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裁判例


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       主   文
1 被告が原告に対し、平成5年11月24日付けでした下記各処分のうち、
1)平成元年10月1日から平成2年9月30日までの事業年度の法人税の更正処
分のうち納付すべき法人税額2億8040万1700円を超える部分、及び同法人
税に係る過少申告加算税の賦課決定処分のうち納付すべき過少申告加算税額210
万円を超える部分、
2)平成2年10月1日から平成3年9月30日までの事業年度の法人税の更正処
分のうち納付すべき法人税額4億0826万9000円を超える部分、及び同法人
税に係る過少申告加算税の賦課決定処分のうち納付すべき過少申告加算税額201
万3000円を超える部分、
3)平成3年10月1日から平成4年9月30日までの事業年度の法人税の更正処
分のうち納付すべき法人税額2億2863万4500円を超える部分、及び同法人
税に係る過少申告加算税の賦課決定処分のうち納付すべき過少申告加算税額249
万5000円を超える部分、
4)平成2年10月1日から平成3年9月30日までの課税事業年度の法人臨時特
別税の更正処分のうち納付すべき法人臨時特別税額1037万4100円を超える
部分、及び同法人臨時特別税に係る過少申告加算税の賦課決定処分のうち納付すべ
き過少申告加算税額5万円を超える部分、
5)平成3年10月1日から平成4年9月30日までの課税事業年度の法人特別税
の更正処分のうち納付すべき法人特別税額578万5900円を超える部分、及び
同法人特別税に係る過少申告加算税の賦課決定処分のうち納付すべき過少申告加算
税額6万2000円を超える部分、
をいずれも取り消す。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、これを3分し、その2を原告の、その余を被告の各負担とする。
       事実及び理由
第1 請求
1 被告が原告に対し、平成5年11月24日付けでした下記の各処分を取り消
す。
(1) 平成元年10月1日から平成2年9月30日まで、平成2年10月1日か
ら平成3年9月30日まで及び平成3年10月1日から平成4年9月30日までの
各事業年度の法人税の各更正処分中、各確定申告額を超える部分及び過少申告加算
税の各賦課決定処分
(2) 平成2年10月1日から平成3年9月30日までの課税事業年度の法人臨
時特別税の更正処分中、確定申告額を超える部分、及び過少申告加算税の賦課決定
処分
(3) 平成3年10月1日から平成4年9月30日までの課税事業年度の法人特
別税の更正処分中、確定申告額を超える部分、及び過少申告加算税の賦課決定処分
2 訴訟費用は被告の負担とする。
第2 事案の概要
 原告は、平成2年9月期ないし平成4年9月期(以下「本件各事業年度」とい
う。)の法人税、平成3年9月期の法人臨時特別税、平成4年9月期の法人特別税
の各申告に当たり、租税特別措置法(以下「租特法」という。)56条の5第1項
(平成7年法律第55号による改正前。以下同じ。)に基づき、プログラム等準備
金の損金算入をして所得金額の計算をしたところ、被告は、上記プログラム等準備
金の損金算入を否認するなどして、別紙「申告・更正処分対比表」記載のとおりの
更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした(以下、これらの処分を合わせ
て「本件各更正等」という。)。本件は、上記プログラム等準備金の損金算入の否
認を不服とする原告が、本件各更正等の取消しを求めている事案である。
1 法令の定め
1)プログラム等準備金の損金算入制度について
 租特法56条の5第1項本文及び表3号(以下「本件規定」という。)は、青色
申告書を提出する法人であって、統合情報処理システムサービス(別名システムイ
ンテグレーションサービス。以下、略して「SI」又は「SIサービス」というこ
とがある。)を提供する事業を営む法人のうち、当該事業を的確に行う能力がある
者として政令で定めるものは、SIサービスに係る情報処理システムの欠陥につき
その引渡し後において当該法人が自己の負担により無償で行う補修に要する費用の
支出に備えるため、当該事業年度におけるSIサービス(政令の定める要件を満た
すものに限る。)の提供に係る収入金額(有償で行う保守に係るものを除く。)と
して政令で定めるところにより計算した金額の100分の10に相当する金額をプ
ログラム等準備金として積み立てたときは、当該積み立てた金額は、当該積立てを
した事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する旨を定めている。
 そして、上記のSIサービスとは、相手方との間に締結した契約に基づき、一の
情報処理システムにつき、その設計、プログラムの作成、試験、運用の準備及び保
守のすべてを行う役務をいい(本件規定)、同項にいう「当該事業を的確に行う能
力がある者」についての政令の定めは、「SIサービス業を的確に行う能力がある
者として通商産業大臣(大臣名は、当時の呼称による。)が認定した法人」とされ
(租特法施行令(平成5年政令第87号による改正前)32条の13第6項。ただ
し、平成2年9月期については、平成2年政令第93号による改正前の同令32条
の14第6項。)、準備金積立ての対象となるSIサービスに関する政令の要件
は、「SIサービスに係る情報処理システムの欠陥につきその引渡し後1年以上の
間無償で補修すべき旨の定めがある契約(書面によるものに限る。)」であって、
「SIサービスの提供に係る対価の額(有償で行う保守に係る対価の額が含まれて
いる場合には、当該保守に係る対価の額を控除した金額)が5000万円以上のも
のであること」であり(租特法施行令(平成5年政令第87号による改正前)32
条の13第7項。ただし、平成2年9月期については、平成2年政令第93号によ
る改正前の同令32条の13第6項)、また、「政令で定めるところにより計算し
た金額」とは、通商産業大臣による認定を受けた法人がしたSIサービス提供に係
る当該事業年度の収入金額から、有償保守に係る収入金額と、SIサービスに係る
業務の全部又は一部を他の者に委託している場合における当該委託に要した費用の
額の2分の1に相当する金額を控除した金額とするものとされていた(租特法施行
令(平成5年政令第87号による改正前)32条の14第8項。ただし、平成2年
9月期については、平成2年政令第93号による改正前の同令32条の13第8
項。)。
2)法人臨時特別税及び法人特別税について
 法人臨時特別税は、「湾岸地域における平和回復活動を支援するため平成2年度
において緊急に講ずべき財政上の措置に必要な財源の確保に係る臨時措置に関する
法律」(以下「臨時措置法」という。)11条1、2項の規定により、基準法人税
額(本件に関していえば、原告の平成3年9月期の所得金額に法人税率である0・
375を乗じた金額)から300万円を控除し、1000円未満を切り捨てて算出
した金額に、臨時措置法12条所定の税率である0・025を乗じ、100円未満
を切り捨てた額を法人臨時特別税として徴収するものである。
 法人特別税は、法人特別税法9条1、2項により、基準法人税額(本件に関して
いえば、原告の平成4年9月期の所得金額に法人税率である0・375を乗じた金
額)から400万円を控除し、1000円未満を切り捨てて算出した金額に、法人
特別税法10条所定の税率である0・025を乗じ、100円未満を切り捨てた額
を法人特別税として徴収するものである。
2 当事者間に争いのない事実
 以下の事実は、当事者間に争いがない。
1)当事者
 原告は情報処理サービス業を営む法人であり、通商産業大臣によってSIサービ
ス業を的確に行う能力がある者としての認定を受けている。
2)原告による納税申告
 原告は、平成2年9月期から平成4年9月期までの各法人税及び平成3年9月期
の法人臨時特別税、平成4年9月期の法人特別税について、別紙「申告・更正処分
対比表」(以下「対比表」という。)の各「申告所得金額」欄及び「申告納税額」
欄(後2者については、「申告課税標準額」欄及び「申告納税額」欄)に記載のと
おりの納税申告を行った。
 なお、原告の申告において、後記のプログラム等準備金損金算入の対象となった
契約の相手方及び契約金額(契約金額は、すべて消費税相当額を控除した金額に基
づく。以下同じ。)は、別紙「申告対象契約一覧表」に記載のとおりであった(な
お、これらの契約を併せて「本件各契約」といい、同表に掲げられた契約の相手方
は、それぞれ同表の「契約の相手方」欄の表示に従い、「第一システムセンター」
などといい、当該相手方との契約に基づいて開発されたシステムは、同表の「シス
テム名」欄の表示に従い、「第一証券システム」などということとする。ただし、
「日本電気経営情報システム開発」については、会社名を「日本電気経営情報」と
略称し、システム名を「日本電気経営情報システム」ということとする。)。
3)被告による本件更正等
 被告は、平成5年11月24日付けで、原告の申告に係る平成2年9月期から平
成4年9月期までの所得金額につき、対比表の「更正」欄に記載のとおり、プログ
ラム等準備金の損金算入の否認、役員賞与の損金算入の否認、所得金額の過大計上
の修正、事業税の損金算入を行い、その結果、原告の各年度における所得金額を対
比表の「更正」欄中の「更正による所得金額」欄に記載のとおり更正し、納付すべ
き税額を同表の「納税額」欄中の「更正による納税額」欄に記載のとおり更正した
上、同表の「過少申告加算税額」欄に記載のとおり過少申告加算税の賦課処分を行
った。
 また、平成3年9月期及び平成4年9月期の法人税について上記のとおり更正を
行ったのに伴い、平成3年9月期の法人臨時特別税及び平成4年9月期の法人特別
税についても、対比表の「基準法人税額」欄中の「更正による金額」欄、「納税
額」欄中の「更正による納税額」欄、「過少申告加算税額」欄に記載のとおりの更
正及び過少申告加算税の賦課処分を行った。
 以上が本件更正等の内容である。
4)不服申立ての前置
 原告は、本件更正等を不服として、平成6年1月14日付けで審査請求をした
が、国税不服審判所長は平成8年7月9日付けで原告の審査請求をいずれも棄却す
る旨の裁決をしたため、同年8月28日付けで本件訴訟を提起した。
第3 争点
 本件の争点は、原告の平成2年9月期ないし平成4年9月期の所得金額を算定す
るのに当たり、プログラム等準備金を損金として算入することができるかどうかで
あり、この点に関す当事者双方の主張は、次のとおりである(このほか、平成2年
9月期の法人税更正においては、原告がした役員賞与の損金算入のうち51万06
50円が否認されているほか、同期及び平成3年9月期の法人税更正において所得
金額の過大計上の指摘がされているが、これらの点については、原告も争っていな
い。)。
1 プログラム等準備金を損金算入するための要件について
1)被告
ア)システムインテグレーション(SI)の概念
「システムインテグレーション」とは、ある情報処理システムの構築について、ユ
ーザーの要求内容を把握し、これに基づいて基本設計、プログラム作成、運用の準
備、保守に至るまでを一貫して請け負うサービス形態をいい、建築業でいえば、
「ゼネコン」が提供するサービスに相当するものを提供するものである。また、シ
ステムインテグレーションを専門的に行う企業は、システムインテグレーターと呼
ばれている。
 システムインテグレーション概念が発生する前は、ユーザー自身がシステムの構
築に責任を負い、メーカー、ソフトウェアハウス、通信会社等を指揮してシステム
の開発を行っていた。しかしながら、このような形態のシステム開発では、ユーザ
ー自身が技術革新の動向を把握しつつ、最良の機器、ソフトウェア及びそれらの組
み合わせを見極めながら、多数の業者との間で適切な個別的契約を締結していかな
ければならず、コンピュータシステムの高度化、複雑化が著しい中で、ユーザーが
このような対応をしていくことは極めて困難かつ負担の重いものとなっていたた
め、ユーザーの間では、システム構築を専門業者(以下、情報処理システム開発に
関するサービスを提供する専門業者を「システム業者」という。)に一括して任せ
たいというニーズが高まっていた。他方、システム業者の間でも、従来のユーザー
の補助的業務の代行といった役割から脱却して、ユーザーやコンピュータ・メーカ
ー等と対等な立場で連携し、システム構築に当たる高度な能力を有する企業として
発展したいという希望が強くなっていた。
 このような状況を背景として、昭和50年代のアメリカ合衆国で上記のようなシ
ステムインテグレーション概念が発生し、昭和60年代には、これが日本にも導入
されることとなったのである。
イ)プログラム等準備金制度導入の背景
 こうして我が国にシステムインテグレーション概念が導入された当時におけるア
メリカ合衆国のシステムインテグレーションは、システム構築の初期段階におい
て、提供するサービスの範囲及びその対価(契約金額)を決定するいわゆる一括契
約の形態を採っていた。そして、システムインテグレーターは、その契約金額の範
囲内で努力をすれば大きな利益を得られる可能性がある反面、見積りの誤り、技術
革新等に伴う発注内容の変更、無償補修特約に基づく補修費用の負担等により多大
な損失を被る危険性もあり、ハイリスク・ハイリターンの事業となっていたため、
システムインテグレーターを育成し、その地位を確立するためには、ハイリスクに
も対応できるよう財政的基盤を強固なものとする必要があった。このような要請の
下に、システムインテグレーターの財政的基盤を強固なものとするための財務面に
おける対応として創設されたのが、本件規定に基づくプログラム等準備金の損金算
入制度である。
ウ)プログラム等準備金を損金に算入するための要件
 本件規定は、直接的には、システムインテグレーターが抱える無償補修に伴うリ
スクを軽減するための税制上の特別措置としての形を採るものであるが、以上
ア)、イ)で指摘した本件規定創設の背景からすると、その趣旨は、他にもリスク
を負担するシステムインテグレーターの財政的基盤を強固にし、その地位の確保を
図るための手段の一つとしての性質を有するものである。このことに加えて、税務
当局において、的確かつ適正に本件規定適用の可否を判断するためには、契約内容
が明確化されている必要があることを考慮すると、本件規定に基づき、プログラム
等準備金を損金に算入することが認められるシステム提供に関する契約に当たると
いえるためには、次のような要件を満たす契約書が作成されている必要があるもの
と解すべきである。なお、本件規定の導入を推進した通商産業省(当時)機械情報
産業局においては、本件規定の適用を受けるための標準契約書を作成しているが
(乙26)、この標準契約書も、下記の(ア)ないし(オ)の要件が必要であるこ
とが前提として作成されており、被告の主張と同様の認識を示している。
(ア) SI要件及び一括契約要件
 上記のとおり、システムインテグレーションの概念が、情報処理システムの設
計、プログラムの作成、試験、運用の準備及び保守のすべての役務を一括して提供
するサービスを意味することからすれば、本件規定の適用を受けるためには、ま
ず、上記の役務のすべてを提供することを(以下「SI」要件という。)、システ
ム構築の初期段階、すなわち、遅くとも要求定義の終了(設計及びシステム分析に
入る前まで)の段階において、一括契約によって請け負うことを要する(以下「一
括契約要件」という。)というべきである(本件規定の解釈)。
(イ) 無償補修特約要件
 書面による1年以上の無償補修特約が存在することを要することは、前記第2、
1、1)のとおり租特法施行令が定めるところである。
(ウ) 対価要件
 上記のとおり、本件規定導入の背景には、当時のシステムインテグレーション
は、契約当初の段階で、提供するサービスの内容とその対価の額を一括して定めて
しまうというハイリスクのものであり、そのようなサービスを提供する業者の財政
的基盤を強固なものとする必要があったことを考慮すれば、役務提供の対価の額が
5000万円を超えるものであること(租特法施行令32条の13第7項)に加
え、この対価の額が、契約締結当初の段階で定められていることを要する(以下
「対価要件」という。)ものと解すべきである。
(エ) 直接契約要件
 上記のとおり、システムインテグレーションは、ユーザー(エンド・ユーザー)
と直接対応をし、そのニーズを踏まえたシステム開発を行うものであることを考慮
すると、エンド・ユーザーとの直接契約に基づき、役務を提供するものであること
(以下「直接契約要件」という。)を要するものと解すべきである(本件規定の解
釈)。
(オ) 全体システム要件
 上記のようなシステムインテグレーションの概念を踏まえれば、本件規定の適用
を受けるためには、ユーザーが構築しようとするシステム全体の構築を請け負う契
約を締結することを要し、単にシステムの一部の構築を請け負う契約を締結するの
みでは足りない(以下「全体システム要件」という。)ものというべきである(本
件規定の解釈)。
2)原告
 被告は、本件規定の適用を受けるためには、1)、(ア)ないし(オ)記載の要
件を満たす必要があると主張するが、この主張は、本件規定やこれに基づく施行令
の規定の文言を逸脱した解釈や、情報処理システム開発の実態に沿わない解釈に基
づく主張であるというべきである。すなわち、本件規定は、「システムサービス業
に係る情報処理システムの欠陥につきその引渡し後において当該法人が自己の負担
により無償で行う補修に要する費用の支出に備えるために」プログラム等準備金を
積み立て、これを損金に算入することを認めることを定めたものであり、被告が主
張するような契約当初の時点において一括契約をすることによるリスク軽減を図る
という趣旨は、本件規定の文言上全く現れていない。しかも、ある程度規模の大き
い情報処理システムを開発する場合には、被告が主張するユーザーの要求定義の段
階はもちろん、基本設計の段階においても、システムの全体や、その開発に要する
時間や費用を確実に予想することは困難である上、契約当初から当事者間に絶対的
な信頼関係があるとはいえない場合もあるため、契約当事者間において、システム
の設計、プログラムの作成、試験、運用の準備及び保守のすべての役務を提供する
合意が成立している場合であっても、当初からシステムの内容や金額等を確定した
一括契約を締結することは避け、システム開発の進展に応じて、必要な個別的契約
を締結していくのが常態なのであり、被告の主張は、このようなシステム開発の実
態をも無視したものといわざるを得ないのである。以上の点に照らしてみれば、被
告が主張する(ア)ないし(オ)の要件については、次のとおり解釈すべきであ
る。
ア)SI要件及び一括契約要件について
 本件規定の適用を受けるためには、システムの設計、プログラムの作成、試験、
運用の準備及び保守のすべての役務を提供するサービスを行うことが必要であるこ
とは被告が主張するとおりであるが、上記のようなシステム開発の実態に照らして
みれば、契約当初の段階において、一括契約によってこれらの役務を提供する旨の
合意をする必要はなく、当初の契約とその後締結された個別契約を全体的に見て、
上記の役務のすべてを提供する旨の合意がされたものと認められれば足りるものと
いうべきである(主位的主張)。
 また、仮に上記主張が認められず、契約当初の段階において、情報処理システム
の設計、プログラムの作成、試験、運用の準備及び保守のすべての役務を提供する
旨の合意がされることが必要であるとしても、そのような合意が書面上明確化され
ている必要はないし、システムの内容等が具体的に確定されている必要もなく、要
するに、あるシステムについて、その設計、プログラムの作成、試験、運用の準備
及び保守のすべての役務を提供することが合意されたと認められれば足りるものと
いうべきである。そして、いったん特定のシステム業者にシステム開発の依頼がさ
れれば、その後の作業もすべて、そのシステムを熟知した当該業者が行うのが通常
であることを考慮すれば、ユーザーとシステム業者との間でシステム開発に関する
基本契約が作成されており、かつ、実際にも、当該システム業者が、システムの設
計から保守に至るすべての役務を提供した場合には、当初から、それらの各役務の
すべてを提供する旨の合意がされていたものとみなすことができるものというべき
である(予備的主張)。
イ)無償補修特約要件について
 書面による1年以上の無償補修特約が存在することを要することは、被告が主張
するとおりであるが、その合意は、当初の契約書に記載されている必要はなく、当
事者間で作成された何らかの書面に記載されていれば足りるものというべきであ
る。
ウ)対価要件について
 役務提供の対価が5000万円を超える必要があることは被告が主張するとおり
