弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
被告人は無罪。
理由
第1本件公訴事実の要旨
第1回公判期日における起訴状訂正及び平成21年8月3日付け訴因変更許
,,,,可決定の後の本件公訴事実の要旨は被告人がAと共謀の上営利の目的で
abcdみだりに,平成20年4月15日ころ,岐阜市町番地株式会社岐阜駅
バス停付近路上に駐車中の自動車内において,Bに対し,覚せい剤であるフェ
ニルメチルアミノプロパンの塩酸塩を含有する白色結晶性粉末約0.4グラム
を代金2万円で譲り渡したというものである。
第2本件の争点
本件の争点は,被告人が,Aと共謀の上,平成20年4月15日午後5時過
ぎころに,公訴事実記載の場所において,Bに対し,後記第3の1()のとお6
りB方から押収された覚せい剤を含む特定の覚せい剤約0.4グラム(以下,
「本件覚せい剤」という)を譲り渡したかどうかである。。
検察官は,本件覚せい剤の譲渡しが行われたのは,AがBに最後に覚せい剤
を譲り渡した機会,すなわち,公訴事実記載の日時場所においてであり,その
場には,被告人も同行していたなどと主張する。これに対し,弁護人は,公訴
事実記載の日時場所においてA・B間で覚せい剤取引が行われたとは認められ
,,ず両者間の最後の覚せい剤取引は同月16日午後11時過ぎころであるから
本件覚せい剤が譲り渡されたのはその機会であると主張した上で,被告人は同
譲渡しに同行しておらず,本件覚せい剤の譲渡しには一切関与していないなど
と主張する。
第3証拠上明らかに認められる事実等
1関係各証拠によれば,下記の事実が明らかに認められる(なお,以下,年月
の記載のない日付は全て平成20年4月の日付である。。)
()Aは,15日午前3時25分から17日午前2時24分までの間,岐阜1
市内のレンタカー会社から,銀色の普通乗用自動車フィットを借りて使用し
ていた(甲21,23。なお,Aは,16日から遡って約1年弱の間に,)
同等クラスのレンタカーを6回借りていた(甲22。)
()BとAとの間では,9日から16日までの間,携帯電話の音声通話又は2
,(,メール機能を利用して別表1ないし3のとおりの通信が行われた甲11
44。)
()Bは,16日午前3時6分,同日午前8時10分,同日午後3時9分,3
同日午後4時46分及び同日午後9時53分に,それぞれ岐阜県可児市内の
タクシー会社に電話をかけてタクシーを呼び,いずれも同市内で利用した。
そのうち,午後9時53分に呼んだタクシーの利用区間は,当時のBの自宅
から可児駅までであった(甲11,41,弁15。)
()Bは,16日午後5時ないし午後5時30分前後ころ,岐阜県可児市内4
の眼科クリニックを受診した。Bが同クリニックを受診したのは,この日e
1回のみであった(甲26,弁16。)
()15日及び16日当時,下記の各発着時刻の列車が運行されていた(甲5
46。)
ア太多線可児駅午後4時15分発,高山本線岐阜駅午後5時4分着
イ太多線可児駅午後10時12分発,高山本線岐阜駅午後11時1分着
()18日,当時のB方居宅の捜索が行われ,同所から,縦約7センチメー6
トル・横約4センチメートルのチャック付きビニール袋に在中の白色結晶性
粉末が押収された。同粉末は,覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパ
ンの塩酸塩を含有しており,重量は0.35グラムであった。また,同チャ
ック付きビニール袋には,そのチャックの両端の各上側及びチャックの中央
の下側に黒い点合計3個が記入されていた。さらに,チャックの右端の下側
には,黒い点1個が雑に記入されていた(甲1,40。)
()平成20年8月20日,A方の捜索が行われた。Aは,その際,注射器7
8本,縦約7センチメートル・横約4センチメートルのチャック付きビニー
ル袋26袋,電子秤2台,先のとがったストロー片2本等を任意提出し,こ
れらは押収された(甲17ないし19。)
