弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     原判決中主文第六項の第三訴因(麻薬中毒患者の診断に関する届出義務
違反の事実)について被告人を免訴するとの部分を除きその余の部分を破棄する。
     本件を福岡高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 福岡高等検察庁検事長宮本増蔵の上告趣意について
 本件公訴事実中の訴因第一の要旨及び原判決は、医師で麻薬施用者としての免許
を受けている被告人が昭和二三年七月一〇日頃から同年九月三〇日頃まで、及び昭
和二六年八月一〇日頃から同年一〇月一六日頃までの間前後七六回にわたり同判決
添附の犯罪表(14)から(89)までのとおり、いずれも肩書居宅診療所におい
て麻薬中毒患者であるAに対しその中毒症状を緩和するため麻薬塩酸モルヒネ注射
七六本(計五八・九ミリグラム)を施用した旨の事実を認定し、被告人の右各所為
は各旧麻薬取締法(昭和二三年法律一二三号)三九条、五七条一項、二項、刑法四
五条前段、四七条、一〇条、四八条に該当するとした上右訴因中の昭和二三年六月
一五日頃から同年七月九日頃までの麻薬施用の事実(起訴状添付の犯罪表1から1
3までの事実)については麻薬取締規則三五条、五六条一項一号にあたる罪である
から、本件の公訴提起前に公訴の時効が完成したものとして免訴の言渡をしている
ことは、所論のとおりである。
 そこで、事件公訴事実中の訴因第一(起訴状添付の犯罪表を含む)を調べてみる
と、被告人は医師を開業し、麻薬施用者として免許を受けているものであるが、昭
和二三年六月一五日頃より同年九月三〇日頃までの間五四回(以下一の所為という)
及び昭和二六年八月一〇日頃より同年一〇月一六日頃までの間三五回(以下二の所
為という)にわたり、自宅診療所において麻薬中毒患者であるAに対し、その中毒
症状を緩和する目的をもつて麻薬である塩酸モルヒネ注射八九本(〇・六九二瓦)
を施用したというのであつて、右一、二の各所為は、それぞれ各行為の間に時間的
連続と認められる関係が存し、同一の場所で一人の麻薬中毒患者に対しその中毒症
状を緩和するために麻薬を施用するという同一事情の下において行われたものであ
ること原判決が有罪の言渡をした右事実につき挙示している証拠からも窺われ、か
つ、いずれも同一の犯罪構成要件に該当し、その向けられている被害法益も同一で
あるから、単一の犯意にもとづくものと認められるのであつて、右一、二の各所為
は、それぞれ包括一罪であると解するのが相当であり、独立した各個の犯罪と認定
すべきではない。
 しかるに、原判決は前示のように免訴の言渡をした部分を除く、被告人の七六回
にわたる麻薬施用の所為を刑法四五条前段所定の併合罪にあたるとしたのは、所論
引用の原判決の言渡前になされた仙台高等裁判所の判決と相反する判断をしたもの
であるといわなければならない。そして、被告人の右一の所為が包括一罪であると
すると、該所為は旧麻薬取締法(昭和二三年法律一二三号)三九条、五七条の五年
以下の懲役又は五万円以下の罰金に該当する罪であるから、公訴の時効は犯罪行為
の終つた日から五年の期間を経過することにより完成するものである。記録による
と、被告人が右一の所為をなしてより五年の期間を経過していない昭和二七年四月
二二日に検察官から公訴の提起があつたことは起訴状により明らかであるから、公
訴の時効は完成していないのであつて、原判決が前示第一訴因中の昭和二三年六月
一五日から同年七月九日頃までの麻薬施用の事実について、被告人を免訴するとの
言渡をしたことも違法であり、右の違法は原判決を破棄しなければ著しく正義に反
するものと認められる。
 よつて、刑訴四一〇条、四一一条一号、四一三条本文に従い、裁判官全員一致の
意見で主文のとおり判決する。
 検察官 宮崎三郎出席
  昭和三一年八月三日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    栗   山       茂
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    池   田       克

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