であるが、その対価の額が、当初作成された契約書に記載されている必要はなく、
システムの設計、プログラムの作成、試験、運用の準備及び保守に対する対価とし
て支払われた額が5000万円を超えていれば足りるものというべきである。
エ)直接契約要件について
 上記のとおり、本件規定は、「システムサービス業に係る情報処理システムの欠
陥につきその引渡し後において当該法人が自己の負担により無償で行う補修に要す
る費用の支出に備えるために」プログラム等準備金を積み立て、これを損金に算入
することを認めたものであるところ、このような無償保証の必要は、システム業者
がエンド・ユーザーとの間で直接契約を締結した場合にのみ生じるものではなく、
契約の相手方がエンド・ユーザーではない場合であっても同様に生じるのであるか
ら、直接契約要件は不要というべきである。なお、前記第2、1、1)のとおり租
特法施行令は、システムインテグレーションサービスの係る業務の全部又は一部を
他の者に委託している場合における当該委託に要した費用の額の2分の1に相当す
る金額は、プログラム等準備金の積立対象額から除外する旨を定めているが、この
規定は、上記の場合には、エンド・ユーザーとの間で契約を締結したシステム業者
ではなく、業務の全部又は一部の委託を受けた下請業者が、無償補修の負担に対応
するためプログラム等準備金を積み立てるはずであることを考慮した規定であると
いえるから、上記施行令の規定自体、プログラム等準備金積立ての対象となる業務
は、エンド・ユーザーとの間で契約を締結した業者がしたものには限られないこと
を予定しているものと解される。この点からしても、直接契約要件は、不要という
べきなのである(主位的主張)。
 また、仮にこの要件が必要であるとしても、契約の相手方がエンド・ユーザーで
あるかどうかは実質的に検討すべきものであり、エンド・ユーザーが、形式上、自
社のシステム子会社を介在させ、エンド・ユーザー、子会社、システム業者の順に
契約が締結されている場合であっても、上記子会社が親会社と実質的には同一であ
り、エンド・ユーザーとシステム業者が直接契約をしたのと同視し得る事情が認め
られる場合には、上記要件を満たすものというべきである(予備的主張)。
オ)全体システム要件について
 本件規定は、一の情報処理システムにつき、その設計、プログラムの作成、試
験、運用の準備及び保守のすべてを行う役務を、その適用対象としている。ところ
で、ある程度大規模な情報処理システムは、それ自体としても単体で機能し得るサ
ブシステムがいくつか組み合わされて全体としてのシステムが構成されている場合
が少なくないところ、その開発に当たっては、単独のシステム業者がシステム全部
の構築を請け負うのではなく、サブシステムごとに、別々の業者がシステム構築を
行うのが通常である。このような場合、サブシステムも、それ自体として機能し得
る情報処理システムである以上、「一の情報処理システム」といえるのであるか
ら、そのシステムについて、設計、プログラムの作成、試験、運用の準備及び保守
のすべての役務を提供する旨の合意がされていれば、本件規定の適用対象になるも
のというべきであり、被告の主張する「全体システム要件」が、サブシステムの構
築だけでは足りず、ユーザーが構築を予定しているシステムのすべての構築を行う
ことを要求するものであるとすれば、それは無用な要件を要求しているものという
べきである。
2 本件規定適用の可否について
1)被告
 1、1)に示した解釈に基づいて検討すると、本件各契約は、いずれも本件規定
の適用対象となるものではない。その理由は、次のとおりである。
ア)第一証券システム関係
 第一証券システム関係で原告が行った作業は、①第一システムセンターとの間で
締結された第一証券向け顧客情報システム(乙15の1、2。以下「第一証券顧客
情報システム」という。)の開発、②第一システムセンターとの間で締結されたD
IANAシステムの銘柄拡大作業(以下「DIANAシステム」という。)、③第
一証券との間で締結された大口投資家開拓のためのコンサルティング(以下「大口
投資家開拓」という。)、④第一証券との間で締結されたリレーションマーケティ
ング実践プログラム(以下「リレーションマーケティング実践」という。)に分け
られるから、このそれぞれについて、本件規定を適用するための要件を満たすかど
うかを検討する必要がある。
(ア) 第一証券顧客情報システムについて
 上記システムについては、書面上、平成元年11月24日付けの「業務委託書」
(乙15の1)及び「御見積書」(甲5)において基本設計からテストランまでの
作業についての請負契約(以下「顧客情報システム第1契約」という。)が締結さ
れ、平成2年6月25日付けの業務委託書(乙15の2)及び「御見積書」(甲
6)によってテストラン、本番移行、稼働、フォローについての請負契約(以下
「顧客情報システム第2契約」という。)が締結されたことが認められるのみであ
るから、要求定義までにSI業務に係るすべての役務提供についての契約を締結す
るという一括契約要件を満たさないことは明らかである。また、このシステムの運
用の準備及び保守は第一システムセンターが行っているのであるから、SI要件も
満たしていない。
 更に、要求定義までに対価の額が5000万円以上と定められていたわけではな
いのであるから対価要件も満たしていないし、契約締結の相手方がエンド・ユーザ
ーである第一証券ではなく、第一システムセンターである点において直接契約要件
も満たさない。
(イ) DIANAシステムについて
 上記システムについては、そもそも原告がそのシステム開発を依頼されたもので
はなく、第一システムセンターからシステムエンジニアの派遣を依頼され、これに
応じたにすぎないのであるから、これをSI業務とみる余地は全くなく、全体シス
テム要件も満たさない。
 また、その対価の額は1662万円であり(乙15の3)、しかも、契約締結の
相手方は、エンド・ユーザーである第一証券ではなく、第一システムセンターなの
であるから、対価要件、直接契約要件も満たさない。
(ウ) 大口投資家開拓について
 これは、「大口投資家開拓のための営業推進企画、顧客セグメント探索と営業ツ
ール提案の調査とコンサルティング」というものであって(乙15の4別添5の
「御見積書」)、その内容はコンサルティング業務であって、そもそもシステム開
発には当たらないものである。
 また、その対価の額は980万円にすぎないから、対価要件も満たさない。
(エ) リレーションマーケティングについて
 これも、(ウ)と同様に、原告が請け負ったのはコンサルティング業務であって
システム開発ではない。
 また、その対価の額は、1250万円にすぎないから(乙15の4別添6の「御
見積書」)、対価要件も満たさない。
イ)山九システム関係
 このシステムについては、「倉庫システム(国内システム)分析・設計」(乙1
7の1)、「倉庫国内システムの開発その2」(乙17の2)と二段階の契約(以
下、前者を「倉庫システム第1契約」、後者を「倉庫システム第2契約」とい
う。)が締結され、それと別個に「倉庫システム/データ交換及び再構築」(乙1
7の3)の契約(以下「倉庫システムデータ交換等契約」という。)が締結されて
いるものであり、また、プログラム作成は、原告と山九の関連会社である株式会社
サンキュウ・ダイネット(以下「サンキュウ・ダイネット」という。)が行い、完
成したシステムの総合テスト、運用の準備及び保守は山九自身が行っているのであ
る。
 以上に照らしてみれば、上記システムについては、原告がシステム設計から保守
までのすべての役務を提供したものとはいえないからSI要件を満たさず、契約が
分断されている点において一括契約要件も満たさず、更に、当初契約において50
00万円以上の対価の額が定められたものでもないから対価要件も満たしておら
ず、本件規定の適用対象となるものではない。
ウ)太平洋投信システム関係
 太平洋投信システムの関係で原告が行った作業は、①委託システムメンテナンス
作業(乙19の1)、②リバランスシステムの開発(乙19の2)、③変率リバラ
ンスシステムの開発(乙19の3)、④累積投資システム新規開発作業(乙19の
4)に分かれているから、それぞれについて、本件規定の適用対象となるかどうか
を判断する必要がある。
(ア) 委託システムメンテナンス作業
 上記作業は、情報処理システムの構築を内容とするものではなく、太平洋投信が
太平洋証券株式会社(以下「太平洋証券」という。)から譲り受けた投資信託委託
システム(以下「投資信託委託システム」という。)の運用に係る障害対策、メン
テナンス及び補修等のために、システムエンジニア及びプログラマーを確保したの
にすぎない(乙19の1)のであるから、そもそもSI業務に当たるものではない
し、有償メンテナンスである以上、プログラム等準備金積立ての対象となるもので
もなく、更にその対価の額も2562万6400円にすぎないのであるから、本件
規定の適用対象となる余地は全くない。
(イ) その余のシステム開発
 その余のシステム開発である②リバランスシステム、③変率リバランスシステ
ム、④累積投資システムの開発は、対価の額が、それぞれ830万円、720万
円、2606万円にとどまり、対価要件を満たさない。
(ウ) なお、原告は、上記①ないし④は、いずれも投資信託委託システムの一部
(サブシステム)としてのシステム開発等であるから、これらのシステム開発等を
含めた投資信託委託システム全体が本件規定の適用対象となるかどうかを検討すべ
きであるという趣旨の主張をするが、この主張は、一括契約要件及び対価要件を無
視したものであって、採用できるものではない。また、上記①は、既に主張したと
おり有償保守契約にすぎないし、②ないし④は、当初の投資信託委託システムの一
部ではなく、新しい金融商品が作成されたためシステムを追加したものであって、
当初の契約には含まれないものというべきであって、仮に上記システムのサブシス
テムを構成するとしても一括契約要件を満たさず、いずれにせよ原告の主張は失当
である。
エ)山一証券システム関係
 山一証券システムの関係で原告が行った作業は、原告が、株式会社山一コンピュ
ータシステム(後に、山一情報システム株式会社に社名変更。以下「山一コンピュ
ータ」という。)との間で契約を締結した、①山一証券向人事情報システム開発運
用保守(乙23の4)、②TIS-FFシステム関係作業(乙23の5-16)、
③グローバルトレーディングシステム関係作業(乙23の17-19)に分けられ
るから、それぞれについて本件規定の適用対象となるかどうかを判断する必要があ
る。
(ア) 山一証券向人事情報システム開発運用保守について
 これは、既に構築され、稼働している人事情報システムの運用上の障害への対
応、修正、機能の追加等のシステムの一部手直しやシステム運用の指導等を内容と
するものであって、システム構築が完了した後のシステムメンテナンス作業である
から、SI業務とはいえず(SI要件の欠如)、本件規定の適用対象とはならな
い。
 また、その対価の額は2640万円にすぎず、しかも、契約の相手方は山一コン
ピュータであって、エンド・ユーザーである山一証券ではないのであるから、対価
要件、直接契約要件も満たしていない。
(イ) TIS-FFシステム関係作業について
 これらの作業は、いずれも、既に構築され、稼働しているTIS-FFシステム
の機能追加やバージョンアップを内容とするものであって、それぞれが独立した一
つのシステムとして開発されたものではないから、SI業務とはいえず、SI要件
を満たさない。また、それぞれの対価の額は5000万円未満であり、しかも、契
約の相手方は山一コンピュータであるから、対価要件、直接契約要件も満たさな
い。
 なお、これらの作業は、個別契約に基づいて行われたものであって、相互に関連
性はないから、これらを一体として対価要件が充足しているかどうかを判断するこ
とはできないものである。
(ウ) グローバルトレーディングシステム関係作業について
 これは、原告がシステム全体の構築を受注したものではなく、システム設計支援
(乙23の17)、システム設計及びプログラム作成支援(乙23の18)、シス
テムの設計及びプログラム作成(乙23-19)というSI業務の一部を受注した
のにとどまり、しかも、その内容は、システムエンジニアの派遣にとどまり、原告
が主体となってシステム開発をしたものではないから、SI要件を満たさない。ま
た、各契約の対価の額は、いずれも5000万円未満であり、かつ、契約の相手方
は山一コンピュータであるから、対価要件、直接契約要件も満たさない。
(エ) なお、原告は、上記①ないし③は、原告が山一証券向けに開発した人事情
報システム、TIS-FFシステム、グローバルトレーディングシテムの開発作業
の一部であるから、それぞれのシステム全体を一つのSI業務とみて本件規定の適
用対象となるかどうかを判断すべきであるという趣旨の主張をする。しかしなが
ら、上記①ないし③のいずれについても、原告が行ったシステム開発の一部とみる
ことができないことは上記のとおりである上に、山一コンピュータの原告に対する
業務委託は、一括してされたものではなく、同社が山一証券から受託した業務を処
理する過程で、それに必要なシステムエンジニアの派遣を委託していたにすぎない
から、原告の予備的主張を前提としても、一括契約要件を満たしておらず、いずれ
にせよ原告の上記主張は失当である。
オ)群馬銀行システム関係
 群馬銀行システムの関係で原告が行った作業は、原告が、群馬銀行との間で契約
を締結した、①情報系基盤整備第一次開発、②情報系基盤整備のシステムメンテナ
ンス及び休日稼働対応、③情報系基盤整備のシステムメンテナンスに分けられるか
ら、それぞれについて本件規定の対象となるかどうか判断する必要がある。
(ア) 情報系基盤整備第一次開発について
 上記作業について、原告は、平成2年1月4日付けの業務委託に関する覚書(乙
22の1)においてシステムの設計を、同年4月2日付けの業務委託に関する覚書
(乙22の2)においてプログラムの作成を請け負ったのにとどまり(以下、前者
を「情報系第1契約」、後者を「情報系第2契約」という。)、システム引渡後の
保守は群馬銀行が行うこととされていたのであるから、SI要件を満たさないし、
一括契約要件も満たしていない。また、上記作業に関する基本契約書(乙9)に
も、業務委託に関する覚書にも無償補修に関する条項は存在しないから、無償補修
特約要件も満たしていない。更に、その対価の額は、それぞれ1033万6000
円、2900万円であるから、個別的にみても、両者を併せても対価要件を満たさ
ないことは明らかである。
(イ) その余の作業について
 その余の作業のうち、上記②のシステムメンテナンス及び休日稼働対応は、①の
システムの機能の追加、変更及び修正業務であり、上記③のシステムメンテナンス
は、②の作業に加えて、システムに障害が生じた場合の対応方法等について技術指
導をするものであり、いずれも、システム完成後の個別契約に基づいて行われた作
業であって、SI業務を行ったものとはいえないから、SI要件を満たさない。ま
た、その対価の額の額は、それぞれ1960万円、1001万円にすぎないから、
対価要件も満たさないし、無償補修特約も締結されていないから、無償補修特約要
件も満たさない。
(ウ) 原告は、①のシステム開発は、契約当初から、そのすべての作業を行うこ
とが予定されていたものであり、また、②、③は、システムが完成し、ユーザーが
使用を開始した時点で、従来気づかなかった不足点や改良点が指摘されたため、そ
の対応をしたものであって、契約当初からそのような作業が生じることは当然に予
想されたものであって、当初契約の範囲に含まれたものというべきであるから、す
べてを一体のものとして本件規定適用の可否を判断すべきであると主張するが、原
告の指摘する事実を前提としても、契約当事者間にそのような合意があったとは認
めることはできず、一括契約要件を無視した主張であり、失当である。
 また、仮に本件規定の適用があるとしても、②の一部及び③については有償によ
る保守を対象とするものであるから、プログラム等準備金積立ての対象となる収入
金額から控除されるべきものである。
カ)東海銀行システムについて
 東海銀行システムの関係で原告が行った作業は、原告が、東海銀行との間で契約
を締結した、①データ蓄積システム/SE作業(乙24の1-8、以下「データ蓄
積システムSE契約」という。)、②主要取引先及び融資・国際システム開発(乙
24の9-14、以下「主要取引先システム等契約」という。)、③営業店情報シ
ステム/SE作業(乙24の15-22、以下「営業店情報システムSE契約」と
いう。)、④CCR、営業店決算報告システム及びSIS法人マーケティングシス
テム開発(乙24の23-29、以下「CCRシステム等契約」という。)に分け
られる(なお、各作業の明細は、別紙「東海銀行システム関係明細表」に記載のと
おりである。)。
(ア) データ蓄積システムSE契約について
 これは、東海銀行システム中のデータ蓄積システムを構築する作業のうち、設計
から導入までの作業について、原告が支援を行ったのにすぎず、しかも、上記作業
は、東海銀行システム開発部、東海バンキングソフトウェア株式会社(以下「東海
バンキングソフトウェア」という。)が共同で行ったものであり、原告は、原告担
当分についてのみ瑕疵担保責任を負うのにすぎない。
 以上によると、原告が行った作業は、そもそもシステムインテグレーションとは
いえないものであり、SI要件を満たさない。
(イ) 主要取引先システム等契約について
 これは、原告が、上記データ蓄積システム構築作業の一部について、プログラム
の設計及び製造までの部分のみを個別的に請け負ったものであり、SI業務に係る
すべての役務が提供されているものではない。更に、各契約のうち、主要取引先日
報(SE作業)は、既に製造されたプログラムの一部についての機能改善や処理概
要図の作成等のSE作業を請け負ったものにすぎず、システムインテグレーション
とは到底評価できないものである。以上のとおり、主要取引先システム等契約に係
る作業は、いずれもSI要件を欠くものである。
(ウ) 営業店情報システムSE契約について
 これは、東海銀行システム中の営業店情報システムを構築する作業のうち、設計
から導入までの作業について、期間を細かく限定して順次委託したのにすぎず、し
かも、上記作業は、東海銀行システム開発部、東海バンキングソフトウェアが共同
で行ったものであり、原告は、原告担当分についてのみ瑕疵担保責任を負うのにす
ぎない。
 以上によると、原告が行った作業は、そもそもシステムインテグレーションとは
いえないものであり、SI要件を満たさないし、対価要件も満たしていない。
(エ) CCRシステム等契約について
 これは、原告が、上記営業店情報システム構築作業の一部について、プログラム
の設計及び製造までの部分のみを個別的に請け負ったものであり、SI業務に係る
すべての役務が提供されているものではない。更に、各契約のうち、SIS法人マ
ーケティング支援/SE作業は、プログラムテストの支援作業(SE作業)を請け
負ったものにすぎず、システムインテグレーションとは到底評価できないものであ
る。以上のとおり、主要取引先システム等契約に係る作業は、いずれもSI要件を
欠くものであるし、対価要件も満たしていない。
(オ) 原告は、「東海銀行システムについては、昭和61年から、原告が、デー
タ蓄積システムと営業店情報システムの開発を請け負っていたものであり、その契
約当初から、原告においてシステム設計から保守に至るすべての役務を提供するこ
とが合意されていたものである。したがって、本件で問題となっている各契約は、
昭和61年の契約の一環であり、全体として本件規定の適用対象になるかどうかを
判断すべきである。」という趣旨の主張をするが、この主張は、一括契約要件を無
視した主張であり、失当である。また、仮に原告の予備的主張を前提としても、原
告の指摘する証拠及び事情から原告主張の合意を認めることはできないし、かえっ
て、本件システムの構築に東海バンキングソフトウェアの関与が予定されていたこ
とからすると、原告を東海銀行との間で原告が本件システム構築のすべてを行うと
の合意がされていたとは認め難い。更に、データ蓄積システムと営業店情報システ
ムは、東海銀行システムの一部にすぎないのであるから、仮に原告がこれらのシス
テム開発のそれぞれ全部を請け負っていたとしても、全体システム要件を欠くこと
になるし、それぞれのシステムを一体のものと評価し得るとしても、一括契約要件
を満たしていないものである。したがって、原告の主張は、いずれにせよ失当であ
る。
キ)リクルート・コンピュータプリントシステム関係
 リクルート・コンピュータプリントシステムの関係で原告が行った作業は、原告
が、リクルート・コンピュータプリントとの間で契約を締結した、①物件データベ
ース再構築に伴うシステム(売買系)開発(乙20の1、2)、②物件データベー
ス再構築に伴うシステム(賃貸系)開発及びシステムメンテナンス作業(乙20の
