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平成22年1月13日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成21年(行ケ)第10206号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成21年12月3日
判決
原告株式会社長谷工コーポレーション
同訴訟代理人弁護士川越憲治
高橋善樹
同弁理士下坂スミ子
中山俊彦
被告株式会社南陽ハウジング
同訴訟代理人弁理士松田克治
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が取消2007−301206号事件について平成21年6月23日にし
た審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が,下記1の被告の本件商標に係る本件商標登録について,商標法
51条1項の規定に基づきその取消しを求める原告の下記2の本件審判請求が成り
立たないとした特許庁の別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3
のとおり)には,下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案で
ある。
1本件商標
別紙商標目録記載1のとおり(甲1,2,36)
2本件訴訟に至る手続の経緯
(1)原告は,平成19年9月20日,商標法51条1項の規定に基づき,本件
商標登録について取消しの審判を請求し,取消2007−301206号事件とし
て係属した(甲33,36)。
特許庁は,平成20年7月23日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との
審決(甲41。以下「前審決」という。)をした。
原告は,同年9月3日,知的財産高等裁判所に対し,前審決の取消しを求める訴
え(同裁判所同年(行ケ)第10326号)を提起した。
同裁判所は,平成21年3月24日,被告による被告使用商標2(別紙商標目録
記載3の商標)の使用の事実を認めなかった前審決の認定に誤りがあるとの理由に
より,前審決を取り消す旨の判決(甲40)を言い渡し,同判決は,確定した。
(2)特許庁は,同年6月23日,被告による被告使用商標2の使用の事実を認
めた上,「本件審判の請求は,成り立たない。」との本件審決をし,同年7月3
日,その謄本を原告に送達した。
3本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は,要するに,①被告は,本件商標と類似する被告使用商標1
(別紙商標目録記載2の商標)及び2(前同)を本件商標に係る指定役務の一部
(建物の貸借の代理又は媒介。以下「本件役務」という。)について使用したもの
であるが,②被告使用商標1及び2の使用は,原告商標1(別紙商標目録記載4の
商標)との構成の相違,原告商標2(別紙商標目録記載5の商標)の非周知性等に
照らし,役務の質の誤認又は他人の業務に係る役務との混同を生じるものとはいえ
ず,また,③被告には故意が認められないとして,被告による被告使用商標1及び
2の使用は,商標法51条1項に規定する要件を欠くから,本件商標登録を取り消
すことはできない,というものである。
4取消事由
(1)出所の混同に係る判断の誤り(取消事由1)
(2)被告の故意に係る認定の誤り(取消事由2)
第3当事者の主張
1取消事由1(出所の混同に係る判断の誤り)について
〔原告の主張〕
(1)原告商標2の出所識別機能及び周知性
本件審決は,原告商標2に係る出所の混同の有無を判断する前提として,同商標
は,原告及びそのグループ会社の業務に係る役務を表示するものとして単独で使用
されているものと認めることはできず,したがって,これが周知性を獲得していた
と認めることもできないと判断したが,以下のとおり,この判断は誤りである。
ア一般に,文字と図形とが別異の要素として認識し得る構成から成る結合商標
においては,各構成要素が顕著性を有する場合には,当該構成部分が単独で出所識
別標識として機能し得るというべきであり,また,図形は,マークとして視覚的に
認識させるという点において,それが独占に資さない単純な形状のものでない限
