弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
         理    由
 被告人の上告趣意について。
 所論は畢竟被告人が旧刑訴法の下において昭和二三年一一月二五日東京地方裁判
所に起訴せられた窃盗被告事件と新刑訴法の下において昭和二四年二月二六日同裁
判所に起訴せられた本件窃盗被告事件について若しこれが同時に起訴せられたとす
れば当然併合罪として一つの刑の言渡を受け得たに拘らずその起訴が右二途に出で
た為二つの刑の言渡を受けるに至つたことの違法を主張するに帰着する然し本来併
合罪として同時に起訴せられたときは当然一つの刑の言渡を受け得た数罪を検察官
において時期を異にして一つは旧刑訴法の下において他は新刑訴法の下において各
別に起訴したからと言つてその起訴が違法であるという訳のものではないのみなら
ず既にかゝる起訴があつた以上裁判所においていわゆる旧法事件と新法事件を併合
審判し得ないことは既に当裁判所の判例(昭和二四年新(れ)第四〇五号同二五年
三月二三日第一小法廷判決参照)とするところである。さすれば原審において先き
に被告人が旧刑訴法の下において起訴せられた所論窃盗被告事件について確定した
刑とは別個に本件被告事件について被告人に対し刑の言渡をしたのは法律上当然の
ことであつて何等違法ではない従つて論旨は理由がない。
 弁護人岩村辰次郎の上告趣意第一点について。
 原判決が所論の如き説示の下に第一審判決を破棄し更に被告人を懲役四年に処し
たことは所論の通りである。然し原判決において説示するところを被告人の控訴趣
意と併せ精読すれば畢竟被告人が本来併合罪の関係にある、所論の旧刑訴法の下に
おいて起訴せられた窃盗被告事件と新刑訴法の下に起訴せられた本件窃盗被告事件
の併合審理を求めたのに対し右二つの事件が法律上併合審理し得ないとの判断の下
に被告人の要求を排斥すると共に一方被告人に対する量刑の点に考慮をめぐらした
趣旨であることが明らかである。所論は、単なる原判決中の用語に拘泥しその全体
の趣旨を把握しないことに基因するもので原判決には所論のような理由不備又は理
由齟齬の違法は少しもなくもとより論旨指摘の各判例に違背することもない。よつ
て論旨は理由がない。
 同第二点について。
 然し旧刑訴法の下において起訴せられた事件と新刑訴法の下において起訴せられ
た事件がたとえ同時に起訴せられたときは併合罪として当然一つの刑の言渡を受け
得る場合であつても之が併合審判を為し得ないことは、被告人の上告趣意について
説明した通りであつてそれは旧刑訴法及新刑訴法によつて規定せられた各審級相互
間の訴訟手続上の性格的差異によるものである。そしてかように訴訟手続上の性格
的差異に起因しいわゆる旧法事件と新法事件が併合審判し得ないということはつま
るところ法律解釈の問題であつて、憲法適否の問題ではない。それ故原審が所論の
各窃盗被告事件は併合審判を為し得ないと判断して被告人に対し本件被告事件につ
いて刑を言い渡したことは正当であり、論旨指摘の各判例は本件の場合に適切なも
のとは言えない之を要するに所論は名を憲法違反に藉り原判決の法律解釈を攻撃す
るに帰するから論旨は採用できない。
 よつて刑訴第四〇八条一八一条に則り主文の通り判決する。
 この判決は全裁判官一致の意見である。
  昭和二五年八月九日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    塚   崎   直   義
            裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎

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