3)に分けられる。そして、上記システム開発は、もともとリクルートコンピュー
タプリントがリクルートから受注したものであって、原告は、その一部の下請けを
したものであるが、各契約については、次のような事情も認められる。
(ア) 物件データベース再構築に伴うシステム開発について
 上記作業について、原告は、平成2年10月1日付け業務受託書(乙20の1。
以下、「売買系第1契約」という。)により、データベース化等のシステム分析の
みを、平成3年1月7日付け業務受託書(乙20の2。以下、「売買系第2契約」
という。」)により、オンライン系処理及びバッチ系更新処理を主として、分析、
プログラムの製造及び単体テストのみを請け負ったものである上、原告担当分につ
いても、原告が単独で業務に当たったのはプログラムの製造と単体テストのみであ
って、システム分析はリクルートコンピュータプリントと共同で行い、運用の準備
及び保守についてはリクルートコンピュータプリントが行っている。また、契約が
売買系第1契約と同第2契約に分けられたのは、リクルートコンピュータプリント
側の意向が、「システム分析の結果が良ければ、その後のシステム開発も原告に任
せる。」というものであって、当初から、役務のすべてを原告に任せる意思はなか
ったことによるものである。
 以上によれば、原告は、システム分析から保守に至るすべての役務を行ったもの
ではないからSI要件を欠き、また、仮に原告の予備的主張を前提としても、一括
契約要件も欠いている上、契約の相手方がエンド・ユーザーである株式会社リクル
ート(以下「リクルート」という。)ではなく、システム全体の開発を請け負った
のでもない点において、直接契約要件、全体システム要件も欠いている。更に、売
買系第1契約については、対価の額が5000万円未満である点において、対価要
件も欠くものである。
(イ) 賃貸系開発及びシステムメンテナンスについて
 上記作業は、売買系契約とは別個の契約(以下「賃貸系契約」という。)に基づ
いて行われたものであり、両者を一体のものとして評価することはできず、しか
も、運用の準備及び保守はリクルートコンピュータプリントが行っている。また、
その対価の額は、2600万円にとどまる。
 そうすると、上記作業については、SI要件、直接契約要件、対価要件、全体シ
ステム要件を満たさないことは明らかである。
ク)日本電気経営情報システム関係
 日本電気経営情報システムとの契約は、62の個別契約に分かれている(乙25
の1ないし62)が、これらは、日本電気経営情報システムが、ユーザーである日
本電気株式会社(以下「日本電気」という。)から受注したシステム開発業務の一
部を原告に再委託したものにすぎないから、エンド・ユーザーとの直接契約ではな
い点において直接契約要件を欠き、また、SI業務に係るすべての役務を提供して
いるわけではない点においてSI要件を欠くものである。更に、平成4年10月1
日付け注文書兼受取書(乙25の49)に係る契約(契約金額は、5261万40
00円)を除くその他の契約はすべて契約金額が5000万円未満であるから対価
要件を欠くものでもある。
ケ)NTTデータ通信システム関係
 NTTデータ通信システムの関係で、原告が行った作業は、①海外有価証券情報
提供システム用ソフトウェアに関するシステム・エンジニアリング・サービス契約
(乙18の1、以下「海外有価証券情報システム第1契約」という。)、②海外有
価証券情報システム用のソフトウェアに関するプログラム製造請負契約(乙18の
2、以下「海外有価証券情報システム第2契約」という。)、③博報堂新情報シス
テムの取引システム開発に関するシステム・エンジニアリング・サービス契約(乙
18の3、以下「博報堂新情報システム第1契約」という。)、④博報堂新情報シ
ステムの営業・制作用ソフトウェア及び経理支援・移行用ソフトウェアに関するプ
ログラム製造請負契約(乙18の4、以下「博報堂新情報システム第2契約」とい
う。)、⑤NTT中央移動通信(新)システムに関するシステム・エンジニアリン
グ・サービス契約(乙18の5、以下「NTT中央移動通信システム第1契約」と
いう。)、⑥NTT中央移動通信(新)システムに関するプログラム製造請負契約
(乙18の6、以下「NTT中央移動通信システム第2契約」という。)に基づく
各作業に分けられるので、それぞれについて本件規定の適用対象になるかどうかを
判断する必要がある。
(ア) 海外有価証券情報システム第1、第2契約について
 海外有価証券情報システム第1契約は、NTTデータ通信が、自社の海外有価証
券情報提供システムを構築するに当たり、開発要員の不足をカバーするため、原告
にシステムエンジニアの派遣を依頼し、原告がこれに応じることを契約したものに
すぎず、原告がSI業務を行ったと見る余地は全くないから、SI要件を満たさな
い。また、契約当初の段階で対価の額を5000万円以上と定めたことも認められ
ないから、対価要件も満たさないものである。
 同第2契約は、NTTデータ通信が、海外有価証券情報提供システムの一部につ
いて、プログラム作成及び単体テストのみを外注することを定めたものにすぎない
から、やはりSI要件を満たすものではなく、また、システムの一部の構築に関与
するにすぎない点において、全体システム要件も満たさない。
 原告は、「海外有価証券情報システム第1契約の途中で、NTTデータ通信か
ら、海外有価証券情報提供システムのサブシステムであるバッチ処理システムの構
築を依頼され、そのシステム設計から保守に至るすべての役務を提供したものであ
るから、同第1、第2契約は、全体として本件規定の適用対象になる。」という趣
旨の主張をしているが、原告が、保守を担当したことを認めることはできない上、
そもそも、海外有価証券情報システムは、NTTデータ通信が主体となって構築し
たものであり、サブシステムのみを請け負っても全体システム要件を満たさない
し、原告は、システムエンジニアの派遣元、一部プログラム作成の外注先として関
与したのにすぎず、システムインテグレーターとしての機能を果たしたものとは到
底いえない。また、原告が指摘する証拠及び事情から、原告が、契約当初から、海
外有価証券情報システム第1、第2契約に係る業務のすべてを提供する旨の合意が
あったと認めることはできない上、仮に両契約を一体のものと評価し得るとして
も、一括契約要件を満たさず、原告の主張は失当である。
(イ) 博報堂新情報システム第1、第2契約について
 博報堂新情報システム第1契約は、NTTデータ通信が、博報堂株式会社(以下
「博報堂」という。)から一括受注した情報システムの一部である取引システムの
設計作業のため、原告にシステムエンジニアの派遣を依頼し、原告がこれに応じる
ことを契約したものにすぎず、SI要件を満たさないし、契約の相手方がエンド・
ユーザーである博報堂ではない点において、直接契約要件も満たさない。また、契
約当初の段階において対価の額を5000万円以上と定めたことも認められないか
ら、対価要件も満たさないものである。
 同第2契約は、原告が、NTTデータ通信から、上記取引システムに関するプロ
グラムの基本設計、製造、テスト等を請け負うことを内容とするものであるが、シ
ステムの運用及び保守はNTTデータ通信が行うこととなっていたのであるから、
SI要件を満たさない。また、直接契約要件を満たさないことは第1契約と同様で
あるし、全システムのうちの一部の構築に当たったにすぎない点において全体契約
要件も満たさない。
 また、原告が指摘する証拠及び事情から、原告が、契約当初から、博報堂新情報
システム第1、第2契約に係る業務のすべてを提供する旨の合意があったと認める
ことはできない上、仮に両契約を一体のものと評価し得るとしても、一括契約要件
を満たしていない。
(ウ) NTT中央移動通信システム第1、第2契約について
 NTT中央移動通信システム第1契約は、NTTデータ通信が、NTT移動通信
網株式会社(以下「NTT移動通信網」という。)から一括受注した、NTT中央
移動通信(新)システムの基本設計、詳細設計、品質管理及び総合試験について、
同社が原告に技術支援のためのシステムエンジニア派遣を依頼し、原告がこれに応
じたものにすぎず、SI要件を満たさないし、契約の相手方がエンド・ユーザーで
あるNTT移動通信網ではない点において直接契約要件も満たさない。また、契約
当初の段階において対価の額を5000万円以上と定めたことも認められないか
ら、対価要件も満たさないものである。
 同第2契約は、NTTデータ通信が、上記システム開発のため、外注先(全部で
十数社)の一つとして、原告に対し、プログラムの一部の作成及び総合テストのみ
を発注したものであるから、SI要件、全体契約要件を満たさない。また、直接契
約要件も満たさないことは第1契約の場合と同様である。
 また、仮に両契約を一体のものと評価し得るとしても、一括契約要件を満たして
いない。
コ)日本移動通信システム関係
 日本移動通信システムの関係で、原告が行った作業は、原告が、日本移動通信と
の間で契約を締結した、①料金システム(料金請求・回収)開発(乙21の1、以
下、上記作業に係る契約を「料金システム契約」という。)、②料金システムの追
加開発等(乙21の2ないし25、以下、上記作業に係る契約を「追加開発契約」
という。)に分けられるから、そのそれぞれについて本件規定の適用対象になるか
どうかを判断する必要がある。
(ア) 料金システム契約について
 原告は、日本移動通信が従来使用していた情報システムのバージョンアップ版開
発作業の一部を請け負ったのにとどまる。すなわち、上記情報システムは、注文シ
ステム、料金システム及び課金システムの3システムから構成されているところ、
原告は、そのうち料金システム及び課金システムのバージョンアップ版の開発を請
け負ったのみであり、しかも、原告が行った作業は、システムの基本設計から総合
テストまでであり、保守等は請け負っていない。
 以上の点に照らしてみれば、料金システム契約に係る作業については、SI業務
のすべてを請け負ったのではない点においてSI要件を欠き、システム全体の開発
を請け負ったのではない点において全体システム要件を欠くことになる。更に、そ
の対価の額は4500万円にすぎないから、対価要件も欠くものというべきであ
る。
(イ) 追加開発契約について
 上記契約は、上記料金システムを実際に運用することによって認められたシステ
ムの機能の不足や不都合な点について、日本移動通信から、個別的に対応を求めら
れ、個別契約に基づき、原告がその対応をしたものにすぎないから、そもそもシス
テムインテグレーションとは評価し得ないものである。したがって、その作業は、
SI要件を欠き、また、対価の額は、いずれも1000万円に満たないものである
から、対価要件も欠くものというべきである。
(ウ) 原告は、「料金システム契約当時から、その後の追加開発作業の発生が予
想されたものであるから、料金システム契約と追加開発契約を全体的にみて本件規
定の適用対象になるかどうかを判断すべきである。」という趣旨の主張をする。し
かしながら、追加開発契約に係る作業は、あくまでも、システム開発が完了した後
において、個別的な必要に応じて、個別的な契約に基づいて行われるものなのであ
るから、書面上、当初契約(料金システム契約)の内容になっていないことはもち
ろん、実質的にみても、当初契約において、それらの作業が具体的に予定されてい
たということもできない。したがって、原告の主張は、仮にその予備的主張を前提
としても、失当というべきである。
2)原告
 本件各契約は、いずれも本件規定の適用を受けるための要件を満たしており、被
告の主張は失当である。その理由は、次のとおりである。
ア)第一証券システムについて
 まず、被告は、第一証券顧客情報システムについて、業務委託書及び御見積書が
二段階に分けて締結されているところから、「一括契約要件」を満たしていないと
主張する。しかしながら、このような一括契約要件はそもそも不要であるし(原告
の主位的主張)、仮にこれが必要であるとしても、それが契約書上明記されている
必要はないものというべきところ(原告の予備的主張)、原告と第一システムセン
ターとの間において、当初からプログラム作成から保守に至るすべての役務提供が
予定されていたことは、契約締結前に作成されたタイムスケジュール(甲3)等か
らも明らかなのであるから、被告の主張は失当である。また、被告は、システムの
運用の準備と保守は第一システムセンターが行ったと主張しているが、システムの
運用の準備は原告の方で行っており、契約上、原告に保守義務がある以上、原告が
事実上これを行わなかったとしても、本件規定の適用を否定するに足りる事情では
ない。更に、対価についてみると、当初の契約において5000万円以上の対価の
額が定められている必要はなく、最終的に対価の額が5000万円以上であれば足
りることは既に主張したとおりであるところ、顧客情報システム第1契約(453
5万円)と同第2契約(815万円)を合わせた対価の額は5000万円以上であ
るから、対価要件も満たしている。最後に、被告は、契約の相手方が第一システム
センターであってエンド・ユーザーである第一証券ではないから「直接契約要件」
を満たさないと主張するが、直接契約要件はそもそも不要であるし(原告の主位的
主張)、仮に必要であるとしても、第一システムセンターは第一証券のシステム子
会社であって第一証券と実質的には同一とみられるのであるから、このような場合
には直接契約要件を満たすものというべきである(原告の予備的主張)。
 以上のとおり、第一証券顧客情報システムは、本件規定の適用要件をすべて満た
すものであり、その余のシステム(DIANAシステム、大口投資家開拓、リレー
ションマーケティング)も、第一証券顧客情報システムに必要な情報収集のための
ものであって、その一部を構成するものであるから、第一証券システムは、全体と
しても本件規定の適用要件を満たすものというべきである。
イ)山九システムについて
 上記システムは、山九の国内倉庫システムを開発するものであって、当初から、
システム設計から保守までのすべてを原告が行うことが予定されていたものであ
る。見積書上は、「倉庫システム(国内システム)分析・設計」(対価の額は29
70万円、甲10の1)と「倉庫システムの開発(国内関係)」(対価の額は68
00万円、甲10の2)の2段階に分けられているが、甲10の1の見積書の参考
資料として、システム開発全体のタイムスケジュールが添付されていることからし
ても、当初からすべての役務提供が合意されていたことは明らかである。なお、保
守については、山九との間の業務委託覚書(乙17の4別添1)9条において、1
年間の無償瑕疵修補特約が明示されている。被告は、プログラムの作成はサンキュ
ウ・ダイネットも行い、運用の準備及び保守は山九自身が行ったと主張している
が、サンキュウ・ダイネットが作成したのは別個のシステムのプログラムであり、
運用準備及び保守も原告が行い、山九の関与は、システムのユーザーとして必要な
範囲での関与にとどまるのであって、原告の役割を否定するに足りるものではな
く、被告の主張は誤りである。
 また、被告は、上記システムについては、一括契約要件、対価要件を満たさない
と主張するが、これらの主張が失当であることは、ア)において主張したとおりで
ある。
 なお、山九システム関係では、以上のほかに、「倉庫システム/データ交換及び
再構築」(対価の額は756万円、甲10の3)があり、これは、山九システムの
アップデートであるから、全体システムの一部として、本件規定の適用対象になる
ものというべきである。
ウ)太平洋投信システムについて
 太平洋投信システムは、太平洋投信の設立を意図していた太平洋証券が、太平洋
投信の業務のシステム化を図るため、「金融市場感応型の投資信託委託業務」に適
した情報処理システム開発を、原告に一括発注したことによって開発が開始された
ものである。このシステムの特徴は、変化の早い金融市場の状況に対応できるよう
にするため、固定的なシステムの開発という手法を採らず、幹になるシステムを開
発する一方で、一定期間の間、金融市場の変化に応じたバージョンアップを繰り返
すというスパイラル型開発方式を採用することを契約当初から予定していたことに
あり、具体的には、太平洋投信の営業開始までに、フレーム・システム(幹の部
分)のシステム開発、実施移行作業と、当初サービス内容に応じた第1次システ
ム・バージョンアップの開発作業を終了させ、その後5年間を目処に、金融市場の
変化に応じたシステム・バージョンアップを繰り返すこととしていたものである。
このようなシステム開発の特徴に照らしてみれば、上記フレーム・システム部分と
システム・バージョンアップ部分を併せた全体が、本件規定の適用対象となるかど
うかを判断すべきものであって、個々のシステムごとに適用対象になるかどうか判
断するのは誤りである。そして、これらのシステム開発費用は、全体で4億100
0万円を超えており(甲13の3)、対価要件を満たすものであることは明らかで
ある(なお、被告の主張するような一括契約要件、対価要件が不要であることは、
既に主張したとおりであり、この点についての主張は、以下においては省略す
る。)
 この観点から考えた場合、②のリバランスシステム、③の変率リバランスシステ
ム、④の累積投資システムは、いずれも上記システムの一部として開発されたもの
なのであるから、個別的な開発費用が5000万円未満であるからといって、本件
規定の適用対象にならないということはできない。
 また、①の委託システムメンテナンス作業の具体的内容は、システムの改善、本
番運用準備並びに先物業務及びCD・CP業務についてのサブシステムの構築であ
るところ(甲13の2)、システムの改善は、補修ではなくユーザーの要望に応じ
たシステムの改良作業であるから、「有償で行う保守」とは異なり、上記システム
開発の一部であり、その余の部分も上記システム開発の一部であるから、やはり本
件規定の適用対象になるものというべきである。
エ)山一証券システムについて
 山一証券システムは、原告が山一証券からシステム開発を受注し、システム設計
から保守までを行った、①人事情報システム、②TIS-FFシステム(株式、債
券、ワラント、転換社債などの取引に関する価格の変動状況、市況等の各種情報を
総体的に収集、整理、加工して投資情報を算出し、営業店等に提供するためのシス
テム)、③グローバルトレーディングシステム(山一証券が、国内の顧客から外国
にある証券市場での有価証券の売買を委託された取引について、その受発注状況を
記録、整理するとともに、国内取引との連携を図り、顧客との間における決算、清
算を内外一体化して行うためのシステム)のバージョンアップ作業であり、それぞ
れのシステム開発の一環として位置づけられるべきものである。そして、上記①な
いし③のシステム開発は、それぞれ全体としてみれば本件規定の適用対象となるこ
とが明らかであるから、バージョンアップ作業部分のみを取り出して、本件規定の
適用対象とはならないとする被告の主張は失当である。
 なお、被告は、山一証券システムは、山一コンピュータから受注したものである
から直接契約要件を満たさないと主張するが、そもそも直接契約要件は不要である
し、仮にこれが必要であるとしても、山一コンピュータは山一証券のシステム子会
社であって同社と実質的に同一とみ得るのであるから、いずれにせよ被告の主張は
失当である。
 また、被告は、③については、原告が山一コンピュータにシステムエンジニアを
派遣したにすぎず、主体的にシステム開発に関わったわけではないとも主張する
が、これらも原告がバージョンアップに係るシステム開発を行ったものであって、
被告の主張は、誤った前提に立った主張であり、失当である。
オ)群馬銀行システムについて
 群馬銀行システムは、同銀行の各営業店の新約状況、預金残高等のデータを収
集・蓄積し、その蓄積データを各営業店に提供できるようにすることを目的とした
システムであり、原告が、同銀行からそのシステム構築の一切を請け負ったもので
ある。
 同システムの開発に当たっては、基幹となるシステムの開発(被告が主張する①
の情報系基盤整備第一次開発)と、ATM休日稼働等を目的とするシステム機能の
追加、変更(被告が主張する②の情報系基盤整備のシステムメンテナンス及び休日
稼働対応)、その他のシステム機能の追加、変更、障害対応に関する技術指導(被
告が主張する③の情報系基盤整備のシステムメンテナンス)に関する契約が締結さ
れ、更に、基幹システムの開発については、システム開発とプログラム作成の2段
階の契約が締結されている。しかしながら、基幹システムの開発は、当初から、原
告が一貫して行うことが予定されていたものであり(このことは、群馬銀行がシス
テム構築作業開始前の平成元年9月8日に作成した「基盤整備第一次開発要員スケ
ジュール」(甲14の5)においても、そのことが前提とされていたことからも明
らかである。)、また、その後に行われたシステム機能の追加、変更等も、当初契
