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平成18年(行ケ)第10515号審決取消請求事件
平成19年10月30日判決言渡,平成19年9月25日口頭弁論終結
判決
1原告X
2原告X
両名訴訟代理人弁理士板谷康夫
被告特許庁長官肥塚雅博
指定代理人森次顕,森川元嗣,赤穂隆雄,森山啓
主文
原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1原告らの求めた裁判
「特許庁が不服2004−6922号事件について平成18年10月10日にし
た審決を取り消す。」との判決。
第2事案の概要
本件は,特許出願の拒絶査定に対する不服審判請求を不成立とした審決の取消し
を求める事案である。
1特許庁における手続の経緯
(1)原告らは,平成8年5月21日(国内優先権主張・平成7年6月14日),
名称を「竹材を用いた構造用集成材及びその製造方法」とする発明につき,特許出
願(以下「本件出願」という。)をした(甲4)。
(2)原告らは,平成16年3月3日付けで,本件出願につき拒絶査定を受けた
ので,同年4月7日,拒絶査定不服の審判を請求し(不服2004−6922号事
件として係属),さらに,同年5月6日付け手続補正書(甲5)により,明細書の
補正(以下「本件補正」といい,本件補正後の明細書(甲4,5)を「本願明細
書」という。)をした。
本件補正は,本件補正前(同年2月3日付け手続補正書による補正後。以下同
じ。)の特許請求の範囲の請求項1及び2を補正するなどしたものである。
(3)特許庁は,平成18年10月10日,本件補正を却下した上,「本件審判
の請求は,成り立たない。」との審決をし,同月23日,その謄本を原告らに送達
した。
2特許請求の範囲の請求項1の記載(請求項2以下の記載は省略)
(1)本件補正前のもの
「【請求項1】木造建築物の梁,柱,構造用パネル等の構造部材として用いられ
る構造用集成材において,
高温かつ高圧の蒸気でのプレスにより平板状に成形した割竹と,製材からなる単
板又は構造用合板とを交互に複数積層し,割竹の引き並べ方向が順次直交するよう
に集成接着したことを特徴とする竹材を用いた構造用集成材。」
(2)本件補正後のもの(下線部が補正個所である。)
「【請求項1】木造建築物の梁,柱,構造用パネル等の構造部材として用いられ
る構造用集成材において,
高温かつ高圧の蒸気でのプレスにより割れ目付きの平板状に成形した割竹と,製
材からなる単板又は構造用合板とを交互に複数積層し,割竹の引き並べ方向が順次
直交するように集成接着し,前記平板状割竹と単板又は構造用合板との積層面に前
記割れ目が空隙として存し,単板又は構造用合板が最外側面に位置することを特徴
とする竹材を用いた構造用集成材。」
3審決の理由の要旨
審決は,本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)は,
下記引用例に開示された発明(以下「引用発明」という。)並びに下記周知例1及
び2の各記載によって認められる各周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をす
ることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立
して特許を受けることができず,本件補正は,同法17条の2第5項において準用
する同法126条5項の規定に違反するものであるとして,同法159条1項にお
いて準用する同法53条1項の規定により本件補正を却下し,本件出願の請求項1
に係る発明(以下「本願発明」という。)の要旨を,本件補正前の特許請求の範囲
の請求項1の記載に基づいて認定した上,本願発明は,本願補正発明と同様,引用
発明及び上記各周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたもの
であり,同法29条2項の規定により特許を受けることができないとした(なお,
審決が引用する上記各規定のうち,同法17条の2第5項,159条1項及び53
条1項は,平成18年法律第55号(審決の後である平成19年4月1日施行)に
よる改正前のものである。)。
引用例実願昭63−39103号(実開平1−142715号)のマイクロフ
ィルム(甲1)
周知例1特開平6−39806号公報(甲2)
周知例2特開平6−182713号公報(甲3)
審決の理由のうち,引用例の記載事項及び引用発明の認定に係る部分並びに本願
補正発明と引用発明との対比及び相違点についての判断に係る部分は,以下のとお
りである(表題,符号及び明らかな誤記と認められる記載を改めた部分並びに略称
を本判決が指定したものに改めた部分がある。)。
(1)引用例の記載事項及び引用発明の認定
引用例には,図面と共に,以下の記載がある。
ア「2.実用新案登録請求の範囲
木造建築物の梁や柱等の構造部材として用いられる構造用集成材であって,複数の木製ラミ
ナが集成接着されてなるラミナ積層体の外層部に,炭素繊維等の高剛性繊維の長繊維をそのラ
ミナ積層体の周方向に沿わせた状態でラミナ積層体の全長にわたって配し,それら長繊維をラ
ミナ間に挟み込んで接着してなることを特徴とする構造用集成材。」
これらの記載及び図面の内容を総合すると,引用例には,次の発明(引用発明)が開示され
ていると認めることができる。
「木造建築物の梁や柱等の構造部材として用いられる構造用集成材であって,
複数の木製ラミナが集成接着されたラミナ積層体からなる構造用集成材。」
(2)本願補正発明と引用発明との対比
そこで,本願補正発明と引用発明とを対比する。
上記摘記事項(1)アによれば,引用発明の「構造用集成材」は,「複数の木製ラミナが集成
接着されたラミナ積層体からなる」ものであるから,「木製ラミナ」を「複数積層し,集成接
着した」ものであるといえる。
また,引用発明における「木製ラミナ」と,本願補正発明における「平板状に成形した割
竹」及び「製材からなる単板又は構造用合板」とは,ともに「木質の板材」である点で共通し
ている。
そうすると,両者は,
「木造建築物の梁や柱等の構造部材として用いられる構造用集成材であって,
木質の板材を複数積層し,集成接着した構造用集成材。」
である点で一致し,以下の点で相違している。
[相違点]
構造用集成材の積層態様に関して,本願補正発明においては,高温かつ高圧の蒸気でのプレ
スにより割れ目付きの平板状に成形した割竹と,製材からなる単板又は構造用合板とを交互に
複数積層し,割竹の引き並べ方向が順次直交するように集成接着し,前記平板状割竹と単板又
は構造用合板との積層面に前記割れ目が空隙として存し,単板又は構造用合板が最外側面に位
置するのに対して,引用発明においては,製材からなる単板のみを積層している点。
(3)相違点についての判断
上記相違点について検討する。
竹材は,木材に比して安価であること,及び,繊維方向に割裂性を有する等の異方性が顕著
であることが広く知られていて,引き並べ方向を順次直交させて積層して木材の代替材として
用いることが普通に行われているから(例えば,周知例1参照),引用発明の集成材において,
木材である製材からなる単板の一部を竹材に替えてこれらを交互に複数積層し,竹材の引き並
べ方向を順次直交させることは,当業者が容易になし得たものである。
そして,その際に,高温かつ高圧の蒸気でのプレスにより平板状に成形した割竹は竹材とし
て従来周知のものであるから,竹材としてこのような割竹を用いることに格別の困難性は認め
られない。割竹を平板状に成形する際に割れ目が生じることは従来から広く知られていること
にすぎず(例えば,周知例2(特に段落【0007】)参照),この割竹の割れ目によって積
層面に空隙が存するようにすることは,自明な事項であるといえる。
また,単板を集成材の最外側面に使用することは従来から行われていることであり,2種類
の木板材を積層する際に,集成材の最外側面の板材として単板を選択することは,当業者が適
宜なし得た設計的事項であるといえる。
そして,本願補正発明の作用効果も,引用発明及び周知技術から当業者が予測できる範囲の
ものである。
よって,本願補正発明は,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をするこ
とができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受け
ることができないものである。
(4)本件補正についての審決の「むすび」
以上のとおり,本件補正は,特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の
規定に違反するものであり,特許法159条1項において読み替えて準用する特許法53条1
項の規定により却下するべきものである。
第3当事者の主張の要点
1原告ら主張の審決取消事由(相違点についての判断の誤り)の要点
審決は,以下のとおり,本願補正発明と引用発明との相違点についての判断を誤
