弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
       本件上告を棄却する。
       上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人藤原正廣,同児嶋香里の上告受理申立て理由について
 1 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
 (1) 被上告人らは,本件造成住宅地内の宅地である本件各土地を所有している。
本件造成住宅地に接する県道には,水道事業者である小野市が水を供給するため管
理する配水管と本件造成住宅地内の下水を土地改良区が管理する水路まで排出する
ための排水管が敷設されている。本件造成住宅地内の通路である本件道路は小野市
の所有である。本件各土地から県道までは,相当な距離があり,両者は本件道路及
び他人所有の造成区画により隔てられている。
 (2) 上告人は,本件道路の下に,県道下にある上記配水管及び排水管と本件造
成住宅地内にある各造成区画の給排水設備とを接続するための本件給排水管施設を
設置した。
 (3) 本件給排水管施設は,現在上告人が所有管理し,他の造成区画の給排水の
ため現に使用されている。
2 本件は,被上告人らが,上告人に対し,本件各土地の給排水のために,本件給
排水管施設の使用の承諾を求める事案である。
 3 【要旨】宅地の所有者は,他の土地を経由しなければ,水道事業者の敷設し
た配水管から当該宅地に給水を受け,その下水を公流又は下水道等まで排出するこ
とができない場合において,他人の設置した給排水設備をその給排水のため使用す
ることが他の方法に比べて合理的であるときは,その使用により当該給排水設備に
予定される効用を著しく害するなどの特段の事情のない限り,民法220条及び2
21条の類推適用により,当該給排水設備を使用することができるものと解するの
が相当である。その理由は,次のとおりである。 
 民法220条は,土地の所有者が,浸水地を乾かし,又は余水を排出することは
,当該土地を利用する上で基本的な利益に属することから,高地の所有者にこのよ
うな目的による低地での通水を認めたものである。同法221条は,高地又は低地
の所有者が通水設備を設置した場合に,土地の所有者に当該設備を使用する権利を
認めた。その趣旨とするところは,土地の所有者が既存の通水設備を使用すること
ができるのであれば,新たに設備を設けるための無益な費用の支出を避けることが
できるし,その使用を認めたとしても設備を設置した者には特に不利益がないとい
うことにあるものと解される。ところで,現代の社会生活において,いわゆるライ
フラインである水道により給水を受けることは,衛生的で快適な居住環境を確保す
る上で不可欠な利益に属するものであり,また,下水の適切な排出が求められる現
代社会においては,適切な排水設備がある場合には,相隣関係にある土地の高低差
あるいは排水設備の所有者が相隣地の所有者であるか否かにかかわらず,これを使
用することが合理的である。したがって,宅地の所有者が,他の土地を経由しなけ
れば,水道事業者の敷設した配水管から当該宅地に給水を受け,その下水を公流又
は下水道等まで排出することができない場合において,他人の設置した給排水設備
をその給排水のため使用することが他の方法に比べて合理的であるときは,宅地所
有者に当該給排水設備の使用を認めるのが相当であり,二重の費用の支出を避ける
ことができ有益である。そして,その使用により当該給排水設備に予定される効用
を著しく害するなどの特段の事情のない限り,当該給排水設備の所有者には特に不
利益がないし,宅地の所有者に対し別途設備の設置及び保存の費用の分担を求める
ことができる(民法221条2項)とすれば,当該給排水設備の所有者にも便宜で
あるといえる。
 4 これを本件について見ると,本件各土地と県道との位置関係,本件給排水管
施設が設置された経緯,その現況等前記の事実関係の下においては,被上告人らは
,他の土地を経由しなければ,本件各土地に前記配水管から給水を受け,本件各土
地の下水を前記水路まで排出することができないのであり,その給排水のためには
本件給排水管施設を使用することが最も合理的であるというべきである。そして,
本件において,被上告人らが本件給排水管施設を使用することにより現にされてい
る給排水に支障を生ずるとは認められず,他に本件給排水管施設に予定された効用
を著しく害するような事情をうかがうこともできない。そうすると,上告人は,被
上告人らによる本件給排水管施設の使用を受忍すべきである。
 5 以上と同旨の見解に基づき,上告人が被上告人らに対して本件給排水管施設
の使用を承諾すべき旨を命じた原審の判断は,本件給排水管施設の使用を受忍すべ
き義務があることを確認する趣旨のものとして,正当として是認することができる。
原判決に所論の違法はなく,論旨は採用することができない。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 上田豊三 裁判官 金谷利廣  裁判官 奥田昌道 裁判官 濱
田邦夫)

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