約締結当時から予想されていた作業なのであるから、これら全体が本件規定の適用
対象になるかどうかという観点から判断がされるべきものである。
 この観点からみた場合、これら全体の作業は、システム設計から保守に至るすべ
ての役務を提供するものであり(群馬銀行の担当者に不具合への対処についての技
術指導を行っていることは、この点を否定するものではない。)、また、その対価
の額も5000万円を優に超えることになり、かつ、契約書上、1年の無償瑕疵修
補条項も設けられていた(乙22の2ないし4の第4条)のであるから、本件規定
の適用対象となることは明らかである。
カ)東海銀行システムについて
 東海銀行は、昭和61年、自社のオンラインシステム(第二次オンラインシステ
ム)を再構築し、第三次オンラインシステムを構築することを決定した。原告は、
東海銀行から、この第三次オンラインシステムのサブシステムである情報系システ
ムの構築を依頼され、昭和61年3月31日付けの基本契約書(甲12の4)によ
って、その旨の契約を締結したもので、その当時から、原告が情報系システムに係
るシステム設計から保守に至るすべての役務を提供することが合意されていたもの
である。本件で問題とされている契約のうち、データ蓄積システムSE契約と主要
取引先システム等契約は、情報系システムのサブシステムであるデータ蓄積システ
ム開発に関する個別契約であり、営業店情報システムSE契約とCCRシステム等
契約は、同じく情報系システムのサブシステムである営業店情報システム開発に関
する個別契約である。以上のとおり、上記各契約に基づいて行われた作業は、いず
れも情報系システム開発に関する契約に基づいて行われたものなのであるから、全
体として、本件規定の適用対象となるものかどうかを判断すべきものである。
 この観点から考えた場合、情報系システムは、東海銀行第三次オンラインシステ
ムのサブシステムではあるものの独立した情報システムであり、これについては原
告がシステム設計から保守に至るすべての役務を提供し、かつ、対価の額は500
0万円を遙かに上回るのであるから、本件規定の適用対象となることは明らかであ
る。
 被告は、①これらの契約は、一体の契約書によって締結されたものではないので
あるから、一括契約要件を満たさない、②サブシステムの開発にすぎないから全体
システム要件を満たさない、③SE作業に係る契約は、東海銀行や東海バンキング
ソフトウェアの作業を支援したのにすぎないからシステムインテグレーションとは
いえない、④システム開発には、東海銀行や東海バンキングソフトウェアも関与し
ていたのであるから、原告が単独でシステム開発を行ったとはいえず、この点から
もSI要件を満たさないといった主張をする。しかしながら、①、②の主張が失当
であることは既に再三主張したとおりである。また、③については、長期間にわた
るシステム開発について、毎月一定額の対価の支払を行うことが原告にとっても東
海銀行にとっても都合がよかったため、SE作業の名目で対価の一部の支払が行わ
れたのにすぎず、④の東海銀行や東海バンキングソフトウェアの関与は、システム
開発に当たり必要とされるユーザーとしての関与又は原告の指示の下における補助
的作業の域を出るものではなかったのであるから、これらの事情も、原告がシステ
ムインテグレーション作業を行ったことを否定するに足りる事情ではないのであっ
て、被告の主張はいずれも失当である。
キ)リクルートコンピュータプリントシステムについて
 リクルートコンピュータプリントシステムは、原告が、リクルートコンピュータ
プリントから物件データベースの再構築作業について相談を受けたことがきっかけ
となってシステム構築作業を請け負うこととなり、売買系第1契約、同第2契約及
び賃貸系開発及びシステムメンテナンス契約を締結したものであり、これらは、そ
の性質上一体として考え得るものであるし、原告とリクルートコンピュータプリン
トとの間においても、当初から、これらの作業すべてを原告が行うことが予定され
ていたものであるから、これらの契約全体が本件規定の適用対象となるかどうかを
判断すべきものである。
 被告は、①システム分析、運用及び保守をリクルートコンピュータプリントが行
っているから、原告がすべての役務を提供したことにはならないからSI要件を欠
く、②契約の相手方がエンド・ユーザーであるリクルートではないから、直接契約
要件を欠く、③リクルートコンピュータプリントの意向は、「システム分析の結果
が良好であれば、その後の開発も原告に任せる」というところにあったから、一括
契約要件を満たさないといった主張をしている。しかしながら、原告は、システム
分析から保守に至るすべての役務を提供しており、リクルートコンピュータプリン
トの関与は、システム開発に当たって当然に必要となるユーザーとしての関与にと
どまるのであるから、これによってSI要件を欠くことにはならず(①につい
て)、リクルートコンピュータプリントは、リクルートのシステム子会社であって
リクルートと同視し得るものなのであるから、直接契約要件を欠くこともなく(②
について)、「システム分析の結果が良好であれば、その後の開発も原告に任せ
る」とのリクルートコンピュータプリントの意向は、当初開発を予定していたシス
テムが、契約当時のコンピュータ技術によっては実現不可能となる危険もないでは
なかったため、そのような場合には、契約を白紙に戻して開発を一からやり直すと
いう意味にすぎず、原告が一貫してシステム開発に当たるとの点については、当事
者双方とも合意していたのであるから、これによって一括契約要件を欠くことには
ならないものというべきである。
ク)日本電気経営情報システムについて
 原告は、昭和59年7月31日、日本電気経営情報との間で基本契約を締結して
以来、その依頼に基づいて、各種の情報処理システムを構築してきた。本件で問題
となっているのは、平成2年9月期において開発した資材購買情報管理システム
と、平成2年9月期ないし平成4年9月期において開発したNEC営業システムの
レベルアップシステムに係るシステム開発契約であって、これらについては、原告
が、日本電気経営情報の依頼に基づき、システム分析から保守に至るすべての役務
を提供しているものであり、しかも、各システムに関する契約金額は5000万円
以上になっているのであるから、本件規定の適用対象となるものである。
ケ)NTTデータ通信システムについて
(ア) 海外有価証券情報システム第1、第2契約について
 海外有価証券情報システムは、NTTデータ通信が、契約を結んでいる銀行等の
金融機関や証券会社に対し、世界の株式、債権等の有価証券等の価格データや銘柄
の情報を、24時間のリアルタイムで配信するための巨大システムで、いくつもの
サブシステムから成り立っている。
 原告は、第1契約によって、上記システム構築のための技術支援を行っていたと
ころ、その作業の途中で、株価等のデータを24時間毎に区切ってデータベース化
し、契約を結んでいる金融機関等が過去のデータを見ることができるようにするた
めのバッチ処理システムを開発することが必要であることが判明し、第1契約の一
部及び第2契約に基づく作業は、上記バッチ処理システムの開発のために行われ
た。以上のとおり、海外有価証券システム第1、第2契約の大部分は、上記バッチ
処理システム開発を内容とするものであり、それ以前に行われた作業もそのための
準備作業といえるものであるから、上記第1、第2契約は、全体として上記バッチ
処理システム開発のための契約として本件規定の適用対象になるかどうかを判断す
べきものである。
 この観点から考えた場合、原告は、上記バッチ処理システムの開発、設計、プロ
グラム作成、運用の準備(移行作業及びプログラム説明書の作成)及び試験を行っ
た上で、NTTデータ通信にプログラムを納入し、かつ、基本契約により、瑕疵担
保責任すなわち保守責任を負っているのであるから(甲15の1、16条参照)、
SI要件を満たしている。また、上記バッチ処理システムは、海外有価証券情報シ
ステムのサブシステムではあるものの独立したシステムであるから、本件規定の適
用対象となり得るものであり(被告が主張する全体システム要件が不要であること
は既に主張したとおりである。)、対価要件その他の要件も満たしているのである
から、本件規定の適用対象になるものというべきである。
(イ) 博報堂新情報システム第1、第2契約について
 博報堂新情報システムは、博報堂が保有する情報を総括的に管理する巨大な情報
処理システムであり、NTTデータ通信が、博報堂からその開発を一括受注し、数
社のシステム業者に対して、そのサブシステムの開発を発注したものである。原告
は、単にシステムエンジニアを派遣したのではなく、NTTデータ通信から、博報
堂新情報システムのサブシステムである経理・経営情報システム及び営業・制作シ
ステムの開発を受注し、その作業を行ったものであって、その作業に係る契約が博
報堂新情報システム第1、第2契約なのであるから、これらの契約が全体として本
件規定の対象となるかどうかを判断すべきものである。
 この観点から考えた場合、上記経理・経営情報システム及び営業・制作システム
は、博報堂新情報システムのサブシステムであるとはいえ、いずれも独立したシス
テムであり、また、直接契約要件は不要というべきであり、その他の要件はすべて
満たしているものであるから、本件規定の適用対象になるものというべきである。
(ウ) NTT中央移動通信システム第1、第2契約について
 NTT中央移動通信(新)システムは、NTTデータ通信が、NTT中央移動通
信網から一括受注した、同社の携帯電話の登録開設から料金の請求書の発行等を行
う巨大システムである。原告は、単なる技術支援にとどまらず、NTTデータ通信
から、上記システムのうち、電話料を滞納した顧客の携帯電話の使用を不可能にし
たり、可能にしたりする機能を有するサブシステムの開発を受注し、基本設計から
総合テストまでの作業を行ったものであり、また、基本契約によって1年間の瑕疵
担保責任すなわち保守責任を負った上、システム完成後は、原告の担当者を常駐さ
せて、実際の保守にも当たっている。NTT中央移動通信システム第1、第2契約
は、これらの作業に関する契約なのであるから、それが全体として本件規定の適用
対象になるかどうかを判断すべきものである。
 この観点から考えた場合、上記滞納顧客に係るシステムは、NTT中央移動通信
(新)システムのサブシステムであるとはいえ、独立したシステムであり、直接契
約要件は不要であり、その他の要件はすべて満たしているのであるから、本件規定
の適用対象になるものというべきである。
コ)日本移動通信システムについて
 日本移動通信システムは、同社の顧客の登録から料金回収までの業務を司る情報
システムを保有している。そのシステムは、注文システム、料金システム及び課金
システムという3つのサブシステムから成っており、そのうち料金システムと課金
システムを併せたものが「料金システム」と呼ばれている。原告は、料金システム
契約において、料金システムと課金システムを併せた意味での料金システムについ
て、その設計から保守までを請け負ったものである。また、追加開発契約は、料金
システム契約締結当時において、具体的にその内容や対価の額が確定されていたも
のではないが、システム開発においては、その作業が進むにつれて、不具合や改良
すべき点等が発見され、それに対応した追加システム開発が必要となるのが通例で
あり、このような追加システム開発は、当初のシステム開発を担当し、その内容を
熟知したシステム業者が担当することになるのが当然なのであるから、このような
追加開発契約も、当初契約に当然付随するものというべきである。また、本件にお
いては、膨大な料金未納者の発生という問題に対処するため、まず必要最小限のシ
ステムを稼働させ、更にその後数か月単位で順次追加システムを提供するとの合意
が当初からされていたのであり、現に追加開発契約に係る業務は、当初契約である
料金システム契約に係る作業が完了した後1年内に行われているものであり、この
ような時期的な接着性からみても、料金システム契約と追加開発契約とは一体のも
のとして判断されるべきものである。
 以上のとおり、料金システム契約及び追加開発契約に係る作業は一体のものとし
て評価されるべきものであるところ、料金システムは、日本移動通信システムのサ
ブシステムであるとはいえ、独立したシステムであり、かつ、その対価の額は、合
計すれば5000万円を優に超えるものなのであるから、本件規定の適用対象にな
るものというべきである。
第4 争点に対する判断
1 本件規定の解釈について
 前示のとおり、本件規定及びこれに基づく施行令の規定(以下、これらを併せて
「本件規定等」という。)の解釈として、被告は、システムインテグレーションの
特質や、本件規定の立法趣旨等に照らすと、本件規定が適用されるためには、
a)その適用を受けようとする者が、SIサービス業を営む青色申告法人であって
通商産業大臣の認定を受けたものであること(法人要件)、
b)要求定義が終了するまでの段階で、開発しようとする情報処理システムの内容
が具体化され、そのシステムについて、SIサービスに係るすべての役務を提供す
る旨と、その対価として5000万円以上の額(ただし、有償保守の対価の額を除
く)を支払う旨が合意され、かつ、これらの合意が書面によって明示されているこ
と(被告が主張するSI要件、一括契約要件、対価要件)、
c)書面による1年以上の無償補修特約が存在すること(被告が主張する無償補修
特約要件)、
d)当該契約が、エンド・ユーザーとの間で締結されていること(被告が主張する
直接契約要件)、
e)エンド・ユーザーが開発しようとしているシステム全体について、SIサービ
スを提供する旨の合意がされていること(被告が主張する全体契約要件)、
が必要であると主張している。これらa)ないしe)の要件のうち、a)及びc)
の要件は、本件規定等の文言からも当然に要求されるものであり、当事者間におい
ても、その意義について特段の争いはない(なお、a)の要件については、原告が
これを満たしていることについても当事者間に争いはない。)。しかしながら、残
るb)、d)、e)の各要件については、原告がこれを争っているので、まず、こ
れらの要件が必要であるかどうかについて検討する。
1)SI要件、一括契約要件、対価要件(上記b)の要件)について
ア)システムインテグレーションの概念について
 証拠(甲20、乙2、26、28)によれば、次の事実が認められる。
(ア) システムインテグレーションは、昭和50年代にアメリカで発生した概念
であり、昭和60年代にこれが日本にも導入されるに至った。システムインテグレ
ーション概念が導入される以前の情報処理システム開発は、いわばユーザー主導で
行われるものであって、ユーザーは、情報システム開発の諸段階、すなわち、シス
テム分析、システム設計、導入すべきコンピュータ機器の決定、プログラム作成、
要員教育、テスト、移行、保守(メンテナンス)のすべての段階に主導的に関与
し、ある部分は自ら作業を行い、他の部分については、プログラム作成をシステム
業者に委託する等他の業者を下請的に使ってシステム開発を行っていた。しかしな
がら、このようなシステム開発では、ユーザーに多大な労力や専門的知識が要求さ
れ、重い負担となる一方、プログラム作成等に関与するシステム業者としても、上
記のようなユーザー主導型のシステム開発の下では、その地位がユーザーの下請的
地位にとどまることとなっていたため、そのような下請的地位から脱却したいとい
う要望が強くなっていた。
 そのような中で発生したのがシステムインテグレーション概念であり、これは、
システム業者が、その専門的な知識や技術を活用して、情報処理システム開発にお
いて従前ユーザーの役割とされていた統合機能(インテグレーション機能)を担う
こと、すなわち、ユーザーの要求内容を的確に把握し、これに基づいて基本設計、
プログラム作成、運用準備、保守等のサービスを一貫して行うことを意味するもの
であって、建設業でいえば、「ゼネコン」が提供するサービスを提供しようという
ものであった。
(イ) このように、システムインテグレーションは、システム業者が、ユーザー
のために、システム開発に係る基本設計、プログラム作成、運用準備、保守等のサ
ービスを一貫して提供するものであるが、ユーザーとシステム業者との間の契約形
態としては、①一括契約、すなわち、当初から、上記の各役務のすべてを提供する
旨の具体的な契約を締結する形態、②まず基本契約を締結しておき、具体的な作業
については、各工程ごとに個別契約を締結する形態、③基本契約を締結せずに個別
契約だけを締結する形態等が存在した。そして、システムインテグレーション概念
が成立した当時のアメリカ合衆国においては、上記①の一括契約形態が主流を占め
ていたが、このような契約形態には、契約当初の費用見込みと実際に要した費用と
に乖離が生じる可能性が少なくなく、その場合、ユーザー又はシステム業者の一方
に多大な損失が生じるおそれがあること(実際に要した費用が見込みを大幅に上回
ればシステム業者に損失が生じ、逆に大幅に下回れば、本来必要のない対価を支払
ったという意味において、ユーザー側に損失が生じることになる。)、契約当初に
おいてシステム開発の具体的内容を確定してしまうため、システム開発の途中でよ
り優れたハードウェアやソフトウェアが開発された場合であっても、それを柔軟に
取り入れることが難しく、また、システム開発の途中で明らかになった当初計画の
問題点や改良点等に対する対応にも困難が生じるなど、システム開発が硬直化する
おそれがあることなどの問題点が存在するため、①の形態のシステムインテグレー
ション契約は、次第に行われなくなり、②、③の形態のシステムインテグレーショ
ン契約が一般的なものとなりつつある。他方、課税庁は、本件と同様に本件規定の
適用には、一括契約であることを要求しているため、業者としても本件規定の適用
を求めないのが一般化している。
(ウ) 上記のとおり、システムインテグレーション概念は、昭和60年代に日本
にも導入されたのであるが、その後、業界の地位確立を願う情報処理システム業界
の要望を背景として、システムインテグレーターを育成し、情報処理システム業界
の地位を向上させようとする通商産業省(当時)が、その政策実現の手段の一つと
して導入を図ったのが本件規定に基づくプログラム等準備金の損金算入制度であ
り、その結果、昭和63年の租税特別措置法改正(昭和63年法律第4号)によっ
て、本件規定が導入されるに至った。そして、本件規定の導入を推進した通商産業
省機械情報産業局は、「システムインテグレーション登録・認定制度と税制の概
要」と題する説明文書(乙26)において、本件規定導入の趣旨を、次のとおり説
明している。すなわち、「システムインテグレーションサービスにおいては、ユー
ザーとの間で、一定期間の無償補修条項が設けられるのが一般的であるところ、シ
ステムインテグレーターは、システムの高度化、複雑化を反映して、ユーザーへの
納入後に発見される瑕疵が多いため、多額の保守費用の負担を強いられており、こ
のため、各企業は、補修費用の発生状況の経験則に基づき、有税で保守準備金を積
み立てているが、システムの規模が大きくなるほど発生する保守費用も増え、その
ための準備金の積立率は大きくなる傾向があるので、このような現状を踏まえ、各
企業が抱える無償補修に伴うリスクを軽減するために、無償補修に備えた準備金積
立に係る税制上の特別措置を設ける必要があるので、本税制は、システムインテグ
レーションサービスの売上のうちの一定割合を保守準備金として積み立てることを
認め、無償保守に係るシステムインテグレーターの負担を軽減するとともに、着実
な保守作業の遂行を可能とし、ユーザー保護にも資することを目的とするものであ
る。」というのである。
イ)SI要件及び一括契約要件の要否について
 以上のとおり、システムインテグレーションとは、情報処理システムの構築に当
たり、システム設計から保守に至るすべての役務を提供し、ユーザーに代わって統
合的な機能を果たすことにあり、また、本件規定の文言上も、これらの役務のすべ
てを提供することが必要とされているのであるから、本件規定の適用を受けるため
には、上記の各役務のすべてを提供する旨の契約をすること、すなわち被告主張の
SI要件を満たすことが必要となることは明らかである。
 被告は、このSI要件に加え、「契約締結当初の段階、すなわち、遅くとも要求
定義が終了するまでの段階で、システムインテグレーションを行うべき業務の内容
が具体化され、それについて、システム設計から保守に至るすべての役務を提供す
べきことが合意され、かつ、それが契約書上明確化されている必要がある。」とい
う趣旨の主張をする(被告主張の一括契約要件)。そこで検討するに、本件規定
は、あくまでもシステムインテグレーション業務を対象とするものであり、システ
ムインテグレーションとは、ユーザーに代わって上記のような各役務のすべてを提
供する業務なのであるから、システムインテグレーションに係る契約を締結すると
