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主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1処分行政庁が平成18年1月27日付けで原告に対してした原告の平成14
年4月1日から平成15年3月31日までの事業年度(以下「平成15年3月
」。),期というの法人税に係る更正処分のうち所得金額4764万5865円
納付すべき税額487万7800円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定
処分を取り消す。
2処分行政庁が平成18年1月27日付けで原告に対してした原告の平成15
年4月1日から平成16年3月31日までの事業年度(以下「平成16年3月
期」という)の法人税に係る更正処分のうち所得金額6億6475万538。
8円,納付すべき税額1億7603万0600円を超える部分及び過少申告加
算税賦課決定処分を取り消す。
3処分行政庁が平成18年1月27日付けで原告に対してした原告の平成16
年4月1日から平成17年3月31日までの事業年度(以下「平成17年3月
期」という)の法人税に係る更正処分のうち所得金額10億1997万68。
93円,納付すべき税額2億5552万5700円を超える部分及び過少申告
加算税賦課決定処分のうち過少申告加算税33万3000円を超える部分を取
り消す。
第2事案の概要
,,本件は精密金型・成形製品の製造・販売及びレンズを中心とした光学設計
光学機器の製造販売等を業とする法人である原告が,平成15年3月期,平成
16年3月期及び平成17年3月期(以下「本件各事業年度」という)の法。
人税につき確定申告をしたところ,諏訪税務署長から,原告の本件各事業年度
の法人税につき,原告の中華人民共和国(以下「中国」という)香港特別行。
政区(以下「香港」という)に本店を有する子会社であるP1が租税特別措。
(。「」。)置法平成17年法律第21号による改正前のもの以下措置法という
66条の6第1項所定の特定外国子会社等に該当し,その主たる事業である製
造業を主として中国で行っており同条3項各号の適用除外事由に該当しないた
め,同条1項に規定するいわゆるタックス・ヘイブン税制が適用され,P1に
係る同項所定の課税対象留保金額に相当する金額を原告の所得の金額の計算上
益金の額に算入すべきである等として,各更正処分(以下「本件各更正処分」
という)及び各過少申告加算税賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」。,
といい,本件各更正処分と併せて「本件各更正処分等」という)を受けたこ。
とから,P1の主たる事業は卸売業であり同条3項1号(政令の規定は後記1
()イ)の適用除外事由に該当し,仮にその主たる事業が製造業であるとして3
も香港は中国の一部であり同項2号(政令の規定は後記1()ウ)の適用除外3
事由に該当する等の理由により,同条1項は適用されず,本件各更正処分等は
いずれも違法であるとして,その取消しを求めている事案である。
1関連法令等の定め
()内国法人に係る特定外国子会社等の留保金額の益金算入1
ア外国関係会社
措置法66条の6第1項において,内国法人(国内に本店又は主たる事
。,,務所を有する法人等をいう措置法2条1項2号所得税法2条1項6号
8号)に係る「外国関係会社」とは,外国法人(内国法人以外の法人等を
いう。措置法2条1項2号,所得税法2条1項7号,8号)であって,そ
の発行済株式の総数又は出資金額(その有する自己の株式等(株式又は出
資をいう。以下同じ)を除く)のうちに内国法人等が有する直接及び間。。
接保有の株式等(措置法66条の6第2項3号に規定する「直接及び間接
保有の株式等」をいう。以下同じ)の総数又は合計額の占める割合等が。
100分の50を超えるものをいう(同項1号。)
イ特定外国子会社等
,,措置法66条の6第1項において内国法人に係る外国関係会社のうち
「特定外国子会社等」とは,内国法人又は当該内国法人が属する同族株主
グループ(同条2項4号に規定する「同族株主グループ」をいう)の有。
する外国関係会社の直接及び間接保有の株式等(請求権のない株式等(同
条1項柱書に規定する「請求権のない株式等」をいう。以下同じ)に係。
るものを除く。以下同じ)の当該外国関係会社の発行済株式の総数又は。
出資金額(請求権のない株式等及び当該外国関係会社が有する自己の株式
。),等を除くのうちに占める割合が100分の5以上である場合において
当該内国法人に係る外国関係会社のうち,本店又は主たる事務所の所在す
る国又は地域(以下「本店所在地国」ともいう)におけるその所得に対。
して課される税の負担が本邦における法人の所得に対して課される税の負
担に比して著しく低いものとして政令で定める外国関係会社に該当するも
のをいう。
ウ留保金額の益金算入
措置法66条の6第1項は,特定外国子会社等が,昭和53年4月1日
以後に開始する各事業年度において,その未処分所得の金額(同条2項2
号に規定する「未処分所得の金額」をいう。以下同じ)から留保したも。
のとして,政令で定めるところにより,当該未処分所得の金額につき当該
未処分所得の金額に係る税額及び利益の配当又は剰余金の分配の額に関す
る調整を加えた金額(以下「適用対象留保金額」という)を有する場合。
には,その適用対象留保金額のうち,当該内国法人の有する当該特定外国
子会社等の直接及び間接保有の株式等に対応するものとして政令で定める
ところにより計算した金額(以下「課税対象留保金額」という)に相当。
する金額は,当該内国法人の収益の額とみなして当該特定外国子会社等の
各事業年度の終了の日の翌日から2月を経過する日を含む当該内国法人の
各事業年度の所得の金額の計算上益金の額に算入する旨規定している以,(
下,同条1項に基づく税制を「タックス・ヘイブン税制」という。。)
()特定外国子会社等の範囲2
(。ア租税特別措置法施行令平成17年政令第103号による改正前のもの
以下「措置法施行令」という)39条の14第1項は,措置法66条の。
6第1項に規定する政令で定める外国関係会社は,①法人の所得に対して
課される税が存在しない国又は地域に本店又は主たる事務所を有する外国
関係会社(措置法施行令39条の14第1項1号)及び②その各事業年度
の所得に対して課される租税の額が当該所得の金額の100分の25以下
である外国関係会社(同項2号)とする旨規定している。
イ措置法施行令39条の14第2項は,外国関係会社が同条1項の政令で
定める外国関係会社(上記ア)に該当するかどうかの判定について,次の
とおり規定している。
(ア)同条1項2号の「所得の金額(上記ア②)は,当該外国関係会社」
の当該各事業年度の決算に基づく所得の金額につき,その本店所在地国
の外国法人税(法人税法69条1項に規定する外国法人税をいう。以下
同じ)に関する法令(以下「本店所在地国の法令」という)の規定に。。
より計算した所得の金額に,本店所在地国の法令により外国法人税の課
税標準に含まれないこととされる所得の金額等を加算し,還付を受ける
外国法人税の額で益金の額に算入している金額を控除した残額とする
(措置法施行令39条の14第2項1号。)
(イ)同条1項2号の「租税の額(上記ア②)は,次に掲げる金額の合」
計額とする。
①当該外国関係会社の当該事業年度の決算に基づく所得の金額につ
き,その本店所在地国又は本店所在地国以外の国又は地域において課
される外国法人税の額(2号イ)
②当該外国関係会社が当該各事業年度においてその本店所在地国にお
いて軽減され,又は免除された外国法人税の額で,当該外国関係会社
に係る内国法人が法人税法69条8項又は81条の15第8項の規定
の適用を受ける場合に措置法施行令1条の2第1項2号に規定する租
税条約の規定により当該外国関係会社が納付したものとみなされるも
の(2号ロ)
()適用除外3
ア措置法66条の6第3項は,特定外国子会社等が,次の(ア)ないし(オ)
に掲げる要件(以下「適用除外要件」という)のすべてを満たしている。
場合には,特定外国子会社等のその該当する事業年度に係る適用対象留保
金額については,同条1項の規定は適用しない旨規定している。
(ア)当該特定外国子会社等の事業が,株式等若しくは債券の保有,工業
所有権等若しく著作権等の提供又は船舶若しくは航空機の貸付けを主た
るものとしていないこと(以下「事業基準」という(3項柱書)。)
(イ)当該特定外国子会社等の本店又は主たる事務所の所在する国又は地
域(本店所在地国)において,その主たる事業を行うに必要と認められ
,,(「」る事務所店舗工場その他の固定施設を有すること以下実体基準
という(3項柱書)。)
(ウ)当該特定外国子会社等の本店又は主たる事務所の所在する国又は地
域(本店所在地国)において,その事業の管理,支配及び運営を自ら行
っていること(以下「管理支配基準」という(3項柱書)。)
,,,(エ)当該特定外国子会社等の行う主たる事業が卸売業銀行業信託業
証券業,保険業,水運業又は航空運送業に該当する場合には,その事業
を主として当該特定外国子会社等に係る関連者(当該特定外国子会社等
に係る措置法40条の4第1項各号に掲げる居住者,措置法66条の6
第1項各号に掲げる内国法人等及び措置法施行令39条の17第1項各
号に掲げる者。以下同じ)以外の者との間で行っている場合として政。
令(同条2項)で定める場合に該当すること(以下「非関連者基準」と
いう(3項1号)。)
(オ)当該特定外国子会社等の行う主たる事業が製造業その他の上記(エ)
に掲げる事業以外の事業に該当する場合には,その事業を主として本店
又は主たる事務所の所在する国又は地域(本店所在地国)において行っ
ている場合として政令(措置法施行令39条の17第5項)で定める場
合に該当すること(以下「所在地国基準」という(3項2号)。)
イ措置法施行令39条の17第2項1号は,措置法66条の6第3項1号
に規定する「政令で定める場合」は,同項に規定する特定外国子会社等の
各事業年度において行う主たる事業が卸売業に該当するときは,当該各事
業年度の棚卸資産の販売に係る収入金額の合計額のうちに関連者以外の者
との間の取引に係る販売取扱金額の合計額の占める割合が100分の50
を超える場合又は当該各事業年度において取得した棚卸資産の取得価額の
合計額のうちに関連者以外の者との間の取引に係る仕入取扱金額の合計額
の占める割合が100分の50を超える場合とする旨規定している。
ウ措置法施行令39条の17第5項3号は,措置法66条の6第3項2号
に規定する「政令で定める場合」は,同項に規定する特定外国子会社等の
各事業年度において行う主たる事業が製造業その他の上記ア(エ)に掲げる
事業及び不動産業・物品賃貸業以外の事業に該当するときは,主として本
店又は主たる事務所の所在する国又は地域(本店所在地国)において行っ
ている場合とする旨規定している。
2前提事実(争いのない事実,顕著な事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨
により容易に認められる事実)
()原告は,精密金型・成形製品の製造・販売及びレンズを中心とした光学1
設計,光学機器の製造販売等を業とする内国法人(株式会社)であり,昭和4
5年6月に設立され,平成15年10月,P2株式会社と資本提携を行い,
平成17年10月,商号をP3株式会社からP4株式会社に変更した(争。
いのない事実)
()原告は,1995年(平成7年)8月10日,■■■■■■■■■■■2
■■(以下「■■■■■■■■■」という)及び香港在住の個人投資家2。
名(■■■及び■■■)との間で,香港国内に精密合成樹脂製品製造販売及
び金型の製造販売を主目的とする新会社としてP1を設立すること,出資比
率は,原告が■■%,上記個人投資家2名が各■■%,■■■■■■■■■
が■■%とすることなどを内容とする合弁契約(以下「本件合弁契約」とい
。),,,(,うを締結しそのころ香港を本店所在地としてP1当初の商号は
「P5)が設立された。P1の商号は,2000年(平成12年)4月,」
「P6」に,2005年(平成17年)8月「P1」に,それぞれ変更さ,
れた(争いのない事実,乙1,2)。
()P1は,同社の2002年(平成14年)1月1日から同年12月31日3
までの事業年度(以下「P1平成14年12月期」という,2003年(平。)
成15年)1月1日から同年12月31日までの事業年度(以下「P1平成
15年12月期」という)及び2004年(平成16年)1月1日から同。
年12月31日までの事業年度(以下「P1平成16年12月期」といい,
P1平成14年12月期ないしP1平成16年12月期を併せて「本件P1
各事業年度」という)のいずれの期間も,香港を本店所在地としていた。。
(弁論の全趣旨)
()アP7公司は,東莞市長安鎮人民政府対外経済弁公室の100%出資に4
より1991年(平成3年)6月28日に設立した集団所有制企業(生産
手段が労働者集団によって所有される社会主義的経済組織)であり,中国
広東省東莞市(以下「東莞市」という)αに所在し,外資導入・国内企。
,,業との連繋企業の設立に関するコンサルティング交渉及び契約締結業務
日用金属製品,電子部品,玩具の製造・販売業務並びに各種商品及び技術
の輸出入の経営及び代理業務等を経営範囲として,東莞市工商行政管理局
から営業許可を受けている(甲14,16,82ないし84)。
イP8公司は,東莞市対外経済貿易委員会が100%出資により1987
年(昭和62年)1月14日に設立した全人民所有制企業(国等の投資に
よって設立された企業)であり,東莞市βに所在し,三来一補企業及び三
資企業の業務の請負,東莞市及び東莞市に駐在する省の単位の対外加工組
立て・補償貿易代理業務の請負,企業対外ビジネス交渉,契約締結,通関
手続,為替決済への協力,加工費及び補償製品の輸出価格の調整並びに原
料・補助材料の輸入及び完成品・半製品の輸出等を経営範囲として,東莞
市工商行政管理局から営業許可を受けている(甲14,17,88)。
ウP9合作社は,東莞市α■■○が100%出資により1997年(平成
9年)11月3日に設立した集団所有制企業であり,αに所在し,企業管
理コンサルティング等を経営範囲として,東莞市工商行政管理局から営業
許可を受けている(甲18,86)。
()アP1は,P7公司との間で,P8公司を商務代理として,1995年5
(平成7年)5月29日付け「協議書(東福協字(95)第○○号(甲8,)」
乙4の1。以下「本件協議書」という)を作成して,α所在の■■■■。
■■■■■■■■電子廠(以下「P10工場」という)における精密プ。
ラスチック用金型及び精密プラスチック材料射出成形の来料加工業務に係
る契約(有効期間5年)を締結し,そのころから,P10工場で製造され
た合成樹脂精密金型,エンジニアリングプラスチック金型,合成樹脂精密
射出成形品等の製品の自己の名称での販売等を行っている。P1は,本件
協議書の有効期間経過前に,P7公司との間で,P8公司を商務代理とし
て,2000年(平成12年)年1月11日付け「来料加工続期協議書(東
福協字(95)○○号之三十二)(乙4の2の1・2。以下「本件継続協議」
書」といい,本件協議書と併せて「本件協議書等」という)を作成し,。
本件協議書に係る契約の契約期間を2005年(平成17年)5月29日
まで延長したほか,本件協議書に係る契約内容の修正,補足等を行った。
なお,P10工場は,1995年(平成7年)5月30日,精密プラスチ
ック用金型の加工,精密プラスチック部品の射出成形,電子部品の組立て
,,等を経営範囲として東莞市工商行政管理局から営業許可を受けているが
法人格は有しない(甲8,19,乙4の1,同4の2の1・2,同5,。
28,弁論の全趣旨)
イP1は,P9合作社との間で,2003年(平成15年)3月31日付け
「廠房,宿舎租用合同」と題する契約書(乙6の1。以下「平成15年借
用契約書」という)を作成し,P1がP9合作社から工場,宿舎及び店。
舗を賃借することなどを内容とし,契約期間を2000年(平成12年)
1月15日から2005年(平成17年)1月14日までとする契約を締
結した。P1は,その後,同月15日付け「廠房,宿舎租用合同」と題す
る契約書(乙6の2の1・2。以下「平成17年借用契約書」といい,平
成15年借用契約書と併せて「本件借用契約書」という)を作成し,平。
成15年借用契約書に係る賃貸借契約を2007年(平成19年)1月1
4日まで更新した(乙6の1,同6の2の1・2,同7)。
ウP1は,P9合作社との間で,2004年(平成16年)7月8日付け
「企業承包経営合同」と題する契約書(甲37。以下「本件経営契約書」
といい,本件協議書等,本件借用契約書及び本件経営契約書を併せて「本
件各契約書」という)を作成し,P1を請負人,P9合作社を委託者と。
して,P1がP10工場の経営を請け負うことなどを内容とし,契約期間
を2005年(平成17年)5月28日から2015年(平成27年)5月
28日までとする契約を締結した。なお,P1は,本件協議書を作成した
後,本件経営契約書を作成するまでの間,P9合作社,P7公司又はP8
,。公司との間で本件経営契約書と同様の内容の契約書等を作成していない
(甲37,弁論の全趣旨)
()原告は,増資等により,P1に対する出資比率を高め,P1の発行済株6
式総数のうちに原告が有する直接及び間接保有の株式の割合は,P1平成1
4年12月期及びP1平成15年12月期終了の時点において,■■■■%
であり,P1平成16年12月期終了の時点において,■■■%となるとと
もに,P1が,香港において上記各事業年度の所得に対して課される租税の
額は,いずれも当該所得の金額の100分の25以下であったため,本件各
事業年度において,P1は,原告(内国法人)に係る外国関係会社かつ特定
外国子会社等に該当する(争いのない事実)。
()本件各更正処分等の経緯は,別表1「課税処分等の経緯」記載のとおり7
であり,原告が本件各事業年度の法人税につき確定申告をしたところ,諏訪
税務署長は,原告の本件各事業年度の法人税につき,P1が措置法66条の
6第1項所定の特定外国子会社等に該当し,主として製造業を中国で行って
おり同条3項各号の適用除外事由に該当しないため,同条1項が適用され,
P1に係る同項所定の課税対象留保金額に相当する金額を原告の所得の金額
の計算上益金の額に算入すべきである等として,平成18年1月27日付け
で,原告の所得金額を,平成15年3月期の法人税について所得金額1億9
977万6846円,平成16年3月期の法人税について所得金額7億58
52万6633円,平成17年3月期の法人税について所得金額17億77
03万7907円とする各更正処分(本件各更正処分)をし,また,これに
伴い,本件各事業年度について,過少申告加算税の賦課決定(本件各賦課決
定処分)をした(甲1ないし3)。
これに対し,原告は,平成18年2月28日に本件各更正処分等を不服と
して国税不服審判所長に対して審査請求をしたものの,審査請求がされた日
の翌日から起算して3月を経過しても裁決がされなかったため,同年7月3
日,本訴を提起した(その後の平成19年10月16日,上記審査請求に係
る審査裁決において,審査請求はいずれも棄却された(甲4,顕著な事。)。
実)
3税額等に関する当事者の主張
被告が本件訴訟において主張する原告の本件各事業年度の所得金額,納付す
べき税額及び過少申告加算税の額等は,別紙「更正等の根拠及び計算」のとお
りであり,本件の争点(後記4()ないし())である適用除外要件の充足の13
有無(適用除外要件のうち,事業基準,実体基準及び管理支配基準をいずれも
充足することは争いがない)に関する部分を除き,計算の基礎となる金額及。
び計算方法に争いはない。
4争点
()非関連者基準の充足の有無(P1の主たる事業は卸売業か製造業か)1
()所在地国基準の充足の有無2
()目的論的解釈による適用除外の可否3
5争点に関する当事者の主張の要旨
()争点()(非関連者基準の充足の有無(P1の主たる事業は卸売業か製11
造業か)について)
(被告の主張の要旨)
アP1は,その資本の大半をP10工場における製造行為に投下している
上,P10工場の組織図によれば,P1がP10工場における製造行為を
,,その事業の中心に据えておりP11事務所における事業内容と比較して
P10工場で行われている事業がP1の主たる事業であることは明らかで
あるから,P1の主たる事業が何であるかは,P10工場で行われている
精密プラスチック用金型等の製造行為がP1の事業といえるか否かによっ
て決まるそして所得税法27条にいう事業の意義については自。,「」,「
己の計算と危険において独立して営まれ,営利性,有償性を有し,かつ反
覆継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務(最」
高裁昭和52年(行ツ)第12号同56年4月24日第二小法廷判決・民集
35巻3号672頁)と解されているところ,これらの要素のうち,事業
の主体がだれであるかという問題に関連するのは,特に「自己の計算と危
険において」営まれる業務という点であって,企業が「自己の計算と危険
において」製造行為を行っているといえる場合には,当該製造行為は当該
企業の事業ということができるから,P10工場で行われている製造行為
がP1の事業といえるか否かについては,P10工場における製造行為が
P1の計算と危険において営まれているか否かによって判断すべきであ
り,当該事業がP1の計算と危険において行われているか否かを判断する
に当たっては,P10工場における製造行為に基づく損益の帰属や私法上
の契約関係のみならず,当該事業の目的,P10工場における生産管理及
び財務管理の状況並びにP1の認識等の事情を総合し,経営主体としての
実体を有する者がだれであるかを社会通念によって判断するべきである。
そして,P1は,①そもそも,P10工場において製造業を行うことを
目的として設立されたものと認められること,②P9合作社等との間で取
り交わした契約に規定された各権限等に基づき,P10工場における製造
行為の損益を帰属させていること,③P10工場における部品製造に関す
る危険を負担していること,④自らの従業員がP10工場の主要ポストを
独占し,P10工場の労務管理を行うなど,人事・組織面からP10工場
における製造行為を統括・管理していること,⑤P10工場の事業計画,
設備計画等を策定・管理し,P10工場を賃借しているばかりか,工場を
稼働させるために必要な生産設備についても自己資金により設置し,ある
いは従業員の給与についても負担するなどして,P10工場における製造
行為を主体的に管理・遂行していること,⑥P10工場における資金管理
を行っていること,⑦香港税務当局に対し,自らのP10工場における事
業を製造業であると申告し,中国本土における製造活動による販売所得の
うち50%につき非課税所得(中国本土内所得)と扱われるという恩恵を
受けていることのほか,⑧原告も,本件各更正処分等に係る法人税等の調
査前に提出した平成15年3月期及び平成16年3月期の各法人税申告書
では,P1の主たる事業につき「精密成形品及び金型製造」と記載し,,
香港におけるP1の商業登記証にもP1の「業務性質」は「MFG」
()と登録されていること等から,P10工場をP1の工Manufacturing
場と認識し,P1の事業を製造業と認識していること等の事情を考慮する
と,P10工場における製造行為の経営主体としての実体は,正にP1に
あるというほかない。
したがって,P1は,その行う主たる事業が製造業であるから,非関連
者基準(措置法66条の6第3項1号)を満たさない。
イまた,P1は,P10工場における製造行為に関して,P7公司との間
で本件協議書等を,P9合作社との間で本件借用契約書及び本件経営契約
書を作成しており,その概要は,次のとおりである。
(ア)本件協議書等に基づき,(a)P1が負担する責務は,①加工生産に
必要な設備を借用の方式でP10工場に提供すること,②原料・補助材料
及び包装物資を無償で提供すること,③技術者をP10工場に派遣して設
備の取付け及び技術指導を行うこと,④P10工場へ派遣した技術者の資
金,出張旅費等を負担すること,⑤人員をP10工場へ派遣して製品品質
の検収を行うこと,⑥原料等が基準に合致しないこと等により廃品・二級
品が発生した場合の責任や,加工をやり直さなければならないときの費用
を負担すること,⑦原料等の輸送の費用を負担すること,⑧原料等の運び
込みや製品の運び出しについて総合保険に加入し,生産設備,工場の原料
・補助材料,包装物資,半製品及び製品に対して財産保険・火災保険に加
入することなどであり,他方,(b)P7公司が負担する責務は,相応の工
場建物,電力及び労働力を提供し(ただし,工場賃料,電気代及び従業員
の給与はいずれもP1が負担している,P1のために加工生産を行うこ。)
とであり,P1からは,加工費又は工場賃貸料,土地使用料及び管理費を
受領することとされている。また,(イ)本件借用契約書に基づき,(a)P
1が負担する責務は,①P9合作社から工場等を賃借し賃借料を支払うこ
と,②条例の規定によって,各種税金を納め,財政・税務部門の監督管理
を受けること,③定められた期日に従業員戸籍,労働保険の申請をするこ
と,④P9合作社が委託派遣した工場長・報関員の給与を負担することな
どであり,他方,(b)P9合作社が負担する責務は,P10工場の工場建
物や従業員宿舎等を賃貸し,P10工場に水道管・電気路線を引き込み,
P1の使用する電気を供給することなどである。そして,(ウ)本件経営契
約書に基づき,(a)P1が負担する責務は,①P9合作社が指定した銀行
口座に加工費を振り込むこと,②P10工場の経営を請け負うこと,③企
業の生産経営管理につき権利を有し,全面的に責任を負い,すべての生産
経営管理権を行使し,企業のすべての経営コストを負担すること,④委託
者の監督を受け,法律・法規の規定に従い従業員の合法的な権益を保護す
ることなどであり,他方,(b)P9合作社が負担する責務は,①上記(a)
①により振り込まれた加工費について,両当事者が協議した実際の金額に
従いP1に返還する,②請負契約の規定に基づき請負者による請負対象企
業の資産を管理監督し,企業の適法な経営及び法に従った納税を監督し,
適切に指導し,調整し,手当てすることなどである。
以上のとおり,P1は,仮に,本件各契約書に基づき製品の加工を委託
するというのであれば,相手方の工場を賃借する必要はないにもかかわら
ず,P9合作社からP10工場等を賃借し,P9合作社が委託派遣した工
場長等の給与まで負担し,加工生産に必要な設備及び原料等の物資を提供
,,,しその輸送に伴う費用を負担した上製品についても各種保険に加入し
,,「」さらに契約期間中P10工場の経営を請け負い企業の生産経営管理
につき権利を有し,企業のすべての経営コストを負担するというのであっ
て,結局「生産経営管理権」によって,賃借したP10工場において,,
製品の製造に必要な生産管理,労務管理及び財務管理を行い,かつ「生,
