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平成15年(ワ)第25665号 損害賠償請求事件
(口頭弁論終結の日 平成16年2月19日)
          判         決
     原      告        株式会社総合資格
     訴訟代理人弁護士        木島昇一郎
     同               堀裕一
     同               手島万里
     同               丸山央
     同               島岡清美
   被      告        株式会社建築資料研究社
     訴訟代理人弁護士        石上麟太郎
          主         文
 1 被告は,原告に対し,240万円及びこれに対する平成15年11月17日
から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 原告のその余の請求を棄却する。
 3 訴訟費用はこれを5分し,その2を被告の,その余を原告の各負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
          事 実 及 び 理 由
第1 原告の請求
  被告は,原告に対し,600万円及びこれに対する平成15年11月17日
(訴状送達の日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 
第2 事案の概要
 原被告は,いずれも,主に建築士等の資格試験対策のゼミナール等の事業を
行っている株式会社である。本件において,原告は,平成15年7月に行われた一
級建築士試験・学科試験の会場付近で,被告が原告の営業拠点に至る道路を封鎖す
るなどして原告の営業活動を妨害した行為が不正競争行為及び不法行為に該当する
として,不正競争防止法2条1項14号及び民法709条,715条に基づき,被
告に対し損害賠償を請求している事案である。
 1 争いのない事実
  (1) 当事者
   ア 原告は,「総合資格学院」の名称で,主に一級建築士,二級建築士及び
宅地建物取引主任者等の資格試験のゼミナール及びそれに関連する出版等の事業を
行っている株式会社である。
   イ 被告は,「日建学院」の名称で,主に一級建築士,二級建築士及び宅地
建物取引主任者等の資格試験のゼミナール及びそれに関連する出版等の事業を行っ
ている株式会社であり,原告とは競争関係にある。
  (2) 一級建築士試験の実施及び原被告による営業活動
    平成15年7月27日,埼玉県朝霞市にある東洋大学朝霞キャンパスにお
いて,平成15年度一級建築士試験の学科試験(以下「学科試験」という。)が実
施された。
    原告及び被告は,学科試験の受験生に対して営業活動を行うことを考え,
受験生が通行する道路付近に営業拠点を設置して営業活動を行ったが,原告が最も
試験会場寄りに設置した営業拠点(以下「原告営業拠点」という。)は,試験主催
者から受験生に試験会場への径路として案内されていた通路に面していた。
2 争点及び当事者の主張
  (1) 被告は,通路封鎖等によって原告の営業を妨害したか。
   (原告の主張)
    被告の従業員は,以下に詳細に述べるとおり,原告の従業員らに対して暴
言を吐いたり,営業拠点に至る通路を封鎖するなどして,原告が受験生と接触する
機会を奪い,原告の営業を妨害した。
   ア 学科試験当日である平成15年7月27日午前7時30分ころ,被告川
越校支店長であるA(以下「A支店長」という。)が,原告越谷支店のB支店長
(以下「B支店長」という。)に対し,「(営業拠点の)敷地とテントを半分貸し
てくれ」「朝霞駅前に学校を持っているうちがここ(地元)で何一つ拠点がないの
はまずい,そっちも責任者なら分かるよね,俺にもメンツがある」「当日の昼のイ
ベントを潰さないことを条件に敷地を半分貸せ」「このままやるようなら絶対に潰
すからな」等,何度も恫喝まがいの言葉を浴びせかけた。
   イ 同日午前中には,被告従業員3名ないし4名が口々に「今日のターゲッ