は、情報処理システムの開発について、上記の各役務のすべてを提供する契約を締
結することにほかならない。したがって、契約当初の段階において、特定の情報処
理システムの開発に当たり、上記の各役務のすべてを提供する旨の合意がされてい
る必要があるものというべきであり、被告の主張は、その限度では正当なものであ
ると解される。しかしながら、本件規定等の文言から導き出される要件は、以上の
限度にとどまるのであって、それ以上に、開発すべきシステムの内容が具体化され
ていることや、業務の内容(具体化されたシステムについて、上記のすべての役務
を提供すべきこと)が契約書上明確化されていることまでは要求されないものとい
わざるを得ない。
 この点につき、被告は、「本件規定導入の際想定されていたシステムインテグレ
ーションは、被告が主張するような意味での一括契約形態によるシステムインテグ
レーションであり、このような契約は、情報処理システム業者にとってリスクの高
いものであるところから、そのようなリスクに対応するためにも本件規定が導入さ
れたのである。」という趣旨の主張をするところ、証拠(乙26、28)によれ
ば、本件規定等が制定された当時において想定されていたシステムインテグレーシ
ョン契約は、被告主張の一括契約形態によるものであったことは事実であると認め
られる。しかしながら、ここで問題になるのは、あくまでも本件規定等の解釈なの
であるから、立法当時想定されていた契約形態が一括契約形態であったからといっ
て直ちにそれが法令上の要件になっているということはできず、本件規定等の文言
等に基づく合理的な解釈として、そのような要件が必要であると解することができ
ることを要するものというべきである。この観点から考えた場合、システムインテ
グレーションに係る契約には様々な形態のものがあり得ることは、ア)、(イ)に
おいて認定したとおりなのであるから、システムインテグレーション契約の本質と
して、被告主張の一括契約要件が要求されるということはできない。むしろ、一括
契約形態は、業者又はユーザーのいずれかに多額のリスクを発生させるおそれのあ
る点において安定的な契約形態とはいい難く、そのために次第に用いられなくなっ
たのは自然な成り行きと考えられるのであって、当初このような形態が多く用いら
れていたのは、未だ未成熟な取引にありがちな過渡的な現象というべきであって、
この点に固執することは、当該取引の本質を見誤るものというほかない。
 また、本件規定等は、「SIサービスに係る情報処理システムの欠陥につきその
引渡し後において当該法人が自己の負担により無償で行う補修に要する費用の支出
に備えるため」に積み立てた準備金の損金算入を認めているのであって、一括契約
に伴うリスクに対応するという点については何ら触れられていない上に、本件規定
の導入を推進した通商産業省機械情報産業局の説明文書(乙26)においてさえ
も、一括契約に伴うリスクの軽減については言及されていないのであるから、本件
規定に、一括契約に伴うリスクの軽減という趣旨も含まれているとの解釈を導き出
すことは到底無理であるといわざるを得ない。
 更に、本件規定等の文言上、SI業務に係る「すべて」の役務を提供することが
要求されているとはいえ、それを「一括して」、具体的に契約すべきことまでが定
められているわけではなく、契約書上明確な定めが存在することも要求されてはい
ないことなどからすれば、本件規定等の文言上も、被告が主張するような一括契約
要件が要求されていると解することは困難である。なお、租特法施行令は、前記の
とおり、プログラム等準備金積立ての要件として、SIサービスに係る情報処理シ
ステムの欠陥につき「その引渡し後1年以上の間無償で補修すべき旨の定めのある
契約(書面によるものに限る。)に基づくもの」と規定しており、この規定の文言
のみからすると、SIサービス全体についての契約書が存在することを前提とし
て、その一条項として無償補修特約の存在を要求している趣旨と解せないでもな
い。しかしながら、仮にそのように解することができたとしても、契約書作成の時
期やその内容について何らの定めもない以上、この規定のみから被告が主張するよ
うな厳格な契約の成立が要求されているとは到底解し得ない。そればかりか、課税
庁においても、この規定にいう契約には、無償補修特約の記載された覚書又は保証
書を含むとしており(租税特別措置法基本通達56の5-4)、これらの書面には
当該特約のみが記載され、しかもシステムが完成して引き渡される時期に取り交わ
されることも珍しくないものと考えられることからすると、この規定が上記のよう
な一括契約要件を前提とするものとは考えられないことが明らかである。以上の検
討からすると、被告の主張は、法令の文言を離れた要件を付け加えるものであっ
て、租税法規の厳格解釈の要請にも反するものといわざるを得ず、採用できない。
したがって、本件規定が適用されるためには、契約当初の段階において、システム
業者が、特定のシステム開発につき、SI業務に係るすべての役務を提供する旨を
合意する必要があるが、この合意は一般の契約と同様に明示のものに限らず、黙示
のものを含むと考えられるから、この要件を満たしているといえるためには、契約
書や当事者間で取り交わされた各種文書、業務遂行の実態等に照らし、当事者間に
おいて、SI業務に係るすべての役務を提供する旨の黙示の合意がされていたと認
められれば足りるのであって、それが当初契約書上明示されていることは必ずしも
必要ではないものというべきである。また、システム業者が提供した役務がどの範
囲で本件規定の適用対象になるかを判断するに当たっても、当初締結された契約書
にその業務が記載されていたかどうかのみを基準に判断する必要はなく、上記の各
事情に照らし、当初契約の範囲に含まれていた業務はどの範囲のものであったのか
という観点から検討すれば足りるものというべきである。
ウ)対価要件について
 本件規定の適用対象となる契約は、その対価の額(ただし、有償保守の対価の額
を除く。)が5000万円以上であることを要することは前示のとおりであるが、
被告は、これに加え、対価の額が当初契約の契約書において確定されていることを
要する(被告の主張する対価要件)という趣旨の主張をする。しかしながら、この
ような要件は、本件規定等の文言には現れていないものであるし、システムインテ
グレーション契約の特質や、本件規定等の合理的解釈に基づいて、そのような解釈
が必要になるともいえないことはイ)において説示したとおりであるから、この点
に関する被告の主張も失当であるといわざるを得ない。したがって、システムイン
テグレーション契約の対価が5000万円以上であると認められるかどうかは、当
初契約に基づいて行われたと認められる業務の対価の総額が5000万円以上にな
るかどうかという観点から判断すれば足りるものというべきである。
 なお、このような解釈に立つと、例えば、2年度以上にわたるシステムインテグ
レーションにおいて、初年度の対価の額が5000万円未満と定められた場合に
は、それが本件規定の適用対象となるかどうかを判断することができなくなるとい
う批判が考えられないでもない。しかしながら、本件規定が適用されるためには、
申告時点において、当該契約が本件規定の適用対象になるものと認められることが
必要であると解されることからすれば、初年度において5000万円未満の対価の
額のみが定められ、黙示的にせよ2年度以降の対価の額が何ら定められていない場
合には、本件規定は適用されないものというべきであり、このような解釈によれ
ば、上記の点は、課税実務に重大な問題を生じさせるものではないと解される(こ
の結果、例えば、初年度の対価の額は3000万円であり、2年度の対価の額が、
2年度目になって2000万円と定められ、その総額が5000万円に達したとい
うような場合には、2年度目の2000万円のみが本件規定の適用対象になるとい
うこととなるが、それはシステム業者が、そのような対価の定め方をしたことによ
るものであって、自ら甘受せざるを得ない結果であるというべきである。)。
2)直接契約要件(上記d)の要件)について
 被告は、本件規定が適用されるためには、システム業者とエンド・ユーザーとの
間で直接システムインテグレーションに係る契約を締結することを要すると主張す
る(直接契約要件)。この点も本件規定等に明示的に規定されている要件ではない
が、被告は、「システムインテグレーションというものが、もともと、システム業
者が、その専門的知識や技術を活用し、エンド・ユーザーの要望を的確に把握し、
エンド・ユーザーに代わって統合的機能を果たすものであることを考慮すると、エ
ンド・ユーザーの要望に直接対応しながら情報処理システム開発を行う業務こそが
システムインテグレーションの本質的な内容であると解されるのであり、そうであ
るとすれば、システムインテグレーションであると認められるためには、エンド・
ユーザーと直接契約をして業務に当たることを要し、エンド・ユーザーと契約をし
たシステム業者からの下請等として、情報処理システムの開発に当たったとして
も、それはシステムインテグレーションということはできない。」と主張している
ものと解される。しかしながら、例えば、エンド・ユーザーがシステム子会社を設
立し、形式的には、エンド・ユーザー、そのシステム子会社、システム業者の順序
で情報処理システム開発に関する契約を締結しているが、そのシステム子会社は、
エンド・ユーザーの要望等をシステム業者に伝える等の機能を果たしているにすぎ
ず、実質的には、システム業者が、エンド・ユーザーの要望に対応して情報処理シ
ステムの開発に当たっていると評価できる場合や、エンド・ユーザーからシステム
開発を受注したシステム業者が、そのシステムの開発を別のシステム業者に丸投げ
し、実質的には、その別のシステム業者がユーザーの要望に対応してシステム開発
に当たっているような場合等においては、ユーザーに代わって統合的機能を果たし
ているのは、実際にシステム開発に当たったシステム業者であったといえるのであ
るから、このような場合にまで、形式的に直接契約要件を欠くことを理由として本
件規定の適用を否定するのは相当ではないというべきである。そうすると、システ
ムインテグレーションが、情報処理システムの開発に当たり、システム業者がユー
ザーに代わって統合的機能を果たすことを本質とするものであることは、被告が主
張するとおりであるとしても、当該システム業者がシステムインテグレーターとし
ての統合的機能を果たしているかどうかは、SI要件充足性の判断の一環として、
実質的に検討すれば足りるのであって、法律上の根拠がないにもかかわらず、直接
契約要件という形式的な要件を付け加えることは許されないものというべきであ
る。
 なお、原告は、①無償補修の負担を負うという点においては、エンド・ユーザー
と直接契約した業者も、その業者からシステム開発(の全部又は一部)を請け負っ
た業者も異なるところはないのであるから、直接契約要件を要求することは不当で
ある、②租特法施行令31条の14第8項2号の規定は、本件規定が、直接契約要
件を満たさない場合であっても適用されることを前提としたものであるなどとし
て、直接契約要件は不要であると主張しているところ、この主張は、上記の検討結
果とは異なり、被告が主張する直接契約要件が不要であることはもちろんのこと、
システム業者がシステムインテグレーターとしての機能を果たしていない場合であ
っても、契約の相手方に対して無償補修義務を負う限り、本件規定の適用が認めら
れるべきであるという趣旨にも解される。しかしながら、本件規定が適用されるか
どうかを判断するに当たっては、その対象となる業務がシステムインテグレーショ
ンに当たるものであるかどうかを判断する必要があり、単に無償補修の負担を負う
かどうかという観点のみからこれを判断すべきものではないのであるから、上記①
の主張は失当である。また、租特法施行令31条の14第8項2号は、システムイ
ンテグレーションサービスの係る業務の全部又は一部を他の者に委託している場合
における当該委託に要した費用の額の2分の1に相当する金額は、プログラム等準
備金の積立対象額から除外する旨を定めているところ、その趣旨は、上記のような
場合、委託に係るシステムに関する無償補修費用は、最終的には業務の全部又は一
部を受託した業者に転嫁されるのが通常であり、システム業者は、その分無償補修
の負担を軽減されることになるのであるから、その分についてまでプログラム等準
備金の全額積立てを認める必要はないというところにあると解されるのであって、
この規定が、上記のような場合、業務の全部又は一部を受託した業者がプログラム
等準備金を積み立てることができるということを当然の前提にしたものであると解
することはできない。したがって、上記②の主張は、その前提を欠き、失当という
べきである。以上のとおり、原告の上記主張は、上記の検討結果を左右するもので
はない。
3)全体システム要件(上記e)の要件)について
 被告は、本件規定の適用を受けるためには、エンド・ユーザーが開発しようとし
ているシステム全体について、SIサービスを提供する旨の契約がされていること
(全体システム要件)が必要であると主張する。しかしながら、本件規定等におい
ては、「一の情報処理システム」についてSIサービスを提供する旨の契約をする
ことが要求されているのみであって、それがエンド・ユーザーの開発しようとする
システムの全体であることまで要求されているわけではない。そして、本件規定の
対象となるようなある程度大規模なシステムの場合、そのシステムは、幾つかのサ
ブシステムに分けられることが通常であるところ、そのサブシステムも、それ自体
として見れば、独立して機能し得るものであって、「一の情報処理システム」と評
価し得るものであることが少なくない。もともと、ある情報処理システムが全体シ
ステムか、サブシステムかは、例えば、ある会社に人事システムしかなければそれ
は全体システムであるが、それに経理システムが加えられれば人事システムが全体
システムのサブシステムになるというように相対的な問題にすぎないのであって、
「全体システム」という絶対的な独立した概念が存在するわけではなく、そのよう
な中で、「全体システム」という要件を観念するとすれば、それは、「その時点に
おいて、ユーザーが開発しようとしているシステムの全部」という意味に解するほ
かはないところ、本件規定等の「一の情報処理システム」という文言をそのような
意味に解することができるかどうかは疑問であるといわざるを得ない上に、このよ
うな意味での「全体システム」要件が必要であると解すると、ユーザーが開発しよ
うとしているシステムの全部を開発すれば、それがそれほど大きなシステムではな
くとも対価要件さえ満たせば本件規定が適用されるのに対し、ユーザーが開発しよ
うとしている大規模「全体システム」の一部であるサブシステムを開発したにすぎ
ない場合には、それがいかに大規模なシステムであっても本件規定が適用されない
というアンバランスな結果をもたらすのであって、そのような結果が、本件規定を
制定した趣旨に合致するのかどうかも疑問であるといわざるを得ない。
 もっとも、ユーザーが開発しようとしているシステムが、幾つかのサブシステム
から構成されており、各サブシステムの開発を別々の情報処理システム業者が受注
したというような場合には、各サブシステムを併せた全体システムの構想や、各サ
ブシステム間の融合、調整といった作業はユーザー主導の下に行われることにな
り、各サブシステムを受注したシステム業者は、ユーザーに代わってシステムイン
テグレーションを行うという統合機能を果たしていないという場合もあり得ること
になる。このような場合には、システムインテグレーションが十全な形で行われて
いないのであるから、サブシステム開発を受注したシステム業者に本件規定の適用
を否定すべきことはいうまでもないが、被告の主張は、このような場合に限定する
ことなく、サブシステムのみの開発を受注したシステム業者にはおよそ本件規定を
適用しないという点で誤っているのである。すなわち、このようなサブシステム開
発の受注にとどまる場合であっても、サブシステムの独立性が高く、全体システム
の構想や、サブシステム相互の融合や調整がそれほど重要ではない場合もあり得る
し、サブシステムの開発を受注したシステム業者が協力してサブシステム相互の融
合や調整等をも行っている場合もあり得るのであって、このような場合におけるシ
ステム業者の業務は、システムインテグレーションという評価に値するものという
ことができる。そうだとすると、サブシステムのみの開発を受注したシステム業者
についても、端的に、当該システム業者が、システムインテグレーション機能を果
たしたかどうかという観点から判断をすれば足り、これは、SI要件充足性の問題
の一部として検討すれば足りるのであって、受注したシステムが「全体システム」
であるかどうかという独立した形式的要件を設けることは相当ではないものという
べきである(なお、本件規定の適用の有無を容易に判断するという観点からすれ
ば、受注したシステムがユーザーが開発しようとしているシステムの全部であるか
どうかという形式的な観点から判断する方が相当であるという考慮もあり得るかも
しれないが、そうであるとすれば、その趣旨を明確にした規定を設けるべきなので
あり、課税上の便宜という観点から、解釈上、法令の文言を離れた要件を付け加え
ることは許されないものといわざるを得ない。)。
 以上によると、システム業者が受注したシステムが、全体システムのうちのサブ
システムにとどまる場合には、当該業者の業務がシステムインテグレーションには
当たらないと評価される場合があり得ることは否定できないものの、被告が主張す
るような意味での全体システム要件は不要であるといわざるを得ないのであって、
この点に関する被告の主張は失当というべきである。
4)まとめ
 以上によると、被告が主張する各要件のうち、法人要件、SI要件、無償補修要
件は必要であるが、一括契約要件、対価要件、直接契約要件、全体システム要件は
不要というべきである。もっとも、当初契約においてSI業務に係るすべての役務
を提供すべき旨が合意されていることが必要であり、また、システム業者がエン
ド・ユーザーとの間で直接契約を締結していない場合や、ユーザーが開発しようと
しているシステムの一部を受注したのにすぎない場合には、当該システム業者の業
務がシステムインテグレーターとしての業務という評価に値するかどうかという観
点からの検討も必要となる。更に、当初契約に基づいて提供された役務の対価の総
額が5000万円を超えることが必要であることも既に説示したとおりである。
 そこで、以下においては、「SI要件」という用語を、当初契約において、シス
テムインテグレーターとして、SI業務に係るすべての役務を提供すべき旨が合意
されていることを含めた意味で用いることとし、また、上記のような意味で役務提
供の対価が5000万円以上であることを「対価要件」ということとして、問題と
なっている各契約が、本件規定の適用対象となるかどうかを検討することとする。
2 本件規定適用の可否について
1)第一証券システムについて
 証拠(甲2、4-6、乙15の1-3、乙16の1、2)によれば、第一証券シ
ステム関係で行われた業務の具体的な内容は、別紙「第一証券システム関係明細
表」に記載のとおりであって、①第一証券向け顧客情報システム開発、②DIAN
Aシステム銘柄拡大作業、③大口投資家開拓のための営業推進企画等、④リレーシ
ョンマーケティングを活用した中堅企業開拓支店実践プログラムに分けられること
が認められる。そして、原告は、②ないし④の作業は①の作業の一部をなすもので
あると主張するが、①の受注に関与した証人P1も、②ないし④のシステムの中身
を知らないとして確たる証言を避けており(証人調書75頁)、他にこれらの業務
が、一体のシステムを構成するものであることを認めるに足りる証拠は存しないか
ら、以下、そのそれぞれについて、本件規定の適用対象となるかどうかを判断す
る。
ア)①について
 証拠(甲1-9、23、乙15の1、2、4、証人P1)によれば、原告は、昭
和62年4月1日、第一証券のシステム子会社である第一システムセンターとの間
で基本契約書(乙15の4の別添一)を作成し、第一証券のシステム開発に関する
業務に関与するようになったこと、そのような中で、第一システムセンターから第
一証券の顧客情報システム開発に関する相談を受け、平成元年3月に、「顧客情報
システム実施計画書」と題する書面(甲1)を提出して原告のプランを提案し、こ
れに基づく協議が行われた結果、原告が顧客情報システムの開発を一括して請け負
うことになったこと、このシステム開発に関する契約は、平成元年12月8日付け
の業務受託書(甲2、乙15-1)に係る顧客情報システム第1契約と、平成2年
6月25日付けの業務受託書(甲4、乙15-2)に係る同第2契約に分かれてお
り、同第1契約においては、平成2年3月末日を納期として、システムの基本設計