り,本源的に識別力を有するものである(これは,図形部分のみで商標登録のされ
ている商標が多数存在することからも明らかである。)ところ,原告商標1は,図
形部分と文字部分とがそれぞれ上部と下部に明らかに区別して配置されている上,
図形部分が文字部分の3倍程度の大きさで表され,かつ,図形部分には色彩も付さ
れているのであるから,同商標の図形部分,すなわち,原告商標2は,取引者及び
需要者に対し,役務の出所標識として強い印象を与えるものであり,独立して出所
識別標識としての機能を果たし得るものである。なお,本件審決も,原告商標1と
同様の外観構成を有する被告使用商標1について,この理を認めるところである。
イ本件審決も認定するとおり,原告商標1は,不動産及び建築の分野において
周知性を獲得するに至っているものであり,長年にわたり継続して大々的に使用さ
れ,その図形部分も含めて取引者及び需要者に視認されてきたものであるところ,
そのうち,図形部分のみ,すなわち,原告商標2のみが周知性を獲得していないと
いうことはあり得ない。原告商標1は,その図形部分(原告商標2)と文字部分と
が,歩みを同じくして取引者及び需要者に受け入れられ,周知性を獲得するに至っ
たものである。実際,甲39の調査においては,約6割もの需要者が,原告商標2
から原告を想起するとの回答をしている。
(2)出所の混同の有無
本件審決は,被告使用商標1の使用につき,原告商標1との関係においては,図
形部分と文字部分との不可分一体的使用を根拠として,原告商標2との関係におい
ては,前記(1)の判断を根拠として,また,被告使用商標2の使用につき,原告商
標1との関係においては,同商標における文字部分の存在及び被告使用商標2の使
用態様を根拠として,原告商標2との関係においては,前記(1)の判断を根拠とし
て,いずれの場合についても,被告使用商標1及び2の使用は,出所の混同等を生
じさせるものでないと判断したが,以下のとおり,この判断は誤りである。
ア被告使用商標1の使用及び原告商標1について
(ア)原告商標1が周知性を有することは,本件審決も認定するところであり,
また,前記(1)イのとおり,同商標は,文字部分のみではなく,図形部分と文字部
分とが一体として周知性を獲得するに至ったものであるところ,同商標の構成のバ
ランスに照らすと,より大きく上段に書され,しかも,色彩が付されている図形部
分がより強く取引者及び需要者の印象に残るというべきである。
(イ)本件審決は,被告使用商標1の文字部分がいわば混同防止表示のように認
識されると説示するが,同商標の図形部分が独立して出所識別標識としての機能を
果たし得るものであることは,本件審決も認めるところであるし,また,被告は,
白黒の本件商標に色彩を付すことにより,あえて出所の混同を惹起しかねない構成
態様に変容させて同商標を使用しているのであるから,被告使用商標1の文字部分
をもって,これを混同防止表示とみることはできない。
(ウ)被告使用商標1は,周知性を有していない。
(エ)仮に,原告商標1及び被告使用商標1の各図形部分及び文字部分が不可分
一体のものと認識されるとしても,両商標は,図形部分と文字部分との関係(位
置,大きさ,バランス),図形部分が極めて単純な幾何学図形3つの組合せにより
構成されている点及び文字部分がローマ字で表記されている点において,外観上の
共通点を有しており,加えて,両商標の図形部分に付された色彩が略同一であるこ
とにも照らすと,両商標は,非常に似通った印象を与えるものであるということが
できる。
(オ)以上に加え,原告の規模及び業歴に基づく周知性並びに原告のグループ会
社が原告商標1を使用して本件役務を現に提供していることにかんがみると,被告
使用商標1の使用は,原告商標1との関係で,出所の混同を生じさせる具体的なお
それのあるものというべきである。
イ被告使用商標2の使用及び原告商標1について
(ア)上記アにおいて主張する点は,被告使用商標2についても適宜妥当するも
のであるから,被告使用商標2の使用も,原告商標1との関係で,出所の混同を生
じさせる具体的なおそれのあるものというべきである。
(イ)本件審決が出所の混同を否定する理由として挙げるもののうち,被告使用
商標2の使用態様(「スタッフ日誌」と題する記事において,項目ごとに極めて小
