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平成14年7月25日宣告
平成14年(わ)第34号,第38号,第48号,第131号,第315号
窃盗,強盗致傷,逮捕監禁(以上被告人両名につき),有印私文書偽造,同行使,
公正証書原本不実記載,同行使,電磁的公正証書原本不実記録,同供用,詐欺(以
上被告人Aにつき)各被告事件
            判    決
            主    文
   被告人Aを懲役11年に,被告人Bを懲役10年に処する。
   未決勾留日数中,被告人Aに対しては130日を,被告人Bに対しては14
   0日をそれぞれの刑に算入する。
            理    由
(犯罪事実)
第1 被告人Aは,Cに無断で,同人とDとの養子縁組の届出をするなどして,E
  名義の国民健康保険被保険者証を詐取しようと企て,F及びDと共謀の上,
 1 平成12年10月17日,前橋市a町b丁目c番d号所在のf市役所におい
  て,行使の目的をもって,ほしいままに,上記Fが,同所備付けの養子縁組届
  用紙の「養子になる人」欄の氏名欄に「C」,住所欄に「g町h丁目i番地の
  jコーポk号」,本籍欄に「l町m丁目n番地」などと記入した上,届出人署
  名押印欄に「C」と冒書し,被告人Aがその右横に「C」と刻した印鑑を冒捺
  し,もって,上記C作成名義の養子縁組届1通を偽造した上,即時同所におい
  て,被告人Aが,同市役所市民部市民課戸籍係担当係官に対し,これをあたか
  も真正に成立したもののように装って提出して行使し,情を知らない同係官を
  して,権利義務に関する公正証書の原本である筆頭戸籍者Gの戸籍簿の養子 
 「C」欄に「平成12年10月17日Dの養子となる縁組届出前橋市o町p番地
  D戸籍に入籍につき除籍」などと不実の記載をさせ,前同様の原本である筆頭
  戸籍者上記Dの戸籍簿に養子「C」欄を設けさせて「平成12年10月17日
  Dの養子となる縁組届出前橋市l町m丁目n番地G戸籍から入籍」などと不実
  の記載をさせて,いずれもそのころ同市役所において,これを真正なものとし
  て備え付けさせて行使した。
 2 被告人Aが上記f市役所において交付を受けた上記Eが前橋市g町h丁目i
  番地の8jコーポk号から群馬県勢多郡q町r番地s号へ転出する旨の内容虚
  偽の転出証明書1通を,同被告人において,同月18日,同町t番地所在のq
  町役場において,同町役場住民課戸籍係担当係官に対し提出するなどし,情を
  知らない同係官をして,同役場住民課に設置されている公正証書の原本として
  用いられる電磁的記録である住民基本台帳ファイルにその旨不実の記録をさ
せ,
  これを即時同所に備え付けさせて公正証書の原本としての用に供し,さらに,
  そのころ,同所において,同被告人が,上記q町役場住民課国民健康保険係担
  当係官に対し,上記Eがq町に住所を有する事実がないのに,これがあるよう
  に装い,上記E名義の国民健康保険被保険者証の発行交付を申し入れるなど
し,
  その旨同係官を誤信させ,よって,そのころ,その場で同係官を欺いて上記E
  名義の国民健康保険被保険者証1通の交付を受けた。
第2 被告人両名は,H(当時52歳)からキャッシュカード,普通乗用自動車等
  を強取した上,同車で同人を拉致して暗証番号を聞き出し,銀行の現金自動預
  払機から金員を引き出そうと企て,共謀の上,
 1 平成13年11月20日午後4時ころ,前橋市o町u番地のI方において,
  こもごも,上記Hの腹部,頭部等を手拳で殴打し,足蹴にした上,その眼部等
  をガムテープで覆い,その両手を後ろ手にして手錠を掛け,その頚部に柳刃包
  丁を押し当てるなどして,その反抗を抑圧し,同人所有又は管理に係る現金約
  12万円,I他1名名義のキャッシュカード3枚及び普通乗用自動車1台(時
  価約160万円相当)を強取し,その際,上記各暴行により上記Hに加療約4
  週間を要する右第7ないし第10肋骨骨折,左側頭骨線状骨折等の傷害を負わ
  せた。
 2 同日午後4時15分ころ,上記I方玄関付近において,上記Hを上記強取に
  かかる普通乗用自動車の後部トランク内に押し込んだ上,同車両を疾走させ,
  前橋市v町w番地の株式会社x銀行y支店z出張所等を経由して同市内及びそ
  の周辺を走行した後,群馬県勢多郡甲村乙番地先雑木林内に至り,同人をトラ
  ンク内に閉じこめたまま同車両を放置し,同月21日午後4時ころ,付近住民
  であるJらに発見・救出されるまでの間,上記Hを同車両のトランク内から脱
  出することを不能にし,もって同人を不法に監禁した。
 3 同月20日午後5時20分ころから同日午後6時4分ころまでの間に,別表
  記載のとおり,前後4回にわたり,上記株式会社x銀行y支店z出張所ほか3
  か所において,上記強取にかかるI外1名名義のキャッシュカードを使用し,
  上記各支店に設置された現金自動預払機から,上記x銀行y支店支店長Kほか
  3名管理に係る現金合計890万円を引き出して窃取した。
(法令の適用)
被告人Aについて