からテストランまでを行い、同第2契約においては、平成2年6月末日、7月末日
を納期として、テストラン、本番移行・稼働、フォローまでの作業を行うことが予
定されていたこと(甲6)、ここでいう「フォロー」とは、稼働後の不具合への対
応、すなわち保守を意味すること(甲9)、これら顧客情報システム開発に係る業
務は、契約当初から、原告が一貫して従事することが予定されていたが、その時点
では、テストラン以降の作業にどの程度の手間がかかるかが明らかではなかったた
め、取り敢えず、テストランまでの作業に関する同第1契約を締結し、その後同第
2契約を締結したものであること、このシステム開発についても、上記の基本契約
書の条項が適用され、これによれば、原告は1年間の無償補修責任を負うことにな
ること(基本契約書第9条)か認められる。他方、この契約は、エンド・ユーザー
である第一証券ではなく、そのシステム子会社である第一システムセンターと原告
との間で契約が締結されているものであるが、第一システムセンターの担当者は、
本訴提起後に東京国税局の係官に対し、第一証券に係るシステム開発については、
必ず第一システムセンターを通して契約を締結することになっており、顧客情報シ
ステムの開発に関していえば、原告に一括してこれを発注したものであって、第一
システムセンターの役割は、第一証券のシステムに対する要望を原告に指示した
り、原告と協議したりしたことと、運用の準備及び保守を行ったものであるという
趣旨の説明をしていることが認められる(乙15の4)。
 以上の認定事実に基づいて判断するに、まず、上記顧客情報システムの開発につ
いては、契約当初から、原告が一貫してこれに従事することが予定されていたもの
であったといえるから(このことは、既に認定したとおりであるのみならず、この
システム開発は、原告の「顧客情報システム実施計画書」による提案に基づいてス
タートしたものであって、ここでは、原告が、一貫してその開発に当たることが当
然の前提になっていたものと解されることや、平成元年12月時点で作成された作
業の進捗状況報告書(甲3)においても、本番、すなわちシステムの稼働までの原
告の作業日程が策定されていることなどの客観的資料からも裏付けることができ
る。)、顧客情報第1契約、同第2契約に基づく業務が全体として本件規定の適用
対象になるかどうかを判断すべきものである。
 この観点から考えた場合、原告は、システムの基本設計から本番移行、フォロー
(保守)までの役務を提供したものであり、かつ、無償瑕疵修補責任をも負ってい
ることからすれば、SI業務に係るすべての役務を提供したものというべきであ
る。この点に関し、第1システムセンターの担当者は、「システムの運用の準備及
び保守は、第1システムセンターが担当した。」という趣旨の説明をしているが、
その説明は具体性に欠けるし、これらの業務も原告が行うこととされていたことは
上記のとおりであって、第一システムセンターの関与は、ユーザー側の関与として
これらの業務に当たったという趣旨にとどまるものと解することが可能であるか
ら、上記認定を左右するに足りるものではない。そして、顧客情報第1契約、同第
2契約に係る対価の額は、合計すれば5350万円となることは、別紙「第一証券
システム関係明細表」に記載のとおりであって、以上によれば、原告の業務がSI
要件、対価要件を満たすものであることは明らかである。
 また、原告は、エンド・ユーザーである第一証券と契約を締結したものではな
く、第一システムセンターとの間で契約を締結したものであるが、このような形態
が採られたのは、第一証券においては、同社のシステム開発については、すべて第
一システムセンターを介して契約を締結するという方針が採用されていたからであ
り、また、顧客情報システム開発に関する第一システムセンターの関与は、せいぜ
い「第一証券のシステムに対する要望を、原告に指示したり、原告と協議したりし
たこと」にとどまることは前認定のとおりであるところ、第一システムセンター
が、これらの際に、第一証券とは別個に独自の考え方に則って原告と交渉していた
と認めるに足りる証拠はなく、むしろ、第一システムセンターは、自らシステムイ
ンテグレーターとしての役割を果たしたものではなく、法人格こそ独立しているも
のの、実質的にはユーザーである第一証券の一つの部署又はその使者に準ずる立場
でシステム開発に関与したのにとどまるものであったというべきであるから、この
点も、原告がシステムインテグレーターとしての役割を担ったことを否定するのに
足りる事情ではない。
 以上によれば、①の業務は、本件規定の適用対象になるものというべきであっ
て、他に以上の認定判断を左右するに足りる証拠は存しない。
イ)②について
 証拠(乙15の3、4)によれば、②の業務は、第一システムセンターが、第一
証券から受注した株価分析システムの対象銘柄を1000銘柄から1500銘柄に
拡大する作業の一部であり、原告は、他の情報処理システム業者とともに、第一シ
ステムセンターの依頼に応じ、応援要員としてのシステムエンジニアを派遣したの
にとどまることが認められ、この認定に反する証拠は存しない。
 そうすると、②の業務が、システムインテグレーションに当たるものではないこ
とは明らかであるから、本件規定の適用対象になるものではないというべきであ
る。
ウ)③、④について
 証拠(乙15の4、乙16の1、2)によれば、これらの業務は、原告が、第一
証券と直接契約を締結して行ったものであり、③は、平成元年10月31日付け見
積書(乙16の1)上、「大口投資家開拓のための営業推進企画、顧客セグメント
探索と営業ツール探索の調査とコンサルティング」と題された業務であり、④は、
平成2年6月14日付け見積書(乙16の2)上、「リレーションマーケティング
を活用した中堅企業開拓支店実践プログラム」と題された業務であることが認めら
れる。そして、前記のとおり、これらが①のシステムと一体をなすものと認めるに
足りる証拠はない上、第一証券が、同社のシステム開発についてはすべて第一シス
テムセンターを解して契約を締結するとの方針を採っていたにもかかわらず、③及
び④については、原告と第一証券とが直接に契約を締結していることからすると、
いずれもシステム開発を内容とするものではないのではないかとうかがわれるとこ
ろであるし、③は、その業務名からしても、SI業務というよりは単なるコンサル
ティング業務である可能性が高く、また、④は、たとえプログラム作成を内容とす
るものであったとしても、原告がSI業務全般を担当したかどうかは不明である。
更に、③の業務の対価は980万円、④の業務の対価は1250万円であって、い
ずれも5000万円には達していない。
 そうすると、これらの業務は、いずれもSI要件、対価要件を欠くものであっ
て、本件規定の適用対象となるものではないというべきである。
エ)まとめ
 以上によれば、第一証券システムについては、上記①に係る契約金額5350万
円の限度で本件規定の適用が認められるものというべきである。その申告対象時期
は、平成2年9月期である。
2)山九システムについて
 証拠(甲10の1-7、甲24、乙10、17の1-4、証人P2)によれば、
山九システムとして、プログラム等準備金積立ての対象となっているのは、山九の
倉庫システム開発業務のうち平成2年1月8日付け見積書(甲10の5、乙17の
2)による作業分と、平成2年6月29日付け見積書(甲10の3、乙17の3)
による倉庫システム/データ交換及び再構築作業であることが認められるので、こ
れらが本件規定の適用対象になるかどうかを判断する。
ア)倉庫国内システムについて
 2)項冒頭に掲記の各証拠によれば、原告は、新日鉄株式会社を通じて倉庫シス
テムの再構築作業を計画していた山九を紹介され、打ち合わせの結果、上記再構築
作業を受注することとなり、平成元年5月1日、山九との間で業務委託覚書(乙1
0)に基づく契約を締結したこと、上記作業の具体的内容については、
①「貴社倉庫システム(国内システム)分析・設計」の見積書(甲10の1、乙1
7の1、契約日付けは空欄)によって、平成元年9月末日を納期とし、対価の額を
2970万円として、倉庫システムに関する調査、分析、基本計画の見直し及びシ
ステム概要の作成、システム機能の仕様作成を受注し、
②「貴社倉庫国内システムの開発、その1」の見積書(甲10の4、平成2年1月
8日付け)によって、平成2年3月25日を納期とし、対価の額を3650万円と
して、上記システムの基本設計(概要設計)及び詳細設計を受注し、
③「貴社倉庫国内システムの開発、その2」の見積書(甲10の5、乙17の2、
平成2年1月8日付け)によって、納期を平成2年5月25日とし、対価の額を3
150万円として、プログラム製造及び単体テストを受注したこと、
このように、見積書は3段階に分けて作成されているが(ただし、②、③について
は、当初これを併せた平成2年1月8日付け見積書(甲10の2)が作成されてい
たが、山九側の都合により、これが2つに分けられたものである。)、①の見積書
において、システムの調査・分析から総合テストに至る全作業スケジュール表が添
付されていることからも裏付けられるように、原告が上記システム開発を一貫して
行うことは契約当初から合意されており(甲10の7)、上記の各見積書上は明確
ではないものの、山九との間では、上記システムの運用の準備や保守についても原
告が担当することが合意されていたこと(なお、原告が保守責任を負っていたこと
については、業務委託覚書(乙10)第9条に1年間の無償補修条項が設けられて
いることからもうかがわれるところである。)、以上の事実が認められる。
 以上の点に関し、乙第17号証の4によれば、山九の担当者は、本訴提起後に東
京国税局の係官に対し、「契約を分割したのは、場合によっては山九の関連システ
ム会社であるサンキュウ・ダイネットに業務を引き継がせることも考えていたため
であり、実際にもプログラム作成にはサンキュウ・ダイネットが関与している。ま
た、システムの総合テスト、運用の準備、保守は、山九の情報システム部が担当し
た。」という趣旨の説明をしていたことが認められる。しかしながら、サンキュ
ウ・ダイネットがプログラム作成に関与したとの点については、上記担当者の説明
によっても、同社が担当した具体的作業内容は明らかではない上に、上記各見積書
やそれに添付された作業スケジュール表等の客観的な資料においても同社がプログ
ラム作成に関与した形跡はみられないことに照らし、その説明内容には疑問がある
といわざるを得ず、また、システムの総合テストを山九情報システム部が行ったと
の点についても、上記③の見積書上、総合テストは原告が担当すべきものとされて
いたものと認められ(甲10-5の全体スケジュール予定には、作業項目として総
合結合試験・検収が記載されており、その注として、「貴社(山九)における検収
テスト立合(原文のまま)については、ご相談に応じさせて頂きます。」と記載さ
れていることからすれば、上記見積書上は、原告が総合テストを行った上、最後の
検収テストに山九が立ち会うことが予定されていたものと解される。)、この点に
関する説明内容にも疑問の点があるといわざるを得ないなど、その説明内容の正確
性には疑問がある。また、上記説明は、運用の準備及び保守についても、ユーザー
として当然協力すべきことのほかにいかなることを担当したのかについて具体性を
欠いているし、後記イ)のように保守の一環ともいうべき作業を原告に委託してい
ることからすると、山九に保守業務を行うに足りる能力があったか否かにすら疑問
が生ずるところである。したがって、乙第17号証の4の記載は、上記認定を覆す
に足りるものではないというべきである。そして他に上記認定を左右するに足りる
証拠はない。
 そこで、以上の認定事実に照らして検討すると、原告は、山九の倉庫国内システ
ムについて、SI業務に係るすべての役務を提供したものであって、そのことは当
初契約の段階から予定されていたものということができ、かつ、①ないし③の業務
に係る対価の総額は9000万円を超えるものとなるのであるから、SI要件、対
価要件を備えているものというべきである。また、書面による1年以上の無償補修
特約が存在することも上記認定のとおりであるから、無償補修特約要件も満たして
いることになる。したがって、申告の対象となっている、③の業務に係る3150
万円は、本件規定の適用対象になるものというべきである。
イ)倉庫システム/データ交換及び再構築作業
 2)項の冒頭掲記の証拠によれば、この作業は、山九の倉庫国内システムの開発
が完了した後に、完成したシステムのデータを一部交換するなど改良し、再構築し
たものであることが認められ、このような作業が、倉庫国内システムの契約当初か
ら予定されたものではなかったことは、原告の担当者自身が自認しているところで
ある(甲10の7)。原告は、この作業も、当初システムのアップデート作業であ
るから、当初システム開発作業の一貫として本件規定の適用対象になるかどうかを
判断すべきであるという趣旨の主張をしているが、この作業は、あくまでもシステ
ム開発終了後の個別契約に基づくものであって、それ自体ではSI業務に該当する
ものとは認め難いし、仮に当初のシステム開発と一体のものと評価し得るとして
も、このようなシステム開発終了後のデータ交換作業等は、有償保守作業と区別し
難いから、それによる収入を本件規定の適用上、収入金額に算入することは困難で
ある。また、実質的にみても、当初のシステム開発そのものと比べれば、無償補修
のリスクは格段に低く、準備金の積立てを認める必要性にも乏しいものといわざる
を得ないこと、このようなシステム開発終了後の個別作業を、当初システムのアッ
プデートであるとして本件規定の適用対象とした場合には、当初システムが稼働
し、改良作業等が行われている限り、際限なく本件規定の適用が認められるべきこ
ととなり、その結果は相当とはいい難いこと(この点は、当初システムの対価の額
が5000万円を超えていた場合にも問題となるが、特に、当初システムの対価の
額が4000万円程度であって、その後、数百万円程度の改良作業が繰り返されて
いった場合には、数年後になって初めてその総額が5000万円を超え、本件規定
の適用対象になるということも生じ得ることになり、このような結果は、本件規定
が想定しているものとは到底いい難い。)などに照らし、上記主張を採用すること
はできない。
 したがって、上記作業は本件規定の適用対象になるものではない。
ウ)まとめ
 以上によれば、山九システムについては、上記ア)に係る契約金額3150万円
の限度で本件規定の適用が認められるべきものというべきである。その申告対象時
期は、平成2年9月期である。
3)太平洋投信システムについて
 証拠(甲13の1-3、甲23、乙7、14の1-3、乙19の1-5、証人P
1)によれば、原告は、昭和63年1月、太平洋証券から、同社が設立を計画して
いた関連会社・大平洋投信が使用する情報処理システムである信託財産管理システ
ムの開発を依頼されてこれを受注し、平成元年3月までには基幹となるシステムの
開発を完了させたこと、同システム完成後も、太平洋証券(太平洋投信の設立後
は、太平洋投信)から、システムのメンテナンスや関連システムの開発等を依頼さ
れ、これらの業務を行ってきたこと、原告が、平成2年9月期から平成4年9月期
の申告においてプログラム等準備金積立ての対象としたのは、これら基幹システム
開発完了後の作業に係るものであって、その具体的な内容は、別紙「太平洋投信シ
ステム関係明細表」に記載のとおりであることが認められる。
 これらのうち、「太平洋投信システム関係明細表」記載の、情報系システム開発
第1次、分析・設計概要(契約金額は3500万円)は、太平洋投信システムとの
関係が明らかではなく、むしろ、乙第14号証の1(原告作成のプログラム等準備
金積立対象契約の明細)において、信託財産管理システムとは別個の契約として取
り扱われていることからすると、これを信託財産管理システムと一体のものと見る
ことは困難であるといわざるを得ない。そして、これを独立したシステム開発と見
た場合には、契約金額が3500万円にすぎないことから対価要件を満たさないこ
とは明らかであり(「情報系システム開発第1次」とされていることからすると、
それに引き続くシステム開発があった可能性もあり得るが、それを原告が行ったこ
とを認めるに足りる証拠は全くない。)、本件規定の対象になるものであるとはい
い難い。
 そして、その余の業務の内容は、「委託システムメンテナンス」と題する業務が
5件、対価の合計2億4492万円であり、その余は、リバランスシステム開発8
34万円、変率リバランスシステム開発720万円、累積投資システム開発260
6万円(ただし、申告に係る契約金額は834万円)であるところ、原告は、「委
託システムメンテナンス業務も、その具体的内容は、新規システムの開発や、既存
システムの改善・改良業務であって『保守』業務ではなく、リバランスシステム、
変率リバランスシステム、累積投資システムの開発と同列のシステム開発業務であ
ると評価されるべきものであるところ、信託財産管理システムは、根幹システムを
構築する一方で、新規金融商品が開発されるごとに、それに対応した新たなシステ
ムを開発していくという「スパイラル型」のシステム開発手法を採用したものなの
であるから、これらの業務全体がSI業務に当たるものというべきである。」とい
う趣旨の主張をし、甲第13号証の3、第23号証、証人P1の証言中にも同旨の
記載ないし供述部分がある。
 しかしながら、信託財産管理システムの開発が、原告のいう「スパイラル型」に
よって行われたという点についてみると、太平洋投信の担当者は、本訴提起後の東
京国税局の担当官に対する説明で、「スパイラル型」開発には言及しておらず、む
しろ、上記各業務は、いずれも個別契約に基づくものであるという趣旨の説明をし
ていた(乙19の5)のみならず、業務委託契約書(乙7)、見積書(甲13の
2、乙19の1-4)上も、そのような特殊な開発手法が採用されたことをうかが
わせるような記載は全くないのであって、上記主張等は、客観的な証拠の裏付けを
欠くものといわざるを得ない(乙第19号証の5別添二の昭和63年3月10日付
け「業務受託書」には、「信託財産の基本プログラム設計作業」を6500万円で
請け負い、その支払は、60か月の分割で行う旨の記載があり、これは、基本プロ
グラム設計作業を5年間にわたって行うことを前提とするものであって、原告の言
う「スパイラル型」開発の合意の存在をうかがわせるものであるといえなくもな
い。しかしながら、同証拠のみでは、上記請負代金が60か月の分割払いとされた
理由は明らかではないし、上記業務委託書に係る作業とその他の作業がどのような
関係にあるのか、その他の作業を含めた全体が「スパイラル型」開発作業であるの
ならば、何故その一部に「システムメンテナンス」という業務名が用いられている
のか、「スパイラル型」開発の費用はどのような基準で見積もられ、それがそれぞ
れの見積書、業務委託書等の対価の額にどのように反映されているのかといった具
体的な事情を説明する証拠も全くないのであるから、結局、原告の主張には、客観
的、具体的な根拠が欠けているものといわざるを得ないのである。なお、上記業務
受託書と甲第13号証の1(原告作成の「状況総合表」と題するシステム開発作業
関係の費用明細表)を対比すると、上記業務受託書(伝票番号は、No託J88-
052)に係る業務は、甲第13号証の1上、平成元年9月期のプログラム等準備
金申告対象とされた「基本設計、詳細設計、プログラム作成、テスト、移行、運
用、保守」作業(費用の額は、合計1億1140万円)の一部とされており、本件
において申告の対象とされている作業とは異なるものであることが認められるか
ら、仮に上記業務受託書に係る作業がSI業務に当たると認められるとしても、本
件の結論を左右するに足りるものではないことを付言しておく。)。したがって、
原告の上記主張等をそのまま採用することは困難であり、システム開発終了後の新
規システム開発を、当初の業務と一体とみることはできない。
 また、「委託システムメンテナンス」業務が、実質的にはシステムの新規開発等
のSI業務に当たるという点も、その根拠となる見積書が提出されているのは甲第
13号証の2(平成元年10月から平成2年3月までの委託システムメンテナンス
業務に係る見積書)のみである上に、同号証によれば、その業務内容には、障害対
応やシステム改善等保守業務に当たると評価すべき業務が含まれており、太平洋投
信の担当者も、上記業務はメンテナンス(保守)作業であると説明している(乙1
9の5)など、原告の主張をそのまま採用するのは困難であるといわざるを得ない
のである。
 以上の点を踏まえると、「委託システムメンテナンス」業務は、原告が自ら「メ
ンテナンス業務」としていることからしても、有償保守業務であると評価するほか
はなく(有償保守業務に係る対価の額がプログラム等準備金の積立対象となるもの
ではないことは既に説示したとおりである。また、それ以外に新規システム開発と