産経営管理権」についてそのすべての責任を負い,そのすべてのコストを
負担することになる。そうすると,P1とP7公司及びP9合作社との間
の本件各契約書は,P1が,中国国内において,P10工場をP1の自社
工場と同様の工場として使用し「生産経営管理権」に基づいて製品の製,
造を行うための手段や環境(工場建物,電力水道等)の提供を受けること
を内容とするもの,すなわち,P1が,中国国内で自ら製造行為を行うた
めの環境を整備するために締結された契約に係るものと解すべきであり,
このような本件各契約書の内容からも,P10工場における製造行為の経
営主体は,P1であることが裏付けられる。
ウ原告の主張に対する反論
(ア)原告は,本件協議書等に係る契約は来料加工取引(外国企業が提供
した輸入材料を中国の国内企業が加工し又は組み立てた後に完成品とし
て再輸出する取引)であって,中国における強行法規である加工貿易審
(。「」。),査認可管理暫定規則甲15以下本件規則というが適用され
本件規則3条の規定によれば,P10工場は,経営企業であるP7公司
が設立した加工企業であるから,P10工場における製造行為はP7公
司の事業であると主張する。
しかし,本件協議書等によれば,P1は,P7公司に対して,加工費
,,又は工場賃料土地使用料及び管理料を支払うものとされているものの
実際には,P1からP7公司に対して,加工費,工場建物及び用地の使
用料は支払われておらず,P1は,東莞市に対して加工費額の■■,α
に加工費額の■■の手数料を支払い,P9合作社に対し管理費及び賃貸
料を支払うこととなっているが,この手数料,管理費及び賃貸料は,い
ずれも部品の加工に対する対価ということはできず,他にP1がP7公
司に対して加工費を支払っていることを認めるに足りる証拠はなく,む
しろ,P10工場における部品の製造に係る必要経費については,P1
の会計上,中国小口現金勘定に振り替えられた後,P10工場において
支出され,当該支出は,P1の経費として総勘定元帳に記載されている
のであるから,P1とP7公司との合意内容は,本件規則が定義する来
料加工とは異なるのであって,中国国内における来料加工の規定を根拠
に本件契約が委託加工契約であるとする原告の上記主張は,そもそも失
当である。
本件のように,外国法人が中国法人との間で来料加工契約を締結した
上で,別途,補充契約を締結し,中国法人から建物のみを借り,自社の
機械設備を形式的に中国法人に貸与し,自社の日本人あるいは香港人等
の正社員を形式的に派遣して,実際は自ら生産・品質・労務管理等すべ
ての管理を行い,形式上は,契約先の中国法人が労働者を雇用するが,
実態は外国法人側が自社社員とほぼ同様に労務管理を行うという内容の
来料加工は,一般に「広東省流来料加工」とも呼ばれ,本件規則に基,
づく来料加工とは異なり,実質的に中国法人が加工生産を行うものでは
ない。また,東莞市人民法院東城人民法廷作成の「三来一補企業』は『
訴訟主体資格を持つべきではない」と題する文書(乙38)には,本件
のように,工場建物及び土地が外国側に賃貸され,人員も外国側が雇用
し,外国側の独自経営となっているような現在の普遍的な意味での三来
一補企業は,地方工商行政管理局によって営業許可証は交付されている
ものの,これは国家工商局の文書を逸脱したものであるから,その成立
には合法性がない旨記載されていることからも,原告主張のように,本
件規則上,P10工場がP7公司の設立した「加工企業」であると定義
されていることは,P10工場における製造行為がP1の事業であるこ
とを否定する根拠とはならないというべきである。
しかも,本件では,本件経営契約書が作成され,P1がP10工場の
経営を請け負っているのであるから,むしろ,P1が,P10工場にお
ける製造行為の経営主体であることは明らかであって,仮に,P1がP
7公司に部品の製造行為を委託しているとの原告の主張を前提としたと
しても,経営委任契約の存在からすれば,P10工場における製造行為
がP1の事業というべきである。
(イ)また,原告は,本件協議書1条にP7公司はP1のために加工生産
を行う旨が記載されていることを根拠に,本件協議書等に基づく契約の
法的性質が委託加工契約であることは契約書上明らかである旨主張す
る。
しかし,そもそも本件で問題となっているのは,P1の行っている事
業が製造業に該当するか卸売業に該当するか,つまりP1の業種の判定
であり,P1がP7公司といかなる契約を締結しているか自体ではない
(当然のことであるが,措置法66条の6第3項における課税要件事実
は,特定外国子会社等の業種を問題としており,特定外国子会社等がい
かなる契約を締結しているか自体を問題とするものではない)から,。
原告の主張のように,契約書の文言のみから,業種の判定をすることは
誤りである。また,P1の業種を判断するに当たり,P1及びP7公司
の契約関係(すなわち,P10工場の製造過程における行為をいずれの
当事者が行うかについての取り決め)は考慮すべき要素であるものの,
P1とP7公司との契約関係は,本件協議書1条のみによって定まるも
のではなく,本件協議書のその他の条項並びにP9合作社との間で取り
交わされた本件借用契約書及び本件経営契約書の各条項を総合的にしん
酌しなければ決し得ない。加えて,原告の挙げる本件協議書1条は,P
7公司がP1「のために加工生産を行」うとされているが,それ自体抽
象的多義的な文言といわざるを得ないから,この条項の存在から直ちに
P10工場における製造行為がP1の事業ではないとの結論を導くこと
はできず,むしろ,他の条項を含めて全体としての契約関係をみると,
両者の契約関係は,概要,P1が中国国内にあるP10工場をP1の自
社工場と同様の工場として使用し,P1に認められている「生産経営管
理権」に基づいて製品の製造を行うことを目的として,P7公司及びP
9合作社から,そのための手段や環境(工場建物,電力水道等)の提供
を受けることを内容とする契約であると解される。
(ウ)原告は,租税特別措置法関係通達(法人税編(昭和50年2月1)
4日直法2−2(例規)国税庁長官通達。ただし,平成17年12月2
6日付け課法2−14ほかによる改正前のもの。以下「措置法通達」と
いう)66の6−14が,特定外国子会社等の営む事業が措置法66。
条の6第3項1号又は措置法施行令39条の17第5項1号若しくは同
項2号に掲げる事業のいずれに該当するかどうかは,原則として日本標
(),準産業分類総務省の分類を基準として判定する旨定めているところ
日本標準産業分類を基準としてP1の事業を判定するに当たっては,P
1の本店所在地たる香港における事業に基づくべきである旨主張する。
しかし,日本標準産業分類は「ある事業主の事業を判定する前提とし
て規定」されたものではなく,また,一事業主,一経営主体の中に日本
標準産業分類にいう「事業所」は複数存在し得るから,仮にP1の「P
1事務所」が「事業所」に該当するとしても,そのことは,P101
工場もまたP1の「事業所」に該当することと矛盾するものではない。
むしろ,日本標準産業分類においては,一定の「経営主体」の下「事,
業所で行われている経済活動」によってその事業所の産業を決定するこ
ととされており,事業所で行われている経済活動の経営主体に着目して
産業を決定する日本標準産業分類の記述は,P10工場における製造行
為がP1の計算と危険において行われるか否かによってP10工場にお
ける製造行為がP1の事業といえるか否かを判断するという考え方と軌
を一にするものである。
(原告の主張の要旨)
ア(ア)a措置法通達66の6−14は,特定外国子会社等の営む事業が措
置法66条の6第3項1号又は措置法施行令39条の17第5項1号
若しくは同項2号に掲げる事業のいずれに該当するかは,原則として
日本標準産業分類の分類を基準として判定する旨定めているところ,
日本標準産業分類は,有機又は無機の物質に物理的,化学的変化を加
えて新製品を製造しこれを卸売する事業所が製造業に分類される大,(
分類F−製造業)とする一方,自らは製造を行わないで,自己の所有
に属する原材料を下請工場などに支給して製品を作らせ,これを自己
の名称で卸売する製造問屋は,卸売業に分類される旨定めている(大
分類J−卸売・小売業。そして,P1は,P7公司に対して,自己)
の所有に属する原材料を支給して精密プラスチック用金型等の製造を
委託し,これを自己の名称で販売しているのであるから「有機又は,
無機の物質に物理的,化学的変化を加えて新製品を製造」している者
ではなく「自らは製造を行わず,他に製品を作らせ」ている者とし,
て,その事業は製造問屋,すなわち卸売業に当たる。
bそもそも,被告も認めるとおり,P1は,その本店所在地国たる香
港において「その主たる事業を行うに必要と認められる事務所を有,
」(),「,」し実体基準その事業の管理支配及び運営を自ら行っている
(管理支配基準)のであるから,P1の主たる事業は,その事務所で
行い,かつ,管理・支配・運営している事業たる卸売業であることは
明らかである。また,日本標準産業分類は,同分類により事業所の産
業を決定する場合は,事業所で行われている経済活動による旨規定す
る(第2章第6項)とともに,事業所には,工場等のほかに事務所が
含まれる旨定めているところ(同章第2項,P1は,本店所在地た)
る香港に事業所としてP1事務所のみを有しておりこのP「」,「1
11事務所」においては,■名の従業員のみで卸売業を行う一方,P
10工場の経営主体はP7公司であるから,P1の事業は,卸売業と
いうべきである。
cまた,P1は,P7公司との間で本件協議書を作成して,精密プラ
スチック用金型等の生産に係る契約を締結しているところ,その契約
,,の趣旨は①P1が中国企業に対して部品の生産加工を委託すること
②その対価として,P1は中国企業側に対して加工費を送金すること
の2点に集約され,その法的性質が委託加工であることは明らかであ
って,その他の契約条項は,これに付随する条件であって,委託加工
としての性質を失わせるものではないから,P1の主たる事業は卸売
業である。
(イ)そして,本件P1各事業年度において,P1の棚卸資産の販売に係
る収入金額の合計額のうちに原告の関連者以外の者との間の取引に係る
販売取扱金額の合計額の占める割合は,いずれもおおむね100分の9
0であって,措置法施行令39条の17第2項1号に規定する100分
の50をいずれも超え,P1は非関連者基準(措置法66条の6第3項
1号)を満たすから,P1の適用対象留保金額について同条1項は適用
されない。
イ(ア)a中国の憲法・法律の下では,企業法人及び事業所は,工商行政管
理局に登記登録され,営業許可証の発給を受け,具体的業務範囲の許
可を受けなければ当該業務を適法に行うことはできず,また,外国法
人が事業を行うためには,銀行等が支店を開設する場合を除き,外商
投資企業と呼ばれる現地法人を設立しなければならないが,本件にお
いては,精密プラスチック用金型の加工,精密プラスチック部品の射
出成形,電子部品の組立て等の経営に係る営業許可証の発給を受けて
いるのはP10工場である一方,P1は,香港法人であり中国におい
て事業を行うために必要な外商投資企業設立の審査認可も受けていな
いから,中国において工場を開設できず製造業務を行うことができな
いことは明らかであり,法令を潜脱して実際に事業を行うことも不可
能である。
b本件協議書等に係る契約は,中国華南地方(広東省)に特有の取引
。,「」形態である来料加工たる性質を有している来料加工は三来一補
(外国の投資者が,中国に直接投資して外商投資企業を設立する代わ
りに,中国国内の企業に加工・生産を委託する,いわば間接投資の方
法により生産を行わせる方法)の一つであり,一般に,委託加工の注
文者が,自己の所有に属する原材料を注文先(下請工場)に支給して
製品を作らせ,製品の全部の引渡しを受け,これを自己の名称で卸売
りすることに加えて,原材料のほかに生産施設を無償で提供し,技術
者を無償で派遣して加工業務を稼働できるようにし,一定の高い品質
の製品を納品できるようにすることに特色があり,中国における強行
法規である対外貿易法,税関法等に基づいて制定された本件規則が適
用される。本件規則3条においては,来料加工につき,経営企業(外
国当事者と加工貿易輸出入契約を締結する各種輸出入業者等)が設立
した加工企業(経営企業が設立した,法人格はないが相対的な独立採
算を実行しており,既に工商営業証(許可証)を有している工場等)
が,外国企業によって中国に輸入された材料を加工し又は組み立てた
後に,完成品を再輸出する経営活動である旨規定された上,経営企業
は「三無(工場がない,加工設備がない,労働者がいない)企業が,」
加工貿易の名をかたって密輸等の違法活動を行うことを防止する観点
からの厳格な審査を経てはじめて加工貿易業務認可証を付与され,来
。,,料加工を適法に行うことができる旨定められているそしてP1は
輸出入経営権を持たないP7公司及び中国国内の輸出入経営権を有す
る輸出入代理業者であるP8公司との間で,本件協議書等を作成し,
本件規則に即して,P1が中国国内の企業であるP7公司に対して原
材料を支給して加工・生産を委託して製品の生産を行わせる(来料加
工)旨の契約を締結したのであって,P7公司が経営企業に,P10
工場が加工企業に該当するから,P10工場の経営主体は,P7公司
であってP1ではないというべきであり,この点からもP1は製造業
には当たらない。また,P1は,中国国内の多様なカントリーリスク
(労働争議,停電,外貨規制,重い刑事罰等,会社設立等の煩雑な)
手続等を回避しつつ,少額の投下資本で製品を取得できるというメリ
ットが存する来料加工という委託加工契約の方式を選択したものであ
,,りその選択に租税回避や所得の国外移転の意図は全く存しない以上
その選択した形式に従い,その主たる事業は,他者に加工を委託する
卸売業に当たるというべきである。
(イ)P1は,中国企業側が製品品質及び製造工場の労働管理・財務管理
に関する技術・ノウハウを有していないことに対応するため,一般的な
来料加工と同様,P7公司との間で,本件協議書等に係る委託加工契約
とともに,P7公司を委託者,P1を受託者とする狭義の経営委任契約
を締結し(契約書は作成していない,後には,P9合作社との間で,。)
本件経営契約書を作成して同様の経営委任契約を締結しているのであっ
て,経営委任契約の履行については,一般的に,その経営は依然として
委託会社の名義をもって行われるが,その計算は受託会社に帰属すると
,,,解されていることからするとP1がP10工場の生産管理労務管理
財務管理等に何らかの関与をしているとしても,同契約の債務の履行と
して行われているにすぎず,このような管理の事実があるからといって
。,P1が製造業を行っていることにはならない委託加工契約の委託者が
自らが製品の販売先に対して負担する製品の納期,品質等に係る契約上
の責任を確実に履行するために,受託者に対し技術者等を派遣して技術
指導,品質管理,生産管理,コスト管理等に関する支援を行うことは,
通常の取引契約においても行われることであり,これらの当事者間で取
り決めた一取引に関する契約条項内容にすぎない事情をP1の主(),「
たる事業」を判定する材料として考慮する被告の主張は私法契約(私的
自治の原則)を無視するものであり失当である。
ウ被告の主張に対する反論
(ア)被告は,P10工場で行われている製造行為がP1の事業といえる
か否かにつき,P10工場における製造行為がP1の計算と危険におい
て営まれているか否かによって判断すべきであり,その判断に当たり,
P10工場における製造行為に基づく損益の帰属や私法上の契約関係の
みならず,当該事業の目的,P10工場における生産管理及び財務管理
の状況等の事情を総合して判断すべきである旨主張する。
しかし,そもそも,被告が引用する最高裁判決は,弁護士の顧問料収
入が給与所得か事業所得かが問題となった事案でありだれが事業の主,「
体」かとは別の場面の問題であるから,本件に妥当しない上,被告主張
のように不明確かつあいまいな基準によれば,同じ来料加工取引におい
ても,香港企業の管理・関与の内容・程度によって,適用除外要件の充
足の有無の結論が異なるのであって,納税者の予測可能性・法的安定性
を著しく害することになり,租税法律主義の一つである課税要件明確主
義に反するというべきである。
また,法人の収益について異なる名義の者の収益が帰属するのは,法
人税法11条が定める実質所得者課税の原則が適用される場面のみであ
り,そうではない本件のような場合に,別法人の営む事業及びそこから
生ずる利益を帰属させることは,法人税法が予定するところではない。
被告主張の方法で経営主体としての実体がだれであるかを判断すること
は,所得の帰属を法的実質ではなく経済的実質により判断すべきとの見
解に立脚しているにほかならず,同条につき,経済的実質に基づき課税
すべきことを定めたものと解すべきではなく,納税者の選択した法形式
に係る法的実質に基づき課税すべきことを定めたものと解すべきである
,()ことに照らしても不当であり仮に被告主張のように計算と危険損益
の帰属を考慮するとしても,P10工場が法律上P1の自社工場でない
以上,法的観点からは,P10工場の損益(すなわち計算と危険)がP
1に帰属する余地はない。
(イ)仮に被告の主張のようにP10工場における製造行為がP1の計算
と危険において営まれているか否かによって判断するとしても,以下の
とおり,P1がP10工場における製造行為を自らの計算と危険におい
て行っているという事実はない。
aP10工場においては,生産計画(加工の順序等の手順計画,必要
な人員・機械の配置等の工数計画,個々の加工予定等の日程計画等)
の立案及び生産統制(仕掛品の所在・数量の把握・管理,生産能力と
仕事量との差の管理等)といった具体的な生産管理は,P7公司によ
って独自に採用された中国人責任者らによって行われている。P1か
らP10工場に派遣されている日本人スタッフは,自らの顧客に対す
る品質保証のために技術指導等を行っているにすぎず,これは,本件
協議書1条及び本件経営契約書上の義務を履行しているにすぎない。
b原告は,P7公司に対して,本件協議書に基づき,加工の対価を支
払っており,具体的には,①製品ごとに定められた単価に製造数量を
乗じて算出された加工費(確定額)の前月分を,翌月5日から10日の
間に,P7公司の工場であるP10工場名義の口座に対して振込送金
する方法及び②加工費の見込額を両替商を介してP10工場に現金で
届ける方法を採っている。このように加工費が支払われた後に,東莞
市(P8公司の上部組織)が①の金額の■■を,α(P7公司の上部
組織)が①の金額の■■を手数料として収受する等しているが,P7
公司側がP1の支払った加工費をどのような用途に充てるかはP7公
司側の決めることであって,上記のような用途に用いられたからとい
って加工費として支払われた金員の性質が変わるものではない。
P1は,P7公司に対する加工費の支払につき,総勘定元帳上,単
に「外注加工費」という勘定項目で処理するのではなく,中国小口現
金勘定に振り替えた上で,直接労務費,消耗品費等の内訳の詳細を計
上しているが,これは香港の法人事業所得税における中国本土におけ
る製造活動による販売所得のうち50%につき非課税所得(中国本土
),,内所得とする旨の取扱いを受けるとともにP1の売上原価管理上
外注加工費のコスト増を招来させないため,当該外注加工費の内訳を
詳細に把握することを目的としたものにすぎないから,P10工場の
製造行為に係る損益がP1に帰属するものではないことは明らかであ
る。
また,2008年(平成20年)1月1日の企業所得税法の施行前の
中国においては,外商投資企業には,外国投資企業及び外国企業所得
税法が適用され,外国資本の出資を受けない中国資本のみによる内資
企業には企業所得税暫定条例が適用されていたが,P10工場に送金
等され,手数料,電気水道料等の経費として支払われた金員は,P7
公司において製造原価等の経費に計上され,P10工場はそれを前提
として同条例に基づく税務申告をしている以上,P10工場における
製造行為がP1の計算において行われているとは認められない。
c工員の募集・採用は,P10工場管理部が行い,就業規定,宿舎管
理規定,車輌服務規定等は,P7公司が作成し,工員の労働時間,休
憩,休日等の労働時間管理は,P10工場の担当者が行うなど,P1
0工場において自主的な労務管理が行われている(なお,P10工場
の工場長の選任・解任は,■■村長が行っている。。)
(ウ)租税法の課税対象としている種々の経済活動ないし経済現象は,第
一次的には私法によって規律されており,租税法律主義の目的である法
的安定性を確保するためには,課税は,原則として私法上の法律関係に
即して行われるべきであるが,この観点から本件をみると,P1とP7
公司との間で作成された本件協議書1条にも,P7公司はP1のために
加工生産を行う旨が明記されており,P1が,P7公司に対して,原材
料を支給し,精密プラスチック用金型等の製造を委託し,P7公司が,
原材料を加工生産すなわち製造していることは明らかである。
そして,選択された契約類型における当事者の真意を探求して法律行
為の解釈を行うに当たっては,当該契約類型や契約内容自体に着目し,
それが当事者が達成しようとした法的・経済的な目的を達成する上で,
社会通念上著しく複雑・迂遠なものであって,到底その合理性を肯認で
きないものであるか否かの客観的な見地から判断した上で,行われるべ
きであるし,課税要件事実の認定に当たっては,真実に存在する法律関
係に即して要件事実の認定がされるべきであり,真実に存在する法律関
係から離れて,その経済的効果や目的に即して法律要件の存否を判断す
ることは許容されないと解され,被告の主張は,このような観点からも
失当である。
本件協議書1条の内容を前提としつつ被告が主張するようにP1が精
密プラスチック用金型等の製造を行っているとの解釈を導くには,本件
協議書が通謀虚偽表示(民法94条)による契約であると解するほかな
いが,P1は,中国国内の多様なカントリーリスク(労働争議,停電,
外貨規制,重い刑事罰等,会社設立等の煩雑な手続等を回避しつつ,)
少額の投下資本で製品を取得できるというメリットが存する来料加工方
式を選択してP7公司との間で本件協議書を作成したのであって,その
法的・経済的な目的を達成する上で,来料加工という委託加工契約の方
式は経済的合理性を有するものであるから,委託加工契約が通謀虚偽表
示となる余地はなく,P1がこのような契約を締結したこと自体から,
自らが本件製品を製造するのではなくP7公司に製品の製造を委託する
意思を有していたことは明らかである。
(エ)香港の法人事業所得税における中国本土における製造活動による販
売所得のうち50%を非課税所得(中国本土内所得)とする旨の取扱い
.()に関する香港内国歳入庁実務指針No21のパラグラフ16乙24
においても,中国の製造主体は香港における製造主体と区分された「請
負業者」であることを前提に,製造事業を行う者のうち原材料の供給等
の一定の条件を満たしたものに上記の取扱いをする旨記載されており,
同実務指針においては,自ら製造を行う製造業者と自らは製造を行わな
い製造問屋の区別をせずに「製造事業」と扱われている上,そもそも,
上記の香港の法人事業所得税に係る取扱いは,措置法上の製造業の概念
とは何ら関連性のない外国税制上のものであるから,P1が上記の税務
上の取扱いを受けているからといって,P1が自らの事業を製造業と認
めていることにはならない。
また,原告は,平成15年3月期及び平成16年3月期の各法人税申
,,「」告書においてはP1の主たる事業につき精密成形品及び金型製造
と記載しているものの「製造問屋」が卸売業に含まれると解されてい,
ることからも分かるように「製造」の用語には製造問屋も含まれると,
解する余地もあるから,上記記載のみから原告がP1の事業が製造業で
あることを自認していたことにはならないし,同様に,P1の商業登記
証にP1の「業務性質」が「MFG」と登録されているからといって,
P1が自らの事業を製造業と認めていることにはならない。
()争点()(所在地国基準の充足の有無)について22
(原告の主張の要旨)
仮に,P1の主たる事業が製造業であり非関連者基準を満たさないとして
も,P1は所在地国基準(措置法66条の6第3項2号)を満たすから,P
1の適用対象留保金額について同条1項は適用されない。
ア同条3項2号(所在地国基準)の趣旨にかんがみれば,その本店所在地
国において資本投下を行っている場合で,その地に所在していることにつ
いて十分な経済的合理性があるか否かを所在地国基準の充足の有無の判定
に当たって重視すべきものと解されるところ,P1の本店が所在する香港
と製造行為を行っているP10工場の所在する東莞市も,①来料加工が定
着している一体的な「地域」であること,②いずれの場所も同じ中国とい
「」,。う国の一部であることから所在地国基準を満たすというべきである
,,イ製造業が製造行為と卸売とから構成されることにかんがみるとP1は
本店所在地たる香港において卸売すなわち製造業を行っているから,所在
地国基準を満たすというべきである。
ウ日本標準産業分類は,事業所が一区画か否か明らかでない場合には,経
営諸帳簿が同一である範囲を一区画として一事業所とし,また,近接した
2つ以上の場所で経済活動が行われている場合には,原則として別の事業
所とするものの,経営諸帳簿が分離できない場合には一区画とみなして一
事業所とすることがある旨規定している(同分類第2章第2項)ところ,
P1の所在地たる香港とP10工場の所在地たる東莞市とは近接した場所
,,,に所在しかつ被告の主張を前提にすれば経営諸帳簿は同一であるから
香港の本店とP10工場とは一事業所と考えるべきであって,所在地国基
準を満たすというべきである。
エ被告の主張を前提とすれば,P1がP10工場の生産管理等を行ってい
るのであるから,販売行為のほかにこのような生産管理等を行っていると
いうP1の本店の負担している機能及びリスクの重さにかんがみれば,本
店所在地国たる香港で主として製造業を行っているというべきであって,
所在地国基準を満たす。
(被告の主張の要旨)
ア①措置法66条の6第1項において租税の負担が著しく低い場所とし
て,法文上「国又は地域」と規定されている趣旨は,ある「国」の中にお
いて,租税の負担がないか又は極端に低く定められた特定の「地域」に所
在する外国関係会社についても外国子会社合算税制の適用対象に含めるこ
ととしたためであると解されること,②同条3項の規定は,内国法人の外
「」,国関係会社が同条1項所定の特定外国子会社等の要件を満たしており
その法律効果として,その課税対象留保金額に相当する金額が,その内国
法人の所得の計算上益金の額に算入されることとなることを前提に,同条
3項に規定する適用除外要件がすべて充足された場合には,同条1項の規
定を「適用しない」という例外を定めたものであるという同条の1項と3
項との条文構造にかんがみると,所在地国基準(同項2号)を満たすため
には特定外国子会社等の本店等が租税の負担がないか又は著しく低い地,「