 該当罰条  
    第1の1の行為       有印私文書偽造の点
                  刑法60条,159条1項
                  偽造有印私文書行使の点
                  刑法60条,161条1項,159条1項
                  公正証書原本不実記載の点
                  いずれも刑法60条,157条1項前段
                  不実記載公正証書原本行使の点
                  いずれも刑法60条,158条1項,15
                  7条1項前段
    第1の2の行為       電磁的公正証書原本不実記録の点
                  刑法60条,157条1項後段
                  不実記録電磁的公正証書原本供用の点
                  刑法60条,158条1項,157条1項
                  後段
                  詐欺の点
                  刑法60条,246条1項
    第2の1の行為       刑法60条,240条前段
    第2の2の行為       刑法60条,220条
    第2の3の各行為      いずれも刑法60条,235条
 科刑上一罪の処理         第1の1の有印私文書偽造と同行使と各公
                  正証書原本不実記載と各同行使の罪につ
き,
                  刑法54条1項後段,10条(刑及び犯情
                  の最も重い偽造有印私文書行使の罪の刑で
                  処断)
                  第1の2の電磁的公正証書原本不実記録と
                  同供用と詐欺の罪につき,刑法54条1項
                  後段,10条(最も重い詐欺罪の刑で処 
                  断)
 刑種の選択            第2の1の罪につき有期懲役刑
 併合罪加重            刑法45条前段,47条本文,10条(最
                  も重い第2の1の罪の刑に同法14条の制
                  限内で法定の加重)
 未決勾留日数の算入        刑法21条
 訴訟費用の不負担         刑訴法181条1項ただし書
被告人Bについて
 該当罰条  
    第2の1の行為       刑法60条,240条前段
    第2の2の行為       刑法60条,220条
    第2の3の各行為      いずれも刑法60条,235条
 刑種の選択            第2の1の罪につき有期懲役刑
 累犯加重             第2の各罪の刑につき刑法56条1項,5
                  7条(第2の1の罪の刑については同法1
                  4条の制限内で再犯の加重)
 併合罪加重            刑法45条前段,47条本文,10条(最
                  も重い第2の1の罪の刑に同法14条の制
                  限内で法定の加重)
 未決勾留日数の算入        刑法21条
 訴訟費用の不負担         刑訴法181条1項ただし書
(量刑理由)
1 本件は,①被告人Aが,共犯者と共謀し,知人についての養子縁組届を偽造し
 て市役所に提出し,その旨戸籍に記載させた上(第1の1事実),その知人につ
 いて虚偽の住所移転をし,同人を被保険者とする国民健康保険被保険者証を詐取
 した(第1の2事実)という有印私文書偽造,同行使,公正証書原本不実記載,
 同行使,電磁的公正証書原本不実記録,同供用及び詐欺の事案並びに②被告人両
 名が共謀して,被害者からキャッシュカード,乗用車等を強取し,その際傷害を
 負わせた上(第2の1事実),強取した乗用車のトランクに被害者を監禁し(第
 2の2事実),強取したキャッシュカードを使用して現金約890万円を銀行等
 から引き出した(第2の3の各事実)という強盗致傷,監禁及び窃盗の事案であ
 る。
2 第1事実について
   本件第1事実の一連の犯行は,被告人Aが,金融機関から知人名義で不正に
  融資を受けるために必要な国民健康保険被保険者証を詐取する目的で敢行され
  たもので,その利欲的な犯行の動機に酌量の余地はない。また被告人Aは,他
  人の戸籍や住所という重要な個人情報を,計画的かつ主導的に変更したもので
  あり,その犯行態様は極めて悪質であるし,人の身分関係等を証明する戸籍等
  の内容に重大な変更を加え,社会的に重要な価値を有する国民健康保険被保険
  者証を詐取した犯行の結果も重い。
3 第2事実について
 (1) 第2事実全般について
   被告人両名は,本件第2事実の各犯行に先立ち,被害者方付近を下見して,
  被害者やその夫の行動を確認し,柳刃包丁,手錠,ガムテープ,結束バンド,
