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平成24年5月31日判決言渡
平成21年(ワ)第772号不当利得返還請求事件
口頭弁論終結日平成24年3月7日
主文
1被告は,原告に対し,4431万8165円及びこれに対する平成21
年8月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2原告のその余の請求を棄却する。
3訴訟費用はこれを20分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の
負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告は,原告に対し,4544万8526円及びこれに対する平成21年8
月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,被告がA協同組合に売り渡し,Aが原告に転売したMA丸米(ガッ
ト・ウルグアイラウンドの農産物貿易自由化交渉後における最低限度の市場参
入機会の枠内で輸入された外国産米穀であって,変形加工せず米粒の状態(い
わゆる丸米)で販売することが予定されているものをいう。)を,原告が契約
に違反して処分したことを理由として,原告がAへ,Aが被告へと順次支払っ
た違約金4544万8526円について,原告が,当該違約金の支払義務はな
かったと主張して,被告に対し,民法703条に基づき,同額の金員及びこれ
に対する訴状送達の日の翌日である平成21年8月5日から支払済みまで民法
所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1前提事実(争いのない事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨により容易に認
められる事実)
(1)当事者について
ア原告は,精米業及び米穀・酒造用米・米穀粉の卸売り等を目的として昭
和51年7月に設立された資本金2000万円の株式会社である。
原告は,平成19年当時,主食用及び加工用白米,加工用酒米,酒造用
及び米菓用原料米,米粉並びに和菓子用原料米の製造・販売等を主な業と
しており,従業員数は45名で,売上高は同年6月決算期において約29
億4634万円であった。
(甲8,54,59,原告代表者本人,弁論の全趣旨)
イAは,米穀粉(上新粉・白玉粉・もち粉等の米を原材料とする穀粉)製
造業の発展・育成を目的として昭和34年5月22日に中小企業等協同組
合法に基づき設立された,全国各地に岐阜県支部等の支部組織を有する組
合であり,原告はその組合員であった(弁論の全趣旨)。
(2)外国産米穀の輸入とその流通等について
わが国の主要な食糧である米穀については,主要食糧の需給及び価格の安
定に関する法律(以下「食糧法」という。)の下で,基本的には市場原理に
任せながらも,その重要性に鑑み,国が需給見通しを含む基本指針を立て,
生産調整の円滑な推進のための助言指導や備蓄の機動的な運営等を通じて需
給及び価格の安定を図ることとしている。
国内における米穀の需給は,昭和40年代以降,供給過剰が恒常化し,こ
のような状態を是正するため同46年から現在に至るまで生産調整(いわゆ
る減反政策)が実施されてきた。このような需給状態にあって,従来外国産
米穀の輸入は極力制限されてきたが,米の市場開放への圧力もあり,ガット・
ウルグアイラウンドの農産物貿易自由化交渉において,これまで輸入をほと
んど行わなかった米穀についても最低限度の市場参入機会(ミニマム・アク
セス機会)を提供することとされたことから,平成7年から外国産米穀の輸
入が開始され,同年には年間42.6万トン,同12年以降は年間76.7
万トンの外米を輸入することとなった(以下,ミニマム・アクセス機会の枠
内で輸入された外国産米穀のことを「MA米」という。)。
MA米の輸入に当たっては,国内産主食用米穀の需給に極力影響を与えな
いようにするため,その大部分を国が一元的に輸入する国家貿易方式が採用
された。さらに,政府の所有するMA米は,流通の面でも,主に,価格等の
面から国産米では十分に対応できない加工原材料用(主として,味噌,焼酎
及び米菓等の加工食品の原材料)や援助用(ODAの一環として発展途上国
への援助用)等に供することとされた。ただし,加工原材料用等の需要はM
A米の輸入数量ほど多くなかったため,MA米の在庫量は年々増加して平成
18年10月末には189万トンとなり,同年度から飼料用(鳥及び豚の餌
等)への販売も新たに開始され,相当の財政負担を伴いながらも在庫量の縮
減が図られた。その結果,同20年度にはMA米の在庫量は97万トンに減
少した。
もっとも,MA米の一部には,SBS(売買同時契約)輸入方式(輸入業
者と国内の実需者がペアで国の入札に参加し,国と落札ペアの3者間で特別
売買契約を締結するとともに,国が輸入業者からの買入れと実需者への売渡
しを同時に行う方式。)が導入されており,国家貿易の枠内で,実質的な民
間取引(輸入業者と国内の実需者との直接取引)が認められている。
(乙19,23,弁論の全趣旨)
(3)政府が所有するMA米の販売に関する通達による取扱い等について
政府が所有するMA米を加工原材料用(米穀を原料又は材料として使用す
る製造又は加工の用をいう。)に販売する場合の販売方法等に関しては,通
達によれば,次のとおりとなっている(ただし,SBS輸入方式を除く。)。
ア関係通達
政府の所有するMA米を加工原材料用に販売する場合の取扱い及び販売
方法については,政府所有米穀の販売要領(平成16年3月31日付け1
5総食第829号総合食料局(現在の生産局。以下同じ。)長通知。以下
「政府販売要領」という。乙13),加工原材料用に係る政府所有ミニマ
ム・アクセス米の定例販売等実施要領(平成16年4月1日付け15総食
第925号総合食料局長通知。以下「実施要領」という。乙14)及び加
工原材料用米穀の販売要領(平成16年8月20日付け16総食第393
号総合食料局長通知。以下「加工米販売要領」という。甲2,乙21(た
だし,本件に関するMA米の販売後である平成19年9月12日付け一部
改正前のもの。同改正の新旧対照表は,乙52。))に基づくこととされ
ている(主な内容は,別紙1記載のとおり。)。
イあらかじめ「変形加工」して販売する原則と買受申込資格について
政府が所有する国内産米穀及び外国産米穀を加工原材料用に販売するに
当たっては,国内産主食用米穀の需給に影響を与えないようにするため,
加工原材料用に販売された米穀が主食用として横流しされないことを担保
する必要があることから,買受けの申込みができる者(以下「買受申込資
格者」といい,買受けの申込みができる資格のことを「買受申込資格」と
いう。)を,通常の政府所有米穀の販売における売渡対象者から更に制限
し,その所有する工場が一定の加工能力を有するなど,確実に買い受けた
米穀を加工の用に供すると考えられる者として買受申込資格者の確認を受
けた者(その者を直接又は間接の構成員とする事業協同組合等でその構成
員のため米穀の買受事業を行う者(以下「組合等」という。)を含む。)
としている(加工米販売要領第3の1)。
また,加工原材料用米穀は,国内産主食用米穀と異なる形状で売り渡す
こととしており,農林水産省総合食料局長(以下「局長」という。)は,
米粒の状態(いわゆる丸米)の米穀を,原則として変形加工(破砕)した
上で販売することとなっている(加工米販売要領第2の2)。もっとも,
加工原材料用の米穀であっても,調味料用(味噌,醤油),菓子用(米菓
子,和菓子)などに供されるものの中には,丸米のまま製品化されるもの
もあり,米穀を変形加工せずに販売する必要があることから,加工米販売
要領第2の2ただし書き記載の5つの用途のうち,買受申込資格者が使用
する工場の所在地等の地方農政事務所長又は局長が丸米での使用を認めた
場合には,変形加工を行わずに販売できることとされている(加工米販売
要領第2の2ただし書き)。
この場合,変形加工せずに販売された米穀については,主食用米穀に横
流しされるおそれがより高まることから,買受申込資格につき更に厳格な
審査が必要として,丸米での使用理由や製品製造上の使用方法,製造予定
製品名等について厳格な審査を実施した上で資格者の確認をすることとさ
れている(加工米販売要領第4の1(1)イ(オ)及び(2)。以下,変形加工し
ない形状(丸米)の加工原材料用米穀の買受申込資格のことを「加工原材
料用米穀(丸米)の買受申込資格」という。買受申込資格者の確認等につ
いても同じ。)。
加工原材料用米穀の買受申込資格者の確認を受けようとする者は,使用
する工場の所在地の地方農政事務所長に加工原材料用米穀買受申込資格者
確認申請書(以下「確認申請書」という。)及び後記添付書類を提出する
(加工米販売要領第4の1(1))。提出を受けた地方農政事務所長は,提出
された内容を審査し,後記の要件に該当し,米穀の適正かつ円滑な流通を
確保する上で適当であると認めたときは,加工原材料用米穀買受申込資格
者確認通知書(以下「確認通知書」という。)を交付する(加工米販売要
領第4の1(2))。
確認申請書の提出にあたっては,同申請書に用途を記載するとともに,
「法若しくは法の規定に基づく命令,令,規則,本要領又は関係通知に違
反しない旨の誓約書」や「工場設備状況報告書(申請者が組合等の場合に
あっては,買い受ける米穀を使用する構成員の名簿及び当該構成員別の工
場設備状況報告書)」等の添付書類の提出を要し,政府から丸米のまま買
い受けようとする者にあっては,さらに丸米での使用理由,製品製造上の
使用方法及び製造予定製品名を記載した書類の提出を要する(加工米販売
要領第4の1(1)ア又はイ)。
そして,所在地の地方農政事務所長による確認通知書の交付に際して満
たすべき要件としては,申請者(申請者が組合等の場合にあっては,当該
組合等の構成員)が,当該加工原材料用米穀を自己の行う製造又は加工の
用に供することが確実と認められる者であり,また,そのために必要な施
設を使用する権原を有し,かつ,1か月以内に稼働させることが可能な者
であることが認められること等や(加工米販売要領第4の1(2)アないし
オ),さらに,丸米のまま買い受けようとする者にあっては,上記のとお
り,当該丸米を確実に加工用途として使用する者であると認められること
(加工米販売要領第6の1(1))である。
交付される確認通知書には,「加工原材料用米穀(○○用)の買受申込
資格者としての資格があると認めましたので通知します。」という文言が
記載され,買受申込資格者の確認が,申請者が申請した用途に限定される
ことが示される。もっとも,平成19年9月12日付けで加工米販売要領
が一部改正されるまで,確認通知書には,買受申込資格者の確認がされた
米穀の種類が,変形加工又は丸米のいずれであるかを示す記載はされてい
なかった(加工米販売要領第4の1(2),様式4号。乙21,52(6枚目))。
所在地の地方農政事務所長は,申請者に対し確認通知書を交付したとき
は,遅滞なく,加工原材料用米穀買受申込資格者確認名簿(以下「買受申
込資格者名簿」という。)を作成するとともに,その写しを局長に提出す
る(加工米販売要領第4の1(4),様式5号)。
(以上,甲2,乙21,52,弁論の全趣旨)
ウMA米販売の手順
政府の所有するMA米販売の手順は,次のとおりとされている。
①MA米の販売対象者の所在地の地方農政事務所長等(以下「所在地所
長」という。)は,局長から通知された販売予定のMA米(輸入年度,
国別の産地,うるち米・もち米や玄米・精米・破砕精米等と区別した種
類,数量)及び買受申込書の提出期限を,販売対象者に通知する(実施
要領第5の1)。変形加工を行わない米穀(玄米,精米),すなわち丸
米の場合,販売対象者は,政府米の売渡対象者(政府販売要領第2の1
参照)のうち,加工米販売要領第4の買受申込資格者の確認を受けた者
(以下「買受資格者」という。)及び買受資格者を間接又は直接の構成
員とする組合等である(実施要領第4,加工米販売要領第3の1)。
②MA米の買受申込みを行おうとする販売対象者(以下「買受申込者」
という。)は,米穀の買受申込数量及び買受申込価格等を記載した買受
申込書を,販売を希望する場所の地方農政事務所長等(以下「販売地所
長」という。)あてに提出する。なお,買受申込者が組合等である場合
においては,組合員別明細を添付する。(実施要領第5の2)
③提出された買受申込書について販売地所長から報告を受けた局長は,
メニュー毎に,買受申込者のうちから,買受申込価格が売渡予定価格以
上のもののうち,原則として価格の高い者から順次販売予定数量に達す
るまで,その申込数量を当該買受申込者に対する販売米穀として決定す
る(実施要領第5の4)。
上記①ないし③による方法を定例販売という。これによって販売予定
数量に達しなかったときは,別途,購入を希望する販売対象者に対し随
時販売を行う。これをスポット販売という(実施要領第6)。
なお,所在地所長は,局長の指示に従い必要に応じて,買受申込者の
加工原材料用米穀の買受見込数量等を聴き取る。また,所在地所長は,
加工原材料用米穀(丸米)の買受資格者(加工米販売要領の原文では,
「丸米用途向け米穀の買受資格者」とされている。)から,丸米用途向
け米穀の買受けの申込みがあった場合の審査にあたっては,関係帳簿等
により,政府米以外の米穀の買受状況等も確認の上,必要に応じて製品
見本等の提出を求め,当該買受申込資格者の丸米使用製品の原料米加工
能力を超えた申込みでない等当該希望数量が適正なものであるか否かを
審査する。(加工米販売要領第5及び第6の1(2))
④局長は,③により買受申込者別の販売米穀を決定したときは,販売地
所長に通知する。販売地所長は,局長による通知に基づき,「販売決定
