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平成21年2月25日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成20年(行ケ)第10268号審決取消請求事件(特許)
口頭弁論終結日平成21年1月28日
判決
原告株式会社デンソー
訴訟代理人弁理士碓氷裕彦
同伊藤高順
被告特許庁長官
指定代理人山口由木
同家田政明
同森川元嗣
同小林和男
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が訂正2008−390012号事件について平成20年6月11日にし
た審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が,昭和61年10月21日,名称を「無線式ドアロック制御装
置」とする発明につき特許の出願をし,平成7年3月8日,出願公告(特公平7−
21264号〔公告公報は甲6〕を受け,平成10年2月27日その設定登録を受
けたところ,これに関し原告が平成20年1月29日付けで訂正審判請求(甲9。
以下「本件訂正」といい,同訂正後の上記発明を,その請求項に対応して「本件,
訂正発明1」などという。全文訂正明細書は甲10)をしたので,特許庁がこの請
求を訂正2008−390012号事件として審理し,平成20年6月11日,請
求不成立との審決をしたことから,原告がその取消しを求めた事案である。
争点は,本件訂正が,①訂正目的の要件を満たすか,②実質上特許請求の範囲を
変更するものでないか,③独立特許要件を満たしているか(すなわち実願昭59−
199303号(実開昭61−115466号)のマイクロフィルム〔考案の名称
「車両用遠隔解施錠装置,出願人株式会社東海理化電機製作所,公開日昭和6」
1年7月21日,甲1。以下「刊行物1」といい,これに記載された発明を「刊行
物1発明」という〕との関係における進歩性の有無〔特許法29条2項)であ。〕
る。
1特許庁等における手続の経緯
(1)本件審決
原告は,昭和61年10月21日,発明の名称を「無線式ドアロック制御装置」
とする特許出願をし,平成7年3月8日,出願公告がなされ(特公平7−2126
4号,平成10年2月27日,特許第2135142号として設定登録を受けた)
(請求項は1∼4。公告公報は甲6。以下,この特許を「本件特許」という。。)
これに関し,原告は,平成20年1月29日付けで本件特許の特許請求の範囲の
減縮等を目的とする訂正審判(甲9。本件訂正)を請求したので,特許庁は,この
請求を訂正2008−390012号事件として審理し,平成20年6月11日,
「本件審判の請求は,成り立たない」との審決(本件審決)をし,その謄本は平。
成20年6月23日原告に送達された。
(2)無効審判手続の経緯
なお,上記特許に対し,平成17年10月27日,カルソニックカンセイ株式会
社が無効審判請求を行っているが,その現在に至るまでの状況は次のとおりである。
すなわち,特許庁は,同請求を無効2005−80303号事件として審理し,
平成18年9月27日,請求不成立との旨の審決(第1次無効審判審決)をしたが,
これに不服の上記請求人が審決取消訴訟を提起したところ,知的財産高等裁判所は,
平成19年4月25日,上記審決を取り消す旨の判決(甲13)をし,同判決が確
定したので,特許庁において,上記無効2005−80303号事件の審理が再び
続けられることとなった。
そして,特許庁は,平成19年11月26日「特許第2135142号に係る,
発明についての特許を無効とする」との審決(第2次無効審判審決,甲12)を。
した。そこで,これに不服の原告は,審決取消訴訟を提起し,当裁判所は,これを
平成19年(行ケ)10424号事件として審理している(平成21年1月28日
口頭弁論終結。なお,原告は,同審決取消訴訟を提起した後,本件訂正にかかる訂
正審判請求をし,前記のとおり,特許庁はこれを訂正2008−390012号事
件として審理することとなったが,当裁判所は,特許法181条2項により上記無
効審決を取り消すという決定をすることなく同審決取消訴訟の審理を続けたもので
ある。。)
2特許請求の範囲
本件訂正後の特許請求の範囲は,請求項1∼3から成り,その発明の内容は次の
とおりである(本件訂正発明1∼3。なお,全文訂正明細書は甲10。)
「請求項1】キーシリンダに挿入され,各種機器を作動させるキープレートと,【
このキープレートの一端に設けられ,このキープレートを操作するためのつまみ
部と,
このつまみ部に設けられる送信スイッチと,
前記つまみ部に内蔵される電池と,
前記つまみ部に内蔵され前記送信スイッチが操作されると前記電池を電源として
予め定められたコード信号を送信する送信機と,
自動車に搭載され,車載バッテリから電源を供給されて,前記送信機から送信さ
れるコード信号を受信して,ドアロックアクチュエータを制御する受信機とを備え
る無線式ドアロック制御装置において,
前記送信スイッチが設けられた前記つまみ部が操作されて前記キープレートが前
記キーシリンダに挿入されているとき所定の検出信号を発生する検出手段と,
この検出手段が前記検出信号を発生すると,前記キーシリンダに挿入された前記
キープレートの一端の前記つまみ部を操作する時,前記送信スイッチを押して前記
送信機が前記電池を電源として前記コード信号を送信しても,前記車載バッテリを
電源とする前記受信機による前記無線式ドアロック制御装置の作動を禁止する禁止
手段とを備えることを特徴とする無線式ドアロック制御装置。
【請求項2】前記禁止手段は,前記受信機の作動を禁止することを特徴とする特
許請求の範囲第1項記載の無線式ドアロック制御装置。
【請求項3】前記禁止手段は,所定時間のタイマ手段を備え前記検出手段の前記
検出信号が発生しなくなると,前記タイマ手段を起動し,その所定時間後,無線式
ドアロック制御装置の作動の禁止を解除することを特徴とする特許請求の範囲第1
項記載の無線式ドアロック制御装置」。
3審決の内容
審決は,前記のとおり,本件訂正審判請求は成り立たないとしたものである。そ
の理由の要点は,①訂正事項3,7(内容は後記のとおり)は,特許請求の範囲の
減縮,明りょうでない記載の釈明,誤記の訂正を目的とするものではない,②訂正
事項3(内容は後記のとおり)は,特許請求の範囲を実質的に変更するものである,
③本件訂正発明1,2は,独立特許要件を満たしていない(すなわち本件訂正発明
1,2は刊行物1発明との関係において進歩性がない)としたものであり,その具
体的な内容は,次のとおりである。
第2請求の要旨及び訂正内容「
本件審判請求は,特許第2135142号の明細書を,審判請求書に添付した訂正明細書
(以下「訂正明細書」という)のとおりに訂正することを求めるものであり,その訂正の内容
は次のとおりである。
[訂正事項1]
特許請求の範囲の請求項1の
「前記つまみ部に内蔵され前記送信スイッチが操作されると予め定められたコード信号を送
信する送信機と」を,,
「前記つまみ部に内蔵される電池と,
前記つまみ部に内蔵され前記送信スイッチが操作されると前記電池を電源として予め定めら
れたコード信号を送信する送信機と」と訂正する。,
[訂正事項2]
特許請求の範囲の請求項1の
「前記送信機から送信されるコード信号を受信して,ドアロックアクチュエータを制御する
受信機とを備える無線式ドアロック制御装置において」を,,
「自動車に搭載され,車載バッテリから電源を供給されて,前記送信機から送信されるコー
ド信号を受信して,ドアロックアクチュエータを制御する受信機とを備える無線式ドアロック
制御装置において」と訂正する。,
[訂正事項3]
特許請求の範囲の請求項1の
「前記キープレートが前記キーシリンダに挿入されているとき所定の検出信号を発生する検
出手段と」を,,
「前記送信スイッチが設けられた前記つまみ部が操作されて前記キープレートが前記キーシ
リンダに挿入されているとき所定の検出信号を発生する検出手段と」と訂正する。,
[訂正事項4]
特許請求の範囲の請求項1の
「この検出手段が前記検出信号を発生すると,前記無線式ドアロック制御装置の作動を禁止
する禁止手段」を,
「この検出手段が前記検出信号を発生すると,前記キーシリンダに挿入された前記キープレ
ートの一端の前記つまみ部を操作する時,前記送信スイッチを押して前記送信機が前記電池を
電源として前記コード信号を送信しても,前記車載バッテリを電源とする前記受信機による前
記無線式ドアロック制御装置の作動を禁止する禁止手段」と訂正する。
[訂正事項5]
同請求項2を削除し,請求項3を請求項2に,請求項4を請求項3に夫々訂正する。
[訂正事項6]
明細書の〔産業上の利用分野〕の
「本発明は,車両や家屋に使用される扉の錠を無線信号にて,施錠(ロック,解錠(アンロ)
ック)するためのものである(本件特許公報である特公平7−21264号公報(以下,単。」
に「公報」という)2頁3欄1∼3行)を,。
「本発明は,車両に使用される扉の錠を無線信号にて,施錠(ロック,解錠(アンロック))
するためのものである」と訂正する。。
[訂正事項7]
明細書の〔問題点を解決するための手段〕の
「キーシリンダM1に挿入され,各種機器を作動させるキープレートM2と(当審注:審判
請求書8頁3行の「挿入さ各種機器」は誤記と認める,。)
このキープレートM2の一端に設けられ,このキープレートを操作するためのつまみ部M3
と,
このつまみM3に設けられる送信スイッチM4と,
前記つまみ部M3に内蔵され前記送信スイッチM4が操作されると予め定められたコード信
号を送信する送信機M5と,
送信機から送信されるコード信号を受信して,ドアロックアクチュエータM6を制御する受
信機M7とを備える無線式ドアロック制御装置M8において,
前記キープレートM2が前記キーシリンダM1に挿入されているとき所定の検出信号を発生
する検出手段M9と,
この検出手段が前記検出信号を発生すると,前記無線式ドアロック制御装置M8の作動を禁
止する禁止手段M10と(公報2頁3欄28∼42行)を,」
「キーシリンダM1に挿入され,各種機器を作動させるキープレートM2と,
このキープレートM2の一端に設けられ,このキープレートを操作するためのつまみ部M3
と,
このつまみ部M3に設けられる送信スイッチM4と,
前記つまみ部M3に内蔵される電池と,
前記つまみ部M3に内蔵され前記送信スイッチM4が操作されると前記電池を電源として予
め定められたコード信号を送信する送信機M5と,
自動車に搭載され,車載バッテリから電源を供給されて前記送信機から送信されるコード信
号を受信して,ドアロックアクチュエータM6を制御する受信機M7とを備える無線式ドアロ
ック制御装置M8において,
前記送信スイッチM4が設けられた前記つまみ部M3が操作されて前記キープレートM2が
前記キーシリンダM1に挿入されているとき所定の検出信号を発生する検出手段M9と,
この検出手段が前記検出信号を発生すると,前記キーシリンダM1に挿入された前記キープ
レートM2の一端の前記つまみ部M3を操作する時,前記送信スイッチM4を押して前記送信
機M5が前記電池を電源として前記コード信号を送信しても,前記車載バッテリを電源とする
前記受信機M7による前記無線式ドアロック制御装置M8の作動を禁止する禁止手段M10
と」と訂正する。
[訂正事項8]
明細書の〔作用〕の
「検出手段は,キープレートがキーシリンダに挿入されていることを検出して検出信号を発
生する(公報2頁3欄50行∼4欄1行)を,。」
「検出手段は,送信スイッチが設けられたつまみ部が操作されてキープレートがキーシリン
ダに挿入されていることを検出して検出信号を発生する」と訂正する。。
[訂正事項9]
明細書の〔作用〕の
「そして,禁止手段は,検出信号に応じて本発明の無線式ドアロック制御装置の作動を禁止
するのである。この禁止により,無線式ドアロック制御装置は作動しなくなり,ドアロックの
施錠,解錠は行われない(公報2頁4欄2∼5行)を,。」
「そして,禁止手段は,キーシリンダに挿入されたキープレートの一端のつまみ部を操作す
る時,つまみ部に設けられた送信スイッチを押して送信機がコード信号を送信しても,受信機
による無線式ドアロック制御装置の作動を禁止するのである。この禁止により,つまみ部に内
蔵された送信機のコード信号送信と車両側受信機のコード受信による本発明の無線式ドアロッ
ク制御装置は作動しなくなり,ドアロックの施錠,解錠は行われない」と訂正する。。
[訂正事項10]
明細書の〔実施例〕の
「また,検出手段と禁止手段とを送信機に設けてもよい。例えば,つまみ部のキープレート
が突出している端面にスイッチあるいは電極を設け,このスイッチあるいは電極がキーシリン
ダの入口面と当接すると,送信機の電源をカットするようにしてもよく,キープレートに所定
の信号を加えて,送信機の電源をカットするようにしてもよい。こうして,送信機の送信を禁
止することで,送信機の電池の寿命を引き伸ばすことができ,長期間電池交換なしで使えるよ
うになる(公報3頁6欄3∼11行)を削除する。。」
第3訂正後の請求項1ないし3に係る発明
訂正明細書の請求項1ないし3に係る発明は,次のとおりのものである。
「請求項1】キーシリンダに挿入され,各種機器を作動させるキープレートと,【
このキープレートの一端に設けられ,このキープレートを操作するためのつまみ部と,
このつまみ部に設けられる送信スイッチと,
前記つまみ部に内蔵される電池と,
前記つまみ部に内蔵され前記送信スイッチが操作されると前記電池を電源として予め定めら
れたコード信号を送信する送信機と,
自動車に搭載され,車載バッテリから電源を供給されて,前記送信機から送信されるコード
信号を受信して,ドアロックアクチュエータを制御する受信機とを備える無線式ドアロック制
御装置において,
前記送信スイッチが設けられた前記つまみ部が操作されて前記キープレートが前記キーシリ
ンダに挿入されているとき所定の検出信号を発生する検出手段と,
この検出手段が前記検出信号を発生すると,前記キーシリンダに挿入された前記キープレー
トの一端の前記つまみ部を操作する時,前記送信スイッチを押して前記送信機が前記電池を電
源として前記コード信号を送信しても,前記車載バッテリを電源とする前記受信機による前記
無線式ドアロック制御装置の作動を禁止する禁止手段とを備えることを特徴とする無線式ドア
ロック制御装置。
【請求項2】前記禁止手段は,前記受信機の作動を禁止することを特徴とする特許請求の範
囲第1項記載の無線式ドアロック制御装置。
【請求項3】前記禁止手段は,所定時間のタイマ手段を備え前記検出手段の前記検出信号が
発生しなくなると,前記タイマ手段を起動し,その所定時間後,無線式ドアロック制御装置の