った結果,本件補正を却下したものであり,ひいて,本件出願に係る請求項1記載
の発明の要旨の認定を誤ったものであるから,取り消されるべきである。
(1)審決は,「竹材は,木材に比して安価であること,及び,繊維方向に割裂
性を有する等の異方性が顕著であることが広く知られていて,引き並べ方向を順次
直交させて積層して木材の代替材として用いることが普通に行われているから(例
えば,周知例1参照),引用発明の集成材において,木材である製材からなる単板
の一部を竹材に替えてこれらを交互に複数積層し,竹材の引き並べ方向を順次直交
させることは,当業者が容易になし得たものである。」と判断したが,以下のとお
り,この判断は誤りである。
ア本願補正発明は,「構造用集成材のコストが高いこと,構造用集成材の温度
変化に対する対応が十分でなかったこと」との課題を解決するものであるが,この
ような着想は新規のものである。
これに対し,引用発明は,小断面であっても充分なせん断特性を有する構造用集
成材を提供することを課題とするものである。
このように,本願補正発明と引用発明とは,その課題を異にするものであって,
引用例は,本願補正発明における上記課題を示唆するものではない。
イ本願補正発明は,「竹」と「製材からなる単板又は構造用合板(木材)」と
を交互に複数積層し,その際,構造用合板と交互にある竹材の引き並べ方向が順次
直交するようにしたものである。
これに対し,引用発明は,木製ラミナ積層体の外周に,高剛性繊維を周方向に沿
わせて配したものである。
このように,本願補正発明は,「積層の一部に竹材を用いること」,「木板と竹
材を用いること」,「木板と竹材とを交互に積層すること」,「交互にある材の引
き並べ方向を順次直交させること」など,その具体的技術においても,ことごとく
引用発明と相違するものであって,引用例には,これらの技術についての開示も示
唆もない。
ウ周知例1により認められる周知技術は,木板の代替の竹製合板を提供するこ
とを目的とし,割竹のみを引き並べ方向が互い違いとなるように積層圧着した合板
であって,木材を使用しないことに技術的意義があり,竹材と木板とを組み合わせ
て使用することとは無縁であるから,木材のみから成る構造用集成材である引用発
明と上記周知技術とを組み合わせる動機付けは,全く存在しない。したがって,引
用発明と上記周知技術とを組み合わせることが容易になし得るとした審決の判断は,
いわゆる後知恵に基づくものであって,誤りである。
仮に,引用発明と上記周知技術とを組み合わせることに想到したとしても,少な
くとも,「木板と竹材とを交互に積層すること」を導き出すことはできない。
エ被告は,周知例2には,木材と竹材を積層することが開示されている旨主張
するが,周知例2が開示するのは,展開した竹平板が反りやすい点を解消するため
に木材を接着することにすぎず,そこには,本願補正発明におけるような,割竹と
単板又は合板の複数組の積層体とするとの概念は全く含まれていない。
特に,本願補正発明が,建築構造用床材・壁材・屋根面材に限定使用され,地震
・風力などの外力に耐え,鉛直荷重にも耐える構造材であるのに対し,被告が援用
する周知例等に開示されているのは,これとは異なる非構造材である。また,従来
の割竹が,力学的に曲げ・せん断を受けない場所に使用することを目的としている
のに対し,本願補正発明は,力学的に曲げ・せん断・圧縮などを受けることを目的
としており,両者は,大きく相違する。
なお,被告は,特開平4−327651号公報(乙2。以下「乙2刊行物」とい
う。)には,力学的特性が異なる2つの材を,集成方向が互いに相違する形で積層
接着することが開示されている旨主張するが,乙2刊行物におけるコンクリート型
枠の一方の部材はチップ成形品であり,強度があまりに十分でないことから,もう
一方の部材としての角材の方向を互いに異なるように並べたものであって,本願補
正発明のような構造用集成材の開発にとって,乙2刊行物に示されるようなコンク
リート型枠の技術事項は,参考とならない。
このように,被告は,「積層の一部に竹材を用いること」や「木板と竹材を用い
ること」が従来から普通に行われていたとの誤った認識に基づき,周知例1に記載
された周知の事項を引用発明に適用する動機付けは十分にあったとの誤った主張を
しているものである。
(2)審決は,「その際に,高温かつ高圧の蒸気でのプレスにより平板状に成形
した割竹は竹材として従来周知のものであるから,竹材としてこのような割竹を用
いることに格別の困難性は認められない。割竹を平板状に成形する際に割れ目が生
じることは従来から広く知られていることにすぎず(例えば,周知例2(特に段落
【0007】)参照),この割竹の割れ目によって積層面に空隙が存するようにす
ることは,自明な事項であるといえる。」と判断したが,以下のとおり,この判断
は誤りである。
ア周知例2により認められる周知技術が,割竹を平板状に成形する際に生じる
割れ目をなくすようにするものであるのに対し,本願補正発明は,後記(4)ア(ウ)に
おいて主張する遮音効果及び断熱効果を得るため,割竹を平板状に成形する際に生
じる割れ目を積極的に利用しようとするものである。周知例2は,割竹の割れ目に
よって積層面に空隙が存するようにすることを示唆するものではない。
イ仮に,積層面に空隙が存するようにすることが自明であるとしても,従来技
術は,この空隙をなくそうとしてきたのに対し,本願補正発明は,上記のとおり,
この空隙を積極的に利用することができるようにするものである。
ウなお,本願補正発明につき実際に製造した構造を示す甲6(以下「甲6書
面」という。)によれば,割竹の間隔を空けることができ,これにより形成された
エアスペースが温度変化への対応を十分にしているところ,被告が援用する周知例
等に示される割竹は,すべて間隔がなく,密着を求めているので,本願補正発明に
おける上記構造とは,根本的に異なるものである。
エ被告は,何ら証拠を示すことなく,展開竹平板を積層する際に積層面に空隙
が存在し得ることは当業者にとって明らかな事項であり,建築用材料において空隙
を設けることにより遮音及び断熱効果が生じることは周知の事項である旨主張する
が,割竹と単板又は合板とを積層して構造用集成材とする際に,割れ目が空隙を形
成し,この空隙が遮音及び断熱にも効果があるとの技術思想は,本願補正発明が初
めて提案するものである。
(3)ア審決は,「・・・単板を集成材の最外側面に使用することは従来から行
われていることであり,2種類の木板材を積層する際に,集成材の最外側面の板材
として単板を選択することは,当業者が適宜なし得た設計的事項であるといえ
る。」と判断した。
しかしながら,引用発明と本願補正発明とが近接した技術分野に属するとしても,
両者の差異を無視し得るようなものでないときは,少なくとも,適宜なし得た設計
的事項であるとするためには,それなりの動機付けを必要とするものであって,単
なる設計的事項であるということで済ませられるものではないから,審決の上記判
断は誤りである。
イ被告は,引用例に開示されているように,単板と竹材とから美観を考慮して
最外層の板材を選択することは,当業者が適宜なし得ることである旨主張するが,
引用発明が,ラミナの積層材の側面に,美観上,化粧用材を接着するのに対し,本
願補正発明においては,割竹と単板又は合板との積層方向の両端面(最外側面)に
単板又は構造用合板を用いており,これは,強度上及び構造上,また,割竹による
空隙形成のために必須のものであるから,両者には,機能,作用及び具体的技術に
おいて差異があるのであり,このような場合には,上記アのとおり,それなりの動
機付けを示す必要がある。
(4)審決は,「・・・本願補正発明の作用効果も,引用発明及び周知技術から
当業者が予測できる範囲のものである。」と判断したが,以下のとおり,この判断
は誤りである。
ア本願補正発明は,以下のような効果を奏するものである。
(ア)竹材のみを積層する場合よりも強度を向上させることができ,構造材とし
ての使用を可能にし,また,竹材は一般的な木材よりも温度変化に強いことから,
構造材を温度変化に強いものとすることができる。
(イ)高温かつ高圧の蒸気でのプレスにより平板状に成形した割竹を用いること
で,割竹の殺菌及び油抜きの作業を割竹の成形作業と同時に行うことができ,生産
工程が簡略化され,平板状に成形した割竹を生産するためのコストが低減される。
(ウ)割れ目付きの平板状に成形した割竹を用い,平板状割竹と単板又は構造用
合板との積層面に割れ目が空隙として存するようにしたため,構造用集成材を壁パ
ネルとして使用した場合,比重が小さくスピーカーのウーハー板のように音を遮断
し(遮音効果),また,縦方向に並ぶ割竹の割れ目の空隙が空気流路を形成し,断
熱効果が生じ,したがって,木造建築物の構造用パネル等として極めて有用である。
(エ)単板又は構造用合板を最外側面に位置させているため,外面に竹材がある
場合に比して,強度,特に耐震強度が向上する。これは,竹ボードの曲げ試験の結
