弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人山田盛の上告理由第一点一(本点には一の項目が四つあるが、最初の
一を一とし次の一は二、以下三、四と表示する)について。
 原判決が、本件a番の土地に対しては、耕地整理登記後の本件b番の土地の一部
に相当する約九四坪の部分が仮換地に指定されていたところ、被控訴人(被上告人)
はその土地を耕地整理完了後に換地として交付を受ける目的を以つて、右a番の田
を訴外Dより買受けたものであること、然るところ、当該耕地整理組合は耕地整理
完了後昭和一八年四月前記a番の田の換地として耕地整理後の新地番c番の田五畝
二九歩を交付する旨換地処分をなし、同月一四日付で神奈川県知事がこれを認可の
上同月二〇日告示し、昭和一九年一〇月四日従前の土地につきそのように耕地整理
登記がなされたこと、一方耕地整理後の地番b番の畑一反五畝一二歩は別に被控訴
人所有にかかる字別所耕地d番田二畝一一歩外畦畔四歩、同e番田四畝二九歩外畦
畔四歩、同f番田七畝一三歩外畦畔一八歩の三筆の土地に対する換地として交付さ
れたものであること、従つて以上のような換地処分の形式からすれば、従前の土地
a番の田が本件係争のc番の土地とb番の土地の一部約九四坪とに重複して換地さ
れたものでないことは多く言うを俟ない旨各認定判示したことは原判決並びにこれ
に引用する一審判決挙示の証拠関係、事実関係からこれを肯認し得るところであり、
原判決が更に右換地処分に示すとおり被控訴人は本件c番の土地をa番の田の換地
として取得した旨判示したことも後記のとおり原審並びにこれに引用する一審判決
挙示の証拠関係、事実関係からこれを正当として肯認し得るところである。原判決
に所論の違法は存せず、所論はひつきよう、原審の認定にそわない事実を前提とし
て、原審の適法にした証拠の取捨判断、事実の認定を非難するかまたは独自の見解
に立つて原判決を非難するに帰するものであつて、採るを得ない。
 同点二について。
 所論は、原判決並びにこれに引用する一審判決が、「公共組合たる耕地整理組合
のなす換地処分は性質上一の行政処分であつて、行政処分については民法心裡留保
に関する規定は適用し得ず、外部に表示された行為が仮令行為者の内心的意思と異
る場合においても、これがため処分の内容自体に違法を来すのでない以上、行政処
分は内心的意思に拘りなく、外部に表示されたところに従つて効力を生ずるものと
解すべきであるから、前記換地処分の示すとおり被控訴人は本件c番の土地を本件
a番の田の換地として取得したものというべきである」旨判示したことを非難する
ものであるけれども、本件係争のc番の土地が所論の如くいわゆる組合地ではなく
組合予定地にすぎなかつたこと、従つて右土地が換地処分として被控訴人に与えら
れて了つた以上控訴人は右土地につき所有権を取得するに由ないこと並びに右に関
連してなした原判決並びにこれに引用する一審判決の認定判示は、その挙示する証
拠関係、事実関係からこれを肯認し得ないことはない。従つて所論の如く右換地処
分はその処分の内容自体に違法を来すものではなく、この点の論旨は原審の認定に
そわない事実を前提として、原審の適法にした事実の認定及びこれに基づく正当な
判断を非難するに帰するものである。そして原判決並びにこれに引用する一審判決
が行政行為たる右換地処分につき表示主義を採用したことにつき、民法九三条の心
裡留保の規定を適用すべきである旨の主張については、右心裡留保による行為も原
則として有効であり、ただ「相手方カ表意者ノ真意ヲ知リ又ハ之ヲ知ルコトヲ得へ
カリシトキハ其意思表示ハ無効」とされるにすぎないところ原審においてかかる事
情について、その主張のなされた何等の形跡の認められない本件にあつては、この
点の論旨は何等判決に影響を及ぼすべき事項の主張とは認められない。論旨はすべ
て理由がなく、採るを得ない。
 同点三、四、第三点について。
 原判決並びにこれに引用する一審判決の所論各判示は、その挙示する証拠関係、
事実関係からこれを肯認し得るところである。また論旨は、原判決が「組合は単に
その土地に対する使用収益の権利を有するに過ぎない筋合であるから、前記耕地整
理組合が工事の施行の途上において組合地を処分する場合でも云々」と判示したこ
