弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人桑名邦雄の上告理由第一点について。
 論旨は、第一審判決を引用した原判決が、第二回審査請求の取下が上告人本人の
意思に基きなされた旨の事実を認定するにつき、甲九号証の一、二、三(建物電話
差押調書)、甲一〇号証の一、二(差押調書謄本等送付通知、従物に効力が及ぶ旨
の通知)甲一三号証(告発事件解決後決定見込の通知)及び証人Dの証言を認定資
料に供しなかつたことは違法であると主張する。
 しかし、所論甲号証は原審認定の妨げとなるものでないことは明らかであり、D
証人の証言も原審認定の妨げとなるものではない。原判決にその旨の判示はないが、
原判決には当然、右趣旨の判断が含まれていると解されるから、所論の違法はない。
 同第二点について。
 論旨は、原判決が、上告人が原審口頭弁論で陳述した第二回準備書面記載事実を
判決に記載せず、これにつき審理判断しなかつたことが違法である、というが、し
かし、所論準備書面記載の事実は、第二回審査請求の取下が本人の意思に基きなさ
れたものであることを否認する事情に属する事実に過ぎないから、これを判決事実
摘示中に記載しなかつたからといつて違法とはいえない。また、原判示の場合、理
由中の判断においては、取下が本人の意思に基くものであるかどうかにつき判断を
示せば足り、否認の事情にわたる具体的事実につき一々判断を示すことを要するも
のではない。原判決に所論の違法はない。
 同第三点について。
 論旨は、原審判決が一方で第二回審査請求の取下は上告人の妻の依頼に依り行わ
れたといい、他方で右取下は上告人本人の依頼に基き行われた旨判示したのは、前
後矛盾する判断である、というが、しかし、所論指摘の判示は、上告人本人に取下
の意思を生ずるに至るまでの経過的事情として、初めは妻の依頼で桑名が奔走を始
めたが、結局、上告人本人も取下の意思となり、取下書が提出されるに至つた旨認
定したものであるから、原判決に所論のような矛盾があるとはいえない。
 同第四点について。
 原審挙示の証拠により原審認定の事実を認定したことが、とくに不合理で、経験
則に反するとはいえない。所論は、原審の事実認定ないし証拠の取捨選択を非難す
るに帰し採用できない。
 同第五点について。
 原審は、「審査請求を取り下げれば告発を取り消す旨約したので上告人がこれを
信じて審査請求を取り下げた」との事実は認められない旨を認定したものであつて、
原判決の全趣旨によればD証人の証言中右認定に反し上告人の主張に添う部分は採
用しない旨の判断を含むものと解されるから、原判決に所論のような違法があると
はいえない。
 同第六点(1)について。
 第三回更正決定に理由の附記がないから違法である旨の主張は、原審においてな
されていない。仮に主張があつたとしても、国税徴収法三一条の三は、審査決定に
関する規定であつて、更正決定に関する規定ではなく、更正については、もつぱら、
財産税法四六条、四九条の規定が適用され、右財産税法の規定によれば、更正決定
に理由を附記する必要のないことは明らかであるから、所論はとるに足りない。
 同(2)ないし(5)について。
 財産税法に基く審査決定については、国税徴収法に対し特別法の関係にある財産
税法の規定が適用され、従つて理由の附記を要しないこと原審判示のとおりである
が、仮に理由の附記を要するとしても、理由の附記がないことにより審査決定は取
り消し得べき瑕疵を帯びるに過ぎず、当然無効となるものとはいえない。
 そして、原審の確定するところによれば、上告人は、第三回審査決定の受領を拒
んだので、国税徴収法四条の一〇により公告がなされた(この場合、公告の初日す
なわち昭和二六年八月一〇日から七日を経過した日に決定の送達があつたものと看
做される)というのであるから、第三回更正決定に対する出訴期間は、行政特例法
五条一項、四項により、審査決定のあつたことを知つた日(すなわち審査決定の送
達があつたと看做される日)から六箇月と解すべきものであり、従つて第三回更正
決定の取消を求める本件訴訟は、出訴期間経過後のものとして不適法と解すべきこ
とは、原審判示のとおりである。なお、所論「正当の事由」云々の問題は、行政特
例法五条三項の除斥期間に対する除外例とし問題となるに過ぎず、同条一項の適用
がある場合には(不変期間の追完の問題はあつても)正当事由の問題はおこりえな