域」に所在する場合には,その事業を主として本店等の所在する「地域」
について行っていると認められることを要すると解される。
イP1は,その本店が租税の負担が著しく低い「地域」たる香港に所在す
るから,同項の適用を受けるためには,その事業を主としてその本店の所
在する「地域」である香港において行っていると認められることが必要で
あるところ,P10工場における製造行為の経営主体として,その主たる
事業である製造業を主として中国本土のP10工場において行っているも
のであり,香港においてはその主たる事業を行っていないから,措置法施
行令39条の17第5項3号に掲げる要件を満たしておらず,所在地国基
準を満たさない。
()争点()(目的論的解釈による適用除外の可否)について33
(原告の主張の要旨)
仮に,P1の主たる事業が製造業であり非関連者基準を満たさず,また,
所在地国基準も満たさないとしても,措置法66条の6第3項(適用除外)
,,()の立法趣旨にかんがみれば本件では同条1項タックス・ヘイブン税制
を適用すべきでないというべきである(目的論的解釈による適用範囲の限
定。)
すなわち,タックス・ヘイブン税制は,我が国の法人(内国法人)が我が
,,国での租税の負担を不当に減少させるために軽課税国に子会社等を設立し
これを利用して租税回避を行う行為を防止することを目的として立法化され
た制度であり,他方で,国際化の流れから我が国の法人(内国法人)が海外
に進出して実体のある経済活動を行うことは何ら不当な行為ではないから,
経済的合理性のある正常な海外投資活動についてまで適用されることがない
ように配慮することも,同税制の重要な立法目的であった。そうすると,当
該国において実体のある特定外国子会社等(実体基準及び管理支配基準のい
ずれも満たすもの)が,経済的合理性のある活動を行っているにもかかわら
ず,同条3項の適用除外要件のうち,特に「事業」によって基準が異なる形
式を採用している非関連者基準及び所在地国基準について,これを形式的に
適用すると適用除外とならず,同条1項が適用される結果,我が国企業の国
際競争力を弱めるというような事態が生じる場合には,同条1項は適用され
ないというべきである。
本件では,P1は,中国に製造子会社を設立している顧客と取引せざるを
得ない市場状況がある一方,中国国内の多様なカントリーリスクを回避する
必要から,中国に自ら出資した現地法人を設立するのではなく委託加工(来
料加工)取引を選択したのであって,本件の委託加工取引は企業活動として
経済的合理性のあるものである上,日本企業の対香港投資は,累計3兆円を
超え,来料加工は,日系企業の委託工場だけで少なくとも約4000工場に
及ぶことなどからすれば,同条1項が適用される結果,我が国企業の国際競
争力を弱めるというような事態が生じる場合に該当することも明らかであ
る。
(被告の主張の要旨)
措置法66条の6は,いわゆる国際的な租税回避行為を防止するためのタ
ックス・ヘイブン税制として立法されたものであり,1項において同税制が
適用される特定外国子会社等を定義した上で,3項において適用除外要件を
定め,特定外国子会社等が独立企業としての実体を備え,かつ,その所在地
国で事業活動を行うことについて十分な経済的合理性がある場合には,1項
の規定を適用しないとして,課税要件を明確かつ具体的に定め,その適用範
囲を国際的な租税回避の事案に限定するとともに,法の適正な執行が担保さ
れるようにした規定であると解される。このような同条3項の趣旨に照らせ
ば,同項の適用除外要件を充足しない特定外国子会社等は,同法の適用上,
租税の負担軽減以外の積極的な経済的合理性がないものとみなされるという
べきであるから,同条1項の規定が適用されることは明らかであって,原告
主張のように「我が国企業の国際競争力を弱めるというような事態が生じ,
る場合」には同条1項が適用されないと解することは,当該要件が不明確か
つ抽象的である上,法律に規定が置かれていない適用除外要件を創設するに
等しいものであり,法執行の安定性を著しく害するものであって,原告独自
の解釈にほかならず,失当であることは明らかである。
第3当裁判所の判断
1争点()(非関連者基準の充足の有無(P1の主たる事業は卸売業か製造業1
か)について)
()ア措置法66条の6第1項(タックス・ヘイブン税制)の規定は,内国1
法人が,法人の所得等に対する租税の負担がないか又は極端に低い国又は
地域に子会社を設立して経済活動を行い,当該子会社に所得を留保するこ
とによって,我が国における租税の負担を回避しようとする事例が生ずる
ようになったことから,課税要件を明確化して課税執行面における安定性
を確保しつつ,このような事例に対処して税負担の実質的な公平を図るこ
とを目的として,一定の要件を満たす外国会社を特定外国子会社等と規定
し,これが適用対象留保金額を有する場合に,その内国法人の有する株式
等に対応するものとして算出された一定の金額を内国法人の所得の計算上
益金の額に算入することとしたものであると解される(最高裁平成17年
(行ヒ)第89号同19年9月28日第二小法廷判決・民集61巻6号2
486頁参照。)
そして,同条3項(適用除外)の規定は,特定外国子会社等の所在地国
における事業活動が正常なものとして経済的合理性を有する場合にまでタ
ックス・ヘイブン税制の対象とすることは,我が国の民間企業の海外にお
ける正常かつ合理的な経済活動を阻害することになるので適当ではないと
考えられることから,課税要件を明確化して課税執行面における安定性を
確保しつつ,正常かつ合理的な経済活動につき同税制の適用を除外する目
的で,当該特定外国子会社等が独立企業としての実体を備え,かつ,その
行う主たる事業が十分な経済的合理性を有すると考えられる一定の場合に
関して,具体的かつ明確な要件を定めて,例外的に,同税制(同条1項)
の適用除外を認めたものであると解される。同条3項においては,適用除
,,,外が認められるためには事業基準実体基準及び管理支配基準のほかに
その行う主たる事業に応じて,非関連者基準又は所在地国基準を満たすこ
とが必要とされているところ,これは,①本店所在地国において資本投下
を行い,その地の経済と密接に関連して事業活動を行っている場合には,
その地に所在していることについて十分な経済的合理性の存在を推認し得
ることから,同項1号に掲げる事業以外の事業(製造業,小売業,農業,
林業,水産業等)が主たる事業の場合については,その事業を主として本
店所在地国において行っている場合として政令で定める場合に該当すると
きは,所在地国基準を満たすものとして,適用除外を認めるが,②同号に
掲げる事業(卸売業,銀行業,信託業,証券業,保険業,水運業又は航空
運送業)が主たる事業の場合については,その事業活動が必然的に国際的
にならざるを得ず,これらの事業を営む特定外国子会社等に対して地場経
済との密着性を重視する所在地国基準を適用することには無理があり,そ
れよりも,その事業の根本が関連者以外の者との取引から成っているか否
かという基準によって事業が十分な経済的合理性を有するか否かを判断す
るのが適切であると考えられたことから,上記事業が主たる事業の場合に
ついては,所在地国基準によるのではなく,その事業を主として当該特定
外国子会社等に係る関連者以外の者との間で行っている場合として政令で
定める場合に該当するときは,非関連者基準を満たすものとして,適用除
外を認めることとしたものと解される。
,「」,そして上記のとおりの適用除外制度の趣旨及びその行う主たる事業
「その事業を主として(中略)行っている場合」等とする根拠条文の事実
状態に即した文言・内容等にかんがみると,非関連者基準又は所在地国基
準のいずれが適用されるかを決するための特定外国子会社等の「主たる事
業」の判定(製造業又は卸売業のいずれであるか等の判定)は,現実の当
該事業の経済活動としての実質・実体がどのようなものであるかという観
点から,事業実態の具体的な事実関係に即した客観的な観察によって,当
該事業の目的,内容,態様等の諸般の事情(関係当事者との間で作成され
ている契約書の記載内容を含む)を社会通念に照らして総合的に考慮し。
て個別具体的に行われるべきであり,関係当事者との間で作成されている
契約書の記載内容のみから一般的・抽象的に行われるべきものではないと
解するのが相当である。
イところで,本件では,P1の主たる事業が卸売業であるか製造業である
かが争点となっているが,卸売業と製造業との相違点をみるに,一般的に
,,,みて製造業が自ら製品を製造した上で販売する事業であるのに対して
卸売業は,同じく製品の販売を行うものの,自ら製品を製造するのではな
く,他者が製造した製品(委託加工製品を含む)を購入した上で販売す。
る事業であると解される。そこで進んで,製造行為の内容をみるに,その
本質は,①製造を行うための生産設備(工場建物,製造設備等)を整え,
②製造を行うための人員(監督者,技術者,単純労働者等)を配置して製
造ラインを整え,③原材料・補助材料等を調達して製造ラインに投入する
ことによって製品の生産を行うことにあると考えられる(製造行為は,こ
のように物的施設,人的態勢等を必要とするからこそ,前記アのとおり,
所在地国基準が導入されたのであって,卸売業については,これらの施設
等を必ずしも必要としないために,所在地国基準ではなく非関連者基準が
導入されたものと考えられる。そして,製造行為を行うことによって,。)
最大の利潤を獲得するためには,品質・コスト・納期を適切に管理して,
顧客の満足を得ることが不可欠であるところ,上記管理を適正かつ効果的
に行うために,製造業においては,一般的に,<A>当該会社の設立目的を
踏まえつつ,<B>(a)人員の組織化,(b)事業計画の策定,(c)生産管理
(品質管理,納期管理を含む)の策定・実施,(d)生産設備の投資計画。
の策定,(e)財務管理(損益管理,費用管理,原価管理,資産・資金管理
等を含む)の実施,(f)人事・労務管理の実施が行われているところで。
ある。
ウこれらの製造業の特質を踏まえ,前記アの「主たる事業」の判定に当た
っての基本的な考え方に従って考えると,特定外国子会社等の主たる事業
が製造業に当たるか卸売業に当たるか,すなわち,販売する製品の製造を
自ら行っているか否かを判断するに当たっては,現実の当該事業の経済活
動としての実質・実体がどのようなものであるかという観点から,(ア)製
品製造のための①生産設備(工場建物,製造設備等)の整備,②人員(監
督者,技術者,単純労働者等)の配置及び③原材料・補助材料等の調達等
への当該特定外国子会社等の関与の状況を踏まえた上で,(イ)<A>当該特
定外国子会社等の設立の目的,<B>製品製造のための(a)人員の組織化,
(b)事業計画の策定,(c)生産管理(品質管理,納期管理を含む)の策。
定・実施,(d)生産設備の投資計画の策定,(e)財務管理(損益管理,費
用管理,原価管理,資産・資金管理等を含む)の実施及び(f)人事・労。
務管理の実施等への当該特定外国子会社等の関与の状況等を総合的に考慮
した上で,(ウ)製品の製造・販売を行うために関係当事者との間で作成さ
れている契約書の記載内容も勘案しつつ,事業実態の具体的な事実関係に
即した客観的な観察によって,社会通念に照らして個別具体的に判断すべ
きものと解される。
()そこで,上記()の判断の枠組みに従って,P1の主たる事業が卸売業21
か製造業かについて検討するに,前記前提事実並びに掲記の証拠及び弁論の
全趣旨によれば,次の事実が認められる。
アP1の設立状況等
(ア)P1の事業計画
P1の設立に際し1995年(平成7年)5月24日付けで作成され
た「P5事業計画(乙23)には,①事業展開戦略に関して,(a)経」
営体系として,P1は「P11本社を管理拠点とし,P10工場(委,
)」,「,,託加工を製造拠点とするとしP11本社機能を経営管理経理
,,」,「,,輸出入営業資材調達P10工場機能を成形品製造金型製造
,」,,金型メンテと位置付けるとともに(b)成形事業戦略としてASSY
「精密成形品(エンプラ)を製造する」等と,金型事業として「成形,
品質の確保を優先し,金型メンテを重点業務とする」等とP10工場の
機能に関して具体的な事業戦略を定められ,②董事長,総経理及び董事
会の下にP11本社管理部とP10工場とが一体として表記された組織
図並びにP10工場の機能である成形事業及び金型事業に関する事業内
容図が添付されている(乙23)。
(イ)本件合弁契約
,,原告■■■■■■■■■らの間で締結された本件合弁契約の概要は
次のとおりである(乙1)。
a本件合弁契約は,香港国内に精密合成樹脂製品製造販売及び金型の
製造販売を主目的とする新会社としてP1を設立することに合意する
ものである(前文。)
b原告,■■■■■■■■■らは「香港に新会社を設立し,中華人,
民共和国東莞市に委託加工工場を新設して(中略)精密樹脂金型,成
形部品等の製造販売活動を強化してゆく」ことに合意し,この趣旨の
下に,本件合弁契約に基づき合弁事業を行う(本契約の主旨。)
c新会社は,原告の製造した金型及び新会社自らが製造した金型を使
用し,精密合成樹脂製品製造を行うものとする(10条。)
d新会社は,操業上必要とする精密合成樹脂製品製造のための成形樹
脂材料及び設備を,原則として■■■■■■■■■より購入するもの
とする(11条。)
e新会社の事業の目的は,(a)合成樹脂部品及び金型の製造並びに販
(。),,売輸出入も含む(b)合成樹脂部品を中心にした機器類の組立て
(c)光学部品及び光学機器の製造並びに販売,(d)これらに付帯する
一切の業務である(12条。)
(ウ)商業登記簿等
P1は,香港の商業登記簿において,その「業務性質」について製造
業を意味する「MFG()と登記している。なお,P」Manufacturing
1は,そのパンフレットにおいても,その製造技術,製造工程,品質管
理等についてP10工場の写真とともに紹介しており,また,パンフレ
ットの背表紙には,P10工場が,P11本社と並んで「工廠地址」,
及び「」として記載されている(乙27,28)ChinaPlant。
(エ)職務分掌
P1のP12副総経理(当時)が2000年(平成12年)3月31日
付けで作成した「P6公司(2000年4月1日改名)■■■■■,
■電子廠(P10工場)金型工場規模拡大実施計画書(乙10)中」
の「職務分掌」においても,①総経理において,活動計画,事業計画,
,,,,,,,実績組織人事資産管理安全衛生防災等を②管理部において
労務・厚生・安全衛生,教育計画・工場保全,利益管理・財務管理・資
産管理,原価管理等を,③販売部において,市場開拓,見積り,受注折
衝,受注決定,顧客競合調査及びクレーム・苦情受付を,④生産管理部
において,事業計画立案・実行,事業利益管理,事業実績管理・在庫管
理,生産計画立案・実行,購入統括管理等を,⑤品質保証部において,
量産品質管理・保証及び量産クレーム対応を,⑥金型部において,量産
金型メンテナンス・取り数確保,量産品質クレーム対応等を担当する旨
の記載がされており,これらの各業務を所掌する各部署の責任者の大半
は,原告からP1への出向者が充てられているほか,金型設計・試験成
形・測定・判定等に関しても原告からP1への出向者が責任者として充
てられるなどしている(乙9,10)。
イ本件各契約書の内容
前記前提事実()及び()のとおり,P1は,いずれも中国当局(東莞45
市又はα)の100%出資により設立されたP7公司,P8公司及びP9
合作社との間で,本件協議書等,本件借用契約書及び本件経営契約書を作
成しているところ,まず,本件P1各事業年度及びその前後の事業年度に
おけるP1とP9合作社との間の工場等の賃借等に係る本件借用契約書の
内容並びに両社間の経営請負等に係る本件経営契約書の内容について概観
し,次いで,P1とP7公司との間でP8公司を商務代理として作成され
た本件協議書等の内容を概観する。
(ア)本件借用契約書の内容
P1とP9合作社との間で2003年(平成15年)3月31日付け
及び2005年(平成17年)1月15日付けで作成された本件借用契
約書の概要は,次のとおりである(乙6の1,同6の2の1・2)。
aP1は,P9合作社から,■■■■■■■■■■■■■■に所在の
P9合作社の工場建物及び従業員宿舎(平成17年借用契約書では,
宿舎1階は店舗に変更されている。以下,これらを併せて「工場等」
ともいう)を賃借し,毎月賃借料を支払う(本件借用契約書1条。。)
b工場等を借用する期限は,2000年(平成12年)1月15日か
ら2005年(平成17年)1月14日まで(平成15年借用契約書
2条)及び同月15日から2007年(平成19年)1月14日まで
(平成17年借用契約書2条)とする。
c賃借料の算出方法は,工場は1平方メートル当たり■■香港ドル,
宿舎は1平方メートル当たり■■香港ドルとする(平成15年借用契
約書3条。なお,上記賃借料の算定方法は,2003年(平成15)
年)4月1日から,工場及び宿舎はいずれも1平方メートル当たり■
■香港ドルとされ,平成17年借用契約書では,工場及び宿舎は1平
方メートル当たり■■香港ドルとされ,宿舎一階店舗の賃借料は毎月
■■香港ドルに改定された(平成15年借用契約書追加改定5条及び
平成17年借用契約書3条。)
dP1が支払った工場等の建設保証金■■■■香港ドルは,工場等の
賃借料として,本保証金をすべて差し引き終えるまで,毎月P9合作
社へ充当する(平成15年借用契約書4条。)
e加工費の決算は,■■■で計算し,P9合作社がP1に支払う(平
成15年借用契約書5条。ただし,2002年(平成14年)7月)
1日以後は,P1が加工費を振り込み,中国の法令によって控除され
る部分と手続費を除いた残額がP1へ返却されるものの,P1は,毎
月定額で■■■■■■人民元の管理費をP9合作社へ支払わなければ
ならないこととなった(平成15年借用契約書追加改定3条及び平成
17年借用契約書4条。)
fP1が借用契約期間中に中途解約する場合には,必ず3か月前まで
にP9合作社に通知し,併せて3か月分の賃借料をP9合作社に支払
わなければならない。期限が満了した後は,P1は市場価格によって
優先的に契約することができる。P9合作社が借用契約期間中に中途
解約する場合には,必ず協議を経て,双方の同意の下に解約を成立さ
せることができるものとする(平成15年借用契約書6条及び平成1
7年借用契約書5条。)
g借用の期限満了又は中途解約の際には,P1の追加建築物及び不動
産については持ち出すことができず,これらはP9合作社の所有に帰
する(平成15年借用契約書7条及び平成17年借用契約書6条。)
hP9合作社の責務
(a)P9合作社は,水道管・電気路線につき責任をもって工場の傍
,,らまで引き込み併せてP1の使用する電気を供給する責任を負い
正常に電気が利用できることを保証する。P1は電気容量増設費を
支払う必要はない(平成15年借用契約書8条1項,追加改定4条
及び平成17年借用契約書7条1項。)
(b)P9合作社は,責任をもってP1が工場のいかなる手続におい
ても問題なく処理できるよう協力して,P1が順調に生産活動に投
入できるよう便宜を図る。また,P9合作社は,P1の消防環境敷
設作業に協力する責任があるが,その費用はP1が負担する(平成
15年借用契約書8条2項及び平成17年借用契約書7条2項。)
iP1の責務
(a)P1は,P9合作社に対し,毎月15日以前に当月の賃借料を
支払わなければならず,支払がされない場合には,P9合作社がP
1に対し月■■%の利息を追徴する権利を有するものとする(平成
15年借用契約書9条1項及び平成17年借用契約書8条1項。)
(b)P1は,中国及び当地の関連する法律・条例の規定並びに外国
投資企業の中国国内投資優遇策にのっとる以外は,条例の規定によ
って各種税金を納め,財政・税務部門の監督管理を受ける(平成1
5年借用契約書9条2項及び平成17年借用契約書8条2項。)
(c)P1は,定められた期日に従業員戸籍及び労働保険の申請をす
る(平成15年借用契約書9条3項及び平成17年借用契約書8条
3項。)
(d)P9合作社は,工場長及び報関員各1名をP1へ委託派遣し,
P10工場の関連業務の処理に協力する。ただし,工場長及び報関
員の給与はP1が負担し,■■■■人民元を下回ってはならない。
仮に,P9合作社がP1に派遣した工場長及び報関員がP1の要求
する職務を全うできない場合は,P1は解雇をする権利を有し,再
度,P9合作社に委託派遣を要請するものとする(平成15年借用
契約書9条4項及び平成17年借用契約書8条4項。)
j本件借用契約書において記述のない事項については,P9合作社及
びP1の双方は,今後平等な相互利益の原則に基づき協議をもって解
決しなければならない。借用契約は,双方の社印の捺印及び責任者の
署名後有効となるものとし法律と同等の効力を有するものとする平,(
成15年借用契約書10条及び平成17年借用契約書9条。)
(イ)本件経営契約書の内容
P1とP9合作社との間で2004年(平成16年)7月8日に作成
した本件経営契約書の概要は,次のとおりである。なお,P1は,契約
書の作成はされていないものの,本件経営契約書が作成された同日以前
から,P9合作社との間で,本件経営契約書の内容と同様の経営請負契
約を締結していた(甲37,弁論の全趣旨)。
a請負内容(1条)
P1(請負者)は,P9合作社(委託者)のP10工場の経営を請
負う。
b経営請負期間(2条)
()()2005年平成17年5月28日から2015年平成27年
5月28日までの10年間
c請負者が支払う請負費用額(3条)
P1は,人民元に決済した加工費をP9合作社が指定した銀行口座
に振り込む。その後,P9合作社は,両当事者が協議した実際の金額
に従いP1に返還する。
d両当事者の権利及び義務(4条)
(a)P9合作社は,請負契約の規定に基づきP1による請負対象企
業の資産を管理監督し,企業の適法な経営,法に従った納税を監督
し,適切に指導し,調整し,手当てする(同条1項。)
(b)P1は,請負期間中,国家の法律・規定が認める範囲内におい
て,企業の生産経営管理につき権利を有し,全面的に責任を負い,
すべての生産経営管理権を行使し,企業のすべての経営コストを負
担する(同条2項1号。)
(c)P1は,国の法律・法規を遵守し,契約を厳格に履行し,P9
合作社の監督を受け,法律・法規の規定に従い従業員の合法的な権
益を保護する(同項2号。)
(ウ)本件協議書等の内容
P1とP7公司との間で1995年(平成7年)5月29日付けでP
8公司を商務代理として作成された本件協議書等の概要は,次のとおり
である(甲8,乙4の1・2,同5)。
aP8公司,P7公司及びP1は,精密プラスチック用金型・精密プ
ラスチック材料射出成形の来料加工業務について契約をすることにし
た(本件協議書前文。)
b双方の責任(本件協議書1条)
(a)P1は「借用」の方式で加工生産に必要な設備を提供し,借,
用設備の所有権はP1に帰属する。
(b)P1は,無償ですべての原料,補助材料及び包装物資を提供す
る。
(c)P7公司は,相応の工場建物,電力及び労働力を提供し,協議
書有効期間中,P1のために加工生産を行い,P1から加工費又は
工場賃貸料,土地使用料及び管理費を受領する。
(d)P7公司は,製品をすべてP1へ輸出する。
(e)P1は,設備提供後,できるだけ早期に技術者をP10工場へ
派遣し,設備の取付け及び技術指導を行う。
(f)P1は,P10工場へ派遣した技術者の資金,出張旅費,電話
費,生活用電気,食費及び宿泊費を負担する。
c加工費総額(本件協議書2条)
1年目の加工費総額は,■■■香港ドルとする。2年目以降の加工
費総額は,1年目を基礎として幾分増加させる。年間増加率は■■■
以上とする(なお,本件継続協議書により,本件継続協議書の効力が
発生した1年目の加工費の総額は■■■香港ドルとなり,2年目以降
の加工費の総額は継続協議書の1年目の金額を基礎として毎年■■■
ずつ増加する旨変更された。。)
d加工費の計算(本件協議書3条)
(a)来料加工の加工費は,■■■■に基づき価格を決めるか,ある
いは■■■■■で価格を決める。試生産期間中,P1は,一人当た
り毎月■■■香港ドルをP7公司へ支払う(第1期は■■人,以後
は■■人。試生産期間満了後は,工場内の従業員数で計算し,一)
人当たりの加工費が毎月平均(月26日勤務,1日8時間労働)■
■■香港ドル以上であることとする(同条1項。)
(b)P7公司は,責任をもって工場建物及び用地を提供する。工場
建物面積は1200平方メートルとする(同条2項。)
e社会基礎施設費(本件協議書4条)
企業が国外の労働者を雇用する場合,現地の労働部門へ社会基礎施
設費を納めなければならない。国外の労働者数により計算し,一人当
たり毎年■■■人民元とする。
f品質責任,試生産期間及びロス率,二級品率(本件協議書5条)
(a)P1は,人員をP10工場へ派遣して製品品質の検収を行う。
(b)原料・補助材料が基準に合致しないこと,又は技術指導を間違
えたことにより廃品・二級品が発生した場合には,P1が責任を負
担する。加工をやり直さければならない場合,費用はP1が負担す
る。
g原料供給及び引渡期限(本件協議書6条)
P1は,本件協議書に規定する加工量に応じて,毎月十分な数量の
原料・補助材料及び包装物資を提供することを保証する。P10工場
が正常に生産できるように,P1は各ロット製品の生産の15日前ま
でに,必要な原料・補助材料をP10工場へ運び込まなければならな
い。P1の業務を正常に発展させるため,P10工場は双方が話し合
った具体的納品期限に基づき,所定の期日,種類,数量により加工品
を引き渡す。具体的事項は,個別契約を締結する際に取り決める。
h支払方式(本件協議書7条)
,,。P1は加工費を香港のP13銀行を通してP7公司へ振り込む
所定の期日を過ぎても振り込まれない場合,P1は,香港のその時の
銀行利率に基づいて利子を計算し,P7公司へ支払うものとする。必
要な場合,P7公司は,出荷を停止することができる。
i運輸(本件協議書8条)
P1は,原料・補助材料及び製品の輸出入に関して,香港からP1
0工場までを往復するのに必要な運送料や雑費を負担する。
j保険(本件協議書9条)
(a)P1は,原料・補助材料及び包装物資の運び込み並びに製品の
運び出しに対して,総合保険に加入する。P1は,生産設備,工場
の原料・補助材料,包装物資,半製品及び製品に対して財産保険,
火災保険に加入する。
(b)双方は,全従業員が社会労働保険に加入し,賃金比率に応じて
社会労働保険金を収めることに同意する。
kその他(本件協議書13条)
(a)P1は,加工費総額の■■■■■■■を通商港費用として支払
うものとし,P7公司が領収書を発行すると同時に支払う。
(b)企業は,労働者の募集,業務の手配,工場施設等については,
労働安全衛生管理条例及び中華人民共和国消防条例に基づき執行す
るものとし,労働者の合法的権益を保障しなければならない。労働
者のために労働安全衛生要求に合致した労働場所及び生活施設を提
供して,労働者の身体の健康を保障しなければならない。
ウP1の組織・資本投下・人材配置状況等
