消事由2の主張をしているが,引用発明2には,そのような技術が開示されておらず,
ドアアクチュエータの駆動禁止理由を外部からの第三者の侵入防止,すなわち,付随事項②が
開示されているのである。したがって,原告の上記主張は,前提において既に誤りである。
,(2)…引用発明1においても,上記「自明の課題」というものは,開示されていない。また
甲4公報ないし甲7公報にも,上記「自明の課題」についての記載はなく,その示唆もない。
…(中略)…
(4)以上のとおり,送信機に送信スイッチも設けられていない引用発明2には,本件発明に到
る動機付けは全くないから,引用発明1に引用発明2を適用すべき動機付けは存在せず,当業
者により容易に想到し得たものといえないとした審決の認定判断に誤りはない」。
第1次判決における裁判所の判断(3)
「1取消事由1(引用発明2の認定の誤り)について
…(中略)…
(2)引用発明1が,本件相違点に係る本件発明の構成,すなわち「前記キープレートが前記,
キーシリンダに挿入されているとき所定の検出信号を発生する検出手段,及び「この検出手」,
段が前記検出信号を発生すると,前記無線式ドアロック制御装置の作動を禁止する禁止手段」
との構成を具備していないことは,…当事者間に争いがない。
そして,引用発明2中の「所定の固定信号を無線送信する携帯用送信機と;前記送信機か,
ら送信される固有信号を受信して,ロックアクチュエータを制御する受信手段を備える無線式
車両用施錠制御装置において,イグニッションキーが(車室内の)鍵孔に挿入されているか否
かを検出するイグニッションキー挿入検出部と,該イグニッションキー挿入検出部によってイ
グニッションキーが鍵孔に挿入されていることが検出されている期間中は,前記ロックアクチ
ュエータの駆動を禁止するアクチュエータ駆動禁止部とからなる無線式車両用施錠制御装置」
の部分(引用発明2A)が,本件相違点に係る本件発明の上記構成に相当することは,審決も
説示するとおり(審決謄本9頁第3段落,当事者間に実質的に争いがない。)
ところが,審決は,引用発明2Aに,携帯用送信機が「イグニッションキーとは別体であ
る」という事実(付随事項①,ロックアクチュエータの駆動を禁止する理由が「携帯用送信)
機を所持した者が車室内に存在している場合に,車外からの解錠・施錠操作(第3者が車外か
ら車両のドア部に設けられたスイッチ12を操作した場合の解錠操作)を禁止することができ
るものとするため」であるという事実(付随事項②)を含めた全体を引用発明2と認定した上,
本件相違点についての認定判断において「引用発明1には・・・第三者による操作によって,,
解錠のための起因となるべき信号が発信されるという不具合が存在しないのであるから,刊行
物2に記載の技術ないし引用発明2が解決すべき技術的課題が引用発明1には存在しないので
あって,引用発明1に引用発明2の動作禁止制御手段を適用すべき前提となる動機付けが無い
というべきである(審決謄本10頁最終段落ないし11頁第1段落)と判断し,引用発明2。」
に存在する付随事項①及び②が,引用発明1に存在しないとして,引用発明2を引用発明1に
適用する動機付けがないとしているのである。
したがって,審決は,付随事項①及び②が引用発明2Aに特有の事項であって,付随事項①
及び②と引用発明2Aとを分離して進歩性を考えることはできないものとしていることが明ら
かである。
(3)そこで,引用例2(甲2)についてみると,以下の記載がある。
(4)…以上によれば,引用例2は,広く,従来技術において,カード型送受信機が車両側の制
御装置の近傍に存在し,スイッチが操作された場合には,必然的にドアロック,トランクロッ
ク,グローブボックスロック,ステアリングロックといった車体所定部位の錠の施錠・解錠が
行われることを,カード型送受信機と機械式キーを携帯した運転者が,イグニッションキーを
イグニッションキー孔に挿入することで,意識的に禁止する技術を開示するものであり,その
うちの1つが引用発明2Aであって,運転者が望まないのに,車両のドアが不本意に開いてし
まうという安全上好ましくない事態が生じるということを前提とするひとまとまりの技術とし
て把握することができる。
したがって,ドアアクチュエータの駆動禁止理由を「携帯用送信機を所持した者が車室内,
に存在している場合に,車外からの解錠・施錠操作(第3者が車外から車両のドア部に設けら
れたスイッチ12を操作した場合の解錠操作)を禁止することができるものとする」こと,す
なわち,付随事項②が引用発明2Aに特有の技術であるとはいえない。
また,携帯用送信機が「イグニッションキーとは別体である」という付随事項①についても,
上記と同様であって,引用発明2Aに特有の技術であるとはいい難く,付随事項①が間接的で
あって,付随事項②について検討すれば足りることは,後記2(1)のとおりである。
…(中略)…
(6)そうすると,審決は,結果として,引用例2の中から,引用発明1に無用の事柄を抽出し,
これを引用発明2Aに結合させることによって,引用発明1と相容れない公知技術を創出した
ものといわざるを得ない。本件相違点についての判断において,引用発明1に引用発明2Aを
適用する動機付けが問題となるのであれば,その時点で,引用例2の記載の全体を観察して,
動機付けの有無,阻害事由の有無などを検討すべきである。審決のような引用発明2の認定の
手法は,正確性を欠き,容易想到性の判断を誤らせる要因となるものであって,誤りというべ
きである」。
「2取消事由2(本件相違点についての判断の誤り)について
…引用発明2は,引用例2の中から,引用発明1には無用の構成である付随事項②を抽出し,