2以上の事実のほか,BとAとの間で度々通信が行われており,その中には覚
(,),せい剤取引を窺わせるような内容のメールも含まれていること甲2844
前記1()のとおりA方から押収されたチャック付きビニール袋と,同()のと76
おりB方から押収された覚せい剤の容器であるチャック付きビニール袋とが同
じ寸法であること,後者のチャック付近には黒い点が記されているところ,A
は,密売する覚せい剤を入れたチャック付きビニール袋に覚せい剤の量に応じ
て黒い点が記入されていたと供述していること,Aが多数回にわたってBに覚
せい剤を譲り渡していたという点でB及びAの供述が一致していること等を総
合すると,①Aが多数回にわたってBに覚せい剤を譲り渡していたこと,②本
,,,件覚せい剤は被告人の関与の有無は後に検討するのでその点はおくとして
AがBに譲り渡したものであることが強く推認される。
第4B供述の信用性
Bは,本件覚せい剤の譲渡しにつき,第3回公判期日及び第10回公判期日
の2度にわたり供述を行っているが,このうち,本件覚せい剤の譲渡しが,公
訴事実記載の日時場所において被告人とAが同行して行われたという事実を直
接証明する証拠は,第10回公判期日における供述(以下「新供述」ともい,
う)である。以下,その信用性を検討する。。
1Bの新供述の要旨
Bの新供述のうち,14日から16日までの行動についての要旨は下記のと
おりである。
()14日に,岐阜市内のA方まで出向き,覚せい剤0.4グラムを代金後1
払いで買った。
()15日にも覚せい剤が欲しかったので同日午後零時36分Aに昼2,,,「
行きますけど大丈夫ですか」というメールを送り,覚せい剤を注文した。示
された通信履歴によると,午後4時57分に電話をしているので,Aと会っ
て覚せい剤を譲り受けたのは,その通話の直後である。そのとき,Aは既に
フィットに乗って岐阜駅南口に着いており,その助手席には被告人が座って
いた。覚せい剤を譲り受けた状況については,第3回公判期日で証言したと
おりである。
なお,このときAらに支払った2万円は,前日である14日に代金後払い
で買った覚せい剤の代金である。15日当日に買った覚せい剤の代金2万円
は,翌16日に支払う約束だった。
覚せい剤を譲り受けると,すぐに列車で可児へ帰り,可児市内の勤務先に
出勤した。
()16日は,5回にわたり,可児市内のタクシー会社に電話をかけてタク3
シーを呼び,利用した。利用した区間等について捜査した結果を聞くと,同
日午後4時30分ころには岐阜駅に行っておらず,同日午後3時台ないし4
時台には可児市内で買い物をしたことを思い出した。
16日午後零時30分ころ,2回にわたってAと通話した履歴があるが,
その内容は覚えていない。
()16日午後11時ころ,注射器を譲り受けるため,Aと会おうとして岐4
阜駅に行ったが,会えずに帰っており,岐阜駅南口に停車中の,A1人が乗
った車に乗り込んだということは絶対にない。仮に,車の中にいたのがA1
人であれば,覚せい剤を譲り受けているのが周りから目立たないよう,私は
後部座席ではなく助手席に乗ったはずである。
Aと会えなかったので岐阜駅に着いてすぐ列車で可児に戻り,メールの相
手の「D君」とカラオケに行った。カラオケ店のトイレで,14日にAから
買った覚せい剤を1回使用し,14日に買った分を使い切った。
カラオケ店から帰宅してからは,15日に買った覚せい剤を1回使った。
逮捕後に差し押さえられた覚せい剤0.35グラムは,その残りである。
()24日に警察官調書(弁6)を録取されたときは,捕まった直後で気が5
動転していた上,覚せい剤を買った日に眼科に行ったと思いこんでおり,警
察官から眼科に行ったのは16日だと聞いたので,覚せい剤を買ったのも1
6日だと思った。警察官や,捜査段階での取調べを担当し第3回公判にも立
会した検察官には通信履歴を見せてもらっておらず,第10回公判に立会し
た別の検察官に初めて見せられた。
()岐阜駅南口に停車中のフィットの車内において,Aと被告人とが同乗し6
ているときに両名から覚せい剤を買ったのは,今回1回だけである。
