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平成17年(行ケ)第10348号 特許取消決定取消請求事件
平成17年10月13日判決言渡,平成17年9月22日口頭弁論終結
     判    決
 原 告 株式会社伊予エンジニアリング
 訴訟代理人弁理士 安形雄三,五十嵐貞喜
 被 告 特許庁長官 中嶋誠
 指定代理人 杉山務,深沢正志,小池正彦,青木博文
     主    文
 特許庁が異議2003-70737号事件について平成16年10月1日にした
決定を取り消す。
 訴訟費用は被告の負担とする。
     事実及び理由
第1 原告の求めた裁判
 主文と同旨の判決。
第2 事案の概要
 本件は,特許を取り消した決定の取消しを求める事件である。
 1 手続の経緯
 (1) 原告は,平成11年11月9日,平成7年1月13日に出願した特願平7-
19863号(原出願)の一部を「文字情報と画像の合成方法及びその装置」とす
る新たな特許出願(請求項の数6)とし,平成12年5月22日,発明の名称を
「文字情報と地図画像の合成方法及びデータベース機能向上支援システム」に変更
し,特許請求の範囲を変更するなどの補正(以下「本件補正」という。)をして,
平成14年7月12日,その設定登録(特許第3327881号,以下「本件特
許」という。)を受けた。
 (2) 本件特許について,特許異議の申立てがされ(異議2003-70737号
事件として係属),これに対し,原告は,平成16年6月14日,特許請求の範囲
等の訂正(以下「本件訂正」という。)を請求し,さらに,同年9月21日付け手
続補正書により本件訂正に係る請求書の補正をした。
 (3) 特許庁は,平成16年10月1日,「特許第3327881号の請求項1な
いし6に係る特許を取り消す。」との決定をし,同月20日,その謄本を原告に送
達した。
 2 本件発明の要旨
 (1) 特許出願時のもの(甲2の2)
【請求項1】 予め作成された地図情報に基づいて地図を表示する第1のステップ
と,当該地図上で所望の対象物の場所の指定を促す第2のステップと,前記地図上
において指定された当該対象物の座標情報を,入力された利用者情報と関連付けて
登録する第3のステップと,前記対象物を含む地図の部分を表示すると共に,前記
当該利用者情報を前記対象物と関連付けて合成して表示する第4のステップとを有
することを特徴とする文字情報と画像の合成方法。
【請求項2】 前記入力された利用者情報に含まれる文字情報を検索キーとして自
動的に登録する第5のステップと,利用者により入力された文字情報を検査キーと
して該文字情報が含まれる前記登録された利用者情報を検索する第6のステップ
と,前記検索された利用者情報に対応して登録されている対象物を含む地図の部分
を表示すると共に,前記当該利用者情報を前記対象物と関連付けて表示する第7の
ステップとを有することを特徴とする請求項1に記載の文字情報と画像の合成方
法。
【請求項3】 前記第6のステップにより文字情報を検索キーとして画像上での当
該位置を求めた後,前記第7のステップは,当該位置が表示画面上の所定の位置に
配置されるように表示領域を調整して表示することを特徴とする請求項1又は2に
記載の文字情報と画像の合成方法。
【請求項4】 前記第6のステップにより文字情報を検索キーとして画像上での当
該位置を求めた後,前記第7のステップは,当該位置を含む画像を表示する際,前
記検索キーに対応する対象物の画像を当該位置に合成して表示することを特徴とす
る請求項1乃至3のいずれかに記載の文字情報と画像の合成方法。
【請求項5】 前記第6のステップにより文字情報を検索キーとして画像上での当
該位置を求めた後,前記第7のステップは,当該位置を含む画像を表示する際,前
記検索キーに対応する対象物の領域部内を反転表示するようにした請求項1乃至請
求項4のいずれかに記載の文字情報と画像の合成方法。
【請求項6】 予め作成された地図情報に基づいて地図を表示する地図画像標示手
段と,当該地図上で所望の対象物の領域を指定する対象物位置指定手段と,前記地
図上において指定された当該対象物の座標情報を,入力された任意の文字情報を含
む利用者情報と関連付けて登録する利用者情報登録手段と,前記入力された利用者
情報に含まれる文字情報を検索キーとして自動的に登録する検索キー登録手段と,
利用者により入力された文字情報を検査キーとして該文字情報が含まれる前記登録
された利用者情報を検索する利用者情報検索手段と,前記検索された利用者情報に
対応して登録されている対象物を含む地図の部分を出力すると共に,前記当該利用
者情報を前記対象物と関連付けて合成して出力する利用者情報出力手段とを備えた
ことを特徴とする文字情報と画像の合成装置。
 (2) 本件補正後のもの(甲2の1,下線部が上記(1)に対する訂正箇所であ
る。)
【請求項1】 地図画像が格納された電子地図情報システムと利用者が所有する既
存データベースとを利用して,該既存データベースの文字情報と前記地図画像とを
合成して表示する文字情報と地図画像の合成方法であって,
下記のステップ(a)~(d)により,文字情報,数字情報のデータをつかさどる
簡易データベースを前記電子地図情報システム内に持たずに,前記文字情報と前記
地図画像との合成表示処理をすることを特徴とする文字情報と地図画像の合成方
法。
(a)前記既存データベースの文字情報を付加する対象物の領域を前記地図画像上
にて指定するステップ。
(b)前記利用者が所有する既存のデータベースから抽出した文字情報群から成る
テキスト形式のファイルを入力し,各文字情報を各対象物の領域情報と対応付けて
記憶する管理テーブルに登録するステップ。
(c)入力された文字情報を検索キーとして前記管理テーブルに登録された文字情
報群を検索し,検索された文字情報に対応して登録されている前記対象物の領域情
報に基づき前記地図画像上での当該対象物の位置を求めるステップ。
(d)前記(c)のステップにより求めた位置情報に基づき,当該対象物を含む地
図画像を読み出して表示すると共に,前記検索された文字情報を前記当該対象物と
関連付けて合成して表示するステップ。
【請求項2】 前記(d)のステップは,文字情報を登録する際に,前記指定され
た一つの対象物に対して複数の異なる文字情報を対応付けて登録できる共に,前記
指定された複数の対象物に対して同一の文字情報を対応付けて登録できるようにな
っている請求項1に記載の文字情報と地図画像の合成方法。
【請求項3】 前記文字情報と共に利用者のイメ-ジ情報を当該対象物の関連情報
として付加できるようになっている請求項1又は2に記載の文字情報と地図画像の
合成方法。
【請求項4】 前記電子地図情報システムが,受信した移動体の位置情報に基づき
当該移動体の位置を地図の画像上に表示するシステムである請求項1乃至3のいず
れか1項に記載の文字情報と地図画像の合成方法。
【請求項5】 前記地図画像が,地図,設計図,各種構造物の構造図を含む図形の
画像である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の文字情報と地図画像の合成方
法。
【請求項6】 簡易データベースを持たない電子地図情報システムと利用者が所有
する既存データベースとを連結してデータベース機能を強化するデータベース機能
向上支援システムであって,請求項1乃至5のいずれか1項に記載の方法の発明を
実現したことを特徴とするデータベース機能向上支援システム。
 (3) 本件訂正請求による訂正後のもの(甲4の3,請求項1及び2に係るもの
で,下線部が上記(2)に対する訂正箇所である。)
【請求項1】 地図画像が格納された電子地図情報システムと利用者が所有する既
存データベースとを利用して,該既存データベースの文字情報と前記地図画像とを
合成して表示する文字情報と地図画像の合成方法であって,
下記のステップ(a)~(d)により,文字情報,数字情報のデータをつかさどる
簡易データベースを前記電子地図情報システム内に持たずに,前記文字情報と前記
地図画像との合成表示処理をすることを特徴とする文字情報と地図画像の合成方
法。
(a)前記既存データベースの文字情報を付加する対象物の領域を前記地図画像上
にて指定するステップ。
(b)前記利用者が所有する既存のデータベースから抽出した文字情報群から成る
テキスト形式のファイルを入力し,各文字情報を各対象物の領域情報と対応付けて
文字情報記憶部に登録するステップ。
(c)入力された文字情報を検索キーとして前記文字情報記憶部に登録された文字
情報群を検索し,検索された文字情報に対応して登録されている前記対象物の領域
情報に基づき前記地図画像上での当該対象物の位置を求めるステップ。
(d)前記(c)のステップにより求めた位置情報に基づき,当該対象物を含む地
図画像を読み出して表示すると共に,前記検索された文字情報を前記当該対象物と
関連付けて合成して表示するステップ。
【請求項2】 前記(b)のステップは,文字情報を登録する際に,前記指定され
た一つの対象物に対して複数の異なる文字情報を対応付けて登録できる共に,前記
指定された複数の対象物に対して同一の文字情報を対応付けて登録できるようにな
っている請求項1に記載の文字情報と地図画像の合成方法。
【請求項3】ないし【請求項6】 (2)と同一である。
 3 審決の理由の要旨
 審決の理由は,以下のとおりであるが,要するに,本件訂正は認められないとし
た上,請求項1ないし6に係る発明は,特許法17条2項,36条4項,5項に規
定する要件を満たしていないので,特許を受けることができない,というものであ
る。
 (1) 訂正の適否についての判断
 (1-1) 訂正請求に対する補正の適否について
 平成16年9月21日付けの手続補正は,実質的に訂正事項7と訂正事項8の削
除であるので,これを認める。
 (1-2) 訂正の内容
 平成16年6月14日付けの訂正請求書と平成16年9月21日付け手続補正書
とから,特許権者が求めている訂正の内容は,以下のとおりである。
 ア 訂正事項1
 誤記の訂正を目的として,
 2a; 特許請求範囲の請求項1中(特許公報1頁右欄1,2行)の「記憶する
管理テーブルに登録する」を「文字情報記憶部に登録する」と訂正し,
 2b; 請求項1中(特許公報1頁右欄3,4行)の「(c)入力された文字情
報を検索キーとして前記管理テーブルに登録された文字情報群」を「(c)入力さ
れた文字情報を検索キーとして前記文字情報記憶部に登録された文字情報群」と訂
正する。
 これらの訂正2a,2bに伴い,請求項1の記載と発明の詳細な説明の記載との
整合を図るため,誤記の訂正を目的として,
 2c; 明細書の段落【0008】中の9,10行(特許公報3頁左欄17ない
し19行)の「記憶する管理テーブルに登録するステップ;(c)入力された文字
情報を検索キーとして前記管理テーブルに登録された文字情報群」を,「文字情報
記憶部に登録するステップ;(c)入力された文字情報を検索キーとして前記文字
情報記憶部に登録された文字情報群」と訂正する。
 イ 訂正事項2
 誤記の訂正を目的として,特許請求範囲の請求項2中(特許公報2頁右欄12
行)中の「前記(d)のステップは」を「前記(b)のステップは」と訂正する。
 ウ 訂正事項3
 誤記の訂正を目的として,明細書の段落【0006】最終行(特許公報2頁右欄
42,43行)における「できなかった」を「できなかった。」と訂正する。
 エ 訂正事項4
 誤記の訂正を目的として,明細書の段落【0015】1,2行(特許公報4頁左
欄15行)における「図1のフローチャート」を「図2のフローチャート」と訂正
する。
 オ 訂正事項5