通知書」を作成し,当該買受申込者に対し販売米穀の種類,販売決定数
量,販売決定価格等を通知する。(実施要領第5の5,甲49ないし5
3の各4)
⑤①ないし④により政府所有MA米を買い受けることが決定した者(以
下「買受者」という。)は,④の通知を受けた後速やかに,「加工原材
料用米穀(外国産)引取申請書」(以下「引取申請書」という。)を販
売地所長に提出する。MA米の引取りに当たっては,販売を決定した数
量を一括で買い受けるか又は分割して買い受けることができるとされて
いるところ,買受者は,引取申請書を提出して一括して買い受けるのか,
分割して買い受けるのかを意思表示する。分割して買い受ける場合には,
引取申請書に,分割して買い受ける買受希望日,受渡し希望場所,数量
等を記載する。(加工米販売要領第3の3参照,乙56)
⑥販売対象米穀が保管されている地域の地方農政事務所の分任契約担当
官(地方農政事務所の所在する府県にあっては地方農政事務所長。以下
「分任契約担当官」という。)は,⑤の買受者に対する販売決定の通知
後,速やかに買受者との間で政府所有主要食糧売買契約(以下「MA米
基本契約」という。)を締結する(実施要領第7,加工米販売要領第3
の3)。契約書には,局長通知である「政府所有主要食糧売買契約書の
制定について」(平成16年4月1日付け15総合第2878号。乙5
5)によって,政府所有の加工材料用米穀一般の販売について,定型的
な書面として広範に使用することができるような仕様として定められた
「政府所有主要食糧売買契約書」(乙55の5枚目以降。なお,本件で
被告とAとの間で締結された基本契約においても,これらの定型書式が
使用された。)を用いる(加工米販売要領第3の3(1))。また,売買契
約書には,別紙2を付録として添付することとされている(加工米販売
要領第3の3(2))。
⑦⑤の分割受渡契約の場合,分任契約担当官は,MA米基本契約2条2
項(なお,以下,契約条項を挙げる場合は,本件でも使用された様式第
2号の3[乙55の44枚目]の定型文言を指す。)に基づき,提出さ
れた引取申請書による申請を踏まえ,受け渡す米穀の数量,代金,現品
受渡場所,現品受渡期限及び代金納付期限を,分割受渡しの都度決定し,
買受者に通知する。なお,分割受渡契約の場合には,MA米基本契約1
条により,同2条2項によって決定した数量の合計数量が同基本契約に
係る売買数量となる。
⑧買受者は,MA米基本契約3条1項に基づき,「請書」を分任契約担
当官に提出する。請書の書式は,契約書の別紙様式とされているもので,
上記⑥の局長通知によって定められたものである。
⑨局長又は分任歳入徴収官(地方農政事務所の所在する府県にあっては
地方農政事務所長。)は,MA米基本契約5条に基づき,買受者に対し
「納入告知書」を発行し,買受者は代金納付期限までに代金を納入する
(政府販売要領第3の14)。
⑩分任物品管理官(地方農政事務所の所在する府県にあっては地方農政
事務所長。)は,MA米基本契約8条に基づき,買受者に「荷渡指図書」
を発行する。買受者は,倉庫業者等に荷渡指図書を呈示して現品の引渡
しを受ける。(政府販売要領第3の15)
(以上,甲2,乙1ないし5,13,14,21,55,56,弁論の全
趣旨)
エ局長は,平成16年8月20日,「「加工原材料用米穀の販売要領」の
制定並びに「政府所有主要食糧売買契約書の制定について」及び「政府所
有主要食糧売買契約締結に基づく請書等の記載方法について」の一部改正
について」と題する書面をもって,Aを含む各種団体の長あてに,加工米
販売要領を制定したこととその内容及び政府所有主要食糧売買契約書の記
載方法等に係る平成16年4月1日付け15総合第2878号総合局長通
知を改正したことを通知する文書を発出した(乙53の1)。
(4)本件における違約金支払に至る経緯等
ア原告の加工原材料用米穀の買受申込資格等
原告は,昭和59年12月19日付けでうるち米を米穀粉用に買い受け
ること及び同62年7月31日付けでもち米を米穀粉用に買い受けること
について,他用途利用米実施要綱(昭和59年4月28日付け59食糧業
第447号(企画・買入・需要)農林水産事務次官依命通達)及び加工米
販売要領の前身である他用途利用米流通・加工実施要領(昭和59年4月
28日付け59食糧業第472号(需給)。以下「他用途利用米要領」と
いう。乙15,22)に基づく食糧庁長官による他用途利用米需要者(需
要者団体)の認定を受けている。なお,他用途利用米要領においては,他
用途利用米需要者(需要者団体)としての認定を受けようとする者が,他
用途利用米を,変形加工を行わずうるち玄米の形状で買い受ける希望があ
る場合は,これらの米穀を使用しなければならない理由,製品の製造方法,
製品の製造工程におけるうるち玄米の使用方法等を記載した書類等を提出
する必要があるとされていたが,原告がこれらの書類等を提出して上記認
定を受けたことはなかった。(乙15,22,弁論の全趣旨)
上記他用途利用米要領に基づく認定を受けたことにより,原告は,加工
原材料用米穀の売却要領(平成7年11月1日付け7食糧業第837号。
乙16)第10の2及び加工米販売要領第8の2(1)の各経過措置の定めに
基づき,加工米販売要領第4の1(2)の買受申込資格者(米穀粉用)の確認
通知書の交付を受けたものとみなされる者に該当することとなった(甲2,
乙15,16,21,22,弁論の全趣旨)。
イ原告によるMA米の購入
原告は,平成18年当時,政府の所有するMA米で丸米でないもの(破
砕米)については,同7年以降,10年以上にわたり購入し続けてきてい
た(弁論の全趣旨)。もっとも,原告は,明確な時期は不明であるが,地
方農政事務所の前身である食糧事務所(同15年に廃止。)が存在してい
た時期に,同事務所に指導され,政府所有加工原材料用米穀をAを通じて
購入するようになった(原告代表者本人,弁論の全趣旨)。
原告は,従前から,SBS輸入方式によってMA丸米である中国産うる
ち精米等を主食用に購入するなどしていたが,平成18年8月ころ,定例
販売のチラシを通じ,政府が所有するMA米を丸米で販売することを知り,
以後,定例販売及びスポット販売で,MA丸米である中国産もち精米,オ
ーストラリア産うるち玄米及びアメリカ産うるち玄米などを購入し始めた
(甲3,55,56,原告代表者本人,弁論の全趣旨)。
ウ本件におけるMA米基本契約の締結等
(ア)原告は,平成18年11月13日,同年12月11日,同19年2
月13日,同年3月12日及び同年5月14日の5回にわたり,A岐阜
県支部に対し,輸入年度,産地(いずれもアメリカ産又はオーストラリ
ア産のどちらか又は両方の産地。),種類(いずれもうるち玄米,うる
ち精米又はうるち破砕精米のうちのどれかの種類。),買受申込数量及
び買受申込価格等を記入した,東海農政局岐阜農政事務所(以下「岐阜
農政事務所」という。)長をあて名とする加工原材料用米穀の買受申込
書を提出した(甲49ないし53の各1,証人B,弁論の全趣旨)。
(イ)A岐阜県支部は,平成18年11月15日,同年12月14日,同
19年2月15日,同年3月15日及び同年5月17日の5回にわたり,
岐阜農政事務所長に対し,原告が提出した前記買受申込書に記載したも
のと同一のMA米の輸入年度,産地,種類及び買受申込数量について,
原告が記載したのとほぼ同一の買受申込価格を記載した買受申込書及び
需要者が組合員である原告であることが示された「組合員別明細」と題
する書面を提出した(甲49ないし53の各2ないし3)。
(ウ)岐阜農政事務所長は,平成18年11月16日,同年12月14日,
同19年2月16日,同年3月16日及び同年5月18日の5回にわた
り,Aに対し,提出された買受申込書に記載されたものと同一の輸入年
度,産地,種類,買受申込数量及び買受申込価格等でMA米の販売を決
定したことが記載された販売決定通知書(以下「本件各販売決定通知書」
という。)を作成し,送付した(甲49ないし53の各4,証人B,弁
論の全趣旨)。
岐阜農政事務所担当係長は,原告につき,「丸米での使用理由,製品
製造上の使用方法及び製造予定製品名等を記載した書類」の提出依頼及
び加工原材料用米穀(丸米)の買受申込資格者の確認の審査を行わず,
販売の際の原告の買受申込資格の確認も行わないまま,原告に対し,(A
を通じて)MA丸米を販売する事務処理を行った(争いがない)。また,
この際,岐阜農政事務所長は,買受希望数量が適正なものであるか否か
の審査(加工米販売要領第6の1(2))を行わなかった(証人B,弁論の
全趣旨)。
(エ)A岐阜県支部は,平成18年11月17日,同年12月15日,同
19年2月16日,同年3月19日及び同年5月23日の5回にわたり,
岐阜農政事務所長に対し,販売が決定されたMA米につき,原告と打合
せをして決定した数量ごとの買受希望日及び受渡し希望場所を記載し,
これらを分割して買い受けることを希望することを示した引取申請書
(「需要者名」欄に「(株)C」,「用途」欄に「米穀粉」と記載した
もの。ただし,用途欄の記載は,原告と打合せをすることなく,A岐阜
県支部自身の判断でされた(乙33,原告代表者本人,弁論の全趣旨)。
以下,これらを併せて「本件各引取申請書」という。)を提出した(甲
49ないし53の各5,原告代表者本人,弁論の全趣旨)。
(オ)岐阜農政事務所長は,平成18年11月28日,同年12月22日,
同19年2月23日,同年4月2日及び同年5月29日の5回にわたり,
Aとの間で,期間をそれぞれ定めて,本件各販売決定通知書に記載され
た販売決定数量を基礎となる数量とし,同通知書に記載された販売決定
価格を契約単価として,同通知書に記載されたのと同一の輸入年度,産
地,種類のMA米を販売する内容のMA米基本契約(以下,これら一連
の契約を「本件各基本契約」という。)を締結した(乙1ないし5)。
本件各基本契約の基礎数量とされ,後記の本件各基本契約2条2項に
基づく決定がなされたことによって,本件各基本契約の売買数量となっ
たMA米のうち,丸米のものの種別,単価及び数量は,次のとおりであ
り,これらの合計数量は880.5296トンで,その代金は合計1億
0804万4669円であった(以下,これらのMA丸米を「本件MA
丸米」という。)。
a平成18年11月28日付けMA米基本契約(以下「基本契約①」
という。)により,オーストラリア産うるち玄米中粒種を,1トン当
たり12万0200円で約120トン(乙1,6の1ないし4)。
b平成18年12月22日付けMA米基本契約(以下「基本契約②」
という。)により,オーストラリア産うるち玄米中粒種を,1トン当
たり11万9500円で約60トン(乙2,7の1ないし3)。
c平成19年2月23日付けMA米基本契約(以下「基本契約③」と
いう。)により,アメリカ産うるち玄米中粒種を,1トン当たり11
万3500円で約200トン及びオーストラリア産うるち玄米中粒種
を,1トン当たり11万9300円で約50トン(乙3,8の1ない
し7)。
d平成19年4月2日付けMA米基本契約(以下「基本契約④」とい
う。)により,アメリカ産うるち玄米中粒種を,1トン当たり11万
3500円で約300トン及びオーストラリア産うるち玄米中粒種を,
1トン当たり11万9800円で約100トン(乙4,9の1ないし
9)。
e平成19年5月29日付けMA米基本契約(以下「基本契約⑤」と
いう。)により,アメリカ産うるち精米を,1トン当たり13万10
00円で約50トン(乙5,10の1ないし5)。
(カ)本件各基本契約の内容
本件各基本契約には,次の定めがある。なお,本件各基本契約には,
「政府が政府所有米穀を加工原材料用途として売り渡す場合の使用及び
譲渡については,次のとおりとする。1使用用途以下の用途以外,
使用してはならない。なお,(1)から(13)のいずれかに用途を限定して売
り渡された米穀は,その用途以外に使用してはならない。」として,(1)
から(13)まで,酒類用,菓子用,米穀粉用等の用途を列挙した別紙2が,
「別紙1(付録)」として添付されている(以下「本件付録」という。)。
(乙1ないし5)
(転売等の禁止)
第12条乙(A)又は乙の組合員は,乙が甲(岐阜農政事務所長)か
ら又は乙の組合員が乙から買い受けた米穀を農林水産省総合食
料局長若しくは地方農政事務所長(地方農政局が所在する府県
にあっては地方農政局長,(略)。)の指示又は承認がなけれ
ば,付録に定める条件に反した転売,貸借その他処分をするこ
とができない。
(違約金)
第14条
3乙は,乙が甲から又は乙の組合員が乙から買い受けた米穀を
第12条に違反して処分したことが明らかになったときは,当
該現品に係る数量の政府売渡価額に100分の30を乗じて得
た額を違約金として,甲に納付しなければならない。
ただし,第12条に対する当該違反が軽微であると認められ
るときは,当該現品に係る数量の政府売渡価額に乗じる割合は
100分の10とし,重大な不正行為を伴うためこれら割合に
よることが著しく不適当であると認められるときは,100分
の60とする。
(協力義務)
第17条
2乙は,加工原材料用米穀の販売要領(平成16年8月20日
付け16総食第393号総合食料局長通知)に定める事項を確
実に履行しなければならない。
(キ)岐阜農政事務所長は,本件各引取申請書の提出を踏まえ,本件各基
本契約2条2項に基づき,分割してAに対して受け渡す米穀の数量,代
金,現品受渡場所,現品受渡期限を決定した(乙6ないし10[枝番を
含む。],弁論の全趣旨)。
(ク)Aは,前記(キ)の各決定を受け,平成18年12月1日から同19
年6月15日までの間,28回にわたり,岐阜農政事務所長に対し,本
件各基本契約3条1項に基づき請書(「買受目的」欄に「米穀粉用」な
どと記載したもの。以下,これらを併せて「本件各請書」という。)を