作動の禁止を解除することを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の無線式ドアロック制御装
置」。
第4訂正の目的の適否,特許請求の範囲の実質的な拡張・変更の有無の判断
1.訂正事項1は「送信機」について,つまみ部に内蔵される電池により駆動されるものに,
限定しようとするものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
2.訂正事項2は「受信機」について,自動車に搭載され,車載バッテリから電源を供給さ,
れるものに限定しようとするものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
3.訂正事項3について検討する。
訂正前の請求項1に係る発明の「検出手段」について,訂正前の明細書には,次のように
記載されている。
「検出手段は,キープレートがキーシリンダに挿入されていることを検出して検出信号を発
生する(公報2頁3欄50行∼4欄1行,。」)
「およびキーシリンダにキープレートが挿入されたことを検出するキースイッチ4から構成
されている(公報2頁4欄20∼22行,。」)
「キーシリンダ30には,キープレート21を検出するためのキースイッチ4が設けられて
いる(公報2頁4欄49行∼3頁5欄1行,。」)
「…キースイッチ4が閉じているか否かでキーシリンダのキーの有無を判別し(公報3頁,」
5欄6∼7行。)
また,本件特許の図面第3図(上記公報参照)には,キーシリンダ30の底部にキースイ
ッチ4を設けることが記載されている。
これらの記載によれば,訂正前の請求項1に係る発明の「検出手段」は,キーシリンダ内
にキーが挿入されているときに検出信号を発生するもの,すなわちキーシリンダ内にキーが挿
入されている状態を検出するものであり「送信スイッチが設けられたつまみ部が操作され」た
か否かを検出するものではない。
請求人は,訂正事項3は,キーシリンダ内にキーが挿入されている状態がどうして生じた
のかを明確にしたものであって,キーをキーシリンダ内に挿入されている状態とするにはキー
をキーシリンダ内に挿入するという行為が必要であり,その行為はキープレートのつまみ部を
持って行う操作であるので,その旨を明らかにすべく「前記つまみ部が操作されて」の限定,
を追加した旨主張する(意見書2頁11∼19行。)
しかし「前記つまみ部が操作されて」との動作を付加したことにより,訂正後の請求項1,
に係る発明において「検出手段」が「検出信号を発生する」のは「キーシリンダ内にキーが,
挿入されている」状態のときか「つまみ部が操作されてキーシリンダ内にキーが挿入され,
る」動作が行われたときか,あるいは「つまみ部が操作された」動作の結果「キーシリンダ内
にキーが挿入されている」状態になったときに限定されたものか不明りょうとなり,訂正事項
3は,明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正とも,特許請求の範囲の減縮を目的とする
訂正ともいえない。
また,訂正事項3は,誤記の訂正を目的とする訂正でもない。
したがって,訂正事項3は,特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)
附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる,同法による改正前の特許法(以
下「平成6年改正前特許法」という)第126条第1項ただし書各号のいずれにも該当しな,。
い。
上記訂正事項3が「検出信号を発生する」条件として,訂正前の請求項1に係る発明の,
「キープレートがキーシリンダに挿入されている」に「送信スイッチが設けられたつまみ部,
が操作されて」との限定を付加するもの,すなわち,特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正
であるとすると,訂正事項3により「検出手段」の内容は,訂正前の「キーシリンダ内にキー
が挿入されているとき」に検出信号を発生するものから「送信スイッチが設けられたつまみ,
部が操作され」かつ「キーシリンダ内にキーが挿入されているとき」に検出信号を発生するも
のに変更されることになるから,訂正事項3は,特許請求の範囲を実質的に変更するものであ
って,平成6年改正前特許法第126条第2項の規定に適合しない。
4.訂正事項4は「無線式ドアロック制御装置の作動を禁止する禁止手段」について,キー,
シリンダに挿入されたキーの一端のつまみ部を操作する時に送信スイッチを押して送信機がコ
ード信号を送信しても,車載バッテリを電源とする受信機による無線式ドアロック制御装置の
作動を禁止するものに限定しようとするものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とする
ものである。
5.訂正事項5は,請求項を削除するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とする
ものである。
6.訂正事項7は,訂正事項3と同様の訂正をしようとするものであるから,訂正事項3と
同様の理由により,特許請求の範囲の減縮,明りょうでない記載の釈明,又は誤記の訂正を目
的とするものではない。
以上のとおり,本件審判請求における,訂正事項3,7は,平成6年改正前特許法第12
6条第1項ただし書各号のいずれにも該当しないか,あるいは同条第2項の規定に適合しない。
第4独立特許要件の判断
上記のとおり訂正事項1,2,4及び5は特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認め
られる。
仮に,訂正事項3が,請求人が主張するように,単に訂正前の請求項1に係る「前記キー
プレートが前記キーシリンダに挿入されている」状態の原因を明確にしたものであるとすると,
訂正後の請求項1及び請求項1を引用する訂正後の請求項2,3に係る発明は,訂正事項1,
2,4及び5により減縮されることとなる。
そこで,訂正後の請求項1,2に係る発明(以下「訂正発明1「訂正発明2」とい,」,
う)が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて検討す。
る。
1.刊行物の記載事項
(1)訂正拒絶理由で引用され,本願出願前に頒布された刊行物である実願昭59−199
303号(実開昭61−115466号)のマイクロフイルム(以下「刊行物1」という),。
には「車両用遠隔解施錠装置」に関して,図面とともに,次の事項が記載されている。,
(1a)「(1)車両の解施錠手段に対する解錠又は施錠を指令する信号を送信する送信機と,車
両に搭載され送信機からの送信信号を受信し解施錠手段に解錠信号又は施錠信号を出力する受
信機と,を有する車両用遠隔解施錠装置において,送信機にイグニツシヨンキーを一体的に装
着したことを特徴とする車両用遠隔解施錠装置。
(2)前記イグニツシヨンキーにアンテナコイルを形成し,このアンテナコイルから送信機
の出力信号を送信することを特徴とする実用新案登録請求の範囲第1項記載の車両用遠隔解施
錠装置(実用新案登録請求の範囲)。」
(1b)「本考案は,前記従来の課題に鑑みてなされたものであり,その目的は,イグニツシヨ
ンキーと送信機とを別々に所持する不便さを解消することができる車両用遠隔解施錠装置を提
供することにある(明細書3頁6∼10行)。」
(1c)「本実施例は,第1図に示されるように,送信機10に,メカニカル式イグニツシヨン
キー30を一体的に装着したものであり,受信機の構成は従来のものと同様であるので,受信
機の構成の説明は省略する。
送信機10は,第2図に示されるように,アツパーケース32,ロアケース34,スイツ
チ16,マイクロコンピユータを構成するLSI36,赤外線LED38,40などを有し,
スイツチ16,LSI36,LED38,40が回路基板42上に実装されている。回路基板
42はねじ44によりロアケース34に固定されている。この回路基板42とロアケース34
の側壁との空間部には電池46,48,50が収納されており,接点52を介してLSI36
などに電力が供給されている。回路基板42上のスイツチ16には操作ボタン16aが装着さ
れる(明細書4頁2∼18行)。」
(1d)「そして,スイツチ16がON操作されるとスイツチSW1∼SW4の操作に基づくキ
ーコードが赤外線LED38,40から送信される(明細書6頁1∼3行)。」
(1e)「本実施例は,第4図に示されるように,イグニツシヨンキー30の基端部に矩形状の
アンテナコイル30Aが形成されている。そして,このイグニツシヨンキー30を収納するた
めに,ロアケース34には平板状の仕切板64が配設されており,仕切板64の底部には収納
室66が形成されている。この収納室66はロアケース34に固定されたイグニツシヨンキー
30を収納可能なスペースとされている。またアンテナコイル30Aにはねじ孔30B,30
Cが刻設されており,仕切板64には貫通孔64a,64bが刻設されている。このため,仕
切板64上に回路基板42を装着し,さらにアツパーケース32を装着した後アツパーケース
32のねじ孔32b,32cからねじ60を挿入し,アツパーケース32をロアケース34に
固定すれば,キーホルダー30を仕切板64に固定することができる(明細書6頁10行∼。」
7頁6行)
(1f)「また本実施例においては,第5図に示されるように,トランジスタTr1,赤外線L
ED38,40などの赤外線送信回路の代りに,電波送信部70が回路基板42上に実装され
ており,アンテナコイル30Aが電波送信部70に接続され,アンテナコイル30Aから専用
のキーコードが送信されるように構成されている(明細書7頁7∼13行)。」
上記記載事項並びに図面に示された内容を総合すると,刊行物1には次の発明が記載され
ていると認められる。
「キーシリンダに挿入され,各種機器を作動させるイグニツシヨンキー30と,
このイグニツシヨンキー30の一端に設けられ,このイグニツシヨンキー30を操作する
ための,アツパーケース32とロアケース34から成るキーケースと,
このキーケースに設けられる操作ボタン16aと,
キーケースに内蔵される電池46,48,50と,
前記キーケースに内蔵され前記操作ボタン16aがON操作されると,スイッチSW1∼
SW4の操作に基づき前記電池46,48,50を電源として予め定められたキーコードを送
信する電波送信部70と,
前記電波送信部70から送信されるキーコードを受信して,ドアロック装置を制御する受
信機を備える車両用遠隔解施錠装置」。
(2)同じく,特開昭60−261873号公報(以下「刊行物2」という)には「車両,。,
用無線式解錠制御装置」の発明に関して,図面とともに次の事項が記載されている。
(2a)「1)所定の操作子を備え,この操作子の操作に応答して,以後,固有コード信号を繰(
り返し無線送信する携帯機と;
常時受信待機状態に設定され,かつ前記携帯機が車両ドア,トランク等の開閉体に接近し
たときに限り,前記携帯機からの固有コード信号を受信可能な車載受信機と;
前記受信された携帯機側の固有コードを,予め設定された車体側固有コードと照合するコ
ード照合手段と;
前記コード照合手段で両コードの一致が照合されるのに応答して,前記開閉体の錠機構を
解錠する解錠制御手段とからなることを特徴とする車両用無線式解錠制御装置(特許請求の。」
範囲第1項)
《産業上の利用分野》として
(2b)「この発明は,機械式キーを用いることなくドアロック等の施解錠を行なう車両用無線
式解錠制御装置に関する(2頁左上欄4∼6行)。」
《発明の背景》として
(2c)「本出願人は,先に特開昭59−24075号公報において「電波式キーシステム」を
提案した。
この電波式キーシステムは,例えば車両のドアロックの施解錠あるいはトランクロックの
解錠…等を行なうものである(2頁左上欄8∼13行)。」
(2d)「このシステムによれば,携帯機の所持者は,交信可能エリア内において起動スイッチ
をONさせるのみで施解錠制御を行なうことができるため,従来のように機械式キーをいちい
ち取り出す必要がなく,さらに,機械式キーを車室内へ置き忘れた場合でも施解錠を行なうこ
とができ,大変便利である。
ところで,…前記起動スイッチの操作の必要性を解消するとさらに便利性が向上する」。
(2頁右上欄12行∼左下欄3行)
《発明の目的》として
(2e)「この発明は,携帯機側…に設けられた所定の操作子を操作した場合には,起動スイッ
チを操作することなくドアロックの解錠あるいはトランクロックの解錠を可能とし,前述した
便利性の向上を実現することを目的とする(2頁左下欄11∼15行)。」
《発明の構成》として
(2f)「第1図(A)は,第1の発明の構成を示すクレーム対応図である。
同図において,携帯機100は,所定の操作子101を備え,この操作子101の操作に
応答して,以後固有コード信号を繰り返し無線送信する。
車載受信機102は,常時受信待機状態に設定され,かつ携帯機100が,車両ドア,ト
ランク等の開閉体に接近したときに限り,携帯機100からの固有コード信号を受信すること
ができる。
コード照合手段103は,受信された携帯機100側の固有コードを,予め設定された車
体側固有コードと照合する。
解錠制御手段104は,コード照合手段103で両コードの一致が照合されるのに応答し
て,開閉体の錠機構を解錠する(2頁左下欄17行∼右下欄11行)。」
《実施例の説明》として
(2g)「第2図は,第1の発明の一実施例における携帯機の構成を示す回路図,第3図は,同
車体側制御装置の構成を示す回路図である。
携帯機30は,…運転者が従来の機械式キーとともに携帯する。また,携帯機30の外面
所定位置にはタイマスイッチ…18が設けられている。
携帯機30は,受信用ループアンテナ1と送信用ループアンテナ2とを備えており,…」
(3頁左上欄12行∼右上欄2行)
(2h)「また,マイクロコンピュータ8には,固有コード記憶回路9が接続されており,この
固有コード記憶回路9は,…固有コードデータをマイクロコンピュータ8へ供給する。
さらに,マイクロコンピュータ8は,前記固有コードデータをシリアルなパルス列信号と
して出力する動作を行ない,この固有コード信号dは,…送信用ループアンテナ2へ供給され
る。
タイマスイッチ18は,携帯機30の外面所定位置に設けられた押釦スイッチであり…,
このスイッチがON操作されると,時定数回路19,インバータ20を介し“H”レベルのタ
イマ信号eがマイクロコンピュータ8に供給される(3頁右上欄14行∼左下欄10行)。」
(2i)「一方,車載機40は,第3図に示す如く,マイクロコンピュータ(以下,CPU)5