(ア)P1は,本件P1各事業年度当時,その総経理が承認印を押印して
いる組織図上,董事長及び総経理の下に,P11本社及びP10工場か
ら構成されており,2002年(平成14年)10月1日当時,P11
本社には,会計管理課(後の財務部)が,P10工場には,管理部のほ
かに,第1事業部,第2事業部及び品質保証部が置かれ,第1事業部の
下に,販売統括部(その下に販売部がある,金型統括部(技術部及び。)
金型部から構成される)及び製造統括部(品質管理部,生産管理部,。
第1製造部及び第2製造部から構成される)が,第2事業部の下に,。
組立統括部(レンズ組立部及び成形組立部から構成される)が置かれ。
ており,董事長に原告の代表取締役(当時)が就いていたほか,①総経
理及び副総経理,②P11本社の会計管理課長(後の財務部長,③P)
10工場の第1事業部長(副総経理,第2事業部長(副総経理,品質))
,,,,,保証部長販売統括部長製造統括部長組立統括部長品質管理部長
生産管理部長等の部長以上の管理職の大半に,原告からP1に出向(海
外赴任)した社員が就いていた。その後,組織改編が行われたものの,
本件P1各事業年度当時,一貫して,P1の董事長に原告の代表取締役
(当時)が就いており,総経理及び副総経理並びに部長以上の管理職の
大半に原告からP1への出向者が就いていた(乙8の1ないし4,同。
9)
(イ)P1は,2002年(平成14年)ころ,P10工場においてISO
規格(国際標準化機構(ISO)が策定した国際的な標準規格)のうち
ISO9001(品質管理及び品質保証に係る規格)及びISO1400
1(環境管理に係る規格)の認証を取得することを計画し,総経理,副
総経理,品質保証部長等の各主要部の長に対して品質管理及び品質保証
並びに環境管理に係る職務分担を明確化する品質環境マニュアルを策定
する等の作業を経て,そのころ,ISO9001及びISO14001
の認証を取得し,認証取得後も品質管理及び品質保証並びに環境管理に
。,関して上記認証取得時の職務分担に沿った分担を継続しているそして
品質管理及び品質保証並びに環境管理に係る職務を分担している総経
理,副総経理,品質保証部長等の各主要部の長の大半は,原告からP1
への出向者によって占められていた(乙8の1ないし4,同9,11。
の1ないし3,同28,34)
(ウ)P1のP11本社は,香港のオフィスビルの一室(平成7年6月か
ら平成15年12月までは,約146.9㎡,平成16年1月以後は,
約98㎡の事務所)を賃借した場所に所在し,原告からP1への出向者
■名(P1の会計管理課長(後に組織改編により財務部長)及び香港)
でP1に現地採用された■名の従業員によって,輸出入業務,販売業務
及び経理財務業務が行われていた。これに対し,原告からP1への出向
者のうちαに居住しP10工場で稼働していた者は,2002年(平成
14年)には■■名,2003年(平成15年)には■■名,2004
(),,,年平成16年には■名でありこれらの者がP10工場の総経理
副総経理,部長等の管理職に就いていた(甲69,70,乙8の1な。
いし4,同9)
(エ)P1においては,後記エ(ア)のとおり,P11本社とP10工場を
一体のものとした事業計画が策定されているが,P1作成の「2002
年度年度計画書(計画検討資料)2001年12月26日事業部
名:P6公司■■■■■■電子廠(乙11の1。以下「2002年」
度計画書」という)によれば,例えば,2002年1月において,P。
11本社に■名,P10工場に合計■■■名の人員を配置することが予
定され,同社作成の「2003年度年度計画書(計画検討資料その
2)2002年12月28日会社名:P6公司(乙11の2。以」
下「2003年度計画書」という)によれば,例えば,2003年1。
月において,P11本社に■名,P10工場に合計■■■名の人員を配
置することが予定され,同作成の「2004年度年度計画書200
4年3月19日会社名:P6公司(乙11の3。以下「2004年」
度計画書」という)によれば,例えば,2004年1月において,P。
11本社に■名,P10工場に合計■■■名の人員を配置することが予
定されていた。また,費用(年間)については,2003年度計画書に
よれば,P1全体で■■■■■■■■■■■香港ドルの,P11本社で
■■■■■■■■香港ドルの各発生が予定され(P11本社・約■■■
%,P10工場・約■■■■%,2004年度計画書によれば,P1)
全体で■■■■■■■■■■■■円の,P11本社で■■■■■■■■
■円の各発生が予定されていた(P11本社・約■■■%,P10工場
・約■■■■%(乙11の1ないし3))。
エP10工場の事業計画等の策定・管理
P1は,2002年度計画書,2003年度計画書及び2004年度計
画書(以下,併せて「本件各年度計画書」という)において,P11事。
務所及びP10工場を一体のものとして事業計画等を策定・管理してお
り,その概要は,次のとおりである(乙11の1ないし3)。
(ア)年度方針実施計画書
P1は,本件各年度計画書中の「方針実施計画書」において,①(a)
「高収益を確保し,限りなく発展できる企業を目指す(技術立社,品」
質保証,環境管理で顧客に信頼される企業グループを目指す等の内容)
等の経営ビジョン,(b)「技術・品質の日新を目指すこと」等の運営方
針,(c)「戦略事業の強化・拡大・・・国際生販総合力の発揮「生産革」,
,」新・・・国際原価競争力の強化と顧客満足が得られる工場インフラ整備
,「「」等の中期重点政策等の内容を盛り込んだ中期構想を示し②デフレ
に即したQCDの抜本的見直し」等の内容を盛り込んだ経営方針を策定
し,③主としてP10工場における業務に関して顧客関連プロセス,設
計・開発プロセス,生産プロセス等の観点から多角的に前年度実績の検
証と改善課題の定立を行い,④「戦略事業分野の増販強化。技術の高度
化「生産革新・品質革新」等の内容を盛り込んだ重点施策を策定した」,
上で,⑤P10工場の製造各部門に関して,前年度の売上げ及び経常利
益・営業利益の実績又は見込み等を踏まえ,各年度の事業計画を決定し
ている。
(イ)主要(重点)プロジェクト
P1は,本件各年度計画書において,主要(重点)プロジェクトを策
定し,P11本社及びP10工場の販売部,金型統括部,製造部,品質
管理部等の各製造部門について,重点施策,目標,スケジュール等を決
定しているが,その具体的な内容は,P11本社については「流動資,
金効率化「会計連結対応処理速度」等を掲げるとともに,P10」,UP
,,「」,工場については①生産計画・効率に関して金型製作スピードUP
「,」,「」,,稼働率サイクル短縮生産効率向上等を②品質管理に関して
「」,「」,「」,品質水準向上再発クレーム不良の撲滅顧客クレーム数削減
「クレーム是正処理力向上」等を,③納期管理に関して「検収期間短,
縮「初期納期管理「納期遅延改善・維持」等を,④材料管理に関」,」,
して「材料の統一化,不必要在庫処理「材料在庫金額削減」等を,,」,
⑤製造コスト管理に関して「原価改善「不良品返却処理徹底「金,」,」,
」,,,「」型原価低減事務用品交通費水道代及び電気代に係る経費削減
等を,⑥新事業展開に関して「PL生産立上げ」を,⑦技術の差別化,
に関して「一般ハスバギア量産化「ハイサイクル成形スペックアッ,」,
プ」等を掲げるというものである。
(ウ)合理化計画
P1は,本件各年度計画書において,製造各工程に関して,コスト削
減,生産効率向上,製品・材料に係る在庫金額削減,品質向上・維持,
個別原価の見直し・改善,原価改善等につき,各工程に関する課題・問
題の分析を行った上で,具体的な目標値を定めて推進内容を決め,各工
程の合理化計画を策定している。
オP10工場における生産設備の所有・管理状況
(ア)P1は,前記イ(ア)aのとおり,本件借用契約書に係る契約に基づ
き,P9合作社からP10工場の工場等を賃借して製造の用に供してお
り,賃借料を支払っているが,P10工場において製造のため使用され
ている製造設備については,前記イ(ウ)b(a)のとおり,本件協議書に
,,係る契約に基づきP1は借用の方式で加工生産に必要な設備を提供し
借用設備の所有権はP1に属することとされており,P1は精密プラス
チック用金型等の製造の用に供する機械設備を自社の所有のままP10
工場に設置している。そして,P1は,P10工場に設置した機械設備
につき,固定資産台帳及び財務諸表上も,自社の固定資産に計上し,減
価償却を行って製造原価に算入している(乙16の1ないし3,同1。
7の1ないし3)
(イ)P1は,本件各年度計画書の「設備計画表」のとおり,各年度ごと
に,P10工場の各製造部門の設備投資計画を定めており,当該計画の
実行に当たっても,例えば,2003年(平成15年)には,PL増産
に対応すべく成形機,蒸着機等を増設するためのP10工場のPLレイ
アウト二期工事の実施について,P1のPL生産部長が起案し,P1の
総経理及び副総経理の決裁を経た上,原告の代表取締役らが決裁し,2
004年(平成16年)には,P10工場へのCAD設備の導入につい
て,P1の技術統括部長が起案し,P1の総経理が決裁した上,原告の
代表取締役らが決裁するなど,P1及びその親会社である原告側が主導
的に決定を行っている。また,P1における定時株主総会においては,
P10工場での精密プラスチック用金型等の製造に係る収支を含んだ営
業報告,決算報告及び利益処分案の承認等が行われるとともに,P10
工場への設備投資計画生産計画等が議案又は報告事項とされているな,(
お,P1の株主総会がP10工場内の会議室で開催されることもあっ
た(乙11の1ないし3,同18,19,29の1・2,同30の。)。
1・2)
(ウ)P1は,製造設備等を増設して工場の規模を拡大することの検討に
当たっては,当該増設により達成すべき目標等を明確に定め,工数,損
益の目論見等の検討を経た上で,その当否の決定を行うとともに,増設
による所期の目標が効果的に達成できるようにするため,原告からP1
への出向者等のP10工場における職務分掌を改めて定めるなどの措置
を講じてもいる(乙10)。
カP1の財務管理状況
(ア)P10工場における損益計画,総費用発生計画及び原価管理
P1は,本件各年度計画書において,P11本社とP10工場を一体
のものとして扱い,得意先別売上計画を立て,前年度の実績又は見込み
を踏まえて,P10工場における成形製造部,金型部,成形組立部等の
各製造部門ごとに,損益計画及び総費用発生計画を策定するとともに,
各製造部門別の人員計画,合理化計画及び設備計画を織り込んだ総合的
かつ詳細な計画を策定し,全体的な損益管理を行っている。そして,上
記損益計画の策定に当たっては,P10工場の運営に係る費用が,各製
造部門ごとに,①主要材料費,購入部品外注(購入部品費,外注加工費
及び購入その他,直接労務費等の「直接費,②間接材料費,間接労務)」
費,減価償却費及び経費の「間接費,③共通費(労務費,共通費(経」)
費,技術費(労務費)及び技術費(経費)の「共通費」に区分されて)
算出されるなどした上で「製造原価」が算出され「売上高」からこの,,
「」「()」()製造原価及び本社費管理費P11本社における総発生費用
が控除されるなどして「営業損益」及び「経常利益」が算定されてい,
るのであって,各製造部門ごとの原価管理に基づいて損益計画が策定さ
れている。また,総発生費用計画の策定に当たっても,P11本社及び
P10工場の費用が,P11本社及び各製造部門ごとに,①主要材料費
及び購入部品外注部品費(購入部品費,外注加工費及び購入その他)の
「」,「」,直接材料費②補助材料費及び消耗工具治具備品費の間接材料費
③間接給与,直接給与等の「労務費,④福利費,厚生費,電気・ガス」
・水道料,租税科金,保険料,運送費等のその他の費用に区分されて,
「総発生費用」が算定されている(乙11の1ないし3)。
(イ)P10工場に係る資金管理及びP1における会計帳簿上の処理等
a本件協議書7条においては,P1は,加工費を香港のP13銀行を
通して,P7公司へ振り込む旨規定されていたが(前記イ(ウ)h,)
①平成15年借用契約書5条においては,加工費のうち■■%をP9
合作社が取得した後,残余をP9合作社がP1に支払う旨定められ,
②平成15年借用契約書追加改定3条及び平成17年借用契約書4条
においては,2002年(平成14年)7月1日以後は,P1が加工
費を振り込み,中国の法令によって控除される部分と手続費を除いた
残額がP1へ返却されるものの,P1は,毎月定額で■■■■■■人
民元の管理費をP9合作社へ支払わなければならないこととなった
(前記イ(ア)e(甲53の4,同70,乙20の1・2,同21,)。
22)
b(a)P1は,上記aのとおりの契約内容に沿って,本件P1各事業
年度当時,製品ごとに決められた単価(P10工場からの申請に基づ
き東莞市対外貿易経済合作局から適正なものであるとして許可を得た
もの。おおむね■■■人民元に設定されていた)に製造数量を乗じ。
て算出された金額を,製造の翌月5日から10日までの間に,P10
工場名義の銀行預金口座に振込送金していたが,この送金額のうち,
■■が東莞市(P8公司の出資者)により,■■がα(P7公司の出
資者)により手数料として収受されるほか,■■■(2002年(平
成14年)7月1日以後は月額■■■■■■人民元の定額に当該送金
額のうち■■■%を加えた金額)がP9合作社から管理費として収受
され,その残額はP10工場の電力費等のP10工場の運営経費の支
払に充てられていた。(b)また,上記(a)の送金だけではP10工場
の運営資金が不足するため,P1は,運営に必要な金額につき,両替
商を介してP10工場側に送金し,P10工場の財務担当者は,送金
された金員をP10工場名義の口座に振り込んだ上,電力費,人件費
等のP10工場の運営経費の支払に充てた(甲53の1ないし4,。
同70,乙20の1・2,同21,22)
cP1は,上記bの送金については,その総勘定元帳上,同社の預金
BankHKDC/ACash勘定P14から同社の中国小口現金勘定(),(
−)へ振り替えられ(その際,上記b(a)についてPRCPettyCash
は「P10((P10へ送金(加,)」CashTOPROCESSINGFEE
工費)と,上記b(b)については「P10(P1),」CashTORMB
0へ送金人民元)と表示されている,合算された後,さらに「P。)
10(P10経費)に振り替えられた上,P10工場EXPENSES」
における製造行為に係る経費の支出に応じて「直接労務費−中国,,」
「直接労務費−超過勤務−中国「給与−現地−中国「従業員」,」,Ind
」,「」,「」,厚生費−中国外注費−&−中国修繕費−中国FGSample
「」,「」,「」,消耗品−中国旅費交通費−中国旅費交通費−燃料−中国
「通信費−電話−中国「通信費−−中国「宿舎費−中国」」,」,Fax
などと計上されている。
なお,P1の総勘定元帳上,同社の中国小口現金勘定から「P10
(P10経費)へ振り替えられたものの中には,①本EXPENSES」
件協議書1条によりP1が無償ですべて提供することとされている
「原料,補助材料及び包装物質」の購入費用に当たるとうかがわれる
「仕入−梱包材料−中国「仕入−原材料−中国」及び「仕入−子会」,
社材料−中国,②本件協議書8条によりP1が負担することとされ」
ている「原料等の運送料や雑費」に当たるとうかがわれる「運賃−国
内運送−中国「運賃−航空機−中国「通関手数料−中国」及び」,」,
「検査費−中国,③本件協議書9条によりP1がすべて負担すると」
されている「保険料」に当たるとうかがわれる「保険料−P15工場
−中国,④平成15年借用契約書9条2項及び平成17年借用契約」
書8条2項によりP1が支払うこととされている税金に当たるとうか
がわれる「税金/手数料−中国,⑤平成15年借用契約書8条及び」
平成17年借用契約書7条によりP1が支払うこととされている電気
「」。料を含むものとうかがわれる水道光熱費−中国等も含まれている
(乙20の1・2)
,,dP10工場においては上記bのとおり送金された金員等について
「P5P10工場の会計システム(乙15)に基づき会計実務を行」
っており,①給与の支払については,P10工場管理部人事課員がタ
イムカードに基づき計算した金額をP1に請求した後,P1の総経理
の承認を得るものとされ,②■■■香港ドルを超える備品を購入する
場合は,P10工場の各部長からP1の総経理に請求し,総経理の認
可を得ることが必要とされており,③管理部人事課員と管理部財務課
員とがP10工場の銀行勘定と帳簿上の入金及び出金額を突き合わせ
,,するをする際にはP1の総経理から通帳と帳簿の確認を受けるほか
現金残高を確認し金種表を作成する際にも,再度,総経理から現金の
確認を受けた上,上記の作業をまとめて現金預金残高月報を作成して
P1へFAXで報告するなど,少額ではない額の会計処理を要する場
合等には,P1に請求してその総経理の承認等を得ることが必要とさ
れている(乙15)。
(ウ)P1における財務諸表上の処理
P1は,P10工場で製造した製品を中国国内,香港,日本等で販売
,,,,しその財務諸表上これを売上げとして経理処理しているが一方で
前記オ(ア)のとおり,P10工場に設置した機械設備につき,固定資産
台帳及び財務諸表上も,自社の固定資産に計上し,減価償却を行い製造
原価に算入するにとどまらず,P10工場の各製造部門の原材料費,労
務費等の製造経費についてもP1の製造原価として経理処理している。
(乙11の1ないし3,同16の1ないし3,同17の1ないし3)
キP10工場の人事・労務管理
(ア)P1は,本件各年度計画書において,人員配置に関して,P11本
社及びP10工場の各製造部門ごとに,監督者や技術員から製造・組立
作業員,さらには通訳,掃除員等に至るまで,詳細かつ具体的な計画を
策定するとともに,上記人員配置計画に対する配置の実績についても把
握・管理している(乙11の1ないし3,同12)。
(イ)P1は,2004年(平成16年)4月1日付けで,P10工場の
,「」(。従業員の給与の基準を定める目的で給与体系・評価基準書乙14
以下「本件給与基準書」という)を作成した。本件給与基準書は,基。
本給,諸手当等を具体的内容を示した「給与構成図,等級,号数等に」
応じた給与額等を示した「給与額給与等級参照表,評価項目,評価点」
数等を示した「評価基準表」等から構成され,原則としてP10工場の
全従業員に関して年間2回(4月度及び10月度)行われる給与に関す
る評価・査定に係る最終承認者はP1の総経理であること,本件給与基
準書を廃止・改訂するためには,P1の総経理の承認が必要であること
(5条)などが定められている(乙14)。
(ウ)P10工場においては「要員採用規定(乙13)によって,P1,」
0工場で働く工員に係る募集から採用に至るまでの手続の詳細が定めら
れており,同規定中には,随時の募集にはP1の総経理の許可が必要で
あること(3条3項,いったん退社した者を再度採用する場合にはP)
1の総経理の許可が必要であること(8条1項)など,P10工場の工
員の採用にP1が一定の権限を有する旨定められている。また,同規定
は,P1の総経理の決裁を受けて制定されている上,同規定の修正の可
否はP1の董事会によって決められる旨定められている。なお,同規定
同様にP10工場における内部規律に関して定められた規定として,従
業員の労働条件等を定めた「就業規定(甲21,P10工場の宿舎に」)
「」()入居する従業員に対する注意事項等を定めた宿舎管理規定甲22
及び会社の車両の利用上の注意事項等を定めた「車輌服務規定(甲2」
3)が存するが,これらはいずれも,P1の総経理の決裁を受けて制定
されている上,それらの修正の可否はP1の董事会によって決められる
旨定められている(甲21ないし23,乙13)。
(エ)P10工場における給与の支払は,前記カ(イ)dのとおり,P10
工場管理部人事課員がタイムカードに基づき計算した金額をP1に請求
した後,P1の総経理の承認を得た上で行われる。
(オ)P1は,前記イ(ア)i(d)のとおり,本件借用契約書上,P9合作
社がP10工場における関連業務の処理に協力するためP1へ委託派遣
している工場長及び報関員について,P1の要求する職務を全うできな
い場合は,当該工場長らを解雇する権利を有する。
クP1の税務申告状況等
(ア)香港の事業所得税法上,所得の源泉が香港外であるオフショア所得
については非課税であるが,香港における製造業者たる法人が中国本土
(,)における製造行為特に原材料の供給作業員のトレーニング及び監督
に関与していると認められる場合,当該製造活動による販売所得のうち
50%を非課税所得(中国本土内所得)として認める旨の取扱いが行わ
れているところ,P1は,香港税務当局に対し,自らのP10工場にお
ける事業等につき,①香港において卸売業を,中国において製造業を行
っている,②製造事業においては,P10工場の操業のために,プラン
トや設備を提供するとともに,製造技術及びデザインのトレーニング及
び監督業務を提供しており,実際に,P10工場の日常業務に深く密接
に関わっている,③P1の役員であるP16(原告の元取締役)におい
て,製造指示書に従って,P10工場のすべての製造工程を監督・指揮
する,④同人において,P10工場の操業管理に責任を負い,中国の現
地労働者を監督する旨等を申告した上上記の取扱いを受けている甲,。(
70,乙24,25の1・2,同43)
(イ)原告は,本件各更正処分等に係る法人税等の調査中に提出した平成
17年3月期の法人税申告書の別表17()「国外関連者に関する明細3
書(乙26の3)のP1の「主たる事業」欄には「精密成形品及び金」,
型販売卸」と記載しているものの,同調査前に提出された平成15年3
月期の法人税申告書の別表16の4及び平成16年3月期の法人税申告
書の別表17()「国外関連者に関する明細書(乙26の1・2)の3」
P1の「主たる事業」欄には「精密成形品及び金型製造」と記載して,
いた。
(ウ)P1の事業内容は,合成樹脂精密金型製作及び金型メンテナンス対
応,精密ギアを中心としたエンジニアリングプラスチック金型製作,合
成樹脂精密射出成形品の製造及び組立て並びにレンズ部品の組立てであ
るが(乙28,原告は,自らのホームページにおいて,平成13年8)
月にP17工場からGL生産事業をP1に移管した旨表示しており,P
1に製造部門が存在することを自ら明らかにしている(乙2)。
()前記()の認定事実を踏まえ,以下,前記()の判断の枠組みに沿って検321
討する。
,,,アそこでまず前記()ウ(ア)①ないし③の各要素について検討すると1
(a)販売製品製造のための生産設備(工場建物,製造設備等)の整備の状
況(前記()ウ(ア)①)についてみるに,P10工場に係る工場等につい1
ては,前記()イ(ア)のとおり,P1がP9合作社から賃借しており,製2
造設備については,前記()イ(ウ)のとおり,P1が,P10工場での加2
工生産に必要な生産設備を無償で提供し,しかも,この設備の所有権はP
1に帰属しており,(b)販売製品製造のための人員(監督者,技術者,単
純労働者等)の配置の状況(前記()ウ(ア)②)についてみるに,P101
工場の従業員の法律上の雇用主がだれかは必ずしも明らかでないものの,
P1は,前記()キ(ア)のとおり,本件各年度計画書において,人員配置2
に関して,P11本社及びP10工場の各製造部門ごとに,監督者や技術
員から製造・組立作業員,さらには通訳,掃除員等に至るまで,詳細かつ
具体的な計画を策定するとともに,上記人員配置計画に対する配置の実績
についても把握・管理しており,同キ(イ)のとおり,P10工場における
給与体系の決定及びP10工場従業員の個別具体的な人事評価まで行って
いるほか,同カ(イ)bのとおり,P1がP10工場名義に送金した金員の
中から従業員の給与が支払われており,(c)販売製品製造に係る原材料・
補助材料等の調達の状況(前記()ウ(ア)③)についてみるに,前記()12
イ(ウ)b(b)のとおり,P1が無償ですべての原料・補助材料等を提供す
ることとされていた。
以上によれば,P1は,P10工場における販売製品製造のための生産
設備(工場建物,製造設備等)の整備,人員(監督者,技術者,単純労働
者等)の配置及び原材料・補助材料等の調達等(前記()ウ(ア)①ないし1
)。③のすべての面において主体的に関与していたものということができる
,,イそして上記アのP10工場における製品製造のための生産設備の整備
人員の配置及び原材料・補助材料等の調達等へのP1の関与の状況(前記
()ウ(ア)①ないし③)を踏まえて,P1の設立の目的(上記()ウ(イ)<11
A>,P10工場における人員の組織化,事業計画の策定,生産管理の策)
定・実施,生産設備の投資計画の策定,財務管理の実施,人事・労務管理
の実施等へのP1の関与の状況(上記()ウ(イ)<B>(a)ないし(f))に1
ついて検討すると,次のとおりである。
(ア)P1の設立の目的
P1は,前記()ア(ア)のとおり,設立時の事業計画において,P12
1本社を管理拠点とし,P10工場を製造拠点とした上で,P10工場
機能を製造部門と位置付けるとともに,P1の董事長,総経理及び董事
会の下に,P11本社管理部とP10工場とを一体として組織化するこ
とが計画されている。本件合弁契約においても,同(イ)のとおり,東莞
市に委託加工工場を新設する旨記載されている部分もあるものの,その
前文において,香港国内に精密合成樹脂製品の製造販売及び金型の製造
販売を主目的とする新会社としてP1を設立する旨も記載されている。
そしてP1は同(ウ)のとおり香港の商業登記簿においてその業,,,,「
務性質」につき製造業を意味する「MFG()と登記」Manufacturing
し,そのパンフレットにおいても,その製造技術,製造工程,品質管理
等についてP10工場の写真とともに紹介するなど,P10工場をP1
,,1本社と並ぶ一体の組織として扱っていることのほか同(エ)のとおり
P1設立の5年後の金型工場規模拡大実施計画書中の「職務分掌」にお
いても,およそP10工場で製造行為を行うに当たって必要と認められ
るすべての職務が網羅的かつ詳細に記載された上,これらの各業務を所
掌する各製造部門の責任者の大半は,原告からP1に出向しαに居住す
,,,る社員が充てられていることからするとP1はその設立の当初から
P10工場における製造行為全般の統括・管理を行うことを当然に予定
していたものと認めるのが相当である。
以上のことからすると,P1は,P11本社及びP10工場を一体と
して運営し,射出成形品及び金型の製造販売を行うことを目的として設
立され,事業展開を図ることを予定していたものと解される。
(イ)P10工場の人員の組織化へのP1の関与の状況
P1においては,前記()ウ(ア)のとおり,①P11本社及びP102
,,,,工場が組織上董事長及び総経理の下に一体のものとして構成され
P10工場については。製造,組立て,販売,品質保証,財務等の各部
門に分けられた上,業務内容に応じて細かく階層化されていること,②
董事長に原告の代表取締役(当時)が就いていたほか,総経理及び副総