提出し,その後の代金納付及び荷渡指図書の交付を経て,Aは,岐阜農
政事務所長から,本件MA丸米すべての引渡しを受けた(乙6ないし1
0[枝番を含む。],58ないし62[枝番を含む。],弁論の全趣旨)。
(ケ)Aは,原告に対し,本件MA丸米をすべて変形加工することなく
(すなわち丸米のまま),売り渡した(争いがない)。
エ原告による本件MA丸米の処分
原告は,平成19年3月14日,同月23日及び同月30日,訴外Dに
対し,本件MA丸米のうち,基本契約①ないし同③のいずれかの目的物と
された,オーストラリア産うるち玄米合計約230トンのうちの30.0
792トンを,玄米のまま売り渡した(以下「本件約30トン分の処分」
という。)(甲41の2,乙17,27,60の3・6・13及び14,
原告代表者本人,弁論の全趣旨)。
原告は,株式会社E及びDに対し,本件MA丸米のうち,基本契約⑤の
目的物とされた,アメリカ産うるち精米50トンのうちの9.99トンを,
米穀粉に加工して売り渡した(以下「本件約10トン分の処分」という。)
(乙17,28,35,弁論の全趣旨)。
オ岐阜農政事務所による調査等
(ア)平成19年4月の人事異動により,岐阜農政事務所地域課の担当と
なった職員は,加工原材料用米穀であるMA米の加工調査を原告に対し
て行うため,岐阜農政事務所食糧部消費流通課の担当係長と,調査の方
法等について打合せをしていたところ,同職員及び同係長は,原告の加
工原材料用米穀(丸米)の買受申込資格に関する書類がないことに気付
いた。そこで,同係長は,A岐阜県支部及び原告に対し,書類が残って
いるかどうか問い合わせたところ,いずれも見当たらないとの回答であ
った。(乙32,証人B,弁論の全趣旨)
岐阜農政事務所食糧部消費流通課及び同所の出先機関(下部組織)の
一つである地域課は,ともに米の適正流通に関する調査や指導を所轄し
ていた課であった。地域課は,米の適正流通に関する調査,すなわち加
工用米が用途のとおり加工されているか又は使用されているか等の調査
を,1年に1回から2回程度は行うことを業務としていた。その調査の
際には,2ないし3か月程度遡って台帳や帳簿関係を確認したり,会社
に対して聴き取りを行うなどしていた。(甲2,乙21,証人B)
岐阜農政事務所地域課は,平成19年2月又は同年3月ころ,加工米
販売要領第7の3等に基づき,原告に対し,本件MA丸米の加工・使用
等に関する任意の調査を行った。その際,原告は,本件MA丸米を,米
菓用及び酒造用としての特定米穀として使用していることを申告したが,
何らの是正指導もなされなかった。(甲61,乙19,21,弁論の全
趣旨)
(イ)A岐阜県支部の職員は,平成19年5月22日,原告に対し,「定
例販売で丸玄米を購入されましたので,別紙の書類が必要になりました。
5月25日(金)までにご記入のうえ,岐阜農政事務所のF様に確認し
てもらってください。(略)正式な書類は,郵送いたします。また,6
月分定例販売の着目をお知らせ下さい。」等と記載されたファクシミリ
文書を送信した(甲10)。
(ウ)岐阜農政事務所食糧部消費流通課買入販売係長であったF某(以下
「F係長」という。)は,平成19年5月25日,原告に対し,件名に
「丸米使用承認申請について」,本文に「丸米については,定例販売及
びスポット販売で,昨年8月から中国もち精米・オーストラリアうるち
玄米・アメリカうるち玄米をご購入いただいております。(略)昨年8
月以前の日にちまで遡及して,丸米の使用承認をしたいと思っておりま
す。当方の不手際もあり,今日に至ってしまった点について,深くお詫
び申し上げます。大変お手数をおかけしますが,よろしくお願いします。
参考に,加工原材料用米穀の販売要領をお送りします。」と記載し,申
請関係書類をファイル添付した,加工原材料用米穀(丸米)の買受申込
資格者の確認申請書の関係書類の提出を促すメールを送信した(甲2,
3,乙32,33,証人B,原告代表者本人,弁論の全趣旨)。
(エ)原告は,上記ファクシミリ文書及びメールを受けた後,平成18年
5月10日付けに日付けを遡及させて記入した,加工米販売要領第4の
1(1)所定の確認申請書及び同申請書の添付書類である「加工原材料用米
穀の丸米使用に係る添付書類等の提出について」と題する書面(丸米の
使用用途として「製菓原料,味噌用,焼酎用,ビール用」,丸米の使用
理由として「国内産の特定米穀の数量が少なかったため,その代替とし
て特定米穀と同じ丸米のままの形が要求されたため。(略)」と記載し,
その他,製品製造上の使用方法,製造予定製品名等を記載したもの。)
及び「工事設備状況報告書」(「工事設備」とあるのは「工場設備」の
誤記と解される。)と題する書面を作成し,岐阜農政事務所長あてに提
出した。ただし,提出された各書面には,いずれも押印がなかった。(甲
4,弁論の全趣旨)
なお,特定米穀とは,くず米ともいい,規格外の米をいう(食糧管理
法(平成6年廃止。)において,特定米穀とは,国内産のくず米,砕米,
農産物規格規程(昭和26年農林省告示第113号)に規定する規格外
の米とされていた。)(弁論の全趣旨)。
(オ)前記ウ(オ)記載のとおり,岐阜農政事務所長は,平成19年5月2
9日,Aとの間で,基本契約⑤を締結した。その際,同契約の有効期間
は,同年6月1日から同月30日までと定められた。(乙5)
(カ)岐阜農政事務所食糧部消費流通課及び地域第一課職員は,平成19
年5月31日ころ,原告を訪れ,帳簿等を調査した(甲43,原告代表
者本人,弁論の全趣旨)。
岐阜農政事務所は,東海農政局を通じての農林水産省との協議を経て,
岐阜農政事務所長及び同所食糧部長による指示のもと,原告が購入した
政府所有MA丸米の仕入れ,加工及び販売状況等について,その事実関
係の調査を行う調査チームを新たに設置し,加工米販売要領第7の3及
び食糧法52条に基づく任意の調査を開始することとした(乙32,証
人B,弁論の全趣旨)。
岐阜農政事務所は,平成19年6月8日,原告の本件MA丸米の仕入
れ及び加工販売等の台帳を閲覧した結果,販売先として酒造会社・お菓
子屋・ビール会社を確認した(乙33)。
(キ)平成19年6月14日,原告に対する上記調査チームによる第1回
調査が行われ,岐阜農政事務所食糧部消費流通課長G(以下「G課長」
という。),同課課長補佐,F係長,同部計画課長B(以下「B課長」
という。),ほか2名の計6名がこれを担当した(乙32,33,証人
B)。
第1回調査においては,上記調査チームは,平成19年6月8日の確
認結果をもとに,本件MA丸米を確認対象米穀として,その購入から加
工,販売までの流れを加工受払台帳等から確認するとともに,数量の特
定及び販売先の特定を行うことを目的としていた。そして,本件MA丸
米約880トンのうち約609トンが加工に仕向けられたこと並びに業
者別にみると酒造会社12社及びビール会社1社等に対し販売されたこ
と等が確認されたが,原告は本件MA丸米に特定米穀を加えて,それを
加工後,「特定米穀」という製品として販売をしていたところ,加工受
払台帳の「その他原料欄」の記載がなかったため,第1回の調査では特
定米穀の混入数量等が確認できなかった。(乙32,33,証人B,弁
論の全趣旨)
第1回調査において,当時の原告代表者であったHは,調査担当者に
対し,「農政事務所が12月時点で丸米購入ルールのことを詳しく教え
てくれていれば,購入しなかった。」などと発言し,これに対し,調査
担当者は,「農政事務所としても,その点は説明不足であったと考えら
れるが,Aからの買い受け申請は「米穀粉」となっているから販売した
ものと理解している。」と回答した。これに対し,Hは,「当社として
は,そのように申請はしていないが。」と述べた。(乙33)
岐阜農政事務所職員は,上記平成19年5月31日ころの調査から第
1回調査までのいずれかの調査の機会に,原告に対し,本件MA丸米は
加工米販売要領第2の2記載の用途以外には使用してはいけないことに
なっていると説明し(甲43,原告代表者本人,弁論の全趣旨),さら
に,第1回調査の際,原告に対し,本件MA丸米を特定米穀と混入して
酒造メーカー等に引き渡したのであれば,取引先への調査を行う必要が
あると述べるとともに,取引先の業者名を公表する必要があるという趣
旨の発言をした(甲43,48,58,乙18,54,証人B,原告代
表者本人)。
(ク)前記ウ(キ)及び(ク)記載のとおり,岐阜農政事務所長は,基本契約
⑤2条2項に基づく各決定をし,これを受け,A岐阜県支部は,基本契
約⑤3条1項に基づき,遅滞なく,平成19年6月1日付け,同月8日
付け及び同月15日付けで岐阜農政事務所長に対して請書(「買受目的」
欄に「米穀粉用」と記載されたもの。)を各提出した(乙10の1ない
し5,弁論の全趣旨)。被告は,基本契約⑤に基づく本件MA丸米の販
売のため,上記各請書の提出とそれぞれ同一の日付でAに対して納入告
知書を各発行し,同月4日付け,同月11日付け及び同月18日付けで
各代金納付を確認した(乙62の1,3,5,7,9)。そして,被告
は,上記各代金納付の確認とそれぞれ同一の日付で,Aに対し,荷渡指
図書を各発行した(乙62の2,4,6,8)。
(ケ)平成19年6月19日,原告に対する第2回調査が行われ,第1回
と同じ岐阜農政事務所職員がこれを担当した。第2回調査に先立ち,H
は,調査担当者らに対し,本件MA丸米の一部については,酒類用等に
販売したのではなく,本来であるならI協同組合(以下「I組合」とい
う。)からとう精(玄米の糠層及び胚を取り除いて白米に加工すること。)
の委託を受けたJ連合会加工用米で供給すべき米菓用等に本件MA丸米
を差し替えて引き渡し,J加工用米は,主食用(業務用)として転売し
たと説明した。
そこで,調査チームは,次回以降の調査において,改めて本件MA丸
米の入庫から,加工,製品の出倉,販売先での確認等一連の流れを伝票
及び帳簿等で確認することとした。
(以上,乙18,32,証人B)
(コ)Hは,平成19年6月20日付けで原告の代表取締役を辞任し,当
時専務取締役であった原告代表者が後任の代表取締役に就任した(原告
代表者本人,弁論の全趣旨)。
(サ)平成19年6月21日,原告に対する第3回調査が行われ,G課長
及びB課長がこれを担当した。調査チームは,原告に対し,J加工用米
が主食用として販売されたことを示す関係書類や,I組合から委託され
たJ加工用米のとう精台帳,保管倉庫の受払台帳等の提示を求めた。こ
れに対し,Hは,委託とう精台帳は,電算入力(代金関係の処理)が終
了すれば破棄しているため既にないこと,J加工用米の販売先はおおよ
そ分かるが,提出には時間が必要であること等を回答した。(乙24,
32,証人B)
(シ)平成19年6月22日,原告に対する第4回調査が行われ,岐阜農
政事務所食糧部長K(以下「K部長」という。)及びG課長がこれを担
当した。原告は,J加工用米の販売先を確認する業務用米の月別仕向け
先一覧表等を提出したが,とう精台帳に代わる工場日誌等の提出を促さ
れるも,そういったものは保存していない旨回答した。(乙32,34)
(ス)平成19年7月3日,原告に対する第5回調査が行われ,K部長,
B課長ほか2名がこれを担当した。原告は,I組合の組合員であるEが
同18年12月20日から同19年5月31日にかけて,また同じくI
組合の組合員である株式会社Lが同18年12月12日から同19年5
月29日にかけて,それぞれ原告から「加工用うるち」という物品を受
領した旨記載されたE又はLが作成名義人である手書きの物品受領書を
提出した(乙25)。そこで,同年7月3日付けで,提出された物品受
領書に記載のある数量をもとに,原告が本件MA丸米のうち579.0
438トン(以下「約579トン」とも表記する。)をJからI組合が
購入したJ加工用米と無断で差し替え,とう精して,その全量をI組合
の組合員であるEへ346.8トン,Lへ165.51トンの合計51
2.31トンを引き渡したという事実(以下「本件差替え」という。)
等を確認した旨記載された確認書が作成され,原告側においてはH及び
原告代表者,岐阜農政事務所側においてはK部長,B課長及びほか2名
がこれに署名押印した(乙32,35,証人B)。
調査チームは,このときまでに,原告において,在庫として,基本契
約④の目的物のうちのオーストラリア産うるち玄米61.7590トン
及びアメリカ産うるち玄米159.6976トンの合計約221トン(以
下「本件在庫」という。)並びに基本契約⑤の目的物であったうちのア
メリカ産うるち精米39.960トンが残っていたことを確認した(乙
35,弁論の全趣旨)。
(セ)その後,調査チームは,本件MA丸米に関する調査に加え,輸入米
粉調整品の代替として製粉して使用することを要件に販売されたMA米
などの原告による別件の米の適正流通に関する調査も同時に行い,平成
19年7月4日(第6回)から同年8月27日(第18回)まで調査を
行った(乙36ないし46)。
(ソ)岐阜農政事務所は,三重農政事務所に対し,本件差替えの事実の裏
付けのため,I組合に対する調査を依頼した。
これを受け,三重農政事務所は,平成19年7月11日,Lに対する
調査を,同月12日,Eに対する調査をそれぞれ行い,その結果として,
E及びLがJ加工用米である国内産うるち玄米のとう精を原告に依頼し
ていることを確認したこと,原告が第5回調査の際に提出した手書きの
物品受領書に押印された印影と一致する「株式会社L」のゴム印ないし
Eの受領日付印が両社に存在したこと,E及びLのいずれにおいても同
物品受領書の内容どおりに「加工用うるち米」の納品があったことを伝
票・台帳でそれぞれ確認したことなどを岐阜農政事務所に報告した。
(以上,乙25,26,証人B,弁論の全趣旨)
(タ)岐阜農政事務所と原告は,平成19年8月21日付けで,本件差替