さい目印として付されたもの)については,そのような使用態様のものであって
も,商標の使用であることに変わりはなく,出所の混同を生じさせないことの理由
たり得ないものであるし,また,原告商標1における文字部分の存在についても,
前記(1)アのとおり,同商標の図形部分が独立して出所識別標識としての機能を果
たし得るものであることに照らすと,出所の混同を生じさせないことの理由たり得
るものではない。
ウ被告使用商標1及び2の使用並びに原告商標2について
(ア)被告使用商標1及び2の使用が原告商標2との関係で出所の混同を生じさ
せないとする本件審決の判断の前提に誤りがあることは,前記(1)のとおりであ
る。
(イ)なお,原告商標2が単独で使用されているか否か及びこれが単独で周知性
を獲得しているか否かは,出所の混同の有無と直接の関係を有するものではない。
〔被告の主張〕
(1)原告商標2の出所識別機能及び周知性
ア一般に,文字と図形とから成る結合商標において,とりわけ文字部分が顕著
性を有する場合には,当該文字部分が商標の主要要素であり,出所識別標識として
機能するのであって,それは,文字部分と図形部分との大小関係によって決せられ
るものではないところ,被告使用商標1は,その全体を観察すると,被告の略称の
ローマ字から成る文字部分がとりわけ親しみ深く,取引者及び需要者の注意をひき
やすい特別な意味を持つ部分であるし,文字部分の面積は,商標全体の面積の少な
くとも3分の1程度を占めるものであるから,この文字部分こそが商標の要部であ
る。これに対し,被告使用商標1の図形部分は,ありふれたもの(甲26,27参
照)であり,取引者及び需要者に対し,特段の斬新性を認識させるものではなく,
強い印象を与えるものでもないから,独立して出所識別標識としての機能を果たし
得ないものである。なお,図形部分の色彩配列(青,赤及び緑)も,ありふれたも
のである。そして,この理は,原告商標1の図形部分,すなわち,原告商標2にお
いても妥当するというべきである。
また,原告商標2が単独で使用されている事実はないのであるし,他方,商号中
に「長谷工」の文字を含まない原告のグループ会社であっても,「HASEKO」
の文字部分を含む原告商標1を使用しているのであるから,当該文字部分が存在し
ない原告商標2は,出所識別標識としての機能を果たすものではない。
イ原告商標2が単独で使用されている事実はないのであるから,同商標は,周
知性を獲得したものではない。原告商標1が周知性を獲得したのは,図形部分と文
字部分とから成る結合商標として長年使用されたことにより,取引者及び需要者の
注意をひきやすく親しみやすい部分である主要要素としての文字部分が出所識別標
識としての機能を発揮したからに外ならない。
なお,甲39の調査結果は,信憑性を欠くものである。
(2)出所の混同の有無
ア被告使用商標1の使用及び原告商標1について
(ア)原告商標1の図形部分は,その文字部分と対比すると,親しみ深いもので
ないありふれた図形であり,注意を引きやすい部分でも特別な意味を持つ部分でも
なく,出所識別力が弱く,取引者及び需要者の印象に残るものではない。これに対
し,同商標の文字部分は,取引者及び需要者の印象に強く残るものである。
(イ)商標を構成する図形部分が独立して出所識別標識としての機能を果たし得
るものであることは,商標の独自の機能であって当然のことであるから,そのこと
と,被告使用商標1の文字部分が混同防止表示のように認識されるとの本件審決の
説示とが矛盾することはない。
また,被告使用商標1の図形部分は,主要な要素である文字部分を引き立てるた
めに,文字部分を変形したいわゆるロゴ形態の図形から成り,一般にありふれた
緑,赤及び青の色彩を付したものであって,出所の混同を惹起するために変容した
ものではない。
(ウ)被告使用商標2は,いまだ周知性を獲得するには至っていないものの,被
告使用商標1は,取引者及び需要者の間において,周知性を有するものである。
(エ)被告使用商標1の図形部分が,英文字「N」を基に図形の外枠を作成し,
左から右に緑,赤及び濃青の順で色彩を付したものであるのに対し,原告商標1の
図形部分は,英文字「H」を基に図形の外枠を作成し,左から右に青,赤及び緑の
順で色彩を付したものであるから,両図形部分は,その外枠の形状及び配色におい
て相違している。また,両商標の各文字部分には,外観上の共通点が存在しない。