()私は,平成20年4月ころ,3,4時間に1回覚せい剤を使っていた。7
捜査段階で,今回の譲受けの直前に覚せい剤を買ったのは7日であると供述
したのは,なるべく間隔を空けた方が刑が軽くなるのではないかと考えて嘘
を言ってしまったからだと思う。
2Bの供述経過
ところで,Bは,A及び被告人から覚せい剤を最後に譲り受けた日時につい
て,下記のとおり,2度にわたって供述を大きく変遷させている。
()まず,24日付警察官調書2通(弁6,7)において,Bは,いずれも1
15日午後4時台に,A及び被告人から覚せい剤を譲り受けた,同日,可児
市内の眼科を受診し,勤務先に立ち寄って帰宅した後,交際相手がBの自宅
を訪れたと供述していた。
()しかし,25日付警察官調書(弁8)において,Bは,16日午後4時2
30分ころにA及び被告人から覚せい剤を譲り受けた,同日午後6時ころ眼
科を受診し,午後7時30分ころに交際相手がBの自宅を訪れた,午後7時
台にはクイズヘキサゴンというテレビ番組(甲27)を見ていたと供述を変
更した。その理由としては,覚せい剤を最後に買ったのは眼科に行ったのと
同じ日なので,眼科受診が16日であれば覚せい剤を最後に買ったのも16
日であると考えられるから,というものであった。
そして,Bの第3回公判期日における供述(以下「旧供述」ともいう),。
は,上記警察官調書に概ね沿った内容であった。
()しかし,第10回公判期日において,Bは,15日に,おそらく午後53
時4分着の列車で岐阜駅に着き,A及び被告人から覚せい剤を譲り受けた上
で,おそらく午後5時13分発の列車で可児に戻り,勤務先へ出勤したと供
述を再度変更した。その理由は,通信履歴の内容や,Bが16日にタクシー
を呼んで利用した区間等について捜査した結果を知らされて,16日午後3
時台ないし4時台には可児市内で買い物をしたことを思い出し,そのころに
は岐阜駅へは行っていないと分かったからであるというものであった。
また,16日の行動については,日中,可児市内で買い物などをして,午
後5時34分に眼科に遅れる旨連絡した後,眼科を受診し,その後,自宅に
来た交際相手と共にクイズヘキサゴンを見た,午後9時53分にタクシーを
呼んで可児駅へ行き,岐阜へ向かったと供述した。
3Bの新供述の信用性判断
()15日の覚せい剤譲受けが最終譲受けであり,その際,被告人が同道し1
ていたとする点について
ア前記第3の2のとおり,15日には,BとAとの間で,別表2のとおり
の通信が行われており,これによれば,Bが,15日午後5時過ぎころ,
Aから覚せい剤を譲り受けた疑いが濃い。B自身も,15日午後5時過ぎ
ころ,岐阜駅南口に停車中のフィットの車内において,Aから覚せい剤を
譲り受けたと供述しており,この供述は前記第3の1の事実に沿うもので
ある。これらによれば,Bは,15日午後5時過ぎころ,岐阜駅南口に停
車中のフィットの車内において,Aから覚せい剤を譲り受けたと考えられ
る。そして,Bの新旧両供述は,被告人がフィットの助手席に座っていた
とする点や譲受け態様の点では一貫している上,Bは,岐阜駅南口に停車
中のフィットの車内においてAと被告人とが同乗しているときに両名から
覚せい剤を買ったのは今回だけであると供述していることからすると,B
は,15日午後5時過ぎころの覚せい剤の譲受け時に被告人がAに同道し
ていたという明確な記憶を有していると考えることもできるようにも思わ
れる。
イしかしながら,前記第3の2のとおり,Bは,多数回反復継続してAか
ら覚せい剤を譲り受けていたものであって,特定の譲受けの状況を他と区
別して記憶することが容易ではない状況にあったと認められる。特に,前
記第4の2のとおり,Bが,逮捕されてから約1週間しか経過していない
段階で譲受け日や前後の行動についての供述をその根拠も含めて大幅に変
遷させたことに鑑みると,Bは,自身の逮捕の直近の覚せい剤譲受けであ
っても,他の譲受けと区別できるだけの鮮明な記憶を有していなかったと
考えられる。