評価できるものが存在するとしても、その個々の対価の額が5000万円以上であ
ることを認めるに足りる証拠は存しないのであるから、結局、本件規定の適用要件
を欠くものといわざるを得ない。)、その他の業務は、信託財産管理システム開発
完了後の新規システム開発事業であって、その対価の額はいずれも5000万円未
満であるから対価要件を欠くものというべきである。
 以上によれば、太平洋投信システム関係の業務は、すべて本件規定の適用対象と
なるものではないといわざるを得ない。
4)山一証券システムについて
 証拠(甲17の3-甲17の24(各枝番を含む。)、乙23の4-19)によ
れば、山一証券システム関係の作業内容は別紙「山一証券システム関係明細表」に
記載のとおりであって、大別すれば、①人事情報システム関係作業、②TIS-F
Fシステム関係作業、③グローバルトレーディングシステム関係作業に分けられる
ことが認められる。そして、これらの3システムは、いずれも独立したシステムで
あって、それぞれについて本件規定の適用の有無が検討されるべきものであること
は当事者間に争いがないので(ただし、各システム内では、その作業を全体的に評
価すべきか個別的に評価すべきかについては争いがある。)、以下、上記各システ
ムごとに検討する。
ア)人事情報システムについて
 証拠(甲17の1-4(甲17の2-4については、枝番も含む。以下同
じ。)、甲17の34、甲23、乙23の1)によれば、原告は、昭和60年、山
一コンピュータから、山一証券向けの人事情報システムの開発を受注し、昭和61
年2月までにその開発を完了させたこと、原告は、その後も、「山一証券向け人事
情報システム運用保守支援」(甲17の2、3)、「山一証券向け人事情報システ
ム開発運用保守」(甲17の4)といった名目で、継続的に上記人事情報システム
に関する業務を受注してきており、本件でプログラム等準備金積立ての対象となっ
ているのは、平成元年10月から平成2年3月まで、及び平成2年4月から平成2
年9月までの各業務に関する契約であること、山一コンピュータの担当者は、本訴
提起後、東京国税局の担当官に対し、この契約に係る業務の内容は、「人事情報シ
ステムの運用保守、すなわち、メンテナンス業務を委託したものであって、具体的
には、同システムの運用上の障害への対応、修正、機能の追加等を依頼したもので
ある。」という説明をしており(乙23の1)、原告の担当者であるP1の陳述書
(甲17の34)にも同旨の記載があることが認められる。
 原告は、「『運用保守支援』又は『開発運用保守』という作業名は山一コンピュ
ータ側の都合で付けられたものであって、その実態は、山一証券における人事制度
の変更等に対応した新たなシステムの開発や、既存システムのバージョンアップで
あって保守ではなく、人事情報システムに係るシステムインテグレーションの一環
としてのシステム開発業務に当たるものというべきである。」という趣旨の主張を
し、証人P1の供述中にも同旨の部分がある。
 しかしながら、証人P1の上記供述部分は、その陳述書(甲17の34)の内容
とはニュアンスが異なるものとなっている上に、同証人の供述、陳述書の記載、上
記各業務に係る見積書(甲17の3の3、17の4の3)の内容を検討しても、原
告が、具体的にどのような新規システムの開発を行ったのかは明らかではなく、か
えって、作業名が「運用保守支援」、「運用保守」とされていることは上記のとお
りである上に、その対価の額は、毎月の定額方式で定められ、「新規案件発生等に
より、相当人工に変更が生じる場合は別途御打ち合わせの上、御見積りさせていた
だきます。」と記載されていること(甲17の3の3)などに照らしてみると、原
告が従事した作業は、システムの運用に伴って発生する障害への対応や、開発が完
了した情報処理システムを運用していく中で通常行われる範囲でのシステムの改
善、改良作業等のシステム保守作業の域を出るものではなかった可能性が高いもの
といわざるを得ないのであって、原告や証人P1の上記主張ないし供述をそのまま
採用することは困難である。そして、有償保守作業の対価はプログラム等準備金積
立ての対象とはならないのであるから、これを本件規定の適用対象とすることはで
きないものというべきである。
イ)TIS-FFシステムについて
(ア) 証拠(甲17の6-24(各枝番を含む)、17の34、甲23、乙4の
1、2、乙23の2、23の5-16、証人P1)によれば、TIS-FFシステ
ムは、株式、債券、ワラント、転換社債(CB)などの取引に関する価格の変動状
況、市況等の各種情報を総体的に収集、整理、加工して投資情報を算出し、山一証
券の各営業店に提供するためのシステムであること、原告は、山一証券からTIS
-FFシステムの前身であるBISシステムの開発を受注して以来、山一証券やそ
のシステム子会社である山一コンピュータと取引があり、その縁もあって、山一コ
ンピュータからTIS-FFシステムの開発を受注し、昭和63年9月27日付け
業務受託書(甲17の6の1-3、業務名は「営業店TIS第一次システムⅠの開
発」、金額は9405万円)、平成元年4月3日付け業務受託書(甲17の7の1
-3、業務名は、「営業店TIS第一次システムⅡ」、金額は8285万円)に基
づいてシステム開発に当たり、平成元年11月末日までにシステム開発を一応終了
させたこと(以下、これを「当初システム開発」という。)、原告は、上記システ
ム開発終了後も、山一コンピュータからシステムの運用、保守、追加システムの開
発等を受注しており、本件でプログラム等準備金積立ての対象とした各種業務(そ
の内容は、別紙「山一証券システム関係明細表」中の「TIS-FFシステム関
係」に記載のとおり。)は、これらの保守、運用、追加システム開発等に関連する
ものであることが認められる(なお、甲第17号証の7の1、2によれば、「営業
店TIS第一次システムⅡ」の開発については、平成元年6月末日、9月末日、1
1月末日の3回に分けてプログラムを納付し、納付月の翌々月5日に代金の支払を
受ける旨の定めがされていることが認められるが、他方、甲17号証の5(原告作
成の「状況総合表」と題するプログラム等準備金積立ての対象となる作業の明細
表)によれば、上記「営業店TIS第一次システムⅡ」に係る作業(見積書番号
は、J89-240)は、平成元年9月期の申告対象となる作業に含められてお
り、本件申告の対象とはなっていないことが認められる。)。
(イ) 原告は、「本件でプログラム等準備金積立ての対象としている各業務は、
いずれもTIS-FFシステム開発業務の一環として位置付けられるべきものであ
るから、これらと当初システムの全体が本件規定の適用対象となるものかどうかを
判断すべきである。」という趣旨の主張をするのに対し、被告は、「上記各業務
は、もともとプログラム等準備金積立ての対象とはならない有償保守業務である
か、本体システムの開発が完了した後において個別契約に基づいて行われた追加シ
ステムの開発であって、当初システムと一体として評価することはできないもので
ある。」と主張するので、以下この点について判断する。
 別紙「山一証券システム関係明細表」記載の各業務のうち、「営業店TISメニ
ュー追加」(以下、業務の名称は、いずれも上記明細表の記載による。)は、当初
システム開発が終了する平成元年11月末日以前である同月10日に受注したもの
であって、見積書等(甲17の9の1-3)の記載に照らし、その内容は、TIS
-FFシステムの一部であるメニューシステムの追加開発であると認められるとこ
ろ、この業務は、その内容や発注時期等に照らし、当初システム開発の一部と評価
することができるものというべきである。そして、TIS-FFシステム開発その
ものは、SI要件、対価要件、無償補修特約要件を満たしており(原告と山一証券
間の昭和54年9月1日付け業務受託基本契約書9条に1年間の無償補修特約が記
載されており、これが山一コンピュータとの関係にも引き継がれ、TIS-FFシ
ステムの開発についても適用されるものと解される。以上につき、乙4の1、
2)、更に、契約の相手方は、エンド・ユーザーである山一証券ではなく山一コン
ピュータであるものの、同社は、山一証券のシステム子会社である上、乙第23号
証の2における山一コンピュータ担当者の説明(乙23の2)によれば、山一コン
ピュータがTIS-FFシステムの開発に主体的に従事していた形跡はみられず、
むしろ開発業務を原告に丸投げしていた可能性が高いものと認められることからす
れば、同システムの開発においてシステムインテグレーターとしての役割を果たし
ていたのは原告であったと認められるから、この点も原告がシステムインテグレー
ターとしての機能を果たしたことを否定するに足りる事情ではないものというべき
である。したがって、上記業務(対価の額は2164万円)は、TIS-FFシス
テム開発の一環として本件規定の適用対象になるものというべきである。
 また、営業店TISレベルアップ開発支援も、当初システム開発が完了する前に
発注された業務であるが、業務名が「開発支援」であって、原告が主体的にシステ
ム開発に当たったのかどうかには疑問が残ること、その見積書(甲17の8の3)
によれば、業務内容は、詳細設計作業のみであって、原告がその余の業務にも従事
したかどうかは証拠上明らかではないことなどからすれば、これについて原告がシ
ステムインテグレーターとしての役割を担ったのかどうかは不明であるというほか
なく、本件規定の適用対象とすることはできない。
 その余の業務についてみると、営業店TIS-1運用保守支援及びTIS-FF
運用保守支援は、いずれも有償保守に係る業務である疑いが高く(その内容を具体
的に明らかにするだけの証拠はない。)、この点においてプログラム等準備金積立
ての対象とすることはできないものであるし、その余の業務は、その発注時期等に
照らし、システム開発完了後の個別契約に基づく追加開発業務というべきものであ
って、これを当初システムと一体のものとみるのは疑問であるといわざるを得な
い。証人P1は、「TIS-FFシステムについては、システム開発の完了時期は
定められておらず、システムの追加開発が必要になるごとに、それをもシステムの
一部としていくことが合意されていた。」という趣旨の供述をしているけれども、
これに反する山一コンピュータ担当者の説明(これらは、開発終了後の個別契約に
基づく業務であると説明している。乙23の2)に照らし、そのまま採用すること
はできない。また、特段の事情がないにもかかわらず、基本システム開発終了後
の、個別的な改善、改良、追加システム開発を基本システムと一体のものとして本
件規定の適用対象とすることには問題があることは、既に2)、イ)において説示
したとおりなのであって、この点からしても、原告の主張を採用することはできな
いのである。
 以上によれば、TIS-FFシステム関係業務のうち、本件規定の適用対象にな
るのは、営業店TISメニュー追加1開発の2164万円に限られることになる。
ウ)グローバルトレーディングシステムについて
 原告は、「グローバルトレーディングシステムも、原告が山一コンピュータから
その開発を一括受注したものであって、システムインテグレーターとしての役割を
果たしており、単に設計やプログラム作成の『支援』を行ったものではない。」と
いう趣旨の主張をし、甲17の34、甲23及び証人P1の供述中にも同旨の部分
がある。しかしながら、上記業務に係る業務委託書、業務受託書、見積書(甲17
の28-32、ただし、各枝番を含む。)をみると、その業務名は、「設計支
援」、「プログラム作成支援」とされており(ただし、甲17の32のみは、「設
計及びプログラム作成」となっている。)、原告がSI業務を行ったにもかかわら
ず、あえて「支援」という用語を用いて業務名を表示するのは疑問であるといわざ
るを得ないこと、上記各書面には、「受渡場所」や「受渡条件」に関する記載はな
く、「支払条件」として、毎月一定額の金員の支払を受ける旨の記載がされている
のみであって、原告が明らかにSI業務を行ったと認められる人事情報システム開
発に関する業務受託書(甲17の2の1)には、「受渡場所」として「貴社指定場
所」と、「受渡条件」として「検収渡し」と記載されているのとは違いがあるこ
と、上記各見積書添付の見積明細書(甲17の28の3、17の29の3、17の
30、17の31)を見ても、具体的な業務内容に関する記載は全くなく、担当シ
ステムエンジニアの人数、ランク、単価等についての記載があるのみであることな
どの事情に照らしてみれば、上記各書面上は、原告が、グローバルトレーディング
システムの設計、プログラム作成の支援のために、システムエンジニアを派遣した
ものと解釈するほうが余程合理的なのであって、原告の主張やこれに沿う上記供
述、記載部分は、客観的な証拠の裏付けを欠き、採用することができないものとい
わざるを得ない。なお、甲17の33には、グローバルトレーディングシステム開
発に係る開発作業スケジュールが記載されているが、その記載自体からは、原告
が、どのような立場で作業に関与しているのかは一切明らかではないし、同表の記
載によっても、原告はシステム分析には関与せず、システム設計の途中から参加
し、しかも、ユーザー教育、総合テスト及び保守・メンテナンスにも関与しないと
の記載があることからすると、上記認定判断を左右するものではない。
 そうすると、グローバルトレーディングシステムについては、原告がSI業務を
行ったと認めることはできないのであるから、その余の点について判断するまでも
なく、本件規定の適用対象とはならないものといわざるを得ない。
エ)まとめ
 以上のとおり、山一証券システム関係で、本件規定の適用対象となるのは、TI
S-FFシステム関係業務のうちの、営業店TISメニュー追加1開発の2164
万円のみとなる。その申告対象時期は、平成2年9月期である。
5)群馬銀行システムについて
 証拠(甲14の1-10、甲25、乙9、14の1、2、乙22の1-5、証人
P3)によれば、原告は、IBMの紹介で、群馬銀行の第三次オンラインシステム
のうち情報系システムの開発を受注することとなり、平成2年1月4日付けの基本
契約書(甲14の6、乙9)を作成し、同システムの開発に従事することとなった
こと、その後、同システムの開発の具体的内容については、
①同日付け業務委託に関する覚書(情報系基盤整備第1次開発システム設計)(乙
22の1)において、納期を同年3月末日として、システム設計を1033万60
00円で請け負い、
②同年4月2日付け業務委託に関する覚書(情報系基盤整備第1次開発プログラミ
ング・テスト)(乙22の2)において、納期を同年9月末日として、プログラミ
ング・テストを2900万円で請け負い、
③同年10月1日付け業務委託に関する覚書(情報系基盤整備のシステムメンテナ
ンス及び休日稼働対応)(乙22の3)において、システムメンテナンス及び休日
稼働対応業務を1960万円で請け負い(ただし、契約期間は、同年10月から平
成3年3月まで)、
④平成3年4月1日付け業務委託に関する覚書(情報系基盤整備のシステムメンテ
ナンス)(乙22の4)でシステムメンテナンスを1001万円で請け負ったこと
(ただし、契約期間は同年4月から同年7月まで)、
以上の事実が認められる。
 原告は、上記①ないし④の作業は、一体のシステム開発業務なのであるから、こ
れらが全体として本件規定の適用対象になるかどうかを判断すべきであると主張す
る。しかしながら、原告の主張を前提としたとしても、④の作業は、有償保守作業
と見られるからその対価の額は、プログラム等準備金の積立対象となるものではな
い(「システムメンテナンス」という業務名を用いたのは原告自身であるし、これ
が、いわゆる保守業務とは異なる別個の業務であることについては何ら具体的説明
はない。)。また、③も業務名は「システムメンテナンス及び休日稼働対応」であ
って、やはり、プログラム等準備金の積立対象となるものとはいい難い。すなわ
ち、上記業務は、全体としてシステム開発終了後のシステム改善、改良業務であっ
て保守作業であるとみる余地があり、仮に、このうち休日稼働対応は、保守とは別
個のシステム開発業務であるとしても、それが当初契約の範囲内にあったといえる
かどうかに疑問があり、更に、その対価の額が幾らであるかは明らかではないから
である。なお、④のシステムメンテナンスの対価の額(4か月で約1000万円で
あるから、1か月当たり約250万円)に照らしてみると、システム運用当初にお
けるシステムメンテナンスの対価の額がこれを下回るとは考え難いから、③のシス
テムメンテナンスに係る対価の額は約1500万円程度とみるのが相当であり(1
か月約250万円の6か月分)、それを控除した休日稼働対応業務の対価の額は4
60万円程度を超えるものではなく、①、②及び③の休日稼働対応業務の対価の合
計額も約4500万円程度にすぎないこととなり、仮に①ないし④全体がシステム
インテグレーション業務であると考えたとしても、有償保守作業の対価の額を除い
た対価の額は5000万円には達せず、対価要件を欠くものといわざるを得ない。
 以上によれば、群馬銀行システム関係業務は、いずれにせよ本件規定の適用対象
となるものではないというべきである。
6)東海銀行システムについて
ア)証拠(甲12の1-5、乙5、24の1-30、証人P4)によれば、原告
は、IBMの紹介で、東海銀行の第三次オンラインシステム開発作業に参加するこ
ととなり、昭和61年3月31日付けの業務委託基本契約書(甲12の4、乙5)
において、基本契約を締結したこと、原告が開発に従事することとなったのは、第
三次オンラインシステムのうち、情報系システムと称される部分であって、東海銀
行本店と各営業店との間の情報交換をオンラインで行うシステムであり、その中に
は、データ蓄積システムと営業店情報システムという2つのサブシステムが含まれ
ていたこと、情報系システムは、巨大なものであって、まず、原告において、約1
年間をかけて現状の東海銀行システムの内容を分析した上、新情報系システムの構
成を決定し、その後、データ蓄積システム及び営業店システムの開発を行ってい
き、最終的には、運用の準備や保守にも従事したものであるが、契約当初の段階に
おいては、具体的な作業量や費用等がどのようになるのかについては厳密な見通し
がつかない状態であったため(東海銀行側からは、契約交渉を行っている当時か
ら、開発期間5年、代金20億円程度を予定しているとの話も出ていたが、それは
あくまでも目安にすぎなかった。)、基本契約において、具体的な作業内容や代金
を特定することはされず、基本契約に基づく個別契約において、順次作業内容と代
金を定めていくという手法が採られたものの、原告においても、少なくとも東海銀
行側から示された目安程度の規模にはなるであろうとの認識で取引に臨み、その
後、順次個別契約の締結とそれに基づく作業が行われていったこと、これら個別契
約のうち、本件申告の対象となった個別契約とそれに基づく業務は、別紙「東海銀
行システム関係明細表」に記載のとおりであって、「データ蓄積システム/SE作
業」欄及び「主要取引先及び融資・国際システム」欄記載の各業務がデータ蓄積シ
ステムに関する作業であり、「営業店情報システム/SE作業」欄及び「CCR、
営業店決算報告システム、SIS法人マーケティングシステム」欄に記載の各業務
が営業店情報システムに関する作業であったこと、これら各業務のうち、「SE作
業」と称されているものは、原告が名古屋市所在の東海銀行本店に派遣したシステ
ム設計部隊に係る費用であって、主として基本システム及びそのサブシステムの要
求定義、基本設計等に相当する作業に対応するものであり(その費用は、1か月ご
との定額方式で決定されているが、これは、東海銀行本店に常駐する設計部隊に係
る費用であって、継続的に発生するものであることや、原告、東海銀行双方の予算
事情等から、そのような定め方がされたものである。)、その余の業務は、設計部
隊によって確定された基本設計等に基づいて行われた、具体的なプログラム作成、
単体テスト等に対応するものであること、以上の作業は、契約当初から想定された
情報系システム開発の範囲内に含まれるものであること、以上の事実が認められ
る。
 以上によれば、東海銀行システム関係業務は、東海銀行第三次オンラインシステ
ム中の情報系システム開発業務として、その全体が本件規定の適用対象になるかど
うかを判断すべきものであるところ、原告は、システム設計から保守に至る各役務
を提供し、その対価の額は、本件で対象になっているものに限っても7億円を超え
ており、かつ、業務委託基本契約書9条において、1年間の無償瑕疵修補義務も負
っているのであるから、本件規定の適用対象になるものというべきである。
イ)被告は、①上記各業務は、当初契約に具体的に記載されていたわけではないの
であるから、一括契約要件を満たしていない、②原告は、単独でシステム開発に当
たったものではなく、東海銀行及びそのシステム子会社である東海バンキングソフ
トウェアと共同して作業を行ったものにすぎず、しかも、その業務の実際は、むし