 誤記の訂正を目的として,明細書の段落【0021】2行(特許公報4頁右欄2
4,25行)における「図形情報G2に対応する文字情報がKEYG12」を「図
形情報G2に対応する文字情報がKEYG21」と訂正する。
 カ 訂正事項6
 誤記の訂正を目的として,明細書の段落【0025】8行(特許公報5頁左欄2
3行)における「当該の場所と対応付けて表示」を「該当の場所と対応付けて表
示」と訂正する。
 キ 訂正事項7
 誤記の訂正を目的として,明細書の段落【0034】8,9行(特許公報6頁左
欄9行)における「登録した文字時情報」を「登録した文字情報」と訂正する。
 (1-3) 訂正の目的の適否,新規事項の有無及び拡張・変更の存否
 訂正事項1について
 ア ステップ(b)について
 上記訂正事項1は,請求項1中の(b)について,
「(b)前記利用者が所有する既存のデータベースから抽出した文字情報群から成
るテキスト形式のファイルを入力し,各文字情報を各対象物の領域情報と対応付け
て記憶する管理テーブルに登録するステップ。」を
「(b)前記利用者が所有する既存のデータベースから抽出した文字情報群から成
るテキスト形式のファイルを入力し,各文字情報を各対象物の領域情報と対応付け
て文字情報記憶部に登録するステップ。」と訂正することである。
 この訂正事項を検討すると,
 この(b)に記載されているステップは,発明の詳細な説明に記載されていない
ステップであるから,これをどのように訂正しても,誤記の訂正,明瞭でない記載
の釈明にはならない。
すなわち,
 (ア) 図10について
 段落【0027】には,『次に,「ファイル指定」による検索手順,すなわち,
複数の文字情報(検索キー情報)を指定して当該位置を順次検索する手順を具体例
を示して説明する。例えば,図10(A)に示すような,データ(文字情報群)が
格納されたユーザデータベースD1があり,同図において,それぞれ“KEYA”
~“KEYE”が,画像位置の関連情報となる文字情報であると仮定する。この場
合は,先ず利用者は,データベースで管理しているデータの中から検索キーの部分
KEYA,KEYB,……,KEYEだけを抽出し,例えば同図(B)に示すよう
に,改行データを区分情報としてテキストファイルTX1に出力する。』と記載さ
れている。
 ここでは,「ファイル指定」による検索について記載されているが,「利用者が
所有する既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファ
イルを入力し」て登録することについては記載されていない。
 図10(C)には,テキストファイルTX1のファイル名を入力して検索指示を
行うとき,テキストファイルTX1からの文字情報が,各検索キーと見なして,文
字情報記憶部42に展開されたものが示されており,図8の文字情報記憶部42に
示されているような,管理コードが付与されて登録処理が成されている文字情報群
が示されているものではない。すなわち,発明の詳細な説明には,既存のデータベ
ースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力して,管理コ
ードが付与されて登録処理が成されている文字情報群(図8の文字情報記憶部42
に示されているような,)に,どのようにして登録するのかは明示されていない。
また,当業者が通常に考えられることとも認められない。
 (イ) 段落【0013】について
 段落【0013】には,「利用者は,作画して指定した場所に対し,その場所を
管理するための任意の文字情報を入力装置1から入力する。入力装置1を介してユ
ーザデータベースDB等から入力された文字情報は,文字情報登録手段32によっ
て情報記憶部4内の文字情報記憶部42に登録される。」と記載されている。
 この記載からでは,既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキス
ト形式のファイルを入力し,各文字情報を各対象物の領域と対応付けて,図8に示
されるように当該対象物の登録済みキー情報として登録することが,どのようにな
されるのか不明であり,ただ,文字情報が入力装置1を介してユーザデータベース
DB等から入力されることが記載されているにすぎない。
 (ウ) 段落【0019】について
 段落【0015】~【0022】には,本発明に係る文字情報と画像の合成方法
をフローチャートを参照して説明しており,一例として,関連情報をキーボード等
から直接入力する場合が示されている。段落【0019】には,「関連情報が入力
され,利用者により登録指示がされると,文字情報登録手段32では,該当の図形
情報と文字情報との対応付けを行ない,文字情報を文字情報記憶部42に登録す
る。」と記載されている。しかし,これらの段落には,「利用者の所有する既存の
データベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し」
て登録することについては記載されていない。
 (エ) このように,発明の詳細な説明には,「(b)前記利用者が所有する既存の
データベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し,
各文字情報を各対象物の領域情報と対応付けて記憶する管理テーブルに登録するス
テップ」については記載されていなし,「(b)前記利用者が所有する既存のデー
タベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し,各文
字情報を各対象物の領域情報と対応付けて文字情報記憶部に登録するステップ」に
ついても記載されていないと認められる。
 (オ) したがって,請求項1の(b)は,発明の詳細な説明に記載されていないこ
とであり,これを誤記の訂正として,「(b)前記利用者が所有する既存のデータ
ベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し,各文字
情報を各対象物の領域情報と対応付けて記憶する管理テーブルに登録するステッ
プ。」を「(b)前記利用者が所有する既存のデータベースから抽出した文字情報
群から成るテキスト形式のファイルを入力し,各文字情報を各対象物の領域情報と
対応付けて文字情報記憶部に登録するステップ。」と訂正しても,依然として,発
明の詳細な説明に記載されていないものである。
 よって,訂正事項1を誤記の訂正あるいは明瞭でない記載の釈明であるとは認め
ることはできない。
 イ 「管理テーブル」を請求項1からなくす点について
 「管理テーブル」は,発明の詳細な説明の記載によれば,発明の構成に欠くこと
のできない事項であり,段落【0013】には,「登録された図形情報と文字情報
との対応は,情報記憶部4内の管理テーブル43に登録されて管理される。」と記
載されている。
 したがって,「各文字情報を各対象物の領域情報と対応付けて記憶する管理テー
ブルに登録する」を,「各文字情報を各対象物の領域情報と対応付けて文字情報記
憶部に登録する」と訂正することは,もともと,図形情報と文字情報とを対応付け
て,管理テーブルに登録していたことを,文字情報記憶部だけが,管理テーブルと
は関係なく文字情報と各対象物の領域情報と対応付けて登録することになる。
 したがって,訂正事項1は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するもの
であると認められる。
 (1-4) むすび
 以上のとおりであるから,本件訂正は,特許法等の一部を改正する法律(平成6
年法律第116号)附則6条1項の規定によりなお従前の例によるとされる,特許
法120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特
許法126条1項ただし書き及び2項の規定に適合しないので,本件訂正は認めら
れない。
 (2) 特許異議の申立てについて
 (2-1) 取消理由
 平成16年4月5日付けで理由1(特許法17条違反について),理由2(特許
法36条違反について),理由3(特許法29条2項違反について)及び理由4
(特許法29条1項違反について)の取消理由を通知した。
 (2-2) 判断
 (2-2-1) 特許法17条違反について
 (2-2-1-1) 請求項1について
 ア 特許権者は平成16年9月21日付けの意見書の4頁26行~5頁5行に
て,『本件特許発明では,上記ステップS14における「付加する文字情報(検索
キー)の指定」の方法として,図7に示すように,「関連情報をキーボード等から
直接入力する形態」と,上記段落【0013】に記載されているように「ユーザデ
ータベースから関連情報を入力する形態」との2つがあることが記載されており,
前者に対応する図面が【図7】で,後者に対応する図面が【図10】であること
は,図面の簡単な説明「【図7】本発明における文字情報の登録方法の第1の例を
説明するための図である。」,「【図10】本発明における文字情報の登録方法の
第2の例を説明するための図である。」の記載から明らかである。』と述べてい
る。
 しかし,段落【0013】に記載されていることは,「入力装置1を介してユー
ザデータベースDB等から入力された文字情報は」と記載されているだけである。
 明細書の【図面の簡単な説明】の段の【図10】には,「【図10】本発明にお
る文字情報の登録方法の第2の例を説明するための図である。」と記載されている
が,発明の詳細な説明の図10に関する記載には,段落【0027】,【002
8】に記載されているように,「ファイル指定」による検索についてしか記載され
ていない。
 図面の簡単な説明に「【図10】本発明における文字情報の登録方法の第2の例
を説明するための図である。」と記載されているからと言って,発明の詳細な説明
に記載されていないことまでが,記載されているとはいえない。
 段落【0013】にも,図10の説明の箇所にも,請求項1の構成要件であるス
テップ(b)「前記利用者が所有する既存のデータベースから抽出した文字情報群
から成るテキスト形式のファイルを入力し,各文字情報を各対象物の領域情報と対
応付けて記憶する管理テーブルに登録するステップ。」は記載されていない。
 イ 特許権者は平成16年9月21日付けの意見書の5頁5~10行にて,『そ
して,段落【0018】における上記ステップS14の説明では,前者を例として
説明しており,段落【0019】以降の図形情報と文字情報との対応付けの方法に
関する説明を含め,【図2】の「本発明の文字情報と画像の合成手順を示すフロー
チャート」を用いた段落【0015】~【0022】の説明が,上記2つの形態に
共通する説明であることは,たとえ当業者でなくとも十分に理解できることであ
る。』と述べている。
 しかし,段落【0015】~【0022】の説明は,関連情報をキーボート等か
ら直接入力する場合の例が示されているだけであり,段落【0015】~【002
2】には,請求項1の構成要件であるステップ(b)「前記利用者が所有する既存
のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力
し,各文字情報を各対象物の領域情報と対応付けて記憶する管理テーブルに登録す
るステップ。」の記載は無い。
 ウ 特許権者は平成16年9月21日付けの意見書の5頁11~20行にて,
『また,段落【0018】における上記ステップS14において,後者を例とした
場合,【図10】(A)のデータベースD1内の文字情報群あるいは同図(B)の
テキストファイルTXI内の文字情報群が,付加する文字情報群に該当すること
は,説明が省略されていたとしても,上述の各段落や図面の記載から自明な事項で
