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平成14年9月12日宣告 裁判所書記官 
平成14年(わ)第14号,第89号,第210号 強盗未遂,強盗,威力業務妨
害,銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件
               判     決
               主     文
被告人を懲役8年6月に処する。
未決勾留日数中180日をその刑に算入する。
けん銃1丁及びけん銃用実包1発を没収する。
訴訟費用は被告人の負担とする。
               理     由
(犯罪事実)
被告人は,
第1 銀行強盗に用いる普通乗用自動車を強取しようと企て,平成13年11月3
0日午後2時30分ころ,群馬県伊勢崎市a町b番地c株式会社A店屋上駐車場に
おいて,同所に駐車中の普通乗用自動車に乗り込んだB(当時51歳)に対し,所
携のけん銃を突き付け,「車から降りろ。」などと言って脅迫し,その反抗を抑圧
して,同人所有の上記車両(時価約120万円相当)を強取した。
第2 同日午後4時23分ころ,前橋市d町e番地先歩道上に設置された公衆電話
から,同市f町1丁目1番1号所在の甲県庁に電話を架け,電話交換手Cに対し,
「5時に爆弾を仕掛けた。」,「爆弾,爆発するからな,5時に。」などと言っ
て,同人をして甲県総務部Dに報告させ,よって,同人からの指示により,同日午
後4時25分ころから午後5時55分ころまでの間,同県庁職員ら約2000名を
して上記県庁庁舎外への避難を余儀なくさせるなどし,もって威力を用いて同県庁
の業務を妨害した。
第3 金員を強取しようと企て,同年12月7日午後2時50分ころ,同市g町h
丁目i番E金庫g町支店において,店内の床にシンナーを撒くなどした上,同支店
行員F(当時34歳)らに対し,所携のけん銃を突き付け,「金を出せ。撃つぞ。
火を点けるぞ。」などと言って脅迫し,同人らの反抗を抑圧して,同支店支店長G
管理の現金30万円を強取した。
第4 金員を強取しようと企て,同月28日午後2時10分ころ,同市j町k丁目
l番株式会社H銀行I支店において,窓口カウンター上にショルダーバッグを置い
た上,同支店行員J(当時30歳)らに対し,所携のけん銃を突き付け,「これに
金を詰めろ。」などと言って脅迫し,同人らの反抗を抑圧して金員を強取しようと
したが,その場にいた顧客K(当時76歳)外2名に取り押さえられたため,その
目的を遂げなかった。
第5 法定の除外事由がないのに,同日時ころ,同所において,自動装てん式けん
銃1丁をこれに適合する実包1発と共に携帯して所持した。
(法令の適用)
該当罰条     
判示第1及び第3の各行為  いずれも刑法236条1項
判示第2の行為       刑法234条,233条
判示第4の行為       刑法243条,236条1項
判示第5の行為       銃砲刀剣類所持等取締法31条の3第2項,1項,
              3条1項
刑種の選択判示第2の罪について懲役刑
併合罪加重         刑法45条前段,47条本文,10条(刑及び犯情
              の最も重い判示第3の罪の刑に同法14条の制限内
              で法定の加重)
未決勾留日数の算入     刑法21条
没 収           刑法19条1項1号,2項本文(けん銃1丁及びけ
              ん銃用実包1発は,被告人が解体した建物内から発
              見し所持するに至ったものであり,被告人の発見
時,              原所有者はこれらの所有権を放棄したものと推
認さ              れ,無主物であったと認定した。)
訴訟費用の負担       刑訴法181条1項本文
(量刑の理由)
 本件は,銀行,サラ金等に対する借金等の返済に窮した被告人が,銀行強盗を行
うことを企て,まず,銀行強盗の犯行に用いるための自動車を強取し(第1事
実),次いで,信用金庫において現金30万円を強取し(第3事実),さらに,銀
行において強盗に着手したが未遂に終わった(第4事実)強盗及び強盗未遂の事
案,第4事実の際,けん銃1丁を適合実包1発と共に携帯して所持したけん銃加重
所持の事案(第5事実),第1事実の後に行うことを企てた強盗の捜査をあらかじ
め混乱させようとして,県庁に爆弾を仕掛けた旨の電話を架け職員等に避難を余儀
なくさせた威力業務妨害の事案(第2事実)である。
 本件の信用金庫及び銀行に対する強盗(第3及び4事実)は,被告人が事業や先
物取引の失敗などにより負った債務の返済のために,本件のその余の犯行(第1,
第2及び第5事実)はこれらの銀行等に対する強盗等の実行を容易にするために行
われたもので,そのいずれも利欲的かつ自己中心的な犯行の動機に酌量の余地はな
い。
 また,本件各強盗は,いずれもスタンガン,ガソリンと灯油の混合液やシンナー
等の犯行を容易にするための道具,逃走用の自転車,逃走の際に自動車に備え付け
るナンバーを準備するなどした上で,けん銃を用いて敢行されており,計画的で人
の死傷の結果さえ発生しかねない危険な態様である。
 さらに,本件各強盗のうち一件は未遂に終わったものの,その他の2件において
は時価120万円相当の乗用車や,現金30万円を強取しており,各被害者らの財
産的被害も大きい。
 加えて,本件各強盗は年末の約1か月間という短期間に連続して前橋市及び隣接
する伊勢崎市内において敢行されたことから,金融機関関係者や地域住民等に大き
な不安を抱かせたと思われるし,被告人も銀行強盗を題材にした映画の広告を見て
本件各犯行を思い立ったと述べているように,この種犯行は模倣性が強いことも併
せ考えると,本件各強盗が社会に与えた影響は小さくない。
 次に,本件けん銃加重所持の犯行は,銀行強盗目的によるけん銃等の所持であ
り,その態様は極めて悪質である。
 さらに,本件威力業務妨害の犯行は,約2000人もの県庁職員等に約1時間3
0分もの間,県庁からの避難を余儀なくさせ,県庁の業務を著しく妨害したもので
あり,その結果は重大であるし,被告人が爆弾を仕掛けたなどと虚偽を述べたこと
によって,周辺住民及び地域社会にも大きな不安を与えたもので,その犯情は悪質
である。
 以上のとおりの,本件各犯行の動機,態様,結果等を併せ考えると被告人の刑事
責任は重い。
 他方,被告人は,捜査段階から素直に事実関係を認め反省の態度を示しているこ
と,幸いなことに,本件各犯行によりさしたる人身上の被害を生じなかったこと,
被告人に代わってその父親が,本件各強盗の被害者に対して謝罪し,このうち自動
車強盗の被害者との間に示談を成立させ,信用金庫に対する強盗について,信用金
庫に対する保険給付を行った保険会社に対する被害弁償を行い,信用金庫に対して
も10万円を支払い示談を成立させたほか,県庁に対しても謝罪を行ったこと,被
告人には交通罰金前科のほかに前科がないこと,被告人の父親が公判廷で被告人の
今後の監督を誓っていること等被告人のために酌むべき事情も認められる。
 そこで,これらの事情一切を総合考慮し,被告人を主文の刑に処するのが相当と
判断する。
(求刑 懲役10年・没収)
(公判出席 検察官関夕三郎 私選弁護人戸枝太幹)
平成14年9月12日
前橋地方裁判所刑事部
        裁判長裁判官   長谷川 憲一
           裁判官   吉井  隆平
           裁判官   丹下  将克

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