経理,P11本社の会計管理課長(後の財務部長,P10工場の部長)
以上の管理職の大半に原告からP1に出向しαに居住する社員が就いて
いたことからすると,P1は,その董事長,総経理,副総経理及び自ら
の社員たるP10工場の管理職等を通じて,P10工場の製造業務を掌
握・管理し,同工場の製造業務に従事する人員を組織的に統括していた
ものと解される。
また,前記()ウ(イ)のとおり,P1は,P10工場においてISO2
規格の認証を自ら取得することを計画し,総経理,副総経理,品質保証
部長等の各主要部の長に対して品質管理及び品質保証並びに環境管理に
係る職務分担を明確化し,品質環境マニュアルを策定する等の作業を経
て,そのころ,ISO9001及びISO14001の認証を取得して
おり,P10工場における品質管理及び品質保証並びに環境管理を組織
,,,的に達成するために原告からP1への出向者を配置しておりP1は
ISO規格の認証を通じても,P10工場の製造業務に従事する人員を
組織的に統括していたものと解される。
(ウ)P10工場の事業計画の策定へのP1の関与の状況
P1は,前記()エ(ア)のとおり,本件各年度計画書中の「方針実施2
計画書」において,中期構想を示し,経営方針を策定し,顧客関連プロ
セス,設計・開発プロセス,生産プロセス等の観点から多角的に前年度
実績の検証と改善課題の定立を行うなどして,P11事務所及びP10
工場を一体のものとして,各年度の事業計画を策定していた。
(エ)P10工場の生産管理の策定・実施へのP1の関与の状況
前記()ウ(ア)のとおり,P10工場の部長以上の管理職の大半に原2
告からP1に出向してαに居住する社員が就いていたことに加えて,P
1は,前記()エ(イ)のとおり,本件各年度計画書において,主要(重2
要)プロジェクトを策定し,P11本社及びP10工場の各製造部門に
ついて,重点施策,目標,スケジュール等を決定し,その内容は,P1
0工場については,生産計画・効率,品質管理,納期管理,材料管理,
製造コスト管理,新事業展開等の生産管理の重要項目が網羅されている
こと,また,同(ウ)のとおり,製造各工程に関して,コスト削減,生産
効率向上,製品・材料に係る在庫金額削減,品質向上・維持,個別原価
の見直し・改善,原価改善等につき,合理化計画を策定していたこと等
からすると,P1は,P10工場における生産管理を主体的に実行して
いたものということができる。
(オ)P10工場の生産管理の投資計画の策定へのP1の関与の状況
P1は,前記()オのとおり,本件協議書等に基づき,精密プラスチ2
ック用金型等の製造の用に供する機械設備を自社の所有のままP10工
場に設置しているが,これらの製造設備等に関し,本件各年度計画書の
「設備計画表」のとおり,各年度ごとに,P10工場の各製造部門の設
,,,備投資計画を定めておりまたP1における定時株主総会においては
P10工場での精密プラスチック用金型等の製造に係る収支を含んだ営
業報告,決算報告及び利益処分案の承認等が行われるとともに,P10
工場への設備投資計画,生産計画等が議案又は報告事項とされている。
(カ)P10工場の財務管理の実施へのP1の関与の状況
P1は,前記()カ(ア)のとおり,本件各年度計画書において,P12
1本社とP10工場を一体のものとして扱い,得意先別売上計画を立て
るのみならず,前年度の実績又は見込みを踏まえて,P10工場におけ
る各製造部門ごとに,直接費,間接費及び共通費並びにその細目に区分
するなどし,各製造部門ごとの原価管理に基づいて損益計画を策定し,
また同様の方法で総発生費用計画の策定を行っているまた同(イ),,。,
bないしdによれば,①P1からP10工場側へ送金された金員につい
ては,P1の総勘定元帳上,「外注加工費」等と委託加工費を示す勘定項
目として記載されておらず,中国小口現金勘定へ振り替えられた後,さ
らに「P10(P10経費)へ振り替えられた上,P,」EXPENSES
10工場における製造行為に関する中国工場の従業員給与その他P10
工場における製造経費が,P1の経費として処理されていること,②こ
れらの経費の中には,本件各契約書上,P1が負担するものとされてい
るものと,P1の負担とされていないものとが混在して記載されている
ことが認められ,③P10工場の側で多額の会計処理を要する場合等に
,,はP1への請求及びこれに対する総経理の承認等が必要とされるなど
P1は,P10工場に係る資金の管理を行っているものと認められる。
そして,P1は,同(ウ)のとおり,P10工場に設置した機械設備につ
き,固定資産台帳及び財務諸表上も,自社の固定資産に計上し,減価償
却を行い製造原価に算入するにとどまらず,P10工場の各製造部門の
原材料費,労務費等の製造経費についてもP1の製造原価として経理処
理している。
上記のとおり,P1がP11本社とP10工場を一体のものとして扱
った上で,損益計画及び総費用発生計画を策定・管理していたこと,P
,,1からP10工場側へ送金された金員についてもP1の総勘定元帳上
中国小口現金勘定,さらに「P10(P10経費)へ,」EXPENSES
振り替えられる処理がされた上,P10工場における製造経費が,P1
の経費として処理されていること,本件各契約書上,P1が負担するも
のとされている経費と,P1の負担とされていない経費とが混在する形
で総勘定元帳に記載されていること,P1がP10工場における資金管
理をしていたことからすると,P1は,P10工場に関する財務管理を
行っていたものというべきである。
(キ)P10工場の人事・労務管理の実施へのP1の関与の状況
P1は,前記()キ(ア)のとおり,本件各年度計画書において,人員2
配置に関して,P11本社及びP10工場の各製造部門ごとに,詳細か
つ具体的な計画を策定しており,前記()キ(イ)のとおり,P10工場2
における給与体系の決定及びP10工場従業員の個別具体的な人事評価
まで行っており,同キ(ウ)のとおり,P10工場における工員の募集・
採用についてもP1が最終的に策定した規定に基づき行われ,募集・採
用に関する一定の場合には総経理の許可が必要とされ,さらに,就業規
定等のその他内部規律に関する規定もP1の総経理の決裁によるもので
あり,その修正の可否についてもP1の董事会により決められていた。
,,,またP10工場における給与の支払についても同カ(イ)dのとおり
P10工場管理部人事課員がタイムカードに基づき計算した金額をP1
に請求した後,P1の総経理の承認を得た上で行われていた。
上記のとおり,P1が,P10工場に関して,製造行為に必要な人員
配置を計画し,工員の採用規定を策定し,給与体系・人事評価システム
を整備して,労務の対価の支払に先立ち自社の総経理の承認を得させて
いたことなどからすると,本件協議書の記載上は労働力を提供するのは
P7公司とされているものの,P1は,その実質・実体においてP10
工場の人事・労務管理を行っていたものというべきである。
(ク)以上によれば,P1は,香港の商業登記簿において「業務性質」に
つき製造業を意味する「MFG()と登記するなど,」Manufacturing
P11本社及びP10工場の一体的な運営による製品の製造販売を目的
とする会社として当該運営に係る事業展開を予定して設立され(上記
()ウ(イ)<A>,また,P10工場における人員の組織化,事業計画1)
の策定,生産管理の策定・実施,生産設備の投資計画の策定,財務管理
,()の実施人事・労務管理の実施等上記()ウ(イ)<B>(a)ないし(f)1
のすべての面において主体的に関与していたものということができる。
ウそして,製品の製造・販売を行うために中国当局の100%出資により
設立された関係各社との間で作成されている契約書(前記()ウ(ウ))と1
しては,本件P1各事業年度及びその前後の事業年度におけるP1とP9
合作社との間の本件借用契約書及び本件経営契約書,これらの数年前にP
1とP7公司との間でP8公司を商務代理として作成された本件協議書等
がある。
(ア)まず,P1は,前記()イ(ア)のとおり,P9合作社との間で,本2
件P1各事業年度及びその前後の事業年度における工場等の賃借に係る
本件借用契約書を作成しており,その内容は,(a)P1は,①P9合作
社から工場等を賃借し賃借料を支払うこと,②P9合作社に対して加工
費を支払うものの,中国の法令によって控除される部分等及びP9合作
社に支払うべき管理費を控除した残額がP1へ返却されること,③P9
合作社が委託派遣した工場長・報関員の給与を負担することなどが定め
られ,(b)P9合作社は,①水道管・電気路線を責任をもって工場の傍
らまで引き込み,併せてP1の使用する電気を供給する責任を負い,②
責任をもってP1が工場のいかなる手続においても問題なく処理できる
よう協力し,P1が順調に生産活動に投入できるよう便宜を図り,③工
場長及び報関員各1名をP1へ委託派遣し,P10工場の関連業務の処
理に協力することなどが定められている。
また,前記()イ(イ)のとおり,2004年(平成16年)7月8日,2
P1は,P9合作社との間で,本件経営契約書を作成しており,その内
容は,(c)P1は,①P9合作社のP10工場の経営を請け負い,②国
家の法律・規定が認める範囲内において,P10工場の生産経営管理に
つき権利を有し,全面的に責任を負い,すべての生産経営管理権を行使
し,企業のすべての経営コストを負担し,③加工費をP9合作社が指定
した銀行口座に振り込み,その後,両当事者が協議した実際の金額に従
いP9合作社から金員の返還を受けること,(d)P9合作社は,P1に
よるP10工場の資産を管理監督し,企業の適法な経営及び法に従った
,,,納税を監督し適切に指導することなどが定められており同日以前も
契約書の作成はされていないものの,P1とP9合作社との間で,本件
経営契約書の内容と同様の経営請負契約が締結されていたところであ
る。
そして,上記(a)①及び③並びに(c)①及び②のP1の権限・責務,
(b)①ないし③並びに(d)のP9合作社の責務等の内容に照らすと,P
1自身がP10工場において製造行為を行うことを前提としていること
がうかがわれ,また,上記(a)②及び(c)③のとおり,加工費名目で支
払われた金員に関しても,上記のとおり一定額を控除した後の金員はP
1へ返却する旨規定されていることにかんがみると,加工費名目で支払
われた金員のうち,中国の官公庁への手数料及びP9合作社への管理費
を控除した後のものは,P1の管理下に置かれることを予定しているも
のと解することができる。
(イ)他方,前記()イ(ウ)のとおり,P1とP7公司との間でP8公司2
を商務代理として作成された本件協議書等をみると,(a)本件協議書1
条中には,P7公司は,相応の工場建物,電力及び労働力を提供し,P
1のために加工生産を行い,P1から加工費又は工場賃貸料,土地使用
料及び管理費を受領する旨記載した部分があるものの,他方,(b)本件
協議書等の他の部分では,P1は,①P10工場での加工生産に必要な
生産設備を無償で提供するが,この設備の所有権はP1に帰属し,②原
料・補助材料等を無償で提供し,③技術者をP10工場に派遣して設備
の取付け及び技術指導を行い,その派遣技術者の資金,出張旅費等を負
担し,④原料等の輸送の費用を負担し,⑤原料,製品等の運搬等に関し
て総合保険等に加入すること等が定められている。
(ウ)このように,上記(イ)のP7公司との間の本件協議書1条の文面(Ⅰ)
の一部には,上記(イ)(a)のとおり,P1は,P7公司との関係におい
ては,同公司に対して加工生産を委託しており,同公司がP10工場で
の製造行為の主体となることが予定されているような記載内容とされて
いる部分もあるものの,本件協議書等の他の部分には,上記(イ)(b)(Ⅱ)
のとおり,P1が,P10工場における販売製品製造のための生産設備
(工場建物,製造設備等)の整備及び原材料・補助材料等の調達に主体
,,的に関与することを内容とする条項もあり本件協議書等自体の中にも
P1自らがP10工場での製造行為の主体となることが予定されている
と解し得る記載も含まれる上,上記(ア)のP9合作社との間の本件借(Ⅲ)
用契約書及び本件経営契約書の内容からすれば,P9合作社との関係に
おいては,P1自らがP10工場での製造行為の主体として位置付けら
れていることがうかがわれることに加えて,本件経営契約書の作成以(Ⅳ)
,,,前も契約書の作成はされていないもののP1とP9合作社との間で
本件経営契約書の内容と同様の経営請負契約が締結されており,実際(Ⅴ)
にも,上記(イ)(a)のとおり,本件協議書1条においてはP7公司が提
供するとされている電力及び労働力の費用について,前記()カ(イ)b2
のとおり,現実にはP1からP10工場名義の口座に振り込まれた金員
の中から直接支払われるなど,同条項の内容を実質的に変更する運用が
行われていたこと(なお,本件借用契約書においては,前記(ア)(b)①
のとおり,P1の使用する電気をP9合作社が供給する旨記載されてい
るところでもある)等を併せ考慮すると,中国当局の100%出資に。
より設立された関係各社との間で,漸次,P10工場での製造行為に係
る契約書の内容がその実体に即して整備され,平成16年及びその前年
・翌年に作成された本件経営契約書及び本件借用契約書の方がP1のP
10工場に係る経済活動内容の実体をより実質的に反映していることが
うかがわれるところであって,結局,これらの各契約書の諸条項のいず
れの記載内容に重点を置いて事業活動の実質・実体を把握するかは,本
件各契約書の全体を勘案しつつ,上記ア及びイで検討した事業実態の具
体的な事実関係に即して判断するほかないものというべきである。
(エ)以上に検討したところによれば,上記ア及びイで検討した事業実態
の具体的な事実関係に即して,本件協議書1条中の一部分の文言のみな
らず,本件協議書等中の他の部分に加えて,本件P1各事業年度の事業
実態に係る本件借用契約書及び本件経営契約書の内容も併せかんがみれ
ば,本件P1各事業年度における事業活動の実質・実体において,P1
は,P9合作社からP10工場等を賃借し,P9合作社が委託派遣した
工場長等の給与まで負担し,加工生産に必要な製造設備及び原料等の物
資を提供し,その輸送に伴う費用を負担した上,製品についても各種保
険に加入し,加工費名目で支払われた金員のうち,中国の官公庁への手
数料及びP9合作社への管理費を控除した後のものは,工場の運営のた
,,めにP1の管理下に置かれることを予定していたものと解されさらに
本件経営契約書により,P1は,P10工場の経営を請け負い,P10
工場の生産経営管理につき権利を有し,企業のすべての経営コストを負
担することになるのであるから,P1が中国当局の100%出資企業と
しての実質的な一体性のうかがわれる上記三企業と提携して遂行する事
業の全体を本件各契約書の全体を勘案しつつ具体的な事実関係に即して
客観的に観察すれば,社会通念上,P1は実質的にP10工場において
自ら販売製品の製造を行っていたと解するのが自然であるということが
できる。
エそうすると,(ア)前記アのとおり,P1は,P10工場における販売製
品製造のための生産設備の整備,人員の配置及び原材料・補助材料等の調
達等のすべての面において主体的に関与していたこと,(イ)前記イのとお
り,P1は,<A>P11本社及びP10工場の一体的な運営による製品の
製造販売を行うことを目的として当該運営に係る事業展開を予定して設立
され,香港の商業登記簿でも業務性質は製造業と登記されていたこと,<
B>(a)P10工場の製造業務を掌握・管理し,同工場の製造業務の人員
を組織的に統括・管理していたこと,(b)P11事務所及びP10工場を
一体のものとして,各年度の事業計画を策定していたこと,(c)P10工
場における生産管理を主体的に実行していたこと,(d)各年度ごとに,P
10工場の各製造部門の設備投資計画を定めていたこと,(e)P11本社
とP10工場を一体のものとして扱った上で,P10工場に関する財務管
,,理を行っていたこと(f)P10工場の人事・労務管理を行っていたこと
そして,(g)前記()ク(ア)のとおり,P1自体,中国本土における製造2
活動による販売所得のうち50%を非課税所得(中国本土内所得)として
認める取扱いを受けるに当たって,香港税務当局に対し,自らのP10工
場における事業等につき,香港において卸売業を,中国本土において製造
業を行っており,P1の役員において,製造指示書に従って,P10工場
のすべての製造工程を監督・指揮していること等を自ら申告しているこ
と,(ウ)前記ウのとおり,P1が実質的な一体性のうかがわれる上記三企
業と提携して遂行する事業の全体を本件各契約書の全体を勘案しつつ具体
的な事実関係に即して客観的に観察すれば,P1が実質的にP10工場に
おいて自ら販売製品の製造を行っていたと解するのが自然であること等の
諸般の事情を総合的に考慮すると,社会通念上,P1はP10工場におい
て自ら販売製品の製造を行っていたものと認めるのが相当である。
そして,①前記()ウ(エ)のとおり,P1が本件各年度計画書において2
予定している人員配置については,P11本社はいずれの年度についても
■名であるのに対して,P10工場は■■■名ないし■■■名と,P10
工場へ配置が予定されている人員が圧倒的に多く,②発生予定費用につい
ても,P10工場に関する費用は,P1全体の約■■■■ないし■■■■
%であることからすると,P1は,その人員及び資本の大半をP10工場
における製造業務に集中的に投下していたというべきであって,③P10
工場の組織図(乙8の1ないし4)においてもP1がP10工場における
製造業務をその事業の中心に据えていたことがうかがわれることにもかん
がみると,P10工場で行っていた製品製造がP1の主たる事業であると
認めるのが相当である。
したがって,P1の主たる事業は,製造業であるというべきである。
()アこれに対し,原告は,<A>(a)P1は,中国国内の多様なカントリー4
リスク等を回避しつつ,少額の投下資本で製品を取得できるというメリッ
トが存する来料加工という委託加工契約の方式を選択したものであり,そ
の選択に租税回避や所得の国外移転の意図は全く存しない以上,その選択
した形式に従い,自らは製造を行わず他に製品を作らせている製造問屋で
あって,その主たる事業は,他者に加工を委託する卸売業に当たるという
べきである,(b)課税は,原則として私法上の法律関係に即して行われる
べきであり,P1とP7公司との間で作成された本件協議書1条にP7公
司はP1のために加工生産を行う旨が明記されている以上,P1が,P7
公司に対して,原材料を支給し,精密プラスチック用金型等の製造を委託
していることは明らかであって,本件協議書1条の内容を前提としつつP
1が精密プラスチック用金型等の製造を行っているとの解釈を導くには本
件協議書が通謀虚偽表示(民法94条)による契約であると解するほかな
いが,P1は,中国国内の多様なカントリーリスク等を回避しつつ,少額
の投下資本で製品を取得できるというメリットが存する来料加工という委
託加工契約の方式を選択したものであり,その選択に租税回避や所得の国
外移転の意図は全く存しない以上,P1とP7公司との間の委託加工契約
が通謀虚偽表示となる余地はない,(c)P1は,香港法人であり中国にお
いて事業を行うために必要な外商投資企業設立の審査認可を受けていない
から,中国において工場を開設できず製造業務を行うことができないこと
,,は明らかであり法令を潜脱して実際に事業を行うことも不可能である上
本件協議書等に係る契約は来料加工であって,中国における強行法規であ
る本件規則が適用され,本件規則3条の規定によれば,P10工場は,経
営企業であるP7公司が設立した加工企業であるから,P10工場におけ
る製造行為はP7公司の事業である,<B>(a)P1は,その本店所在地国
たる香港において「その主たる事業を行うに必要と認められる事務所を,
有し(実体基準「その事業の管理,支配及び運営を自ら行っている」」),
(管理支配基準)のであるから,その主たる事業は,その事務所で行い,
かつ,管理・支配・運営している事業たる卸売業である,(b)日本標準産
業分類は,同分類により事業所の産業を決定する場合は,事業所で行われ
ている経済活動による旨規定しており,P1は,本店所在地たる香港に事
業所として「P11事務所」のみを有しており,この「P11事務所」に
おいては,■名の従業員のみで卸売業を行っているから,P1の事業は,
卸売業というべきである,<C>(a)P1は,P7公司又はP9合作社との
間で,P1がP10工場の経営を受任する旨の経営委任契約を締結してい
るのであって,P10工場の生産管理,労務管理,財務管理等に何らかの
関与をしているとしても,同契約の債務の履行として行っているにすぎな
いから,このような管理の事実があるからといってP1が製造業を行って
,,,いることにはならないし(b)当事者間で取り決めた技術指導品質管理
生産管理の支援等の事情を,P1の「主たる事業」を判定する材料として
考慮することは,私的自治の原則を無視するものであり失当である,<D>
P10工場における生産管理及び財務管理の状況等の事情を総合して,特
定外国子会社等の主たる事業を決めるのだとすると,来料加工取引におい
ても,香港企業の管理・関与の内容・程度によって,適用除外要件の充足
の有無の結論が異なるのであって,納税者の予測可能性・法的安定性を著
しく害することになり,租税法律主義に反する結果となる,<E>P10工
場における具体的な生産管理はP7公司によって独自に採用された中国人
責任者らによって行われており,P1からP10工場に派遣されたスタッ
フは,本件協議書1条等に基づき技術指導を行っているにすぎない,<F>
P1は,P7公司に対し,部品の生産加工を委託するとともに,その対価
,,として加工費を送金しているから同公司との間の契約が委託加工であり
P1の主たる事業は卸売業であることは明らかであって,P1が,総勘定
元帳上,P7公司に対する加工費の支払につき直接労務費等の内訳の詳細
を計上しているのも,香港の法人事業所得税における中国本土における製
造活動による販売所得のうち50%につき非課税所得とする旨の取扱いを
受けるとともに,P1の売上原価管理上,外注加工費のコスト増を招来さ
せないため,当該外注加工費の内訳を詳細に把握することを目的としたも
のにすぎないから,この点をもって,P10工場の財務管理を行っていた
というべきではない,<G>P10工場に送金等され,手数料,電気水道料
等の経費として支払われた金員は,P7公司において製造原価等の経費に
計上され,P10工場はそれを前提として外国資本の出資を受けない中国
資本のみによる内資企業に適用される企業所得税暫定条例に基づく税務申
告をしている以上,P10工場に関する財務管理がP1によって行われて
いたとは認められない旨主張する。
イそこで,まず,上記<A>の主張について検討するに,(ア)上記<A>(a)
の主張については,前記()アのとおり,タックス・ヘイブン税制の適用1
除外制度の趣旨及び根拠条文の事実状態に即した文言・内容等にかんが
み,P1の「主たる事業」の判定は,現実の当該事業の経済活動としての
実質・実体がどのようなものであるかという観点から,事業実態の具体的
な事実関係に即した客観的な観察によって,当該事業の目的,内容,態様
等の諸般の事情(関係当事者の間で作成されている契約書の記載内容を含
む)を社会通念に照らして総合的に考慮して個別具体的に行われるべき。
ものであるところ,本件では,前記()のとおり,生産管理,労務管理,3
財務管理等の活動内容の実質・実体を本件各契約書の全体を勘案しつつ具
体的な事実関係に即した客観的な観察によって検討した結果,P1は,P
,,10工場において販売製品の製造を自ら行っていたと認められその結果
製造問屋には該当せず,その主たる事業は製造業であると判定されるもの
である以上,P1が原告主張のカントリーリスク等の回避の要請から来料
加工方式を選択し,主観的な租税回避や所得の国外移転の意図がなかった
としても,上記制度の趣旨及び根拠条文の事実状態に即した文言・内容等
に則した客観的な基準による判定の結果が左右されるものではないという
べきであるから,上記主張は理由がない。(イ)そして,上記<A>(b)の主
張については,そもそも本件では,非関連者基準又は所在地国基準のいず
れが適用されるかを決めるための「主たる事業」の判定が争点になってい
るところ,その判定は,上記(ア)のとおり,上記と同様の観点から,事業
,,実態の具体的な事実関係に即した客観的な観察によって当該事業の目的
内容,態様等の諸般の事情を社会通念に照らして総合的に考慮して個別具
体的に行われるべきであり,関係当事者との間で作成されている契約書の
記載内容はその判定に当たっての諸般の考慮事情の一つとして勘案される
ものであって,その記載内容のみから一般的・抽象的に判定が行われるべ
きものではないと解されるところ,本件でも,本件協議書1条の文言のみ
に依拠して「主たる事業」を判定すべきではなく,P1の設立の目的並び
にP10工場での製品製造の人員・資本及びその管理・諸作用への関与の
状況等の諸般の事情を総合的に考慮した上で,P1のP10工場に関する
三企業との本件各契約書の内容の全体(本件協議書等の本件協議書1条以
外の部分並びに本件借用契約書及び本件経営契約書に係る契約内容を含
む)を勘案しつつ,事業実態の具体的な事実関係に即した客観的な観察。
によって判定をすべきであり,前記()のとおり,このように上記制度の3
趣旨及び根拠条文の事実状態に即した文言・内容等に則した客観的な基準
による判定の結果として,P1がP10工場において製造業を主たる事業
(,,として行っていると認められる以上そもそも前記()イ(イ)のとおり2
本件経営契約書の作成以前も,契約書の作成はされていないものの,P1
とP9合作社との間で,本件経営契約書の内容と同様,P1が,P10工
場の経営を請け負い,P10工場の生産経営管理につき権利を有し,全面
的に責任を負い,すべての生産経営管理権を行使する旨の経営請負契約が
締結されていることからすると,前記()ウ(ウ)の電力及び労働力の費用3
の支払状況等も併せ考えれば,実質的な一体性のうかがわれる上記三企業
と提携して遂行する事業の全体の中で,P9合作社との間の上記経営請負
契約によって,本件協議書の上記条項の内容を実質的に変更する運用が行
われていたことがうかがわれる(同()ウ(ウ)参照,上記三企業の一3)。)
部との間で作成された本件協議書の一部の条項が通謀虚偽表示に該当する
か否かによって上記判定の結果が左右されるものではなく,また,カント
リーリスク等を背景とする中国進出方法の選択における主観的な租税回避
や所得の国外移転の意図の有無によって上記判定の結果が左右されるもの
でもないというべきであるから,上記主張は理由がない。(ウ)また,上記
<A>(c)の主張は,要するに,P1がP10工場において製造業務を行う
ことは中国の法令に反するものであるから,P1の主たる事業が製造業と
なることはなく,また,実際に製造業務を行うこともないとする趣旨と解
されるところ,①前記()アのとおり,非関連者基準又は所在地国基準の1
