弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

       主   文
原判決を取り消す。
被控訴人の請求はこれを棄却する。
訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。
       事   実
控訴代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の主張ならびに証拠関係はつぎに加えるほか、原判決事実摘示と同一で
あるから、これを引用する。
(控訴人および補助参加人Aの主張)
(一) 本件農地が「加美、巽、長瀬三箇村耕地整理組合」の事業地区内にあつた
ことは相違ないが、右組合設立の目的は、同地区における用水・排水の不良を改善
不整形農地の整理・道路の整備・溜池の改廃等農耕の便益増進を図るためであつ
て、昭和一四年五月頃までに組合事業は終了したため、「加美、巽、長瀬普通水利
組合」に組織変更し、さらに現在の「加美、巽、長瀬土地改良区」へ引継がれたも
のである。右耕地整理事業により稲作の収穫は急増し、従来の湿田は乾田に変り、
従来の一毛作耕地も二毛作が可能となり、農業生産の飛躍的増進を見るに至つた。
この耕地整理事業が都市計画法による土地区画整理事業とその目的性質を異にする
ことはいうまでもない。
(二) 本件買収処分の対象たる農地は大池橋の南約九〇〇米の場所に位し、その
東方約九〇〇米に巽町西足代部落の一部農家三、四軒、北方に本件農地に接して田
一枚があり、その北に借家五、六軒が存在し、西方約一八〇米のところに孫営電線
株式会社(約五〇坪)があり、東方約一五〇米に南北に走る府県平野線(但し舗装
は部落内だけで幅員五・五〇米位)があつて、北西方約一、〇〇〇米に田島小学
校・南方約八〇〇米に巽町大部落と四条部落の一部農家六五〇戸が存し、更に西方
に四条部落一〇〇戸、南東方約一八〇米に巽町矢柄・伊賀部落の農家二一〇戸、南
方一八〇米に巽町西足代部落の農家一五〇戸が存在していたが、他は農地であり、
本件農地は広大な米作地帯の区域内に存在していたのである。
 とくに、本件農地の存する巽地区に主要排水路である「平野川分水路」が完備せ
ず、本件農地買収計画当時の昭和二三年頃は、雨が降れば附近一帯は道路まで水没
し、その位置すら分らない状態になることが屡々であつて、四囲の環境上宅地化さ
れるというようなことはとうてい予想できなかつたし、またそのような客観的状況
ではなかつた。むしろ戦後の食糧難を反映して農業生産力の増強が要請され、それ
に資するため前記「加美、巽、長瀬土地改良区」が昭和二七年五月に設立された程
であつた。
(三) 本件農地を含む附近一帯の宅地化が始まり出したのは、平野川分水路開設
の治水事業が昭和三四年から昭和三九年頃にかけて行われ、本件地区の用排水が改
良されてから後のことである。即ち本件買収処分後十数年を経過してからのことで
あつて、その頃から今まで見向きもされなかつた本地区にも、めざましい産業の発
達と宅地需要急増の影響により、ぼつぼつ農地の宅地転用が行われ始めたのであ
る。
 自創法第五条五号にいわゆる「近く土地使用の目的を変更することを相当とする
農地」とは、自創法による農地改革事業が遅くとも昭和二三年一二月末日までに完
了すべきものとされていたこと(自創法施行令旧二一条((昭和二三年一二月二七
日政令第三八三号による改正前のもの)))からすれば、当該買収計画を樹立する
時点において、近い将来(大体一年以内)、具体的に土地使用の目的を変更するた
めの実現確実な転用計画が存し、かつそのことが当該農地をめぐる客観的条件から
して相当と認められるものを指し、かゝる農地についてのみ買収から除外しようと
したものであつて、自ら厳格性が要請されることは、急速広汎な自作農の創設とい
つた同法の目的に照して明らかである。既述の本件土地の水利・地形・立地条件等
の四囲の環境からすれば、本件買収計画当時右法条による買収除外指定をなすべき
農地でなかつたことは明らかであり、その後十数年後に異常な社会情勢の変化によ
り宅地化が進められて来たことから推して、買収計画当時当然そのことが予想でき
たとすることはできないし、況んや近く使用目的変更を相当とする農地であつたと