3を中心として構成されている。…
ループアンテナ41a,41bは,各々車体のトランクロックの近傍…に所定間隔をおい
て配置されている。
他の一対のループアンテナ41c,41dは,第16図に示すように,運転席側ドア近傍
に配置され…設けられている(3頁左下欄14行∼右下欄7行)。」
(2j)「キースイッチ59は,イグニッションキーシリンダ内にキーが挿入された状態でON
となり,キーを抜き取った状態でOFFとなるスイッチである(4頁左上欄8∼11行)。」
(2k)「第4図は,第1の発明の一実施例における携帯機30内のマイクロコンピュータ8で
実行される処理内容を示すフローチャート,第5図∼第8図は,同車載機40内のCPU53
で実行される処理内容を示すフローチャートである。
第4図のフローチャートが開始…されると,まずステップ(400)のイニシャル処理で
フラグFが”0”にリセットされる。…
次いで,信号受信か否かが判定され(ステップ401,信号受信なしの場合には,ステッ)
プ(405)へ進んで,タイマスイッチが“H”か否かが判定される。
タイマスイッチ18が“H”の場合,すなわちタイマ所定時間経過前であれば,次いでフ
ラグFが“0”か否かが判定され(ステップ406)フラグFが“0”であれば,固有コード
信号を1回送信する処理が実行される(ステップ407。…)
固有コード信号が送信されると,マイクロコンピュータ8内のタイマがスタートし,タイ
マ時間T経過後に再びステップ(401)へ戻り,上述した処理が繰り返される(4頁右上。」
欄20行∼右下欄9行)
(2l)「一方,第5図に示す車載機40側のメインルーチンにおいて,イグニッションキーが
抜き取られる(ステップ500)と,以後受信待機状態となり,この状態では,変調器49,
発振器50等で構成される送信系回路を除いて,すべての回路が作動状態となっている。
また,この状態では,CPU53からアンテナ切換信号S1が常時,切換回路46a,4
6bに供給されており,受信アンテナをドアロック制御用アンテナ41a,41b側…へ切換
えて,固有コード信号の受信待機をしている。
まず,ステップ(501)で,受信アンテナがドアロック制御アンテナ41a,41b側
へセットされ,固有コード信号の受信可否が判定される(ステップ502。…)
,固有コード信号が受信されると,マルチブレクサ69から車体側の固有コードが読込まれ
受信固有コードとの照合が成される(ステップ507,508。)
両コードが一致しない場合は,携帯機30がこの車両と一致しないため,施解錠制御が行
なわれない。
一方,両コードが“一致”と判定されると,次いでフラグF2の内容が“0”か“1”か
が判定される。
フラグF2が“0”でかつドアロック施錠状態であれば(ステップ510の判別結果がY
)。ES,ステップ(511)へ進み,ドアロック解錠処理がなされ,ドアロックは解錠される
これは,CPU53からドアロック解錠信号S6が出力され,これにより,…リレー67
が作動し,施解錠用モータを正転させて解錠する処理である(4頁右下欄13行∼5頁右上。」
欄12行)
(2m)「このように,この発明においては,携帯機30のタイマスイッチ18をONすること
によって,以後,間欠的に繰り返し固有コード信号が送信されるため…携帯機30の所持者が
車両ドアあるいはトランクロックに近付くだけで自動的にロック解錠がなされるのである」。
(5頁左下欄4∼10行)
(2n)「また,前記メインルーチンが実行されている間に,スイッチ57∼64の何れかが操
作されると,その都度車載機40側では,第6図以下に示す割込処理がなされる(5頁右下。」
欄1∼4行)
(2o)「第8図のサブルーチンが開始されると,まずイグニッションキーが抜き取られている
か否かが判定され(ステップ800,キーが挿入中であれば運転者が乗車中であるとし,以)
下の施解錠処理は行われない(5頁右下欄17行∼6頁左上欄1行)。」
(2p)第2図には,マイクロコンピュータ8等に+3Vの電圧が印加されることが記載され,
携帯機に電源が内蔵されていることが示されている。
(2q)第5図には,メインルーチンにおいて,ステップ500でイグニッションキーが抜出さ
れていないことが判別された場合,リターンすることが示されている。
刊行物2記載の車載受信機40が車載バッテリを電源としていることは自明であるから,
上記記載事項並びに図面に示された内容を総合すると,刊行物2には次の発明が記載されてい
ると認められる。
「タイマスイッチ18(操作子)を有し,電源が内蔵されていて,前記タイマスイッチ18
が操作されると予め定められた固有コード信号を送信する携帯機30と,
自動車に搭載され,車載バッテリから電源を供給されて,前記携帯機30から送信される
固有コード信号を受信して,ドアロックアクチュエータ等を制御する車載受信機40とを備え
る車両用無線式解錠制御装置において,
,イグニッションキーがキーシリンダに挿入されていることを検出するキースイッチ59と
このキースイッチ59が,イグニッションキーがキーシリンダに挿入されていることを検
出すると,前記タイマスイッチ18を押して前記携帯機30が固有コード信号を送信しても,
前記車載受信機40による前記車両用無線式解錠制御装置の作動を禁止する禁止手段とを備え
る車両用無線式解錠制御装置」。
(3)同じく,特開昭61−221475号公報(以下「刊行物3」という)には,図面,。
とともに次の事項が記載されている。
(3a)「1)運転者が携帯する送信器から発信される解錠コード信号を受信する受信部と,該(
解錠コード信号が受信されたかどうかを判別するコード判別部と,コード判別部出力にてトラ
ツクの荷台のドアロツク用電気錠の解錠を制御する解錠制御部とよりなるドアロツク解錠装置
において,トラツクが運転状態にあるかどうかを検出する運転検出手段を設けるとともに,運
転検出信号が得られたとき解錠動作を停止させて電気錠を施錠状態に保持せしめる解錠阻止手
段を設けたことを特徴とするトラツクの荷台のドアロツク解錠装置(特許請求の範囲)。」
(3b)「このような従来例にあつては,トラツク(A)が運転状態のときに,送信器(1)が動作
状態になつていると,送信器(1)から発せられる解錠コード信号が常に受信部(2)にて受信さ
れ,ドア(7)の電気錠(5)が解錠されたままトラツク(A)が運転されることになり,走行中の
安全性に問題があつた(1頁右下欄16行∼2頁左上欄2行)。」
(3c)「発明の目的〕〔
本発明は上記の点に鑑みて為されたものであり,その目的とするところは,トラツクが運
転状態のときに荷台のドアロツクが解錠されることがなく,走行中の安全性を高くすることが
できるトラツクの荷台のドアロツク装置を提供することにある(2頁左上欄3∼9行)。」
(3d)「運転検出手段(8)は,例えば,第2図に示すようにエンジンキー(10)の位置を
検出して運転状態であるか否かを判別する(2頁左上欄18∼20行)」
2.対比・判断
(1)訂正発明1について
訂正発明1と刊行物1記載の発明とを対比すると,その機能ないし構造から見て,刊行物
1記載の発明における「イグニツシヨンキー30「キーケース「操作ボタン16a「キ」,」,」,
ーコード「電波送信部70「ドアロック装置「車両用遠隔解施錠装置」は,それぞれ訂」,」,」,
」,」,」,」,」,正発明1における「キープレート「つまみ部「送信スイッチ「コード信号「送信機
「ドアロックアクチュエータ「無線式ドアロック制御装置」に相当する。」,
そうすると,両者は,
「キーシリンダに挿入され,各種機器を作動させるキープレートと,
このキープレートの一端に設けられ,このキープレートを操作するためのつまみ部と,
このつまみ部に設けられる送信スイッチと,
前記つまみ部に内蔵される電池と,
前記つまみ部に内蔵され前記送信スイッチが操作されると前記電池を電源として予め定め
られたコード信号を送信する送信機と,
前記送信機から送信されるコード信号を受信して,ドアロックアクチュエータを制御する
受信機とを備える無線式ドアロック制御装置」。
である点で一致し,次の点で相違する。
相違点:訂正発明1が「送信スイッチが設けられたつまみ部が操作されてキープレートが,
キーシリンダに挿入されているとき所定の検出信号を発生する検出手段」と「この検出手段が
検出信号を発生すると,キーシリンダに挿入されたキーの一端の前記つまみ部を操作する時,
前記送信スイッチを押して送信機が電池を電源として前記コード信号を送信しても,車載バッ
テリを電源とする受信機による無線式ドアロック制御装置の作動を禁止する禁止手段」とを備
えるのに対して,刊行物1記載の発明はこのような検出手段及び作用手段を備えていない点。
上記相違点について検討する。
刊行物2には,訂正発明1,刊行物1記載の発明と同様に,固有コード信号を受信してド
アロックアクチュエータ等を制御する無線式解錠制御装置に関する発明が記載されており,刊
行物2記載の発明における「携帯機30」と訂正発明1の「送信機」とは「コード送信装,
置」である点で共通し,刊行物2記載の発明の「イグニッションキー「タイマスイッチ(操」,
作子)18「携帯機から送信される固有コード信号を受信して,ドアロックアクチュエータ」,
等を制御する車載受信機40「車両用無線式解錠制御装置」は,それぞれ訂正発明1の「キ」,
ープレート「送信スイッチ「送信機から送信されるコード信号を受信して,ドアロックア」,」,
クチュエータを制御する受信機「受信機を備える無線式ドアロック制御装置」に相当する。」,
また,刊行物2記載の発明の「イグニッションキー」は,つまみ部を持ってキーシリンダ
に挿入するものであることは明らかである。
そうすると,刊行物2記載の発明の「イグニッションキーがキーシリンダに挿入されてい
ることを検出するキースイッチ59「このキースイッチが,イグニッションキーがキーシリ」,
ンダに挿入されていることを検出すると,タイマスイッチを押して携帯機が固有コード信号を
送信しても,車載受信機による車両用無線式解錠制御装置の作動を禁止する禁止手段」は,そ
れぞれ,訂正発明1の「つまみ部が操作されてキープレートがキーシリンダに挿入されている
とき所定の検出信号を発生する検出手段「この検出手段が検出信号を発生すると,送信スイ」,
ッチを押して送信機が電池を電源としてコード信号を送信しても,車載バッテリを電源とする
受信機による無線式ドアロック制御装置の作動を禁止する禁止手段」に相当する。
刊行物2記載の発明は,イグニッションキーと携帯機が別体であるため,キーシリンダに
挿入されたキーの一端のつまみ部を操作する時,送信スイッチを押すおそれはないが,一般に,
スイッチが露出して設けられている場合,意図しない接触等により,スイッチの誤操作が生じ
得ることは,経験則上明らかな事項であり,例えば,実願昭58−110621号(実開昭6
0−17863号)のマイクロフィルム及び実願昭58−112117(実開昭60−196
49号)のマイクロフィルムに,イグニッションキーなどに発光素子を取り付けた照明付キー
において,操作ボタンがつまみ部の平面部分に位置するため,誤って操作ボタンを押下する場
合が多いことが問題点として指摘されていることからも,明らかである。
したがって,露出して設けられているスイッチによって施錠したり解錠したりする構造の
ものにおいては,スイッチの無意識的な誤操作によりロックが解除されるという事態が起こり
得ることは,技術常識というべきであり,その対策が,当該技術における当然の技術課題とな
ることは明らかである。
また,刊行物3には「このような従来例にあつては,トラツク(A)が運転状態のときに,
送信器(1)が動作状態になつていると,送信器(1)から発せられる解錠コード信号が常に受信
部(2)にて受信され,ドア(7)の電気錠(5)が解錠されたままトラツク(A)が運転されること
になり,走行中の安全性に問題があった(記載事項(3b))との記載があり,送信器(1)か。」)
ら発せられる解錠コード信号によりドアの解錠を行うものにおいて,運転者が意図しないとき
に,送信器(1)が動作状態になつて,ロックが解除された状態となることが起こり得るという
技術常識を前提に,この課題をどのように解決するかを問題としていることが認められる。
なお,請求人は,刊行物3の送信器にはスイッチが無い旨主張するが(意見書9頁18∼
31行,刊行物3には「送信器(1)が動作状態になつていると」との記載があり,送信器)
(1)は,動作状態と非動作状態の切り換え可能なものといえる。
上記技術常識を勘案すると,刊行物1記載の発明において,イグニッションキーを携帯す
る使用者がその操作ボタンを誤操作して,解錠のための起因となるべき信号が発信されるとい
う不具合が存在し,スイッチの無意識的な誤操作によりロックが解除されるという事態が起こ
り得ることは,技術常識というべきであり,その対策が,当該技術における当然の技術課題と
なることは明らかである。
一方,刊行物2記載の発明は,携帯機のスイッチからの送信によって施錠したり解錠した
りする構造のものにおいては,携帯機のスイッチの無意識的な誤操作によりロックが解除され
た状態となることが起こり得るという技術常識を前提にしており,そのための対策として,携
帯機と機械式キーを携帯した運転者が,イグニッションキーをキーシリンダに挿入することで,
ドアロック等の車体所定部位の錠の施錠・解錠を,意識的に禁止する技術を示しているもので
あり,運転者が意図しないときに,スイッチの無意識的な誤操作によりロックが解除された状
態となることが起こるとの課題に対する解決策を提供するものである。
そうすると,刊行物1記載の発明と刊行物2記載の発明とは,いずれも,車両のドアロッ
クの施錠・解錠を,無線を利用して行うというものであって,技術分野を共通にしており,ま
た,スイッチの誤操作による解錠を防ぐという技術課題も共通しているから,刊行物1記載の
発明において,キーシリンダに挿入されたキーの一端のつまみ部を操作する時,送信スイッチ
を誤って押してしまうとの技術課題を解決するために,刊行物2記載の発明を適用し,つまみ
部を操作する時に送信スイッチを押して送信機がコード信号を送信しても,受信機による無線
式ドアロック制御装置の作動を禁止するように構成することは当業者が容易に想到しうること
である。
なお,請求人は,意見書において「訂正により明確になった本件発明は,キープレートを,
キーシリンダに挿入された状態でつまみ部を操作したときに,つまみ部に設けられた送信スイ
ッチを誤って押しても送信機を作動させないようにしたものである」旨主張するが,訂正発。
明1は,送信スイッチを誤って押しても受信機による無線式ドアロック制御装置の作動を禁止
するものであって,送信機を作動させないようにしたものではない。