えの事実を含む,原告に対する調査によって判明した事実を確認した旨
記載した確認書を作成し,原告側においてはH及び原告代表者が,岐阜
農政事務所側においてはK部長及びG課長が,それぞれこれに署名押印
した(乙17)。
(5)違約金の支払等
ア岐阜農政事務所長は,平成19年9月21日,加工米販売要領第4の3
に基づき,原告及びAの加工原材料用米穀の買受申込資格者の確認の取消
しを行った。被告は,この事実を,後記の本件違約金支払の事実及び原告
の買受申込資格の確認等に適正を欠いた岐阜農政事務所の職員を処分した
事実とともに,農林水産省のホームページに掲載して公表した。(甲1)
本件に伴い被告が行った職員の処分の内容は,岐阜農政事務所長ほか1
4名の職員(管理職を含む。)に対する訓告又は厳重注意であった(弁論
の全趣旨)。
上記ホームページに掲載された原告及びAの加工原材料用米穀の買受申
込資格者の確認の取消しに至った理由は,下記のとおりである。

(ア)原告について
①加工原材料用輸入米については,加工原材料用に販売しており,他
の用途に流用してはならないこととなっている。
しかしながら,原告は,Aを通じて買い受けた加工原材料用輸入米
について,第三者よりとう精を委託された国内産加工用米と差し替え
て委託元に納入し,差し替えた国内産加工用米を主食用米として転売
すること等により,不当な利益を得ていた。
なお,原告は,砕米については買受申込資格があったものの,丸米
については,そもそも買受申込資格を有していなかった。
②①のほか,米粉に加工することを条件に買い受けた輸入米について,
米粉に加工せず,そのまま転売していた。
③買い受けた輸入米の受払及び加工状況についての台帳類の整備等を
怠った。
(イ)Aについて
A(岐阜県支部)は,組合員である原告が丸米である輸入米の買受申
込資格を有していないにもかかわらず,原告から委託を受けて国から丸
米である輸入米を買い受け,引き渡していたため,Aについても加工原
材料用米穀の買受申込資格者の確認を取り消した。
(甲1)
イ違約金の根拠ないし内訳等(別紙3)
(ア)岐阜農政事務所長は,平成19年9月21日付けで,Aに対し,本
件MA丸米の転売を受けた原告につき,次のaないしc記載のとおり本
件各基本契約14条3項所定の違約金を支払うべき事由(以下,それぞ
れ「事由a」などという。)があり,かつ,これらが同項ただし書きに
定める重大な不正行為を伴うことを理由として,その対象となった現品
合計約619トンに係る数量の政府売渡価額7574万7544円に1
00分の60を乗じた額である4544万8526円の違約金(以下「本
件違約金」という。ただし,後記のとおり原告がAに対して支払った本
件違約金と同額の金員についても「本件違約金」ということがある。)
を納入するよう告知した(甲1,乙11の1ないし5,弁論の全趣旨)。
a合計579.0438トンを,とう精を委託された国内産加工用米
と差し替えて,とう精してE及びLに引き渡した。そして,原告は,
E及びLからとう精を委託された国内産加工用米をそのまま主食用と
して他に転売した。よって,上記MA丸米を,国内産加工用米を主食
用米として転売し不正な利益を得る手段として用いた。
これは,本件各基本契約が前提とする(同契約17条2項参照),
加工米販売要領の第2の2ただし書きに定める用途制限及び同要領に
定める譲渡先の制限に違反するため,本件各基本契約12条に違反す
る。よって,同契約14条3項に基づく違約金を支払うべきである。
b合計30.0792トンを加工業者でないDに売り渡したこと(本
件約30トン分の処分)は,本件付録記載2に定める譲渡先の制限に
違反するため,本件各基本契約12条に違反する。よって,同契約1
4条3項に基づく違約金を支払うべきである。
c合計9.99トンを米穀粉に加工した製品としてE及びDに売り渡
したこと(本件約10トン分の処分)は,本件各基本契約が前提とす
る(同契約17条2項参照),加工米販売要領の第2の2ただし書き
に定める用途制限に違反するため,本件各基本契約12条に違反する。
よって,同契約14条3項に基づく違約金を支払うべきである。
(イ)本件違約金の具体的な内訳は,別紙3記載のとおりであるが,事由
a及びbに該当する現品ないし違約金額が,基本契約①のオーストラリ
ア産うるち玄米約120トン分について908万8242円,基本契約
②のオーストラリア産うるち玄米約60トン分について451万765
8円,基本契約③のオーストラリア産うるち玄米約50トン分及びアメ
リカ産うるち玄米約200トン分について1807万1964円並びに
基本契約④のオーストラリア産うるち玄米約100トンのうち約38ト
ン分及びアメリカ産うるち玄米約300トンのうち約141トン分につ
いて1294万6187円であり(ただし,前記のとおり,事由bの対
象となった現品は,基本契約①ないし③の目的物のうちいずれかのオー
ストラリア産うるち玄米である。),事由cに該当する現品ないし違約
金額が,基本契約⑤のアメリカ産うるち精米約50トンのうち約10ト
ン分について82万4475円で,併せて合計4544万8526円で
ある(乙1ないし5,11の1ないし5,12の1ないし5,17,3
5)。
なお,別紙3における計算結果には,1円ないし2円程度の誤差が生
じているが,これは,別紙3の「①対象となった現品の数量」欄に記載
されていない小数第2位以下も含む値によって計算されたためと推測さ
れる。
ウ原告は,平成19年9月27日,A岐阜県支部に対し,本件違約金と同
額である4544万8526円を支払った(甲5の3)。
エ前項の支払は,Aが本件各基本契約に基づき被告に対し違約金を支払う
べき場合には,原告がこれと同額をAに対して支払うべきとする組合契約
に基づいてされた(争いがない)。
オAは,平成19年9月28日,岐阜農政事務所長に対し,本件違約金支
払債務の弁済として,4544万8526円を支払った(争いがない)。
(6)本件違約金の支払から本訴提起に至るまでの事実経過等
ア原告は,Dに対してした本件約30トン分の処分の現品につき,合意解
除によってすべて返品を受け,平成19年11月ころ,岐阜農政事務所の
了解のもと,これをM株式会社などへ売却した(甲41の2及び3,乙4
6,原告代表者本人,弁論の全趣旨)。
イ原告は,取引先を失ったことなどを契機として,平成19年12月まで
に従業員解雇等を行い,米穀類の販売,穀粉及び菓子原材料の製造販売,
受託精米及びこれらに附帯する一切の業務を廃業した。現在は,営業用倉
庫の不動産賃貸等を行っている。(原告代表者本人,弁論の全趣旨)
2争点
前掲前提事実(5)エによれば,Aが被告に対して支払った本件違約金が,本件
各基本契約によれば支払義務のないものであった場合には,原告によるAに対
するこれと同額の支払いも,組合契約によれば支払義務のないものであったこ
ととなるため,被告による本件違約金の利得が,原告による本件違約金と同額
の支払(損失)との関係において法律上の原因を欠くこととなるというべきで
ある。
そして,本件では,現実に本件違約金が支払われた事由である事由aないし
cが,本件各基本契約に基づき違約金を支払うべき場合に当たるか否かが争わ
れているほか(争点(1)及び(3)),被告は,事由aに係る違約金額分について
は非債弁済,不法原因給付及び信義則違反の主張をし(争点(2)),また,事由
a及びbに係る違約金額分については,原告による当該現品の処分が,事由a
及びbとは別の根拠によっても,本件各基本契約に基づき違約金を支払うべき
場合に当たるため,いずれにせよ被告による利得には法律上の原因があるとい
う主張もしている(争点(4))。
具体的な本件の争点は,次のとおりである。
(1)事由a及びcにつき,加工米販売要領第2の2ただし書きに定める用途制
限及び同要領に定める譲渡先の制限に違反したことによる違約金支払義務の
有無
ア本件各基本契約において,加工米販売要領第2の2ただし書きに定める
用途制限及び同要領に定める譲渡先の制限に違反する本件MA丸米の処分
を原告が行ったときは,本件各基本契約14条3項所定の違約金を支払う
ことが合意されたか。
イ上記合意が成立していたとした場合,原告による本件MA丸米のうち約
589トンの処分は,その違約事由に該当するか。また,同項所定の「重
大な不正行為」を伴うか。
(2)事由aに係る違約金額の支払につき,非債弁済及び不法原因給付の成否並
びに不当利得返還請求をすることの信義則違反の有無
本件MA丸米のうち約579トン分の違約金については,原告が本件差替
えの事実を自ら虚偽申告し,当該事実の存在を前提として支払ったことから
すれば,非債弁済若しくは不法原因給付に該当するか。又は,禁反言の法理
(民法1条2項)から,当該違約金について不当利得返還請求をすることが
できないと解すべきか。
(3)事由bにつき,譲渡先の制限に違反することによる違約金支払義務の有無
本件約30トン分の処分は,本件付録記載2の譲渡先の制限に違反するこ
とによる本件各基本契約14条3項所定の違約事由に該当するか。また,同
項所定の「重大な不正行為」を伴うか。
(4)事由a及びbに係る違約金額分につき,「米穀粉用」との用途制限に違反
したことによる違約金支払義務の有無
ア本件MA丸米は,被告からAに対して,米穀粉に用途を限定して売り渡
され(すなわち,原告が,「米穀粉」という製品を自ら製造し,売り渡さ
なければならない合意のもと売り渡され),本件各基本契約においては,
原告が本件MA丸米をその用途以外に使用したときは,同14条3条所定
の違約金を支払うことが合意されたか。
イ上記合意が成立していたとした場合,本件MA丸米のうち,約609ト
ン分を原告が米穀粉に加工せずに販売したことは,その違約事由に該当す
るか。また,同項所定の「重大な不正行為」を伴うか。
3争点に関する当事者の主張
(1)事由a及びcにつき,加工米販売要領第2の2ただし書きに定める用途制
限及び同要領に定める譲渡先の制限に違反したことによる違約金支払義務の
有無
ア本件各基本契約において,加工米販売要領第2の2ただし書きに定める
用途制限及び同要領に定める譲渡先の制限に違反する本件MA丸米の処分
を原告が行ったときは,本件各基本契約14条3項所定の違約金を支払う
ことが合意されたか。
(被告の主張)
(ア)本件各基本契約における用途制限について
本件各基本契約17条2項は,乙(A)は加工米販売要領に定める事
項を確実に履行しなければならないと規定し,また,加工米販売要領第
2の2では,加工原材料用米穀の販売にあたってはあらかじめ変形加工
を行うものとする旨規定するとともに,あくまでその例外として5つの
用途が明記されている。また,農林水産省は,Aに対し,加工米販売要
領の制定について周知しこれを配布しており,各組合員に対してもその
内容の周知を図るようにしていた。したがって,主観的にも客観的にも,
契約当事者間では,目的物について加工米販売要領第2の2ただし書き
所定の5つの用途制限があったというべきである。
本件付録に記載されている使用用途の制限である13用途は,本件各
基本契約においては特段の意味を有しない,いわゆる例文に近いもので,
本件各基本契約の当事者の合意内容ではない。本件各引取申請書及び本
件各請書には,「米穀粉用」の記載があるものの,本件においてこれら
を踏まえて売買がなされたのは,岐阜農政事務所の担当者が本件各基本
契約書の内容を正確に理解せず誤認していたためであって,上記「米穀
粉用」の記載は,同契約の用途制限の合意が本件付録に記載されている
13用途として有効に成立したことを示す外部的徴表とはいえない。実
際,誤認した担当者はしかるべき処分を受けており,このことは,岐阜
農政事務所として,上記13用途を前提とした本件各基本契約の成立を
追認することはないという姿勢を端的に表すものである。
本件各基本契約書上,上記5つの用途制限は明記されていないが,以
上によれば,本件各基本契約の当事者が,契約によって達成しようとし
た経済的・社会的目的に鑑みれば,同契約における目的物である本件M
A丸米の用途制限は,本件付録記載の13用途ではなく,同17条2項
に基づく加工米販売要領に定める5用途に制限される内容で合意が成立
したと解釈すべきである。
(イ)本件各基本契約における譲渡先の制限について
本件各基本契約が前提とする加工米販売要領(本件各基本契約17条
2項参照)は,MA丸米を,加工原材料用米穀(丸米)の買受申込資格
を有する者に限って販売することとし,また,MA米を買い受けた者は,
他の加工業者によって定められた用途どおりに加工等が行われること
(例えば,米菓用に加工原材料用米穀を買い受けた者が,事情により当
該者の工場においてその米菓を製造することができなくなったため,別
の稼働余力のある米菓業者に加工原材料用米穀の在庫分を譲渡する場合
など。)を前提として,適正な取引によってのみ例外的に他の加工業者
に譲渡することを認めている。
(ウ)以上からすれば,本件各基本契約においては,加工米販売要領に定
める上記用途制限及び譲渡先の制限に違反する本件MA丸米の処分を原
告が行ったときは,本件各基本契約12条に違反する処分に該当し同1
4条3項所定の違約金を支払うことが合意されたというべきである。
(原告の主張)
本件各基本契約における目的物の使用用途制限に関する条文は,同12
条のみであり,同17条2項の規定は買主の協力義務を定めるものに過ぎ
ず,目的物の使用用途等に関する制限規定であるとはいえない。また,主
観面からみても,本件各請書の買受目的の記載がすべて「米穀粉用」とな
っていることや,岐阜農政事務所が遡及してMA丸米の使用承認をしたい
とのメールを原告に送信していたことなどからすれば,契約当事者が,本
件MA丸米につき加工米販売要領第2の2ただし書きに定める用途制限が
あったと認識していたとはいえない。