果を示す甲7(以下「甲7報告書」という。)にも,顕著に表れているところであ
る。
イこのように,本願補正発明は,引用発明に,周知例1に記載された周知技術
を適用しても得られない格別の効果を奏するものであり,これを,被告が主張する
ように,当業者が予測できる程度のものということはできない。
2被告の反論の要点
以下のとおり,本願補正発明と引用発明の相違点についての審決の判断に,原告
らが主張するような誤りはない。
(1)原告らの主張(1)に対し
ア原告らの主張(1)アに対し
(ア)「構造用集成材のコストが高いこと」を解決するという本願補正発明の課
題は,建築用材料一般についていえることであり,当業者にとって自明の課題であ
るし,竹材のコストが安いことは竹材自体が有する性質として広く知られているか
ら,竹材を用いることによるコスト上の効果も,当業者において当然予測できる程
度のものである。
(イ)「構造用集成材の温度変化に対する対応が十分でなかったこと」を解決す
るという本願補正発明の課題(なお,本願明細書には,構造用集成材が温度変化に
対して示すどのような対応が十分でなかったのかについて明記されていない。)に
ついては,温度変化に対する寸法安定性は,建築用材料一般が備えるべき基本的性
質であるから,その向上を図ることは自明の課題であるし,竹材の温度変化に対す
る寸法安定性が高いことは,竹材自体が有する性質として広く知られているから,
構造用集成材の一部を竹材に置換した材の寸法安定性が向上することも,当業者が
当然に予測できる程度の効果である。
イ原告らの主張(1)イないしエに対し
(ア)「積層の一部に竹材を用いること」及び「木板と竹材を用いること」の組
合せの動機付けについて
a周知例1には,竹板を木板の代替とすることが開示されている。
b昭和20年2月2日発行の特許第168114号明細書(乙1の1。以下
「乙1刊行物」という。)には,竹材から成る多数の基本材料板を並列して扁平板
とし,扁平板を上下に重合した竹材製合板を得ることや,その竹材から成る基本材
料板の相互の中間に木材である木製板を挟入することが開示されている。
c周知例2には,木材と竹材である竹平板とを積層し,木材の欠点を竹材で補
うことが開示されている。
dこのように,「積層の一部に竹材を用いること」や「木板と竹材を用いるこ
と」は,従来から普通に行われていたことであるところ,上記ア(ア)のとおり,竹
材のコストが安いことが広く知られていることに照らせば,竹材と木材との価格差
を考慮しつつ,コストを低減するという自明の課題に基づき,周知例1に記載され
た周知の事項を引用発明に適用する動機付けは十分にあったというべきである。
e原告らは,周知例2には,割竹と単板又は合板の複数組の積層体とするとの
概念は全く含まれていない旨主張するが,例えば,乙2刊行物に開示されているよ
うに,積層体を構成するそれぞれを複数組のものとすることは,合板において広く
採用されている周知の技術である。そして,周知例2が木材と竹平板とを一層ずつ
積層するものであることは,上記周知技術の引用発明への適用を阻害するものでは
ないから,上記周知技術を引用発明に適用し,積層体を構成する材のそれぞれを複
数組のものとすることは,当業者が容易に想到することができたというべきである。
また,原告らは,被告が援用する周知例2等に開示されているのは非構造材であ
る旨主張するが,周知例1及び乙1刊行物には,「非構造材」であるとの記載はな
く,かえって,構造物の強度を要する部分に竹材を使用することは,これらの刊行
物に開示されているところであって,周知の事項であるといえるから,竹材を構造
材として用いることは,上記周知技術により,当業者が容易に想到することができ
たものである。
(イ)「木板と竹材とを交互に積層する」及び「交互にある材の引き並べ方向を
順次直交させる」との具体的技術について
a周知例1の記載によれば,強度を優れたものとするために,竹材である割竹
を,引き並べ方向が互い違いとなるように積層することは,従来から普通に知られ
ていた事項であるといえる。そして,竹材については,繊維に平行する方向と直交
する方向とで,力学的特性が大きく異なることが知られており,竹材を,引き並べ
方向を互い違いとなるように積層することは,力学的特性が異なる材を交互に積層
することに相当する。
b乙2刊行物には,力学的特性が異なる材である針葉樹材のチップをプレス成
型した部材と,針葉樹材の角材を並列に集成接着して成る集成材とを,交互に積層
接着する点が開示されている。
なお,原告らは,乙2刊行物におけるコンクリート型枠の一方の部材はチップ成
形品であり,強度があまりに十分でないことから,もう一方の部材としての角材の
方向を互いに異なるように並べたものであって,本願補正発明のような構造用集成
材の開発にとって,乙2刊行物に示されるようなコンクリート型枠の技術事項は参
考とならない旨主張するが,乙2刊行物には,チップをプレス成型した部材が曲げ
剛性を高めるとともに,集成材の角材の組合せ方向を相違させることや,強度を高
めるために異なる種類の材を組み合わせることにより,せん断方向の許容応力を大
きくすることが示されているほか,コンクリート型枠が,打設したコンクリートの
荷重を受け,曲げやせん断に対する強度を有することが示されているのであるから,
乙2刊行物記載のコンクリート型枠は,荷重を受け,曲げやせん断に対する強度を
有する点で,構造材と共通の性質を有しているといえる。
cこのように,建築用集成材において,力学的特性が異なる材を交互に積層す
ることは,従来から周知の技術であるといえるから,周知例1に記載された周知の
事項を引用発明に適用して,木材である木製ラミナの一部を竹材に替えるに当たり,
力学的特性が異なる板である木製ラミナと竹材とを交互に積層し,引き並べ方向に
よって力学的特性が異なる竹材同士をその引き並べ方向を互い違いとなるように積
層するとの具体的技術は,それぞれ,当業者が容易に採用し得たことである。
(2)原告らの主張(2)に対し
ア周知例2には,竹本来の円筒形状から強制して製造された展開竹平板に関し,
通常の環境条件では内皮側の割れ広がりが進行する一方,割れ筋をなくす方向に当
たる内皮側への反りは生じにくいことが開示されているのであって,原告らが主張
するような「平板状に成形する際に生じる割れ目をなくすようにする」との点につ
いては,何ら記載されていない。
イ展開竹平板を積層する際に積層面に空隙が存在し得ることは,当業者にとっ
て明らかな事項である。実際,本願明細書においても,成形に要する時間を短縮す
るために採用した成型方法によって,結果的に割れ目が生じることが示されている
のであるから,本願補正発明の積層面に空隙が存在する点も,自明の事項の範囲内
のものであるといえる。
ウ建築用材料において空隙を設けることにより遮音及び断熱効果が生じること
は,周知の事項である。
エ以上のとおり,周知例2に記載された周知の物(割れ筋を有する竹材)を積
層する際に,積層面に空隙が存することとなり,これによって,遮音及び断熱効果
が生じることは,当業者であれば予測できる程度のことであるというべきである。
オ原告らは,甲6書面に基づき,本願補正発明の構造(エアスペースの存在)
及び効果(温度変化への対応)に関する主張をするが,同書面の1∼2頁に記載さ
れた構造用集成材は,本願補正発明の要旨及び本願明細書の記載に照らし,本願補
正発明の構造用集成材に相当するものということはできないし,その効果に係る主
張も,本願明細書の記載に基づかないものであり,失当である。
(3)原告らの主張(3)に対し
ア引用例に,積層材において,化粧,すなわち,美観を考慮して最外層の板材
を選択することが開示されているように,単板と竹材とから美観を考慮して最外層
の板材を選択することは,当業者が適宜なし得ることであって,その作用効果も,
当業者が予測できる程度のものというべきである。
イ乙1刊行物に,竹材の欠裂しやすい欠点を防止する際に木材を用いることが
開示されているように,木材によって竹材を補強することは,従来から周知の技術
であるところ,一般に,曲げ応力が材の最外側面において最大となることも,当業
者にとって明らかであるから,強度向上のために積層材の最外層を単板とすること
は,当業者が容易になし得ることであって,その作用効果も,当業者が予測できる
程度のものというべきである。
ウしたがって,集成材の最外側面の板材として単板を選択することは,当業者
が適宜なし得た設計的事項であるといえる。
(4)原告らの主張(4)に対し
ア上記のとおり,木材によって竹材を補強することは従来から周知の技術であ
り,また,竹材が寸法安定性に優れることは竹材自体が有する性質として広く知ら
れているから,原告らの主張(4)ア(ア)の効果は,当業者が予測できる程度のもので
ある。
イ割竹を高温かつ高圧の蒸気でのプレスにより平板状に成形することは従来か
ら周知の技術であって,高温かつ高圧の加工によって殺菌及び油抜きが行われ,そ
れによって生産工程が簡略化されコストが低減されることも当業者にとって自明の