トはお前だ」「Cをやる」等,Cその他の原告従業員らに対し脅しをかけていた。
   ウ 同日午後3時20分ころ(受験生の退出が許される約20分前),原告
が従業員,アルバイトを配置予定場所に移動させ始めたころ,被告は自動車2台を
原告営業拠点脇の路上に駐車させた。受験生が,帰路原告営業拠点に到達する直前
に駐車したものであり,被告による営業妨害の準備行為であった。
   エ 同日午後3時50分ころ,被告の数名の従業員とともに被告の本社経理
部長であるD(以下「D」という。)が原告営業拠点を訪れ,原告の従業員並びに
当日原告からの依頼により現地へ赴いていたE弁護士(以下「E弁護士」という。)
及びF弁護士(以下「F弁護士」という。)の写真を撮った。また,Dは両弁護士
の所属事務所などを聞き出そうとし,「金のためならなんだってやるのか」と大声
で威圧した。またE弁護士の名前を大声で繰り返したり,原告の従業員らに対し,至
近距離から大声で話しかけるなどした。
     そして,Dは,被告の従業員達をして両弁護士や原告従業員の写真を撮
らせているにもかかわらず,原告が被告の従業員の行為をビデオに収めたところ,
「肖像権侵害」を言い立てて,原告の従業員に対して執拗に詰め寄るなどした。
   オ 同日午後4時ころ(試験会場から一番早い退出者が出てくる時間),
D,A支店長を中心とした被告の従業員らは女性アルバイト十数名を呼び寄せ,東
洋大学3号館校舎と総合体育館との間の道路(受験生の駅への経路に当たる幅員約
5メートルの道路。以下「本件道路」という。)を女性アルバイトを道路幅一杯に
横一列に並べることによって塞いでしまった,そしてその両端にD,A支店長両名
が立ち,Dは「いいぞ!絶対にここを通すな!」と叫んでいた。
     また,被告の男性従業員が迂回を指示する矢印と「朝霞台駅近道」「→
駅順路」と記したダンボール紙で作ったプラカードを示し,出てきた受験生が原告
のテントの前を通らないように迂回させるようにし向けた。さらに被告の従業員ら
は,口々に,受験生に対して「そっちに行くとアンケート取られるよ」「駅はこっ
ち,近いよ」「この道は通れないよ」等と申し向け,受験生をして朝来た道とは別
方向に迂回させた。
     当時,受験生を迂回させる理由など全くなく,上記被告従業員の行為
は,受験生を原告のテント前を通らせない目的であることは明白である。
   カ 被告は,女子アルバイトを使っての本件道路の封鎖を続けつつ,5,6
名の男性従業員が,出てくる受験生に対してひっきりなしに迂回するように呼びか
けた。このように多人数をもって道路を塞ぎ,矢印を書いた板を示すなどして受験
生に迂回を指示していたため,結果として,多くの受験生が被告の意図どおりに迂
回をすることとなった。
キ そこで,原告は,試験終了時刻となり,大勢の受験生が出てきた場合,
本件道路の入り口付近でトラブルが生じるおそれが大きいと判断し,警察に通報し
た。
     上記通報を受け,同日午後4時45分ころ,警察官2名が到着し,原告
従業員とE弁護士が警察官に事情を説明した。そしてE弁護士らが同警察官に対し
道路が塞がれていることを示したところ,受験生が大勢出てきた午後5時30分こ
ろに,それまで道路幅いっぱいに広がっていた女子アルバイトは列を崩し始めた。
なお,被告の従業員1名は,明らかに受験生の通行を妨害したために警察官から注
意を受けている。
   ク その後も,被告の従業員5,6名は,原告営業拠点のテント前の道路中
央付近に移動し,道路を縦に並んで受験生が原告のテント内に入れないように,警
察官の目を盗んでは何度となく妨害行為を繰り返した。原告の従業員が「受験生に
迷惑がかかるから退いてくれ」と訴えても,あるいは被告従業員の列中に割って入
っても,「ここにいてどこが悪い」「体が触れた,暴力だ,歩いているところを邪
魔するな」等,逆に言いがかりをつける始末であった。
   (被告の主張)
    原告の主張する事実については,アのうちA支店長がB支店長に対して敷
地の半分を貸してほしいと申し入れた事実,ウのうち被告が原告営業拠点が面する
道路上に車を駐車した事実,エのうち被告従業員が両弁護士の写真を撮り,Dが同