そして,訂正発明1の作用効果である,つまみ部を操作する時送信スイッチを押して送信
機がコード信号を送信しても,受信機による無線式ドアロック制御装置の作動を禁止すること
ができるとの効果は,刊行物1及び2記載の発明から予測することができるものである。
したがって,訂正発明1は,刊行物1,2に記載された発明及び周知の技術に基いて当業
者が容易に発明をすることができたものである。
(2)訂正発明2について
訂正発明2は,訂正発明1において「禁止手段」が「受信機の作動を禁止する」ものに限,
定した発明であり,本件訂正明細書には「受信機の作動を禁止する」手段として「キースイ,,
ッチと電源スイッチを連動させて,キープレートを検出すると,受信機の電源をカットする」
(訂正明細書6頁7∼9行)と記載されている。
刊行物2には,上記(1)で述べたとおり,イグニッションキーをキーシリンダに挿入す
ると,受信機による無線式ドアロック制御装置の作動を禁止する技術が記載されている。
刊行物2には,無線式ドアロック制御装置の作動を禁止する具体的な手段としては,キー
が挿入されている(抜き出されていない)状態を検出するとメインルーチンをリターンするこ
とが記載されているだけであるが(記載事項(2q),受信機による無線式ドアロック制御装置)
の作動を禁止する手段として,受信機の電源をカットすることは当業者が適宜なしうることで
ある。
したがって,訂正発明2は,刊行物1,2に記載された発明及び周知の技術に基いて当業
者が容易に発明をすることができたものである。
3.独立特許要件についての判断のむすび
以上のとおり,訂正発明1及び2は,刊行物1,2に記載された発明及び周知の技術に基
いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定に
違反し,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
第4むすび
以上のとおり,本件審判の請求は,平成6年改正前特許法第126条第1項ただし書各号
のいずれにも該当しないか,あるいは同条第2項の規定に適合しない。
また,本件訂正発明1及び2は,特許出願の際独立して特許を受けることができないもの
であるから,本件審判の請求は,同法第126条第3項の規定に適合しない」。
第3原告主張の審決取消事由
審決には,次に述べるとおり誤りがあるから,違法として取り消されるべきであ
る。
1取消事由1(訂正事項3の判断の誤り)
(1)訂正の目的に関する判断の誤り
ア訂正事項3は「キープレートがキーシリンダに挿入されているとき」とな,
るには「キープレートをキーシリンダに挿入する操作」がその前提となり,この,
操作は,送信スイッチが設けられたつまみ部を用いて行われる旨を明確にしたもの
である。この点は,訂正前明細書(甲6)に「このつまみ部は,本来キープレート
を操作するための部材であるため(3欄13行∼14行)とあり,また「キー,」,
20は金属製のキープレート21と,樹脂製のつまみ部22とから成り,このつま
み部22には送信スイッチ5が設けられ,さらに内部には電池と送信機1の回路と
が内蔵されている(4欄45行∼48行)とあることから明確である。。」
そもそも「キープレートがキーシリンダに挿入されているとき」は「キープ,,
レートをキーシリンダに挿入する操作」に起因してなされることが,本件発明の大
前提であり,この点は,訂正前明細書(甲6)の「本発明は,上記の構成および作
動により,キープレートをキーシリンダに挿入して操作する時に誤って送信指令ス
イッチを押してしまっても,無線式ドアロック制御装置が作動することはない」。
(4欄7行∼10行)とあることから明らかである。
イ本件審決では,上記のような「キープレートをキーシリンダに挿入するつ,
まみ部の操作」に起因して「キープレートがキーシリンダに挿入されているとき」
となるという,技術的に極めて明確な一まとまりの内容をあえて,
①「キーシリンダ内にキーが挿入されている」状態のとき
②「つまみ部が操作されてキーシリンダ内にキーが挿入される」動作が行わ
れたとき
③「つまみ部が操作された」動作の結果「キーシリンダ内にキーが挿入され
ている」状態になったとき
の3通りに分けて,それをもって不明瞭となるとしている。
しかし,まず,①「キーシリンダ内にキーが挿入されている状態のとき」である
が,これは「キープレートをキーシリンダに挿入するつまみ部の操作に起因して,
キープレートがキーシリンダに挿入されているとき」に,当然含まれる。次に,②
「つまみ部が操作されてキーシリンダ内にキーが挿入される動作が行われたとき」
は,その動作に起因してキープレートがキーシリンダに挿入されているので,もち
ろん「キープレートをキーシリンダに挿入するつまみ部の操作に起因してキープレ
ートがキーシリンダに挿入されているとき」に含まれる。最後の,③「つまみ部が
操作された動作の結果キーシリンダ内にキーが挿入されている状態になったとき」
も,言葉どおり「キープレートをキーシリンダに挿入するつまみ部の操作に起因,
してキープレートがキーシリンダに挿入されているとき」に含まれる。
このように,本来一まとまりである「つまみ部の操作に起因してキープレートが
キーシリンダに挿入されているとき」という状態は,その中に当然複数の事象を含
むものである。
ここで,訂正前明細書(甲6)の「本発明は,上記の構成および作動により,キ
ープレートをキーシリンダに挿入して操作する時に誤って送信指令スイッチを押し
てしまっても,無線式ドアロック制御装置が作動することはない(4欄7行∼。」
10行)との記載は,上記の事象のうち,①と②の状態を挙げているが,訂正前に
おいても③の状態が含まれることは,訂正前明細書(甲6)の「およびキーシリン
ダにキープレートが挿入されたことを検出するキースイッチ4から構成されてい
る(4欄20行∼22行)の開示で,使用者の動作を記載していないことから。」
も明らかである。
(2)特許請求の範囲の実質的な変更に関する判断の誤り
本件審決は,本件訂正により「検出手段」の内容は,本件訂正前の「キーシリン
ダ内にキーが挿入されているとき」に検出信号を発生するものから「送信スイッ,
チが設けられたつまみ部が操作され」かつ「キーシリンダ内にキーが挿入されてい
るとき」に検出信号を発生するものに変更されることになるから,特許請求の範囲
を実質的に変更するものであるとする。
この論理は,訂正前:キーシリンダ内にキーが挿入されているとき」に検出信「
号を発生するものは,
A.「送信スイッチが設けられたつまみ部が操作され」かつ「キーシリンダ内
にキーが挿入されているとき」に検出信号を発生するもの
B.「送信スイッチが設けられたつまみ部が操作され」ることがなく「キー,
シリンダ内にキーが挿入されているとき」に検出信号を発生するもの
の2通りがあり,本件訂正により,A.及びB.であったものがA.に変更となったとし
ているのである。
しかし,自動車のドアロック制御装置に接した当業者にとって,
B.「送信スイッチが設けられたつまみ部が操作され」ることがなく「キー,
シリンダ内にキーが挿入されているとき」に検出信号を発生するもの
の存在はありえない構成である。すなわち,訂正前明細書(甲6)に「このつまみ
部は,本来キープレートを操作する為の部材であるため」の開示があるように,,
このつまみ部の操作を無くしてキープレートがキーシリンダに挿入されているとき
となることは,技術的にはありえない。
したがって,本件訂正前の「キーシリンダ内にキーが挿入されているときに検出
信号を発生するもの」と,本件訂正後の「送信スイッチが設けられたつまみ部が操
作されかつキーシリンダ内にキーが挿入されているときに検出信号を発生するも
の」とは,技術的には同じ内容であり,決して技術内容を変更するものではなく,
これを,特許請求の範囲の実質的な変更であるとした審決の認定は誤りである。
2取消事由2(訂正事項7の判断の誤り)
本件審決は,訂正事項7を訂正事項3と同様の理由により,特許請求の範囲の減
縮,明りょうでない記載の釈明,又は誤記の訂正を目的とするものでないと判断し
ている。しかしながら,訂正事項3に関する審決の判断が誤ったものであることは
上述のとおりである。したがって,訂正事項3で説明したのと同様の理由により,
この訂正事項7の判断も誤りである。
3取消事由3(刊行物2発明の認定の誤り)
本件審決は,刊行物2発明を,
「タイマスイッチ18(操作子)を有し,電源が内蔵されていて,前記タイマスイ
ッチ18が操作されると予め定められた固有コード信号を送信する携帯機30と,
自動車に搭載され,車載バッテリから電源を供給されて,前記携帯機30から送信
される固有コード信号を受信して,ドアロックアクチュエータ等を制御する車載受
信機40とを備える車両用無線式解錠制御装置において,
イグニッションキーがキーシリンダに挿入されていることを検出すると,前記タイ
マスイッチ18を押して前記携帯機30が固有コード信号を送信しても,前記車載
受信機40による前記車両用無線式解錠制御装置の作動を禁止する禁止手段を備え
る車両用無線式解錠制御装置」。
と認定している。
しかし,刊行物2発明において,携帯機30,車載受信機40,及び禁止手段が
一まとまりの技術思想としてこの認定どおりに開示されているものではない。すな
わち,刊行物2発明では,ドアの解錠,施錠をするのに,ドアに設けられたスイッ
チ63を操作する場合と,携帯機30に設けられたタイマスイッチ18を操作する
場合があり,いずれの場合もイグニッションキーが挿入中であれば車載機40は動
作しなくなっている。そして,車載機40がイグニッションキー挿入中に動作しな
いのは,運転者が乗車中でドアの解錠,施錠の必要がないからである。
しかるに,刊行物2発明の認定に際して,イグニッションキーが挿入中であるか
否かをどのように認定するかについては,本件審決のように,携帯機30のタイマ
スイッチが操作されたときのみを切り出して認定するのではなく,ドアに設けられ
たスイッチ63を操作する場合も,携帯機30に設けられたタイマスイッチ18を
操作する場合も,いずれの場合であってもイグニッションキーが挿入中は車載機4
0の施解錠処理を行わないこと,そして,それが運転者乗車中で処理が必要とされ
ないからであることを正しく認識すべきである。
4取消事由4(刊行物2発明と本件訂正発明1との対比の誤り)
本件審決は,刊行物2発明の「イグニッションキーがキーシリンダに挿入されて
いることを検出するキースイッチ59」が,本件訂正発明1の「つまみ部が操作さ
れてキープレートがキーシリンダに挿入されているとき所定の検出信号を発生する
検出手段」に相当するとするが,ここで,本件審決は,刊行物2発明のイグニッシ
ョンキーに「送信スイッチが設けられたつまみ部」が存在していないことを殊更看
過している。
また,本件審決は,刊行物2発明の「このキースイッチが,イグニッションキー
がキーシリンダに挿入されていることを検出すると,タイマスイッチを押して携帯
機が固有コード信号を送信しても,車載受信機による車両用無線式解錠制御装置の
作動を禁止する禁止手段」が,本件訂正発明1の「この検出手段が検出信号を発生
すると,送信スイッチを押して送信機が電池を電源としてコード信号を送信しても,
車載バッテリを電源とする受信機による無線式ドアロック制御装置の作動を禁止す
る禁止手段」に相当するとするが,この対比においても,本件審決は,本件訂正発
明1の「前記キーシリンダに挿入された前記キープレートの一端の前記つまみ部を
操作する時」を意識的に看過している。,
5取消事由5(刊行物2(甲2)の開示事項の認定の誤り)
本件審決は,刊行物2(甲2)の記載のうち,携帯機30のタイマスイッチが操
作されたときのみを切り出して対比している。しかし,刊行物2(甲2)の車両用
無線式解錠制御装置の作動を禁止する禁止手段は,ドアに設けられたスイッチ63
を操作する場合も携帯機30に設けられたタイマスイッチ18を操作する場合も,
いずれの場合であってもイグニッションキーが挿入中は車載機40の施解錠処理を
行わないのであって,それは運転者乗車中のため,施解錠の必要がないからである。
そうすると,刊行物2(甲2)は,運転者が意識しないときにスイッチの無意識的
な誤操作によりロックが解除された状態となることが起こるとの課題に対する解決
策を提供するものであるとする本件審決の判断は,誤っている。また,被告は,刊
行物2発明は,つまみ部に送信スイッチを有しておらずつまみ部の送信スイッチの
誤操作防止のためのものではないことを認めながら,刊行物2(甲2)と本件訂正
発明1との対比においては,刊行物2発明を,無意識なスイッチの誤操作を防止す
るためのものとしており,矛盾している。
6取消事由6(本件訂正発明1の容易想到性の判断の誤り−刊行物1発明と刊
行物2発明との組合せについて)
(1)本件訂正発明1の作用効果について
本件訂正発明1の作用効果は,単なるスイッチの誤操作防止ではなく,本件明細
書(甲6,10)に「キープレートをキーシリンダに挿入して操作する時に誤っ,
て送信指令スイッチを押してしまっても,無線式ドアロック制御装置が作動するこ
とはない。これにより,望まないのにドアロックが作動するという操作者の不快感
をなくし,このような誤操作を無くすことで,消費電力をも軽減できる(甲6の」
4欄7行∼13行)とあるように,送信機のスイッチを押してドアロックアクチュ
エータを解錠・施錠する動作と,キープレートをキーシリンダに挿入して各種機器
を作動させる動作という本来全く関係がなかった動作が,送信機及び送信スイッチ
をキープレートのつまみ部に設けた結果,使用者の意図に反してつながってしまう
という点に着目したものである。
しかるに,刊行物2(甲2)には,このような本件訂正発明1の構成が記載され
ていない。すなわち,刊行物2(甲2)には,本件訂正発明1の「送信スイッチが
設けられた前記つまみ部が操作されて前記キープレートが前記キーシリンダに挿入
されているとき所定の検出信号を発生する検出手段」のうち「送信スイッチが設,
けられた」の要件が記載されていない。また,同様に,刊行物2(甲2)には,本
件訂正発明1の「この検出手段が前記検出信号を発生すると,前記キーシリンダに
挿入された前記キープレートの一端の前記つまみ部を操作する時,前記送信スイッ
チを押して前記送信機が前記電池を電源として前記コード信号を送信しても,前記
車載バッテリを電源とする前記受信機による前記無線式ドアロック制御装置の作動
を禁止する禁止手段」のうち「前記キーシリンダに挿入された前記キープレート,
の一端のつまみ部を操作する時」の要件も記載されていない。,
これらの要件は,上記の本件訂正発明1の作用効果に照らして,その構成上重要
な要素であるから,刊行物2(甲2)との対比において看過することは許されない。
