弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を福岡高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人半田辰生の上告理由について
 原判決は、破産者Dは昭和四八年一二月一日に同人所有の本件土地建物を訴外株
式会社E(以下、訴外会社という。)に対し、賃借権の譲渡、転貸ができる旨の特
約付で賃貸し、その旨の登記を経由し、上告人は本件破産宣告後本件土地建物を右
訴外会社から転借したものである、との事実を確定したうえ、上告人の右転借権の
取得は破産法五四条一項により、これをもつて破産債権者に対抗できない、と判断
しているのである。
 思うに、破産宣告当時破産者所有の不動産につき対抗力ある賃借権の負担が存在
する場合において、破産宣告後に右不動産が転貸されたとしても、特段の事情のな
い限り、転借人の転借権取得は破産法五四条一項所定の破産者の法律行為によらな
い権利の取得には該当しないものと解するのが相当である。けだし、破産財団は破
産債権者の共同的満足を目的とする責任財産であるから、破産者あるいは第三者の
行為によつてこれが減損されることを防止しなければならないのであるが、賃借権
の負担の存在する不動産は、賃借権の制限を受ける状態において破産財団を構成し
破産債権者の共同担保となるものであり、右不動産が転貸されたとしても、右転貸
に伴つてその交換価値が消滅ないし減少する等の特段の事情のない限り、右転貸は、
目的不動産に新たな負担又は制限を課するものではなく、破産財団の不利益となる
ものではないからである。したがつて、また、右賃貸借契約において、賃借権の譲
渡転貸を認める旨の特約がある場合に、その特約が賃貸人に対する破産宣告の結果
破産財団に対する関係においてその効力を失うに至ると解すべき理由もない。
 してみると、訴外会社の上告人への本件土地建物の転貸が破産宣告後にされたと
の理由のみによつてその対抗力を否定し、本件土地建物の占有権原についての上告
人の主張を斥けた原判決は、破産法五四条一項の解釈適用を誤つたものというべき
であり、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は
理由がある。
 よつて、原判決を破棄し、本件はなお審理を尽くさせる必要があるから、これを
原審に差し戻すべく、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文
のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    本   山       亨
            裁判官    団   藤   重   光
            裁判官    藤   崎   萬   里
            裁判官    戸   田       弘
            裁判官    中   村   治   朗

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