弁護士の氏名等を聞こうとした事実,原告が被告の従業員らをビデオで撮影したの
でDが肖像権の侵害を訴え,両弁護士に対し肖像権侵害についての回答を求めた事
実,オのうち本件道路上に被告の女性アルバイト10名程度を横一列に並ばせた事
実,被告の従業員が受験生に対し,矢印を付したプラカードを示した事実,カのう
ち迂回路があることを受験生に示した事実,キのうち午後4時45分ころ警察官2
名が到着した事実,午後5時過ぎにアルバイトが列を崩した事実は認め,その余は
否認ないし不知である。さらに,被告の従業員の行為が不正競争行為ないし不法行
為に該当するという主張については,争う。
    被告の認識する事実は以下のとおりである。
   ア 学科試験当日である,平成15年7月27日朝,A支店長がB支店長
に,会場となった東洋大学朝霞キャンパスの総合体育館の向かいのIぶどう園に設
置された原告営業拠点について,その敷地の半分を貸して欲しいと申し入れたの
は,まず,過去に被告が試験会場付近の営業拠点の一部を原告に貸したことがあ
り,その後も原告から同様に営業拠点の一部を借りたい旨の申し入れがあったとい
う経緯から,今回被告から原告に対し原告営業拠点の半分の費用を支払って借りる
ことは可能であると考えて行ったものである。また,直前にこうした申入れをした
背景には,建築士会の許可を得て,原告と被告はそれぞれ試験会場内に2箇所の営
業拠点を設けていたが,更に原告は,試験会場から北朝霞駅までの経路上に3箇所
の営業拠点を設けていた一方,被告は建築士会の許可を得た拠点と北朝霞駅前の支
店以外に営業拠点を1箇所しか有していなかったという事情もある。なお,原告
は,A支店長が原告営業拠点の敷地を半分貸して欲しいと申し入れた際に,イベン
トをつぶさないから半分貸して欲しいとなどと言ったとか,恫喝まがいの言動をし
たと主張するが,そのような事実はない。
   イ 原告は,Dが現場で被告社員らを指揮し,意図的に混乱や妨害行為を誘
引したかのごとく主張するが,Dは,そもそも本社の経理部長であって経理が担当
であり,本件のように学科試験会場付近におけるアンケート等の現場を統括する立
場にない。当日は,Dは単独で行動し,学科試験の試験会場の様子を見に訪れたの
であり,現場の責任者はA支店長であった。
     原告は,Dら被告の従業員が弁護士に詰め寄ったり,原告の従業員に大
声で話しかけたことを問題とするが,原告が最初に被告の従業員らに対し,何の断
りもなくビデオで撮影を始め,さらに,弁護士2名があたかも被告の従業員らの行
動を監視するかのようにいたため,不安に感じたDが,2名の弁護士の氏名や何の
ために来ているのか,またビデオには自分達が撮影されているのではないか,仮に
写っていたら肖像権の侵害に当たるので,映像を消してもらいたいという趣旨で確
認を求めたが,何らの返答もせず,かつビデオ撮影を続行しようとしたので抗議を
したのである。
     誰にとっても,何の説明も承諾もなく,弁護士2名が監視のもと,ビデ
オで行動を撮影されているというのは不気味で不安を感じさせるものであり,当然
肖像権の侵害も問題となる。
     Dを含む被告従業員と両弁護士とのやりとりは,原告の問題ある行動に
対する抗議であり,そもそも営業妨害行為には当たらないものである。
   ウ 被告が,本件道路上に女性アルバイト十数名を並ばせたのは,受験生か
らアンケートを取るためである。上記アのように,被告の営業拠点は原告のそれよ
り少なかったので,道路でアンケート等を行うに当たり,少しでも目立つために
は,バラバラに被告のスタッフが立つのではなく,まとまって並ぶ方がよいという
考えから本件道路入口付近に一列に並んでいたのである。
     このように,被告には道路を封鎖し,通行を妨害する意図はなかった。
事実,一列に並んでいたといっても,その態様はアルバイトの女性がただ立ってい
るだけであり,受験生が通ろうとするのを妨害する行為は一切せず,通行しようと
する者や車がある場合には列を崩し,通行の妨げにならないように配慮していた。
原告が主張するように道路を封鎖したという状態は全く存在しない。