みることができないのは、前述のとおりである。
(補助参加人B及び同Cの主張)
 本件農地は、買収処分を経て昭和二三年七月二日補助参加人Aに売渡処分がなさ
れ、昭和二五年一一月一七日同参加人に所有権移転登記がなされた後、昭和三五年
一二月九日分筆されて(イ)大阪市<以下略>、畑二畝六歩と(ロ)同所<以下略
>、畑二畝二〇歩の二筆になり、同補助参加人において、昭和三六年三月二八日右
(イ)の畑を補助参加人Bに、また同年三月二日(ロ)の畑を補助参加人Cに各売
渡し、前者については同年四月一四日、後者については同月一七日それぞれ所有権
移転登記がなされた。補助参加人Aは売渡処分による所有権移転登記がなされた昭
和二五年一一月一七日以降所有の意思を以て平穏公然に本件土地を占有使用し、か
つ占有の始め善意であつて過失がなかつたことは、その占有の開始が売渡処分に基
づくことから考察して明らかであるから、右登記の日から起算し一〇年を経過した
昭和三五年一一月一六日を以て取得時効が完成したのであり、同人よりその後本件
土地を買受けた補助参加人B及び同Cにおいてそれぞれ右取得時効の援用をする。
さすれば、被控訴人は本訴の勝敗如何にかゝわらず、本件土地の所有権を失い、こ
れを回復することはできないのであるから、本訴は訴えの利益を欠くに至つたもの
である。
 なお取得時効の中断事由たる裁判上の請求は、取得時効の援用をなしうる者に対
してなすことを必要とし、行政庁に対する買収計画取消訴訟ないしは買収処分取消
訴訟の提起を以て中断事由とすることはできない。また被控訴人は行政処分取消訴
訟に併合して、占有者に対する所有権確認訴訟を提起することができるのであるか
ら、被控訴人に取得時効中断の方法がないとすることは誤りである。
(被控訴人の主張)
一 補助参加人主張の取得時効は完成していない。
(イ) 補助参加人主張の如く本件農地が補助参加人Aに対し売渡処分がなされ、
同人よりさらに補助参加人B及び同Cに売却されたことは認める。
 しかし、一般に農地の買収処分あるいはその前提をなす買収計画の処分に対し取
消を求める訴訟を提起するときは、それによつて買収農地の売渡処分により当該農
地を占有している者の取得時効は中断されるものと解すべきである。したがつて本
訴取消訴訟の係属している限り取得時効は中断中であるというべきである。けだし
被買収者が売渡処分をした知事もしくは売渡処分を受けた者を相手方として、売渡
処分無効確認あるいは所有権取得登記抹消請求の訴えを起すことはできないからで
ある。売渡処分に先行する買収処分あるいは買収計画につき取消の判決が確定して
から後時効中断の手段を講ずれば足りると解するのが妥当である。
(ロ) 本件農地の売渡処分を受けた補助参加人Aは、自己が後述の如く自創法所
定の小作人でなく、したがつて買収農地の売渡を受ける資格を欠いていたことを知
つていたものであり、かりにそうでなくても知らないことに過失があり、本件農地
占有にあたり悪意・過失があるから民法一六二条二項の適用はなく、取得時効は完
成していない。
二 本件土地は小作地でないのみならず、自創法五条五号の買収除外地でもある。
元来被控訴人は、大阪市<以下略>、畑八畝二〇歩、同所<以下略>、畑七畝一五
歩合計一反五畝二五歩を所有し、右土地は巽・加美・長瀬三箇村耕地整理組合の事
業地区に属していたが、右組合事業は土地区画整理事業に準ずる宅地の利用増進を
目的とするものである故、組合・土地所有者と耕作者との間にいわゆる離作契約の
折衝が進められ、昭和一一年両者間に同年より昭和一三年までの賃料三ヶ年分を免
除する条件の下に、昭和一三年一二月末日限り土地明渡の合意が成立し、これによ
つて組合は道路、下水溝の設置、土地の分合、交換、整地等の諸事業を施行し、換
地処分を実施することができたのである。
 しかるに補助参加人Aは右離作契約に違背し明渡しをしないため、被控訴人は再
三督促の上昭和一八年一二月二一日漸く明渡を受けた。本件土地は右畑一反五畝二
五歩の一部であるが、当時組合事業と併行して大阪市<以下略>より東巽町に至る
難波足代線(幅員二五米)の都市計画線が設定せられ、本件土地は右計画線の北側
に面し、かつ大阪市生野区(昭和三〇年四月一日大阪市生野区に編入された。)に