とは、組合が処分権を有するのは組合地が組合の所有に帰したからこそであつて、
原判決の判示は前後矛盾を来していると主張するけれども、原判決の右処分とは組
合地の所有権の即時且無条件の譲渡を判示しているものでないことは原判文上明ら
かであるから、原判決に所論の如き理由齟齬等の違法は存しない。所論はひつきよ
う、原審の認定にそわない事実を前提として、原審の適法にした証拠の取捨判断、
事実の認定並びにこれに基づく正当な判断を非難するに帰し、採るを得ない。
 同第二点について。
 原判決並びにこれに引用する一審判決が本件土地は単に組合予定地であつたに過
ぎないものであつて、耕地整理工事の完了に伴う換地処分の結果、組合に帰属する
残余地として確定することなく、被上告人に対し換地として交付されてしまつたの
であるから、訴外Eは売買によりこれが所有権を取得するに由ない旨判示したこと
が肯認し得るものであることは前述のとおりである。所論は、右判示と異る事実を
前提として、違憲をいうものであつて、その前提を欠き、採るを得ない。
 同第四点について。
 当事者の申出た証拠方法については、それが唯一の証拠方法である場合を除き、
審理の経過から見て必要がないと認めるときは、その取調を要しないものと解すべ
きところ(最高裁判所昭和二四年(オ)第九三号、同二七年一二月二五日第一小法
廷判決民集六巻一二号一二四〇頁参照)、本件記録によれば、所論事実については
既に原審において同一立証事項について証拠調が実施され、所論証人F、同Gの尋
問申請は、この点について、唯一の証拠方法ではないことが明らかであるから、原
審が右両名の証拠調をしなかつたとしても、原審の措置に何らの違法も存しない。
原判決に所論の違法は存せず、論旨は、ひつきよう、独自の見解に立つて原判決を
非難するに帰し、採るを得ない。
 上告代理人尾崎陞の上告理由第一、第二、第四、第五点について。
 原判決並びにこれに引用する一審判決の所論各判示認定は、その挙示する証拠関
係、事実関係からこれを肯認し得るところである。原判決に所論の違法は存せず、
所論は原審の認定と異る事実または原審の認定にそわない事実を前提として、原審
の適法にした証拠の取捨判断、事実の認定並びにこれに基づく正当な判断を非難す
るか、原審において主張せざる新な主張をなして原判決を非難するに帰し、採るを
得ない。
 同第三点について。
 原判決は前記耕地整理組合は耕地整理完了後昭和一八年四月前記a番の田の換地
として耕地整理後の新地番c番の田五畝二九歩を交付する旨換地処分をなし、同月
一四日付で神奈川県知事がこれを認可の上同月二〇日告示し、昭和一九年一〇月四
日従前の土地につきそのように耕地整理登記がなされたこと、耕地整理組合の当局
者は、組合地として予定されていた本件c番の土地に相当する部分を、組合地の買
主の名義に移す手段として、便宜a番の土地の登記用紙を借りて耕地整理登記をし
たに過ぎず、真実a番の土地に対する換地として本件土地を交付する意思なくして
右換地処分をしたものと認められるけれども、公共組合たる耕地整理組合のなす換
地処分は性質上一の行政処分であつて、行政処分については民法心裡留保に関する
規定は適用し得ず、外部に表示された行為が仮令行為者の内心的意思と異る場合に
おいても、これがため処分の内容自体に違法を来すのでない以上、行政処分は内心
的意思に拘りなく、外部に表示されたところに従つて効力を生ずるものと解すべき
であるから、前記換地処分の示すとおり被控訴人は本件c番の土地をa番の田の換
地として取得したものというべきである旨判示しているのであつて、所論は、原判
決を正解しないかまたは判決に影響を及ぼすべき事項の主張とは認められないもの
であること前記上告代理人山田盛の上告理由第一点二において述べたとおりである。
原判決に所論の違法は存せず、論旨は採るを得ない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    五 鬼 上   堅   磐
            裁判官    石   坂   修   一
            裁判官    横   田   正   俊

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