また,Bが,供述の都度一定の具体的な根拠を挙げて最終譲受け日時を
特定したにもかかわらず,前記第4の2のとおり,2度にわたってその供
述を変遷させた理由は,警察官や検察官から新しい情報を与えられたこと
で,日付の混同や取り違え等に気がついたというものである。これによれ
ば,Bは,自ら経験した出来事であっても,その日時や順序について減退
ないし混乱した記憶しか有しておらず,当公判廷における2度の供述は,
いずれも外部から与えられた情報に基づいて記憶の喚起を試み,推測をも
加えて供述したものと認められる。現に,B自身も,第10回公判期日に
おいて,15日及び16日の行動について順序立てた明確な記憶を有して
いるわけではなく,検察官及び弁護人から通信履歴や列車時刻表等を示さ
れて思い出したことや推測したことを述べたものであると自認している。
これらに加えて,前記第3の1()のとおり,Aが16日ころから遡っ1
て約1年の間にフィットと同等クラスのレンタカーを6回借りていること
をも合わせ考えると,覚せい剤譲受けの際にAが乗車していた車両の車種
も,必ずしも15日の覚せい剤譲受けを他と区別する明確な要素となると
は言い難い。さらに,Bは,前記のとおり,岐阜駅南口に停車したフィッ
トの車内で被告人とAが同乗している時に覚せい剤を購入したのは1回の
みである旨述べているが,Bが,第3回公判期日において,車中でAから
覚せい剤を譲り受ける際にはほぼ毎回被告人が同行していた旨供述してい
ることと対比すると,被告人の同乗の日時と回数につき明確な記憶の上で
供述したものであるのかについては,多大な疑問がある。
ウ以上で検討したとおり,Bの新旧の供述に表れた個々の事実自体は,B
が過去に経験したことであるとしても,その時期や前後関係についてのB
の記憶が相当に混乱ないし減退しているため,行動の詳細や出来事相互の
前後関係については,通信履歴等の客観的な証拠によって直接裏付けられ
ている部分を超えて信用することは困難であるといわざるを得ない。
そうすると,Bの新供述のうち「15日午後5時過ぎころ,岐阜駅南,
口に停車中のフィットの車内において,Aから覚せい剤を譲り受けた」と
いう部分が信用できるとしても,これと「この時被告人がフィットの助手
席に座っていた」という記憶との結びつきの正確性には疑問があり,他に
これを積極的に裏付ける証拠もない以上,15日の譲受けの際に被告人が
フィットの助手席に座っていたという供述を直ちに信用することはできな
い。また,日時や前後関係についてのBの新供述の信用性に難があり,後
記()のとおりBが16日にもAから覚せい剤を譲り受けた疑いが濃い以2
,「」上15日の覚せい剤譲受けがA・B間の最後の覚せい剤取引であった
というBの新供述を直ちに信用することも,また困難であるといわざるを
得ない。
()本件覚せい剤の譲渡し時期について2
Bは「Aから注射器を譲り受けるために,16日午後11時過ぎころに,
も岐阜駅へ行ったが,Aが注射器を忘れたため,Aとは会わずに帰った。そ
の際に覚せい剤を譲り受けたこともない」旨供述しているが,この供述は。
そのまま信用できず,かえって,BとAとの間の通信履歴等に照らせば,本
件覚せい剤は16日午後11時過ぎころに譲り渡された疑いがある。
アまず,BとAとの間の通信履歴のうち,別表1の部分を見ると,9日,
13日及び14日にもBがAから覚せい剤を譲り受けたことを窺わせる内
容のメールがあるから,Bは,このころ,数日に1回ないし連日という高
頻度で,Aから覚せい剤を譲り受けていたと考えられる。この点について
は,Bも,第10回公判期日において,これまでに2日続けて覚せい剤を
買った経験があり,14日及び15日にも続けて覚せい剤を譲り受けたこ
とを自認している。そうすると,このように高頻度で覚せい剤を譲り受け
ていたBが,14日及び15日に加えて16日にもAから覚せい剤を譲り
受けていたとしても,何ら不自然ではないといえる。
イ次に,BとAとの間の通信履歴のうち,別表3の部分(16日午後9時
37分から午後11時2分まで)及び前記第3の1()の事実を総合する3