あり,また当業者であれば十分に理解できることである。
 審判官殿は,明細書の一部の記載を捉えて,図10の記載が,前記(1)の手段
(判決注:画像の任意の位置及び領域について関連する情報を付加する手段))に
対応する記載ではなく,前記(2)の手段(判決注:付加した関連情報を検索キー
として画像の当該位置を検索する手段)に対応する記載である旨を主張している
が,上述した各段落及び図面の記載,【発明が解決しようとする課題】の記載な
ど,特許明細書の全体を捉えて普通に解釈すれば,その主張が誤りであることは明
らかである。』と述べている。
 しかし,特許権者自身が認めているように,テキストファイルからの登録につい
ては,「説明が省略されていた」のであり,明細書の全体をとらえても,何処に
も,請求項1の構成要件であるステップ(b)「前記利用者が所有する既存のデー
タベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し,各文
字情報を各対象物の領域情報と対応付けて記憶する管理テーブルに登録するステッ
プ。」に関することは記載されていない。
 エ 特許権者は平成16年9月21日付けの意見書の5頁21行~6頁16行に
て,
『なお,段落【0027】以降の記載であるが,
 (ア) 段落【0027】における【図10】の説明は,前記(2)の手段(判決
注:付加した関連情報を検索キーとして画像の当該位置を検索する手段)の具体的
な説明をするに先立って,「ユーザデータベースから関連情報を入力する形態」,
すなわち,該当の場所に関連する文字情報を登録する際,ユーザデータベースから
関連情報を入力する形態を説明しているものであり,
 (イ) 段落【0028】中の「テキストファイルから文字情報記憶部42に作成し
た,」の修飾先は,「検索する画像上の位置を表わす文字情報群を「検索キー情
報」と呼び,」と,「作画した図形に対して付加した文字情報群,すなわち,図8
に示したように,管理コードが付与されて登録処理が成されている文字情報群を
「登録済みキー情報」と呼ぶ。」の両者で,後者は,「テキストファイルから文字
情報記憶部42に作成し,作画した図形に対して付加した文字情報群,すなわち,
図8に示したように,管理コードが付与されて登録処理が成されている文字情報群
を「登録済みキー情報」と呼ぶ。」と説明しているものであり,
 (ウ) 前記(2)の手段(判決注:付加した関連情報を検索キーとして画像の当該
位置を検索する手段)の具体的な説明については,【図面の簡単な説明】に「【図
3】本発明における画像位置の検索手順を示すフローチャートである。」と記載さ
れ,段落【0029】に「続いて,「ファイル指定」による検索開始指示がされた
場合の検索処理について,図3のフローチャートを用いて説明する。」と記載され
ているように,段落【0029】以降から説明している,
とそれぞれ解釈するのが自然である。
 このように,上記段落【0027】及び【0028】の記述が登録手順について
なされていると解しても不都合はなく,また,検索手順においても併用していると
解するのが自然と考えられる。審判官殿のように,図10における文字情報の登録
とは,検索手順のための検査キー情報の登録であると解釈すると,上述した段落
【0015】~【0022】の説明と,図7,図10の図面の簡単な説明の記載に
不整合が生じることになる。』と述べている。
 しかし,段落【0027】は,その記載『次に,「ファイル指定」による検索手
順,すなわち,複数の文字情報(検索キー情報)を指定して当該位置を順次検索す
る手順を具体例を示して説明する。』からも明らかなように,「ファイル指定」に
よる検索手順が示されているだけである。
 段落【0028】も,『利用者は,「ファイル指定」の検索コマンドを指示し,
テキストファイルTX1のファイル名を入力(或いは既に登録されているファイル
名を一覧表の中から選択)して検索指示を行なう。』と記載されているように,検
索のことが記載されていることは明らかである。
 検索しているときに,登録することは通常ではあり得ないし,さらに,特許権者
は,段落【0028】中の「テキストファイルから文字情報記憶部42に作成し
た,」の修飾先で,意識的に「上記のように」を削除しているが,段落【002
8】には,「上記のようにテキストファイルから文字情報記憶部42に作成した」
と記載されており,この「上記」とは,通常はすぐ上に記載されている,検索時の
説明のことと考えられる。したがって,特許権者が主張するように,『「テキスト
ファイルから文字情報記憶部42に作成した,」の修飾先は,「検索する画像上の
位置を表わす文字情報群を「検索キー情報」と呼び,」と,「作画した図形に対し
て付加した文字情報群,すなわち,図8に示したように,管理コードが付与されて
登録処理が成されている文字情報群を「登録済みキー情報」と呼ぶ。」の両者』で
あるとは考えられない。
 このように,段落【0027】~【0032】の記載にも,請求項1の構成要件
であるステップ(b)「前記利用者が所有する既存のデータベースから抽出した文
字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し,各文字情報を各対象物の領域
情報と対応付けて記憶する管理テーブルに登録するステップ。」は記載されていな
い。
 オ 請求項1のステップ(b)は,新規事項の追加に該当するについて
 特許権者は,平成16年9月21日付けの意見書の7頁25行~9頁21行にお
いて,
『この指摘事項に対しては,「6-1の(3)訂正事項7,8に対する審判宮殿の
判断について」の項で,ステップ(b)の構成要件に関する説明を詳述しているた
め,ここでは要点だけを述べる。
 請求項1(訂正後)の構成要件であるステップ(b)「前記利用者が所有する既
存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力
し,各文字情報を各対象物の領域情報と対応付けて文字情報記憶部に登録するステ
ップ」は,当初明細書の段落【0013】,段落【0019】並びに当初明細書に
添付の【図10】に記載されていたものである。
・・・(中略)・・・
 以上のように,訂正後のステップ(b)の構成要件は,当初明細書の段落【00
13】,段落【0019】並びに当初明細書に添付の【図10】に記載されていた
ものである。そして,これらの段落の記載内容と図10の記載内容は,本件の原出
願に添付された当初明細書(該当の段落の内容)及び図面の記載と同一である。
 したがって,請求項1(訂正後)に係る本件特許発明は,本件の当初明細書等に
記載されており,特許法17条2項に違反していないものである。』と述べてい
る。
 これについては,上記ア~エで既に述べていることであり,本件の出願当初の明
細書には,請求項1の構成要件であるステップ(b)「前記利用者が所有する既存
のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力
し,各文字情報を各対象物の領域情報と対応付けて記憶する管理テーブルに登録す
るステップ。」は記載されていない。
 (ア) 図10について
 段落【0027】には,『次に,「ファイル指定」による検索手順,すなわち,
複数の文字情報(検索キー情報)を指定して当該位置を順次検索する手順を具体例
を示して説明する。例えば,図10(A)に示すような,データ(文字情報群)が
格納されたユーザデータベースD1があり,同図において,それぞれ“KEYA”
~“KEYE”が,画像位置の関連情報となる文字情報であると仮定する。この場
合は,先ず利用者は,データベースで管理しているデータの中から検索キーの部分
KEYA,KEYB,……,KEYEだけを抽出し,例えば同図(B)に示すよう
に,改行データを区分情報としてテキストファイルTX1に出力する。』と記載さ
れている。
 ここでは,「ファイル指定」による検索について記載されているが,「利用者が
所有する既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファ
イルを入力し」て登録することについては記載されていない。
 図10(C)には,テキストファイルTX1のファイル名を入力して検索指示を
行うとき,テキストファイルTX1からの文字情報が,各検索キーと見なして,文
字情報記憶部42に展開されたものが示されており,図8の文字情報記憶部42に
示されているような,管理コードが付与されて登録処理が成されている文字情報群
が示されているものではない。すなわち,発明の詳細な説明には,既存のデータベ
ースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力して,管理コ
ードが付与されて登録処理が成されている文字情報群(図8の文字情報記憶部42
に示されているような,)に,どのようにして登録するのかは明示されていない。
また,当業者が通常に考えられることとも認められない。
 (イ) 段落【0013】について
 段落【0013】には,「利用者は,作画して指定した場所に対し,その場所を
管理するための任意の文字情報を入力装置1から入力する。入力装置1を介してユ
ーザデータベースDB等から入力された文字情報は,文字情報登録手段32によっ
て情報記憶部4内の文字情報記憶部42に登録される。」と記載されている。
 この記載には,文字情報が入力装置1を介してユーザデータベースDB等から入
力されることは記載されているが,既存のデータベースから抽出した文字情報群か
ら成るテキスト形式のファイルを入力し,各文字情報を各対象物の領域と対応付け
て,図8に示されるように当該対象物の登録済みキー情報として登録することが,
どのようにして行われるかは記載されていない。
 (ウ) 段落【0019】について
 段落【0015】~【0022】には,本発明に係る文字情報と画像の合成方法
をフローチャートを参照として説明しており,一例として,関連情報をキーボード
等から直接入力する場合が示されている。段落【0019】には,「関連情報が入
力され,利用者により登録指示がされると,文字情報登録手段32では,該当の図
形情報と文字情報との対応付けを行ない,文字情報を文字情報記憶部42に登録す
る。」と記載されている。しかし,これらの段落には,「利用者の所有する既存の
データベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し」
て登録することについては記載されていない。
 このように,請求項1の構成要件であるステップ(b)「前記利用者が所有する
既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入
力し,各文字情報を各対象物の領域情報と対応付けて記憶する管理テーブルに登録
するステップ。」は,本件の出願当初の明細書に記載されておらず,特許法17条
2項に規定する要件を満たしていない。
 (2-2-1-2) 請求項3について
 特許権者は,平成16年9月21日付けの意見書の10頁2~22行において,
『段落【0033】には,「上述した実施例においては,文字情報を関連情報とし
て付加する場合を例として挙げたが,任意のマーク等のイメージ情報,或いは色情
報などを関連情報として指定することも可能である。」と記載されており,この記
載を,文字情報と共にイメージ情報,或いは文字情報と共に色情報を関連情報とし
て付加できると解釈すると,請求項3の内容は,段落【0033】に記載されてい
たと言うことができる。
 一方,「関連情報の文字情報に換えて,任意のマーク等のイメージ情報,或いは
色情報などを関連情報として指定することも可能である」と解釈したとする。
