弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人盛川康の上告理由第一点について。
 原判決によれば、上告人が仮執行宣言を付した本件一審判決に基づく本件建物明
渡の強制執行により被上告人から本件建物の明渡を受け、かつこれを取りこわした
当時において、いまだ本件建物につき被上告人の賃借権が存続していたというので
あるから、上告人がその所有者であるとしても、これを取りこわすことの許されな
かつたのは当然であり、右明渡が強制執行によりなされたものとしても、その結論
に異なるところはない。論旨は、独自の見解に立つて、原判決の判断を非難するに
帰し、採用し得ない。
 同第二点について。
 原判決が所論小切手の授受に関して認定したところによれば、被上告人は催告期
間内に当時上告人の代理人として賃料受領の権限のあるDに対し延滞賃料を支払う
べく同額面の小切手を持参提供したのであるが、かような小切手による賃料の支払
は従前も行なわれたことがあり、本件の場合も、被上告人から、「もし現金を必要
とするなら、本日は日曜日につき、明日小切手を現金化して持参するから。」と申
し入れたところ、Dにおいてこれを諒承し、異議なく小切手を受領したというので
あり、右認定事実に照らせば、右小切手の提供受領によつて賃料債務の遅滞が解消
したとの原判決の判断は正当であり、これに所論の違法は認められない。論旨引用
の各判例は、いずれも本件と場合を異にして、本件に適切ではない。従つて、論旨
は採用し得ない。
 同第三点について。
 原判決の確定したところによれば、上告人は、その所有の本件建物につき被上告
人との間の賃貸借契約が終了したとして、被上告人に対し建物明渡請求訴訟を提起
し、上告人勝訴の仮執行宣言付一審判決を得て、これに基づき強制執行をなして、
被上告人をして本件建物の明渡をなさしめたのみならず、被上告人の控訴提起によ
る原審訴訟係属中に本件建物を取りこわしたというのであり、右確定事実によれば、
右建物滅失により被上告人が賃借権を行使し得なくなつたことについて少くとも上
告人に過失があるとした原判の判断は、首肯するに足り、これに所論の違法は認め
られない。論旨引用の各判例は、いずれも本件に適切ではない。従つて、論旨は採
用し得ない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    山   田   作 之 助
            裁判官    草   鹿   浅 之 介
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    石   田   和   外

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