これを引用発明2Aに結合させて,引用発明1と相容れない公知技術とし,上記のとおり,
「いいかえれば,第三者による操作によって解錠のための起因となるべき信号が発信されると
いう不具合が存在しないのであるから,刊行物2に記載の技術ないし引用発明2が解決すべき
技術的課題が引用発明1には存在しない」との結論が導かれるようにしているのであって,付
随事項②を付加したことで審決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。
…(中略)…
(2)前記1(2)のとおり,本件相違点に係る本件発明の構成は,引用例2に引用発明2Aと
して開示されており,引用発明1に引用発明2Aを組み合わせることができれば,本件発明の
構成となるので,引用発明2Aを引用発明1に組み合わせることが当業者において容易に想到
し得るものであるか否かについて検討する。
…(中略)…
イ…上記技術常識を勘案すると,引用発明1においては,イグニッションキーとは別にドア
を開閉する機器が存在しないから,第三者によるドアの開閉が行われるという不都合がないこ
とは明らかであるが,イグニッションキーを携帯する使用者がその操作ボタンを誤操作して,
解錠のための起因となるべき信号が発信されるという不具合が存在し,そのため,その対策が
当然に技術課題となるものというべきである」。
ウ一方,引用発明2Aは,前記1(4)のとおり,運転者が望まないのに,車両のドアが不
本意に開いてしまうという安全上好ましくない事態が生じるということを前提とする技術であ
り,スイッチが操作されると,車両のドアが不本意に開いてしまうという安全上好ましくない
事態が生じないように,カード型送受信機とイグニッションキーを携帯した運転者が,イグニ
ッションキーをイグニッションキー孔に挿入することで,ドアロック等の車体所定部位の錠の
施錠・解錠を,意識的に禁止するものである。
そして,引用発明2Aもまた,スイッチによって施錠したり解除したりする構造のものにお
いては,スイッチの無意識的な誤操作によりロックが解除された状態となることが起こり得る
という技術常識を前提にしており,そのための対策として,イグニッションキーをイグニッシ
ョンキー孔に挿入することで,ドアロック等の車体所定部位の錠の施錠・解錠を,意識的に禁
止することにしているものである。したがって,引用発明2Aは,引用発明1における上記課
題に対して,一つの解決策を提供するものである。
…(中略)…
エこのように,引用発明1と引用発明2Aとは,いずれも,車両のドアロックの施錠・解
錠を,無線を利用して行うというものであって,技術分野を共通にしており,また,スイッチ
の誤操作による解錠を防ぐという技術課題も共通しており,引用発明1と引用発明2Aとを組
み合わせることを妨げるような格別の事情も見当たらないのであるから,引用発明1と引用発
明2Aとを組み合わせることについての動機付けがあると認めるのが相当であって,当業者に
おいて,容易に,引用発明1に引用発明2Aの技術を適用し得るものというべきである。
…(中略)…
(6)以上検討したところによれば,審決は,引用発明2の認定を誤り,かつ,本件相違点に
ついての認定判断を誤ったものであって,その誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らか
である。
3以上のとおり,原告主張の取消事由1及び2は理由があるから,審決は違法として取消
しを免れない」。
4以上の2,3に照らせば,第1次判決(甲20)は,刊行物1(甲1)から
本件発明を特許出願前に当業者が容易に発明することができたとの理由により,第
1次審決(甲12)の認定判断を誤りであるとしてこれを取り消したものであるこ
と,かかる第1次判決が確定したことが認められる。しかるに,このような場合は,
前記1に説示したように,再度の審判手続(本件審決の審判手続)に第1次判決
(甲20)の拘束力が及ぶ結果,審判官は同一の引用例(刊行物1〔甲1)から〕
本件発明を特許出願前に当業者が容易に発明することができたとはいえないと認定
判断することは許されないこととなる。
そうすると,差戻し後の審判官が,本件審決において「本件発明は,甲第1号証
及び甲第2号証に記載された事項,並びに従来より周知の技術に基いて当業者が容
易に発明をすることができたものである(15頁21行∼23行「本件発明。」),
は,本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証及び甲第2号証に記載
された事項,並びに従来より周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることが
できたものであるから,本件発明の特許は,特許法第29条第2項の規定に違反し
てなされたものであり,…無効とすべきである(15頁25行∼29行)と判。」
断したことに誤りはないから,その余の点について判断するまでもなく,原告が主
張する取消事由1(相違点の認定の誤り,取消事由2(相違点の判断の誤り)は)
いずれも理由がない。
5結語
以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がないから,原告の請求は理
由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官
塚原朋一
裁判官
本多知成
裁判官
田中孝一

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