そうすると,本件訂正発明1の重要な構成が刊行物2(甲2)に開示されていない
のであるから,本件訂正発明1の「検出手段」及び「禁止手段」から重要な判断要
素を取り除いて刊行物2(甲2)と対比を行い,その上で,本件訂正発明1の効果
も刊行物1発明及び刊行物2発明から予測できたとする本件審決の判断は,誤りで
ある。
(2)刊行物3(甲3)について
ア本件審決は,無線式ドアロック制御装置で,運転者の意図しない解錠を防止
する手段が刊行物3(甲3)に開示されているとするが,これは,技術課題を極め
て広く解釈した結果である。このように広く解釈すれば,もはや送信機がスイッチ
を有するか否かまでもが,刊行物1(甲1)と刊行物2(甲2)との組合せを判断
する上で重要でなくなってくるが,前記の本件訂正発明1の作用効果に照らし,本
件訂正発明1においては,どこにスイッチが設けられているのか,どの操作でスイ
ッチが押されるのかが極めて重要である。
しかるに,刊行物3発明の送信器(1)は,第1図から明らかなように,特別なス
イッチを持たず,適宜解錠コードを送信するようになっている。そのため,運転者
Mが荷台に接近するのみでドアを解錠できるのであり,また,運転者Mがトラックか
ら離れれば自動的に施錠されるものである。そうすると,イグニッションキーのつ
まみ部を操作する際,送信スイッチを誤って押してしまっても,ロックアクチュエ
ータを駆動させないとする本件訂正発明1の容易想到性を判断するに当たっては,
スイッチすら持たない刊行物3(甲3)では組合せの動機付けは全く得られない。
イまた,本件審決は,刊行物3(甲3)にスイッチが設けられていることを前
提に判断するが(16頁6行∼9行,明らかな誤りである。)
すなわち,本件審決は,刊行物3(甲3)1頁右欄17行∼18行に「送信器
(1)が動作状態となっていると」との記載があることをもって,スイッチの存在,
を推定しているが,この記載はスイッチの存在を示しているわけではない。例えば,
電池切れで送信器(1)が動作不能となっているのではなく,正常に動作しているこ
とを表したと理解するのが妥当である。運転者Mがいちいちスイッチを操作してい
たのでは,荷台に接近するとドアを解錠し,運転者Mが荷台から離れれば自動的に
施錠したりすることはできない。したがって,当業者の理解では,刊行物3(甲
3)の送信器(1)はスイッチを備えないものと判断するのが通常である。
7取消事由7(本件訂正発明1の作用効果の判断の誤り)
刊行物1(甲1)において説明されているのは,送信機にイグニッションキーを
一体的に装着することの効果であり,一体的に装着することによる問題については
全く言及されていない。また,刊行物2発明は,機械式キーとは別に携帯機を持つ
ことが発明の前提であり,しかも,イグニッションキーが抜き取られているか否か
は運転者が乗車中か否かを判断するものであって,イグニッションキーを操作して
いる状態でのイグニッションキーの位置を検出しようとしたものではない。
そうすると,刊行物1においても,刊行物2においても,共に,本件訂正発明1
の,キープレートをキーシリンダに挿入して操作する時に誤って送信指令スイッチ
を押してしまっても,無線式ドアロック制御装置が作動することはない,という作
用効果は全く開示されていない。したがって,本件訂正発明1の作用効果を両発明
から予測することができたとする審決の判断は誤りである。
8取消事由8(本件訂正発明2の進歩性の判断の誤り)
本件訂正発明1に従属する本件訂正発明2においても,本件訂正発明1と同様に,
当然に特許性を有するものであり,これを当業者が容易に発明をすることができた
とする本件審決の判断は誤りである。
第4被告の反論
1取消事由1(訂正事項3の判断の誤り)に対し
(1)訂正の目的に関する判断の誤りの主張に対し
ア原告の主張は,訂正事項3の訂正の目的が,特許請求の範囲の減縮であると
するのか,明りょうでない記載の釈明であるとするのか明確でないが,次に示すと
おり,訂正事項3の訂正の目的は,特許請求の範囲の減縮であるとも,明りょうで
ない記載の釈明であるともいえない。
イ訂正事項3が,特許請求の範囲の減縮を目的するものとはいえないことにつ
いて
本件訂正前の請求項1に記載の「キープレートがキーシリンダに挿入されている
とき」となるには,「キープレートをキーシリンダに挿入する操作」が行われること
が必要であるから,訂正前明細書(甲6)の記載事項によれば,キープレートがキ
ーシリンダに挿入する操作と,所定の検出信号の発生との間には,次のような関係
があるといえる。
第1状態:操作者が,つまみ部を操作して(持って,キープレートをキーシ)
リンダに挿入中の状態。
キープレートがキーシリンダに完全に挿入されるまでは,検出信号
は発生しない。
第2状態:操作者が,つまみ部を操作して(持って)キープレートをキーシリ
ンダに完全に挿入した状態。
キースイッチ4が作動し,検出信号が発生する。
第3状態:キープレートをキーシリンダに挿入した状態で,操作者が,送信ス
イッチが設けられたつまみ部を操作(回動)する状態。
検出信号が発生している。
第4状態:操作者が,キーシリンダに挿入されているキープレートのつまみ部
から手を離した状態。
検出信号が発生している。
この点,本件訂正前の請求項1に記載の「キープレートがキーシリンダに挿入さ
れているとき所定の検出信号を発生する」とは,上記の第2状態ないし第4状態で
所定の検出信号を発生することを意味していることは明らかである。
訂正事項3は,本件訂正前の請求項1の「キープレートがキーシリンダに挿入さ
れているとき」に「前記送信スイッチが設けられた前記つまみ部が操作されて」,
を付加したものであるが,原告が主張するように,単に前提(第1状態)を付加し
たものであるとすると,訂正事項3によっても「キープレートがキーシリンダに挿
入されているとき」の技術的範囲は何ら限定されないから,訂正事項3は,特許請
求の範囲の減縮を目的とする訂正には当たらない。
ウ訂正事項3が,明りょうでない記載の釈明を目的したものとはいえないこと
について
上記のとおり,本件訂正前の請求項1に記載の「キープレートがキーシリンダに
挿入されているとき」の意味内容は明りょうであるから,訂正事項3は「明りょう
でない記載の釈明」を目的とする訂正にも当たらない。
むしろ,訂正事項3により,本件訂正後の請求項1に記載の「前記送信スイッチ
が設けられた前記つまみ部が操作されて前記キープレートが前記キーシリンダに挿
入されているとき」については,次のような解釈が可能となる。
①「キーシリンダ内にキーが完全に挿入されている」状態のとき,すなわち上記の第
2状態ないし第4状態であるとき。
②「つまみ部が操作され(つまみ部を持ち,かつ,キーシリンダ内にキーを挿)」
入中の状態,及び,キーシリンダ内にキーが完全に挿入された状態,すなわち,上
記の第1状態ないし第3状態のとき(つまみ部が操作されていない第4状態を除く
状態。)
③「つまみ部が操作された」ことを検知し,その後「キーシリンダ内にキーが挿入さ
れている」状態になったとき,すなわち,第2状態ないし第4状態であるが,上記
の第1状態から第2状態になったことを検知している。
したがって,本件審決が,訂正事項3により,請求項1に係る発明の内容はむし
ろ不明りょうになっているとしたことに誤りはない。
(2)特許請求の範囲の実質的な変更に関する判断の誤りの主張に対し
上記(1)イのとおり,訂正事項3は「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂,
正に当たらないとした審決に誤りはないが,仮に「検出信号を発生する」条件と,
して,訂正前の請求項1に係る発明の「キープレートがキーシリンダに挿入されて
いる」に「送信スイッチが設けられたつまみ部が操作されて」を付加するもの,,
すなわち上記解釈②の状態であるとすると,訂正事項3により「検出手段」の内容
は,訂正前の「キーシリンダ内にキーが挿入されているとき(状態」に検出信号)
を発生するものから「送信スイッチが設けられたつまみ部が操作され」かつ「キ,
ーシリンダ内にキーが挿入されているとき(挿入動作中,すなわち前記第1状)」
態においても検出信号を発生するものに変更されることになる。
したがって,本件審決が,このような場合,訂正事項3は特許請求の範囲を実質
的に変更するものであるとしたことに誤りはない。
2取消事由2(訂正事項7の判断の誤り)に対し
上記1で述べたとおり,本件審決における訂正事項3の判断に誤りはなく,訂正
事項7は,訂正事項3と同様の訂正内容であるから,訂正事項7も訂正事項3と同
様の理由により不適法であるとした本件審決の判断に誤りはない。
3取消事由3(刊行物2発明の認定の誤り)に対し
原告は,本件審決が,刊行物2発明の認定に当たり,携帯機30のタイマスイッ
チが操作されたときのみを切り出して認定していると主張するが,原告の主張は,
刊行物2発明(刊行物2の特許請求の範囲の第1項に記載された発明)を正しく解
釈していない。すなわち,同発明は,携帯機の操作子を操作して固有コードを送信
するものであり,ドアに設けられたスイッチ63を操作して送信リクエスト信号を
送信することを必要とするものではない。もっとも,実施例には「起動スイッチ,
による通常の施解錠も併用できる」ことが記載され,ドアスイッチ57やトラン。
クスイッチ61等のいずれかが操作されると,割込処理がなされることが第6図以
下に示されているが,これは,一実施例にすぎない。
したがって,本件審決の刊行物2発明の認定に誤りはない。
4取消事由4(刊行物2発明と本件訂正発明1との対比の誤り)に対し
原告は,本件審決は,本件訂正発明1の「前記キーシリンダに挿入された前記キ
ープレートの一端の前記つまみ部を操作する時,」を意識的に看過していると主張
するが,刊行物2発明のキーは,本件訂正発明1のキーと同様に,キープレートの
一端のつまみ部を持ってキーシリンダに挿入されるものであることは明らかである。
そして,刊行物2(甲2)には「キースイッチ59は,イグニッションキーシリ,
ンダ内にキーが挿入された状態でONとなり,キーを抜き取った状態でOFFとな
るスイッチである(4頁左上欄8行∼11行)と記載されている。。」
そうすると,刊行物2発明においても「イグニッションキーがキーシリンダに,
挿入される」ためには,キーの一端のつまみ部をもってキーを挿入することが前提
になっており,キーを挿入した状態でつまみ部を回動操作したときにもキースイッ
チ59が,キーがキーシリンダに挿入されている状態であることを検出しているこ
とは明らかであるから,キーの操作とキースイッチ59の作動との間には次の関係
があるといえる。
第1状態:操作者が,キーをキーシリンダに挿入中の状態。
キースイッチ59は作動しない。
第2状態:操作者が,キーをキーシリンダに完全に挿入した状態。
キースイッチ59が作動する。
第3状態:キーがキーシリンダに完全に挿入された状態で,操作者が,つまみ
部を操作(回動)した状態。
キースイッチ59が作動している。
第4状態:操作者が,キーシリンダに挿入されているキーから手を離した状態。
キースイッチ59が作動している。
そうすると,刊行物2発明の「イグニッションキー」の操作と「キースイッチ」
の作動との関係は,本件訂正発明1の「キー」と検出手段との関係と同様のものと
いえる。
したがって,本件審決は,刊行物2発明の「イグニッションキーがキーシリンダ
に挿入されていることを検出するキースイッチ59」が,本件訂正発明1の「つま
み部が操作されてキープレートがキーシリンダに挿入されているとき所定の検出信
号を発生する検出手段」に相当し,同じく「このキースイッチが,イグニッション
キーがキーシリンダに挿入されていることを検出すると,タイマスイッチを押して
携帯機が固有コード信号を送信しても,車載受信機による車両用無線式解錠制御装
置の作動を禁止する禁止手段」が,本件訂正発明1の「この検出手段が検出信号を
発生すると,送信スイッチを押して送信機が電池を電源としてコード信号を送信し
ても,車載バッテリを電源とする受信機による無線式ドアロック制御装置の作動を
禁止する禁止手段」に相当すると一致点を認定したものであり(15頁10行∼1
9行,本件訂正発明1の「前記キーシリンダに挿入された前記キープレートの一)
端の前記つまみ部を操作する時,」を意識的に看過したものではない。
また,本件審決では「刊行物2記載の発明は,イグニッションキーと携帯機が,
別体であるため,キーシリンダに挿入されたキーの一端のつまみ部を操作する時,
送信スイッチを押すおそれはない(15頁21行∼23行)として,刊行物2発」
明は,つまみ部に送信スイッチを有しておらず,つまみ部の送信スイッチを無意識
に誤操作を防止するためのものではない旨を述べているのであり,本件訂正発明1
と刊行物2発明との対比の際における原告主張のような意識的な看過はない。
5取消事由5(刊行物2(甲2)の開示事項の認定の誤り)に対し
原告は,刊行物2発明でイグニッションキーをキーシリンダに挿入することで,
錠の施錠,解錠を禁止するのは,運転者乗車中のため,施錠,解錠を行う必要がな
いからであり無意識なスイッチの誤操作を防止するためではない旨主張する。しか
し,施錠,解錠のためのスイッチが操作されなければ,施錠,解錠は行われないの
であるから,イグニッションキーをキーシリンダに挿入することで,錠の施錠,解
錠を禁止するのは,単に,運転者乗車中は,施錠,解錠を行う必要がないからでは
なく,走行中(イグニッションキーがキーシリンダ挿入されている)に,施錠,。
解錠を意図的に禁止するためといえる。
そして,刊行物3(甲3)記載の従来周知の技術課題を考慮すると,刊行物2発
明において,イグニッションキーをキーシリンダに挿入することで,錠の施錠,解
錠を禁止するのは,無意識なスイッチの誤操作を防止するためといえる。
したがって,刊行物2(甲2)は,運転者が意識しないときにスイッチの無意識
的な誤操作によりロックが解除された状態となることが起こるとの課題に対する解
決策を提供するものであるとする審決の判断に誤りはない。
6取消事由6(本件訂正発明1の容易想到性の判断の誤り−刊行物1発明と刊
行物2発明との組合せについて)に対し
(1)本件訂正発明1の作用効果の主張に対し
本件訂正発明1は,前記1(1)イで述べた「第2状態「第3状態」及び「第,」,
4状態」で,受信機による無線式ドアロック制御装置の作動を禁止するものであり,
「この検出手段が検出信号を発生すると,キーシリンダに挿入されたキープレート
一端のつまみ部を操作する時,送信スイッチを押して送信機が電池を電源としてコ
ード信号を送信しても,車載バッテリを電源とする受信機による無線式ドアロック