と,Bは,午後9時37分,Aに対して「今から行ってもいいですか?」
とのメールを送信した上で,タクシーを呼んで当時の自宅から可児駅まで
乗車したこと,その後の午後10時34分から同40分までの間,Aは,
Bに対しどうぐ忘れたというメールを送信しこれに対しBはい,「」,,「
いけどつくの11時過ぎるよ」と返信し,Aが「11じ何分?」と尋ねた
,「」,「」ところBが10分くらいかなと答えこれに対してAがわかった
と返信したこと,Bが,午後11時1分,Aに「ついたよ」とのメールを
送信したところ,その直後,AがBに2度にわたって電話をかけ,それぞ
れ約20秒ずつ通話したことが認められる。かかる通信履歴及びタクシー
の利用状況からすると,Bは,16日夜に,覚せい剤と「どうぐ,すな」
わち注射器の双方を譲り受ける目的でAと会う約束をしており,Aから注
射器を忘れたという連絡を受けたものの,覚せい剤だけは譲り受ける目的
で,岐阜駅に行ってAと会うことを中止しなかったと理解するのが自然で
ある。そして,岐阜駅に着いたことを知らせるBのメールに対し,Aが直
ちに電話をかけて両者が短時間通話していることや,Bの帰りの列車の岐
阜駅発時刻が午後11時25分であり,同駅付近でAと会う時間的余裕が
あることをも併せ考えると,Bは,16日午後11時過ぎころにも,岐阜
駅付近においてAと会い,同人から覚せい剤を譲り受けた疑いが濃いとい
うことができる。
ウこれに対し,Bは,16日夜間の行動について,捜査段階(弁11)及
び2回の証人尋問を通じ,一貫してAとは会っておらず,午後11時過ぎ
ころに覚せい剤を譲り受けてはいない旨供述している。しかし,Bの供述
に表れた行動の詳細やその時期については,前記のとおり,客観的な証拠
によって直接裏付けられている部分を超えて信用することはできない。し
,,かもこの点に関するBの供述内容自体がやや不自然であるばかりでなく
通信履歴の内容と合っていないものになっていることに鑑みると,16日
夜の出来事に関するBの供述の信用性には大いに疑問があると言わざるを
得ない。
エなお,Aは,検察官に対し,16日夜,BがAに注射器を注文し,岐阜
駅まで来たが,自分が注射器を忘れたためこれをBに渡せなかった旨供述
している(甲6。しかし,Aは,16日の行動について明確な記憶を有)
していないと供述しており,検察官から通信履歴を示されたりBの供述内
容を教示されるなどした結果,Bの供述のとおりで間違いないと思う旨供
述しているに過ぎないと認められる。そうすると,A供述は,個々の覚せ
い剤譲渡しの日時場所や具体的態様に関する限り,Bの供述を離れて独立
した証拠価値を有するものとはいえないのであって,Aが,16日夜の行
動についてBと同旨の供述をしているからといって,これがBの供述を裏
付けているということはできない。
第5検討
1これまで検討したとおり,Bは,15日午後5時過ぎころにAから覚せい剤
を譲り渡されたと考えられる一方で,16日午後4時30分ころには岐阜県可
児市内にいたことが明らかであり,岐阜市内で覚せい剤を譲り渡されていない
と認められるが,さらに,16日午後11時過ぎころにも,Aから覚せい剤を
譲り渡されていた疑いが濃い。そうすると,検察官が本件譲渡しの目的物であ
ると主張する本件覚せい剤が,15日午後5時過ぎに譲り渡されたものではな
く,Bの逮捕に最も近い時点でなされた覚せい剤取引である16日午後11時
過ぎころに譲り渡されたものではないかという合理的な疑いが残らざるを得
ず,15日午後5時過ぎころの譲渡し行為と本件覚せい剤との結びつきは明ら
かでないといわなければならない。
したがって,15日午後5時過ぎころのB・A間の覚せい剤譲渡し行為につ
いては,その対象物が本件覚せい剤であると認められない以上,譲渡しの対象
物が覚せい剤であったという点を証明する証拠はBの新供述しかなく,化学的
。,,な鑑定による裏付けを欠くことになるそうするとEの公判供述の信用性等
その余の点について検討するまでもなく,本件公訴事実については,公訴事実