「」,いずれが適用されるかを決めるための主たる事業の判定に当たっては
現実の当該事業の経済活動としての実質・実体がどのようなものであるか
に基づき判定すべきであって,実際に経済活動としての実質・実体が当該
国において行われていると認められる以上,当該国において当該事業を行
うことが当該国の法令に適合するか否かによって,その認定が左右される
ものではないし,②本件において,P10工場における実際の製造行為に
ついて営業許可を受けているのはP10工場自身であり(甲19,P7)
(),公司の企業営業許可は一般的なものである甲16というべきであって
P7公司が企業営業許可を受けていることは,P10工場における製造業
務がその実質・実体においてP1の事業であることを否定する根拠となる
ものではないから,いずれにしても,上記主張は理由がない。
,,,ウ次に上記<B>の主張について検討するに(ア)上記<B>(a)の主張は
特定外国子会社等の主たる事業は,その本店所在地国の事務所で行ってい
る事業であるとする趣旨と解されるところ,措置法66条の6第3項の文
言上「その主たる事業を行う事務所」ではなく「主たる事業を行うに必,,
」,,,要と認められる事務所と規定されていることまた同項の実体基準は
独立企業としての実体を備えていない特定外国子会社等については適用除
外を認める必要がないと考えられることから設けられた要件であると解さ
れることからすると「主たる事業を行うに必要と認められる事務所」と,
の要件を満たすからといって,必ずしも当該事務所で行われている事業が
当該特定外国子会社等によって現に行われている主たる事業に該当すると
は認められないというべきであるから,上記主張は採用することができな
い。(イ)また,上記<B>(b)の主張は,要するに,本店所在地国の事業所
において行われている事業をもって,特定外国子会社等の主たる事業が何
であるかを特定すべきであるとする趣旨と解されるところ,①同項におい
ては「その行う主たる事業」と規定されているにすぎず,本店所在地国,
の事業所において行われている事業のみならず当該特定外国子会社等の事
業活動全般を全体的に観察して主としてどのような事業を行っているかを
,(,),判断すべきものと解される上②日本標準産業分類甲7乙33は(Ⅰ)
その設定目的自体が,統計調査の結果を産業別に表示する場合の統計基準
として,事業所において社会的な分業として行われる財貨及びサービスの
生産又は提供に係るすべての経済活動を分類するものであり,統計の正確
性と客観性に加え,統計の相互比較性と利用の向上を図ることを目的とし
て策定されたものである(第1章(日本標準産業分類の変遷と第11回改
訂の概要)1)ことから,日本標準産業分類により事業所の産業を決定す
る場合は,事業所で行われている経済活動による(第2章第6項(事業所
)),,の分類に際しての産業の決定方法とされているのであってそもそも
日本標準産業分類自体が,ある事業主が行っている事業の全体を判定する
ものとして策定されたものではないこと,他方,上記①のとおり,同項(Ⅱ)
においては,本店所在地国の事業所において行われている事業のみならず
当該特定外国子会社等の事業活動全般を全体的に観察して主としてどのよ
うな事業を行っているかを判断すべきものと解されること等にかんがみる
と,措置法通達が,非関連者基準又は所在地国基準のいずれが適用される
かを決するための「主たる事業」の判定に当たり,原則として日本標準産
業分類の分類を基準とすべき旨定めているのも,本店所在地国の事業所に
おいて行われている事業のみから「主たる事業」を判定する意に出たもの
ではなく,当該特定外国子会社等の事業活動全般の「主たる事業」を判定
する際に,事業の種別の分類を原則として日本標準産業分類の産業分類に
依拠するものとした趣旨であることは明らかであるから(措置法通達66
条の6−14の文言上も,原則として日本標準産業分類の「分類を基準と
して判定する」と規定されているにすぎない,上記主張は採用すること。)
ができない。
エ上記<C>の主張について検討するに,(ア)上記<C>(a)の主張について
は,前記()アのとおり,非関連者基準又は所在地国基準のいずれが適用1
されるかを決めるための「主たる事業」の判定に当たっては,現実の当該事
業の経済活動としての実質・実体がどのようなものであるかに基づき判定
すべきであり,関係当事者との間の契約書の記載内容はその判定に当たっ
ての諸般の考慮事情の一つとして勘案されるものと解されるところ,この
判定に当たっては,P9合作社及びP7公司等の三企業との提携により遂
行される事業の具体的な活動内容の実質・実体が判定要素として重要なの
であって,本件では,生産管理,労務管理,財務管理等の活動内容の実質
・実体を具体的な事実関係に即して本件各契約書の全体を勘案しつつ検討
した結果,前記()のとおり,P1の主たる事業は製造業であるとの判定3
がされたものであって,当該活動が契約の債務の履行として行われたこと
によって事業の性質が左右されるものではないから,上記主張は理由がな
い。(イ)また,上記<C>(b)の主張については,前記()アのとおり,非1
関連者基準又は所在地国基準のいずれが適用されるかを決めるための「主
たる事業」の判定に当たっては,現実の当該事業の経済活動としての実質
・実体がどのようなものであるかに基づき判定すべきであり,関係当事者
との契約書の記載内容もその判定に当たっての諸般の考慮事情の一つとし
て勘案されるものと解されるところ,本件においても,本件P1各事業年
度及びその前後における工場の賃借等に係る本件借用契約書及び本件経営
契約書を含む本件各契約書の全体の内容も勘案した上で上記判定がされて
いるのであるから,その判定は,私的自治の原則に反するものではなく,
原告の上記主張は,前記三企業の一部との契約書中の一部の条項(本件協
議書1条)の記載のみに依拠し,事業実態の具体的な事実関係及び実質的
な一体性のうかがわれる当該三企業との提携形態・各契約内容の全体を捨
象して「主たる事業」の判定をすべきものというに等しいものといわざる
を得ず,理由がない。
オ上記<D>の主張について検討するに,上記主張は,およそ中国における
来料加工取引(外国企業が提供した輸入材料を中国の国内企業が加工し又
は組み立てた後に完成品として再輸出する取引)を行っている外国企業に
関しては一律に卸売業として扱うべきであるとする趣旨と解されるとこ
ろ,①措置法66条の6第3項においては,来料加工取引であるか否かを
基準に「主たる事業」を判定することは予定されておらず,前記()アの1
とおり,現実の当該事業の経済活動としての実質・実体がどのようなもの
であるかに基づき「主たる事業」を判定すべきであるから,個々の事業の
経済活動としての実質・実体を捨象して形式的に来料加工取引であること
の一事をもって一律に卸売業と扱うことは相当ではなく,また,②本件の
ように「主たる事業」が卸売業か製造業かが問題になる事案についてみる
と,措置法上の「主たる事業」が「卸売業」か否かという区分は明確であ
る上「主たる事業」が「製造業」であるか「卸売業」であるかの判定に,
当たって,前記()ウの諸要素を総合的に考慮して判断したとしても,事1
業実態の具体的な事実関係に即して客観的な観察によって判定するもので
ある以上,法的安定性を害するものとはいえないし,これらの要素を基礎
付ける事実は,すべて当該特定外国子会社等が自ら把握している事柄であ
るから,特定外国子会社等及び内国法人の予測可能性を害するともいえな
いというべきであって,租税法律主義に反するものではないから,上記主
張は理由がない。
,,カ上記<E>の主張について検討するに前記()ウ(ア)及び(ウ)のとおり2
P10工場は,各部門に分けられた上,業務内容に応じて細かく階層化さ
れており,第1事業部長(副総経理,第2事業部長(副総経理,品質保))
証部長,販売統括部長,製造統括部長,組立統括部長,品質管理部長,生
産管理部長等の部長以上の管理職の大半に原告からP1に出向しαに居住
する社員が就いていることに加えて,P1は,前記()エ(イ)のとおり,2
本件各年度計画書において,主要(重要)プロジェクトを策定し,その中
で生産管理の重要項目が網羅されていること,また,同(ウ)のとおり,製
造各工程に関して,コスト削減,生産効率向上等につき合理化計画を策定
していることなどからすると,P1は,P10工場における生産管理を主
体的に実行しているというべきであって,中国人の課長等が具体的な生産
管理を行っていたとしても,それは,P1の総経理,副総経理及び各部長
等の指揮・監督の下での課長等としての職責に応じた生産管理を行ってい
たにすぎないと解されるから,上記主張は理由がない。
キ上記<F>の主張について検討するに,①P1は,前記()カ(イ)bのと2
おり,本件P1各事業年度当時,製品ごとに決められた単価に製造数量を
乗じて算出された金額をP10工場名義の銀行預金口座に振込送金してい
たものの,この送金額のうち,■■が東莞市により,■■がαにより手数
料として収受されるほか,■■■(2002年(平成14年)7月1日以
後は月額■■■■■■人民元の定額に当該送金額のうち■■■%を加えた
金額)がP9合作社によって管理費として収受され,その残額はP10工
場の電力費等のP10工場の運営経費の支払に充てられるなどするととも
に,②P1からP10工場側へ送金された金員は,同c及びdのとおり,
P1の総勘定元帳上も,まず中国小口現金勘定へ,さらに「P10
(P10経費)へ振り替えられる処理がされた上,P10EXPENSES」
工場における製造経費がP1の経費として処理されているほか,本件各契
約書上,P1が負担するものとされている経費とP1の負担とされていな
い経費とが混在する形で総勘定元帳に記載されていること,③他方,P1
からP7公司に対して加工費を支払っていることを認めるに足りる的確な
証拠はないことからすると,原告主張のP1からP7公司に対する本件協
議書に基づく加工費の支払の事実は認められず,P7公司に対する加工費
の支払の事実を前提とする原告の上記主張は理由がない。そして,原告が
総勘定元帳の処理方法に関して主張する点も,仮に,P1の売上原価管(Ⅰ)
理上,外注加工費のコスト増を招来させないために,当該外注加工費の内
訳を詳細に把握する目的で,加工費の内訳を計上するというのであれば,
P7公司が負担する費用と本件協議書等及び本件借用契約書においてP1
が負担するものとされている費用とを分別して記載するのが自然であると
ころ,前記()カ(イ)cのとおり,P1の総勘定元帳上,同社の中国小口2
現金勘定から「P10(P10経費)へ振り替えられたEXPENSES」
ものの中には,P7公司が負担するものとされている費用と本件協議書等
及び本件借用契約書においてP1が負担するものとされている費用とが混
然一体と記載されていること,仮に,総勘定元帳上,P7公司に対する(Ⅱ)
加工費の支払につき直接労務費等の内訳の詳細を計上した目的が,香港の
法人事業所得税における中国本土における製造活動による販売所得のうち
50%につき非課税所得とする旨の取扱いを受けることを含むとしても,
P10工場を含むP1全体の財務管理を行う目的とも両立するものである
上,P10工場における製品の製造行為に係る経費全部の細目がP1の総
勘定元帳に記載されたからこそ,前記()カ(ア)のとおり,P1がP112
本社とP10工場を一体のものとして扱った上で損益計画及び総費用発生
計画を策定・管理できたものであることを考慮すると,原告の指摘に係る
事情を考慮しても,P1がP10工場の財務管理を行っていたことを否定
することはできず,上記主張は理由がない。
ク上記<G>の主張について検討するに,仮にP10工場が企業所得税暫定
条例に基づき中国企業として中国において所得税ないし増値税の申告納税
義務を果たしているとしても,そのことは,中国の同条例上,P10工場
が中国企業として中国において所得税ないし増値税の申告納税義務を負担
することとされていることを意味するにとどまり,P7公司が申告納税義
務を負担していることを意味するものでもなく,むしろ,P1は,P9合
作社との間の平成15年借用契約書8条及び平成17年借用契約書7条の
規定により「条例の規定によって各種税金を納め,財政,税務部門の監督
管理を受ける」ことを責務とされているのであって,他に,P7公司がP
10工場の財務管理を行っていたことを裏付ける的確な証拠はない以上,
上記主張は理由がない。
()以上によれば,原告の特定外国子会社等であるP1は,その行う主たる5
,。事業が製造業であるから非関連者基準を満たさないものというべきである
2争点()(所在地国基準の充足の有無)について2
()アP1の本店所在地は,中国のうち特別行政区である香港に所在してお1
りP1の行う主たる事業は前記1のとおり製造業であるが前記1(),,,2
ウ(エ)のとおり,P1が本件各年度計画書において予定している人員配置
,,についてはP11本社はいずれの年度についても■名であるのに対して
P10工場は■■■名ないし■■■名と,P10工場へ配置が予定されて
いる人員が圧倒的に多く,発生予定費用についても,P10工場に関する
費用は,P1全体の約■■■■ないし■■■■%であることからすると,
P1は,その人員及び資本の大半をP10工場における製造業務に集中的
に投下していると認められるから,その主たる事業である製造業を主とし
て行っているのは,P10工場の所在する東莞市α,すなわち中国のうち
香港以外の地域であると認めるのが相当である。
イところで措置法66条の6第1項において租税の負担が著しく低い国,「
又は地域」に本店又は主たる事務所が所在する外国関係会社に対してタッ
クス・ヘイブン税制が設けられることとなった趣旨は,仮に「国」単位,
のみで外国子会社合算税制を適用するとした場合,例えば,租税の負担の
著しく低いタックス・ヘイブンとして著名なグレートブリテン及び北アイ
ルランド連合王国(以下「英国」という)領バミューダ,同ケイマン諸。
島,同ヴァージン諸島など,一般的には必ずしも租税の負担が著しく低い
とはいえない「国」のうちの租税の負担の著しく低い特定の「地域」に所
在する外国関係会社の留保利益が合算課税の対象とならないこととなるた
め「国又は地域」と規定することによって,ある「国」のうちの租税の,
負担が著しく低く定められた特定の「地域」に所在する外国関係会社につ
いても,外国子会社合算税制の適用対象に含めることとした点にあるもの
と解される。このような同条1項の趣旨に加えて,同条3項の規定は,内
国法人の外国関係会社が同条1項所定の特定外国子会社等の要件を満たし
ている場合に,同項所定の課税対象留保金額の益金算入の法律効果が生ず
ることを前提とした上で,同条3項に規定する適用除外要件がすべて充足
された場合には,同条1項の規定を「適用しない」という例外を定めたも
のであるという同条の1項と3項との条文の構造・対応関係にかんがみる
と,所在地国基準(同項2号)を満たすためには,同条1項との関係で,
特定外国子会社等の本店又は主たる事務所が租税の負担が著しく低い「地
域」に所在する場合には,同条3項との関係でも,当然に,特定外国子会
社等がその事業を主として本店又は主たる事務所の所在する「地域」にお
いて行っていると認められることを要するものと解される。
ウそこで香港がタックス・ヘイブン税制の適用上中国とは異なる地,,,「
域」に該当するかを検討するに,証拠(乙42ないし44)によれば,香
港は,1997年(平成9年)7月1日に英中共同声明に基づき英国から
中国に返還されたものの,香港特別行政区基本法により「香港特別行政,
区」とされ,従前の政治・経済制度等は返還後50年間は維持するいわゆ
る「一国二制度」の原則が適用されており,税制上も,中国への返還後も
,,独自の課税体制が維持継続され中国本土からの課税は実施されておらず
しかも,租税の内容についても,<A>中国本土においては,(a)企業所得
税,個人所得税等の「所得税類,増値税,消費税等の「流通税類,不動」」
産税,車船税等の「財産及び行為税類」等を主要な税とし,(b)企業所得
税の基本税率は33%(国税30%,地方税3%)である(ただし,外商
投資企業に対しては各種の優遇措置により低減税率や期間減免が適用され
ている)等というものであるのに対し,<B>香港においては,(a)香港。
内で提供した労働役務等の対価に課される給与所得税,香港内で生じた営
業に係る所得に課される事業所得税及び香港内にある土地や建物等の不動
産から生ずる賃貸収入所得に課される資産所得税から構成され,香港外に
源泉のある所得は非課税であり,(b)法人の事業所得税は,法人が香港で
所得の源泉となる営業活動を行っている場合に課税の対象となり,基本税
率は17.5%であるなど,中国本土とは異なる独自の租税制度を有し,
,。かつその租税の負担は世界的にも最も低い水準にあるものと認められる
また,香港が中国へ返還された後の1998年(平成10年)2月には,
中国税務当局と香港特別行政区との間で,中国本土と香港との二重課税の
回避を目的とする「中国・香港二重課税防止取扱規定(乙48)が調印」
されたが,同規定7条1項(f)においては,それぞれの「権限ある当局」
は,中国においては,国家税務総局であり,香港においては,香港特別行
政区政府税務局局長(又は権限を与えられたその代理者)である旨規定さ
,。れており課税権を行使する当局もそれぞれ異なることが明示されている
以上からすると,香港は,タックス・ヘイブン税制の適用上,中国本土
とは税制が異なり租税の負担が著しく低く定められた「地域」に該当する
というべきであるから,本店所在地が香港であるP1が所在地国基準を満
たすためには,その事業を主として本店の所在する「地域」たる香港にお
いて行っていると認められることを要するものと解される。
そうすると,本件では,P1は,前記アのとおり,その主たる事業であ
る製造業を主として香港以外の「地域」で行っているため,措置法66条
の6第3項2号,同法施行令39条の17第5項3号に掲げる要件を満た
していないことになるから,所在地国基準を満たさないといわざるを得な
い。
()アこれに対し,原告は,<A>製造業が製造行為及び卸売とから構成され2
ることにかんがみると,P1は,本店所在地たる香港において卸売すなわ
ち製造業を行っているから,所在地国基準を満たす,<B>P1の所在地た
,,る香港とP10工場の所在地たる東莞市とは近接した場所に所在しかつ
被告の主張を前提にすれば経営諸帳簿は同一であるから,日本標準産業分
類に規定した事業所の取扱い単位の基準によれば,香港の本店とP10工
場とは一事業所と考えるべきであって,所在地国基準を満たす,<C>被告
の主張を前提とすれば,P1がP10工場の生産管理等を行っているので
あるから,販売行為のほかにこのような生産管理等を行っているというP
1の本店の負担している機能及びリスクの重さにかんがみれば,本店所在
地国たる香港で主として製造業を行っているというべきであって,所在地
国基準を満たす旨主張する。
イそこで,まず,上記<A>の主張について検討するに,措置法66条の6
第3項2号,同法施行令39条の17第5項3号は,所在地国基準の要件
として,特定外国子会社等がその主たる事業を主として本店又は主たる事
務所の所在する国又は地域において行っていることを掲げており,前記1
及び()アのとおり,P1がその主たる事業である製造業を主として香港1
以外の地域で行っている以上,その従たる事業である卸売業を香港におい
て行っていることをもって,その主たる事業を主として香港において行っ
ているとはいえないことは明らかであるから,上記主張は採用できない。
ウ次に,上記<B>の主張について検討するに,措置法通達66の6−14
は,特定外国子会社等の営む事業が措置法66条の6第3項1号又は措置
法施行令39条の17第5項1号若しくは同項2号に掲げる事業のいずれ
に該当するかどうかの基準として,原則的に日本標準産業分類を用いる旨
を定めているにすぎず,これは,前記1()エのとおり,当該特定外国子4
会社等の事業活動全般の「主たる事業」を判定する際に,事業の種別の分
類を原則として日本標準産業分類の産業分類に依拠するものとした趣旨で
あることは明らかであって,事業所の単位の認定基準として同分類を用い
る旨を定めたものでないことは明らかであるから,同分類に掲記された事
業所の取扱い単位の基準を引用した上でされた上記主張は,措置法通達の
解釈としてその前提を欠いており,採用できない。
エそして,上記<C>の主張について検討するに,前記1()ウ(エ)のとお2
り,人員面でも総費用面でも,P10工場における製造行為がP1の事業
の中核であることに加えて,原告の主張する生産管理等の機能面(リスク
負担を含む)を考慮しても,P1のP11本社においては,前記1()。2
ウ(ウ)のとおり,原告からP1への出向者■名及び香港でP1に現地採用
された■名の従業員によって,輸出入業務,販売業務及び経理財務業務が
行われていたのに対し,P10工場においては,前記1()ウ(ア)並びに2
同エ(イ)及び(ウ)のとおり,原告からP1への出向者のうちαに居住して
((),()いた者2002年平成14年には■■名2003年平成15年
には■■名,2004年(平成16年)には■名)が,P10工場の総経
理,副総経理,部長等の管理職に就き,P10工場における製品製造及び
生産管理等の指揮・監督を主体的に行っていたことからすると,前記1の
とおり,P1がその主たる事業である製造業を主として行っていたのは,
P10工場の所在する東莞市αにおいてであると認めるのが相当であるか
ら,上記主張は理由がない。
()以上によれば,原告の特定外国子会社等であるP1は,所在地国基準を3
満たさないものというべきである。
3争点()(目的論的解釈による適用除外の可否)について3
()原告は,措置法66条の6第3項(適用除外)の立法趣旨にかんがみれ1
ば,当該国において実体のある特定外国子会社等(実体基準及び管理支配基
準のいずれも満たすもの)が,経済的合理性のある活動を行っているにもか
かわらず,同条3項の適用除外要件のうち,特に「事業」によって基準が異
なる形式を採用している非関連者基準及び所在地国基準について,これを形
式的に適用すると適用除外とならず,同条1項が適用される結果,我が国企
業の国際競争力を弱めるというような事態が生じる場合には,同条1項は適
用されないという目的論的解釈を採るべきである旨主張し,甲64の意見書
には,これに沿う部分がある。
()そこで検討するに,租税法規は,多数の納税者間の税負担の公平を図る2
観点から,法的安定性の要請が強く働くから,その解釈は,原則として文理
解釈によるべきであり,文理解釈によっては規定の意味内容を明らかにする
ことが困難な場合にはじめて,規定の趣旨・目的に照らしてその意味内容を
明らかにする目的的解釈が行われるべきであって,みだりに拡張解釈や類推
解釈を行うべきではないと解される。そして,前記1()アのとおり,措置1
法は,①66条の6第1項において,課税要件を明確化して課税執行面にお
ける安定性を確保しつつ,外国子会社を通じて不当に租税の負担を回避する
事例に対処して税負担の実質的な公平を図ることを目的として,タックス・
ヘイブン税制を定めた上で,②例外的に,同条3項において,同様に課税要
件を明確化して課税執行面における安定性を確保しつつ,正常かつ合理的な
経済活動につき同税制の適用を除外する趣旨で,当該特定外国子会社等が独
立企業としての実体を備え,かつ,その行う主たる事業が十分な経済的合理
性を有すると考えられる一定の場合について,具体的かつ明確な要件を定め
て,上記①の立法目的を損なわない範囲で,限定的に同税制の適用除外を認
めたものであって,同条3項の適用除外要件の定めは明確であり,文理解釈
によってその意味内容を明らかにすることが可能である。これに対し,原告
は,同条1項が設けられた趣旨から忖度して,措置法の条文にはない一定の
,,要件を付加して租税法規の適用範囲を限定すべき旨主張しているがこれは
要するに,措置法の条文にはない独自の適用除外要件を創設して同条3項の
適用除外の範囲を拡大すべき旨を主張するものであって,実質的には立法論
の範疇に属するものといわざるを得ず,しかも,原告が主張する同条1項へ
の付加要件,すなわち,同条3項の適用除外の範囲拡大の要件自体(我が国
企業の国際競争力の低下等)が極めて不明確なものであって,それによって
課税執行面における安定性を確保することは到底不可能と考えられるから,
上記のとおりの租税法規の解釈の在り方に照らし,措置法66条の6の解釈
論として所論を採用することはできない。
したがって,原告の上記()の主張は理由がない。1
4本件各更正処分等の適法性
()以上によれば,本件事案には,措置法66条の6第1項が適用されるこ1
ととなり,原告に係る特定外国子会社等であるP1のP1平成14年12月
期,P1平成15年12月期及びP1平成16年12月期における各課税対
象留保金額を,原告の平成15年3月期,平成16年3月期及び平成17年
3月期の各所得の計算上,各益金の額に算入すべきこととなり,これにより
各算出した原告の各所得金額及び各納付すべき税額は,別紙「更正等の根拠
及び計算」第1記載のとおりであると認められ(なお,本件争点に関する部
分を除き,計算の基礎となる金額及び計算方法については,当事者間に争い
がない,これらの各金額及び各税額は本件各更正処分における原告の平成。)
15年3月期,平成16年3月期及び平成17年3月期の法人税に係る各所
得金額及び各納付すべき税額(別表1「課税処分等の経緯」の区分「更正処
分等」の項目「所得金額」欄及び「納付すべき金額」欄記載の各金額)と同
一であるから,本件各更正処分はいずれも適法である。
()また,上記のとおり本件各更正処分は適法であるところ,本件各賦課決2
定処分において過少申告加算税の対象とした各税額の計算の基礎となった各
事実が本件各更正処分前における各税額の計算の基礎とされなかったことに
ついて国税通則法65条4項に規定する正当な理由があるとは認められない
から,原告の平成15年3月期,平成16年3月期及び平成17年3月期の
法人税に係る各過少申告加算税の額は,別紙「更正等の根拠及び計算」第2
記載のとおりであると認められ,いずれも本件各賦課決定における各過少申
告加算税の額別表1課税処分等の経緯の区分更正処分等の項目過(「」「」「
少申告加算税」欄記載の金額)と同一であるから,本件各賦課決定処分もい
ずれも適法である。
第4結論
よって,原告の請求は,いずれも理由がないから棄却することとし,訴訟
費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,
主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官岩井伸晃
裁判官三輪方大
裁判官小島清二は,転補につき署名押印することができない。
裁判長裁判官岩井伸晃
別紙
更正等の根拠及び計算
第1更正の根拠及び計算
1平成15年3月期
()所得金額(別表2−1順号③)1億9977万68461

