弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を札幌地方裁判所に差し戻す。
         理    由
 検察官の控訴趣意は検察官高木一提出の控訴趣意書記載のとおりであるから、こ
こにこれを引用する。
 検察官の控訴趣意(事実誤認)について、
 本件記録及び原裁判所で取調べた証拠を綜合すると、札幌郡a村bA孵化場にお
いて、同場長B保管にかゝるゴム深沓五十七足及び八号綿糸五把が昭和二十四年一
月二十三日数名の共謀により窃取されたものであることは認められるのであるが、
被告人が氏名不詳の者数名と共謀の上窃取したとの点についてはその証明が不十分
であつて、被告人の窃盗の事実は認め難いのである。従つて原裁判所が犯罪の証明
がないものとして刑事訴訟法第三百三十六条により無罪の判決を言渡したのは相当
であつて原判決には事実の誤認はない。論旨は採用できない。
 同第二点(訴訟手続に法令の違反)について、
 本件記録によると、本件は窃盗罪として起訴せられ、原裁判所で審理中昭和二十
七年六月六日の第六回公判期日において、検察官は賍物牙保の訴因及び罰条の追加
を予備的に請求をなし、昭和二十七年六月二十一日の第七回公判期日において原裁
判所は右予備的請求を却下していることは所論のとおりである。
 本件起訴状によるとその公訴事実は、「被告人は氏名不詳の者数名と共謀の上昭
和二十四年一月二十三日札幌郡a町bA孵化場において同場長B保管のゴム深沓五
十七足及び綿糸五把を窃取したものである」旨及び罪名として窃盗刑法第二百三十
五条と記載あり原審第六回公判調書によると予備的訴因及び罰条の追加の内容は
「被告人は昭和二十四年一月二十三日午後二時頃札幌市c条d丁目e上において、
住所氏名不詳の朝鮮人某男からゴム深靴五十三足の売却斡旋方の依頼を受け、その
ゴム靴が賍物であるの情を知り乍らその頃札幌市f条g丁目道路及びその附近のC
方において朝鮮人Dに対し前記ゴム靴を買つてくれと申込みこれが売却方の周旋を
なし以て賍物の牙保をしたものである。」として、罰条は刑法第二百五十六条第二
項となつているのである。
 <要旨>刑事訴訟法第三百十二条第一項に所謂公訴事実の同一性とは枝葉の点まで
同一であることを要せず公訴の基本的事実関係即ち重要な事実関係が同一で
あれが公訴事実の同一性を害しないものであると解するところ本件の起訴状記載の
窃盗の訴因と予備的追加請求の賍物牙保の訴因に共通の点は、犯罪の時が昭和二十
四年一月二十三日であること、犯罪の物体がゴム深靴五十数足であること、犯罪の
場所がそれ程遠くないこと、右ゴム靴が不法に領得されたことに被告人の関与した
行為が中心問題とされているのであつて、窃盗と賍物牙保との間には事実関係に多
小の変動がないではないが、いずれも他人の所有に係る財物に関する犯罪として相
互に密接の関係があるので右訴因の予備的追加は公訴事実の同一性を害しないもの
と解する。従つて原裁判所が賍物牙保の訴因及び罰条の予備的追加請求を却下した
のは、訴訟手続に法令の違反があるものといわなくてはならない。その違反は判決
に影響を及ぼすことが明かであるから原判決は破棄を免れない。論旨は理由があ
る。弁護人は当裁判所第四部が昭和二十五年(う)第六十八号賍物故買同牙保住居
侵入窃盗被告事件につき昭和二十五年六月六日言渡した判例を引用して基本的事実
関係が同一でないと主張するのであるが右判例は本件との事実関係に相違があり本
件の場合に適切な判例でないから、その主張は採用できない。
 よつて刑事訴訟法第三百九十七条、第三百七十九条により原判決を破棄し、同法
第四百条本文により本件を原裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 成智寿朗 判事 臼居直道 判事 東徹)

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