隣接し、右都市計画線の開通に伴い周辺部は急速に宅地化が進み、とくに本件土地
は交通至便、社会的経済的にも、枢要な位置に存するが故に被控訴人は本件土地上
に建物を建設すべく計画したのであつて、前記Aより明渡を受けた所以もこゝにあ
つたのである。しかし戦争の激化に伴い建築資材の入手は困難となるとともに食糧
増産の必要性が高まり、右土地を遊ばせておくことができなくなつたので、前記A
の懇請に応じ、同人に対し期限を昭和二〇年度の一ヶ年に限定して右土地を使用せ
しめたが、固より新な賃貸をしたわけでなく、被控訴人より耕作に必要な資材を提
供する趣旨で耕作を請負わせたに過ぎなかつた。したがつて本件土地を以て不在地
主の小作地として自創法三条一項一号に基づき買収計画を樹立することが違法であ
ることはいうまでもない。
(証拠関係)(省略)
       理   由
一 本案前の主張について
 補助参加人B及び同Cは、本件農地は同人らが取得時効によつて原始取得するに
至つたのであるから、たとえ本訴買収計画取消訴訟において被控訴人が勝訴しても
当該農地の所有権が被控訴人に復帰するわけではないから、被控訴人の本訴は訴え
の利益を欠くと主張するので、まずこの点について検討する。
 本件農地が本訴の買収計画を経て買収された後、補助参加人Aに売渡され、同人
はこれを二筆に分筆した上補助参加人B及び同Cに売却したことは当事者間に争い
がない。
 そして買収計画が判決によつて取消されるときは、その効力は第三者にも及ぶの
であり、また買収計画を不可欠の構成要素とする買収処分は失効し、したがつてま
た売渡処分も無効となるのであるから、補助参加人Aは所有権を取得しなかつたこ
とになるし、補助参加人B及び同Cの所有権もまた否定される関係にある。したが
つて、右の補助参加はいわゆる共同訴訟的補助参加に属し、補助参加人は必要的共
同訴訟の当事者と同様の立場に立ち、自己のみが行使できる取得時効の援用権を行
使し、これを以て取消訴訟の訴えの利益を否定することができるのはいうまでもな
い。
 ところで、農地買収計画ないし買収処分取消訴訟の係属中において、当該農地の
取得時効の完成を肯定するためには、被買収者たる旧所有者において、時効中断の
法的手段をとりうることを前提としなければならないことは、時効制度の趣旨に照
して明らかである。そしてその法的手段は任意の承認が期待できない通常の場合は
裁判上の請求であるが、買収計画ないし買収処分取消の判決が確定しない以上、被
買収者が売渡を受けた農地占有者に対し農地の返還請求、所有権確認請求あるいは
承認請求(民法一六六条二項但書参照)等の訴えを提起しても請求棄却の判決を免
れず、時効中断の目的を達し得ない。さればといつて買収計画ないし買収処分取消
判決の確定を条件とする返還請求といつた将来の給付の訴えを提起しても、その請
求権の発生する私法上の基礎的関係を欠く点で不適法であり(基礎的関係は右の取
消訴訟で判定すべき事項に属する。)排斥を免れないし(最判、昭和四四・一一・
一三、判例時報五七九号六三頁参照)、将来の所有権確認請求その他の請求も許さ
れないこというまでもない。もつとも行政訴訟では取消訴訟と右の如き返還請求訴
訟とを関連請求として併合提起することを許しているが、右は、返還請求とその先
決関係をなす処分取消請求につき共通の審理判定が行われ、両個の請求について同
時に矛盾のない判決がなされうることを考慮して設けられたものであり、訴訟経済
的な観点に立つ便宜的な制度に過ぎない。したがつて右併合訴訟の下では、取消判
決をなしうることが明らかとなつたときは、その確定前でも、返還請求を認容する
判決をなしうることを予定するものではあるけれども、そのことから右併合訴訟の
提起によつて被買収農地について進行中の取得時効が中断されるとの結論を導き出
すことはできない。けだし、右併合訴訟において取消判決をなすべきものとすると
きは、その確定をまたずに返還請求認容の判決をなしうるということと、右併合訴
訟の提起が取得時効中断事由に該当するかどうかということとは別個の問題である
からである。取消訴訟と返還請求訴訟とは被告を異にする別個の訴訟であり、取得
時効の中断に役立つのは後者の訴訟であつて、しかも右訴訟においてなされる返還