事項であるから,原告らの主張(4)ア(イ)の効果は,当業者が予測できる程度のもの
である。
ウ上記のとおり,割れ筋を有する竹材を積層する際に積層面に空隙が存するこ
とは自明といえ,建築用材料において空隙を設けることにより遮音及び断熱効果が
生じることは周知の事項であるから,原告らの主張(4)ア(ウ)の効果は,当業者であ
れば,予測できる程度のものである。
エ上記のとおり,木材によって竹材を補強することは従来から周知の技術であ
って,曲げ応力が材の最外側面において最大となることも当業者にとって明らかで
あるから,単板又は構造用合板を最外側面に位置させることによって強度が向上す
ること,そして,この強度の向上によって,結果として耐震強度も向上すること
(原告らの主張(4)ア(エ))は,当業者であれば予測できる程度のものである(なお,
本願明細書には,耐震強度が向上するという効果についての記載はない。)。
オ以上のとおりであるから,本願補正発明の作用効果は,引用発明及び周知技
術から当業者が予測できる範囲のものであるといえる。
カ原告らは,甲7報告書に基づき,本願補正発明の強度についての主張をする
が,同報告書に記載された竹ボードは,本願補正発明の要旨に照らし,本願補正発
明の構造用集成材ではないし,また,試験の方法をみても,厚さが45mmの竹ボ
ードと厚さが28mmの合板とを対象としており,その強度を単純に比較すること
はできないほか,本願明細書に記載されているように竹材のみを積層したものを比
較の対象としておらず,結局,同報告書に記載された試験結果をもって,強度に係
る本願補正発明の効果が顕著であるということはできない。
なお,仮に,甲7報告書に記載された結果から,本願補正発明の構造用集成材の
強度が推測できるとしても,これは,竹材自体が有する周知の物理的性質によるも
のであって,当業者が当然予測できる程度のものであるというべきである。
第4当裁判所の判断(相違点についての判断の誤りについて)
1各刊行物の記載
(1)引用例には,次の各記載がある。
ア「実用新案登録請求の範囲
木造建築物の梁や柱等の構造部材として用いられる構造用集成材であって,複数の木製ラミ
ナが集成接着されてなるラミナ積層体の縦断層内に,炭素繊維等の高強度繊維もしくは高剛性
繊維の長繊維をそのラミナ積層体の周方向に沿わせた状態でラミナ積層体の全長にわたって配
し,それら長繊維をラミナ間に挟み込んで接着してなることを特徴とする構造用集成材。」
(昭和63年7月19日付手続補正書の別紙部分)
イ「この考案は,・・・小断面であっても充分な剪断特性を有し,梁や柱等の構造部材とし
て用いて好適な構造用集成材を提供することを目的としている。」(2頁11∼14行)
ウ「この考案の集成材は,ラミナ積層体の周方向に沿って配された高強度繊維もしくは高剛
性繊維の長繊維によって剪断ひび割れの発生およびその進展が阻止され,したがって剪断特性
が向上したものとなる。」(3頁5∼8行,上記手続補正書2頁9∼10行)
エ「・・・第1実施例においては・・・たとえば第4図・・・に示すような変形例が考えら
れる。すなわち,第4図に示す集成材A2におけるラミナ積層体2は上下に積層したラミナ1
の両側面に燃えしろおよび化粧を兼ねたラミナ1a,1bを接着するようにしたもの・・・で
ある。」(5頁20行∼6頁13行,上記手続補正書2頁13∼14行)
オ「・・・第2実施例の集成材Bは,第1実施例の場合と同様に梁として用いられるもので
あるが,この第2実施例におけるラミナ積層体10は,第8図,第9図に示されるように,複
数枚・・・のラミナ11が上下に積層されてなるコア部12の外側に,化粧と燃えしろを兼ね
たラミナ13がそれぞれ接着されたものとなっている。」(8頁9∼16行)
カ「・・・第3実施例の集成材Cは柱として用いられるものであって,この集成材Cにおけ
るラミナ積層体20は,第13図に示されるように,複数枚・・・のラミナ21が集成接着さ
れてなるコア部22の外側に化粧と燃えしろを兼ねたラミナ23が接着されたものとなって・
・・いる。」(11頁10∼18行)
(2)周知例1(発明の名称・「竹製合板及びその製造方法」)には,次の各記
載がある。
ア「【特許請求の範囲】
【請求項1】湯中に浸漬しプレスして平板状に成形してなる複数の割竹2を平面状に引き並
べた状態下でその割竹2の引き並べ方向を互い違いとなるように三層或は適宜数重合積層し,
接着剤を介して圧着一体化してなることを特徴とする竹製合板。」(2頁1欄1∼6行)
イ「木材の代替材として,極めて生育が旺盛にして短期間で伐採し得て自然環境の破壊に繋
がるおそれの極めて少ない竹を素材となし,建築材等への使用を積極的に推進することが望ま
れるが,従来にあっては,丸竹や割裂き竹をそのまま使用するものであって,木材の代替とし
ての用途は限られたものに過ぎなかった。」(段落【0003】)
ウ「【発明が解決しようとする課題】本発明は,叙上の観点から竹材の用途の拡大を企図し
たものであり,木材の代替として建築材,家具材その他広範囲の用途に供し得る竹製合板及び
その製造方法を提供することを目的とするものである。」(段落【0004】)
エ「・・・平板状に変形させた割竹2を引き並べ方向を互い違いとなるように接着剤を介し
て適宜数重合積層し圧着一体化することで,強度に優れた竹製合板を得ることができる。」
(段落【0007】)
オ「・・・成形された複数の帯板状の割竹2を,第7図に示す如く,平面状に引き並べた状
態下で上下方向に互い違いに三層或は適宜数重合積層し,エポキシ樹脂系接着剤その他の耐水
性に優れた適宜の接着剤を用いて圧着一体化する。」(段落【0012】)
カ「接着剤硬化の後,必要に応じて表面を研磨加工し,適宜な表面塗装を施す等の仕上げ加
工を施し,所要寸法にチップソーを用いて切断して強度に優れた竹製合板を成形完成すること
ができる。」(段落【0015】)
キ「【発明の効果】本発明は,・・・割竹を素材として用いて強度に優れた合板を成形する
ことができ,木板の代替材として建築材,家具材その他広範囲の用途に供することができ,極
めて有用である。」(段落【0017】)
また,図7には,帯板状の割竹2(4枚)を平面状に引き並べた状態のもの合計
3層が,引き並べ方向が互い違いとなるように積層接着され,一体化された様子が
示されている。
(3)周知例2(発明の名称・「展開竹平板加工製品及びその製造方法」)には,
次の各記載がある。
ア「【産業上の利用分野】本発明は,竹材の有効利用と用途拡大のために,展開竹平板4を
利用する場合において,竹の特徴とする材観と材質を損なわず,狂いのない安定した品質の建
築材や家具等の素材として,効果的に製造できる展開竹平板加工製品及びその製造方法に関す
るものである。」(段落【0001】)
イ「・・・図2に示すように,竹本来の円筒形状から強制して製造された展開竹平板4の・
・・内皮側2には,肉眼で観測しにくい微細な割れ筋5が数多く点在している。」(段落【0
007】)
ウ「・・・製品として利用する場合,竹平板10の全面を塗料により覆うか,内皮側2を接
着剤12により接着・積層し,固定することで,内皮側2の割れ広がりを防止できる。
さらに,竹平板10を接着する相手の基材が木材14の場合,木材14の木裏側15と竹平
板10の内皮側2を接着することで,木材14の木表側16への反り17という欠点を抑制で
きる。」(段落【0011】∼【0012】)
エ「・・・展開竹平板4を乾燥後,切削仕上げした竹平板10は,・・・内皮側2に肉眼で
観測しにくい微細な割れ筋5が数多く存在している。
このため,・・・通常の環境条件での竹平板10は,内皮側2の割れ広がりの進行のための
表皮側への反り8が必ず生じてしまうことが判明した。また,その物性を調べてみると,・・
・内皮側への反り11は生じ難い特徴がある。」(段落【0022】∼【0023】)
オ「・・・図6で示すように,竹平板10を接着する相手基材が木材14の場合では,竹平
板10の内皮側2に木材の木裏側15を接着すると,木材の欠点でもある木表側16への反り
17を,竹平板10が内皮側へ反り難いことで抑制することができ,その結果,表面が強靱で
狂い難い複合木竹材料ができる。」(段落【0027】)
カ「【発明の効果】・・・本発明により,強制的に展開して製造された展開竹平板の特質に
よる・・・内皮側の割れの進行という欠点を克服し,製造コストの低減と竹の魅力ある特徴を
生かした展開竹平板加工製品の製造が,効果的に実現できる。これにより,身近で豊富な竹材
が魅力ある材料として見直され,大型家具,フローリング,壁面材,建具,その他の建築部材
等,広範囲な商品に利用でき・・・る。」(段落【0029】)
また,図2∼6には,いずれも,竹平板10の内皮側2に,割れ筋5が存在する
様子が示されている。さらに,図6には,1層の竹平板10と1層の木材14が,
割れ筋5の存在する内皮側2及び木材14の木裏側15を内側にして接着された状
態が示されている。
(4)乙1刊行物(発明の名称・「竹材製合板ノ製造方法」)には,次の各記載