   エ 午後5時過ぎに被告の従業員らが列を崩したのは,多くの受験生が通行
しようとしたためであり,警察官が来たからではない。被告は,そもそも本件道路
の通行を妨害しておらず,通行人が通行しようとする場合には列を崩していた。午
後5時10分を過ぎたあたりから,受験生が試験会場から出始め,通行しようとす
る者が増えたので,通行の妨げにならないように自発的にアルバイトの列を解消し
たのである。
オ 最も受験生が多く通行する時間帯(午後5時過ぎ)においては,本件道
路における被告のアルバイトによる列は解消しており,原告営業拠点前を通行する
受験生も多数あり,原告営業拠点に受験生は多く集まっていた。
   カ さらに,原告は,営業機会の損失があったと主張するが,原告は試験会
場内に建築士会から許可を受けた営業拠点を2箇所有し,それ以外に駅までの受験
生の動線上に,原告営業拠点を含む3箇所の営業拠点を有していた。したがって,
営業拠点の損失はないか,あったとしてもごくわずかに過ぎない。
  (2) 被告は,原告に土地を貸与した者に虚偽の事実を申し向け,又は恫喝同然
の電話をかけて原告の営業を妨害したか。
   (原告の主張)
ア 学科試験当日である平成15年7月27日午後5時ころ,Dは,東洋大
学体育館門横の原告従業員や受験生がいる前で,携帯電話を使用して,原告に原告
営業拠点の土地を貸与したH氏(以下「H」という。)に電話をかけた。そして,
「お宅がある業者に貸している土地で大変なことが起きている。警察も来て騒ぎに
なっている。お宅が1社だけに貸すからだ。直ぐに来た方がいい。」という趣旨の
話を大声でして,応対したH氏の妻に対し,虚偽の事実を申し述べ,同人を畏怖さ
せて今後原告に対して土地を貸与しないように圧力をかけ,もって原告の信用を毀
損するとともに業務を妨害した。
   イ 原告営業拠点の土地は,前年度に原告が賃借し,今回は2年目であった
が,学科試験の日以前から,被告川越校のG課長(以下「G課長」という。)がH
に対して何度もしつこく電話をかけ,「土地の半分を日建にも貸すように」「今年
がだめなら来年貸してくれ」などと要請していた。さらに,GはH宅を訪問し,上
記要請事項の実現が困難なことを知るや,「来年以降貸さなかったら大変なことに
なるよ」「うちは駅前で商売をしているんだから町内会長やなんやらいろいろ圧力
かけるよ」などと脅迫同然の行為を行って畏怖させ,今後原告に土地を貸さないよ
うに圧力をかけ,原告の業務を違法に妨害した。
   (被告の主張)
    DがHに電話をかけて同人の妻に警察が来ている旨を申し述べた事実,G
課長がH宅を訪れて原告営業拠点の土地を賃借したい旨の申し入れをした事実は認
めるが,次に述べるとおり,Hの妻を畏怖させたり,脅迫同然の行為を行ったとい
う事実はなく,原告の主張は否認する。
   ア Dは,学科試験当日にHに2度電話をかけている。1回目は,午後2時
30分ころに原告との土地の賃貸借関係の事実の確認のためである。Hは,その際
不在であった。2回目は警察官が来た際に電話したが,同様にHは不在だったので
電話に出たHの妻に,端的に警察が来て騒ぎになっているようだという状況のみを
報告した。原告が主張するような恫喝まがいの言動は一切していない。
   イ また,G課長についても,単にH宅を訪れて被告に土地を貸して欲しい
との申入れをしたに過ぎず,脅迫まがいの言動は一切していない。
  (3) 原告の損害
  (原告の主張)
    被告が,上記のとおり行った行為によって,原告の信用が毀損され,営業
機会の損失を受けたことの損害は500万円を下回ることはなく,度重なる被告の
違法行為を抑止するためには,最低限上記程度の賠償金は認容されるべきである。
    弁護士費用100万円が被告の行為と相当因果関係にある損害と評価され
る。
   (被告の主張)
    原告の主張は,否認ないし争う。
第3 当裁判所の判断
 1 争点(1)(被告は,通路封鎖等によって原告の営業を妨害したか。)について
  (1) 前記争いのない事実に証拠(甲1ないし5,7ないし11,乙1(枝番号
は省略する。以下同じ))及び弁論の全趣旨を総合すると,次の各事実が認められ
る。