 その場合,複数の文字情報を指定できることは,段落【0021】「一つの図形
情報に対して複数の文字情報(検索キー)を指定しても良く,…図形情報と文字情
報との対応は任意に指定して登録することができる」に記載されている。
 両段落の内容から,「請求項3は,段落【0021】及び【0033】に記載さ
れていたものである」と言える。
 すなわち,段落【0021】の記載からは,関連情報として「文字情報十文字情
報」など,複数の文字情報を指定できることが記載されており,段落【0033】
には,「関連情報の文字情報に換えて,イメージ情報を指定できる」ことが記載さ
れていることから,「文字情報+イメージ情報」など,1以上の文字情報と1以上
のイメージ情報とを組合せたものを,対象物の関連情報として指定できることは,
当初明細書に明確に記載されていた内容である。
 したがって,いずれにしろ,請求項3に係る本件特許発明は,当初明細書に記載
されていたものである。』と述べている。
 ここで,段落【0021】,【0025】,【0033】の記載を検討すると,
 段落【0021】には,「一つの図形情報に対して複数の文字情報(検索キー)
を指定しても良く,複数の図形情報に対して同一の文字情報というように,図形情
報と文字情報との対応は任意に指定して登録する」ことが記載されているが,「文
字情報と共に利用者のイメージ情報を当該対象物の関連情報として付加できる」こ
とは記載されていない。
 段落【0025】には,「表示制御手段34は,図形G1の領域内を反転表示し
て該当の場所を明示する。ここで,該当の場所は,図形G1を合成して表示,或い
は領域内を背景画像と異なる色で表示することで明示するようにしても良い。ま
た,文字情報を別ウィンドウでなく,同一ウィンドウ内に当該の場所と対応付けて
表示(引出し線,矢印,符号等での対応付けにより表示)するようにしても良
い。」と記載されており,「文字情報と共に利用者のイメージ情報を当該対象物に
関連情報として付加できる」とは何処にも記載されていない。
 また,段落【0033】には,「文字情報を関連情報として付加する場合を例と
して挙げたが,任意のマーク等のイメージ情報,或いは色情報などを関連情報とし
て指定することも可能である。また,背景画像となる図形は任意であって,地図に
限るものでない。」と記載されているだけであり,特許権者が述べるようなこと
は,すなわち,「この記載を,文字情報と共にイメージ情報,或いは文字情報と共
に色情報を関連情報として付加できると解釈する」ことはできない。
 このように,段落【0021】には,一つの図形情報に対して複数の文字情報を
指定しても良いことが,段落【0033】には,任意のマーク等のイメージ情報,
或いは色情報などを関連情報として指定することが可能であることが,それぞれ記
載されているだけであり,それを組み合わせることなどは何処にも記載されていな
い。
 さらに付け加えるならば,一つの対象物に対して複数の異なる文字情報を対応付
けて登録することは請求項2には記載されているが,請求項1には記載されておら
ず,請求項3は請求項1と2を引用しているので,特許権者の主張はその点におい
ても誤っているものであると認められる。
 したがって,請求項3の「文字情報と共に利用者のイメージ情報を当該対象物に
関連情報として付加できる」との記載は,本件の出願当初の明細書に記載されてお
らず,特許法17条2項に規定する要件を満たしていない。
 (2-2-1-3) 請求項4について
 特許権者は,平成16年9月21日付けの意見書の10頁27行~11頁21行
において,
『本件請求項4の上記構成である「受信した移動体の位置情報に基づき当該移動体
の位置を地図の画像上に表示するシステム」は,当初明細書の段落【0006】中
に「従来の地図情報システム,FM,ナビゲーション・システムなどの情報検索シ
ステムにおいては」と記載され,段落【0007】中に「本発明は上述した事情か
ら成されたものであり,本発明の目的は,地図,設計図,各種構造物の構造図など
の図形・画像の任意の位置に対して,利用者の各種データベースの情報を関連づけ
て付加することができる文字情報と画像の合成方法及びその装置を提供することに
ある」と記載されている。
 すなわち,従来技術の記載は発明の前提となるものであり,本件特許では地図情
報システム(GIS),FM,ナビゲーション・システムを前提としており,ま
た,GIS,FM,ナビゲーション・システムの問題を解決することを目的として
いる。そして,このようなシステムの課題を解決するための発明の構成が,【実施
例】に記載されていたものである。
 なお,「移動体」の用語は,出願時においてナビゲーション・システムに関する
公開特許公報等で一般的に使用されている用語であり,ナビゲーション・システム
が,受信した移動体の位置情報に基づき当該移動体の位置を地図の画像上に表示す
るシステムであることは,出願時の技術常識に照らして,その意味であることが明
らかであって,その事項がそこに記載されているのと同然と理解する事項(自明な
事項)であると考えられる。
 以上のように,請求項4における「受信した移動体の位置情報に基づき当該移動
体の位置を地図の画像上に表示するシステム」は,本件の当初明細書等に記載され
ていたもの(若しくはその記載から自明な事項)であり,新規事項の追加には該当
しない。』と述べている。
 これについて検討すると,請求項4には「前記電子地図情報システムが,受信し
た移動体の位置情報に基づき当該移動体の位置を地図の画像上に表示するシステム
である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の文字情報と地図画像の合成方法。」
と記載されている。
 発明の詳細な説明では,従来例において,ナビゲーション・システムが記載され
ているが,実施例の,電子地図情報システムをナビゲーション・システムに用いる
ことは想像することができることであるが,しかし,明細書の実施例においては,
電子地図情報システムが,ナビゲーション・システムであることは何処にも明記さ
れておらず,さらに,実施例には受信した移動体の位置情報をどのようにして,電
子地図情報システムに入力するのか具体的な構成は記載されておらず,また,移動
体の位置を地図の画像上に表示する構成も明記されていない。
 ナビゲーション・システムが従来例に記載されていたからといって,【実施例】
に記載されているのと同然と理解して,請求項4に係る発明とすることはできな
い。
 したがって,請求項4の「受信した移動体の位置情報に基づき当該移動体の位置
を地図の画像上に表示するシステム」は,本件の出願当初の明細書に記載されてお
らず,特許法17条2項に規定する要件を満たしていない。
 (2-2-1-4) むすび
 したがって,請求項1,3,4に係る発明は,願書に最初に添付した明細書又は
図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから,特許法17条2項の規
定する要件を満たしていない補正をしたものである。また,請求項2,5,6に係
る発明は,それぞれ請求項1,3,4を引用しているので,結局これらのものも,
特許法17条2項の規定する要件を満たしていない補正をしたものである。
 (2-2-2) 特許法36条について
 (2-2-2-1) 本件請求項1の構成要件である(b)「前記利用者が所有する既存の
データベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し,
各文字情報を各対象物の領域情報と対応付けて記憶する管理テーブルに登録するス
テップ。」について
 特許権者は,意見書で,『請求項1に係る発明のステップ(b)「登録ステッ
プ」の構成要件は本件特許明細書に記載されており(例えば,発明の詳細な説明の
段落【0008】並びに段落【0013】,段落【0019】及び【図10】の記
載参照),また,当業者であれば十分理解できる程度に明瞭に記載されている。』
と述べている。
 ア 図10について記載されている段落【0027】,【0028】には,
「【0027】次に,「ファイル指定」による検索手順,すなわち,複数の文字情
報(検索キー情報)を指定して当該位置を順次検索する手順を具体例を示して説明
する。例えば,図10(A)に示すような,データ(文字情報群)が格納されたユ
ーザデータベースD1があり,同図において,それぞれ“KEYA”~“KEY
E”が,画像位置の関連情報となる文字情報であると仮定する。この場合は,先ず
利用者は,データベースで管理しているデータの中から検索キーの部分KEYA,
KEYB,……,KEYEだけを抽出し,例えば同図(B)に示すように,改行デ
ータを区分情報としてテキストファイルTX1に出力する。
【0028】利用者は,「ファイル指定」の検索コマンドを指示し,テキストファ
イルTX1のファイル名を入力(或いは既に登録されているファイル名を一覧表の
中から選択)して検索指示を行なう。ファイル名が入力されると,画像位置検索手
段33では,テキストファイルTX1から文字情報群を読み込み,区分情報で区分
された各データを各検索キーと見なし,同図(C)に示すように,文字情報記憶部
42に展開する。ここで,上記のようにテキストファイルから文字情報記憶部42
に作成した,検索する画像上の位置を表わす文字情報群を「検索キー情報」と呼
び,作画した図形に対して付加した文字情報群,すなわち,図8に示したように,
管理コードが付与されて登録処理が成されている文字情報群を「登録済みキー情
報」と呼ぶ。」と記載されている。
 ここでは,「ファイル指定」による検索について記載されているが,「利用者が
所有する既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファ
イルを入力し,各文字情報を各対象物の領域情報と対応付けて記憶する管理テーブ
ルに登録するステップ」については記載されていない。
 イ 段落【0013】について
 段落【0013】には,「利用者は,作画して指定した場所に対し,その場所を
管理するための任意の文字情報を入力装置1から入力する。入力装置1を介してユ
ーザデータベースDB等から入力された文字情報は,文字情報登録手段32によっ
て情報記憶部4内の文字情報記憶部42に登録される。」と記載されている。
 この記載には,利用者が所有する既存のデータベースから抽出した文字情報群か
ら成るテキスト形式のファイルを入力し,各文字情報を各対象物の領域情報と対応
付けて記憶する管理テーブルに登録することは記載されていない。
 ウ 段落【0019】について
 段落【0015】~【0022】には,本発明に係る文字情報と画像の合成方法
をフローチャートを参照として説明しており,一例として,関連情報をキーボード
等から直接入力する場合が示されている。段落【0019】には,「関連情報が入
力され,利用者により登録指示がされると,文字情報登録手段32では,該当の図
形情報と文字情報との対応付けを行ない,文字情報を文字情報記憶部42に登録す
る。図8は,情報記憶部4の構成例を示しており,管理テーブル43は,図形情報
記憶部41に登録されている各図形情報の管理情報と,文字情報記憶部42に登録
されている文字情報群のリンク情報とから構成される。」と記載されている。
 しかし,これらの段落には,「利用者が所有する既存のデータベースから抽出し
た文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し,各文字情報を各対象物の
領域情報と対応付けて記憶する管理テーブルに登録するステップ」については記載
されていない。
 エ まとめ
