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裁判例


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○ 主文
一 平成七年四月九日施行の静岡県議会議員一般選挙における被告の当選は、これ
を無効とする。
二 被告は、この判決確定の日から五年間三島市選挙区において行われる静岡県議
会議員選挙において、その候補者となり、又はその候補者であることができない。
三 訴訟費用は被告の負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求める裁判
一 原告
主文同旨
二 被告
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 原告の主張(請求原因)
1 被告は、平成七年四月九日施行の静岡県議会議員一般選挙(以下「本件選挙」
という。)において、三島市選挙区から立候補して当選し、同県議会議員として在
職している。
2 被告は、平成五年八月に行われた静岡県議会議員補欠選挙に立候補して無投票
で当選し、それ以来、その任期満了に伴う本件選挙に立候補することを決意してい
た。
3 訴外Aは、遅くとも平成六年一月頃から、被告に秘書として使用され、被告の
政治活動を補佐していたものである。すなわち、
(一) Aは、平成六年一月、被告が理事長をしている社会福祉法人慧光会(以下
「慧光会」という。)に雇用され、月一一万円余の給与を受けて慧光会が経営する
保育園の用務員として働くようになったが、その頃から被告の指示により、三島市
長Bの私設秘書Cから秘書の仕事を教わるとともに、被告が静岡県議会議員として
各種会合に出席する際には運転手となるなどして被告を補佐し、右給与とは別に、
秘書の仕事の報酬として月二〇万円の支給を受けていた。
(二) Aは、平成五年一二月ころから平成七年三月ころまでの間に、D後援会
(以下「後援会」という。)の経費で被告の議員秘書である旨を表示した自己の名
刺合計三二〇〇枚を作成し、これを第三者に交付するなどして秘書の肩書きを使用
してきた。
(三) Aは、平成六年二月ころから平成七年二月ころまでの間、数回にわたり被
告の指示又は了解のもとに、後援会の会合等を設定した。また、被告は、これら会
合にAを伴って出席し、後援会関係者らに対し、Aを自己の秘書であるとして紹介
した。
(四) Aは、平成六年一一月ころから平成七年三月ころにかけて、自己の手帳
に、被告の各種行事等の予定や後援会関係者らの冠婚葬祭の日程等を記入して、被
告の名義で祝電や弔電を打つなどする一方、三島市主催の公式行事にも被告の代理
として出席し、あいさつするなどした。
4 Aは、本件選挙に当たり、平成六年一一月頃までの間に被告と意思を通じ、そ
れ以降被告のための選挙運動に従事した。すなわち、
(一) Aは、被告の指示を受けて、平成六年一一月二五日に開催された選挙運動
の母体となる後援会幹部役員会の案内状を、被告の秘書の肩書きで作成して発送し
た。また、Aは、後援会活動に仮託した選挙対策の組織作り、例えば後援会の地区
割り、後援会幹部の人選及び就任要請、組織結成の下準備としての各種委員会の設
定、各種会合の予約やその代金の支払等を行った。
(二) Aは、本件選挙の告示(平成七年三月三一日)の前後にわたり、被告やそ
の妻を各種会合に出席させるために日程の調整を行ったり、被告の個人演説会を設
定するなどした。
(三) Aは、外一名と共に、被告の本件選挙の立候補届出の手続をした。
(四) Aは、告示の前後にわたり、被告の指示ないし了解のもとに、被告の選挙
運動者らに、投票並びに投票の取りまとめ等を依頼した。
5 Aは、本件選挙で被告に当選を得させる目的で、平成七年二月六日ころ公職選
挙法二二一条一項一号の罪を犯したとして、起訴され、平成七年八月一八日静岡地
方裁判所沼津支部において禁固以上の刑である懲役二年(執行猶予付き)に処せら
れ、右刑は同年九月二日確定した。
6 よって、原告は、公職選挙法二五一条の二第一項に基づき、被告の当選無効と
五年間の立候補禁止の判決を求める。
二 被告の主張
1 請求原因の1、2、5項並びに3項中、慧光会が原告主張の日にAを用務員と
して雇用したこと及びAが被告の秘書である旨を記載した名刺を使用したことは認
め、3項のその余の部分及び4項は否認する。
2 Aは、公職選挙法二五一条の二第一項五号の秘書に該当しない。同号の秘書
は、候補者等の政治活動を補佐するものをいうとされているところ、補佐すると
は、単なる事務上の手足として助力するだけでは足りず、一定程度の裁量をもって
事務を遂行し、又はスタッフ的な助言をすることをいうものと解すべきである。し
かるに、Aの仕事はこれに該当しない。すなわち、
(一) 確かに、Aは、被告の秘書の肩書のある名刺を印刷使用していた。しか