そうすると,両商標は,取引者及び需要者に対し,似通った印象を与えるものでは
ない。
(オ)以上からすると,被告使用商標1の使用は,原告商標1との関係で,出所
の混同を生じさせるものではない。
イ被告使用商標2の使用及び原告商標1について
上記アにおいて主張する点は,被告使用商標2についても適宜妥当するものであ
るから,被告使用商標2の使用も,原告商標1との関係で,出所の混同を生じさせ
るものではない。
ウ被告使用商標1及び2の使用並びに原告商標2について
原告商標2に出所識別機能及び周知性がないことは,前記(1)のとおりであるか
ら,被告使用商標1及び2の使用は,原告商標2との関係で,出所の混同を生じさ
せるものではない。
2取消事由2(被告の故意に係る認定の誤り)について
〔原告の主張〕
原告は,被告に対し,本件審判請求に先立ち,被告使用商標1の使用の中止を申
し入れ(甲19,20),被告も,いったんは,原告との間で,使用する商標を変
更する旨合意した(甲21)にもかかわらず,原告から使用中止の申入れを受けた
後にした本件商標に係る商標登録出願につき登録査定がされるや,原告に対し,被
告使用商標1の使用を継続する旨一方的に通知してきたものである。
被告は,原告商標1及び2が周知性を獲得するに至っていたにもかかわらず,ま
た,上記のような原告との交渉経過があったにもかかわらず,被告使用商標1及び
2を使用したものであるから,被告使用商標1及び2の使用により出所の混同が生
じることを十分に認識していたというべきである。
〔被告の主張〕
被告は,原告からの申入れに対し,被告使用商標1の使用に問題がないなどと回
答したものであって,原告との間で,使用する商標を変更する旨合意したことはな
い。したがって,被告は,被告使用商標1及び2の使用により出所の混同が生じる
との認識を有していなかったものである。
第4当裁判所の判断
1取消事由1(出所の混同に係る判断の誤り)について
(1)原告商標1及び2の周知性等
ア証拠(甲3∼9(枝番を含む。),甲13∼17)及び弁論の全趣旨による
と,次の事実が認められる。
(ア)原告は,昭和12年2月創業の長谷川工務店を法人化するなどして,昭和
21年8月に設立された株式会社(当時の商号「株式会社長谷川工務店」)であ
り,その後,昭和40年4月には,東京,大阪等の各証券取引所への一部上場を果
たし,昭和48年には,マンションの施工戸数において我が国第一位に躍り出,平
成19年3月31日決算期において,資本金500億円,売上高約7200億円
(連結ベース)を誇るなど,建設業界,不動産業界等における我が国有数の企業で
ある。
(イ)原告は,昭和40年代から,数々の関連会社を設立し,事業を拡大するよ
うになったところ,昭和63年10月,商号を「長谷工コーポレーション」に変更
するとともに,コーポレート・アイデンティティー戦略の一環として,原告及びそ
の関連企業(その主要なものは,商号中に「長谷工」との語を含んだものであ
る。)から成り「長谷工グループ」と称する企業グループ(以下「長谷工グルー
プ」という。)のシンボルマークとして原告商標1を採用し,自社のホームペー
ジ,広告,建設現場等において同商標を使用するとともに,長谷工グループに属す
る企業の多くも,自社のホームページ,広告等において同商標を使用してきた結
果,同商標は,遅くとも平成18年ころまでには,長谷工グループ又は原告その他
の同グループに属する各企業を示す商標として周知性を獲得し,現在に至ってい
る。
(ウ)他方,原告商標1の文字部分を除いた,その図形部分のみから成る原告商
標2が長谷工グループ又は原告その他の同グループに属する各企業を示す商標とし
て使用された実績はない。原告は,原告商標2の周知性をるる主張するが,原告商
標2の使用の事実を認めるに足りる証拠は提出されていない。
イ上記アの事実に加え,原告商標1の構成に照らすと,同商標の周知性(な
お,同商標が周知性を有すること自体については,被告も,これを争うものではな
い。)に関しては,原告及び長谷工グループの業歴,規模,事業実績等により,原
告の商号(「長谷工コーポレーション」)自体,あるいは,長谷工グループの名称
自体が広く知られるようになり,原告商標1も,そのように広く知られた原告の商
号あるいは長谷工グループの名称において用いられる「長谷工」の語をローマ字表
