弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 一 上告代理人吉田雄策の上告理由第一点ないし第三点について
 所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯する
に足り、右事実関係のもとにおいて、検察官のした上告人に対する公訴の提起、控
訴の申立及び公判の維持に所論の違法がないとし、また、被上告人B1及び同B2
の行為が不法行為に当たらないとした原審の判断は、正当として是認することがで
き、原判決に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する事実の
認定を非難するか、又は独自の見解に基づいて原判決を論難するものであつて、採
用することができない。
 二 同第四点について
 国家公務員法(以下「国公法」という。)七九条二号の規定する起訴休職制度は、
国家公務員が刑事事件に関し起訴された場合に、主として公務に対する国民の信頼
を確保し、かつ、職場秩序を保持する目的から、当該公務員をして、右事件の訴訟
係属が終了するまで、公務員としての身分を保有させながら職務に従事させないこ
ととする制度であると解される。そして、国公法は休職処分についての具体的な基
準を設けていないのであるから、公務員が刑事事件につき起訴された場合に、休職
処分を行うか否かは、任命権者の裁量に任されているというべきであり、任命権者
が右の裁量権の行使としてした休職処分は、裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫
用したと認められる場合でない限り、国家賠償法一条一項にいう違法な行為には当
たらないと解するのが相当である。
 これを本件について検討するに、所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙
示の証拠関係に照らして首肯することができ、これによれば、(1) 郵政省と本件
休職処分発令当時上告人の属していたD労働組合との間に締結された「休職の取扱
いに関する協約」の二条二項は、「起訴にかかる休職は、その事案によりこれを行
わないことができる。」と規定しており、また、「職員の休職の取扱いについて」
と題する郵政大臣官房人事部長通達は、右協約において「休職を行わないことがで
きる場合とは、当該事案が職務上と否とにかかわらず、軽微であつて、その情が軽
いか、あるいは本人が当該事案を否認する等して裁判の結果を待つ必要があり、か
つ、いずれも本人を引き続き職務に従事せしめても支障がないと客観的に認められ
る場合に限るものとする。」としており、これらによつて起訴休職処分の実際の運
用がされていた、(2) 上告人は、福岡中央郵便局に勤務する郵政事務官であり、
郵便物の集配、分類という主として単純な機械的作業に従事していた、(3) 福岡
地方検察庁検察官は、昭和四四年一二月二二日上告人につき公務執行妨害、傷害の
訴因で福岡地方裁判所に公訴を提起したところ、公訴事実の要旨は、「上告人及び
Eは、福岡中央郵便局勤務の郵政事務官であるが、D労働組合所属の同郵便局局員
がいわゆる物だめ闘争を行つた際、昭和四四年一一月二六日午後一時三〇分ころ同
郵便局二階の第一集配課室西側出入口において、同郵便局の業務運行の確保、労務
管理事務処理等のため熊本郵政局から派遣され、同郵便局兼務を命じられた郵政事
務官B2外四名、同郵便局の業務運行状況の調査及び非違等の調査、処理等にあた
つていた熊本郵政監察局福岡支局員郵政監察官B1外一名、同郵便局課長代理一名
らが同所に警戒線を張つていたところ、上告人が第一集配課室内に入ろうとしたの
に制止されたため、両名共謀のうえ、上告人が先になりEが上告人の後ろに連なり、
両名一団となつて右警戒線に突入し、B2及びB1に突き当たつて両名を転倒させ
る暴行を加え、右両名の職務の執行を妨害するとともに、右暴行によりB1に対し
全治三日位を要する右手関節部擦過傷、右下腿打撲の傷害を負わせたものである。」
というものである(以下、公訴提起に係る右事件を「本件刑事事件」という。)、
(4) 本件刑事事件は、当時新聞等により一般に報道、公表され、上告人の属する
労働組合がその当時行つていたいわゆる物だめ闘争による郵便物の遅配と併せて、
世間の耳目を引いた、というのである。
 右の事実関係によれば、本件刑事事件は、職場内において警戒線を張つていた管
理職らに対し、暴行を加えて傷害を負わせたというものであるから、国民一般の強
い非難に値する内容のものであるのみならず、公務執行妨害罪の法定刑に照らすと、
上告人は、本件刑事事件につき有罪とされた場合には、禁錮以上の刑に処されるこ
とを免れない結果、公務員の欠格条項(国公法三八条二号参照)に該当する者とな
るのであるから、上告人がこのような行為をしたとして起訴されたにもかかわらず、
その職務に従事させることは、公務に対する国民の信頼を失墜し、かつ、職場の秩
序を乱すものであるというべきである。このような事情を総合勘案すると、上告人
が主として機械的作業に従事していた者であつても、本件休職処分が裁量権の範囲
を逸脱し、又はこれを濫用したものであるということはできない。なお、所論は、
上告人は身柄を拘束されずに起訴されたものであり、公判期日における裁判所への
出頭等は、年次有給休暇あるいは週休日などを利用すれば十分可能であるから、起
訴されたからといつて職務専念義務に悪影響を及ぼすものではない旨主張するが、
前記のとおり、公務に対する国民の信頼の確保及び職場秩序の保持の観点から起訴