し、もともと同人は慧光会の経営する保育園の用務員として雇用されたのである
が、用務員の肩書の名刺では体裁が悪いという被告の見栄もあって、秘書の肩書の
ある名刺の使用を許していたもので、これがAの仕事の実体を示していないこと
は、次に述べるところからも明らかである。
(二) Aの本務は、保育園の用務員として同園の雑務や車の運転をすることであ
り、被告の政治活動を手伝うことがあったとしても、それは、被告の指示を受けて
車の運転ないし単純な事務的な仕事をしたにすぎない。例えばこれを後援会関係に
ついていえば、被告が、その意思であるいは後援会長と相談の上で、後援会の組織
作りを行い、地区割、幹部の人選、各委員会の設置などを決めていたのであり、A
は、被告の命により人集めをしたり、被告が決めた会場の予約をするといった単純
な、機械的、事務的な仕事に従事したにすぎないのである。
(三) Aは、被告の後援会の会合で被告のメッセージを代読することがあった
が、これも全て被告が作成した文章を単に代読するにすぎないもので、Aが被告に
代わって文案を作成することはなかった。また、被告の会合や行事出席の予定につ
いても、日程の決定やその調整は被告自身が行い、Aは被告の指示でそれをメモし
たにすぎず、全く機械的な作業にすぎない。
3 Aは、原告と意思を通じて選挙運動に従事したものではない。すなわち、
(一) 原告は、Aが被告の後援会活動に関与したことをもって、選挙運動をした
旨主張するが、後援会活動は選挙運動ではない。後援会は、主務大臣に政治団体設
立届を提出した政治団体であり、Aが人集めや連絡等後援会の手伝いをしたとされ
る時期は、被告が本件選挙で無投票当選することが確実視されていた時期であるか
ら、この時期に被告に当選を得させるための選挙運動など考えられないところであ
り、強いていえば、Aの行為は被告の地盤培養行為の手伝いにすぎない。
(二) Aが唯一選挙運動をしたのは、刑罰に処せられた買収行為であるが、これ
が被告と意思を通じてされたものでないことはいうまでもない。
第三 証拠関係(省略)
○ 理由
一 原告の主張1項(被告が本件選挙で当選し、静岡県議会議員として在職中であ
ること)、2項(被告が平成五年八月には本件選挙に立候補する決意を固めていた
こと)及び5項(Aが本件選挙で被告に当選を得させる目的で平成七年二月六日こ
ろ公職選挙法二二一条一項一号の罪を犯したとして起訴され、禁固以上の刑に処す
る旨の判決が確定したこと)は、いずれも当事者間に争いがない。
二 慧光会が遅くとも平成六年一月以降Aを雇用していたこと及びAが被告の秘書
である旨の名刺を使用することを被告が許容していたことは、当事者間に争いがな
く、証拠(甲西ないし七、一〇ないし一六、二〇、二四、二五、二七、二八、乙一
の一及び二、二の一ないし四)によると、次の事実が認められる。
1 被告は、昭和五〇年代の初めころから中郷地区の選挙区から選出されて三島市
議会議員を四期務めていたものであるが、平成五年八月に当時三島市選挙区から静
岡県議会議員に選出されていたBが三島市長選挙に立候補することになり、その補
充のために県議会議員三島市選挙区の補欠選挙が行われ、被告はこれにBの後継者
として立候補し、無投票で当選した。
2 被告は、そのころから、引き続き県議会議員となるべく、来るべき本件選挙に
も三島市選挙区から立候補する決意をしていたが、そのためには従来の中郷地区の
みの後援会活動では足りず、選挙区となる三島市全域に後援会組織を浸透させる必
要があると考えていた。
3 被告の常設の後援会事務所は、被告が主宰する慧光会の経営にかかる中郷南保
育園(その園長は被告である。)内の一室が当てられており、被告がAを使用する
に至ったのは、保育園の用務員としての側面も存するものの、被告の議員秘書とし
ての側面もあり、そのため被告は雇用した当初からAに対して、慧光会の用務員と
しての給与一〇万円余のほかに、議員秘書としての給与二〇万円を支払い、かつ、
Aに被告の議員秘書である旨を記載した名刺を使用させていた。
4 Aは、平成五年八月の補欠選挙の際、被告の選挙事務所を手伝ったことはある
ものの、議員秘書の経験はなかった。そこで、被告は、Cに対して「Aを頼む。」
として、暗に秘書としての仕事を教え、協力してくれるよう要請した。
5 Aは、平成七年一月以降、Cに秘書としての仕事のやりかたを教わりながら、
被告のため、被告の行動予定を管理し、住民の慶弔を把握してこれを被告に伝え、
必要の都度慶弔電報を打ち、可能な限り車を運転して被告と行動を共にし、被告の
後援会等会合の開催場所の予約やその費用の支払事務を行い、被告が出席できない
市主催の社会福祉大会等に被告の名代として出席して被告の議員としての挨拶状を
代読し、政治団体として届出のある被告の後援会の収支報告書を作成して提出し、