 このように,本件請求項1の構成要件である(b)「前記利用者が所有する既存
のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力
し,各文字情報を各対象物の領域情報と対応付けて記憶する管理テーブルに登録す
るステップ。」の記載は,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載し
たものであるとも,特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項の
みを記載したものであるとも認めることができないので,特許法36条5項の規定
に違反する。
 (2-2-2-2) 請求項2について
 請求項2に記載されている「前記(d)」が,「前記(b)」に訂正されたとし
ても,請求項2は,請求項1を引用しているから,請求項2に記載の発明が発明の
詳細な説明に記載したものであるとも,発明の構成に欠くことができない事項のみ
を記載したものであるとも認めることができないので,特許法36条5項の規定に
違反する。
 (2-2-2-3) 請求項1,2の特許法36条4項について
 特許権者は,「本件請求項1,2に係る発明は,発明の詳細な説明に,その発明
の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその発明をすることが
できる程度に,その発明の構成が記載されており,特許法36条4項の規定に違反
しないものである。」と述べている。
 しかし,例えば,請求項1の構成要件であるステップ(b)「前記利用者が所有
する既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイル
を入力し,各文字情報を各対象物の領域情報と対応付けて記憶する管理テーブルに
登録するステップ。」については,本件の明細書に記載されていないから,発明の
詳細な説明に,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易
にその発明をすることができる程度に,その発明の構成が記載されているとは認め
られない。
 (2-2-2-4) 請求項3について
 上記ですでに述べたことであるが,段落【0021】には,「一つの図形情報に
対して複数の文字情報(検索キー)を指定しても良く,複数の図形情報に対して同
一の文字情報というように,図形情報と文字情報との対応は任意に指定して登録す
る」ことが記載されているが,「文字情報と共に利用者のイメージ情報を当該対象
物の関連情報として付加できる」ことは記載されていない。
 段落【0025】には,「表示制御手段34は,図形G1の領域内を反転表示し
て該当の場所を明示する。ここで,該当の場所は,図形G1を合成して表示,或い
は領域内を背景画像と異なる色で表示することで明示するようにしても良い。ま
た,文字情報を別ウィンドウでなく,同一ウィンドウ内に当該の場所と対応付けて
表示(引出し線,矢印,符号等での対応付けにより表示)するようにしても良
い。」と記載されており,「文字情報と共に利用者のイメージ情報を当該対象物に
関連情報として付加できる」とは何処にも記載されていない。
 また,段落【0033】には,「文字情報を関連情報として付加する場合を例と
して挙げたが,任意のマーク等のイメージ情報,或いは色情報などを関連情報とし
て指定することも可能である。また,背景画像となる図形は任意であって,地図に
限るものでない。」と記載されているだけであり,特許権者が述べるようなこと
は,すなわち,「この記載を,文字情報と共にイメージ情報,或いは文字情報と共
に色情報を関連情報として付加できると解釈する」ことはできない。
 段落【0021】には,一つの図形情報に対して複数の文字情報を指定しても良
いことが,段落【0033】には,任意のマーク等のイメージ情報,或いは色情報
などを関連情報として指定することが可能であることが,それぞれ記載されている
だけであり,それを組み合わせることなどは何処にも記載されていない。
 本件請求項3に記載されている発明について,「文字情報と共に利用者のイメー
ジ情報を当該対象物に関連情報として付加できる」との記載は,発明の詳細な説明
に記載されたものではない。したがって,請求項3は特許法36条5項の規定に違
反している。
 (2-2-2-5) 請求項4について
 上記に既に記載したことであるが,請求項4には「前記電子地図情報システム
が,受信した移動体の位置情報に基づき当該移動体の位置を地図の画像上に表示す
るシステムである請求項1乃至3のいずれか1項に記載の文字情報と地図画像の合
成方法。」と記載されている。
 発明の詳細な説明では,従来例において,ナビゲーション・システムが記載され
ているが,実施例の,電子地図情報システムが,ナビゲーション・システムである
ことは記載されておらず,実施例には受信した移動体の位置情報に基づき当該移動
体の位置を地図の画像上に表示するシステムについては記載されていない。
 ナビゲーション・システムが従来例に記載されていたからといって,【実施例】
に記載されているのと同然と理解して,請求項4に係る発明とすることはできな
い。
 このように,本件請求項4に記載された発明について,「電子地図情報システム
が,受信した移動体の位置情報に基づき当該移動体の位置を地図の画像上に表示す
るシステムである」についての記載は,発明の詳細な説明の従来例に記載されてい
るのみであり,実施例には記載されていない。
 したがって,請求項4に記載された発明は,発明の詳細な説明に記載されたもの
ではないので,特許法36条5項の規定に違反している。
 (2-2-2-6) まとめ
 したがって,請求項1,2,3,4に係る発明は,特許を受けようとする発明が
発明の詳細な説明に記載したものでなく,また,発明の構成に欠くことができない
事項のみを記載したものであるとも認められない。さらに,発明の詳細な説明に
は,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施
をすることができる程度に構成を記載したものとも認められない,さらに,請求項
5,6も請求項1乃至4を引用しているので,結局,請求項1ないし6に係る発明
に対する特許は,特許法36条4項,5項に規定する要件を満たしていないもので
ある。
 (2-3) むすび
 以上のとおり,本件請求項1乃至6に係る発明は,上記したように,特許法17
条2項及び特許法36条4項,5項に規定する要件を満たしていないので特許を受
けることができない。
 したがって,本件請求項1乃至6に係る発明の特許は拒絶の査定をしなければな
らない特許出願に対してされたものと認める。
第3 当事者の主張の要点
 1 原告主張の決定取消事由
 決定は,本件訂正の適否の判断を誤り(取消事由1),特許法17条違反及び3
6条違反についての判断を誤った(取消事由2及び3)ものであるから,取り消さ
れるべきである。
 (1) 取消事由1(訂正の適否の判断の誤り)
 決定は,「発明の詳細な説明には,「(b)前記利用者が所有する既存のデータ
ベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し,各文字
情報を各対象物の領域情報と対応付けて記憶する管理テーブルに登録するステッ
プ」については記載されていないし,「(b)前記利用者が所有する既存のデータ
ベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し,各文字
情報を各対象物の領域情報と対応付けて文字情報記憶部に登録するステップ」につ
いても記載されていないと認められる。」とした上,「訂正事項1を誤記の訂正あ
るいは明瞭でない記載の釈明であるとは認めることはできない。」と判断した。
 ア 訂正事項1の目的について
 訂正事項1は,請求項1のステップ(b)に明白な誤記があり,また,不明瞭な
記載があることから,これを訂正するためのものである。
 請求項1のステップ(b)は,各文字情報を登録するステップを規定したもので
あって,登録する先を「管理テーブル」としている。しかし,本件補正後の明細書
(甲2の1,以下「補正明細書」という。)の段落【0019】には,「関連情報
が入力され,利用者により登録指示がされると,文字情報登録手段32では,該当
の図形情報と文字情報との対応付けを行い,文字情報を文字情報記憶部42に登録
する。」と記載されていること,補正明細書及び図面には,文字情報を管理テーブ
ルに登録する構成等が記載されていないことに照らすと,登録する先を「管理テー
ブル」としているのは明らかに誤りであり,「文字情報記憶部」とするのが正し
い。また,ステップ(b)は,各文字情報に対して,「記憶する」と「登録する」
という2つの動詞が記載されていて,その主語が不明瞭なものとなっている。
 イ 「既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファ
イルを入力し」について
 補正明細書の図面の簡単な説明には,「【図10】本発明における文字情報の登
録方法の第2の例を説明するための図である。」と記載されているから,図10
は,本来,文字情報の登録方法の説明に使用されるべきものである。ところが,図
10を引用する段落【0027】には,ファイル指定による検索についての記載が
あるのみで,ファイル指定による文字情報登録についての記載が省略されており,
その説明が不明瞭なものになっている。
 しかし,補正明細書の段落【0027】は,「ファイル指定」による検索につい
ての記載がされており,図10(A)には,文字情報群が格納されたユーザデータ
ベースD1の例が示され,図10(B)には,改行データを区分情報としたテキス
トファイルTX1が示され,図10(C)には,テキストファイルTX1のファイ
ル名を入力して検索指示を行うときに,テキストファイルTX1から読み込んだ文
字情報を,各検索キーと見なして文字情報記憶部42に展開したものが示されてい
る。また,段落【0028】には,「テキストファイルから文字情報記憶部42に
作成した,検索する画像上の位置を表わす文字情報群を「検索キー情報」と呼び,
作画した図形に対して付加した文字情報群,すなわち,図8に示したように,管理
コードが付与されて登録処理が成されている文字情報群を「登録済みキー情報」と
呼ぶ。」と記載されているところ,「テキストファイルから文字情報記憶部42に
作成した」は,「検索する画像上の位置を表わす文字情報群」と「作画した図形に
対して付加した文字情報群」とにかかる。そうすると,補正明細書の発明の詳細な
説明には,「既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテ
キスト形式のファイルを入力し」て登録することが記載されていると解することが
できる。
 ウ したがって,訂正を認めなかった決定は誤りである。
 (2) 取消事由2(特許法17条違反についての判断の誤り)
 ア 請求項1について
 決定は,「請求項1の構成要件であるステップ(b)「前記利用者が所有する既
存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力
し,各文字情報を各対象物の領域情報と対応付けて記憶する管理テーブルに登録す
るステップ。」は,本件の出願当初の明細書に記載されておらず,特許法17条2
項に規定する要件を満たしていない。」と判断した。
 (ア) 本件の出願当初の明細書(甲2の2,以下「当初明細書」という。)の段落
【0027】,【0028】の記載及び図面の簡単な説明における【図10】の記