記した「HASEKO」の文字部分を有するからこそ,周知性を獲得したものと認
めるのが相当である。
他方,上記アのとおり,原告商標1の図形部分のみ(原告商標2)が長谷工グル
ープ又は原告その他の同グループに属する各企業を示す商標として使用された実績
はないところ,原告商標2の構成をみても,青系色の縦長の長方形と緑色の縦長の
二等辺三角形をそれぞれ左端及び右端に配置し,それらの間(中央部)に赤色の円
を配置したものにすぎず,それのみでは,長谷工グループ又は原告その他の同グル
ープに属する各企業を想起させるものではない(仮に,原告商標2が英文字を図案
化したものであるとの条件を与えて同商標をみたとしても,これが「長谷工」をロ
ーマ字表記した際の頭文字「H」を図案化したものであるとすら確定的に認識する
ことはできない。)から,原告商標2が単独で,長谷工グループ又は原告その他の
同グループに属する各企業を示す商標として周知性を獲得したものと認めることは
到底できないといわざるを得ない。
この点に関し,原告は,甲39の調査の結果を根拠に,原告商標2が周知性を獲
得していたと主張するが,同調査(平成21年1月実施)の方法は,回答者に対
し,原告商標2を示した上,「このマークはどの会社のものですか?次の中から1
つだけ選んでください」との質問をし,選択肢として,「株式会社間組」,「株式
会社長谷工コーポレーション」,「株式会社日立プラントテクノロジー」,「平和
不動産株式会社」,「株式会社細田工務店」及び「上記以外()」を与えるとい
うものであって,わずか6つ(実質的には5つ)の選択肢の中から「正解」を求め
るものにすぎないというべきであるし,同調査の実施当時,原告商標1が既に原告
を示す商標として周知性を獲得していたことも併せ考慮すると,同調査の結果をも
って,真に原告商標2自体についての周知性を根拠付けるものとみることはできな
い。
また,原告は,原告商標2が周知性を獲得していたことの根拠として,原告商標
1の図形部分から成る原告商標2が,取引者及び需要者に対し,役務の出所標識と
して強い印象を与えるものであり,独立して出所識別機能を果たし得るものである
と主張するが,上記説示のとおり,原告商標2のみでは,長谷工グループ又は原告
その他の同グループに属する各企業を想起させるものではないから,原告の主張は
理由がないといわざるを得ない。
この点に関し,原告は,原告商標1が周知性を獲得しているにもかかわらず,そ
の図形部分である原告商標2だけが周知性を獲得していないということはあり得な
いとも主張するが,上記説示のとおり,原告商標1は,「HASEKO」の文字部
分を有するからこそ周知性を獲得したものであるから,原告商標1が周知性を獲得
したことと,その文字部分を除いた,図形部分のみから成る原告商標2が周知性を
獲得していないということとは,何ら矛盾するものではなく,原告の主張は採用し
得ない。
(2)被告使用商標1及び2の使用態様等
証拠(甲18∼21,24,25,31,32)及び弁論の全趣旨によると,次
の事実が認められる。
ア被告は,遅くとも平成14年ころ,自社の広告において,その商号の表示の
前に付記する態様で被告使用商標1を使用し始め,また,遅くとも平成19年ころ
から現在に至るまで,自社のホームページ(本件役務に関する広告を内容とする情
報を電磁的方法により提供するもの。以下同じ。)において,同様の態様で同商標
を使用している。
イ被告は,遅くとも平成19年1月ころから同年秋ころにかけて,自社の商号
を表示したホームページ中の「スタッフ日誌」と題する記事の各表題の冒頭に表示
する態様で,被告使用商標2を使用していた。
ウなお,被告は,昭和39年5月創業,昭和52年6月設立の資本金1000
万円の株式会社であり,京王線仙川駅前に本店店舗を有し,主として同駅付近の賃
貸不動産に係る仲介業等を営む「地元の賃貸専門不動産会社」(甲31の記事)で
あって,被告使用商標1及び2とも,被告を示す商標として広く知られたものでは
ない。
(3)出所の混同を生じさせる具体的なおそれの有無
前記(2)のとおりの被告使用商標1及び2の使用態様に照らすと,被告がこれら
の商標を使用して本件役務を提供しても,原告と被告とが同一の主体であるとの誤
認(いわゆる狭義の混同)を生じさせる具体的なおそれはないというべきであるか