上記金額は,下記アの金額に下記イの金額を加算した金額である。
ア修正申告所得金額(別表2−1順号①)4764万5865円
上記金額は,原告の平成15年3月期の法人税の修正申告書に記載され
た所得金額である。
イ特定外国子会社等に係る課税対象留保金額の益金算入額(別表2−1順
号②及び別表2−2順号⑩)1億5213万0981円
上記金額は,P1が特定外国子会社等に該当するため,原告の収益の額
とみなして平成15年3月期の益金の額に算入すべき課税対象留保金額
(措置法66条の6第1項)に相当する金額である。
()法人税額(別表2−1順号④)5993万28002

上記金額は,上記()の所得金額1億9977万6000円(国税通則法1
(以下「通則法」という)118条1項の規定により1000円未満の端。
数を切り捨てた後のもの)に,法人税法66条1項及び経済社会の変化等に
対応して早急に講ずべき所得税及び法人税の負担軽減措置に関する法律(平
成18年法律第10号による廃止前のもの。以下「負担軽減法」という)1。
6条1項の規定により100分の30の税率を乗じて計算した金額である。
()所得税額の控除額(別表2−1順号⑤)8万18283

上記金額は,法人税法68条の規定により控除する所得税額であり,原告
の平成15年3月期の法人税の確定申告書に記載された金額と同額である。
()外国税額の控除額(別表2−1順号⑥)1457万28264

