弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決中,控訴人の敗訴部分を取り消す。
2札幌南税務署長が控訴人に対し平成19年3月2日付けでした控訴人の相続
税の更正処分(被相続人A(以下「亡A」という。)の平成▲年▲月▲日相続開始
に係るもの。以下「本件更正処分」という。ただし,平成21年1月7日付け裁決
による一部取消し後のもの。)のうち申告納付税額566万6600円を超える部
分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい,本件更
正処分と併せて「本件更正処分等」という。ただし,平成21年1月7日付け裁決
による一部取消し後のもの。)を取り消す。
第2事案の概要
次のように補正するほかは,原判決の事実及び理由中の第2に記載のとおりであ
るから,これを引用する。
1原判決3頁1行目の次に行を改めて次のように加える。
「原審は,控訴人の請求のうち,亡AのB又はBの理事長に対する貸付金債権
は相続開始時に存在しないので相続税の課税対象財産ではないとして,本件更正処
分(ただし,平成21年1月7日付け裁決による一部取消し後のもの)及び本件賦
課決定処分(ただし,平成21年1月7日付け裁決による一部取消し後のもの)の
一部の取消しを求める部分を認容したが,C不正使用金債権及びD不正使用金債権
は相続開始時に相続財産として存在していたので相続税の課税対象財産になると認
めて,控訴人のその余の請求を棄却した。これに対し,控訴人が控訴をした。」
2原判決14頁16行目の次に行を改めて次のように加える。
「仮に,亡Aが生前にC不正使用金債権の返還を請求する意思を有していたな
らば,少しずつでも返還するよう催告するなどしたはずである。亡Aが債権回収行
為をしなかったということは,亡Aによる黙示的な贈与又は免除の意思表示があっ
たものというべきである。また,亡AとCは親子関係にあるので相続が発生すれば,
C不正使用金債権は相続による混同で債権は消滅し,以後Cに対しては何らの金銭
的な請求ができなくなる。このことからすれば,Cの債務消滅利益分については,
亡AからCに対し贈与があったと認めることができる。さらに,亡AがCに対し不
正使用金の返還請求をしなかったということは,Cは亡Aから不正使用金相当分の
特別受益を受けていたものと評価できる。そして,亡Aは,死後,子らの間で不正
使用金の返還をめぐって紛争が生じることを望んでいなかったと想像される。した
がって,亡Aは,Cの不正使用金については持ち戻す必要がないものとして,贈与
又は免除の意思表示をしたものと解するのが合理的である。」
3原判決15頁11行目末尾の次に次のように加える。
「相続税法22条では相続財産の評価に関して時価主義を採用しており,ここで
いう時価とは,客観的な交換価値のことであり,不特定多数の独立当事者間の自由
な取引において通常成立すると認められる価格を意味するとされている。そして,
相続で混同が生じたときは,被相続人が有していた債権は,被相続人が死亡した時,
すなわち,相続開始時に消滅する。これを客観的交換価値という観点から考えると,
被相続人が有していた債権は,相続開始時には既に消滅しており,不特定多数の独
立当事者間において取引が成立する余地が全くないのであるから,客観的交換価値
は零ということになる。したがって,C不正使用金債権も相続開始時には不特定多
数の独立当事者間において取引が成立する余地は全くなく,何人が訴訟を提起して
も勝訴の見込みは全くないのであるから,相続開始時における時価は零ということ
になる。また,Cは,亡AからC不正使用金債権の返還請求をされても,それを返
済するだけの弁済資力を全く有していないので,C不正使用金債権は回収不能債権
であるから客観的交換価値は全くない。
エ控訴人の担税力
本件における混同は,亡AとCとの間において個別に生じたものであり,控訴人
との関係において混同は問題となっていない。このことからすると,Cにおいては
自己の債務消滅利益がもたらされたということができるが,控訴人において何ら債
務消滅利益はもたらされていないのであるから,本件相続による担税力の増加を認