ら,以下においては,被告がこれらの商標を使用して本件役務を提供することによ
り,被告が原告と人的又は資本的な関連を有するものとの誤認(いわゆる広義の混
同)を生じさせる具体的なおそれがあるか否かについて検討する。
ア被告使用商標1及び2の使用並びに原告商標2について
前記(1)のとおり,原告商標2は,それ自体単独で,長谷工グループ又は原告そ
の他の同グループに属する各企業を示す商標として使用された実績はないのである
から,原告商標2が登録商標であるとの事実(甲10)を考慮しても,被告使用商
標1及び2の使用が原告商標2との関係で役務の出所の混同を生じさせる具体的な
おそれがあるものと認めることはできない。
イ被告使用商標2の使用及び原告商標1について
(ア)原告商標1には「HASEKO」の文字部分が存在するのに対し,被告使
用商標2には文字部分が存在しないところ,前記(1)において認定説示したとお
り,原告商標1は,「HASEKO」の文字部分を有するからこそ,長谷工グルー
プ又は原告その他の同グループに属する各企業を示す商標として周知性を獲得した
ものであるし,また,長谷工グループ又は原告その他の同グループに属する各企業
において,原告商標1から当該文字部分を除いた商標を使用した実績はないのであ
るから,原告商標1に「HASEKO」の文字部分が存在するのに対し,被告使用
商標2には文字部分が存在しないことは,同商標の使用が原告商標1との関係で出
所の混同を生じさせる具体的なおそれがないことの極めて重要な根拠となるものと
いうべきである。
この点に関し,原告は,原告商標1の文字部分の存在を重視すべきでないとする
根拠として,同商標においては,その図形部分が独立して出所識別機能を果たし,
文字部分よりも強く取引者及び需要者の印象に残ると主張するが,既に繰り返し説
示したとおり,同商標が長谷工グループ又は原告その他の同グループに属する各企
業を示す商標として広く認識されるようになったのは,「HASEKO」の文字部
分の存在によるというべきであるから,原告の主張を採用することはできない。
(イ)前記(1)において説示したところに照らすと,原告商標1からその図形部
分だけを分離し,これと被告使用商標2とを対比して,出所の混同を生じさせる具
体的なおそれがあるか否かにつき判断するのは相当でないけれども,原告の主張に
かんがみ,仮に,原告商標1の図形部分と被告使用商標2とを対比してみても,両
者は,いずれも青系色又は緑色を付した縦長の2つの単純な多角形をそれぞれ左端
及び右端に配置し,それらの間(中央部)に図形部分全体の高さの2分の1ないし
3分の1程度の直径を有する赤色の円を配置した点において共通性がないわけでは
ない。しかしながら,原告商標1の図形部分については,縦長の2つの多角形が長
方形及び二等辺三角形であり,また,それらの各底辺が図形部分全体の下端部に水
平方向に位置し,図形全体の大枠として,正方形の右側を上方から斜め右下に若干
削り取ったような台形状の印象を与えるのに対し,被告使用商標2については,縦
長の2つの多角形が相互に合同の関係にある直角三角形であり,また,左側の直角
三角形の短辺が図形部分全体の下端部に水平方向に位置するとともに,長辺が中央
側に鉛直方向に位置し,他方,右側の直角三角形の短辺が図形部分全体の上端部に
水平方向に位置するとともに,長辺が中央側に鉛直方向に位置し,図形全体の大枠
として,左下から右上に向かう斜めの平行四辺形状の印象を与えるものである点に
おいて,原告商標1の図形部分と被告使用商標2とは大きく相違するものであっ
て,その図形の異同を等閑視して,両商標に共通性があるといっても,意味がな
く,配色の順序における相違(原告商標1の図形部分が左から順に青系色,赤色及
び緑色であるのに対し,被告使用商標2は左から順に緑色,赤色及び青系色である
との相違)を捨象してもなお,両商標は,取引者及び需要者に対し,明らかに異な
る印象を与えるものであるといわざるを得ない。
(ウ)したがって,前記(1)のとおり,遅くとも平成18年ころまでには原告商
標1が長谷工グループ又は原告その他の同グループに属する各企業を示す商標とし
ての周知性を獲得し,現在に至っていること,前記(1)のとおりの原告及び長谷工
グループの業歴,業種,規模,事業実績等,前記(2)のとおり,被告使用商標2が
被告を示す商標として広く知られたものでないことを考慮してもなお,被告使用商