そもそも加工米販売要領第2の2は,被告がMA米を含む加工原材料用
米穀を所定の5用途以外に販売する場合には,あらかじめ変形加工して(す
なわち,破砕して)販売しなければならないという,売主側の規範を定め
ていることが明らかである。
よって,本件各基本契約において,原告が本件MA丸米につき加工米販
売要領第2の2ただし書きに定める用途制限及び同要領に定める譲渡先の
制限に違反する処分を行った場合に違約金を支払うとの合意はなかった。
イ上記合意が成立していたとした場合,原告による本件MA丸米のうち約
589トンの処分は,その違約事由に該当するか。また,同項所定の「重
大な不正行為」を伴うか。
(被告の主張)
(ア)原告による処分
原告は,基本契約①ないし③の目的物のうちいずれかのオーストラリ
ア産うるち玄米約30トン(Dに対する本件約30トン分の処分によっ
て売り渡されたもの。)を除いた分及び同④の目的物のうち本件在庫を
除いた分の合計約579トンにつき,本件差替えを行った。本件差替え
の事実について,岐阜農政事務所においてその申告内容の裏付け調査を
行った後,岐阜農政事務所と原告との間で交わした確認書は,いわゆる
処分証書ではないものの,記載内容に高い信用性及び推定力が認められ
るというべきである。
そうすると,原告による本件MA丸米のうち約579トンの上記処分
は,とう精の委託を受けたJ加工用米との差替え(及びとう精後の加工
用米としての米菓業者への引渡し)であり,前記5用途のいずれにも含
まれないから,加工米販売要領第2の2ただし書きに定める用途制限に
違反し,また,同要領に定める譲渡先の制限にも違反する処分であって,
使用用途及び譲渡先を制限した「付録に定める条件」に反する転売その
他の処分を禁止した本件各基本契約12条に違反していると解すべきで
ある。よって,同14条3項に基づく違約事由に該当する。
もっとも,仮に本件差替えの事実が存在しなかったとしても,原告は,
これに相当する本件MA丸米を,特定米穀と混入した製品として酒造用,
米菓用等として酒造メーカー等に売り渡したと主張しているから,この
事実を前提とするとしても,いずれにせよ前記5用途のいずれにも該当
せず,加工米販売要領第2の2ただし書きに定める用途制限に違反して
おり,本件各基本契約12条に違反していると解すべきである。よって,
同14条3項に基づく違約事由に該当する。
また,原告による本件MA丸米のうちの本件約10トン分の処分は,
米穀粉への加工が前記5用途のいずれにも該当しないから,加工米販売
要領第2の2ただし書きに定める用途制限に違反しており,本件各基本
契約12条に違反していると解すべきである。よって,同14条3項に
基づく違約事由に該当する。
(イ)重大な不正行為を伴うか。
本件差替えの事実に係る原告による本件MA丸米の処分は,E及びL
が所有する米穀と差し替えることにより国内産加工用米を主食用に転売
する手段として行われたこと,これが大量の取引であること,また,こ
のような転売は,生産調整を通じた需給の安定の確保という国の基本的
な方針に反することから,重大な不正行為を伴うものに該当する。国内
産加工用米の取引価格は,政策的に主食用米より廉価で流通することか
ら,原告がこの制度を悪用し,不当に売却差益を収受した点においても,
本件は悪質である。
仮に原告による本件差替えの事実が存在しなかったとしても,その場
合には,原告が岐阜農政事務所からの調査の際に虚偽の事実を申告した
こととなり,本件各基本契約17条(協力義務)や同18条(調査報告
義務),さらには契約上生じる信義則上の誠実義務にも違反する反則行
為を犯したこととなる。また,原告は,本件MA丸米のうち上記約57
9トンを酒造メーカー等に販売するに際して,国産米と混ぜた上,国産
米と偽って酒造メーカー等に対し販売したことが窺われ,かかる行為は,
当該酒造メーカー等に,原材料に係る「産地偽装」をさせたも同然であ
る。したがって,原告による本件MA丸米約579トンの処分は,いず
れにせよ同14条3項所定の「重大な不正行為」を伴う。
また,原告が加工原材料用米穀(丸米)の買受申込資格がないのに本
件MA丸米を購入した点においても,原告による本件MA丸米の処分は,
すべて重大な不正行為を伴うものに該当する。原告は,加工原材料用米
穀の買受申込資格者として,10年以上,破砕精米であるMA米の買受
けを行っている。他用途利用米要領が適用されていた当時から,加工原
材料用の米穀を変形加工を行わず丸米で買い受ける場合には,買受理由
や製品の製造方法等を記載して買受申込資格の認定を申請する必要があ
ったことから,原告は,加工原材料用米穀の買受申込資格とは別に加工
原材料用米穀(丸米)の買受申込資格に係る手続が必要であることを当
然に認識しているべきであったし,丸米のまま売り渡された加工原材料
用米穀は自己使用が基本であること(加工米販売要領第6)を認識して
いるべきであった。それにもかかわらず,原告は,本件MA丸米を不当
に買い受け,違法な処分ないし譲渡をし,用途を限定して廉価で販売し
ていたMA米を用途のとおりに使用しなかったことにより,主食用米穀
への転用の可能性を与え,国内産の主食用米穀の需給や価格に影響を及
ぼすおそれを生じさせるなどした。
その他,本件のほかにも,本件各基本契約の期間を含む長期にわたっ
て,輸入米粉調整品の代替として製粉して使用することを要件に販売さ
れたMA米計580トンを,製粉することなく違法に加工業者以外の者
に転売していたことからすれば,原告による本件MA丸米の処分は,す
べて重大な不正行為を伴うものに該当する。
(原告の主張)
(ア)原告による処分
本件差替えの事実は,否認する。
原告が,平成18年11月ころから同19年5月ころまでの間,E及
びLから名目上は「とう精」を委託された国内産加工用米を他に主食用
途米等の用途に転売したことは認める。しかし,E及びLは,Jから購
入した国内産加工用米を,原告に転売したものであり(ただし,原告と
Lとの間に直接取引はなく,原告はDを通じて上記加工用米を購入して
いた。),外形上とう精の委託の形を取っていたに過ぎない。J加工用
米は,主食用米と全く同一品質のものであり,原告は,主食用米を取引
先に安く販売するための仕入れルートとして,10数年前からE及びL
(D)から,主食用米に転売することを当然の前提として,J加工用米
を購入してきた。原告がJ加工用米についてとう精の委託を請けた旨の
伝票は,実体を伴わない空伝票である。なお,原告がJ加工用米を主食
用へ転売したことは,被告がAから,本件各基本契約に基づく違約金の
支払を受ける根拠とはなり得ない。
岐阜農政事務所による第2回調査の際,原告の前代表者であるHがし
た本件差替えの事実の申告は,虚偽の申告である。そのような虚偽の申
告をした理由は,岐阜農政事務所による調査の際,調査担当者が,Hに
対し,本件MA丸米を酒造メーカー等へ売り渡したのであればその酒造
メーカー等の取引先を公表にする必要があると告げたことによるもので
ある。
原告は,本件差替えを行ったと申告した本件MA丸米を,真実は,特
定米穀と混入した製品として酒造用,米菓用等として酒造メーカー等に
販売した。
また,本件MA丸米を米穀粉に加工して売却した本件約10トン分の
処分は,何ら違約事由に当たらない。本件各請書には,いずれも買受目
的欄に「米穀粉用」と記載されており,これを受けて岐阜農政事務所は
本件MA丸米を販売したのであるし,本件付録によれば,米穀粉用の用
途は許容されている。
(イ)重大な不正行為を伴うか。
原告は,加工原材料用米穀を丸米で購入するためには,加工米販売要
領によれば,一般の加工原材料用米穀の買受申込資格とは別に,加工原
材料用米穀(丸米)の買受申込資格に係る手続が必要であることなど知
らなかったが,本件各基本契約当時,原告だけでなく買主側のA岐阜県
支部担当者や,売主側の岐阜農政事務所担当係長も原告と同様の認識で
あった。岐阜農政事務所担当係長が,加工米販売要領の内容自体を適確
に理解していなかったことは,販売時に同要領第6の1(2)の希望数量の
適正性の審査を行っていなかったことからも明らかである。また,岐阜
農政事務所担当係長は,原告に対し,遡及して加工米販売要領第2の2
ただし書き(5)の丸米の使用承認をしたい旨告げていた。さらに,被告は,
原告の加工原材料用米穀(丸米)の買受申込資格の確認を怠った担当係
長らを訓告又は厳重注意としたというが,これらは国家公務員法上の懲
戒処分ではなく記録にも残らない軽微なものであり,これについての被
告の評価が重大でなかった認識を示すというべきである。
他の業者に対する事故米・汚染米についての違約金の場合であっても,
その額は政府売渡価額の3割に留まっている。
その他,被告は,原告が本件MA丸米を特定米穀に混入して「特定米
穀」という商品として酒造メーカー等に販売していた場合には,外国米
を国内米と偽り販売したものであり重大な不正行為を伴うと主張するが,
特定米穀という商品は,産年・産地・品種などは問題としないものであ
って,産地が不問とされ,サンプルを提示して値をつけるサンプル商い
の方法で取引されるものである以上,それが国内産か外国産かも問題と
されないし,そもそも,原告が酒造メーカー等に販売した「特定米穀」
は,精米後の状態をみれば明らかに粒の小さいくず米だけでなく,長細
い中粒種の米が混じっており,酒造メーカーにおいて,外米が混じって
いることが判定できるものであった。また,原告は,岐阜農政事務所の
調査,質問に応じたのであり,回答の一部に虚偽があっただけであるか
ら,本件各基本契約17条ないし同18条違反に該当することは争う。
さらに,同17条及び同18条の調査報告義務に違反する場合に違約金
を支払う旨の合意はないから,そもそもこれらは原告による本件MA丸
米の処分が重大な不正行為を伴うことの根拠にはならない。
したがって,原告による本件MA丸米の処分が,仮に違約事由に該当
するものであるとしても,いずれも重大な不正行為を伴うものに該当しな
い。
(2)事由aに係る違約金額の支払につき,非債弁済及び不法原因給付の成否並
びに不当利得返還請求をすることの信義則違反の有無
本件MA丸米のうち約579トン分の違約金については,原告が本件差替
えの事実を自ら虚偽申告し,当該事実の存在を前提として支払ったことから
すれば,非債弁済若しくは不法原因給付に該当するか。又は,禁反言の法理
(民法1条2項)から,当該違約金について不当利得返還請求をすることが
できないと解すべきか。
(被告の主張)
ア非債弁済
本件MA丸米のうち基本契約①ないし④の目的物であったうちの約57
9トン分を対象現品とした違約金の支払は,本件差替えの事実に基づく契
約違反として違約金の支払であるから,本件差替えの事実が存在せず,そ
れを知りながら原告が(Aを通じて)違約金を支払った場合には,非債弁
済(民法705条)に該当することとなる。
イ不法原因給付
原告は,酒造メーカー等の取引先から損害賠償請求されることを恐れ,
自身の損失を少なくしたいという身勝手な理由により監督官庁である岐阜
農政事務所を欺き,本件差替えの事実という虚偽事実を申告し,虚偽事実
に基づく調査を遂行させた上,自ら確認書で虚偽事実を認めて上記違約金
を支払ったのであるから,「不法動機給付」ともいうべき行動に出たとい
うことができ,要保護性がない。よって,不法原因給付(民法708条)
の趣旨が妥当し,原告による不当利得返還請求は許されない。
ウ禁反言
自ら本件差替えの事実という虚偽の事実を申告し,確認書を交わすなど
したうえで違約金を支払ったことを先行行為とすれば,当該事実が虚偽で
あったと主張して不当利得返還請求を行うことは,同先行行為に抵触し,
信義則違反の一類型である禁反言の法理(民法1条2項)から許されない。
(原告の主張)
いずれも争う。
ア原告は,岐阜農政事務所の調査担当者から,本件MA丸米は加工米販売
要領第2の2ただし書き所定の5用途にしか使ってはいけないと説明され,
加工米販売要領のことを法規であると錯誤し,その用途外使用に基づき,
法規を根拠とする違約金等の納付義務を負うと信じた。よって,債務の不
存在を認識しながら違約金を支払ったのではなく非債弁済に当たらない。
イ原告が取引先から損害賠償請求されることを恐れたとの点は否認する。
また,原告は上記のとおり法規に基づく違約金等の納付義務の存在を誤信
したのであり,支払意思を形成する過程に公序良俗に反するような意図は
なかったから,「不法動機給付」というような場面ではないし,不法原因
給付の規定は適用されない。
ウさらに,原告が本件差替えの事実を申告したのは,被告が原告の取引先
である酒造メーカー等の名前を公表すると告げたことによる。そして,加
工米販売要領の定めは,違約金等の徴収根拠とはならないにもかかわらず,
被告は原告をそのように誤信させた。また,被告は,原告の加工原材料用
米穀(丸米)の買受申込資格や,丸米で売り渡す場合の用途等を含む加工
米販売要領の規定の確認を怠り,原告に対して本件MA丸米を売り渡した。
このように,自らにも過失がある被告に,禁反言の法理を主張する資格は
ない。
(3)事由bにつき,譲渡先の制限に違反することによる違約金支払義務の有無
本件約30トン分の処分は,本件付録記載2の譲渡先の制限に違反するこ
とによる本件各基本契約14条3項所定の違約事由に該当するか。また,同
項所定の「重大な不正行為」を伴うか。
(被告の主張)
本件約30トン分の処分は,加工業者ではないDに対して売却された点に
おいて,加工業者以外の者に譲渡することを禁止した本件付録記載2の譲渡
先の制限に違反し,本件各基本契約14条3項所定の違約事由に該当する。
また,原告が加工原材料用米穀(丸米)の買受申込資格がないのに本件M
A丸米を購入したなどの点においても,原告による本件約30トン分の処分
は,争点(1)で述べたのと同様,重大な不正行為を伴うものに該当する。