めることはできない。したがって,控訴人との関係においては,担税力の増加を理
由としてC不正使用金債権を,相続により取得した財産として本件相続に係る相続
税の課税対象財産になるということはできない。また,亡Aは,生前にCに対して
何ら不正使用金の返還請求を行っていないのであるから,Cは相続の開始以前から
債務減少利益を得ていたと見るべきであるから,相続を契機として担税力が生じた
と評価することはできない。」
4原判決18頁3行目の次に行を改めて次のように加える。
「仮に,亡Aが生前にD不正使用金債権の返還を請求する意思を有していたな
らば,亡Aは,少しずつでも返還するよう催告するとか,株式の返還を求めるはず
である。しかし,亡Aが債権回収行為をしなかったということは,亡Aによる黙示
的な贈与又は免除の意思表示があったものというべきである。また,亡AとDは親
子関係にあるので,亡Aに相続が発生すれば,D不正使用金債権は相続による混同
で債権は消滅し,以後Dに対しては何らの金銭的な請求ができなくなる。このこと
からすれば,Dの債務消滅利益分については,亡AからDに対し贈与があったと認
められる。さらに,亡AがDに対し不正使用金の返還請求をしなかったということ
は,Dは亡Aから不正使用金相当分の特別受益を受けていたものと評価できる。そ
して,亡Aは,死後,子らの間で不正使用金の返還をめぐって紛争が生じることを
望んでいなかったと想像される。したがって,亡Aは,Dの不正使用金については
持ち戻す必要がないものとして,贈与又は免除の意思表示をしたものと解するのが
合理的である。」
5原判決18頁24行目末尾の次に次のように加える。
「相続税法22条では相続財産の評価に関して時価主義を採用しており,ここで
いう時価とは,客観的な交換価値のことであり,不特定多数の独立当事者間の自由
な取引において通常成立すると認められる価格を意味するとされている。そして,
相続で混同が生じたときは,被相続人が有していた債権は,被相続人が死亡した時,
すなわち,相続開始時に消滅する。これを客観的交換価値という観点から考えると,
不特定多数の独立当事者間において取引が成立する余地が全くないのであるから,
客観的交換価値は零ということになる。したがって,D不正使用金債権も相続開始
時には不特定多数の独立当事者間において取引が成立する余地は全くなく,何人が
訴訟を提起しても勝訴の見込みは全くないのであるから,相続開始時における時価
は零ということになる。また,Dは,亡AからD不正使用金債権の返還請求をされ
ても,それを返済するだけの弁済資力を全く有していないので,D不正使用金債権
は回収不能債権であるから客観的交換価値は全くない。
エ控訴人の担税力
本件における混同は,亡AとDとの間において個別に生じたものであり,控訴人
との関係において混同は問題となっていない。このことからすると,Dにおいては
自己の債務消滅利益がもたらされたということができるが,控訴人において何ら債
務消滅利益はもたらされていないのであるから,本件相続による担税力の増加を認
めることはできない。したがって,控訴人との関係においては,担税力の増加を理
由としてD不正使用金債権を相続により取得した財産として本件相続に係る相続税
の課税対象になるということはできない。また,亡Aは,生前にDに対して何ら不
正使用金の返還請求を行っていないのであるから,Dは相続の開始以前から債務減
少利益を得ていたと見るべきであるから,相続を契機として担税力が生じたと評価
することはできない。」
第3当裁判所の判断
1当裁判所も,控訴人の請求は原審が認容した限度で理由があるものと判断す
る。その理由は,次のように補正するほかは,原判決の事実及び理由中の第3に記
載のとおりであるから,これを引用する。
(1)原判決27頁19行目の「事情による認められる」を「事情によると認めら
れる」に改める。
(2)原判決30頁3行目の次に行を改めて次のように加える。
「また,控訴人は,亡Aが債権回収行為をしなかったということは,亡Aによ
る黙示的な贈与又は免除の意思表示があったとか,相続による混同で債権は消滅し,
以後Cに対しては何らの金銭的な請求ができなくなるので,Cの債務消滅利益分に
ついては,亡AからCに対し贈与があったなどと主張する。しかし,前記のとおり,