 ア 原告は,「総合資格学院」の名称で,主に一級建築士,二級建築士等の
資格試験の講習機関の経営等の事業を行っており,被告は,「日建学院」の名称
で,同様に主に一級建築士,二級建築士等の資格試験の講習機関の経営等の事業を
行っており,原告と被告は競業関係にある。
   イ 平成15年7月27日,東洋大学朝霞キャンパスにおいて学科試験が行
われたが,学科試験の会場には受験生が多数訪れるため,原被告のように建築士試
験の講習機関を経営する者が受験生に対して営業活動を行うことが,一般的に行わ
れている。
     原告は,試験主催者から受験生に対して試験会場への径路として案内さ
れていた道路沿いに原告営業拠点を含む3箇所の営業拠点を設置し,受講を勧誘す
る資料を配布したり,アンケートを行うなどの営業活動を行った。原告営業拠点
は,東洋大学朝霞キャンパスの総合体育館裏手に位置しており,試験会場である同
キャンパスの1号館及び3号館を出た受験生が,本件道路を通って上記動線沿いに
朝霞台駅又は北朝霞駅に向かう際に通過する位置に設置されていた。
     当日の午後,原告は,原告営業拠点において受験生に対して無料解答速
報を提供するサービスを行っていたものであるが,これは,受験生に当日自らの解
答を再現してもらい,これを原告において採点し,合格ラインを推定して,受験生
が続く設計製図試験の準備に直ちに入るべきか否かの判断材料を提供するものであ
り,受験生との数少ない接触の機会として,原告は重視していたものであるし,受
験生による利用率も高かった。被告も同様のサービスを行っており,原告が上記の
無料解答速報のサービスを重視していることは,被告も知っていた。
   ウ 同日午前中,被告のA支店長から原告に対し,原告営業拠点の敷地の半
分を被告に貸して欲しい旨の申入れがされたが,原告においてこれを断った。その
後,午後3時50分ころ,Dを含む被告の従業員が,原告営業拠点を訪れ,当日,
原告の依頼により現場を訪れていたE弁護士及びF弁護士の写真を撮ったり,両弁
護士に「金のためなら何だってやるのか」などと大声で言い立てたり,E弁護士の
名前を大声で繰り返すなどした。そして,さらに,Dは,原告の従業員が被告の従
業員らの行動をビデオに収めていることを知るや,肖像権侵害であると主張して,
原告の従業員に詰め寄るなどした。
   エ 受験会場から受験生が退出し始めた同日午後4時ころ,被告の従業員
は,被告の女性アルバイト十数名に指示して,本件道路(幅員約5メートル)付近
において,原告営業拠点に通じる道路へ進入しようとする者が困難を覚えるように
横一列に並んで立たせ,被告の従業員が大きな矢印を書いたパネルを所持する等し
て,試験会場から出てくる受験生に対し,「駅はこっち,近いよ」などと原告営業
拠点の前の道路を通行せずに別の道に迂回するように案内を行った。
     上記アルバイトによる列は,車両が通った場合に崩れることはあったも
のの,午後5時過ぎまで断続的に続けられ,その間被告の従業員による迂回の案内
も行われた。
   オ 同日午後5時30分ころまでに,上記アルバイトによる列は解消された
ものの,その後,被告の従業員5,6名は,原告営業拠点のテント前の同道路付近
に移動し,受験生が原告営業拠点に入っていかないように立ち塞がるなどした。
  (2) 被告は上記認定に関し,アルバイトを横一列に並ばせたのはアンケートを
取るためであって,封鎖といえるような状態にはなっていなかったと主張するが,
証拠(甲4,甲5)によれば,被告の従業員は,約5メートルほどしかない本件道
路の道幅一杯にアルバイト十数名を並ばせ,かつその前後に道案内の矢印を持った
従業員を立たせて,迂回するように案内していることが認められるのであって,学
科試験の会場から出てきた受験生が,原告営業拠点前の道路に進入するには困難な
状態となっていることは明らかであり,これを「封鎖」というかどうかはともかく
として,被告の従業員らが,原告営業拠点前の道路への進入を妨害する行為を行っ
ていたことは,明らかである。
    また,被告は,原告営業拠点前の道路に受験生が進入するのを妨害する意
図は全くなかったと主張し,A支店長も陳述書(乙1)においてこれに沿う陳述を