(原告の主張)
原告がDに売却した約30トンの本件MA丸米は,未だDの手許にあった
ので,合意解除によってすべて返品を受けた。したがって,原告の違反行為
は治癒されたと評価し,違約金徴収の根拠とはできないというべきである。
仮に原告による本件約30トン分の処分が違約事由に該当するとしても,
これが重大な不正行為を伴うものに該当しない根拠となる事実について,争
点(1)と同様の主張をする。
(4)事由a及びbに係る違約金額分につき,「米穀粉用」との用途制限に違反
したことによる違約金支払義務の有無
ア本件MA丸米は,被告からAに対して,米穀粉に用途を限定して売り渡
され(すなわち,原告が,「米穀粉」という製品を自ら製造し,売り渡さ
なければならない合意のもと売り渡され),本件各基本契約においては,
原告が本件MA丸米をその用途以外に使用したときは,同14条3条所定
の違約金を支払うことが合意されたか。
(被告の主張)
(ア)被告とAとの間で,本件MA丸米を売り渡すに当たり,米穀粉用に
用途を限定する合意が成立していた。
Aは,本件各引取申請書における用途欄を見るに,すべてにおいて需
要者名を「(株)C」,用途を「米穀粉」として申請している。そうす
ると,当該引取申請書において,Aは,用途を米穀粉用として限定して
申請したというべきであり,岐阜農政事務所は,これを踏まえて,本件
各基本契約2条2項に基づき,受け渡す現品の数量,代金,現品受渡場
所,受渡期限及び代金納付期限を,受渡しの都度決定を行ったのである
から,用途制限については,同12条で定められた本件付録の「1使
用用途以下の用途以外,使用してはならない。なお,(1)から(13)まで
のいずれかに用途を限定して売り渡された米穀は,その用途以外に使用
してはならない。」との条件のうち,(4)の米穀粉用として用途を限定し
て売り渡したということになる。
また,販売者が,買受者の引取申請を受けて受渡数量の決定をした場
合,買受者は,本件各基本契約3条1項に基づき,遅滞なく請書を提出
する。そして,当該請書は,MA丸米の受渡しについて約定を取り交わ
すものであるから,買受者は当該請書に記載されたとおりの条件(代金,
受渡場所等)でMA丸米を引き受ける旨の意思表示をしたということが
できる。しかも,Aが提出した本件各請書には,そのすべてに,買受目
的欄に「米穀粉用」との記載がある上,この記載は,上記のとおり,本
件各引取申請書の記載と一致している。そこで,岐阜農政事務所は,買
受目的欄に「米穀粉用」と記載がある本件各請書を受理し,A及び原告
については,「米穀粉用」として本件MA丸米を買い受ける資格を有す
る者と判断して,「米穀粉用」に用途を限定して販売したものである。
以上の本件各引取申請書及び本件各請書の記載によれば,岐阜農政事
務所とAは,本件各基本契約における本件付録記載の13種の用途制限
を前提として,個別のMA丸米の売買において,米穀粉用として用途を
限定して合意したものということができる。そして,その合意の内容は,
原告が,「米穀粉」という製品を自ら製造し販売する用途に限定すると
いうものである。
なお,被告は,被告が加工原材料用等に販売することを決定したMA
米が,不適正な流通により主食用米穀として販売ないし使用されること
がないことを行政目的としており,その目的達成のために,加工原材料
用米穀の買受申込資格者の確認申請時に買受目的ないし使用用途をあら
かじめ限定するとともに,当該用途どおりに使用されているかというM
A米の売買契約の履行状況を確認するという手法を一体的に取ってきた。
米穀の販売の決定があったときに提出することとされている請書に,買
受目的の記載が要求されていることには,買受申込資格者の確認がなさ
れた用途と整合することを確認する趣旨が含まれる。
(イ)「米穀粉用」との用途制限に違反した場合には違約金を支払うとの
合意が成立していた。
原告が,上記米穀粉用の用途に本件MA丸米を使用しなかった場合に
は,本件付録のうち「1使用用途」の「なお,(1)から(13)のいずれか
に用途を限定して売り渡された米穀は,その用途以外に使用してはなら
ない。」との記載に反し,本件各基本契約12条の「付録に定める条件
に反した」処分に該当することとなり,同14条3項に基づく違約金を
支払うことが合意された。
(原告の主張)
(ア)本件MA丸米を米穀粉用に用途を限定して売り渡す合意は成立して
いない。
本件MA丸米は,特段の制限がなければ,国内産主食用米穀の需給に
影響を与えないと認められる用途(本件付録記載1(13)参照)であれば,
相当広範な使用用途が認められるという合意のもと,被告からAに売り
渡されたものであった(本件MA丸米の使用用途として,本件付録記載
1の13用途があることは認める。なお,酒類用及び米菓用は,本件付
録記載1(1)及び(3)によれば許容されている。)。したがって,本件M
A丸米について,米穀粉用に用途を限定する合意は成立していなかった。
そのような合意の存在は,被告が,本件各基本契約12条で引用する本
件付録記載1の使用用途の制限は例文に過ぎず本件各基本契約当事者の
合意内容ではないと主張していることとも矛盾する。
原告は,本件MA丸米の購入に当たって,Aに対し,買受目的を米穀
粉用と説明したことはない。Aが本件各引取申請書及び本件各請書に用
途等を「米穀粉」と記載したのは,A岐阜県支部長が代表者を務めるN
の従業員が,「米穀粉用」と書いておけば間違いないと考え,慣例的に
記載し続けたものに過ぎない。
被告は,本件各引取申請書の記載からすれば,本件MA丸米が米穀粉
用に用途を限定して売り渡されたといえる旨主張するが,岐阜農政事務
所長は,Aが本件各引取申請書を提出するよりも先に,本件各販売決定
通知書を発出している。そして,本件各販売決定通知書には,使用用途
を限定する記載はない。また,原告及びAが作成した買受申込書には,
用途制限を承諾する文言はない。そうすると,本件MA丸米の売買は,
使用用途について特段の制限を設けることなく原告が買受けを申込み,
被告がこれを承諾したというのが実態とみて間違いなく,米穀粉として
用途を限定して売り渡したなどとはいえない。
原告は,本件の調査以前にも,定期的に岐阜農政事務所による調査を
受けていたが,その折に,本件MA丸米の用途につき酒造・米菓用に特
定米穀として使用したと説明したことに対し,何らの是正指導も受けな
かった。
(イ)違約金支払の合意は成立していない。
仮に被告とAとの間で「米穀粉用」という用途制限の合意が成立して
いたとしても,本件各基本契約において,同用途制限に反する本件MA
丸米の処分がされた場合に違約金を支払う合意が成立していたとする被
告の主張は否認する。
すなわち,被告は,本件付録記載1の13用途は,例文に過ぎないも
のであり当事者の合意内容ではないと主張しているのであるから,当該
主張を前提とすれば,「1使用用途」のなお書きの部分の記載も同様
に当事者の合意内容ではないという論理的帰結となるはずである。
イ「米穀粉用」との用途制限に違反した場合に違約金を支払うとの合意が
成立していたとした場合,本件MA丸米のうち,約609トン分を原告が
米穀粉に加工せずに販売したことは,その違約事由に該当するか。また,
同項所定の「重大な不正行為」を伴うか。
(被告の主張)
(ア)原告は,基本契約①ないし④に係る目的物である本件MA丸米のう
ち,約579トンについて本件差替えを行ったから,これは上記米穀粉
用として用途を限定した合意に反し,本件各基本契約14条3項所定の
違約事由に該当する。
仮に原告が本件差替えを行っていなくても,原告は,これに相当する
本件MA丸米を,「特定米穀」として米穀粉にせずに販売したから,上記
米穀粉用として用途を限定した合意に反し,本件各基本契約14条3項所
定の違約事由に該当する。
また,本件約30トン分の処分は,玄米のまま売却したものであるか
ら,上記米穀粉用として用途を限定した合意に反し,本件各基本契約1
4条3項の違約事由に該当する。
(イ)重大な不正行為を伴うか。
原告による上記本件MA丸米の処分がいずれも重大な不正行為を伴う
ことは,争点(1)において主張したのと同様である。
(原告の主張)
(ア)原告が,基本契約①ないし④に係る目的物である本件MA丸米約8
30トンのうち,本件在庫を除いた約609トン分を米穀粉に加工せず
に販売したことは認める(玄米のまま売り渡した本件約30トン分の処
分及びとう精の上,特定米穀と混入して酒造用,米菓用等として酒造メ
ーカー等に販売した約579トン分の処分。)。
(イ)重大な不正行為は伴わない。
仮に原告による本件MA丸米の処分が違約事由に該当するとしても,
争点(1)において主張したのと同様,これが重大な不正行為を伴うとはい
えない。
第3当裁判所の判断
1前掲前提事実に後掲括弧内に掲記の証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,以
下の事実を認めることができる。
(1)原告は,10年以上にわたり,E及びLから,両社がI組合を通じてJか
ら購入した国内産加工用米(J加工用米)を,主食用に転売する目的で購入
し(甲11ないし33[枝番を含む。],弁論の全趣旨),入手したJ加工
用米を,外食事業者等に対する業務用米穀として,主食用として売り渡して
きた(乙17,35,弁論の全趣旨)。ただし,原告とLとの間に直接取引
はなく,原告はLから上記加工用米を購入したDからこれを購入していた(弁
論の全趣旨)。
このJ加工用米は,主食用米と全く同品質のものであるが,国内産米の需
給及び価格の安定という目的の下,国が政策的に実施する生産調整制度にお
いて,主食用等の米穀では対応し難い低価格帯需要の加工用途向けに供され
ることを目的に生産され,かつ,特定の加工需要者向けに供されることとさ
れていた米穀であった(乙19,31,弁論の全趣旨)。このため,原告と
E及びLは,上記売買を行うに当たり,E及びLの両社が原告に対してJ加
工用米のとう精を委託している形を装っていた(原告代表者本人,弁論の全
趣旨)。
(2)原告は,基本契約①ないし③の目的物のうちいずれかのオーストラリア産
うるち玄米約30トン(Dに対する本件約30トン分の処分によって売り渡
されたもの。)を除いた分及び同④の目的物のうち本件在庫を除いた分の合
計約579トンを,とう精の上,特定米穀と混入して,酒造用,米菓用等と
して酒造メーカー等に売り渡した(乙33,弁論の全趣旨)。
(3)岐阜農政事務所は,遅くとも平成19年5月22日には,原告が,加工原
材料用米穀(丸米)の買受申込資格者の確認(加工米販売要領第4の1(1)イ
(エ)及び(2)エ参照)を受けていないことを認識し,当初,原告による本件M
A丸米の使用用途を,加工米販売要領第2の2ただし書き(5)記載の「その他
局長が丸米で供給することが適当と認めた用途」として遡って認めることで,
原告を加工原材料用米穀(丸米)の買受申込資格を有する者として取り扱う
ことができないかと考え,前掲前提事実(4)オ(ウ)記載のとおりF係長は原告
にメールを送信したが,その後,そのような取扱いは許されないと判断し,
原告に対する調査チームを発足させた(甲3,10,乙21,32,証人B,
弁論の全趣旨)。
(4)Hは,平成19年6月14日の第1回調査を受けた際,調査担当者から本
件MA丸米の売渡先を公表する旨の話を聞き,売渡先である酒造メーカー等
に風評被害を生じさせることを懸念したことなどから,前掲前提事実(4)オ
(ケ)記載のとおり,第2回調査の際,調査担当者らに対し,「本件MA丸米
は,酒造メーカー等に売り渡したのではなく,E及びLからとう精の委託を
受けた国内産J加工用米と差し替え,とう精した上で両社に引き渡した。」
との虚偽の事実である本件差替えの事実を申告するとともに,J加工用米を
主食用として転売している事実を申告した(甲43,48,原告代表者本人,
弁論の全趣旨)。
2事実認定の補足説明
被告は,本件差替えの事実について,岐阜農政事務所においてその申告内容
の裏付け調査を行った後,岐阜農政事務所と原告との間で交わした確認書(乙
17)は,記載内容に高い信用性及び確定力が認められるとして,本件差替え
の事実はあった旨主張するが,下記理由により,被告の上記主張は採用するこ
とができない。
(1)すなわち,まず,前示のとおり,当時の原告代表者であったHは,岐阜農
政事務所による第1回調査の際,本件MA丸米のうち約579トンについて
は,特定米穀と混入した製品として酒造メーカー等に売り渡した旨述べてい
たが,その後の第2回調査ではこの供述を翻し,本件差替えの事実を述べた
という経緯があるところ,原告は,このように供述を変えた理由につき,要
するに,同調査において岐阜農政事務所側から売渡先の酒造メーカーの業者
名を公表する必要がある旨の発言があったため,折しも当時,食品業者の産
地偽装が社会的問題となっていたことから,国産米でないMA米が日本酒に
使用されていたということが明るみに出ることで,売渡先の酒造メーカーに
迷惑を掛けることがあってはならないと考えて,いずれにしても違反の責め
を免れないなら,原告だけが悪者になれば済むような虚偽の供述をすること
にした旨説明しており(甲43,原告代表者本人),これは,供述の変遷の
理由として一応首肯できるものであるといえる。
(2)次に,本件差替えの事実に対する裏付け調査において,調査チームは,①
原告側から出された手書きの伝票と,E及びLないしD(以下,併せて「E
ら」ともいう。)にある納品書等と整合性があるかどうかを確認したり(証
人B12頁,13頁),②I組合のJ加工用米が原告に渡ったことや,原告
がI組合ないしEらにとう精をした後の米が渡ったことを裏付ける物流関係
の書類を確認したり(証人B36頁,39頁),③三重農政事務所に調査を
依頼し,Eらから聞取りをしたりした(証人B46頁)ことが認められるが,