亡Aが,Cに対し,C不正使用金債権に係る債務を免除したり,又は贈与したりす
る意思を有していたとは認められないのであるから,黙示的にも亡Aがそのような
意思を有していたと認めることはできないし,債務消滅利益分について亡Aから贈
与があったなどともいえない。さらに,控訴人は,Cは亡Aから不正使用金相当分
の特別受益を受けていたものと評価でき,亡Aは,Cの不正使用金については持ち
戻す必要がないものとして,贈与又は免除の意思表示をしたものと解するのが合理
的であるとも主張する。しかし,不正使用金相当分が,そもそも,特別受益とされ
ている被相続人から遺贈を受け,又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の
資本として贈与を受けたものに当たらないことは明らかである。そして,C不正使
用金債権は,相続開始時において,相続税が課税される対象財産として,存在して
いたのであり,それを持ち戻すということ自体あり得ないのであるから,持ち戻し
免除の意思表示の有無が問題となることもあり得ない。したがって,控訴人の主張
は採用することができない。」
(3)原判決34頁17行目の次に行を改めて次のように加える。
「キ控訴人は,相続税法22条では相続財産の評価に関して時価主義を採用
しており,ここでいう時価とは,客観的な交換価値のことであり,不特定多数の独
立当事者間の自由な取引において通常成立すると認められる価格を意味するとされ
ているところ,相続で混同が生じたときは被相続人が有していた債権は,被相続人
が死亡した時,すなわち,相続開始時に消滅するので,客観的交換価値という観点
から考えると,不特定多数の独立当事者間において取引が成立する余地が全くない
のであるから,交換価値は零ということになると主張する。しかし,共同相続人が
いる場合に,金銭債権等の可分債権があるときは,当然分割され相続分に応じて債
権を承継し,共同相続人の1人が被相続人に債務を負担しているときには,その債
務と承継する債権とが混同により消滅するのではあるが,その前提として,金銭債
権等の可分債権が相続開始時に分割承継されるとしても相続財産として存在してい
たことは明らかであり,混同により承継した債権が消滅するということと,金銭債
権等の可分債権も相続財産として存在していたこととは別個であるといえる。した
がって,客観的交換価値が零になるということはない。これは,金銭債権等の可分
債権に第三者が権利を有しているときには混同で消滅しないことからも明らかであ
る。また,前記のとおり,混同による金銭債権等の可分債権が消滅したとしても,
その反面債務減少利益自体が相続により取得した財産に該当するとみることもでき
るのであるから,客観的交換価値が零になるということはない。したがって,控訴
人の上記主張は採用することができない。また,控訴人は,Cは,C不正使用金債
権の返還請求をされても,それを返済するだけの弁済資力を全く有していないので,
C不正使用金債権は回収不能債権であるから客観的交換価値は全くないと主張する
が,弁済する資力があるかないかという問題と相続税を課税される対象財産が存在
するか否かとは全く別の問題であり,控訴人の主張は採用することができない。
ク控訴人は,本件における混同は,亡AとCとの間において個別に生じたもの
であり,控訴人との関係において混同は問題となっていないのであり,控訴人にお
いて何ら債務減少利益はもたらされていないのであるから,本件相続による担税力
の増加を認めることはできないと主張する。確かに,本件における混同は,亡Aと
C間に関するもので控訴人とは関係がないものであることは控訴人の主張するとお
りである。しかし,C不正使用金債権が亡AとC間で混同により消滅することと,
C不正使用金債権が相続財産として存在していたこととは別個の問題であるととも
に,C不正使用金債権が混同で消滅してもそれに対応する債務減少利益は相続財産
として存在するのである。そして,前記のとおり,混同による債務減少利益の価額
は,混同により消滅した当該部分に係る債務の返済されるべき金額であるから,そ
れを,相続により取得した財産を当該金銭債権とみるにせよ,その代替物である債