ろ、東海銀行や東海バンキングソフトウェアに対する支援業務が大部分であるか
ら、SI業務を行ったということはできない、③原告が関与したのは、東海銀行第
三次オンラインシステムのうち、そのサブシステムである情報系システムだけなの
であるから、全体システム要件をも満たしていないなどとして、本件規定の適用は
認められないと主張するが、次に述べるとおり、これらの主張を採用することはで
きない。
 まず、被告の主張する一括契約要件は不要であることは既に説示したとおりであ
る。また、この主張を、「本件で問題となっている各業務が、当初契約の範囲に含
まれているかどうかは不明である。」という趣旨に解するとしても、これらが、原
告が開発することが予定されていた情報系システムの一部であることは明らかであ
って、その具体的内容が確定されていなかったとしても、当初契約の範囲内に含ま
れる業務であったということができるから、いずれにせよ被告の主張は失当である
(付言するに、原告はもとより、東海銀行の担当者の東京国税局担当官に対する説
明(乙24の30)によれば、東海銀行側も、これらの業務が当初契約の範囲に含
まれていたことは認めているものと考えられるところである。)。
 また、乙第24号証の30(東海銀行担当者の説明)によれば、情報系システム
の開発については、東海銀行のシステム開発部や東海バンキングソフトウェアも関
与していたことが認められるものの、関与の具体的内容は、上記証拠によっても一
切明らかではない上に、甲第12号証の5や証人P4の証言に照らしてみると、東
海銀行システム開発部や東海バンキングソフトウェアに独自でシステム開発をする
能力があったのかどうかは疑問であり、これら両者の関与は、従前のシステムの状
況や問題点を説明し、新システムに対するユーザーとしての希望を述べることや、
将来のシステム運用に備え、あるいは、自らのシステム開発能力を向上させるため
に、システム開発の一部に補助的に従事するなど、システム開発を依頼するユーザ
ーが通常行うものと予想される範囲を超えるものではないと認められるのであっ
て、これらの事情は、原告がシステムインテグレーターとしての役割を担ったこと
を否定するに足りる事情であるということはできない。したがって、この点に関す
る被告の主張も失当というべきである。
 更に、原告が開発に従事したのは、東海銀行第三次オンラインシステムの一部
(サブシステム)のみであることは上記のとおりであるが、被告のいう全体システ
ム要件は不要であることは既に説示したとおりである上に、上記のとおり、情報系
システムは、それ自体、独立した巨大な情報処理システムであって、システムイン
テグレーションの対象になり得るものであると考えられる上に、例えば、他のサブ
システムとの接合や調整といった作業が大幅にユーザーである東海銀行側に委ねら
れているなど、原告が、全体として、システムインテグレーターとしての役割を十
全に果たしていたとはいえないと認めるべき事情を見出すこともできないことから
すれば、原告の開発したシステムがサブシステムであるとの理由で、SI要件の充
足性が否定されるものではないというべきである。
 以上のとおり、被告の主張はいずれも失当であって、他に上記認定判断を左右す
るに足りる証拠は存しない。
ウ)以上によれば、東海銀行システムに係る業務は、すべて本件規定の適用対象に
なるものというべきである。
7)リクルートコンピュータプリントシステムについて
 証拠(甲11の1-5、甲23、乙12、20の1-4、証人P1)によれば、
リクルートコンピュータプリントは、リクルートから、同社が刊行している雑誌
「週間住宅情報」に記載される物件のデータベースを再構築する作業(その対価の
総額は約6億円)を受注していたところ、原告にその一部を外注することとし、平
成2年2月15日、原告との間でシステム開発委託基本契約書(乙12)を作成し
たこと、その後、原告は、リクルートコンピュータプリントとの間で、従事すべき
業務に関する個別契約として、
①平成2年10月1日付けの業務受託書(物件データベース再構築に関連するシス
テム開発)(乙20の1)において、売買系システム関係の基本設計を1050万
円で請け負い(見積書は甲11の1)、
②平成3年1月7日付けの業務受託書(物件データベース再構築に伴うシステム開
発)(乙20の2)において、売買系システムのオンライン系処理及びバッチ系更
新処理を主としたシステム分析、システム詳細設計、プログラム製造及び単体テス
トを1億5000万円で請け負い(見積書は甲11の2)、
③平成3年8月30日付けの業務受託書(物件データベース再構築に伴うシステム
/賃貸系の開発及びシステムメンテナンス作業)(甲11の3)において、賃貸系
システムの開発とシステムメンテナンスを実績精算分を除き2600万円で請け負
ったこと(なお、実績精算分とは、見積書(甲11の3)の記載からすると、メン
テナンスの対価を1人月85万円の割合で実績精算することであって、明示された
代金2600万円は賃貸系システム開発のみの代金であると認められる。)、
以上の事実が認められるところ、次に述べるとおり、この業務については、本件規
定の適用を認めることはできないものといわざるを得ない。
 まず、リクルートコンピュータプリント担当者の説明によれば、当初開発が予定
されていた売買系システムについて、契約を①、②の2段階に分けたのは、原告の
能力、技術力が不明であったところから、原告にシステムエンジニアを派遣させ、
システム分析に従事させてその結果をみるところにあったというのであるから(乙
20の4)、当初契約の段階において、原告がSI業務に係るすべての役務を提供
する旨の合意が存在したといえるかどうかは疑問であるといわざるを得ない。この
点につき、証人P1の供述及び同人の陳述書(甲23)中には、「当初から、原告
がSI業務を行うことの合意が存在していたが、契約当時の技術水準では、雑誌の
版下に使えるだけの精巧な図面等をプリントアウトできるかどうかが疑問であった
ため、それが難しい場合には、システム開発を最初からやりなおす趣旨で契約を2
段階に分けた。」という趣旨の部分があるが、それ以前に作成された原告の管理部
長P5の報告書(甲11の5)には、むしろ、リクルートコンピュータプリント担
当者の説明に沿うかのような記載部分があることからすると、上記証拠をそのまま
採用することはできないものといわざるを得ない。
 また、当初開発が予定されていた売買系システムに関する①、②の業務受託書、
見積書に記載された業務内容は、プログラムの単体テストまでであって、保守につ
いては、業務内容に掲げられていないことはもちろん、原告がこれを担当すること
をうかがわせるような記載も全くなく、かえって、リクルートコンピュータプリン
ト担当者は、本件訴訟提起後、東京国税局の担当官に対し、保守は同社において担
当したという趣旨の説明をしていること(乙20の4)からすれば、当初契約にお
いて、原告が保守作業を担当することが予定されていたのかどうかの点にも疑問が
あるものといわざるを得ない(なお、原告は、無償修補特約を締結しているから保
守も担当していたという趣旨の主張をしているが、この主張は、瑕疵修補と保守と
を混同した主張であって、採用することはできない。)。
 また、原告は、エンド・ユーザーであるリクルートではなく、リクルートコンピ
ュータプリントとの間で契約を締結しているところ、リクルートコンピュータプリ
ントは、リクルートのシステム子会社であるとはいえ、同社から総額約6億円のシ
ステム開発業務を請け負い、その一部のみを原告に外注し、他の部分については、
他のシステム業者等を用いて開発に当たっていたものであること(乙20の4)を
考慮すると、リクルートコンピュータプリントが、実際にはシステムインテグレー
ターとしての機能を担っていない単なる補助者にすぎないと断定することは困難で
あるといわざるを得ない。他方、原告は、物件データベース作業再構築作業の一部
である売買系システム開発業務の更に一部であるオンライン系処理及びバッチ系更
新処理等に関するシステム開発業務に従事していたにすぎないことからすると(な
お、これらのオンライン系処理やバッチ系更新処理が、システム全体の中でどのよ
うな位置を占めていたのか、それがどのような内容を持つものであって、独立した
サブシステムとの評価に値するものであるのかどうかなどといった点については、
何ら具体的な説明がされていない。)、同システム開発において原告が占める地位
は、補助的、従属的地位にすぎなかった疑いが高いのであって、リクルートコンピ
ュータプリントではなく、原告こそがシステムインテグレーターとしての機能を担
っていたといえるかどうかも疑問である。
 以上によると、リクルートコンピュータプリントシステムに係る業務は、SI要
件を欠き、本件規定の適用対象とはならないものというべきである。
8)日本電気経営情報システムについて
 証拠(乙25の1ないし63)によれば、日本電気経営情報は、日本電気株式会
社(以下「日本電気」という。)のシステム子会社であるが、独立して情報処理シ
ステムを開発する能力を有しており、親会社である日本電気のほか、他の会社から
も情報処理システムの開発を受注していること、本件で問題になっている日本電気
経営情報システムは、日本電気経営情報が、日本電気から受注した11種類のシス
テム開発に係るものであって、原告との間では、合計62の個別契約(乙25の1
ないし62)が締結されていること、これらのシステム開発については、日本電気
経営情報が、システム設計から保守に至るSI業務を行ったものであって、原告
は、日本電気経営情報から、上記各個別契約に基づいて、SI業務の一部であるプ
ログラム作成や、プログラムのテスト、運用(システムが正常に稼働しているかど
うかの監視業務)等を請け負ったのにすぎず、その内容もシステムによって異なっ
ていることが認められ、この認定に反する証拠はない。
 以上によれば、上記システムに係る業務は、SI要件を欠くことが明らかであっ
て、本件規定の適用対象になるものではないというべきである。
9)NTTデータ通信システムについて
 証拠(甲15の1-12(枝番を含む。)、甲18、19の各1-3、甲24、
乙18の1-9、)によれば、NTTデータ通信システム関係の業務は、大別する
と、①海外有価証券情報提供システム関連業務、②博報堂新情報システム関連業
務、③NTT中央移動通信(新)システム関連業務に分けられることが認められ
る。
 このうち、②、③は、NTTデータ通信が、博報堂(②システム)、NTT中央
移動通信(③システム)から、システムの開発を受注し、多数の外注業者を利用し
てシステム開発に当たったものであって、原告は、外注先の1つとして、システム
の一部の開発に当たったのにすぎないことが認められる(乙18の8、9)。そう
すると、これらのシステム開発については、NTTデータ通信が、システムインテ
グレーターとしての役割を担ったものであって、原告は、システムインテグレータ
ーであるNTTデータ通信から、システム開発の一部を請け負ったにすぎないもの
というべきであるから、これらの業務については、SI要件を欠き、本件規定の適
用対象にはならないものといわざるを得ない。なお、②及び③のシステムは、全体
としては数個のサブシステムからなるもので、原告はそのうちの一部のサブシステ
ムについて、サブシステム開発全体を受注したことが認められるが(甲15の3、
4、12、甲19の1ないし3、証人P2)、サブシステム全部を統合してシステ
ム全体の使用を決定するなどの業務を原告が行ったとは認められず、そのような業
務はシステム全体を受注したNTTデータ通信が行ったものと認められるから、全
体のシステムが同時期にまとめて発注されたものである以上、直接契約要件及び全
体システム要件を不要と考えるとしても、原告についてはSI要件を満たさないこ
ととなる。
 次に、①は、NTTデータ通信が自ら利用する海外有価証券情報提供システムの
開発であるが、これについても、ユーザーであるNTTデータ通信自身が主導的に
システム開発を行い、その中で数社の外注先にシステムエンジニアの派遣やプログ
ラムの製造を依頼したものであって、原告も外注先の1つにすぎないことが認めら
れる(乙18の7)。原告は、その担当部分に関しては、システム設計から保守に
至る一連のSI業務を行ったものであるという趣旨の主張をし、原告の担当者の陳
述書(甲18の3)中には、これに沿う部分もあるほか、原告とNTTデータ通信
との打合せ議事録(甲18の2)中にも、同社も原告が一括請負をしていることを
認めている記載もあるが、両者間の契約内容を示すシステムエンジニアリング・サ
ービス注文書(乙18の1)とプログラム製造請負注文書(乙18の2)及び変更
注文請書(甲18の1)から、契約の対象であるシステムエンジニアリング・サー
ビスの対象が何であったのか明らかではなく、SI業務全体が契約の対象となって
いたか否かは必ずしも明確ではない。また、仮に原告の主張がそのまま認められる
としても、原告は、全体システムの一部の開発を担当したのにすぎず、しかも、そ
の一部が全体システムの中でどのような位置を占めるものであったのかといった具
体的事情も明らかではないのであるから、原告が、システムインテグレーターとし
て、ユーザーに代わってシステム開発に関する統合機能を果たしたものということ
はできないのであり、結局、上記業務についても、SI要件を欠くものといわざる
を得ない。
 したがって、NTTデータ通信システムに係る業務は、本件規定の適用対象とは
ならないものというべきである。
10)日本移動通信システムについて
 証拠(甲16の1-27、甲23、乙21の1-26、証人P1)によれば、日
本移動通信は、自社の業務用情報処理システム、すなわち、IDO電話の顧客の登
録から料金回収までの業務を司る情報処理システムのバージョンアップを計画し、
注文、料金及び課金の3システムからなる上記システムのうち、料金システム及び
課金システムのバージョンアップシステムの開発を原告に依頼し、平成3年3月2
9日付け業務受託書(乙21の1)において、上記システム開発に関する契約を締
結したこと、上記業務受託書及び原告が提出した見積書(甲16の1)によれば、
原告が行うべき業務は、現行の料金システム(料金請求・回収)の機能追加、改善
であって、具体的には、上記機能追加、改善システムに係る基本設計、詳細設計、
プログラム作成、総合テストを行うものとされ、納期は同年9月末日、代金は45
00万円とされていること、原告は、上記業務を終了した後の同年12月から平成
4年9月までの間に、別紙「日本移動通信システム関係明細表」中の「平成4年9
月期申告分欄」記載のとおり、合計24件のシステム追加開発、改善等の注文を受
け、これらの注文に係る業務を行ったことが認められる。
 原告は、当初契約に基づく業務とその後の追加契約に基づく業務を一体のものと
して本件規定適用の可否を判断すべきであると主張し、証人P1も、その陳述書
(甲16の27、甲23)及び証人尋問において、「日本移動通信システムは、取
り敢えず、その根幹部分のシステムを完成させ、その後、必要に応じて機能の追
加、改善等を行っていくことが予定されていたものであって、太平洋通信システム
と同様の『スパイラル型』開発が予定されていたものであるところ、上記システム
追加開発業務等は、すべて当初予定されていた機能の追加、改善業務の範囲内に含
まれるものである。」として、同旨の記載ないし供述をしている。
 しかしながら、日本移動通信システムの開発が、同証人のいう「スパイラル型」
で行われたという点は、当初契約に係る業務受託書及び見積書(乙21の1、甲1
6の1)上は、何らうかがわれない上、そのほかにも客観的な資料は全くなく(P
1証人は、「その趣旨を記載した現場の開発メモが存在した。」という趣旨の供述
をしているけれども、既にそれはなくなってしまったというのであるから、上記供
述をそのまま採用することは困難である。)、かえって、日本移動通信の担当者
は、東京国税局の担当官に対し、追加契約に係る業務は、システム開発完成後の実
際に運用して認められたシステム機能の不足や不都合な点を、その都度個別契約に
基づいて追加開発若しくは変更、修正してもらったという趣旨の説明をしているの
であって(乙21の26)、別紙「日本移動通信システム関係明細表」に記載の作
業名や、金額に照らすと、追加契約に係る業務の中には、システムの軽微な改善、
改良であって、本来保守業務に含められるべきものが少なくないと認められ、この
ことは、上記日本移動通信の担当者の説明とよく合致するところであって、その説
明は信用することができ、これに反するP1証人の陳述書及び供述は採用できな
い。その上、各追加契約の内容となっているような雑多な業務が、すべて「当初契
約の一環としてのシステム開発である。」としてプログラム等準備金積立ての対象
になるのであれば、あるシステム開発を受注した後、ユーザーの依頼に応じて何ら
かの改善、改良作業を行っていれば際限なくプログラム等準備金の積立てが認めら
れなければならないことにもなりかねず、このような事態は、本件規定が想定して
いるものであるとは到底いい難い(この点は、既に2)、イ)において指摘したと
ころでもある。)。したがって、当初契約において、追加開発業務を行うべき期間
が定められていたり、その対象となる業務の範囲がある程度具体的に定められてい
るとか、当初契約に基づくシステム開発の過程で、追加開発業務の必要性が確認さ
れているなどの事情があるのであればともかく、そのような事情も認められない本
件においては、原告の主張を採用することはできないものといわざるを得ない。
 そうすると、日本移動通信システムについては、当初契約の内容に基づいて本件
規定適用の可否を判断するほかはないところ、その対価の額は4500万円にすぎ
ないのであるから、その余の点について判断するまでもなく、本件規定を適用する
ことができないことは明らかである。
3 課税標準及び税額の計算
 以上の検討結果によれば、被告がプログラム等準備金積立ての損金算入を否認し
たもののうち、第一証券システム関係の5350万円、山九システム関係の315
0万円、山一証券システム関係の2164万円及び東海銀行システム関係の全金額
については、損金算入の対象に含められるべきものであったことになる。
 そして、第一証券、山九、山一証券各システムに係る契約金額は、すべて平成2
年9月期の申告に関するものであり、東海銀行システムに係る契約金額は、別紙
「申告対象契約一覧表」に記載のとおり、平成2年9月期ないし平成4年9月期の
申告に配分されるべきものである(なお、別紙「東海銀行システム関係明細表」に
記載された契約金額の合計は、7億3323万6600円であるのに対し、別紙
「申告対象契約一覧表」に記載の東海銀行システム関係の契約合計は7億3068
万6600円であって、255万円少ない。以下においては、原告の申告に従い、
別紙「申告対象契約一覧表」記載の金額に基づいて計算をすることとする。)。ま
た、乙第14号証の1ないし3によれば、これらの契約金額については、他の業者
への業務委託に係る契約金額の控除をする必要はないことが認められる。そうする
と、各申告期において、プログラム等準備金積立ての対象となるべき契約金額は、
別紙「認容積立対象契約金額一覧表」に記載のとおり、
平成2年9月期が3億0826万3600円
平成3年9月期が4億0216万3000円
平成4年9月期が1億2690万円
となり、その10パーセント相当額(ただし、原告の申告に倣い、百万円未満は切
り捨てた額とする。)、すなわち、
平成2年9月期が3000万円
平成3年9月期が4000万円
平成4年9月期が1200万円
のプログラム等準備金積立てについては損金算入が認められるべきであったことに
なるから、被告がした損金算入の否認は、被告による否認額から上記各金額を控除
した残額(具体的な金額は、別紙「認容積立対象契約金額一覧表」の「認められる
べき損金算入否認額」欄に記載のとおりである。)の限度では適法であるが、これ
を超える部分は違法というべきこととなる。そして、あるべき損金算入の否認額を
前提として、原告が納付すべき税額を計算し直した結果は、別紙「税額計算一覧
表」に記載のとおりとなるから、本件各処分のうち、同表記載の「法人税額」又は
「税額」欄及び「過少申告加算税額」欄記載の各金額を超える部分は、違法として
取り消されるべきものである。
第5 結論
 以上の次第で、原告の本訴請求は、主文第1項記載の限度で理由があるからこれ
を認容し、その余は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件
訴訟法7条、民事訴訟法61条、64条を適用して、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第3部
裁判長裁判官 藤山雅行
裁判官 鶴岡稔彦
裁判官 加藤晴子

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