上記①については,Bは,伝票だけでは本件差替えの事実自体があったかど
うかは分からない旨認めているほか(証人B37頁),上記伝票自体につい
ては電算の伝票が残っていないなどの不自然な点があった旨述べ(乙32,
証人B37頁),また,上記②については,かかる物流関係の書類は,原告
がEらからJ加工用米を実際には購入していたということと矛盾しないか,
あるいは,かかる購入したJ加工用米を主食用に転売するために,Eらとの
間ではとう精委託の形を装っていたということによっても説明できるもので
あって,B自身,これらの伝票や物品受領書(乙25)の他には裏付けの書
類は特に取っていない旨述べ(証人B39頁),さらに,上記③については,
第2回調査時における当時の原告代表者の供述を前提とした聞取りの結果に
過ぎず,その聞取結果等が記載された「I組合への調査依頼について(回答)」
と題する書面(乙26)を見ても,Eらの説明として具体性を有するもので
はなく,B自身,当時,三重県の関係業者の元帳や通帳など重要な帳簿類の
提出はされていなかったことを認めている(乙32)。
(3)以上によれば,結局,本件差替えの事実を裏付けるに足りる資料があると
は認められず,むしろ,証拠(甲11ないし40(枝番のあるものは枝番を
含む。),43,48,原告代表者本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告
は,EらからJ加工用米の納品を受け,Eらから請求を受けて,その売却代
金を支払っていることが認められることからすれば,本件差替えの事実は実
在しない虚構の事実であると認めるのが相当であり,前示のとおりHの供述
の変遷の理由に一定の合理性があると認められることなどとも併せ考えるな
ら,本件MA丸米のうち約579トンについては,上記1(2)に認定のとおり,
原告が特定米穀に混入して酒造メーカー等に売り渡したものと認めるのが相
当である。
3争点(1)(事由a及びcにつき,加工米販売要領第2の2ただし書きに定める
用途制限及び同要領に定める譲渡先の制限に違反したことによる違約金支払義
務の有無)
被告は,本件各基本契約において,加工米販売要領第2の2ただし書きに定
める用途制限及び同要領に定める譲渡先の制限に違反する処分を原告が行った
ときは同契約14条3項所定の違約金を支払うとの合意が成立しており,事由
a及びcは,これらの制限に違反するものである旨主張する。
しかしながら,前示のとおり,本件各基本契約14条3項の文言は,「乙
(A)は,乙が甲(被告)から又は乙の組合員(原告)が乙から買い受けた米
穀を第12条に違反して処分したことが明らかになったときは,当該現品に係
る数量の政府売渡価額に100分の30を乗じて得た額を違約金として,甲に
納付しなければならない。」というものであり,また,本件各基本契約12条
の文言は,「乙(A)又は乙の組合員(原告)は,乙が甲(被告)から又は乙
の組合員が乙から買い受けた米穀を(略),付録に定める条件に反した転売,
賃借その他処分をすることができない。」というものであって,本件各基本契
約14条3項は,A又は原告が,本件MA丸米につき,使用用途及び譲渡先の
制限の内容を明記した本件付録に定める条件に反した転売,賃借その他処分を
した場合に,Aが被告に対し違約金を支払う旨の規定であると解され,その文
理上,加工米販売要領第2の2ただし書きに定める用途制限及び同要領に定め
る譲渡先の制限に違反する処分を原告が行ったときに違約金を支払う旨の規定
であると解する余地はない。
この点につき,被告は,本件各基本契約17条2項は,Aが加工米販売要領
に定める事項を確実に履行しなければならないと定めていることから,加工米
販売要領第2の2ただし書きに定められている5つの用途制限に違反する本件
MA丸米の処分をA又は原告が行った場合には,「付録に定める条件」に反す
る処分を禁止した同12条に違反したこととなり,Aは被告に対して同14条
3項の違約金を支払う義務が生じることとなる旨主張する。
しかしながら,一般に,契約に定める違約金条項は,その性質上,違約事由
について明確に規定されるべきものというべきところ,加工米販売要領第2の
2ただし書きに定められている5つの用途制限に違反する本件MA丸米の処分
をA又は原告が行った場合には「付録に定める条件」に反する処分を禁止した
本件各基本契約12条に違反したこととなる旨の上記被告の主張は,本件各基
本契約の文理上,何らの根拠もないものというほかなく,到底これを採用する
ことはできない。
また,米穀等販売業者であった原告が加工米販売要領の内容を知り得る立場
であったとしても,同通達や書証として提出されているその他の関係通達には,
買受申込資格の確認を得ていない者が加工用米を丸米で購入した場合,あるい
は,購入した加工用丸米について加工米販売要領第2の2ただし書きに定めら
れている5つの用途制限に違反する処分をした場合に,違約金の支払義務を負
うこととなるとする具体的な根拠は見当たらないのであるから,本件各基本契
約の当事者である岐阜農政事務所長及びAないし原告の各自の合理的意思とし
ても,上記の各場合に違約金支払義務が発生するものとする意思を有していた
とは考えがたいというべきである。
以上のとおり,本件各基本契約において,加工米販売要領第2の2ただし書
きに定める用途制限及び同要領に定める譲渡先の制限に違反する処分を原告が
行ったときに同契約14条3項所定の違約金を支払うとの合意が成立していた
とは認められないから,事由a及びcについて,これらの制限に違反するもの
として原告が本件違約金の支払義務を負う理由があったと認めることはできな
い。
なお,原告が,E及びLからとう精の受託を装って購入したJ加工用米を主
食用として転売していたことについては,不当な行為として非難されて然るべ
きではあるが,前記1(2)及び(4)のとおり,上記J加工用米の販売自体は,い
ずれにせよ本件MA丸米の処分とは無関係であり,このことが本件各基本契約
14条3項に基づく違約金の発生事由とならないことは言うまでもない。
4争点(2)(事由aに係る違約金額の支払につき,非債弁済及び不法原因給付の
成否並びに不当利得返還請求をすることの信義則違反の有無)
本件MA丸米のうち約579トン分の違約金(事由aに係る違約金額)につ
いては,原告が本件差替えの事実を自ら虚偽申告し,当該事実を前提に支払っ
たこと等からすれば,非債弁済若しくは不法原因給付に該当するか。又は,禁
反言の法理(民法1条2項)により当該違約金について不当利得返還請求をす
ることができないと解すべきか。
(1)被告は,原告が本件差替えの事実の存在しないことを認識しつつ当該事実
を前提とする違約金を支払ったとすれば,非債弁済に該当するため,当該違
約金額の返還請求をすることができない旨主張する。
しかしながら,まず,前掲前提事実記載のとおり,岐阜農政事務所の調査
担当者は,第1回調査の際までに,原告に対し,本件MA丸米は加工米販売
要領第2の2ただし書き記載の用途以外には使用してはいけないことになっ
ている旨説明したことが認められ,また,証拠(乙32)及び弁論の全趣旨
によれば,本件違約金の支払を受けるに先立ち,岐阜農政事務所の調査担当
者らは原告に対し,加工米販売要領に基づく用途違反を理由とする違約金を
徴収する旨説明したことが認められる。これらの事実及び証拠(甲43,原
告代表者本人)によれば,原告は,Aを通じて本件違約金を被告に支払った
際,加工米販売要領第2の2ただし書きの用途以外に本件MA丸米を使用し
た場合には,違約金の支払義務を負担しなければならない旨誤信していたこ
とが推認され,この推認を妨げる証拠はないというべきである。また,証拠
(乙33,証人B)によれば,第1回調査の際,そのころ岐阜農政事務所が
把握していた原告の酒造メーカー等に対する本件MA丸米の販売の事実につ
いても,加工米販売要領に基づく用途違反を理由として,更なる詳細な調査
を行うことが予定されていたと認められ,原告においてもこれを認識してい
たと認められる。そうすると,原告は,Aを通じて本件違約金を被告に支払
う際,当初の申告どおり本件MA丸米を酒造メーカー等に売り渡したことを
認めた場合であっても,用途違反を理由として違約金を支払う義務を免れな
いとの認識のもと,本件違約金を支払ったと認められる。
以上によれば,原告が,本件違約金を支払った際,本件差替えの事実を虚
構と認識していたとしても,本件MA丸米約579トン分の処分につき,違
約金支払義務がないことを認識しながら本件違約金を支払ったということは
できない。
したがって,原告による事由aに係る違約金の支払は,債務の存在しない
ことを知って支払ったものとは言えないから,これが非債弁済に当たるとの
被告の主張は採用することができない。
(2)被告は,本件差替えの事実が実在しない虚構のものであったとした場合,
原告が,取引先からの損害賠償請求を回避するために本件差替えの事実が存
在すると虚偽の申告をし,岐阜農政事務所職員をして当該虚偽事実に基づく
調査を遂行させた上,自ら確認書でこれを認めて本件違約金を支払ったこと
などからすれば,事由aに係る違約金支払の動機は不法であり,その支払は
不法原因給付に該当する旨主張する。
しかしながら,原告が本件差替えの事実を申告した主たる動機が,産地偽
装を行ったこと等を理由とする酒造メーカー等の取引先からの損害賠償請求
を受けることを回避することにあったと認めるに足りる証拠はない。また,
仮に,上記虚偽申告の動機が損害賠償請求を受けることを回避することにあ
ったとしても,上記のとおり,原告が,岐阜農政事務所職員からの説明によ
って,加工米販売要領第2の2ただし書き記載の用途に反する本件MA丸米
の処分を行った場合には違約金を支払う義務を負う旨誤信して本件違約金を
支払ったこと,その際,原告は,酒造メーカー等に販売した事実を認めた場
合にも違約金の支払義務を免れない旨誤信していたと認められることからす
ると,原告による上記違約金の支払が「不法な原因のために給付をした」場
合に当たると認めることはできない。
(3)被告は,原告が本件差替えの事実を虚偽申告したとすれば,当該事実を前
提としてAを通じて被告に支払った違約金につき返還請求をすることは,信
義則違反の一類型である禁反言の法理に反し許されない旨主張する。
しかしながら,本件各基本契約において,加工米販売要領第2の2ただし
書きに定める用途制限及び同要領の定める譲渡先の制限に反する本件MA丸
米の処分を原告が行ったときに違約金を支払う旨の合意が成立していたとは
認められないことは前記のとおりであり,したがって,本件差替えの事実の
有無に関わらず,本件違約金のうち事由aに係る部分については,原告に支
払義務がなかったというべきであるから,仮に信義則により原告が本件差替
えの事実を争うことができないと言うべきであるとしても,そのことをもっ
て当該違約金部分の支払が法律上の原因を欠くとの評価を妨げるということ
はできないのである。
(4)以上のとおり,被告による非債弁済,不法原因給付及び信義則違反の主張
は,いずれも採用することができない。
5争点(3)(事由bにつき,譲渡先の制限に違反することによる違約金支払義務
の有無)
本件約30トン分の処分は,本件付録記載2の譲渡先の制限に違反すること
による本件各基本契約14条3項所定の違約事由に該当するか,また,同項所
定の「重大な不正行為」を伴うかについて次に検討する。
(1)本件約30トン分の処分は,本件付録記載2の譲渡先の制限に違反するこ
とによる本件各基本契約14条3項所定の違約事由に該当するか。
上記のとおり,本件各基本契約14条3項は,「乙(A)の組合員(原
告)が乙から買い受けた米穀を第12条に違反して処分したことが明らかに
なったとき」には,Aは,被告に対し,違約金の支払義務を負う旨定め,同
12条は,乙の組合員(原告)が,買い受けた米穀を「付録に定める条件に
反した転売,賃借その他処分」をしてはならない旨定めている。そして,本
件付録記載2においては,譲渡先につき,「以下の場合以外,譲渡をしては
ならない。」として,米穀を加工業者(米穀を原料又は材料として使用する
製造又は加工の事業を行う者)以外の者に対して譲渡することを禁止してい
る。そうすると,原告が,本件MA丸米を加工業者でない者に対して売り渡
した場合には,上記譲渡先の制限に違反する処分に該当することとなり,A
は,被告に対し,原告による同処分に係る現品に係る数量の政府売渡価額を
基礎とする違約金を支払う義務を負うというべきである。
そして,前掲認定事実及び証拠(原告代表者本人)によれば,Dは,原告
がJ加工用米のほか様々な米を仕入れていた仕入先であったと認められ,D
は,本件付録記載2において定める加工業者,すなわち,米穀を原料又は材
料として使用する製造又は加工の事業を行う者ではなかったことが認められ
る。したがって,本件約30トン分の処分は,上記本件各基本契約14条3
項の定める違約事由に該当する。
原告は,Dに売却した約30トンの本件MA丸米は,未だDの手許にあっ
たので,合意解除によってすべて返品を受けたため,原告の違反行為は治癒
されたと評価すべきであり,違約金徴収の根拠とすることはできない旨主張
するが,上記のとおり,本件付録記載2は「譲渡をしてはならない。」と定
めているのであるから,本件MA丸米を譲渡をした時点で本件各基本契約1
2条に反する処分をした場合に該当するというべきである。したがって,原
告の上記主張は採用できない。
(2)本件約30トン分の処分は,本件各基本契約14条3項所定の「重大な不
正行為」を伴うか。
ア前示のとおり,本件各基本契約14条3項は,違約金の額につき,同1
2条に違反してなされた処分の当該現品に係る数量の政府売渡価額に10
0分の30を乗じて得た額を原則としつつ,ただし書きにより,当該違反