休職の必要性が認められる以上、所論の事情は前記の判断を左右するものとはいえ
ない。したがつて、本件休職処分が国家賠償法一条一項にいう違法な行為に当たら
ないとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法は
ない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する事実の認定を非難するか、又は原
審の認定しない事実を前提として若しくは独自の見解に基づいて原判決を論難する
ものであつて、採用することができない。
 三 同第五点のうち休職処分を撤回しなかつたことの違法をいう部分について
 国公法は、起訴休職の期間は起訴された刑事事件が裁判所に係属する間とし(八
〇条二項)、その事由が消滅したとき、すなわち、起訴された刑事事件についての
訴訟係属が終了したときに、休職処分が当然に終了したものとみなしているが(同
条三項)、休職処分後に当該刑事事件について無罪判決が言い渡されたが、それが
いまだ確定していない場合については、何らの規定も設けていない。したがつて、
起訴された刑事事件につき第一審裁判所において無罪の判決が言い渡された場合に
おいても、休職処分が当然に終了したものとみなされるものでないことはもとより、
任命権者は、当然に休職処分を撤回すべき義務を負うものでもなく、起訴休職制度
の前記の趣旨、目的に照らして、休職を継続する必要性が消滅したか否かを判断し、
休職処分を徹回すべきか否かを決定することができるのであつて、その判断は、任
命権者の裁量に任されているものというべきであり、任命権者が休職処分を撤回し
なかつたことは、裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したと認められる場合で
ない限り、国家賠償法一条一項にいう違法な行為には当たらないと解するのが相当
である。
 これを本件について検討するに、原審がその挙示する証拠関係によつて適法に確
定したところによれば、(1) 福岡地方裁判所は、昭和四九年五月二九日本件刑事
事件につき上告人に対し無罪の判決を言い渡したところ、右判決は、上告人及びE
が前後に連なつて警戒線を突破し第一集配課室内に入つたこと、上告人が被上告人
B1の右半身に右肩から突き当たり、被上告人B1及び同B2が転倒したこと、被
上告人B1が負傷したこと等の事実は認定しており、ただ、上告人の行動につき、
第一集配課室内に入ろうとして被上告人B2に前進をはばまれたので、同被上告人
を避けて同被上告人と被上告人B1との間を通り抜けようとしたものの、後ろから
Eが上告人の腰のあたりに両手をあてがつて続いていたことなどのため行動が思う
にまかせず、被上告人B1を確実に避けることができないで、同被上告人の右半身
に右肩を突き当てたのではないかという疑いを差しはさむ余地があるとして、結局、
上告人の暴行の故意を認めるに足りる十分な証拠がないとし、かつ、上告人とEと
の間に管理職らを突きのけてまで入室を強行しようという謀議が成立していたもの
と推認することもできない旨判断している、(2) 検察官は同年六月一二日右判決
に対し福岡高等裁判所に控訴の申立をしたが、同裁判所は昭和五〇年六月一二日控
訴棄却の判決を言い渡し、同月二六日の経過をもつて右判決は確定した、(3) 福
岡中央郵便局長が、本件刑事事件につき無罪の判決があつたにもかかわらず、上告
人に対する休職処分を撤回しなかつたのは、検察官の控訴があつたため公務に対す
る信頼はいまだ回復していないこと、本件刑事事件が控訴審で有罪となつて確定す
れば公務員の欠格事由に該当するような罪であること、職場内秩序の保持という観
点からもいまだ休職の必要性は消滅していないと判断したことの理由によるもので
ある、というのである。
 右の第一審判決の無罪理由及び前記二に述べた本件刑事事件の内容等に照らすと、
福岡郵便局長において第一審の無罪判決が言い渡されたのちにおいても、いまだ休
職処分を継続する必要性が消滅していないとの判断のもとに本件休職処分を撤回し
なかつたことが、前記起訴休職制度の趣旨、目的に照らして裁量権の範囲を逸脱し、
又はこれを濫用したものということはできず、したがつて、国家賠償法一条一項に
いう違法な行為に当たらないとした原審の判断は、正当として是認することができ、
原判決に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、独自の見解に基づいて原判決を
論難するものにすぎず、採用することができない。
 四 同第五点のうち給与支給額を減額したことの違法をいう部分について
 原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、給与の支給率を減じた福岡中央
郵便局長の措置に所論の違法はないとした原審の判断は、正当として是認すること
ができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主
文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    佐   藤   哲   郎
            裁判官    角   田   禮 次 郎
            裁判官    大   内   恒   夫
            裁判官    四 ツ 谷       巖

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