請求認容の判決も、最終の口頭弁論期日を基準にして考察するときは、その実質は
やはり取消判決の確定を条件とした将来の給付の判決であることには変りはなく、
この点、形成、給付を内容とする一つの実体上の権利について訴訟上の行使を必要
とされる場合(たとえば詐害行為取消と返還請求、否認権行使による返還請求)と
自ら異なるものがあるのであつて、取消請求と返還請求とを含めた併合訴訟を以て
中断事由たる裁判上の請求とみることはできない。両者の請求の併合訴訟が許され
ているのは、両請求についての判決が通常同時に確定するからであろうが、訴訟法
上は右のような同時確定の保障はない。とくに両個の請求について普通の共同訴訟
の形態をとる関係上、返還請求認容の判決が確定しているのに取消判決が未確定の
場合は勿論、上告の結果敗訴になることも絶無ではない。そして敗訴の判決が確定
すれば、返還請求認容の判決は効力を生じないことになるし、また取消判決が返還
請求認容の判決に遅れて確定するときは、その時から時効中断の効力を生ずるもの
というべきである。けだし、右返還請求の実質が取消判決の確定を条件とする将来
の給付請求である限り、たとえ右請求を認容する判決が確定しても、取消判決の確
定を伴わない限り、取得時効の対象物件に対する継続的な占有状態を否定して権利
関係を確定するとか、権利関係を明確化させる機能は殆んどもつていないのであつ
て、この返還請求だけでは、時効中断事由たる裁判上の請求に値しないものという
べく、この返還請求に、別訴における取消判決の確定という外来的な要素が加わ
り、将来の請求から現在の請求に変化するに至つて始めて中断事由にふさわしい右
の機能を生じ、裁判上の請求たる適格をもつに至るのであるから、その前段階にお
ける返還請求の訴え提起の時に遡つて時効中断の効力を生ずるものとなすに由なき
ことは、訴えの変更による時効中断の効力が変更申立書提出の時から効力を生ずる
ものとされているのと趣旨を同じくする。そしてまたこの理論を以てすれば、取消
判決と返還請求認容の判決とが同時に確定した場合も、その結論を異にしないこと
はいうまでもない。
 以上のような次第であつて、被買収農地の取得時効中断事由たる裁判上の請求
は、第三者即ち被買収農地の占有者に対しても効力の及ぶ、買収計画ないし買収処
分取消判決の確定を伴つて始めて中断の効力を生ずるのであるから、右処分取消訴
訟係属中に取得時効完成を理由に訴えの利益を否定することは、即ち被買収者から
有効な時効中断の法的手段を奪うことになつて不合理である。むしろ買収計画ない
し買収処分の取消訴訟については極めて短期の出訴期間が定められ、取得時効期間
経過後の出訴などは全く考えられないこと、被買収地の返還請求権は取消判決が確
定しない以上発生しないことから、被買収者にとつては先ず取消判決を得ることが
肝要であり、返還請求はそれから後でも事足ると考えるのが通常であつて、取消訴
訟に返還請求の訴えを併合提起しなくても、権利の上に眠るものとはいえないこと
等の諸点を併せ考慮するとき、被買収地についての取得時効の進行は、中断事由た
る裁判上の請求が無条件に可能かつ容易となつたとき、即ち右取消の判決が確定し
たときから始めて進行するものと解するのが相当である。
 この点は、被買収者がいつでも占有者に対し返還請求その他私法上の請求のでき
る買収処分無効の場合と異るところであつて、買収計画ないし買収処分取消の場合
は、たとえ取消訴訟に併合して返還請求の訴えを提起しなくても、権利の上に眠る
者とはいえず、取得時効の進行しないこと前記のとおりであるから、取得時効の完
成を理由に、本件訴訟の訴えの利益を否定する補助参加人らの主張は採用できな
い。
二 よつて本案について判断する。
 被控訴人の所有であつた本件土地について、被控訴人主張のとおり自創法三条一
項一号に基づいて買収計画が定められ、異議、訴願の手続を経て訴願棄却の裁決が
あつたことは控訴人の明らかに争わないところであり、また本件土地が農地である
ことは当事者に争いのないところである。被控訴人が右買収計画の瑕疵として主張
するところは、本件土地が小作地でなかつたこと及び本件土地が自創法五条五号所
定の買収除外地であつたとの二点であり、その他の買収計画に必要な実体上あるい