い。従つて、原審が本件の場合行政特例法五条三項但書の適用がないとしたことも
正当である。
 次に、第四回審査請求は、第二回更正決定に対するものであるが、原審の確定す
るところによれば、第二回更正決定が上告人に通知されたのは昭和二三年六月一六
日であるから、その日から一箇月の経過により審査請求の申立期間は徒過されてお
り、昭和二七年九月一日提出された第四回審査請求が不適法のものであることは明
らかである。従つて、右審査請求によつて第二回更正決定に対する出訴期間の進行
を阻止しうるものではない。もつとも、上告人は、第二回更正決定に対し、一旦、
法定期間内である昭和二三年七月一一日に適法に審査請求をしているが、原審の認
定するところによれば、右審査請求は、上告人本人の意思により同年一二月一六日
に取り下げられたというのである。従つて、第二回の更正決定に対する出訴期間の
進行が適法な審査請求の提起により阻止されたということは、本件では、あり得な
い。
 ところで、第二回更正決定のなされた昭和二三年六月一六日当時においては、行
政処分に対する出訴につき訴願前置主義は採用されておらず、出訴期間については、
民訴応急措置法により処分を知つた日から六箇月とされていたが、同年七月一五日
行政特例法が施行され、行政処分に対する出訴につき訴願前置主義が採用され、同
法は、同法施行前の処分に対する出訴についても適用されることとなつたので、同
法施行後は、更正決定に対する出訴についても、審査決定を経由しなければならな
いこととなり、従つて審査請求期間の徒過により審査請求の途がなくなれば、これ
により出訴も許されないこととなるわけであるが、原審認定によれば、第二回更正
決定に対し一旦適法に提起された審査請求は取り下げられ(特例法施行後)、その
後法定期間内に適法な審査請求がなされなかつたことは明らかであるから、第二回
更正決定に対しては、行政特例法二条により、もはや出訴の途がなくなつたものと
解すべきことは、原審判示のとおりである。また、原審認定の事情の下では、ただ
ちに、審査決定を経ないで出訴することにつき正当の事由があるといい得ないこと
も原審判示のとおりである。
 なお、論旨は、昭和二五年法律六九号施行前には出訴期間の定めはなかつた旨を
いうが、同法施行(昭和二五年四月一日)前においても、行政処分に対する出訴に
ついては、民訴応急措置法ないし行政特例法により、出訴期間の定めは存在してい
た。もつとも過払払戻請求訴訟については、右法律六九号の施行の前後を問わず、
現在においても、出訴期間の定めは存在しないが、原審は、国に対する過払払戻請
求訴訟が出訴期間の徒過により不適法であるとしたわけではなく、更正決定の取消
を求める途がなくなつた以上、更正決定の取消を前提とする過払払戻請求は理由が
ないとしたものである。過払払戻請求には出訴期間の定めがないとしたとの論旨は、
原判決を正解せざるにいでたもので採ることができない。
 同第七点について。
 論旨は、過払払戻請求の訴訟において、裁判所が更正決定の当否につき実質的審
理をしなかつたことを非難するが、しかし、過払払戻請求は、更正決定の取消を前
提とするものであるが、更正決定に対しもはや出訴の途がなくなつた以上、裁判所
は過払払戻請求訴訟の前提問題として判断する場合においても、更正決定を適法の
ものとして審理判断せざるを得ず、その当否につき実質的審判をする余地はない。
従つて、過払払戻請求訴訟において裁判所が更正決定の当否につき実質的審判をし
なかつたことは何等違法ではない。もつとも、更正決定が当然無効と認められる場
合は別であるが、刑事事件の無罪判決により更正決定が当然無効となるものとは解
されず、その他原審認定の事情の下で本件更正決定を当然無効のものと解すべき事
由を発見しえない。論旨は採用できない。
 よつて、民訴三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、
主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    垂   水   克   己
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    高   橋       潔
            裁判官    石   坂   修   一

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