が「重大な不正行為を伴うためこれら割合によることが著しく不適当であ
ると認められるとき」には,当該現品に係る数量の政府売渡価額に乗じる
割合を,100分の60へと増嵩する旨定めている。そして,本件違約金
は,本件約30トン分の処分につき,上記「重大な不正行為」を伴うとし
て,当該処分がなされた現品の政府売渡価額に100分の60を乗じた額
として算定されたものである。
イ被告は,本件約30トン分の処分が上記「重大な不正行為を伴う」場合
に該当する根拠となる事実として,概ね,①原告が加工原材料用米穀(丸
米)の買受申込資格がないのに本件MA丸米を購入したこと,②本件各基
本契約の期間を含む長期にわたって,輸入米粉調整品の代替として製粉し
て使用することを要件に販売されたMA米計580トン(約579トン分
のことと解される。)を製粉することなく違法に加工業者以外の者に転売
していたことを主張する。
ウしかしながら,まず,上記②については,本件各基本契約14条3項た
だし書きによれば,当該現品に係る数量の政府売渡価額に100分の60
を乗じた額を違約金額とする場合は,同12条に対する「当該違反」が重
大な不正行為を伴うためこれら割合によることが著しく不適当であると認
められるときとされているから,本件約30トン分の処分とは別の米穀の
処分が,当該別の米穀の売買契約に基づく使用用途の制限に違反していた
としても,これをもって,上記「当該違反」,すなわち本件約30トン分
の処分が重大な不正行為を伴う場合に当たるということはできない。
エ次に,上記①の原告が加工原材料用米穀(丸米)の買受申込資格を有し
ていなかったにもかかわらず本件MA丸米を購入したことについて,被告
は,他用途利用米要領が適用されていた当時から,他用途利用米需要者の
認定とは別に,加工原材料用米穀(丸米)の買受申込資格に相当する資格
が設定されており,政府の所有する加工用米を丸米で買い受けようとする
者は,その理由や製品の製造方法等を記載して他用途利用米需要者の認定
を申請する必要があったことから,原告は,加工原材料用米穀であるMA
米を丸米で購入するためには,加工原材料用米穀の買受申込資格とは別に,
加工原材料用米穀(丸米)の買受申込資格に係る手続が必要であることを
当然に認識しているべきであったと主張する。
しかしながら,前掲前提事実記載のとおり,加工原材料用米穀の買受申
込資格に関する定めは,行政組織の内部事項についての規律を定める通達
の形式によって定められているものであり,実際,同資格に関する各通達
の内容をみても,地方農政事務所長等が,①所管する地区の需要者団体に
対し買受申込資格者の確認の審査や確認通知書の交付等を行い,②米穀の
販売時には,所管する地区の販売対象者(買受資格者及びこれを構成員と
する組合等)に対して販売予定の米穀の種別等の内容を提示し,③買受者
の決定時には,買受申込者(組合等の場合には,需要者である組合員)の
買受申込資格の確認等を行うこと(弁論の全趣旨)等,行政機関の内部事
項に関する規定がその中心となっており,その内容を知り,これに従うべ
きは,地方農政事務所長等の行政機関内部の者であって,原告等の米穀販
売業者としては,その内容を知っておくことに実益があるとしても,その
内容により直接の名あて人として規律を受ける立場にはないというべきで
あり,その内容を知らなかったことにより不利益を課される理由もないと
いうべきである。
しかるに,前示のとおり,岐阜農政事務所長は,本件MA丸米の販売に
先立ち,原告につき,「丸米での使用理由,製品製造上の使用方法及び製
造予定製品等を記載した書類」の提出依頼及び加工原材料用米穀(丸米)
の買受申込資格者の確認の審査を行わず,販売の際の買受申込資格の確認
を行わないまま,原告に対し,Aを通じて本件MA丸米を販売する本件各
基本契約を締結したのであるから,通達違反の責めを負うべきは,岐阜農
政事務所長ないし同農政事務所の職員であって,Aないし原告ではない。
確かに,前示のとおり,本件各基本契約17条2項は,Aないし原告に対
し,加工米販売要領の履行義務を規定していることからすれば,Aないし
原告は,本件各基本契約を通じて加工米販売要領の規律を受けると解する
余地があるとしても,本件各基本契約を締結することにより本件各基本契
約を締結してはならない義務を負ったからその義務に違反したことによる
責めを負うべきであるというのでは,論理矛盾の感を否めない。
もっとも,原告ないしAが,原告が買受申込資格者の確認を得ていない
ことを知りながら,岐阜農政事務所職員の錯誤を利用して本件MA丸米を
購入したのであれば,これは重大な不正行為と言うべきであるが,原告な
いしAがそのことを知っていたとする証拠はなく,むしろ,前示のような
事実関係ないし証拠情況(本件各基本契約締結当時,買受資格者に対して
交付される確認通知書には,買受申込資格者の確認がされた米穀の種類が
変形加工米と丸米とのいずれであるかについての記載は存在しなかったこ
となど)からすれば,これを知らなかった可能性が高いというべきである。
加えて,前掲前提事実(4)オ(イ)及び(ウ)記載のとおり,本件各基本契約
のうち基本契約①ないし④締結後である平成19年5月22日付けでA岐
阜県支部から原告に対して送信された「定例販売で丸玄米を購入されまし
たので,別紙の書類が必要になりました。」等というファクシミリの内容
や,同月25日付けで岐阜農政事務所消費流通課買入販売係長から原告に
対して送信された「昨年8月以前の日にちまで遡及して,丸米の使用承認
をしたいと思っております。」というメールの内容からすれば,これらの
送信の際,岐阜農政事務所及びA岐阜県支部のいずれにおいても,加工原
材料用米穀(丸米)の買受資格者でない原告がそのときまでに販売された
本件MA丸米を買い受けたことにつき,重大な不正行為であるとの認識を
有していなかったことが窺われるというべきである。また,前掲前提事実
によれば,基本契約⑤が締結された時点で,岐阜農政事務所において,原
告が加工原材料用米穀(丸米)の買受資格者でないこと等を認識しており,
加工米販売要領第2の2ただし書き(5)の使用の承認によって原告を加工
原材料用米穀(丸米)の買受申込資格を有する者として扱うことができる
ことも確実ではなかった状況であったにもかかわらず,基本契約⑤が締結
され,これに基づく本件MA丸米の販売がすべて履行されたと認められる
ことからすれば,本件各基本契約の当事者である岐阜農政事務所長は,原
告が加工原材料用米穀(丸米)の買受申込資格を欠いたまま本件MA丸米
を買い受けることにつき,同14条3項所定の「重大な不正行為」に該当
するという認識を有していたと認めることはできない。
以上によれば,原告が加工原材料用米穀(丸米)の買受申込資格がない
のに本件MA丸米を購入したことは,本件約30トン分の処分の違約金額
を,当該現品に係る数量の政府売渡価額に100分の30を乗じて得た額
によることが著しく不適当であると認められるような「重大な不正行為」
に当たるという被告の主張は採用できない。
オ以上のとおりであるから,原告による本件約30トン分の処分が「重大
な不正行為」を伴うものと認めるに足りないというべきである。
6争点(4)(事由a及びbに係る違約金額分につき,「米穀粉用」との用途制限
に違反したことによる違約金支払義務の有無)
(1)本件MA丸米は,被告からAに対して,米穀粉に用途を限定して売り渡さ
れ(すなわち,原告が,「米穀粉」という製品を自ら製造し,売り渡さなけ
ればならない合意のもと売り渡され),原告が本件MA丸米をその用途以外
に使用したときは,本件各基本契約14条3条所定の違約金を支払うことが
合意されたか。
ア被告は,本件各引取申請書の「用途」欄及び本件各請書の「買受目的」
欄に,いずれも「米穀粉用」と記載されていることからすれば,被告とA
は,本件各基本契約における本件付録記載1に掲げられた13種の用途制
限を前提として,個別の本件MA丸米の売買において,用途を米穀粉用と
限定し,この限定に違反した場合には違約金を支払うとの合意が成立して
いた旨主張する。
イしかしながら,上記被告の主張を採用することはできない。
なぜなら,まず,一般に,違約金は,これを課される者にとって重大な
不利益となるものであるから,違約金支払事由がどのようなものであるか
については,契約当事者間に明確な合意が成立していることを要するとい
うべきところ,前示のとおり,本件各基本契約の文理上,本件付録記載1
に掲げられた13種に用途が制限され,この制限に違反する行為が違約金
支払事由とされている中で,さらに米穀粉のみに用途を限定し,この限定
に違反する行為を違約金支払事由と定めるのであれば,契約当事者として
は,契約書などにより,その旨を明確に合意する必要があったというべき
である。しかるところ,本件各引取申請書の「用途」欄及び本件各請書の
「買受目的」欄にされた「米穀粉用」の記載については,本件各基本契約
の目的物(本件MA丸米)の用途を米穀粉のみに限定する趣旨のものであ
るとは解し得ないのである。引取申請書の「用途」欄及び請書の「買受目
的」欄が設けられた趣旨が,被告(岐阜農政事務所)において,売買目的
とされた米穀の購入者における用途を確認するためであったとしても,こ
れらの記載欄は,購入者の用途が上記13種のいずれかに該当するもので
あることを確認するためにも機能し得るものと考えられ,したがって,上
記13種の用途制限以上の用途制限(米穀粉用のみに用途を限定するなど
の制限)を設けない場合であっても,これらの記載欄に用途を記載させる
ことには意味があると考えられるからである。その場合には,購入者がそ
こに記載された用途以外の用途に購入米穀を使用・処分したとしても,上
記13種の用途のいずれかに使用・処分する限りでは,違約金支払事由に
は該当しないと考えられる。つまり,これらの記載欄に用途の記載がある
ことは,当該記載されたものに用途を限定する合意が成立したとする事実
に関連するとは認められない。そして,他に,本件各基本契約の当事者が,
本件MA丸米の用途を米穀粉のみに限定する合意をしたとする証拠は見当
たらない。
ウ実際,前示のとおり,被告は,原告が本件MA丸米のうち約10トンを
米穀粉に加工してE及びDに売り渡したこと(本件約10トン分の処分)
が本件各基本契約に係る違約金支払事由に該当する旨主張して,平成19
年9月下旬ころ,原告ないしAから本件違約金を徴収したのであり,この
ことからは,当時,被告は,本件MA丸米について,用途を米穀粉と限定
して売り渡したとは認識していなかったことが窺われ,また,被告は,本
件MA丸米を,用途を米穀粉と限定して売り渡したという主張を,本訴提
起から2年以上が経過した同23年11月24日の口頭弁論期日に陳述し
た同月21日付け準備書面で初めて主張したのであり(当裁判所に顕著),
それ以前に,被告が,本件MA丸米について,用途を米穀粉と限定して売
り渡したと認識していたことを窺わせる事実ないし証拠があるとは認めら
れない。
他方,Aないし原告についても,本件MA丸米について,米穀粉に加工
した上で処分する義務を負担したと認識していたことを窺わせる事実ない
し証拠はない。
以上のとおり,本件MA丸米の売買に係る当事者の認識としても,その
用途が米穀粉と限定されていたとするものであったは認められない。
エ以上によれば,被告(岐阜農政事務所)とAないし原告との間で,本件
MA丸米を,用途を米穀粉と限定し,この限定に違反した場合に違約金を
支払うものとする合意が成立していたとは認めることができない。
(2)そうすると,原告ないしAによる本件違約金支払の原因として,原告ない
しAが米穀粉用との用途制限に違反したことに基づく違約金支払義務を負っ
ていたとする事実を認めることはできない。
7小括
以上によれば,原告からAへ,Aから被告へと順次支払われた本件違約金の
うち,本件約30トン分の処分の当該現品に係る数量の政府売渡価額に100
分の30を乗じた額を除いた額は,支払う義務がないのに支払われたものと認
められる。
ところで,本件約30トン分の処分の当該現品が基本契約①ないし③の目的
物であるオーストラリア産うるち玄米のうちのいずれであるかを特定するに足
りる証拠はないから,本件約30トン分の処分につき支払われるべきであった
違約金を算定する上では,上記オーストラリア産うるち玄米の政府売渡価額の
うち最も安い,1トン当たり11万9300円を基礎として算定するのが相当
である。
そうすると,その違約金額は,次の計算式のとおり,113万0361円で
あると認められる。
(計算式)
11万9300(円)×30.0792(トン)×1.05=376万78
70(円)(円未満切り捨て)
376万7870(円)×0.3=113万0361(円)
したがって,原告からAへ,Aから被告へと順次支払われた本件違約金45
44万8526円のうち,上記113万0361円を差し引いた4431万8
165円の支払は,いずれも法律上の原因のないものであり,これによる原告
の損失と被告の利得との間には,前示のとおり因果関係があるというべきであ
るから,原告は被告に対し,不当利得に基づき当該利得の返還を求めることが
できる。
8結論
以上の次第で,原告の被告に対する請求は,4431万8165円及びこれ
に対する訴状送達の日の翌日である平成21年8月5日から支払済みまで民法
所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこ
れを認容し,その余は理由がないからこれを棄却することとし,なお,仮執行
宣言は相当でないからこれを付さないこととして,主文のとおり判決する。
岐阜地方裁判所民事第1部
裁判長裁判官針塚遵
裁判官戸崎涼子
裁判官笹邉綾子

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