がある(なお,送り仮名等を平仮名に,旧字体を新字体にそれぞれ改めたほか,便
宜上,適宜,句読点を補った。)。
ア「・・・竹材の表皮に近き部分に於て断面梯状の扁平板を截取発明の性質及目的の要領
して基本材料板を設け,該材料板の多数のものを交互に表裏転換して並列し,或は,該板の各
中間に同様形状の木板を表裏転換して並列し,斯く並列せる多数の板を夫々その両側縁の斜面
部に於て合成樹脂等の防水性接着剤を用ひ互に重合固着して所要大の扁平板を設け,次に,上
記の如く構成せる数個の扁平板を縦横互に方向を異にする如く上下に重合し,或は,該板の各
中間に同様形状の扁平木板を竹材扁平板と縦横互に方向を異にする如く挟入重合し,前記同様
の接着剤を用ひて相互を一体的に固着せしむる全工程の結合を特徴とする竹材製合板の製造方
法に係り,その目的とする所は,・・・強靱性,歪曲防止性及弾力性を有する所望大の重要資
料となし得べき板材を得,又,該板材の加工に依る任意大の優良なる棒材或は柱等を得るに在
り。」(1頁上欄左から13行∼下欄左から15行)
イ「・・・第図は,上記材料板を並列せる状態の該材料板の斜面図,第図図面の略解二三
は,該材料板を相互に固着して任意大の板を構成せる状態の該板斜面図,第図は,本発明に四
依り構成せられたる竹材製合板の一部斜面図,第図以下は,本発明製品たる竹材製合板を加五
工して得べき各種製品の一例を示すものにして,第図は,円棒材の斜面図,第図は,角柱五六
の斜面図を示す。」(1頁下欄左から14∼4行)
ウ「本発明は,・・・大さに限定なき所望大の板を作り,該板の強靱発明の詳細なる説明
性を利用して各種の工作機械の台板或は航空機用又は船舶用床板等に使用し,又,斯る所望大
の板を適当に截断形成して角柱又は円柱或は棒を作り,その強靱性を利用して在来の此種金属
製品の代用品たらしめんとする竹材合板若くは竹木材合板の製造法にして,本発明の実施工程
を明瞭ならしむる為め,図面を対照して詳説せんとす。」(1頁下欄左から3行∼2頁上欄1
1行)
エ「・・・扁平板の軽量なるものを必要とする如き場合或は大幅の扁平木板を必要とし,然
も,斯る板の欠裂し易き欠点を防止し得る如き板を得んとする場合,本発明基本材料板(イ)の
相互の中間に木製板を挟入する場合あるものにして,斯る場合は,該木製板を基本材料板(イ)
と同形状に削製し,材料板(イ)の継着する場合と同様,表裏転換して,材料板(イ)とその両端斜
状部に於て互に重合糊着し,依つて,前記必要に適合すべき扁平板を同工程により構成し得る
ものとす。
本発明第三工程に於ては,前記工程に於て構成せられたる扁平板(ロ)の任意数量を縦横互に方
向を異にする如く上下に重合し,前記同様の合成樹脂等の防水性接着剤を用ひて一体的に貼着
し,任意大の厚さを有する本発明製品(ハ)を完成するものにして,本工程に於ても,前工程同
様,軽量又は厚板木材の必要上,竹材扁平板の各中間に同形状の扁平木材若くは前工程により
構成する一種の竹木併合の扁平板を挟入貼着する場合あるものにして,此の場合に於ても,上
下の板を縦横互に方向を異にして一体的に重合固着することに差異なく,斯くして,本発明工
程を終るものとす。
本発明は,叙上の如き製造方法なるが故,素質強靱にして,長さ,幅及厚さに制限なき所望の
大さを有する板材を得るを以て,前記の如く,工作機械の台板或は艦船ノ床板等に使用し得ら
れ,・・・更に,該板材(ハ)を加工して,第図及第図に示す如き各種の柱或は棒材等に使五六
用し,本発明製品の強靱性,基本板材相互の安全なる固着性,歪曲防止性及防腐防触性等によ
る不変なる優良性を有効に利用し得らる。」(3頁上欄13行∼4頁上欄2行)
また,第四図ないし第六図には,いずれも,4枚の扁平板(ロ)が順次縦横の方向
を異にするように上下に重合固着された状態が示されている。
(5)乙2刊行物(発明の名称・「コンクリート型枠」)には,次の各記載があ
る。
ア「【特許請求の範囲】
【請求項1】第1の部材及び第2の部材を有し,それら第1の部材及び第2の部材を交互に
積層接着した板状部材から成る堰板を有するコンクリート型枠において,前記第1の部材を針
葉樹材のチップをプレス成型した部材から形成し,前記第2の部材を針葉樹材の角材を並列に
集成接着して成る集成材から形成し,少なくとも2つの第2の部材をその集成方向が互いに相
違する形で積層接着して設け,また,コンクリートと接触する前記堰板の表面に,コーティン
グを施して構成したコンクリート型枠。」(2頁1欄1∼11行)
イ「【作用】・・・本発明は,第1の部材(13,15,17)を針葉樹材のチップをプレ
ス成型した厚みのある層から構成することにより,断面2次モーメントが大きくとれ曲げ剛性
を高めるように作用する。また,第2の部材(14,16)を集成材の角材(19)の組合せ
方向を相違させることにより剪断方向の許容応力を大きくするように作用する。」(段落【0
007】)
ウ「コンクリート接触板10a,側板10b,10cは,図2に示すように,5枚の単板を
組合せた5層の合板3から形成されており,合板3の最上層(図中上方)には,表面材13が
設けられている。表面材13は,針葉樹材のチップをプレス成型等した板状の部材から形成さ
れ,表面材13の下方(図中下方)には,集成材から成る心材14が表面材13の図中下面に
形成された接合面13bと心材14の図中上面に形成された接合面14aとを接着剤等により
接合する形で設けられている。心材14は,針葉樹材を3mm角程度の角材19に加工したも
のを,図中矢印A,B方向を該角材19の長手方向とし,矢印A,B方向と直角な方向である
図中矢印C,D方向に接着剤等で張り合わせて形成され,心材14の下方(図中下方)には,
中間材15が心材14の図中下面に形成された接合面14bと中間材15の図中上面に形成さ
れた接合面15aとを接着剤等により接合する形で設けられている。中間材15は,針葉樹材
のチップをプレス成型等した板状の部材から形成され,中間材15の下方(図中下方)には,
集成材から成る心材16が中間材15の接合面15bと心材16の接合面16aとを接着剤等
により接合する形で設けられている。心材16は,前記心材14の角材19の組合せ方向と略
直交する形で角材19を図中矢印C,D方向を該角材19の長手方向とし図中矢印A,B方向
に接着剤等で張り合わせて形成され,心材16の下方(図中下方)には,表面材17が心材1
6の接合面16bと表面材17の接合面17aとを接着剤等により接合する形で設けられてい
る。表面材17は,針葉樹材のチップをプレス成型等した板状の部材から形成されている。」
(段落【0010】)
エ「・・・コンクリート型枠1の受ける荷重は,コンクリート接触板10aにより受圧され
るが,コンクリート接触板10aを形成する合板3は,針葉樹材のチップをプレス成型した表
面材13,17及び中間材15等の複数の厚みのある層から構成することにより断面2次モー
メントが大きくとれ曲げ剛性を高めたので,堰板10の撓みが小さく該荷重を堰板10全体に
ほぼ均等に分散する。また,該分散された荷重は,コンクリート接触板10aの剪断方向に作
用するが,集成材から成る心材14,16の角材19の組合せ方向を略直交させることにより
剪断方向の許容応力を大きくしたので,前記荷重に耐え得る。」(段落【0011】)
オ「上述の実施例では,針葉樹材のチップをプレス成型した表面材13,17及び中間材1
5を設けたが,コンクリート型枠に必要な曲げ剛性が得ることができれば何層でも良く,例え
ば,中間材を2層以上設けても良い。また,集成材から成る心材14,16は,角材19の組
合せ方向を略直交させて2層設けたが,コンクリート型枠に必要な剪断方向の応力が得ること
ができれば何層でも良く,例えば,心材の層を3層以上設けても良い。」(段落【001
2】)
また,図2には,上から順に,表面材13,複数本の角材19を図中A,B方向
を長手方向として並べ張り合わせた心材14,中間材15,複数本の角材19を図
中C,D方向を長手方向として並べ張り合わせた心材16,表面材13が積層接合
される様子が示されている。
2原告らの主張(1)について
(1)原告らは,審決の「竹材は,木材に比して安価であること,及び,繊維方
向に割裂性を有する等の異方性が顕著であることが広く知られていて,引き並べ方
向を順次直交させて積層して木材の代替材として用いることが普通に行われている
から(例えば,周知例1参照),引用発明の集成材において,木材である製材から
なる単板の一部を竹材に替えてこれらを交互に複数積層し,竹材の引き並べ方向を
順次直交させることは,当業者が容易になし得たものである。」との判断部分(以
下「審決の判断部分1」という。)が誤りであることの理由として,本願補正発明
が「構造用集成材のコストが高いこと,構造用集成材の温度変化に対する対応が十
分でなかったこと」との課題に着想したものであり,引用発明とはその課題を異に
するものであるところ,本願補正発明の上記着想は新規のものであり,引用例はこ
のような課題を示唆するものではない旨主張する。
