弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 被告人両名弁護人小林直人上告趣意第一点について。
 所論の第一回及び第二回公判調書の記載内容は、論旨に掲げているとおりである。
論旨は、原判決挙示の証拠は、証拠書類であるから、旧刑訴第三四〇条に従つて、
朗読又は要旨告知の方式によつて証拠調をすべきであり、同第三四一条に従つて展
示の方式によつて証拠調をすべきものではないと主張している。しかしながら、証
拠書類と雖も特殊の場合においては、展示の方式によつて証拠調がなされることが
ある(旧刑訴第三四〇条第二項第三項)。のみならず、証拠書類の中にはこれを被
告人に示すことによつて、却つて端的にその内容を知悉ぜしめるに適する場合(例
えば、証拠書類中の被告人の署名の部分又は表の取調のごとき)においては、展示
されることがあり且つこの展示の方式によつても証拠調が完全に履践されるものと
解すべきである。本件では、検証調書中の図面のごときは展示に適するものと認め
られる。それ故に、原審公判調書の記載によつて、証拠書類の証拠調が全体におい
て適法に取行われたことは、窺知されるのであつて、論旨は採用し難い。
 同第二点について。
 公判廷において証拠調をした証拠書類を公判調書に記載する方法については、各
書類を必ずしも個別具体的に掲記する必要はなく、如何なる書類につき証拠調がな
されたかを明確にするを得る程度において、総括的表示をもつて掲記しても差支な
いのである(昭和二二年(れ)第二七七号、同二三年四月八日第一小法廷判決参照)。
そして、所論公判調書における「各被告人に対する司法警察官の聴取書」という中
には、司法警察官代理の聴取書を特に除外する意味ではなく、これをも包含せしめ
る趣旨で掲記されたことが、本件記録を通じて窺知されるのである(しかし、公判
調書の記載が、できうる限り、もつと正確を期すべきであることは、言を待たない)。
されば、所論の各証拠は、何れも適法に証拠調がなされたものと認められるから論
旨を採用することはできない。
 同第三点について。
 所論の「領置二二年第三号の第二号」は、「領置二三年第三号の第二号」の誤記
と認められる。所論の押収物が存在することは記録上明白である。論旨は、それ故
に理由がない。
 同第四点について。
 原審は、被告人等の所為を共同正犯と認定している。だから、所論のように被告
人A自身は、直接判示銀行の構内に侵入した事実がなかつたとしても、他の共犯者
が同銀行の構内に侵入した事実は明らかであるからには、被告人Aもまた正犯とし
て銀行構内に侵入した点について刑責を負わなければならぬことは当然であると言
うべきである。原判決が、同被告人に対して刑法第一三〇条、第六〇条を適用して
いるのは、右の趣旨に外ならない。されば、原判決には法律適用の違法はなく、論
旨は理由がないのである。
 同第五点について。
 論旨は、被告人等の公判廷における供述と、公判廷外において官憲の録取した書
類に表示されている供述とが、相違している場合において、その何れを採るかは、
裁判所の自由心証に依るべきであるが、前者を排し後者を信じて採る場合には、そ
の理由を示すべきだと主張するのである。同じ被告人の供述でも、犯行時に近いも
のが正確で、だんだん時の経つにつれて記憶が薄らぎ供述の正確性を失つていくと
いう事例もあり、また犯行直後には素直に真実を語つているが、事件の進行する過
程において、意識的に罪責を逃れ又は軽からしめようとする心理の動くがままに、
時として様様に歪曲せられた虚偽の陳述が加わつていくという事例もあり、さらに
またこれらの反対の事例もその他多種多様の事例もがあるであろう。これら玉石の
混じりあつた供述の中から、その珠玉を拾い出しその何れをより真実と認め、より
多く措信するかは、実に裁判官に課せられた重い任務であつて、裁判官の聰明と苦
心とは常にこの点に傾注せられており又傾注せられなければならない。これが真の
意味における自由心証主義の精髄であり中核をなすものであると考える。この自由
は、飽くまで真実を発見するためどこからも制御を受けない意味における自由であ
り、かりそめにも専恣や我儘や安易や怠慢を許す自由であつてはならぬことは言う