標2の使用が原告商標1との関係で役務の出所の混同を生じさせる具体的なおそれ
があるものと認めることはできないというべきである。
ウ被告使用商標1の使用及び原告商標1について
(ア)原告商標1及び被告使用商標1の各全体構成を対比すると,確かに,原告
が主張するように,両商標は,図形部分が上部にあり,文字部分が下部にある点及
び図形部分の面積が文字部分のそれより大きい点において,共通性を有するといえ
なくもないが,この程度の共通性をもって,被告使用商標1の使用が原告商標1と
の関係で出所の混同を生じさせる具体的なおそれがあるということはできない。
(イ)次に,両商標の各文字部分を対比すると,原告が主張するように,両文字
部分はローマ字で表記されている点で共通性を有するといえなくもないが,ローマ
字で記載された文字の異同を捨象して,単にローマ字で表記されているというだけ
の共通性をもって,被告使用商標1の使用が原告商標1との関係で出所の混同を生
じさせる具体的なおそれがあるなどということができないことは明らかである。そ
もそも文字部分の共通性を検討するのであれば,必然的に記載されてい文字の内容
を考慮せざるを得ないところ,両文字部分は,原告商標1のそれが「HASEK
O」であるのに対し,被告使用商標1のそれは「NANYO」である点において,
極めて大きく相違するというべきであり,加えて,前記(1)において認定説示した
とおり,原告商標1は,「HASEKO」の文字部分を有するからこそ,長谷工グ
ループ又は原告その他の同グループに属する各企業を示す商標として周知性を獲得
したものであることや,長谷工グループ又は原告その他の同グループに属する各企
業において,原告商標1の文字部分を「HASEKO」と異なるものに置換した商
標を使用した実績があると認めるに足りる証拠がないことをも併せ考慮すると,両
文字部分についての上記相違は,被告使用商標1の使用が原告商標1との関係で出
所の混同を生じさせる具体的なおそれがないことの極めて重要な根拠となるものと
いうべきである。
この点に関し,原告は,両文字部分における相違を重視すべきでないとする根拠
として,上記イ(ア)と同旨の主張をするが,その主張を採用することができないこ
とは,前同様である。
なお,原告は,被告が,白黒の本件商標に色彩を付して被告使用商標1とするこ
とにより,あえて出所の混同を惹起しかねない構成態様に変容させたとして,被告
使用商標1の文字部分を混同防止表示とみることはできないとも主張するが,被告
使用商標2については,その配色を捨象しても,原告商標1とは異なる印象を与え
るものと認められる以上,被告使用商標1についても,その配色によって,原告商
標1と出所の混同を惹き起こすと認め得るものではなく,被告使用商標1の文字部
分があることによって出所の混同を防止し得るから,原告の主張は,その前提を欠
き,失当である。
(ウ)前記イ(イ)において説示したとおり,原告商標1及び被告使用商標1の各
図形部分は,取引者及び需要者に対し,明らかに異なる印象を与えるものである。
(エ)以上によると,被告使用商標2について前記イ(ウ)において考慮した点を
被告使用商標1についても斟酌してもなお,被告使用商標1の使用が原告商標1と
の関係で役務の出所の混同を生じさせる具体的なおそれがあるものと認めることは
できない。
(4)小括
したがって,取消事由1は理由がない。
2結論
以上の次第であるから,取消事由2について判断するまでもなく,原告の請求は
棄却されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官滝澤孝臣
裁判官本多知成
裁判官浅井憲
(別紙)
商標目録
1登録番号:第5047929号
商標の構成:
指定役務:商標法施行令別表第36類「建物の管理,建物の貸借の代理又は媒
介,建物の貸与,建物の売買,建物の売買の代理又は媒介,建物又は土地の鑑定評
価,土地の管理,土地の貸借の代理又は媒介,土地の貸与,土地の売買,土地の売
買の代理又は媒介,建物又は土地の情報の提供」
登録出願日:平成18年9月14日
設定登録日:平成19年5月18日
2商標の構成:
3商標の構成:
4商標の構成:
5商標の構成:

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