ア確かに,本願明細書(段落【0003】∼【0004】)によれば,本願補
正発明は,「構造用集成材のコストが高いこと,構造用集成材の温度変化に対する
対応が十分でなかったこと」を課題とするものであり,他方,上記1(1)のとおり,
引用発明は,「小断面であっても充分な剪断特性を有し,梁や柱等の構造部材とし
て用いて好適な構造用集成材を提供すること」を目的とするものであるから,両者
は,その課題を異にするといえる。
イしかしながら,コストの低減を図ることが,構造用集成材を含め,およそ建
築用部材一般についての課題であることは,例を挙げるまでもなく明らかである
(なお,上記1(3)のとおり,周知例2にも,「本発明により,・・・製造コスト
の低減・・・が,効果的に実現できる。」との記載がある。)。そして,本願明細
書にも,「・・・竹材は一般的に木材よりもコストが安いので,・・・。」との記
載(段落【0006】等)があるとおり,竹材が木材と比較して安価であることは,
広く知られているところである。
ウまた,「構造用集成材の温度変化に対する対応」についても,これが,およ
そ建築用部材一般についての課題であることは,例を挙げるまでもなく明らかであ
る。そして,本願明細書にも,「・・・竹材は一般的な木材よりも温度変化に強い
ことから,・・・。」との記載(段落【0006】等)があるとおり,竹材が一般
的な木材より温度変化に強いことも,広く知られているところである。
エそうすると,本願補正発明の上記各課題は,当業者にとって格別新規のもの
であるということはできず,むしろ,当業者にとって周知の課題というべきである
から,引用例にこの課題の開示がないとしても,そのことにより,審決の判断部分
1に係る判断が誤りとなるものではない。
(2)原告らは,審決の判断部分1が誤りであることの理由として,本願補正発
明が,「積層の一部に竹材を用いること」,「木板と竹材を用いること」,「木板
と竹材とを交互に積層すること」,「交互にある材の引き並べ方向を順次直交させ
ること」など,その具体的技術において,ことごとく引用発明と相違するものであ
って,引用例には,これらの技術についての開示も示唆もない旨主張する。
アしかしながら,上記1(4)のとおり,乙1刊行物には,多数の基本材料板(イ)
を並列して所要大の扁平板(ロ)を設け,次いで,数枚の扁平板(ロ)を上下に重合固着
して竹材製合板(本発明製品(ハ))を製造するとの技術において,
(ア)扁平板(ロ)の構成につき,多数の基本材料板(イ)をすべて竹材とする場合の
みならず,竹材である基本材料板(イ)相互の各間に,これと同様の形状の木板を挟
入して扁平板(ロ)(一種の「竹木併合の扁平板」)を設けること,
(イ)扁平板(ロ)の重合接着につき,数枚の扁平板(ロ)をすべて竹材のみから構成
されるものとする場合のみならず,竹材のみから構成される扁平板(ロ)相互の各間
に,これと同様の形状の扁平木板又は上記(ア)の竹木併合の扁平板を挟入し,これ
らを重合接着すること,
(ウ)扁平板(ロ)の重合接着につき,数枚の扁平板(ロ)を縦横互いに方向を異にす
るように上下に重合すること,
が記載され,又は図示されているのであるから,乙1刊行物には,「積層の一部に
竹材を用いる」,「木材と竹材を用いる」,「木材と竹材とを交互に積層する」,
「交互にある材の引き並べ方向を順次直交させる」との,原告らが主張する本願補
正発明における上記各具体的技術がすべて開示されているのみならず,「木材と竹
材とを交互に積層する」場合において,木板と竹材とを積層させた組合せを,複数
組積層させた態様が示されていることをも認めることができる。
イ加えて,上記1(2)のとおり,周知例1には,成形された帯板状の割竹数枚
を平面状に引き並べた状態のもの合計3層又は適宜数を,引き並べ方向が互い違い
となるように重合積層するとの記載又は図示があるのであるから,周知例1には,
「交互にある材の引き並べ方向を順次直交させる」との技術が開示されており,ま
た,上記1(3)のとおり,周知例2には,竹平板と木材とを接着して複合木竹材料
を製造することが記載され,又は図示されているのであるから,周知例2には,
「積層の一部に竹材を用いる」,「木材と竹材を用いる」との各技術が開示されて
おり,さらに,上記1(5)のとおり,乙2刊行物には,表面材13,心材14,中
間材15,心材16,表面材17を順次積層接合してコンクリート接触板等を形成
するに際し,心材14及び16を構成する角材の引き並べ方向が略直交するような
形でこれらの心材を並べることが記載され,又は図示されているのであるから,乙
2刊行物には,「交互にある材の引き並べ方向を順次直交させる」との技術が開示
されているといえる。
ウそうすると,原告らの主張に係る本願補正発明の「積層の一部に竹材を用い
ること」,「木板と竹材を用いること」,「木板と竹材とを交互に積層すること」,
「交互にある材の引き並べ方向を順次直交させること」との各技術事項は,本件出
願に係る優先権主張日において,いずれも従来周知の技術であったというべきであ
るから,引用例にこれらの技術事項が開示されていないとしても,そのことにより,
審決の判断部分1に係る判断が誤りとなるものではない。
(3)ア原告らは,周知例1により認められる周知技術は,木材を使用しないこ
とに技術的意義があり,竹材と木材とを組み合わせて使用することとは無縁である
から,引用発明と上記周知技術とを組み合わせる動機付けがないとか,周知例1か
ら「木板と竹材とを交互に積層すること」を導き出すことはできないと主張するが,
「木材と竹材を用いること」,「木板と竹材とを交互に積層すること」が,いずれ
も従来周知の技術であることは,上記説示のとおりである(審決による周知例1の
引用は,「材の引き並べ方向を順次直交させて積層する」ことが周知であることを
示すためであって,「木材と竹材を用いること」や「木板と竹材とを交互に積層す
ること」が周知であること自体を,周知例1によって示そうとしたものでないこと
は,審決の説示により明らかである。)。また,原告らは,周知例2には,本願補
正発明におけるような割竹と単板又は合板の複数組の積層体とするとの概念は含ま
れていないと主張するが,上記(2)アのとおり,乙1刊行物には,「木板と竹材と
を交互に積層する」場合に,竹材と木板の複数組の積層体の態様とすることも示さ
れているのであって,このことも周知であると認めることができるから,原告らの
上記主張も失当である。
イ原告らは,本願補正発明が,力学的に曲げ・せん断・圧縮などを受けること
を目的とし,建築構造用床材・壁材・屋根面材に限定使用され,地震・風力などの
外力に耐え,鉛直荷重にも耐える構造材であるのに対し,被告が援用する周知例等
に開示されているのは,これとは異なる非構造材である旨主張する。
しかしながら,上記1(2)ないし(4)のとおり,周知例1には,「【発明の効果】
本発明は,・・・割竹を素材として用いて強度に優れた合板を成形することができ,
木板の代替材として建築材,家具材その他広範囲の用途に供することができ,極め
て有用である。」との記載が,周知例2には,「【発明の効果】・・・本発明によ
り,強制的に展開して製造された展開竹平板の特質による・・・内皮側の割れの進
行という欠点を克服し,製造コストの低減と竹の魅力ある特徴を生かした展開竹平
板加工製品の製造が,効果的に実現できる。これにより,身近で豊富な竹材が魅力
ある材料として見直され,大型家具,フローリング,壁面材,建具,その他の建築
部材等,広範囲な商品に利用でき・・・る。」との記載が,乙1刊行物には,「本
発明は,・・・大さに限定なき所望大の板を作り,該板の強靱性を利用して各種の
工作機械の台板或は航空機用又は船舶用床板等に使用し,又,斯る所望大の板を適
当に截断形成して角柱又は円柱或は棒を作り,その強靱性を利用して在来の此種金
属製品の代用品たらしめんとする竹材合板若くは竹木材合板の製造法にして,・・
・。」,「本発明は,・・・素質強靱にして,長さ,幅及厚さに制限なき所望の大
さを有する板材を得るを以て,前記の如く,工作機械の台板或は艦船ノ床板等に使
用し得られ,・・・更に,該板材(ハ)を加工して,第図及第図に示す如き各種五六
の柱或は棒材等に使用し,本発明製品の強靱性,基本板材相互の安全なる固着性,
歪曲防止性及防腐防触性等による不変なる優良性を有効に利用し得らる。」との各
記載がそれぞれあるものの,これらが「非構造材」であるとの記載はなく,また,
これらが「力学的に曲げ・せん断・圧縮などを受けること」のない部材としてのみ
用いられるとの記載もない(むしろ,上記各記載によれば,そのような「曲げ」等
を受ける部材としても用いられるものと認められる。)から,これらの周知例によ
って認められる上記各周知技術が,非構造材のみについて適用されるということは
できず,原告らの上記主張を採用することはできない。
ウ原告らは,乙2刊行物におけるコンクリート型枠の一方の部材はチップ成型
品であり,強度があまり十分でないことから,もう一方の部材としての角材の方向
