弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     一 本件控訴を却下する。
     二 本訴は、昭和五九年二月一九日Aの死亡により終了した。
     三 控訴費用は国庫の負担とする。
         事実並びに理由
 第一 控訴人補助参加人が提起した本件控訴の趣旨及び理由は別紙記載のとおり
である。
 第二 当裁判所の判断
 一 一件記録によれば本件の経過は、次のとおりである。
 1 第一審原告AとBは大正四年一〇月一〇日婚姻届出にかかる夫婦てあつた
が、昭和三六年八月一八日協議離婚届出がなされてAはAの氏に復した。そして、
右同日BとCの婚姻届出が受理され、CはBの戸籍に入籍した。
 2 (イ) 昭和五六年一月二三日BとCの協議離婚届出が受理されて、Cは離
婚により除籍され、(ロ)同月三〇日AとBの婚姻届出がなされ、Aは再びBの戸
籍に入籍した。
 Bは同五七年三月一三日死亡した。
 3 同五七年七月七日右2(イ)のBとCの離婚の無効確認の裁判が確定し、つ
いで同五八年四月一〇日右2(ロ)のBとAの婚姻を取消す旨の裁判が確定した。
 4 Aは、BとCの離婚無効確認の裁判確定後の同五七年一二月一一日和歌山地
方裁判所妙寺支部に対し、同地方検察庁検事正を被告として、前記1の亡Bとの間
の同三六年八月一八日届出にかかる協議離婚の無効確認を求める訴訟(以下本件訴
訟又は本訴という)を提起し、同訴訟は同月一六日奈良地方裁判所五條支部に移送
された。
 5 D(Bと後婚配偶者Cとの間の二男)は、同五八年二月二二日本件訴訟の結
果によりCの相続権ないし相続回復請求権が害され、ひいてはDのCに対する期待
権としての相続権に利害を及ぼすとして被告に補助参加した。
 6 同五九年二月一四日奈良地方裁判所五條支部において本訴につき原告A勝訴
の判決が言渡されたが、同月一九日Aは死亡した。
 7 被告補助参加人Dは、原判決を不服として本件控訴を申立てた。
 二 人事訴訟手続法二条三項は、夫婦の一方又は第三者の提起する婚姻無効・取
消の訴訟において相手方とすべき者が死亡したときは、検察官をもつて相手方とす
べき旨定めており、この規定は、同条六項により離婚の取消訴訟に準用されている
が、離婚無効の訴えにも当然準用されるものと解すべきである。そして同条四項
は、婚姻無効・取消の訴訟において検察官が当事者となつた後相手方が死亡したと
きは、裁判所は本案の訴訟手続受継のため弁護士を承継人として選定することを要
する旨定めている。
 ところで、一般に人事訴訟事件において、訴えを提起した後に原告が死亡したと
きは、訴訟物たる身分上の法律関係が一身専属的であることから、その訴訟は当然
に終了し、特別の定めのある場合(人事訴訟手続法二九条三項)を除いて、原告の
相続人その他の親族等は訴訟手続を受継しないものと解されている。
 しかるに、訴訟係属中に被告が死亡し、検察官が被告の地位を受継した後に原告
が死亡したとき、又は、被告とすべき者が死亡したことにより原告が当初から検察
官を被告として訴えを提起した後に原告が死亡したときは、同法二条四項にしたが
えば訴訟は終了せず、裁判所が承継人として選定した弁護士が原告の地位を受継し
て訴訟手続を追行すべきことになる。訴訟係属中に原告が死亡した点では彼我同じ
であるのに、たまたま検察官が被告になつているときは同法二条四項によつて訴訟
は終了せず、そうでないときは訴訟が終了するという結果は、いかにも均衡を失
し、不合理というほかない。
 もともと人事訴訟事件の訴訟物は一身専属性を有することが特質であり本則であ
るが、かくては被告又は被告とすべき者が死亡した場合に原告の訴権行使の道が閉
されることになるため、同法二条三項はその救済として、例外的に検察官を形式的
当事者として訴訟追行を認めたのであつて、右趣旨からすると原告の死亡によつて
本則に立ち戻るべきであるのに、同条四項の定めは、かえつて例外の上に更に例外
を重ねることになるのみならず、形式的当事者たる被告の検察官と、同じく形式的
当事者たる原告の弁護士との間で訴訟を追行させることは、訴訟の実質からみても
甚だ妥当を欠くものというべきである。
 このように考えると同条四項の立法趣旨には疑念が持たれ、その適用ないし準用
がちゆうちよされるの<要旨>であつて、帰するところ訴訟物の一身専属性の原則に
したがい、本件訴訟のように訴え提起当初から検察官を被告とした場合であ
ると、訴訟係属中に検察官が被告の地位を承継した場合であるとを問わず、原告が
死亡したときに訴訟は当然に終了する(前記明文のある場合を除く)と解するのが
相当である。原告の死亡によつて当該訴訟は終了しても、他に原告適格を有する者
があればあらためて訴えを提起することができるのてあるから、かように解しても
格別の支障は生じない。
 以上述べたところから、本件離婚無効確認訴訟に同条四項を準用するのは相当で
なく、本件訴訟は第一審原告Aの死亡により当然に終了したものというべきであ
る。
 三 よつて、控訴人補助参加人のなした本件控訴は不適法であるからこれを却下
して訴訟の終了を宣言することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条、
第八九条、人事訴訟手続法第一七条を適用して、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 藤野岩雄 裁判官 仲江利政 裁判官 蒲原範明)
別 紙
<記載内容は末尾1添付>
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