載は,補正明細書のそれと同一であり,(1)イで主張したのと同じ理由で,当初明細
書の発明の詳細な説明には,「既存のデータベースから抽出した文字情報群から成
るテキスト形式のファイルを入力し」て登録することが記載されていると解するこ
とができる。
 (イ) したがって,請求項1の構成要件であるステップ(b)に関する事項は,当
初明細書に記載されているのであって,請求項1に係る発明については,当初明細
書に記載した事項の範囲内において補正をしたものであるから,決定の判断は誤り
である。
 イ 請求項3について
 決定は,「請求項3の「文字情報と共に利用者のイメージ情報を当該対象物に関
連情報として付加できる」との記載は,本件の出願当初の明細書に記載されておら
ず,特許法17条2項に規定する要件を満たしていない。」と判断した。
 (ア) 請求項3の「文字情報と共に利用者のイメージ情報を当該対象物に関連情報
として付加できる」とは,その技術内容からして,「文字情報と一緒に利用者のイ
メージ情報を当該対象物に関連情報として付加できる」,又は,「文字情報及び利
用者のイメージ情報を当該対象物に関連情報として付加できる」との意味であり,
文字情報と利用者のイメージ情報の両方を当該対象物に関連情報として付加できる
ということである。
 (イ) 当初明細書の段落【0033】には,「上述した実施例においては,文字情
報を関連情報として付加する場合を例として挙げたが,任意のマーク等のイメージ
情報,或いは色情報などを関連情報として指定することも可能である。」と記載さ
れている。
 この記載を,「文字情報と共に任意のマーク等のイメージ情報,或いは色情報な
どを関連情報として指定することも可能である」と解釈するならば,請求項3の内
容は,当初明細書の段落【0033】に記載されていることになる。また,この記
載を,「文字情報に代えて,任意のマーク等のイメージ情報,或いは色情報などを
関連情報として指定することも可能である」と解釈するとしても,段落【002
1】には「一つの図形情報に対して複数の文字情報(検索キー)を指定しても良
く,・・・図形情報と文字情報との対応は任意に指定して登録することができる」
と記載されているから,当初明細書の発明の詳細な説明には,関連情報として指定
した「文字情報+文字情報」など複数の文字情報に代えて,イメージ情報を指定す
ること,すなわち,「文字情報+イメージ情報」など,1以上の文字情報と1以上
のイメージ情報とを組み合せたものを対象物の関連情報として指定することができ
ることが明確に記載されているということができる。
 (ウ) したがって,請求項3の「文字情報と共に利用者のイメージ情報を当該対象
物に関連情報として付加できる」との記載は,当初明細書に記載されているのであ
って,請求項3に係る発明については,当初明細書に記載した事項の範囲内におい
て補正をしたものであるから,決定の判断は誤りである。
 ウ 請求項4について
 決定は,「請求項4の「受信した移動体の位置情報に基づき当該移動体の位置を
地図の画像上に表示するシステム」は,本件の出願当初の明細書に記載されておら
ず,特許法17条2項に規定する要件を満たしていない。」と判断した。
 (ア) 当初明細書の発明の詳細な説明には,【従来の技術】の項に,地図情報シス
テムであるGIS,FM,ナビゲーション・システムの問題点がそれぞれ挙げら
れ,【発明が解決しようとする課題】の項に,その解決を図るのが本件発明である
ことが記載されている。そして,従来技術の課題を解決するための発明の具体的な
構成が【実施例】に記載されている。
 (イ) したがって,請求項4の「受信した移動体の位置情報に基づき当該移動体の
位置を地図の画像上に表示するシステム」は,当初明細書に記載されているのであ
って,請求項4に係る発明については,当初明細書に記載した事項の範囲内におい
て補正をしたものであるから,決定の判断は誤りである。
 (3) 取消事由3(特許法36条違反についての判断の誤り)
 ア 請求項1について(特許法36条5項違反)
 決定は,「請求項1の構成要件である(b)・・・の記載は,特許を受けようと
する発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとも,特許を受けようとする発
明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものであるとも認めることがで
きないので,特許法36条5項の規定に違反する。」と判断した。
 (ア) 上記(1)イのとおり,補正明細書の発明の詳細な説明には,「既存のデータ
ベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し」て登録
することについて記載されていると解することができる。
 (イ) したがって,補正明細書の発明の詳細な説明には,請求項1の構成要件であ
る(b)に関する事項が記載されているから,決定の判断は誤りである。
 イ 請求項2について(特許法36条5項違反)
 決定は,「請求項2は,請求項1を引用しているから,請求項2に記載の発明が
発明の詳細な説明に記載したものであるとも,発明の構成に欠くことができない事
項のみを記載したものであるとも認めることができないので,特許法36条5項の
規定に違反する。」と判断した。
 請求項2は,請求項1を引用しているところ,上記アのとおり,請求項1につい
ての決定の判断は誤りであるから,請求項2についての決定の判断も誤りである。
 ウ 請求項1,2について(特許法36条4項違反)
 決定は,「例えば,請求項1の構成要件であるステップ(b)・・・について
は,本件の明細書に記載されていないから,発明の詳細な説明に,その発明の属す
る技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその発明をすることができる
程度に,その発明の構成が記載されているとは認められない。」と判断した。
 補正明細書の発明の詳細な説明には,上記アのとおり,請求項1の構成要件であ
る(b)に関する事項が記載されているから,その発明の属する技術の分野におけ
る通常の知識を有する者が容易にその発明をすることができる程度に,その発明の
構成が記載されているのであって,決定の判断は誤りである。
 エ 請求項3について(特許法36条5項違反)
 決定は,「請求項3に記載されている発明について,「文字情報と共に利用者の
イメージ情報を当該対象物に関連情報として付加できる」との記載は,発明の詳細
な説明に記載されたものではない。したがって,請求項3は特許法36条5項の規
定に違反している。」と判断した。
 補正明細書の段落【0021】,【0033】の記載は,当初明細書のそれと同
一であり,(2)イで主張したのと同じ理由で,請求項3の「文字情報と共に利用者の
イメージ情報を当該対象物に関連情報として付加できる」との記載は,補正明細書
に記載されているということができるから,決定の判断は誤りである。
 オ 請求項4について(特許法36条5項違反)
 決定は,「請求項4に記載された発明について,「電子地図情報システムが,受
信した移動体の位置情報に基づき当該移動体の位置を地図の画像上に表示するシス
テムである」についての記載は,発明の詳細な説明の従来例に記載されているのみ
であり,実施例には記載されていない。したがって,請求項4に記載された発明
は,発明の詳細な説明に記載されたものではないので,特許法36条5項の規定に
違反している。」と判断した。
 (ア) 補正明細書の発明の詳細な説明には,【従来の技術】の項に,地図情報シス
テムであるGIS,FM,ナビゲーション・システムの問題点がそれぞれ挙げら
れ,【発明が解決しようとする課題】の項に,その解決を図るのが本件発明である
ことが記載されている。そして,従来技術の課題を解決するための発明の具体的な
構成が【実施例】に記載されている。
 (イ) したがって,請求項4に記載の発明は,補正明細書の発明の詳細な説明に記
載されているから,審決の判断は誤りである。
 2 被告の反論
 決定に,本件訂正の適否に関する判断の誤りはなく,また,特許法17条違反及
び36条違反に関する判断の誤りもないから,原告主張の取消事由は,理由がな
い。
 (1) 取消事由1(訂正の適否の判断の誤り)に対して
 ア 原告は,「請求項1中の「領域情報」が明細書の段落【0013】中の「図
形情報」に該当する」と主張する(平成17年1月14日付準備書面(一)23頁
12ないし19行)ところ,補正明細書の段落【0013】の「登録された図形情
報と文字情報との対応は,情報記憶部4内の管理テーブル43に登録されて管理さ
れる。」との記載において,図形情報を領域情報に置き換えると,「登録された領
域情報と文字情報との対応は,情報記憶部4内の管理テーブル43に登録されて管
理される。」となるが,これは,訂正前のステップ(b)の記載とほぼ同じ内容で
ある。そうすると,補正明細書の発明の詳細な説明には,訂正前のステップ(b)
に対応する記載があるから,登録する先を「管理テーブル」としていることが誤り
であるとはいえない。
 イ 補正明細書の段落【0027】には,ファイル指定による検索についての記
載があるのみで,ファイル指定による文字情報登録についての記載はない。補正明
細書の図面の簡単な説明に,「【図10】本発明における文字情報の登録方法の第
2の例を説明するための図である。」と記載されているが,上記段落【0027】
の前後の文脈を考慮すれば,図面の簡単な説明が誤っていると解されるべきであ
る。また,図10(c)の文字情報記憶部42に作成した文字情報群は,図8の文
字情報記憶部42に作成した文字情報群とは明らかにデータ構造が違うから,当業
者において,図10が文字情報の登録方法をも表していると解釈するとはいえな
い。そうであるから,補正明細書の発明の詳細な説明に,「既存のデータベースか
ら抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し」て登録すること
が記載されているということはできない。
 ウ したがって,訂正を認めなかった決定に誤りはない。
 (2) 取消事由2(特許法17条違反についての判断の誤り)に対して
 ア 請求項1について
 当初明細書の段落【0027】,【0028】の記載及び図面の簡単な説明にお
ける【図10】の記載は,補正明細書のそれと同一であり,(1)イで主張したのと同
じ理由で,当初明細書の発明の詳細な説明に,「既存のデータベースから抽出した
文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し」て登録することが記載され
ているということはできない。
 したがって,請求項1の構成要件であるステップ(b)に関する事項は,当初明
細書に記載されていないのであって,決定の判断に誤りはない。
 イ 請求項3について
 当初明細書の段落【0033】の記載を,「文字情報と共に任意のマーク等のイ
メージ情報,或いは色情報などを関連情報として指定することも可能である」と解
釈することは,どこにも記載されていない「共に」を挿入するものであって,関連
情報の意味合いが全く異なるものとなる。また,この記載を,「文字情報に代え
て,任意のマーク等のイメージ情報,或いは色情報などを関連情報として指定する
ことも可能である」と解釈するとしても,段落【0021】の記載からすると,一
つの図形情報に対して指定される関連情報は,複数の文字情報,任意のマーク等の
イメージ情報,色情報などであるから,「一つの図形情報に対して文字情報と共に
イメージ情報を関連情報として付加する」ことが記載されているとはいえない。