を互いに異なるように並べたものであって,本願補正発明のような構造用集成材の
開発にとって,乙2刊行物に示されるようなコンクリート型枠の技術事項は参考と
ならない旨主張するが,上記1(5)のとおり,乙2刊行物には,「・・・コンクリ
ート型枠1の受ける荷重は,コンクリート接触板10aにより受圧されるが,コン
クリート接触板10aを形成する合板3は,針葉樹材のチップをプレス成型した表
面材13,17及び中間材15等の複数の厚みのある層から構成することにより断
面2次モーメントが大きくとれ曲げ剛性を高めたので,堰板10の撓みが小さく該
荷重を堰板10全体にほぼ均等に分散する。また,該分散された荷重は,コンクリ
ート接触板10aの剪断方向に作用するが,集成材から成る心材14,16の角材
19の組合せ方向を略直交させることにより剪断方向の許容応力を大きくしたので,
前記荷重に耐え得る。」との記載があり,荷重を受け,曲げやせん断に対する強度
を有する点で,乙2刊行物に記載されたコンクリート型枠は,建築構造材と共通し
た性質を有しているといえるのであるから,原告らの上記主張を採用することはで
きない。
(4)以上のとおりであるから,審決の判断部分1の誤りをいう原告らの主張(1)
は,理由がない。
3原告らの主張(2)について
(1)原告らは,「その際に(判決注:引用発明の集成材において,単板の一部
を竹材に替えて,これらを交互に複数積層し,竹材の引き並べ方向を順次直交させ
る際に),高温かつ高圧の蒸気でのプレスにより平板状に成形した割竹は竹材とし
て従来周知のものであるから,竹材としてこのような割竹を用いることに格別の困
難性は認められない。割竹を平板状に成形する際に割れ目が生じることは従来から
広く知られていることにすぎず(例えば,周知例2(特に段落【0007】)参
照),この割竹の割れ目によって積層面に空隙が存するようにすることは,自明な
事項であるといえる。」との審決の判断部分(以下「審決の判断部分2」とい
う。)が誤りであることの理由として,本願補正発明は,遮音効果及び断熱効果を
得るため,割竹の割れ目を積極的に利用しようとするものであるのに対し,周知例
2は,割竹の割れ目をなくすようにするものであって,割竹の割れ目によって積層
面に空隙が存するようにすることを示唆するものではない旨主張する。
アそこで,検討するに,上記1(3)のとおり,周知例2には,「図2に示すよ
うに,竹本来の円筒形状から強制して製造された展開竹平板4の・・・内皮側2に
は,肉眼で観測しにくい微細な割れ筋5が数多く点在している。」,「製品として
利用する場合,竹平板10の全面を塗料により覆うか,内皮側2を接着剤12によ
り接着・積層し,固定することで,内皮側2の割れ広がりを防止できる。」,「展
開竹平板4を乾燥後,切削仕上げした竹平板10は,・・・内皮側2に肉眼で観測
しにくい微細な割れ筋5が数多く存在している。」,「このため,・・・通常の環
境条件での竹平板10は,内皮側2の割れ広がりの進行のための表皮側への反り8
が必ず生じてしまうことが判明した。また,その物性を調べてみると,・・・内皮
側への反り11は生じ難い特徴がある。」,「【発明の効果】・・・本発明により,
強制的に展開して製造された展開竹平板の特質による・・・内皮側の割れの進行と
いう欠点を克服し,・・・。」との各記載があるほか,図2∼6には,いずれも,
竹平板10の内皮側2に,割れ筋5が存在する様子が示されている。
イ周知例2の上記各記載及び図示によれば,周知例2は,円筒形状の竹を強制
的に展開竹平板とした場合に生じる「割れ筋」の広がりが進行することについては,
好ましくないこととして,これを防止するための技術を開示するものであるが,他
方で,展開竹平板を製造する場合に「割れ筋」が生じること及び物性的にみてこれ
が残存しやすいこと自体については,これを所与の前提とするものであるといえる。
そうすると,展開竹平板に「割れ筋」が生じ,これが残存しやすいものであるこ
とは,当業者にとって周知の事項であったといえるところ,本願明細書には,「割
れ目が空隙として存する」旨の定性的な記載(段落【0005】等)はあるが,ど
の程度の「割れ目」をもって「空隙」といえるのかについての定量的な記載は一切
みられないことに加え,本願明細書に,「上記プレス作業を長時間かけて行うこと
によってこの割れ目を生じないようにすることもできるが,ここでは成形に要する
時間を短縮するため,割れ目を生じる成型方法をとっている。」との記載(段落
【0014】)があることをも併せ考慮すると,仮に,周知例2に開示された「割
れ筋」が本願補正発明にいう「空隙」(ただし,上記のとおり,本願明細書上,そ
の定量的特性は不明である。)といえる程度のものでないとしても,上記のとおり,
周知の事項である展開竹平板に生じた「割れ筋」を,本願補正発明にいう「空隙」
といえる程度のものとすることは,成型方法の選択等により,当業者が,格別の困
難を伴わずに適宜行い得たものと推認することができる。
ウそうすると,周知例2が,割竹の「割れ目」によって積層面に「空隙」が存
するようにすることを示唆するものでないとしても,そのことによって,審決の判
断部分2に係る判断が誤りとなるものではない。
エなお,原告らは,周知例2が,割竹の「割れ目」をなくすようにするもので
ある旨主張するが,上記説示のとおり,周知例2は,展開竹平板の「割れ筋」の広
がりの進行を防止しようとする技術を開示するものではあるものの,これを「なく
すようにする」との技術を開示するものではないから,原告らの上記主張は,失当
である。
(2)原告らは,審決の判断部分2が誤りであることの理由として,仮に,積層
面に空隙が存するようにすることが自明であるとしても,従来技術が,この空隙を
なくそうとしてきたのに対し,本願補正発明は,割竹の割れ目が空隙を形成し,こ
の空隙が遮音及び断熱にも効果があるとの技術思想を初めて提案し,この空隙を積
極的に利用しようとするものである旨主張する。
しかしながら,建築用部材に空隙を設けることにより,遮音及び断熱の効果が生
じること自体は,例を挙げるまでもなく周知の事柄であるから(現に,本願明細書
にも,当該効果に関し,「積層面に前記割れ目が空隙として存するので,断熱,遮
音効果が高い」との記載(段落【0019】,【0022】)があるのみであり,
特段の根拠を示すことなく,積層面に空隙を設けることにより当該効果が生ずるも
のとしている。),積層面に空隙が存するようにすることが自明であるとすれば,
それを,遮音及び断熱の効果を生じさせるための「空隙」として利用することは,
当業者が,格別の困難を伴わず行い得たものと認めることができる。
したがって,原告らの上記主張を採用することはできない。
(3)原告らは,甲6書面のとおり,本願補正発明においては,割竹の間隔を空
けることによってエアスペースが形成され,これが温度変化への対応を十分にして
いる旨主張するが,当該エアスペースを形成するとの構成は,本願補正発明の要旨
に何ら規定がないから,原告らの上記主張は,発明の要旨に基づかないものとして,
失当である。
(4)以上によれば,審決の判断部分2の誤りをいう原告らの主張(2)は,理由が
ない。
4原告らの主張(3)について
原告らは,「・・・単板を集成材の最外側面に使用することは従来から行われて
いることであり,2種類の木板材を積層する際に,集成材の最外側面の板材として
単板を選択することは,当業者が適宜なし得た設計的事項であるといえる。」との
審決の判断部分(以下「審決の判断部分3」という。)が誤りであることの理由と
して,引用発明が,美観上の理由から,最外層の板材に化粧用材を用いているのに
対し,本願補正発明においては,強度上及び構造上の理由から,また,割竹による
空隙形成のために必須のものとして,最外層の板材に単板又は構造用合板を用いて
いるのであるから,両者には,機能,作用及び具体的技術において差異があるので
あり,このような場合に「適宜なし得た設計的事項」であるとするためには,それ
なりの動機付けを示す必要がある旨主張する。
(1)そこで,検討するに,上記1(4)のとおり,乙1刊行物には,「・・・扁平
板の軽量なるものを必要とする如き場合或は大幅の扁平木板を必要とし,然も,斯
る板の欠裂し易き欠点を防止し得る如き板を得んとする場合,本発明基本材料板
(イ)の相互の中間に木製板を挟入する場合あるものにして,・・・。」,「・・・
軽量又は厚板木材の必要上,竹材扁平板の各中間に同形状の扁平木材若くは前工程
により構成する一種の竹木併合の扁平板を挟入貼着する場合あるものにして,・・
・。」との各記載がある。これらの記載によれば,乙1刊行物には,竹材のみによ
り構成される扁平板や竹材製合板(本発明製品)については,その形状等によって
は,強度に問題がある場合があり,そのような場合には,竹材の一部に代えて木材
を用い,強度を高める旨の技術が開示されているといえるのであるから,そのよう
に,竹材の強度を向上させるために木材を用いることは,本件出願に係る優先権主
張日において,従来周知の技術であったものと認められる。