記載の日時場所において,AからBに覚せい剤が譲り渡されたかどうかについ
て,合理的な疑いを差し挟む余地があるものと言わざるを得ない。
加えて,前記のとおり,15日午後5時過ぎころの譲渡しに被告人が同行し
ていた旨のBの新供述は信用することができず,かつ,Bが否定している16
日午後11時過ぎころに覚せい剤の譲渡しがあった可能性があることを前提と
すれば,この双方の譲渡し行為の際に,いずれも被告人がAと同行していたと
認めることはできない。
2なお,検察官は,本件は被告人とAによる覚せい剤密売の常習的犯行の一環
として行われたものであるから,本件覚せい剤の譲渡しについて,Aと被告人
との間に共謀が認められるとも主張するので,この点について検討する。
アAは,かねてから覚せい剤を密売していたところ,平成20年1月ころか
らは,被告人の仕入れてきた覚せい剤を,被告人の指示に従って密売してい
たと供述している(甲5。Aは,本件公判中の平成20年12月19日に)
,,死亡したためAの供述は捜査段階で録取された検察官調書によるほかなく
反対尋問を経る機会がなかったことから,その信用性の吟味については特に
留意する必要がある。とはいえ,Aと被告人との間で,平成20年1月ころ
以降に送受信されたメールの内容が覚せい剤取引に関するものであると窺わ
れること(甲28。なお,甲7,8を参照)や,前記第3の1()のとお。7
り,A方から,覚せい剤の密売に関連すると思われる物品が発見されている
ことなども併せ考えると,被告人が,平成20年1月ころ以降,Aの行って
いた覚せい剤の密売に関与していたことが優に窺われる。なお,Aに依頼さ
れて,被告人が覚せい剤を管理しているように装っていたに過ぎないという
被告人の公判供述は,その内容自体不自然・不合理なものであって,その限
りではにわかに信用できない。
イしかし,Aと被告人との間の通信履歴(甲28)を見ると,平成20年3
月23日を最後に,一見して覚せい剤に関すると疑われるような内容のメー
ル通信は行われなくなっており,通信履歴からは,同年4月以降も被告人が
Aの覚せい剤密売に関与していたことを窺い知ることはできない。他に,同
月ころ,被告人が覚せい剤の密売に関与していたことを裏付ける客観的な証
拠はない。また,検察官が主張する本件覚せい剤の容器であるチャック付き
ビニール袋に付された黒い点の特徴についても,その状況自体からは,3個
の点と1個の雑な点とが別の機会に記入された可能性はあるものの,別々の
者が記入したとまでは認められない。したがって,Aが,同ビニール袋の写
真を示されて,3個の点を被告人が記入した後,1個の点をAが記入したの
ではないかと思う旨供述したとしても(甲6,その供述が同ビニール袋の)
黒い点の状況によって直ちに裏付けられているとは言い難い。そうすると,
密売用の覚せい剤を小分けにする際,被告人がこのような黒い点を記入して
いたという趣旨と解する余地のあるAの供述(甲5)も,結局,その裏付け
となる証拠に乏しく,この黒い点を主にAが記入していたという被告人の公
。,判供述を直ちに排斥することは困難であるといわなければならない加えて
Aは,かつて被告人以外の者から密売用の覚せい剤を入手していたことがあ
ると述べており,同年4月ころの覚せい剤の入手先が被告人のみであったと
明確に供述しているわけではない。
以上を総合すると,Aによる本件覚せい剤の密売について,被告人との共
謀が成立していたと認めるには,なお合理的な疑いが残ると言わなければな
らず,被告人が本件覚せい剤譲渡しの共謀共同正犯であると認めることはで
きない。
第6結論
よって,本件公訴事実については,犯罪の証明がないことに帰するから,刑
事訴訟法336条により無罪の言渡しをする。
(求刑懲役2年及び罰金20万円)
平成22年3月16日
岐阜地方裁判所刑事部
裁判長裁判官田邊三保子
裁判官多田尚史
裁判官長池健司
別表1
通信日時発信元相手方通信の種類通話時間又はメールの文面
平成20年4月9日22:27ABメール先だよ!