  マスク等の犯行道具を準備した上で,本件の各犯行を敢行したもので,本件各
  犯行は全体として計画性が高く犯情は悪い。
   また,これらの犯行の動機は,被告人Aについては自らの事業の運転資金等
  を得るため,被告人Bについては,交際中のフィリピン人女性とその子供の生
  活費等を得るためというものであって,いずれも酌量の余地は全くない。
 (2) 強盗致傷(第2の1事実)について
   被告人両名は,被害者に対し,柳刃包丁を突き付けるなどして脅した上,こ
  もごも殴る蹴るの暴行を加え,さらにその顔面をガムテープで巻いた上,後ろ
  手にして手錠を掛けるなどして,その犯行を抑圧し,その結果,被害者に対し
  て加療約4週間を要する右肋骨骨折等の傷害を負わせたもので,その犯行態様
  は危険かつ悪質であり,被害者の被った身体的な被害は重大である。また,被
  害者には,何らの落ち度もないのに,安心できるはずの自宅で,白昼いきなり
  強盗の被害にあったもので,その被った精神的衝撃も計り知れない。さらに,
  被告人両名は,キャッシュカード3枚,現金約12万円,普通乗用自動車(時
  価160万円相当)等を強取したものであり,被害者に与えた財産的な被害も
  大きい。
 (4) 監禁(第2の2事実)について
   被告人両名は,被害者を,その身体の自由を奪った上で,上記のとおり強取
  した乗用車の後部トランクに積み込み,連れ回したあげく,11月下旬という
  初冬の時期に,一昼夜の間にわたって,山林内に同車のトランクに閉じこめた
  まま放置したものであり,その犯行態様は,被害者の生命の危険すら生じさせ
  かねない悪質かつ危険なものである。被害者は,上記の監禁を受けている間,
  前記強盗の際の傷害を負ったまま,初冬の寒さにさらされ,脱水症になるなど
  の身体的苦痛や,いつ助けが来るとも知れない状況の中で狭いトランク内に閉
  じこめられるという恐怖,またタイヤチェーンケースに排尿することを余儀な
  くされるなどの精神的苦痛を負ったものであり,その結果も重大である。
 (5) 各窃盗(第2の3の各事実)について
   被告人両名は,上記強取にかかるキャッシュカードを用いて,4か所のキャ
  ッシュコーナーにおいて,合計890万円の現金を窃取したものであり,その
  被害額は極めて多額であると言え,その結果は重大である。
 (6) その他の情状
   被害者は,本件犯行の影響について,「事件のことを思い出してしまって寝
  付きが悪く,40日間は睡眠薬を服用しており,現在も,お酒の力を借りて眠
  っている状況です。自宅に帰ってからは,呼び出しのベルが鳴っただけでビッ
  クとすることが暫く続き,最近は落ち着きましたが,それでも,夜になると事
  件の時の恐怖を思い出してしまいます」と検察官調書などで述べており,被害
  の精神的影響が極めて大きく残っていることが窺われ,「私にこのように悪質
  非道なことをした犯人たちを,私は絶対に許すことは出来ません。1日も早く
  捕まえて,出来ることなら私と同じ目に遭わせてやり,そして一生刑務所に入
  れておいて,二度とこのような事が出来ないようにして下さい」と警察官調書
  などで被害者が峻烈な処罰感情を述べているのも頷けるところである。
   それにも関わらず,被害弁償等慰謝の措置はこれまで被告人らによって何ら
  なされておらず,これからなされる見込みも少ない。
また,被告人らは,本件各犯行で得た現金を,犯行後数日のうちに,宝飾品
  の購入や旅行等の遊興のために支出したり,交際中の女性に送金したりして費
  消しており,犯行後の情状も芳しくない。
4 被告人Aは実刑前科だけでも9犯を有しているにもかかわらず,また被告人B
 は実刑前科1犯を含む前科6犯を有し,かつ前刑終了から約3年半しか経ってい
 ないにもかかわらず,本件各犯行を敢行したもので,被告人両名の法規範軽視の
 傾向は顕著であると言わなければならない。
5 以上のような,本件各犯行の動機,態様,結果等を併せ考えると被告人らの刑
 事責任は重い。
6 他方,被告人Aは捜査段階から事実関係を素直に認め反省していること,本件
 監禁を敢行した際,被害者の身体的な苦痛及び危険を多少減少させようとした様
 子も窺われること,被告人Bも,みずから警察に出頭して,事実関係を認め反省
 の弁を一応述べていること,その母親が被告人Bのために情状証人として出廷し
 ていることなど被告人らのためにそれぞれ酌むべき事情も認められる。
7 そこで,これらの事情一切を総合考慮し,それぞれ主文のとおりの刑にするの
 が相当と判断した。
(求刑 被告人Aにつき懲役13年,被告人Bにつき懲役12年)
(公判出席 検察官関夕三郎 国選弁護人小磯正康〔被告人Aにつき〕,矢田健一
 〔被告人Bにつき〕)
平成14年7月25日
前橋地方裁判所刑事部
         裁判長裁判官   長 谷 川   憲   一
            裁判官   吉   井   隆   平
            裁判官   丹   下   将   克

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