するけれども,上記のアルバイト及び被告従業員らによる通行妨害行為の態様に,
原告と被告は,ともに建築士試験対策の講習機関を経営している競業関係にあり,
従来から受講生の獲得競争を行ってきたこと,建築士試験会場において営業活動を
巡るトラブルも何度となく発生しており,警察官を呼んだこともあったこと等の事
情(甲6ないし13,乙1等)を総合すれば,被告の従業員らにおいて,原告営業
拠点前の道路に受験生が進入するのを妨害する意図を有していたことは明らかであ
る。
  (3) 以上のとおり,本件において,被告の従業員らは,学科試験が行われた会
場付近で,原告と受験生との接触を妨害する行為を行い,原告の営業を妨害したも
のと認められる。
 2 争点(2)(被告は,原告に土地を貸与した者に虚偽の事実を申し向け,又は恫
喝同然の電話をかけて原告の営業を妨害したか。)について
   前記争いのない事実に証拠(甲1,2,乙1)及び弁論の全趣旨を総合すれ
ば,学科試験当日の午後5時ころ,Hに電話をかけてHの妻に対して原告営業拠点
付近に警察が来ている旨の話をした事実及び,学科試験の日以前にG課長がHの妻
に対して,原告営業拠点の敷地とされた土地の賃借を申し出た事実は認められる
が,上記DないしG課長が電話をかけたり,直接訪問した際に,虚偽の事実を申し
向けたり,恫喝同然の行為を行った事実を認めることはできない。
   したがって,原告の請求のうち,被告の従業員らがHに虚偽の事実を述べあ
るいは畏怖させるなどして原告の営業を妨害したことを理由とする請求は理由がな
い。
 3 争点(3)(原告の損害)
  (1) 上記1に認定のとおり,学科試験の行われた平成15年7月27日の午後
4時ころから5時過ぎにかけて,試験会場付近において,被告の従業員らは,受験
生が原告営業拠点付近に行かないように同営業拠点付近への進行を妨げる行為を行
い,原告と受験生との接触を妨害して,原告の営業を妨害したものと認められる。
  (2) 上記の被告従業員による妨害行為は,原告の営業活動を故意に妨害しよう
とするものであるから不法行為に該当するところ,これにより,原告は受験生に対
する営業活動を行うことが困難になっただけでなく,営業上の信用も低下したもの
と認められるから,被告は,上記不法行為によって原告が受けた損害を賠償する責
任がある。なお,原告は不正競争防止法2条1項14号の不正競争行為があったこ
とを理由とする損害賠償請求もしているが,本件において,被告が原告の信用を害
するような虚偽の事実を告知し,又は流布したことは認めることができないので,
不正競争防止法に基づく原告の請求は理由がない。
    そして,本件において認められる営業妨害行為の内容,程度等の本件にお
いて認められる一切の事情を斟酌すると,被告の営業妨害行為によって,原告の営
業活動ないし営業上の信用が害されたことによる原告の損害は,200万円と認め
るのが相当である。
  (3) 原告が,本件訴訟を遂行するにあたり,その訴訟活動を弁護士に委任した
ことは当裁判所に顕著であるところ,本件事案の内容,認容額及び本件訴訟の経過
等を考慮すると,被告による不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は40万円
をもって相当と認める。
 4 結論
  以上のとおりであるから,原告の被告に対する請求は,被告に対し,240万
円及びこれに対する不法行為の後である平成15年11月17日から支払済みまで
年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある。
  よって,主文のとおり判決する。
     東京地方裁判所民事第46部
 
           裁判長裁判官   三  村  量  一
              裁判官   松  岡  千  帆
 
          裁判官大須賀寛之は転任のため署名押印できない。
           裁判長裁判官   三  村  量  一

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