制御装置の作動を禁止する禁止手段」とは,前記「第3状態」で,受信機による無
線式ドアロック制御装置の作動を禁止することを述べたものであって,検出手段が
検出信号を発生している状態で,キーシリンダに挿入されたキープレート一端のつ
まみ部を操作する時(第3状態のとき)のみ,受信機による無線式ドアロック制御
装置の作動を禁止することを特定したものではない。
そして,刊行物2(甲2)には,「キープレートがキーシリンダに挿入されてい
るとき」について「キーシリンダに挿入されたキープレート一端のつまみ部を操作
する時」とは,記載されていないが,上記4で述べたとおり,刊行物2発明におい
ても,キーをキーシリンダに挿入する際,及び,キーを挿入後に操作(回動)する
際につまみ部を操作することは明らかであり,刊行物2発明は,本件訂正発明1と
同様に,キープレート一端のつまみ部を持ってキーをキーシリンダに挿入すると,
キースイッチ59が作動するものであり,キースイッチ59が作動すると,送信ス
イッチがどこに設けられているかにかかわらず,受信機による無線式ドアロック制
御装置の作動が禁止されるものである。
したがって,刊行物2発明は「つまみ部が操作されてキープレートがキーシリ,
ンダに挿入されているとき,送信スイッチを押して送信機がコード信号を送信して
も,受信機による無線式ドアロック制御装置の作動を禁止することができる」もの
である点において,本件訂正発明1と差異はない。
そして,本件審決では,刊行物2発明は,つまみ部に送信スイッチを有しておら
ず,つまみ部を操作するときに誤ってつまみ部の送信スイッチを押してしまうこと
を防止するためのものではないことを認めた上で,つまみ部に送信スイッチが設け
られたものにおいて,つまみ部を操作する時の誤動作について判断しており,本件
訂正発明1の「キーシリンダに挿入されたキープレート一端のつまみ部を操作する
時」の要件を看過した誤りはない。
(2)刊行物3(甲3)に関する主張に対し
ア原告は,刊行物3(甲3)の送信器(1)はスイッチを備えないものと判断す
るのが通常であり,刊行物3(甲3)では組合せの動機付けは全く得られないと主
張する。
しかし,本件審決において,刊行物3(甲3)は,組合せの動機付けに用いたも
のではなく,刊行物2発明(甲2)が「キースイッチ59が,イグニッションキ,
ーがキーシリンダに挿入されていることを検出すると車両用無線式解錠制御装置の
作動を禁止する」ことの技術的意義を説明するために,従来周知の技術課題を示し
たものである。
すなわち,刊行物3(甲3)の「トラック(A)が運転状態のときに,送信器,
(1)が動作状態になっていると,送信器(1)から発せられる解錠コード信号が常に受
信部(2)にて受信され,ドア(7)の電気錠(5)が解錠されたままトラック(A)が運
転されることになり,走行中の安全性に問題があった(1頁右欄17行∼2頁。」
左上欄2行)との記載において「トラック(A)が運転状態のときに,送信器,
(1)が動作状態になっていると」とは「トラック(A)が運転状態のとき,通常,
は送信器(1)が動作状態になっていないが,誤って送信器(1)が動作状態になってい
ると」の意味と解される。そうすると,刊行物3(甲3)の各記載によれば,刊行
物3記載の送信器(1)は,スイッチによって送信器(1)の動作状態にすることができ
るものであり,スイッチによって解錠したり施錠したりする構造の携帯送信機にお
いて,スイッチの無意識的な誤操作により送信器(1)の動作状態になり,ロックが
解除された状態となることが起こり得るという技術常識を前提に,この課題をどの
ように解決するかを問題としているといえる。そして,刊行物3(甲3)には,エ
ンジンキー(10)の位置を検出することにより,トラツク(A)が運転状態である
か否かを判別することが記載されている。
一方,刊行物2発明は,目的・作用は記載されていないものの,キースイッチ5
9が,イグニッションキーがキーシリンダに挿入されていることを検出すると,タ
イマスイッチ18を押して携帯機30が固有コード信号を送信しても,車載受信機
40による車両用無線式解錠制御装置の作動を禁止する禁止手段とを備えたもので
ある。そうすると,刊行物2発明で,キースイッチ59が,イグニッションキーが
キーシリンダに挿入されていることを検出すると車両用無線式解錠制御装置の作動
を禁止するとは,刊行物3(甲3)に示された技術課題を考慮するならば,スイッ
チによって送信器(1)を動作状態にし解錠コード信号を送信することによって解錠
したり施錠したりする構造の携帯送信機において,スイッチの無意識的な誤操作に
より送信器(1)が動作状態になり,ロックが解除された状態となることが起こり得
るという技術常識を前提に,この課題を,キースイッチ59が,イグニッションキ
ーがキーシリンダに挿入されていることを検出すると車両用無線式解錠制御装置の
作動を禁止することで解決しているといえる。
イ仮に,刊行物3記載の送信器(1)が原告の主張するようにスイッチを有して
おらず,接近するだけで解錠コードを送信し,ロックを解錠するものであるとして
も,刊行物3発明は,運転者が望まないのに,車両のドアが不本意に開いてしま
うという安全上好ましくない事態が生じるということを前提とする技術であり,車
両のドアが不本意に開いてしまうという安全上好ましくない事態が生じないように,
エンジンキーが運転時の位置にあるときを検出し,運転状態のときにドアロツクが
解錠されることを意図的に禁止する技術である。
そして,刊行物1発明は,イグニッションキーに操作ボタンが設けられているも
のであるから,携帯する使用者がその操作ボタンを誤操作して,解錠のための起因
となるべき信号が発信されるという不具合が存在し,スイッチの無意識的な誤操作
によりロックが解除されるという事態が起こり得ることは,本件審決が,周知例
(実願昭58−110621号(実開昭60−17863号)のマイクロフィルム
(甲4,実願昭58−112117号(実開昭60−19649号)のマイクロ)
フィルム(甲5)に示して説明したとおり技術常識というべきであり,その対策)
をとることが当然の技術課題となることは明らかであるから,本件審決では,刊行
物1発明において,上記当然の技術課題を解決するために,刊行物2発明を適用す
ることは当業者が容易になし得ることであると判断したものであり,本件審決のこ
のような判断に誤りはない。
7取消事由7(本件訂正発明1の作用効果の判断の誤り)に対し
原告は,刊行物2(甲2)は,イグニッションキーを操作している状態でのイグ
ニッションキーの位置を検出しようとしたものではないと主張する。しかし,刊行
物2発明において,キースイッチ59は,イグニッションキーが挿入されているこ
とを検出するもの,すなわち,イグニッションキーの位置を検出するものである。
そして,前記5,6で述べたとおり,刊行物2発明は,キースイッチ59が,イ
グニッションキーがキーシリンダに挿入されていることを検出すると車両用無線式
解錠制御装置の作動を禁止するものであり,イグニッションキーがキーシリンダに
挿入されていると,スイッチがどこに設けられていようと,スイッチが誤って操作
されても,車両用無線式解錠制御装置の作動が禁止されるものであるから,キープ
レートのつまみ部にスイッチが設けられている刊行物1発明において,刊行物2発
明を適用すれば,スイッチの無意識的な誤操作により,ロックが解除された状態と
なることが防止できることは,容易に予測することができる。
したがって「訂正発明1の作用効果である,つまみ部を操作する時送信スイッ,
チを押して送信機がコード信号を送信しても,受信機による無線式ドアロック制御
装置の作動を禁止することができるとの効果は,刊行物1及び2記載の発明から予
測することができるものである」とした本件審決の判断に誤りはない。。
8取消事由8(本件訂正発明2の進歩性の判断の誤り)に対し
上記3∼7のとおり,本件訂正発明1の進歩性についての審決の判断に誤りはな
いから,本件訂正発明1を引用する本件訂正発明2の進歩性についての判断にも誤
りはない。
第5当裁判所の判断
1取消事由1(訂正事項3の判断の誤り)について
(1)訂正前明細書(甲6)には,検出信号の発生に関し,次のア∼キの記載が
あり,また,その第3図には,次のクのとおり,キーシリンダ30の底部にキース
イッチ4を設けることが記載されている。
ア「このつまみ部は,本来キープレートを操作するための部材であるため,キ
ープレートをキーシリンダに挿入して操作する際に,誤って送信スイッチを押して
しまう(2頁3欄13行∼16行)。」
イ「検出手段は,キープレートがキーシリンダに挿入されていることを検出し
て検出信号を発生する(2頁3欄50行∼4欄1行)。」
ウ「本発明は,上記の構成および作動により,キープレートをキーシリンダに
挿入して操作する時に誤って送信指令スイッチを押してしまっても,無線式ドアロ
ック制御装置が作動することはない(2頁4欄7行∼10行)。」
エ「このシステムは…キーシリンダにキープレートが挿入されたことを検出す
るキースイッチ4から構成されている(2頁4欄18∼22行)。」
オ「第3図は,…キーシリンダ30には,キープレート21を検出するための
キースイッチ4が設けられている(2頁4欄43行∼3頁5欄1行)。」
カ「…キースイッチ4が閉じているか否かでキーシリンダのキーの有無を判別
し(3頁5欄6行∼7行),」
キ「また,検出手段と禁止手段とを送信機に設けてもよい。例えば,つまみ部
のキープレートが突出している端面にスイッチあるいは電極を設け,このスイッチ
あるいは電極がキーシリンダの入口面と当接すると,送信機の電源をカットするよ
うにしてもよく,キープレートに所定の信号を加えて,送信機の電源をカットする
ようにしてもよい(3頁6欄3行∼9行)。」
ク第3図
(2)以上を前提に検討する。
そもそも,本件訂正前の請求項1に記載の「キープレートが前記キーシリンダに
挿入されているとき」となるには,「キープレートをキーシリンダに挿入する操作」
が行われることが必要であることは明らかである。
そして,上記(1)を初めとする訂正前明細書(甲6)の記載を参照すると,キー
プレートをキーシリンダに挿入する操作と,所定の検出信号の発生との間には,次
のような関係があるといえる。
ア第1状態
操作者が,つまみ部を操作して(持って,キープレートをキーシリンダに挿入)
中の状態。この状態のときは,キープレートがキーシリンダに完全に挿入されるま
では,検出信号は発生しない。
イ第2状態
操作者が,つまみ部を操作して(持って)キープレートをキーシリンダに完全に
挿入した状態。この状態のときは,キースイッチ4が作動し,検出信号が発生する。
ウ第3状態
キープレートをキーシリンダに挿入した状態で,操作者が,送信スイッチが設け
られたつまみ部を操作(回動)する状態。この状態のときは,検出信号が発生して
いる。
エ第4状態
操作者が,キーシリンダに挿入されているキープレートのつまみ部から手を離し
た状態。この状態のときは,検出信号が発生している。
そして,本件訂正前の請求項1に記載の「キープレートが前記キーシリンダに挿
入されているとき所定の検出信号を発生する」とは,上記の第2状態ないし第4状
態で所定の検出信号を発生することを意味していることは明らかである。
したがって,本件訂正前の「キープレートが前記キーシリンダに挿入されている
とき」の意味内容は明りょうであるから,訂正事項3は「明りょうでない記載の釈
明」を目的とする訂正に当たらないというべきである。
(3)さらに,訂正事項3により,本件訂正後の請求項1に記載の「前記送信ス
イッチが設けられた前記つまみ部が操作されて前記キープレートが前記キーシリン
ダに挿入されているとき」については,少なくとも,次のア,イのような異なる解
釈がいずれも可能となる。
ア「前記送信スイッチが設けられた前記つまみ部が操作されて」が「前記キー
プレートが前記キーシリンダに挿入されているとき」に係ると解釈する場合。
この場合,キーシリンダ内にキーが完全に挿入されている状態は,キープレート
をキーシリンダに挿入する操作がその前提となり,この操作は,送信スイッチが設
けられたつまみ部を用いて行われる旨を明確にしたものと解釈できる。これは,
「キーシリンダ内にキーが完全に挿入されている」状態のとき,すなわち,本件訂正
前と同じ,上記の第2状態ないし第4状態である。
イ「つまみ部が操作され(つまみ部を持ち,かつ,キーシリンダ内にキー)」
を挿入中の状態,及び,キーシリンダ内にキーが完全に挿入された状態。すなわち,
つまみ部が操作されていない上記第4状態を除いた,上記の第1状態ないし第3状
態のとき。
そうすると,訂正事項3により,請求項1に係る発明の内容は不明りょうになっ
ているというべきであるから,このような訂正事項3が「特許請求の範囲の減,
縮」を目的とする訂正に当たるということはできない。
(4)また,訂正事項3が「誤記又は誤訳の訂正」を目的とする訂正に当たる,
といえないことは明らかである。したがって,訂正事項3は「特許請求の範囲の,
減縮「誤記又は誤訳の訂正「明りょうでない記載の釈明」のいずれを目的と」,」,
するものとも認めることはできない。
(5)なお,訂正事項3について,上記(3)イの解釈を採用したときは「検出信,
号を発生する」条件として,本件訂正前の請求項1に係る発明の「キープレートが
キーシリンダに挿入されている」に「送信スイッチが設けられたつまみ部が操作,
されて」の限定を付加するものとみることができるが,しかし他方,訂正事項3に
より「検出手段」の内容は,訂正前の「キーシリンダ内にキーが挿入されている,
とき(状態」に検出信号を発生するものから,それに加えて「送信スイッチが),
設けられたつまみ部が操作され」かつ「キーシリンダ内にキーが挿入されていると
き(挿入動作中,すなわち前記(2)アの第1状態においても検出信号を発生する)」
ものに変更されることになる。
したがって,上記のような解釈を採用した場合,訂正事項3は実質上特許請求の
範囲を変更するものというほかない。
(6)原告の主張について
ア原告は,訂正事項3は「キープレートがキーシリンダに挿入されていると,
き」となるには「キープレートをキーシリンダに挿入する操作」がその前提とな,
り,この操作は,送信スイッチが設けられたつまみ部を用いて行われる旨を明確に
したものである,この点は,訂正前明細書(甲6)の各記載から明確であると主張
する。
しかし,訂正前明細書(甲6)の記載を精査しても,訂正事項3について,原告
の上記解釈(上記(3)アの解釈)のほか,上記(3)イの解釈をとることが排除される
根拠となるに足りる記載は存在しないといわざるを得ず,原告の上記主張は採用す
ることができない。
イ原告は「キープレートがキーシリンダに挿入されているとき」は「キー,,