平成20年4月9日22:35ABメール足らんかったら一つも出さん!と
言う事。
平成20年4月9日22:45ABメールめんどくさい。で,点3分。足ら
んかったら引き上げるで。
平成20年4月9日22:55ABメール足らんかったら引き上げる
平成20年4月9日22:57ABメール時間をおしえろ。
(中略)
平成20年4月13日0:39BAメール1時半くらいに仕事終わると思いま
す。そのくらいにお願いできます
か?明日には必ずお金作ります。っ
てかこの後明日の分作るのに1人逢
うから今日ネタお願いできますか?
平成20年4月13日0:47BAメール20000ですけど
平成20年4月13日1:29BAメールえ?送りましたよもう向かってる
んじゃないですか?20000って
(中略)
平成20年4月14日8:13BAメールおはようございます早くに悪いん
ですけど今日の休みが明日になっ
たんです生理痛がひどくて(泣)起
きたら可児までお願いできません
か?ちゃんと足代も払います
平成20年4月14日8:15AB電話1分58秒
平成20年4月14日8:18BAメール私が動くのは無理だからC君に頼
んでみます
平成20年4月14日8:22ABメール無理とかだったらかうな!(怒)Cく
,,んにたのもうがお前の勝手だが
あれこれいって来ないならもうい
いよ。渡さんよ,物を。
平成20年4月14日8:25BAメール今日はつけなしで買います
平成20年4月14日9:00ABメール取りにきて!
平成20年4月14日9:56BAメール生理痛ひどくて動くのは無理です
平成20年4月14日15:07BA電話1分4秒
平成20年4月14日15:22BA電話1秒
別表2
通信日時発信元相手方通信の種類通話時間又はメールの文面
平成20年4月15日12:36BAメール昼に行きますけど大丈夫ですか?
平成20年4月15日12:37AB電話1分38秒
平成20年4月15日15:47ABメールいらん?
平成20年4月15日15:49BAメール何時につくんですか?
平成20年4月15日15:51ABメール電話して。
平成20年4月15日16:03BAメールかけなおす
平成20年4月15日16:04ABメールわかった
平成20年4月15日16:35BAメール今どこですか?
平成20年4月15日16:36ABメール羽島だけど,電話して。
平成20年4月15日16:51BA電話7秒
平成20年4月15日16:57BA電話1分13秒
別表3
通信日時発信元相手方通信の種類通話時間又はメールの文面
平成20年4月16日12:30BA電話4分31秒
平成20年4月16日12:35AB電話20秒
平成20年4月16日21:37BAメール今から行ってもいいですか?
平成20年4月16日21:52BA電話53秒
平成20年4月16日21:59AB電話55秒
平成20年4月16日22:33BAメールどうしました?
平成20年4月16日22:34ABメールどうぐ忘れた
平成20年4月16日22:35BAメールいいけどつくの11時過ぎるよ
平成20年4月16日22:36ABメール11じ何分?
平成20年4月16日22:37BAメール10分くらいかな
平成20年4月16日22:40ABメールわかった
平成20年4月16日23:01BAメールついたよ
平成20年4月16日23:01AB電話21秒
平成20年4月16日23:02AB電話20秒

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採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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71期修習生 72期修習生 求人
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職種 事務職
時給 当社規定による
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