弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
         理    由
 弁護人土家建太郎の控訴趣意は同人提出の別紙控訴趣意書に記載のとおりであ
る。
 弁護人の控訴趣意第一点(法令の解釈適用の誤)について
 弁護人主張の要旨は公職選挙法第八十九条には選挙運動に関する寄附及びその他
の収入の報告書提出期間の定めがあり同法第百九十一条には出納責任者は右報告書
提出の日から二年間会計帳簿、明細書及び領収書その他支出を証すべき書画の保存
義務のあることを規定している点からして、同法第百八十五条の会計帳簿の記入は
必ずしも寄附金を受領の都度所定の記入を要求しているものではなく右報告書提出
期間内に記入すれば足りる。しかるに原判決がその都度記入しなかつた一事をもつ
て有罪と認定処断したのは法令の解釈適用を誤つた違法があるというのである。そ
こで公職選挙法第百八十五条にいわゆる会計帳簿に所定事項の記載時期につき按ず
るに同法第百八十九条の期間は同法第百八十五条第一項各号に掲げる事項を記載し
た報告書の提出期間を定めたものであり同法第百八十五条は右報告書の基礎資料と
なるべきものの記載を命じたものであり自らその目的を異にし同一に論ずることは
できないものであるのみならず選挙費用の収支は選挙法上重要事項であつて、その
性質上正確を期することを要するものであり、同法第百八十六条には出納責任者以
外の者で公職の候補者のために選挙運動に関する寄附を受けたものは、寄附を受け
た日から七日以内に、寄附をした者の氏名、住所及び職業並びに寄附の金額及び年
月日を記載した明細書を出納責任者に提出しなければならない。但し、出納責任者
の請求があるときは直ちに提出しなければならない。前項の寄附で当該候補者が立
候補の届出前に受けたものについては、立候補の届出後直ちに出納責任者にその明
細書を提出しなければならない。と規定し、寄附を受けた出納責任者以外の者及び
候補者の出納責任者えの明細書提出時期を定めていること、更に同法第百八十七条
第二項には、立候補準備のために要した支出で公職の候補者若しくは出納責任者と
なつた者が支出し又は他の者がその者と意思を通じて支出したものについては、出
納責任者は、その就任後直ちに当該候補者又は支出者につきその精算をしなければ
ならない。と規定し、立候補準備に要した支出につきその精算時期を定めているこ
と並に同法施行規則第二十二条には、法第百八十五条の規定による会計帳簿はその
種類を左の通りとし、別記第三十号様式に準じて作成しなければならない。と規定
し、会計帳簿の種類を、収入簿と支出簿に定め右第三十号様式によると、収入簿に
一定の様式を定めその備考4に寄附の中金銭物品その他の財産上の利益の供与又は
交付の約束は、その約束の日の現在において記載するものとし、その旨並びにその
履行の<要旨>有無及び年月日等を「備考」欄に記載するものとする。との記載のあ
ること等を綜合すると同法第百八十五条にいわゆる会計帳簿に所定事項の記
載時期は出納責任者の記入可能の時遅滞なく記入を要する法意と解すべきである。
本件において原判決挙示の証拠によると、被告人は昭和二十七年九月五日出納責任
者に選任されて就任したもので、同年九月十五日頃及び同月十八日頃、同月二十三
日頃の三回に亘り原判示事実のとおり寄附金を受領し、被告人は殆ど一日に一回は
選挙事務所に行つていたので右受領の時から何時にても寄附金を収入簿に記入し得
られる状態にあつたことが認められるのであつて、原審証人Aの証言によると少く
とも昭和二十七年十月二日まで被告人が収入簿に当該寄附金の記入をしなかつたこ
とが明かであるから原判決が公職選挙法第百八十五条、第二百四十六条第二号に問
擬したのは相当であつて原判決には法令の解釈適用を誤つた違法はない。論旨は採
用し得ない。
 同第二点(量刑不当)について
 本件記録及び原裁判所で取調べた証拠により認められる、本件犯行の態様その他
諸般の事情を綜合すると所論を考慮に容れても原判決の量刑が不当に重いとは認め
られない。論旨は理由がない。
 よつて刑事訴訟法第三百九十六条により本件控訴を棄却すべきものとし、主文の
とおり判決する。 (裁判長判事 原和雄 判事 成智寿朗 判事 松永信和)

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