プレートをキーシリンダに挿入する操作」に起因してなされることが,本件発明の
大前提であり,この点は,訂正前明細書(甲6)の「本発明は,上記の構成および
作動により,キープレートをキーシリンダに挿入して操作する時に誤って送信指令
スイッチを押してしまっても,無線式ドアロック制御装置が作動することはな
い(4頁1行∼3行)とあることから明らかであると主張する。。」
しかし,訂正前明細書(甲6)から「キープレートがキーシリンダに挿入され,
ているとき」が「キープレートをキーシリンダに挿入する操作」に起因してなさ,
れることが分かるとしても,上記アと同様に,訂正事項3について,上記(3)アの
解釈のほか,上記(3)イの解釈をとることが排除されることになるとはいえず,原
告の上記主張は採用することができない。
ウ原告は,本件審決では「キープレートをキーシリンダに挿入するつまみ部,
の操作」に起因して「キープレートがキーシリンダに挿入されているとき」となる
という,技術的に極めて明確な一まとまりの内容をあえて3通りに分けて,それを
もって不明瞭となるとしているが,本来一まとまりである「つまみ部の操作に起因
してキープレートがキーシリンダに挿入されているとき」という状態は,その中に
当然複数の事象を含むものである,このことは,訂正前明細書(甲6)の「および
キーシリンダにキープレートが挿入されたことを検出するキースイッチ4から構成
されている(4欄20行∼22行)の開示で,使用者の動作を記載していない。」
ことからも明らかであると主張する。
しかし,本件訂正前の請求項1に記載の「キープレートが前記キーシリンダに挿
入されているとき所定の検出信号を発生する」の意味を検討する過程において,こ
れを時系列的にいくつかの段階に分けて分析する検討手法が一概に不合理というこ
とはできない。また,本件訂正前の請求項1に記載の「前記キープレートが前記キ
ーシリンダに挿入されているとき」においては,その文言の内容に照らし,つまみ
部を持ってキーシリンダ内にキーを挿入中の状態が含まれないことは明らかである。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
エ原告は,本件審決は「送信スイッチが設けられたつまみ部が操作され」る,
ことがなく「キーシリンダ内にキーが挿入されているとき」に検出信号を発生す,
るという技術的にあり得ない構成が訂正前には含まれていたことを前提に判断して
いる,と主張する。
しかし,前記(5)に説示したとおり,訂正事項3により「検出手段」の内容は,,
訂正前の「キーシリンダ内にキーが挿入されているとき(状態」に検出信号を発)
生するものから,それに加えて「送信スイッチが設けられたつまみ部が操作さ,
れ」かつ「キーシリンダ内にキーが挿入されているとき(挿入動作中,すなわ)」
ち前記(2)アの第1状態においても検出信号を発生するものに,実質的に変更され
ることになるものであって,本件審決も,これと同旨をいうものであるから,原告
の上記主張は,本件審決を正解しないものである。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
(7)よって,取消事由1は,理由がない。
2取消事由2(訂正事項7の判断の誤り)について
上記に説示したとおり,本件審決の訂正事項3の判断に誤りはないから,同判断
に誤りがあることを前提に,訂正事項7の判断にも誤りがあることを主張する原告
の主張に理由がないことは明らかである。
よって,取消事由2は,理由がない。
3取消事由3(刊行物2発明の認定の誤り)について
(1)刊行物2(甲2)の記載について検討する。
ア特許請求の範囲第1項には,所定の操作子の操作に応答して,固有コード信
号を繰り返し送信する携帯機と,携帯機からの固有コードを受信可能な車載受信機
と,コード照合手段と,解錠制御手段からなる車両用無線式解錠制御装置が記載さ
れている。この特許請求の範囲第1項の記載から,携帯機に操作子を設ける構成の
発明(刊行物2発明)が認定できる一方,車両側に設けた「起動スイッチ63」は,
特許請求の範囲第1項に記載がなく,同発明においては必ずしも必要とされない構
成であると認められる。
イ発明の詳細な説明の記載を見ると「発明の背景」として「…起動スイッ,,
チの操作の必要性を解消するとさらに便利性が向上する(2頁左下欄1行∼3。」
行「発明の目的」として「この発明は…起動スイッチを操作することなく…前),,
述した便利性の向上を実現することを目的とする(2頁左下欄11行∼15。」
行「発明の構成」として「第1図(A)は,第1の発明の構成を示すクレーム),,
対応図である。…携帯機100は,所定の操作子101を備え,この操作子101
の操作に応答して,以後固有コード信号を繰り返し無線送信する(2頁左下欄。」
17行∼右下欄1行「発明の効果」として「…本願の第1…の発明においては,),,
所定の操作子を操作した場合には,起動スイッチを操作することなく…(7頁右」
下欄15行∼17行)と記載されている。
これらの記載から,特許請求の範囲第1項に対応する「第1の発明」として,携
帯機に「タイマスイッチ(操作子」を備える構成の発明(刊行物2発明)が認定)
できる一方,車両側の「起動スイッチ」は,その操作の「必要性を解消すること」
が記載されており,同発明においては必ずしも必要とされない構成であると認めら
れる。
ウ刊行物2発明の実施例の記載について見ると,次のとおりである。
(ア)まず,携帯機の構成が第2図に,その処理内容が第4図のフローチャート
にそれぞれ記載されている。そして,第2図,第4図についての記載を見ると,携
帯機には,例えば押釦スイッチである「タイマスイッチ18」が設けられており,
タイマスイッチからのタイマ信号(第2図の信号e)が“H”レベルを保持してい
る間,すなわちタイマスイッチがON操作されてから,時定数回路19で定まる所
定時間が経過するまでの間,タイマ時間Tが経過するごとに,固有コードを1回送
信する処理が,繰り返されることが分かる。
(イ)一方「車載機」の構成が第3図に,その処理内容が第5図∼第8図のフ,
ローチャートにそれぞれ記載されている。車両側の処理内容としては,第5図に,
「メインルーチン」が記載され,第6図∼第8図に「割込処理」が記載されてい,
る。
①第5図の「メインルーチン」についての記載を見ると,イグニッションキー
が抜き取られる(ステップ500)と,以後,固有コードの受信待機状態となり,
固有コードが受信されると(ステップ502,505,固有コードが照合され)
(ステップ507,508,一致すれば「ドアロック」又は「トランクロック」)
の「解錠処理」が行われる(ステップ511,513)ことが分かり,イグニッシ
ョンキーが抜き取られたことを検出して固有コードの受信待機状態となることから,
イグニッションキーが挿入されている状態を検出して解錠を禁止すること,が分か
る。
②第6図∼第8図の「割込処理」についての記載を見ると「メインルーチ,
ン」が実行されている間に,車両側のスイッチが操作されると「メインルーチ,
ン」を中断され,第6図∼第8図の「割込処理」が行われること,起動スイッチ6
3がONされた場合の「割込処理」において,イグニッションキーが挿入中であれ
ば「運転者が乗車中」状態であるとして「施解錠処理」が行われないが,キー,,
が抜き取られていると,送信リクエスト信号を送信し(ステップ801,携帯機)
から返送される固有コード信号が受信されると(ステップ802,固有コードが)
照合され(ステップ803,804,一致すれば「ドアロック」の「施解錠処)
理」が行われる(ステップ806,807)こと,が分かる。
(2)以上の(1)ア∼ウによれば,第5図の「メインルーチン」と,第6図以下の
「割込処理」とは,異なるフローチャートとして記載されている上「メインルー,
チン」の処理内容は,携帯機のタイマスイッチ18が操作された場合の動作であっ
て,刊行物2の請求項1に記載された発明に対応するものである一方「割込処,
理」の処理内容は,メインルーチンの実行中に,車載機の「起動スイッチ63」等
が操作された場合の処理であって,起動スイッチによる通常の施解錠を「併用」す
るための動作である。
したがって,刊行物2の特許請求の範囲第1項の記載に基づき,これに対応する,
車載機の「メインルーチン」の動作に関する記載等,刊行物2における発明の詳細
な説明,各図面の記載を参照すれば,タイマスイッチ(操作子)を有する携帯機と,
固有コード信号を受信する車載受信機とを備え,イグニッションキーがキーシリン
ダに挿入されていることを検出すると車載受信機による車両用無線式解錠制御装置
の作動を禁止する「禁止手段」を備える一方,起動スイッチによる通常の施解錠を
併用するための「割込処理」の構成を備えない構成を,ひとまとまりの刊行物2発
明として認定できるというべきであるから,本件審決の刊行物2発明の認定を誤り
ということはできない。
(3)原告の主張について
ア原告は,刊行物2発明において,携帯機30,車載受信機40,及び禁止手
段が一まとまりの技術思想として本件審決の認定どおりに開示されているものでは
ない,刊行物2発明では,ドアの解錠,施錠をするのに,ドアに設けられたスイッ
チ63を操作する場合と,携帯機30に設けられたタイマスイッチ18を操作する
場合があり,いずれの場合もイグニッションキーが挿入中であれば車載機40は動
作しなくなっているのであり,車載機40がイグニッションキー挿入中に動作しな
いのは,運転者が乗車中でドアの解錠,施錠の必要がないからである,と主張する。
しかし,原告が指摘するような場合にイグニッションキーが挿入中であればいず
れも車載機40が動作しなくなっているとしても,上記(2)の説示に照らせば,タ
イマスイッチ(操作子)を有する携帯機と,固有コード信号を受信する車載受信機
とを備え,イグニッションキーがキーシリンダに挿入されていることを検出すると
車載受信機による車両用無線式解錠制御装置の作動を禁止する「禁止手段」を備え
る一方,起動スイッチによる通常の施解錠を併用するための「割込処理」の構成を
備えない構成を,ひとまとまりの刊行物2発明として認定できるというべきである。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
イ原告は,刊行物2発明の認定に際して,イグニッションキーが挿入中である
か否かをどのように認定するかについては,本件審決のように,携帯機30のタイ
マスイッチが操作されたときのみを切り出して認定するのではなく,ドアに設けら
れたスイッチ63を操作する場合も携帯機30に設けられたタイマスイッチ18を
操作する場合も,いずれの場合であってもイグニッションキーが挿入中は車載機4
0の施解錠処理を行わないこと,そして,それが運転者乗車中で処理が必要とされ
ないからであることを正しく認識すべきであると主張するが,前記(2)の説示に照
らして,採用することができない。
(4)よって,取消事由3は,理由がない。
4取消事由4(刊行物2発明と本件訂正発明1との対比の誤り)について
(1)原告は,本件審決は,刊行物2発明の「イグニッションキーがキーシリン
ダに挿入されていることを検出するキースイッチ59」が,本件訂正発明1の「つ
まみ部が操作されてキープレートがキーシリンダに挿入されているとき所定の検出
信号を発生する検出手段」に相当するとするが,ここで,本件審決は,刊行物2発
明のイグニッションキーに「送信スイッチが設けられたつまみ部」が存在していな
いことを殊更看過していると主張する。
確かに,本件審決は,刊行物2発明の「イグニッションキーがキーシリンダに挿
入されていることを検出するキースイッチ59」が,本件訂正発明1の「つまみ部
が操作されてキープレートがキーシリンダに挿入されているとき所定の検出信号を
発生する検出手段」に相当すると記載している。しかし,本件審決は,本件訂正発
明1と,主引例である刊行物1発明との相違点を「訂正発明1が「送信スイッ,,
チが設けられたつまみ部が操作されてキープレートがキーシリンダに挿入されてい
るとき所定の検出信号を発生する検出手段」と「この検出手段が検出信号を発生す
ると,キーシリンダに挿入されたキーの一端の前記つまみ部を操作する時,前記送
信スイッチを押して送信機が電池を電源として前記コード信号を送信しても,車載
バッテリを電源とする受信機による無線式ドアロック制御装置の作動を禁止する禁
止手段」とを備えるのに対して,刊行物1発明はこのような検出手段及び作用手段
を備えていない点」であるとしているように,検出手段の「送信スイッチが設け。
られたつまみ部」に関する要件と,禁止手段の「キーシリンダに挿入されたキーの
一端の前記つまみ部を操作する時」に関する要件を含めて,主引例との相違点とし
て認定しており,その上で,この相違点につき,刊行物2(甲2)が,つまみ部に
送信スイッチを有しておらず,つまみ部を操作する時の誤操作を防止するためのも
のでないことを認めた上で,上記相違点の判断として,刊行物1発明に刊行物2発
明を適用することは容易想到であると示している。そうすると,本件審決が,刊行
物2発明のイグニッションキーに「送信スイッチが設けられたつまみ部」が存在し
ていないことを看過したものということはできない。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
(2)原告は,本件審決は,刊行物2発明の「このキースイッチが,イグニッシ
ョンキーがキーシリンダに挿入されていることを検出すると,タイマスイッチを押
して携帯機が固有コード信号を送信しても,車載受信機による車両用無線式解錠制
御装置の作動を禁止する禁止手段」が,本件訂正発明1の「この検出手段が検出信
号を発生すると,送信スイッチを押して送信機が電池を電源としてコード信号を送
信しても,車載バッテリを電源とする受信機による無線式ドアロック制御装置の作
動を禁止する禁止手段」に相当するとするが,この対比においても,本件審決は,
本件訂正発明1の「前記キーシリンダに挿入された前記キープレートの一端の前記
つまみ部を操作する時」を意識的に看過している,と主張する。,
しかし,上記(1)の説示と同様の理由により,原告の上記主張は採用することが
できない。
(3)よって,取消事由4は,理由がない。
5取消事由5(刊行物2(甲2)の開示事項の認定の誤り)について
(1)原告は,刊行物2(甲2)がキー挿入で施解錠を禁止するのは,ドアのス
イッチ63操作時でも携帯機30のタイマスイッチ18操作でも共通で,運転者乗
車中のため施解錠が必要ないからであって,刊行物2(甲2)は,誤操作に対する
解決策を提供するとする審決の判断は誤りである旨主張する。