務減少利益とみるにせよ,相続財産としてその価額は存在していたのであるから,
控訴人との関係においても担税力の増加があるとして扱うべきであり,課税対象に
なる。したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。また,控訴人は,
亡Aは,生前にCに対して何ら不正使用金の返還請求を行っていないので,Cは相
続の開始以前から債務減少利益を得ていたと見るべきであるから,相続を契機とし
て担税力が生じたと評価することはできないとも主張する。しかし,亡Aが,Cに
対し,生前不正使用金の返還請求を行わなかったからといって,そのことから直ち
にCが債務減少利益を得ていたなどとはいえず,しかも,前記のとおり,亡Aは,
Cに対し,C不正使用金債権の返還を求めない意思を有していたとは認められない
のであるから,控訴人の主張は採用することができない。」
(4)原判決39頁8行目の次に行を改めて次のように加える。
「また,控訴人は,亡Aが債権回収行為をしなかったということは,亡Aによ
り黙示的な贈与又は免除の意思表示があったとか,相続による混同で債権は消滅し,
以後Dに対しては何らの金銭的な請求ができなくなるので,Dの債務消滅利益分に
ついては,亡AからDに対し贈与があったなどと主張する。しかし,前記(2)のとお
りであり,控訴人の主張は採用することができない。さらに,控訴人は,Dは亡A
から不正使用金相当分の特別受益を受けていたものと評価でき,亡Aは,Dの不正
使用金については持ち戻す必要がないものとして,贈与又は免除の意思表示をした
ものと解するのが合理的であるとも主張するが,前記(2)のとおり,控訴人の主張は
採用することができない。」
(5)原判決40頁7行目の次に行を改めて次のように加える。
「エ控訴人は,相続税法22条では相続財産の評価に関して時価主義を採用
しており,ここでいう時価とは,客観的な交換価値のことであり,不特定多数の独
立当事者間の自由な取引において通常成立すると認められる価格を意味するとされ
ているところ,相続で混同が生じたときは被相続人が有していた債権は,被相続人
が死亡した時,すなわち,相続開始時に消滅するので,客観的交換価値という観点
から考えると,不特定多数の独立当事者間において取引が成立する余地が全くない
のであるから,交換価値は零ということになると主張する。しかし,前記(3)のとお
りであり,控訴人の主張は採用することができない。また,控訴人は,Dは,D不
正使用金債権の返還請求をされても,それを返済するだけの弁済資力を全く有して
いないので,D不正使用金債権は回収不能債権であるから客観的交換価値は全くな
いと主張するが,前記(3)のとおり,控訴人の主張は採用することができない。
オ控訴人は,本件における混同は,亡AとDとの間において個別に生じたもの
であり,控訴人との関係において混同は問題となっていないのであり,控訴人にお
いて何ら債務減少利益はもたらされていないのであるから,本件相続による担税力
の増加を認めることはできないと主張する。しかし,前記(3)のとおりであり,控訴
人の上記主張は採用することができない。また,控訴人は,亡Aは,生前にDに対
して何ら不正使用金の返還請求を行っていないので,Dは相続の開始以前から債務
減少利益を得ていたと見るべきであるとも主張するが,前記(3)のとおり,控訴人の
上記主張は採用することができない。」
(6)原判決40頁15行目末尾の次に次のように加える。
「控訴人は,CはC不正使用金債権について弁済資力が全くなく,DもD不正使
用金債権について弁済能力が全くないから,C不正使用金債権及びD不正使用金債
権は,いずれも客観的交換価値は全くなく,零とすべきであると主張する。しかし
ながら,C及びDの弁済能力がないことについての証拠がないから,これらの債権
については,債権額を基礎とすることにする。」
2以上によれば,原判決は相当であるから,本件控訴を棄却することとし,主
文のとおり判決する。
東京高等裁判所第20民事部
裁判長裁判官春日通良
裁判官太田武聖
裁判官金子直史

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