本件選挙に際して選挙管理委員会に立候補届出のために出頭する等の行為をしてき
た。
被告は、Aの右5の行為は、いずれも被告の指示により命ぜられたところを機械
的、事務的に処理したにすぎず、秘書としての行為に該当しないと主張し、乙三号
証の記載、証人Aの証言及び被告の供述中にはこれに沿う部分があるが、前記証拠
によれば、Aの前記行為の多くは、被告の政治活動に有益な行為と評価できること
が明らかであるだけでなく、被告がAによる秘書の名称使用を容認し秘書としての
給与も支給していた本件において、右各記載、証言及び供述から、前記5の行為が
秘書の行為に該当せず、したがってAが被告の秘書に該当しないと認定することは
困難である。すなわち、被告が自己の使用する者にたまたま命じて被告の政治活動
の補佐に該当する事務的、機械的行為をさせたという場合であればともかく、被告
の議員秘書である旨を表示した名刺の使用を許容し、かつ、議員秘書としての活動
に対する給与まで支払っているAの行為が、格別高度の判断、才覚を要しなかった
からといって、これをもって秘書の行為に当たらないとすることはできず、前記被
告の主張は到底採用できない。
してみると、Aは、本件選挙において候補者になろうとする被告に使用され、被告
の県議会議員としての政治活動を補佐する仕事に従事していたものであるから、公
職選挙法二一五条の二第一項五号の秘書に該当するというべきである。
三 また、証拠(甲四、五、七ないし一二、一四、一六ないし一八、二〇ないし二
三、二五、二八)によると、次の事実が認められる。
1 静岡県議会議員の三島市選挙区の定数は二人であるところ、平成六年八月ころ
までは、本件選挙の同選挙区の立候補者は、被告を含めても二人で、無投票で当選
するのではないかと予測されていたところ、同年一〇月ころには、さらに一人の立
候補が確実となり、被告は、俄かに選挙での票の獲得が不可欠と認識し、被告の側
近としてのAも、当然このことを認識した。
2 被告は、前記のとおり、補欠選挙では無投票当選であったため、三島市全域を
選挙区とする選挙の経験はなく、また、無投票当選がうわさされていたためもあっ
て、後援会も名目はあっても実質的な組織化ははかどっていない状況にあった。
3 被告は、本件選挙で当選するためには、急遽後援会を三島市内全域に展開する
必要があると考え、Bの後援会である石井会の例に倣い、市内を一〇の後援会支部
に分かち、石井会の主だった人に各支部の役員を委嘱することとし、Aと共に各後
援会支部の設立に奔走した。
4 Bと被告は所属政党を同じくしていたものの、三島選挙区から被告の外にも同
党からの立候補者が予定されたため、石井会の主だった人に被告の後援会の支部役
員を頼んでも、すぐに引き受けてくれるとは限らず、西部支部のEのようにAが再
三足を運んでやつと支部長を引き受けてくれるところもあり、Aが各地区の主だっ
た人の集会に出向いて選挙の協力方を依頼し、その支部の役員を決定できるところ
もあった。
5 各支部の体制が概ね整った平成六年一〇月下旬ころから平成七年二月ころまで
の間に、被告は、後援会、同幹部会、励ます会等本件選挙での票固めのための会合
を頻繁に開催し、Aが、開催場所の確保等の準備、秘書名義の案内状の発送等を
し、また会合における選挙への協力依頼をするなどした。
6 Aは、平成七年一月下旬ころ、三島市中央町に選挙事務所とするための事務所
を確保し、ここに電話を架設し、選挙に必要な備品を搬入するなどの準備をし、同
年二月六日ころ同所に被告の後援会の支部長を集めて事務所開きをし、この際後援
会の幹部及び支部長に票の取りまとめのための現金の供与をした。
7 被告は、同年二月下旬ころAとは別に運転手を雇い、以後運転は専らその者に
させ、Aは事務所の運営に専念した。
以上認定の事実によれば、Aが、本件選挙において被告を当選させるための選挙運
動に従事したことは明らかであり、Aが二に認定したとおり、形式的にも実質的に
も被告の秘書であったことからすると、Aがした個々の選挙運動に被告が直接関与
していたかどうかは別として、Aは、被告を当選させるため、被告と意思を通じて
選挙運動に従事したものというべきである。被告は、後援会活動は、選挙運動に当
たらないと主張するが、前認定の状況下における後援会の組織作り及び後援会の各
種会合の設定が、被告に当選を得させる目的で行われたことは明らかであるから、
右主張は採用できない。
四 よって、公職選挙法二五一条の二第一項により、被告の当選無効と五年間の立
候補禁止を求める原告の請求は、理由があるからこれを認容すべきであり、訴訟費
用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとお
り判決する。
(裁判官 野田 宏 田中康久 森脇 勝)

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