は形式上の要件を備えていたものであることは明らかに争わないところであるか
ら、以下被控訴人主張の右瑕疵の有無について判断する。
三 本件土地は小作地であつたか。
 原審ならびに当審証人A、当審証人Dの各証言によると、本件土地は補助参加人
Aの父Eが明治時代に被控訴人から賃借し、本件買収計画樹立の昭和二三年当時は
Aが親の代からの賃借関係を引継ぎ、本件土地を耕作していたものであり、いわゆ
る小作地であつたことが認められる。
 もつとも原審ならびに当審証人Fは本件土地の賃貸借は昭和一三年末に合意解除
され、一旦本件土地の返還を受けた上、前記Eに耕作を請負わせたものであると証
言しているのであるが、前記A証人は本件土地の耕作関係及び賃料支払関係は従前
通りであつてその実態は少しも変わつていないと証言しているのみならず、成立に
争いのない乙第一号証は、被控訴人の土地管理人である木村土地合名会社(この点
は前記F証人の証言に照して明らかである)が、昭和二一年二月七日付でEに宛て
た四二円の領収書であること明らかであるところ、右金員の性質については当初
「土地賃貸料」と記載しながらこれを「耕作地請負料」と訂正していること書面上
明らかであるが、請負料であれば請負人たるEが木村土地合名会社に宛てた領収書
を作成して同会社に交付しなければならないのに、これが逆になつているところを
みると、右訂正にかかわらず、実質は賃料の領収書であると認められるほか、原本
の存在及び成立に争いのない乙第五号証には別件における証人Gの証言として、
「支那事変前被控訴人よりその所有小作地一部を世話していたGに対し、土地の発
展を図るという理由で小作地返還交渉の要求があり、小作人等と相談した結果、地
主の条件は地主が必要なとき直ぐ返還するというのであれば、三年や四年間は無償
で耕作させるということであつたので、一旦これを諒承したのであるが、その後被
控訴人から年貢反当り三〇円で引続いて耕作して貰うことにしたといわれ、他の小
作人も承諾し、土地はずつと耕作を続けて来たものである」旨の記載があるのであ
つて、これらを綜合すると前記F証人の証言は容易に信用し難く、したがつて甲第
一六号証の一、二(土地返還証書)も右証言のみによつて成立を認めるに由なく、
他にこれを認めるべき証拠もない。そのほか本件に現われた全証拠によるも、いま
だ前記認定を覆し本件土地が被控訴人主張の耕作請負地であつた事実を認定するの
に十分でない。
四 本件土地は、自創法五条五号該当地であつたか。
(1) 被控訴人は本件土地は右の買収除外地であつたと主張するがこれを認める
に足る証拠がない。
(2) 昭和二三年一二月当時の本件土地附近の航空写真であることについて争い
のない検乙第一号証の一、その説明図であることについて争いのない同号証の二、
右航空写真の本件土地を中心とした拡大写真であることについて争いのない検乙第
二号証、本件買収当時の本件土地附近の図面であることについて争いのない検乙第
三号証、当審証人Dの証言によつて昭和二三年撮影した本件の土地西側隣地(九六
番地)附近の写真であることが認められる検乙第四号証の一、二、原審における検
証の結果とくに検証調書添付見取図中当事者に争いのない買収当時の宅地部分の表
示、前記証人D・原審ならびに当審証人A・同F(但し一部)当審証人Hの各証言
を綜合すると、買収計画当時における本件土地の立地条件ならびに附近宅地の状況
は概ね原判決添付図面のとおりであり、さらにこれを細説すると、本件土地の南側
は府道大阪八尾線(難波、足代線又は勝山線とも称する)に面し、西側は北方に通
ずる四・五米の道路に面する角地であつて附近の状況はつぎのとおりである。
(イ) 本件土地の北側は西側の道路に沿つてその両側に家屋が六軒位建ち並び、
その道路が前記府道の北側約一〇〇米のところでこれに平行して東西に通ずる道路
(なお現在はその中間にも東西に通ずる道路があるが、本件買収計画当時この道路
が存在していたかどうか明らかでない。)と交叉し、さらに北に進む両側も宅地に
なつていた。なお、右交叉点を東西に通ずる道路の北方一帯は、大阪市の接続町村
をなし、本件買収後に、自創法五条四号の買収除外指定地域となつた。
(ロ) 東側も西側も田畑が前記府道に沿つて続き、府道とその北方平行に走る前