 したがって,請求項3の「文字情報と共に利用者のイメージ情報を当該対象物に
関連情報として付加できる」ことは,当初明細書に記載されていないのであって,
決定の判断に誤りはない。
 ウ 請求項4について
 当初明細書の発明の詳細な説明の【従来の技術】の項に,「受信した移動体の位
置情報に基づき当該移動体の位置を地図の画像上に表示するシステム」として,ナ
ビゲーション・システムが記載されているが,請求項4に係る発明の電子地図情報
システムを構成する図形情報登録手段,文字情報登録手段,画像位置検索手段,図
形情報記憶部,文字情報記憶部等が,従来のナビゲーション・システムを構成する
装置のどれにどのように対応するのかについては開示されていない。
 したがって,請求項4の「受信した移動体の位置情報に基づき当該移動体の位置
を地図の画像上に表示するシステム」は,当初明細書に記載されていないのであっ
て,決定の判断に誤りはない。
 (3) 取消事由3(特許法36条違反についての判断の誤り)に対して
 ア 請求項1について(特許法36条5項違反)
 補正明細書の段落【0027】には,ファイル指定による検索についての記載が
あるのみで,ファイル指定による文字情報登録についての記載はなく,また,段落
【0013】,【0019】及び【図10】にもステップ(b)についての記載は
ないから,補正明細書の発明の詳細な説明に,「既存のデータベースから抽出した
文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し」て登録することについて記
載されているということはできず,決定の判断に誤りはない。
 イ 請求項2について(特許法36条5項違反)
 請求項2は,請求項1を引用しているから,請求項2に記載の発明が発明の詳細
な説明に記載したものであるとも,発明の構成に欠くことができない事項のみを記
載したものであるとも認めることができないのであって,決定の判断に誤りはな
い。
 ウ 請求項1,2について(特許法36条4項違反)
 補正明細書の発明の詳細な説明には,上記アのとおり,請求項1の構成要件であ
るステップ(b)に関する事項は記載されていないから,その発明の属する技術の
分野における通常の知識を有する者が容易にその発明をすることができる程度に,
その発明の構成が記載されているとはいえないのであって,決定の判断に誤りはな
い。
 エ 請求項3について(特許法36条5項違反)
 補正明細書の段落【0033】の記載を,「文字情報と共に任意のマーク等のイ
メージ情報,或いは色情報などを関連情報として指定することも可能である」と解
釈することは,どこにも記載されていない「共に」を挿入するものであって,関連
情報の意味合いが全く異なるものとなるから,補正明細書の発明の詳細な説明に,
「文字情報と共に利用者のイメージ情報を当該対象物に関連情報として付加でき
る」ことが記載されているということはできない。
 したがって,請求項3の「文字情報と共に利用者のイメージ情報を当該対象物に
関連情報として付加できる」は,補正明細書の発明の詳細な説明に記載されていな
いから,決定の判断に誤りはない。
 オ 請求項4について(特許法36条5項違反)
 補正明細書の発明の詳細な説明には,電子地図情報システムにおいて,「受信し
た移動体の位置情報に基づき当該移動体の位置を地図の画像上に表示するシステ
ム」を具体的にどのように実現するのかについての記載がなく,実施例に記載され
た装置をどのようにしたら,受信した移動体の位置情報に基づき当該移動体の位置
を地図の画像上に表示するシステムを構成することができるのかについて,当業者
が容易に考えられるものではない。
 したがって,請求項4に記載の発明は,補正明細書の発明の詳細な説明に記載さ
れていないから,決定の判断に誤りはない。
第4 当裁判所の判断
 1 取消事由1(訂正の適否についての判断の誤り)について
 (1) 訂正事項1の目的について
 ア 訂正事項1の内容は,上記第2の3(1-2)アのとおりであり,平成16年6月
14日付け訂正請求書(甲4の3)には,請求の原因として,「訂正事項1は,各
文字情報を何処に記憶(登録)するのかの「何処に」の誤記を訂正し,且つ,「各
文字情報を」に対して2つの動詞(「記憶する」,「登録する」)が記載されてい
たのを,1つの動詞(「登録する」)に正しく訂正するものである。そして,訂正
後は,記憶(登録)先の名称が変わり,また,動詞が1つの正しい日本語となるだ
けであるため,実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものでもない。」と記載さ
れている。
 イ 補正明細書の発明の詳細な説明には,「入力装置1を介してユーザデータベ
ースDB等から入力された文字情報は,文字情報登録手段32によって情報記憶部
4内の文字情報記憶部42に登録される。登録された図形情報と文字情報との対応
は,情報記憶部4内の管理テーブル43に登録されて管理される。」(段落【00
13】),「関連情報が入力され,利用者により登録指示がされると,文字情報登
録手段32では,該当の図形情報と文字情報との対応付けを行ない,文字情報を文
字情報記憶部42に登録する。図8は,情報記憶部4の構成例を示しており,管理
テーブル43は,図形情報記憶部41に登録されている各図形情報の管理情報と,
文字情報記憶部42に登録されている文字情報群のリンク情報とから構成され
る。」(段落【0019】),「ここで,図8を参照して図形情報と文字情報との
対応付けの方法の具体例を説明すると,まず,図形情報登録手段31が各図形情報
G1,G2,G3を図形情報記憶部41に登録するときに,管理コードK1,K
2,K3を付与し,管理コードと図形情報の格納アドレスG1a,G2a,G3a
を管理テーブル43に登録する。そして,文字情報登録手段32が文字情報KEY
G11~KEYG32を登録するときに,該当の図形情報に対応する管理コードと
共に文字情報を文字情報記憶部42に登録する。」(段落【0020】)と記載さ
れており,また,図面の簡単な説明には,「【図8】本発明における情報記憶部の
構成例を示す概念図である。」と記載され,図面の【図8】には,図形情報記憶部
41に図形情報G1,G2,G3が登録され,文字情報記憶部42に管理コードK
1,K2,K3と文字情報KEYG11~KEYG32が登録され,管理テーブル
43に管理コードK1,K2,K3と図形情報の格納アドレスG1a,G2a,G
3aが登録されていることが示されている。
 以上の記載によれば,文字情報は,図形情報(領域情報)に対応する管理コード
と共に文字情報記憶部に登録され,管理テーブルには,文字情報それ自体ではな
く,図形情報(領域情報)と文字情報との対応付けが登録されるものであるという
ことができる。
 ウ また,補正明細書の発明の詳細な説明には,「利用者は,表示部2a内のテ
キストボックスWaに検索キーを入力し,検索ボタンを指示する。検索ボタンが指
示されると,画像位置検索手段33では,文字情報記憶部42に登録されている検
索キーを検索し,登録されていれば,管理テーブル43を参照して対応する図形情
報を図形情報記憶部41から読み込む。」(段落【0024】),「利用者は,
「ファイル指定」の検索コマンドを指示し,テキストファイルTX1のファイル名
を入力(或いは既に登録されているファイル名を一覧表の中から選択)して検索指
示を行なう。ファイル名が入力されると,画像位置検索手段33では,テキストフ
ァイルTX1から文字情報群を読み込み,区分情報で区分された各データを各検索
キーと見なし,同図(C)に示すように,文字情報記憶部42に展開する。ここ
で,上記のようにテキストファイルから文字情報記憶部42に作成した,検索する
画像上の位置を表わす文字情報群を「検索キー情報」と呼び,作画した図形に対し
て付加した文字情報群,すなわち,図8に示したように,管理コードが付与されて
登録処理が成されている文字情報群を「登録済みキー情報」と呼ぶ。」(段落【0
028】),「「ファイル指定」による検索開始指示がされると,画像位置検索手
段33では,文字情報記憶部42内の「検索キー情報」の先頭(図10(C)の例
では,KEYA)に位置付ける(ステップS21)。続いて,未チェックの検索キ
ーがあれば,登録済みキー情報の先頭(図8の例では,KEYG11)に位置付け
る(ステップS22,ステップS23)。」(段落【0030】),「検索キーと
登録済みキーとが一致する場合は,管理テーブル43を参照して登録済みキーを持
つ図形情報を図形情報記憶部41から取得し,図形情報に基づいて画像上での当該
位置を求め,画像ファイル5から該当の画像情報を読み込む(ステップS2
7)。」(段落【0031】)と記載されている。
 以上の記載によれば,入力された文字情報を検索キーとして検索をするのは,文
字情報記憶部42に登録されている文字情報群であり,管理テーブルは,検索キー
が登録されている(登録済みキーと一致する)ときに,これに対応する図形情報を
図形情報記憶部41から読み込む際に参照されるものであるということができる。
 エ そうであれば,請求項1の「(b)・・・記憶する管理テーブルに登録す
る」,「(c)入力された文字情報を検索キーとして前記管理テーブルに登録され
た文字情報群」との記載は,それぞれ「(b)・・・文字情報記憶部に登録す
る」,「(c)入力された文字情報を検索キーとして前記文字情報記憶部に登録さ
れた文字情報群」の誤記であると認められる(また,発明の詳細な説明の段落【0
008】の「(b)・・・記憶する管理テーブルに登録するステップ;(c)入力
された文字情報を検索キーとして前記管理テーブルに登録された文字情報群」記載
も,「(b)・・・文字情報記憶部に登録するステップ;(c)入力された文字情
報を検索キーとして前記文字情報記憶部に登録された文字情報群」の誤記であ
る。)。したがって,訂正事項1は,誤記の訂正を目的とするものであるというこ
とができる。
 (2) 「既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファ
イルを入力し」について
 ア 文字情報の登録について,補正明細書の発明の詳細な説明には,「利用者
は,作画して指定した場所に対し,その場所を管理するための任意の文字情報を入
力装置1から入力する。入力装置1を介してユーザーデータベースDB等から入力
された文字情報は,文字情報登録手段32によって情報記憶部4内の文字情報記憶
部42に登録される。」(段落【0013】),「続いて,利用者は,該当の場所
P1に関連する文字情報の登録指示を行なう。図7は,関連情報をキーボード等か
ら直接入力する場合の登録画面の一例を示しており,登録したい関連情報(=検索
キー情報:本発明では,当該文字情報が該当の場所P1の検索キーとなる)を,表
示部2a内のテキストボックスWaの中に入力する。」(段落【0018】)と記
載されており,また,図面の簡単な説明には,「【図7】本発明における文字情報
の登録方法の第1の例を説明するための図である。」,「【図10】本発明におけ
る文字情報の登録方法の第2の例を説明するための図である。」と記載され,【図
10】(A)にはデータベースD1が,【図10】(B)にはテキストファイルT
X1が,【図10】(C)には文字情報記憶部42と管理テーブル43との関連が
示されている。
 イ 以上の記載によれば,文字情報の登録方法の第1の例として,図7に示され
る「キーボード等から直接入力する例」があり,第2の例として,図10に示され
るテキストファイル化して入力する例があると認められる。ところで,第1の例に
ついては,段落【0018】,【0019】に詳細に説明されているが,第2の例