上記金額は,法人税法69条の規定に基づき,前記()の法人税額から,2
下記アの金額のうち,下記イにより計算した金額を限度として控除される外
国税額の金額である。
ア外国法人税額1457万2826円
上記金額は,法人税法69条1項及び同法施行令141条1項に規定す
る外国法人税の金額である。
イ控除限度額4574万8932円
上記金額は,前記()の金額に,下記(ア)の金額のうちに下記(イ)の金2
額の占める割合を乗じて計算した金額である。
(ア)当期所得金額4億7847万0745

上記金額は,法人税法施行令142条2項の規定により,前記()の1
所得金額1億9977万6846円に,法人税法57条の規定による繰
越欠損金の当期控除額2億7869万3899円を加算して計算した金
額である。
(イ)当期国外所得金額3億6523万4496

上記金額は,法人税法施行令142条3項の規定により計算した当期
の国外所得の金額である。
()納付すべき法人税額(別表2−1順号⑦)4527万81005

上記金額は,前記()の法人税額5993万2800円から,前記()の23
所得税額の控除額8万1828円及び前記()の外国税額の控除額14574
万2826円を差し引いた金額(通則法119条1項の規定により100円
未満の端数を切り捨てた後のもの)である。
2平成16年3月期
()所得金額(別表3−1順号⑥)7億5852万66331

上記金額は,下記アの金額に下記イの金額を加算し,下記ウ及びエの金額
を減算した金額である。
ア修正申告所得金額(別表3−1順号①)6億6475万5388円
上記金額は,原告の平成16年3月期の法人税の修正申告書に記載され
た所得金額である。
イ特定外国子会社等に係る課税対象留保金額の益金算入額(別表3−1順
号②及び別表3−2順号⑩)1億2468万1555円
上記金額は,P1が特定外国子会社等に該当するため,原告の収益の額
とみなして平成16年3月期の益金の額に算入すべき,課税対象留保金額
に相当する金額である。
ウ課税済留保金額の損金算入額(別表3−1順号③)
1630万5810円
上記金額は,措置法66条の8並びに同法施行令39条の19及び39
条の16の規定に基づき,平成15年3月期の特定外国子会社等に係る課
税対象留保金額のうち,P1が平成15年8月11日に支払った配当金に
相当する課税済配当等の金額であり,平成16年3月期の損金の額に算入
する金額である。
エ事業税の損金算入額(別表3−1順号④)1460万4500円
上記金額は,平成15年3月期の更正処分に伴い納付することとなった
事業税の金額である。
()法人税額(別表3−1順号⑦)2億2755万78002

上記金額は,前記()の所得金額7億5852万6000円(通則法111
8条1項の規定により1000円未満の端数を切り捨てた後のもの)に,法
人税法66条1項及び負担軽減法16条1項の規定により100分の30の
税率を乗じて計算した金額である。
()所得税額の控除額(別表3−1順号⑧)69万20393

上記金額は,法人税法68条の規定により控除する所得税額であり,原告
の平成16年3月期の法人税の確定申告書に記載された金額と同額である。
()外国税額の控除額(別表3−1順号⑨)2119万27694

上記金額は,法人税法69条の規定に基づき,前記()の法人税額から,2
下記アの金額のうち,下記イにより計算した金額を限度として控除される外
国税額の金額である。
ア外国法人税額2119万2769円
上記金額は,法人税法69条1項及び同法施行令141条1項に規定す
る外国法人税の金額である。
イ控除限度額1億3691万4352円
上記金額は,前記()の金額に,下記(ア)の金額のうちに下記(イ)の金2
額の占める割合を乗じて計算した金額である。
(ア)当期所得金額7億5852万6633

上記金額は,前記()の所得金額である。1
(イ)当期国外所得金額4億5638万1555

上記金額は,法人税法施行令142条3項の規定により計算した当期
の国外所得の金額である。
()納付すべき法人税額(別表3−1順号⑩)2億0567万29005

上記金額は前記()の法人税額2億2755万7800円から前記(),,23
の所得税額の控除額69万2039円及び前記()の外国税額の控除額214
19万2769円を差し引いた金額(通則法119条1項の規定により10
0円未満の端数を切り捨てた後のもの)である。
3平成17年3月期
()所得金額(別表4−1順号⑦)17億7703万79071

上記金額は,下記アの金額に下記イの金額を加算し,下記ウないしオの金
額を減算した金額である。
ア確定申告所得金額(別表4−1順号①)10億2473万8188円
上記金額は,原告の平成17年3月期の法人税の確定申告書に記載され
た所得金額である。
イ特定外国子会社等に係る課税対象留保金額の益金算入額(別表4−1順
号②及び別表4−2順号⑩)7億8160万9134円
上記金額は,P1が特定外国子会社等に該当するため,原告の収益の額
とみなして平成17年3月期の益金の額に算入すべき課税対象留保金額に
相当する金額である。
ウ課税済留保金額の損金算入額(別表4−1順号③)
1554万6120円
上記金額は,措置法66条の8並びに同法施行令39条の19及び39
条の16の規定に基づき,平成16年3月期の特定外国子会社等に係る課
税対象留保金額のうち,P1が平成16年5月31日に支払った配当金に
相当する課税済配当等の金額であり,平成17年3月期の損金の額に算入
する金額である。
エ事業税の損金算入額(別表4−1順号④)900万2000円
上記金額は,平成16年3月期に係る更正処分に伴い納付することとな
った事業税の金額である。
オ外国法人税の額の損金不算入額の過大額(別表4−1順号⑤)
476万1295円
上記金額は,中国に本店を有するP18公司から収受する使用料に係る
営業税の金額に相当する額であり,当該営業税は法人税法施行令141条
1項に規定する外国法人税に該当せず,法人税法41条の規定は適用され
ないため,平成17年3月期の損金の額に算入すべき金額である。
()法人税額(別表4−1順号⑧)5億3311万11002

上記金額は,前記()の所得金額17億7703万7000円(通則法11
18条1項の規定により1000円未満の端数を切り捨てた後のもの)に,
法人税法66条1項及び負担軽減法16条1項の規定により100分の30
の税率を乗じて計算した金額である。
()特定情報通信機器等を取得した場合の法人税額の特別控除額(別表4−3
1順号⑨)994万8246

上記金額は,措置法42条の11第6項に規定する特定情報通信機器等を
取得した場合の法人税額の特別控除額であり,原告の平成17年3月期の法
人税の確定申告書に記載された金額と同額である。
()所得税額の控除額(別表4−1順号⑩)780万70864

上記金額は,法人税法68条の規定により控除する所得税額であり,原告
の平成17年3月期の法人税の確定申告書に記載された金額と同額である。
()外国税額の控除額(別表4−1順号⑪)3271万16775

上記金額は,法人税法69条の規定に基づき,前記()の法人税額から,2
下記アの金額のうち,下記イにより計算した金額を限度として控除される外
国税額の金額である。
ア外国法人税額3271万1677円
上記金額は,法人税法69条1項及び同法施行令141条1項の規定に
基づく外国法人税の額である。
イ控除限度額3億7357万8477円
上記金額は,前記()の金額に,下記(ア)の金額のうちに下記(イ)の金2
額の占める割合を乗じて計算した金額である。
(ア)当期所得金額17億7703万7907

上記金額は,前記()の所得金額である。1
(イ)当期国外所得金額12億4526万2228

上記金額は,法人税法施行令142条3項の規定により計算した当期
の国外所得の金額である。
()納付すべき法人税額(別表4−1順号⑫)4億8264万40006

上記金額は前記()の法人税額5億3311万1100円から前記(),,23
の法人税額の特別控除額994万8246円,前記()の所得税額の控除額4
780万7086円及び前記()の外国税額の額3271万1677円を差5
し引いた金額(通則法119条1項の規定により100円未満の端数を切り
捨てた後のもの)である。
第2過少申告加算税の賦課の根拠及び計算
1平成15年3月期550万1500円
上記金額は,下記()の金額に下記()の金額を加算した金額である。12
()通則法65条1項(平成18年法律第10号による改正前のもの。以下1
同じ)の規定に基づく金額404万0000。

上記金額は,原告が新たに納付すべきこととなった税額4040万円(た
だし,通則法118条3項により1万円未満の端数を切り捨てた後のもの)
に100分の10の割合を乗じて計算した金額である。
()通則法65条2項の規定に基づく金額146万15002

上記金額は,本件更正処分により新たに納付すべき税額4040万030
0円と通則法65条3項1号に規定する累積増差税額43万8700円の合
計額4083万9000円から,期限内申告税額1160万3374円(確
定申告における納付すべき税額373万0300円に同申告に係る所得税額
の控除額8万1828円及び外国税額の控除額779万1246円を加算し
たもの)を控除した金額2923万円(ただし,通則法118条3項により
1万円未満の端数を切り捨てた後のもの)に100分の5の割合を乗じて計
算した金額である。
2平成16年3月期296万4000円
上記金額は,通則法65条1項に基づき,原告が新たに納付すべきこととな
った税額2964万円(ただし,通則法118条3項により1万円未満の端数
)。を切り捨てた後のものに100分の10の割合を乗じて計算した金額である
3平成17年3月期2304万5000円
上記金額は,通則法65条1項に基づき,原告が新たに納付すべきこととな
った税額2億3045万円(ただし,通則法118条3項により1万円未満の
端数を切り捨てた後のもの)に100分の10の割合を乗じて計算した金額で
ある。

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