記道路との間は人家がまばらであり、同所より最も近距離の人家は東北方五〇米位
の所に存する少数の人家と西方二〇〇米足らずの地点にある弥栄電線株式会社工場
である。
(ハ) 南方は府道を隔てて西足代部落約一五〇戸があるが、その殆んどは農家で
あつてその周辺一帯は広大な田畑である。
(ニ) 前記府道は戦前から存在していたが、終戦近い頃からその拡張が企てら
れ、そのため本件土地も七畝五歩から四畝二六歩に削減されたのであるが、昭和三
一、二年頃には幅員六米が舗装され、更にその後幅員二五米(車道部分の幅員二〇
米は舗装)に拡張された。
(ホ) 要するに、本件土地はその北方巽町の人家集団地域の末端にあつて、人家
まばらな町はずれに属し、その東西両側一帯は農地であり、南方は前記府道を越え
て四方に広がる広大な農地に面していたといえる。
(3) 土地区画整理地であつたか。
 被控訴人は本件土地ならびにその周辺地域について宅地化のための土地区画整理
が行われたかのように主張し、原審ならびに当審証人Fはほぼ右主張に添うような
証言をしているが、後記証拠に照して信用し難く、他にこれを認めるに足る証拠は
ない。むしろ成立に争いのない丙第一、ないし三号証、同第五号証(別件における
証人Iの証言調書)、成立に争いのない乙第二号証(別件におけるJの本人尋問調
書)、当審証人D及び同Hの証言によると、昭和二年頃、加美、巽、長瀬三箇村耕
地整理組合が設けられ、その整理事業は昭和一三、四年頃に至つて完成したのであ
るが、右組合は大正一三年頃の大旱魃が直接のきつかけとなり、本件土地を含む右
三箇村の広大な耕地を対象としてその用水、排水の便をはかり、乾田、湿田の改良
に重点をおき、併せて耕地区画の整正、農業道路の敷設等、農業生産の向上を目的
としたものであつて、市街地ないし宅地の造成あるいはその利用の増進を目的とす
るものでなかつたこと、そして右整理事業完成後は加美、巽、長瀬普通水利組合が
そのあとを引継ぎ、昭和二一年五月一日からこれが土地改良区に組織変更され、農
業生産の向上に貢献して来たことが認められるから、被控訴人の右主張は採用でき
ない。
(4) 本件土地附近の宅地化はいつ始まつたか。
 前記成立に争いのない乙第五号証、原審証人F(但し一部)、当審証人D、同H
の各証言に弁論の全趣旨を綜合すると、本件土地附近が宅地化され始めたのは大体
昭和三〇年から昭和三四年にかけてであつて、昭和三〇年に本件土地附近が大阪市
生野区に編入され、その後昭和三一・二年頃前記府道の拡張舗装が進み、バスの通
行により交通の便がよくなるに伴い、徐々に人家が建ち始め、昭和三四年以降から
は社会情勢の変化とともに急速に宅地化が進み、府道の拡張整備、平野川分水路に
よる排水の改善は更にこれを助長し、昭和四〇年頃には、原審検証の結果によつて
明らかなような市街地の様相を呈するに至つたものであることが認められる。
(5) 本件買収計画当時の本件土地の状況は前記(2)で認定したとおりであつ
て、その周辺は大体農地で囲まれていたといつても過言でない。当時の立地条件そ
の他四囲の環境から前記のような宅地化を予想することは困難である。
 右のような急速な宅地化にはむしろ予測できない社会情勢の急激な変化が与つて
力あつたといえる。それにしても昭和二三年の買収計画当時から一〇年近い歳月を
要しているのであるから本件買収計画当時において本件土地が「近く使用目的変更
を相当とする農地」であり、自創法五条五号該当地であつたとすることはできな
い。
五 そうであれば、本件土地を自創法五条五号所定の買収除外地とせずに、不在地
主の小作地であることを理由にしてなされた本件買収計画ならびに訴願棄却の裁決
に何ら瑕疵はないものといわなければならない(なお大阪府農地委員会に対する本
訴が控訴人に受け継がれたものであることは、法律上明らかである。)。
 したがつて、控訴人に対し買収計画ならびに訴願棄却の裁決の取消を求める被控
訴人の本訴請求は失当として棄却すべく、これと異る原判決は取消を免れない。
 よつて訴訟費用の負担につき、民訴法九六条、八九条を適用し、主文のとおり判
決する。
(裁判官 金田宇佐夫 西山要 中川臣朗)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