そして,一般に,建築用部材の最外側面において曲げ応力が最大となることは,
当業者にとって,自明の事柄であるといえるから,当該建築用部材が竹材を含むも
のである場合に,曲げ応力が最大となる部位である最外側面において,上記周知技
術を採用すること,すなわち,最外側面において竹材を用いず,木材を用いて強度
を向上させることは,当業者が,格別の困難なく行い得たというべきである(なお,
本願明細書にも,特段の根拠を示すことなく,「単板又は構造用合板が最外側面に
位置するので,外面に竹材がある場合に比べて強度が向上する」旨の記載(段落
【0019】,【0022】)があるのであるから,本願補正発明も,その強度を
向上させるため,最外側面に木材を用いることを,周知の技術として採用している
ものと見ることができる。)。
(2)原告らは,本願補正発明においては,構造上の理由から,また,割竹によ
る空隙形成のために必須のものとして,最外層の板材に単板又は構造用合板を用い
ている旨主張するが,ここでいう「構造上の理由」が,具体的に何を意味するのか
については,本願明細書を参照しても明らかではなく(仮に,強度の向上を意味す
るものとすれば,上記(1)のとおりである。),また,「割竹による空隙形成のた
めに必須」であるとの点は,本件補正後の請求項1の規定上,そのようにいうこと
はできず,発明の詳細な説明や図面の記載を参酌しても,そのことに変わりはない
(本件補正後の請求項1は,積層する際の平板上の割竹の上下方向(裏表)を規定
しておらず,発明の詳細な説明にもその点についての記載はないから,最外層の単
板又は構造用合板とこれに隣接する割竹とが,必ず空隙を形成するように積層され
なければならないということはできず,かえって,願書に添付された図2からは,
図中最下層の単板とこれに隣接する割竹層との間には,空隙が存在しないように読
み取れるところである。)。したがって,原告らの上記主張を採用することはでき
ない。
(3)以上によれば,本願補正発明において,最外側面の板材を単板又は構造用
合板とするとの構成を採用することは,当業者が適宜なし得た「設計的事項」に当
たるといえるか否かはともかく,少なくとも,当業者が周知技術に基づいて,格別
の困難なく行い得たものといえるから,結局,審決の判断部分3に係る判断に,審
決の結論に影響を及ぼすべき誤りはないというべきである。
5原告らの主張(4)について
原告らは,「・・・本願補正発明の作用効果も,引用発明及び周知技術から当業
者が予測できる範囲のものである。」との審決の判断部分(以下「審決の判断部分
4」という。)が誤りであることの理由として,本願補正発明は,引用発明に,周
知例1に記載された周知技術を適用しても得られない格別の効果を奏するものであ
り,これを,当業者が予測できる程度のものということはできない旨主張するので,
以下,検討する。
(1)「竹材のみを積層する場合よりも強度を向上させることができ,構造材と
しての使用を可能にし,また,竹材は一般的な木材よりも温度変化に強いことから,
構造材を温度変化に強いものとすることができる」との効果について
ア上記2(1)において説示したとおり,構造用集成材の温度変化に対する対応
が,およそ建築用部材一般についての課題であることは明らかであり,また,竹材
が一般的な木材より温度変化に強いことも,広く知られているところであるから,
「構造材を温度変化に強いものとすることができる」との効果は,当業者が予測可
能な範囲を超える格別顕著なものとはいえない。
イまた,上記4(1)において説示したとおり,竹材の強度を向上させるために
木材を用いることは,周知の技術であったものであるから,「竹材のみを積層する
場合よりも強度を向上させることができ,構造材としての使用を可能に」すること
ができるとの効果は,当業者が予測可能な範囲を超える格別顕著なものとはいえな
い。
(2)「高温かつ高圧の蒸気でのプレスにより平板状に成形した割竹を用いるこ
とで,割竹の殺菌及び油抜きの作業を割竹の成形作業と同時に行うことができ,生
産工程が簡略化され,平板状に成形した割竹を生産するためのコストが低減され
る」との効果について
ア審決は「高温かつ高圧の蒸気でのプレスにより平板状に成形した割竹は竹材
として従来周知のものであるから,竹材としてこのような割竹を用いることに格別
の困難性は認められない。」と判断したところ(審決の判断部分2),上記3のと
おり,原告らは,審決の判断部分2に関して,上記説示部分に続く「割れ目」につ
いての説示を争うものの,「高温かつ高圧の蒸気でのプレスにより平板状に成形し
た割竹は竹材として従来周知のものである」こと自体は争っていない。また,本願
明細書には,実施例に関し,「割竹2を高温かつ高圧の蒸気でプレスする。割竹2
は高温の蒸気により軟化し,高圧でのプレスにより円弧状から平板状に変形する。
そして割竹2が平板状に変形した時点で,高周波等により急速に乾燥させる。これ
により割竹2は,・・・割れ目を生じて平板状に成形される。」との記載(段落
【0014】)はあるが,「高温かつ高圧の蒸気でのプレス」に係る具体的方法や
条件(例えば,具体的な温度,圧力,時間等)については何らの記載もない。これ
らに加えて,蒸気を用いるものではないが,割竹を高温下でプレスすることにより
平板状に変形させることは,周知例1に記載されている(段落【0009】∼【0
010】)ことや,蒸気を用いて高温,高圧を形成することは,慣用的な技術手段
であったことを併せ考えれば,「高温かつ高圧の蒸気でのプレスにより平板状に成
形した割竹を用いること」は,本件出願に係る優先権主張日当時,原告らが,その
具体的方法等を本願明細書に記載するまでもない,従来周知の技術であったものと
推認することができる。
イそして,蒸気を用いた高温,高圧下で割竹のプレス加工をするとすれば,そ
の過程で,割竹の殺菌及び油抜きの作業も同時に果たせることは技術常識であると
いうべきであり,そうであれば,これらの作業に係る工程を省略し得るから,生産
工程が簡略化され,平板状に成形した割竹の生産コストが低減されることは自明の
ことである。
したがって,原告らが主張する上記効果は,当業者が予測可能な範囲を超える格
別顕著なものということはできない。
(3)「割れ目付きの平板状に成形した割竹を用い,平板状割竹と単板又は構造
用合板との積層面に割れ目が空隙として存するようにしたため,構造用集成材を壁
パネルとして使用した場合,比重が小さくスピーカーのウーハー板のように音を遮
断し(遮音効果),また,縦方向に並ぶ割竹の割れ目の空隙が空気流路を形成し,
断熱効果が生じ,したがって,木造建築物の構造用パネル等として極めて有用であ
る」との効果について
上記3(2)において説示したとおり,建築用部材の空隙を設けることにより,遮
音及び断熱の効果が生じることは,周知の事柄であり,そのような効果をもたらす
建築用部材が,木造建築物の構造用パネル等として極めて有用であることは,自明
であるから,原告らが主張する上記効果は,当業者が予測可能な範囲を超える格別
顕著なものとはいえない。
(4)「単板又は構造用合板を最外側面に位置させているため,外面に竹材があ
る場合に比して,強度,特に耐震強度が向上する」との効果について
ア上記4(1)において説示したとおり,竹材の強度を向上させるために木材を
用いることは,周知の技術であり,また,建築用部材の最外側面において曲げ応力
が最大となることは,当業者にとって自明の事柄であるといえるから,原告らが主
張する上記効果は,当業者が予測可能な範囲を超える格別顕著なものとはいえない。
イなお,原告らは,甲7報告書に,上記効果が顕著に表れている旨主張するが,
同報告書に係る曲げ試験に使用された「竹ボード」は,竹材5層を積層した上,そ
の最外側面に木材を使用したものであると認められ,これを,本願補正発明の実施
品であるということはできないばかりか,試験の方法をみても,厚さ45mmの
「竹ボード」と厚さ28mmの合板とを比較するというものであるほか,上記効果
にいうように最外側面に竹材がある場合と最外側面に単板又は構造用合板がある場
合とを比較するものでもないし,加えて,同報告書に,「見かけのヤング率は合板
の1.25倍の値であった。これは竹自身のヤング率の高さによるものと思われ
る。」との記載(2丁の3.)があることをも併せ考慮すると,同報告書の試験結
果によって,原告らが主張する上記効果が,当業者が予測可能な範囲を超える格別
顕著なものであることが示されているものと認めることはできない。
(5)以上のとおりであるから,審決の判断部分4の誤りをいう原告らの主張(4)
は,理由がない。
6結論
よって,審決取消事由は理由がないから,原告らの請求はいずれも棄却されるべ
きである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
石原直樹
裁判官
古閑裕二
裁判官
浅井憲

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