しかし,前記3(2)に説示したとおり,携帯機のタイマスイッチ18が操作され
た場合の動作である「メインルーチン」の処理内容は,刊行物2(甲2)の請求項
1に記載された発明に対応するものである一方,メインルーチンの実行中に,車載
機の「起動スイッチ63」等が操作された場合の処理である「割込処理」の処理内
容は,起動スイッチによる通常の施解錠を併用するための動作であって,第5図の
「メインルーチン」と,第6図以下の「割込処理」とは,異なるフローチャートと
して記載されているものである。また,第5図の「メインルーチン」に関しては,
タイマスイッチ18操作時の解錠を禁止する目的は明記されていない。
そうすると,たとえドアの起動スイッチ63操作に関して,解錠を禁止するのが
施解錠の必要がないからであるとしても,第5図の「メインルーチン」のフローチ
ャートに関してタイマスイッチ18の動作を禁止することが,直ちに同じ目的のた
めであるとは認められない。しかるに,一般に,露出して設けられているスイッチ
によって施解錠するものにおいては,スイッチの無意識的な誤操作によりロック解
除が起こり得ることは技術常識というべきであって,その対策が,当該技術におけ
る当然の技術課題となることは明らかであるから,これを考慮すると,刊行物2発
明において,タイマスイッチ18操作時にキー挿入を検出して解錠を禁止するのは,
無意識的な誤操作を防止する目的であると認めることができる。
以上によれば,原告の上記主張は,採用することができない。
(2)原告は,被告が,刊行物2発明は,つまみ部に送信スイッチを有しておら
ずつまみ部の送信スイッチの誤操作防止のためのものではないことを認めながら,
刊行物2(甲2)と本件訂正発明1との対比においては,刊行物2発明を,無意識
なスイッチの誤操作を防止するためのものとしており,矛盾していると主張する。
しかし,刊行物2(甲2)に記載のない「つまみ部のスイッチ」について,この
ような構成が存在しないことをもって,刊行物2(甲2)がそのような構成につい
ての誤操作防止を目的とするものではないとしたからといって,つまみ部にスイッ
チを備えない構成の刊行物2発明について,周知の技術課題に基づいて,誤操作防
止の課題を読み取ることができないということにはならないから,原告の上記主張
は,失当である。
(3)よって,取消事由5は,理由がない。
6取消事由6(本件訂正発明1の容易想到性の判断の誤り−刊行物1発明と刊
行物2発明との組合せについて)について
(1)原告は,本件審決が,刊行物1発明と刊行物2発明との組合せにつき,本
件訂正発明1の容易想到性の判断を誤ったと主張するが,次に検討するとおり,原
告の同主張は採用することができない。
アまず,甲4(実願昭58ー110621号(実開昭60ー17863号)の
マイクロフィルム,甲5(実願昭58ー112117号(実開昭60ー1964)
9号)のマイクロフィルム)の記載から,スイッチがキーのつまみ部等の位置に露
出して設けられている場合,意図しない接触等により,スイッチの誤操作が生じ得
ることは,次の(ア)∼(ウ)のように,一般の経験則からも首肯することができる自明
の技術事項というべきである。
(ア)すなわち,甲4(実願昭58ー110621号(実開昭60ー17863
号)のマイクロフィルム)には,次の記載がある。
「本考案は,キープレートの先端側を光で照らすことができる照明付キーに関し,
更に詳しくは,そのスイッチ操作機構の改良に関する。
例えば,夜間や暗い所で,施錠されている自動車のドアやイグニッション,…を
解錠しようとすると,キープレートを差し込むためのキー挿入孔が見つけ難く,手
さぐり状態でキー挿入孔にキープレートを差し込まなければならない(2頁7。」
∼15行)
「しかし,このような従来キーにおいては,点灯が押しボタン方式であり且つつ
まみ部の平面部分にこの押しボタンが位置するため,誤って押下して電球を点灯さ
せる場合が多く,電池の消耗を早めてしまうという問題があった。
本考案は,この点に鑑みてなされたもので,その目的は,誤操作のおそれの少な
い照明付キーを提供することにある(3頁5∼12行)。」
(イ)また,甲5(実願昭58ー112117号(実開昭60ー19649号)
のマイクロフィルム)にも,上記(ア)と同様の,次の記載がある。
「本考案は,キープレートの先端側を光で照らすことができる照明付キーに関し,
更に詳しくは,そのスイッチ操作機構の改良に関する。
例えば,夜間や暗い所で,施錠されている自動車のドアやイグニッション,…を
解錠しようとすると,キープレートを差し込むためのキー挿入孔が見つけ難く,手
さぐり状態でキー挿入孔にキープレートを差し込まなければならない(1頁1。」
4行∼2頁2行)
「しかし,このような従来キーにおいては,点灯時に使用する操作ボタンがつま
み部の平面部分(通常のキー使用に際し指で押される部分)に位置するため,キー
の使用が不便であると共に,誤って操作ボタンを押下して電球を点灯させる場合が
多く,電池の消耗を早めてしまうという問題があった。
本考案は,この点に鑑みてなされたもので,その目的は,キーの使用において不
便を感じさせず,しかも誤操作のおそれの少ない照明付キーを提供することにあ
る(2頁12行∼3頁2行)。」
(ウ)これらの甲4,甲5の記載から,自動車のイグニッションキーなどに用い
る照明付キーにおいて,操作ボタンが,通常のキー使用に際し指で押されるつまみ
部の平面部分に位置するため,誤って操作ボタンを押下する場合が多いことが問題
点として指摘されていると認めることができる。
イ上記アの技術常識を勘案すると,刊行物1(甲1)のような,送信機にイグ
ニッションキーを一体的に装着した構成のものにおいて,操作ボタンの誤操作によ
り,解錠が起こり得ることは技術常識であり,その対策は,当然の技術課題である
といえる。また,このような当然の技術課題を考慮すると,刊行物2(甲2)にお
いて,タイマスイッチ18操作時に,キー挿入を検出して解錠を禁止するのは,無
意識的な誤操作を防止するためであると認めることができる。
そうすると,刊行物1(甲1)における当然の技術課題である,操作ボタンの誤
操作の対処として,刊行物2(甲2)から読み取り可能な,キー挿入を検出して解
錠を禁止する手段を適用することは,当業者が容易に推考し得ることであり,刊行
物(甲1)の送信機とイグニッションキーとを一体化したものに,刊行物2(甲
2)のキー挿入を検出して解錠を禁止する手段を適用すれば「キー操作時に誤っ,
てスイッチを押しても作動しない」という作用効果が得られることは,予測可能な
効果にすぎないというべきである。
(2)原告の主張について
ア原告は,本件訂正発明1の作用効果は,単なるスイッチの誤操作防止ではな
く,送信機のスイッチを押してドアロックアクチュエータを解錠・施錠する動作と,
キープレートをキーシリンダに挿入して各種機器を作動させる動作という本来全く
関係がなかった動作が,送信機及び送信スイッチをキープレートのつまみ部に設け
た結果,使用者の意図に反してつながってしまうという点に着目したものである,
と主張する。
この点,確かに,本件明細書(甲10)には「つまみ部は,本来キープレート,
を操作するための部材であるため,キープレートをキーシリンダに挿入して操作す
。」〔〕,る際に,誤って送信スイッチを押してしまう(発明が解決しようとする課題
2頁11行∼13行「本発明は,上記の構成および作動により,キープレート),
をキーシリンダに挿入して操作する時に誤って送信指令スイッチを押してしまって
も,無線式ドアロック制御装置が作動することはない(発明の効果,4頁1。」〔〕
行∼3行)との記載がある。しかし,刊行物1(甲1)において,送信機及び送信
スイッチをキープレートのつまみ部に設けるという構成が開示されているところ,
上記(1)イに説示したとおり,刊行物1(甲1)のような構成のものにおいて,操
作ボタンの誤操作により,解錠が起こり得ることは技術常識であり,その対策は,
当然の技術課題であるといえるものである。そうすると,送信機及び送信スイッチ
をキープレートのつまみ部に設けるという構成において,原告が主張するような各
動作が使用者の意図に反してつながってしまい,解錠が起こり得るとしても,この
ことに何らかの技術的意義を見出して本件訂正発明1の進歩性を肯定することはで
きない。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
イ原告は,刊行物2(甲2)には,本件訂正発明1の「送信スイッチが設けら
れた前記つまみ部が操作されて前記キープレートが前記キーシリンダに挿入されて
いるとき所定の検出信号を発生する検出手段」のうち「送信スイッチが設けられ,
た」の要件が記載されていないし,同様に,刊行物2(甲2)には,本件訂正発明
1の「この検出手段が前記検出信号を発生すると,前記キーシリンダに挿入された
前記キープレートの一端の前記つまみ部を操作する時,前記送信スイッチを押して
前記送信機が前記電池を電源として前記コード信号を送信しても,前記車載バッテ
リを電源とする前記受信機による前記無線式ドアロック制御装置の作動を禁止する
禁止手段」のうち「前記キーシリンダに挿入された前記キープレートの一端のつ,
まみ部を操作する時」の要件が記載されていない,これらの要件は,上記の本件,
訂正発明1の作用効果に照らして,その構成上重要な要素であるから,刊行物2
(甲2)との対比において看過することは許されない,と主張する。
しかし,原告の上記主張は,前記4の説示に照らし,採用することができない。
ウ原告は,刊行物3発明の送信器(1)は,第1図から明らかなように,特別な
スイッチを持たず,適宜解錠コードを送信するようになっているから,運転者Mが
荷台に接近するのみでドアを解錠できるのであり,また,運転者Mがトラックから
離れれば自動的に施錠されるものである,そうすると,イグニッションキーのつま
み部を操作する際,送信スイッチを誤って押してしまっても,ロックアクチュエー
タを駆動させないとする本件訂正発明1の容易想到性を判断するに当たっては,ス
イッチすら持たない刊行物3(甲3)では組合せの動機付けは全く得られない,と
主張する。
しかし,刊行物3(甲3)の「トラック(A)が運転状態のときに,送信器,
(1)が動作状態になっていると,送信器(1)から発せられる解錠コード信号が常に受
信部(2)にて受信され,ドア(7)の電気錠(5)が解錠されたままトラック(A)が運
転されることになり,走行中の安全性に問題があった(1頁右欄17行∼2頁。」
左上欄2行)との記載において「トラック(A)が運転状態のときに,送信器,
(1)が動作状態になっていると」とは「トラック(A)が運転状態のとき,通常,
は送信器(1)が動作状態になっていないが,誤って送信器(1)が動作状態になってい
ると」の意味と解するのが自然であるから,刊行物3記載の送信器(1)は,スイッ
チによって送信器(1)の動作状態にすることができるものというべきである。そう
すると,刊行物3も,前記甲4,甲5と同様に,意図しない接触等により,スイッ
チの誤操作が生じ得ることが一般の経験則からも首肯することができる自明の技術
事項であることを示すものであり,刊行物2発明(甲2)が「キースイッチ59,
が,イグニッションキーがキーシリンダに挿入されていることを検出すると車両用
無線式解錠制御装置の作動を禁止する」ことの技術的意義を説明するものと位置付
けることができる。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
エ原告は,本件審決は,刊行物3(甲3)1頁右欄17行∼18行に「送信器
(1)が動作状態となっていると」との記載があることをもって,スイッチの存在,
を推定しているが,この記載はスイッチの存在を示しているわけではない,当業者
の理解では,刊行物3(甲3)の送信器(1)はスイッチを備えないものと判断する
のが通常である,と主張する。
しかし,刊行物3(甲3)の上記記載にもかかわらず,当業者が,刊行物3(甲
3)の送信器(1)はスイッチを備えないものと判断するのが通常であるとする根拠
はないといわざるを得ず,原告の上記主張は採用することができない。
(3)よって,取消事由6は,理由がない。
7取消事由7(本件訂正発明1の作用効果の判断の誤り)について
原告は,刊行物1(甲1)においても,刊行物2(甲2)においても,共に,本
件訂正発明1の,キープレートをキーシリンダに挿入して操作する時に誤って送信
指令スイッチを押してしまっても,無線式ドアロック制御装置が作動することはな
い,という作用効果は全く開示されていないから,本件訂正発明1の作用効果を両
発明から予測することができたとはいえない,と主張する。
しかし,上記6(1)イに説示したとおり,刊行物1(甲1)のような構成のもの
において,操作ボタンの誤操作により,解錠が起こり得ることは技術常識であり,
その対策は,当然の技術課題であるといえるものであるところ,このような刊行物
1(甲1)における当然の技術課題である,操作ボタンの誤操作の対処として,刊
行物2(甲2)から読み取り可能な,キー挿入を検出して解錠を禁止する手段を適
用することは,当業者が容易に推考し得ることというべきであって,本件訂正発明
1の作用効果は,刊行物1発明及び刊行物2発明から当業者が予測することができ
たものというほかない。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができず,取消事由7は,理由が
ない。
8取消事由8(本件訂正発明2の進歩性の判断の誤り)について
原告は,本件訂正発明1に従属する本件訂正発明2においても,本件訂正発明1
と同様に,当然に特許性を有するものであり,これを当業者が容易に発明をするこ
とができたと判断する審決は誤りであると主張するが,上記3∼7に説示したとお
り,本件訂正発明1について当業者が容易に発明をすることができたとする本件審
決の判断が誤りであるとはいえないから,本件訂正発明1に従属する本件訂正発明
2の進歩性の判断についても,同様に,誤りということはできない。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができず,取消事由8は,理由が
ない。
9結語
以上のとおり,原告の主張する訂正に関する取消事由1,2は理由がなく,また,
独立特許要件に関する取消事由3ないし8も理由がないから,いずれにしても,原
告の請求は理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官
塚原朋一
裁判官
本多知成
裁判官
田中孝一

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