までもないところである。されば、自由心証の形成には、聰明な裁判官の彫琢の努
力による具体的の事情に即した極めて高度の評価作用を必要とする。かかる自由心
証形成の過程における心理的作用は、まことに複雑多岐であり、極めて繊細微妙な
問題である。そこで、論旨のいうように、所論の場合に自由心証の形成されるに至
つた理由を判決に示すべしとすることは、甚だ難きを裁判官に強うる嫌があるばか
りでなく、却つて真の自由心証の形成のためにむしろ害があると言わなければなら
ぬ。採証について裁判官に一任することができない問題については、法定証拠の制
度を設けるがよい。しかし、すでに法定証拠主義をとらずして裁判官の自由心証に
まかされた問題については、特別の明文がない限りすべからく裁判官の聰明と苦心
とに信頼し、徹底的にその自由裁量にまかすことの方が、より忠実に煉磨と洗練を
加えしめることとなり、自由心証主義の長所と美点を十全に発揮せしめるゆえんで
ある。又法律のいずこにおいても、所論のような理由開示を要請していると認めら
れる箇所はないのである。さて、原審公判廷における被告人等の供述をみると、被
告人等がすべて判示事実の細部に亘つて詳細に自白している訳ではないから、原審
はむしろ被告人等の検事又は司法警察官代理に対する自白を証拠として採つたこと
が窺知される。だから、原判決が、所論の自由心証形成について理由を示さなかつ
たことは、別段違法ではなく、論旨は採用することができない。
 被告人A弁護人戸梶重明、同山口春一上告趣意
 第一点について。
 起訴の範囲は、起訴状記載の罪名に制限されるものではなく、公訴事実によつて
決定さるべきものである。そして、本件起訴状公訴事実中には、強盗未遂の事実の
外に、「被告人等は、……B銀行C支店を襲撃し同行保管金を強奪することを謀議
し、共謀の上、、Dは街路で自動車に止まり逃走の準備をして待機し、Eは共に防
毒面を以て覆面し、更にEは拳銃を所持して右銀行の門を乗越え内部に押入り」と
いう事実、即ち住居侵入罪の要件である事実も、明白に起訴事実中に含まれている
(第一審では、住居侵入の事実を認定しながら、刑法第一三〇条、第六〇条を適用
しなかつたのは、擬律の違法がある)。 それ故、原審が強盗未遂罪の外に住居侵
入罪の成立を認めたことは、何等起訴の範囲を越えたものではない。次に、被告人
のみが控訴した事件におけるいわゆる不利益変更の禁止は、下級審が言渡した刑よ
り重い刑を言渡すことを禁制する意義を有するに過ぎない。だから、本件における
がごとく下級審が強盗未遂罪のみを認めておる場合に、控訴審においてその外に住
居侵入罪を認めたとしても、被告人は第一審で懲役三年に、第二審で懲役二年六月
に処せられ、刑は重くなつたのではなく却つて軽くなつている位であるから、これ
を不利益に変更されたとは言い得ないのである。なお、本件住居侵入罪と強盗未遂
罪とは、手段結果の牽連犯の関係にあるものであつて、所論のように前者が後者に
吸収される訳のものではない。論旨は、それ故にすべて採用し難いのである。
 同第二点について。
 原判決の掲げている各証拠を総合すると、被告人Aが他の共犯者と共謀の上、原
判決の判示した犯罪を敢行したことを認定するに足ることは、当裁判所においても
肯認することができる。論旨は、結局事実認定を非難するに帰着し、法律審適法の
上告理由としては認め難いのである。
 同第三点について。
 論旨は、原審の事実認定を非難するものであるから、上告適法の理由とならない。
 被告人Fの上告趣意書は、提出期間経過後のものであるから、意見を略する。
 よつて旧刑訴第四四六条に従い主文のとおり判決する。
 この判決は裁判官全員の一致した意見である。
 検察官 長部謹吾関与
  昭和二四年四月一四日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    真   野       毅
            裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    斎   藤   悠   輔

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