弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を福岡高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人宮林彦九郎の上告理由第一ないし第三について。
 原審は、上告人(控訴人)は訴外D株式会社と取引を始めるにあたり、昭和三六
年四月八日同訴外会社の大阪営業所に信認金名義で一五〇万円を寄託したこと、昭
和三七年六月二〇日右訴外会社の石炭販売部門が分離独立して被上告会社(被控訴
会社)が設立されたこと、そして、同年七月上旬頃被上告会社大阪営業所において、
従来右訴外会社と取引のあつた業者、上告人を含めて約二〇名を集め、被上告会社
から同会社設立の経緯および今後の取引方針について説明を行い、この説明会にお
いて、被上告会社代表者Eは、今後右訴外会社の生産炭は全部被上告会社が買い取
り、被上告会社から業者に販売する、その場合被上告会社は業者が右訴外会社に差
入れている信認金を尊重し、その業者とは改めて信認金の差入を求めず取引をする
旨言明したとの事実を確定しながら、その際被上告会社が右訴外会社の上告人等業
者に対する信認金返還債務を引受承継したことは認められないと判断している。
 しかしながら、被上告会社は訴外会社の石炭販売部門が分離独立して設立された
ものである旨の原審認定事実に鑑みれば、被上告会社は右訴外会社の営業の一部た
る石炭販売部門を譲り受けたものと推認するにかたくないばかりでなく、原審が真
正に成立したものと確定している乙第九号証に、大正石炭販売株式会社(被上告会
社の旧商号)大阪営業所が、昭和三八年一月七日付書簡をもつて、上告人に対し、
同社が右信認金一五〇万円とその利息を預つている旨を述べた記載があることに徴
すれば、右信認金は取引の担保の趣旨を有するものと解しうるのであつて、これら
の事実を考え合せるならば、右信認金は法律上も被上告会社と上告人との新規の取
引と無関係なものとは断じ難く、かえつて他に特段の事情のないかぎり、被上告会
社と取引を継続する業者との関係において被上告会社が前記信認金の返還債務を引
受承継したものと解するのを相当とする。もつとも、原審は、右の点について、被
上告会社(被控訴会社)代表者が右説明会において、取引をしない業者に対しては
右訴外会社から右信認金の一部を分割返済する旨言明したこと、被上告会社は信認
金返還債務を引受けるようなことは述べていないこと、そして右訴外会社は昭和三
九年一一月頃遂に閉山となつたが、その清算手続において右訴外会社から業者に信
認金の一部を返済していることを認定しているけれども、右訴外会社が上告会社に
対して右信認金の一部を返還した等の事実があれば格別、単に右事実が認められる
というだけでは、前記各事情に照らし、未だ被上告会社において右信認金返還債務
の引受承継をしたとの推認を妨げるに充分な事由とはなし難い。そして、原判決に
は、他に右推認を妨げるに足りる特段の事情について説示するところがない。
 しからば、原判決は、右信認金返還債務の存否に関する認定について、経験則に
違反して上告人の主張事実を認めず、ひいて理由不備の違法を犯したものというべ
く、この違法は、原判決の結論に影響を及ぼすこと明らかであるから、論旨はこの
点において理由があり、原判決はその余の上告理由について判断するまでもなく破
棄を免れない。そして、本件はさらにこの点について審理を尽さしめるため、原審
に差し戻すのが相当である。
 よつて、民訴法四〇七条により、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    岩   田       誠
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    松   田   二   郎
            裁判官    大   隅   健 一 郎

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