については,図面の簡単な説明に,「【図10】本発明における文字情報の登録方
法の第2の例を説明するための図である。」と記載されているものの,これを引用
する段落【0027】には,「次に,「ファイル指定」による検索手順,すなわ
ち,複数の文字情報(検索キー情報)を指定して当該位置を順次検索する手順を具
体例を示して説明する。例えば,図10(A)に示すような,データ(文字情報
群)が格納されたユーザデータベースD1があり,同図において,それぞれ"KEY
A"~"KEYE"が,画像位置の関連情報となる文字情報であると仮定する。この場
合は,先ず利用者は,データベースで管理しているデータの中から検索キーの部分
KEYA,KEYB,……,KEYEだけを抽出し,例えば同図(B)に示すよう
に,改行データを区分情報としてテキストファイルTX1に出力する。
」と記載されており,これは,検索についての説明であるから,一見すると,「既
存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力
し」との事項は,発明の詳細な説明に記載されていないといえなくもない。
 ウ しかし,補正明細書の段落【0028】には,「利用者は,「ファイル指
定」の検索コマンドを指示し,テキストファイルTX1のファイル名を入力(或い
は既に登録されているファイル名を一覧表の中から選択)して検索指示を行な
う。」と記載されている。ファイル指定の検索は,検索コマンドの指示に続くファ
イル名の入力(あるいは選択)により開始されるから,段落【0027】の「例え
ば,図10(A)に示すような,データ(文字情報群)が格納されたユーザデータ
ベースD1があり,同図において,それぞれ"KEYA"~"KEYE"が,画像位置
の関連情報となる文字情報であると仮定する。この場合は,先ず利用者は,データ
ベースで管理しているデータの中から検索キーの部分KEYA,KEYB,……,
KEYEだけを抽出し,例えば同図(B)に示すように,改行データを区分情報と
してテキストファイルTX1に出力する。」ことは,段落【0028】の検索コマ
ンドの指示よりも前に行われるものであるが,必ずしも,検索コマンドの指示と一
連の操作である必要はないと解される。
 そして,補正明細書の図面の簡単な説明には,「【図10】本発明における文字
情報の登録方法の第2の例を説明するための図である。」と記載されていて,図1
0に示される方法が文字情報の登録に用いられることが明記されていることを併せ
考えると,段落【0027】に記載される,ユーザデータベースD1から検索キー
となる文字情報を抽出してテキストファイルTX1に出力することを,検索のみに
用いられるものではないと解したとしても,矛盾はない。なお,被告は,図10
(c)の文字情報記憶部42に作成した文字情報群は,図8の文字情報記憶部42
に作成した文字情報群とは明らかにデータ構造が違うから,当業者において,図1
0が文字情報の登録方法をも表していると解釈するとはいえないと主張するが,図
10(c)の文字情報記憶部42も,図8の文字情報記憶部42も,共に文字情報
を登録する文字情報記憶部であり,補正明細書において,それぞれの文字情報群の
データ構造が異なることをうかがわせるような記載はないから,当業者において,
図10が文字情報の登録方法をも表していると解釈することはできると考えられ
る。
 エ そうであれば,補正明細書に,「既存のデータベースから抽出した文字情報
群から成るテキスト形式のファイルを入力し」て登録することが記載されていない
とはいえない。
 (3) したがって,訂正事項1は,誤記の訂正を目的とするものであり,かつ,補
正明細書に記載した事項の範囲内であって,上記(1)に判示したところによれば,こ
の訂正が,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものであるということも
できないから,訂正事項1の訂正を認めなかった決定は誤りであり,取消事由1
は,理由がある。
 (4) そして,他に本件訂正が不適法なものであることについての主張立証はない
から,以下には,本件訂正が適法なものであることを前提にして,審判において通
知し,決定が支持した特許法17条違反及び36条違反についての判断の当否につ
いて判断する。
 2 取消事由2(特許法17条違反についての判断の誤り)について
 (1) 請求項1について
 当初明細書の段落【0027】,【0028】の記載及び図面の簡単な説明にお
ける【図10】の記載は,補正明細書のそれと同一であり,上記1(2)に判示したと
ころに照らせば,当初明細書の発明の詳細な説明には,「既存のデータベースから
抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し」て登録することが
記載されていないとはいえないから,請求項1に係る発明については,当初明細書
に記載した事項の範囲内において補正をしたものである。
 したがって,決定の判断は誤りである。
 (2) 請求項3について
 請求項3の「文字情報と共に利用者のイメージ情報を当該対象物に関連情報とし
て付加できる」との記載は,当該対象物に対して,文字情報とイメージ情報とを共
に登録できることを意味するものである。ところで,当初明細書の発明の詳細な説
明の「なお,上述した実施例においては,文字情報を関連情報として付加する場合
を例として挙げたが,任意のマーク等のイメージ情報,或いは色情報などを関連情
報として指定することも可能である。また,背景画像となる図形は任意であって,
地図に限るものでない。」(段落【0033】)との記載は,上記のように,文字
情報とイメージ情報を共に登録できることを前提にした記載であるというべきであ
り,少なくとも,文字情報に合わせてイメージ情報を付加できることを排除するも
のではないから,そこの記載からは,イメージ情報が付加されるときに文字情報が
排除されるとまでは読むことができない。
 したがって,請求項3の「文字情報と共に利用者のイメージ情報を当該対象物に
関連情報として付加できる」との記載は,当初明細書に記載されているのであっ
て,請求項3に係る発明については,当初明細書に記載した事項の範囲内において
補正をしたものであるから,決定の判断は誤りである。
 (3) 請求項4について
 当初明細書には,「【発明が解決しようとする課題】・・・従来の地図情報シス
テム,FM,ナビゲーション・システムなどの情報検索システムにおいては,図
形・画像に関連する属性情報や検索キーは予め設定されており,利用者が持ってい
る情報を利用することができなかった。」(段落【0006】),「本発明の目的
は,地図,設計図,各種構造物の構造図などの図形・画像の任意の位置に対して,
利用者の各種データベースの情報を関連づけて付加することができる文字情報と画
像の合成方法及びその装置を提供することにある。」(段落【0007】)と記載
されている。これらの記載によれば,請求項1の「地図画像が格納された電子地図
情報システム」には,ナビゲーション・システムも含まれると解されるところ,請
求項4は,地図画像が格納された電子地図情報システムについて,「受信した移動
体の位置情報に基づき当該移動体の位置を地図の画像上に表示するシステム」,す
なわち,ナビゲーション・システムに限定したものであるから,請求項4に係る発
明は,当初明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるということができ
る。
 したがって,請求項4の「受信した移動体の位置情報に基づき当該移動体の位置
を地図の画像上に表示するシステム」は,当初明細書に記載されているのであっ
て,請求項4に係る発明については,当初明細書に記載した事項の範囲内において
補正をしたものであるから,決定の判断は誤りである。
 3 取消事由3(特許法36条違反についての判断の誤り)について
 (1) 請求項1について(特許法36条5項違反)
  上記1(2)に判示したように,補正明細書の発明の詳細な説明には,「既存のデ
ータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し」て
登録することについて記載されていないとはいえないから,請求項1の構成要件で
あるステップ(b)に関する事項は,補正明細書の発明の詳細な説明に記載されて
いるものである。
 したがって,決定の判断は誤りである。
 (2) 請求項2について(特許法36条5項違反)
 請求項2は,請求項1を引用しているところ,上記アのとおり,請求項1につい
ての決定の判断は誤りであるから,請求項2についての決定の判断も誤りであると
いわなければならない。
 (3) 請求項1,2について(特許法36条4項違反)
 補正明細書の発明の詳細な説明には,上記アのとおり,請求項1の構成要件であ
る(b)に関する事項が記載されているということができるから,その発明の属す
る技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその発明をすることができる
程度に,その発明の構成が記載されているものである。
 したがって,決定の判断は誤りである。
 (4) 請求項3について(特許法36条5項違反)
 補正明細書の段落【0021】,【0033】の記載は,当初補正明細書のそれ
と同一であり,上記2(2)に判示したところに照らせば,請求項3の「文字情報と共
に利用者のイメージ情報を当該対象物に関連情報として付加できる」との記載は,
補正明細書に記載されているということができる。
 したがって,決定の判断は誤りである。
 (5) 請求項4について(特許法36条5項違反)
 補正明細書には,「【発明が解決しようとする課題】・・・従来の地図情報シス
テム,FM,ナビゲーション・システムなどの情報検索システムにおいては,図
形・画像に関連する属性情報や検索キーは予め設定されており,利用者が持ってい
る情報を利用することができなかった。」(段落【0006】),「本発明の目的
は,地図画像の任意の位置に対して,利用者が所有する既存の各種データベースの
情報を関連づけて付加することができる文字情報と地図画像の合成方法及びデータ
ベース機能向上支援システムを提供することにある。」(段落【0007】)と記
載されている。これらの記載によれば,請求項1の「地図画像が格納された電子地
図情報システム」には,ナビゲーション・システムも含まれると解されるところ,
請求項4は,地図画像が格納された電子地図情報システムについて,「受信した移
動体の位置情報に基づき当該移動体の位置を地図の画像上に表示するシステム」,
すなわち,ナビゲーション・システムに限定したものであるから,請求項4に係る
発明は,補正明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるということができ
る。
 したがって,決定の判断は誤りである。
第5 結論
 以上のとおりであって,原告主張の決定取消事由はいずれも理由があるから,審
決は取り消されるべきである。
    知的財産高等裁判所第4部
        裁判長裁判官                     
                   塚   原   朋   一
           裁判官                     
                   髙   野   輝   久
           裁判官                     
                   佐   藤   達   文

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