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平成13年(ワ)第2752号 損害賠償請求事件
口頭弁論終結日 平成14年9月24日
判    決
原      告   株式会社テクノ・サービス
訴訟代理人弁護士   玉 越 久 義
被      告   A
主    文
1 被告は、原告に対し、金180万円及びこれに対する平成13年3月29日
から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、これを20分し、その1を被告の負担とし、その余を原告の負
担とする。
4 この判決は、第1項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
 被告は、原告に対し、金5740万円及びこれに対する平成13年3月29
日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、労働者派遣業を営む原告が、原告の元従業員である被告に対し、被
告が原告の従前の取引企業と取引したことが、原告との雇用契約に基づいて被告が
負う在職中及び退職後の義務に違反する行為ないし不法行為に当たるとして、ま
た、被告が営業活動をするに際し、原告のパンフレット及び雑誌広告を利用してパ
ンフレットを制作しこれを配布したことが原告の著作権を侵害するとして、損害賠
償を請求した事案である。
1 争いのない事実等
(1) 原告は、自動車製造会社、空調機器の製造会社及び家庭用電化製品製造会
社の機械コントロール及びライン出張作業等を主な目的とする株式会社であり、製
造業を営む会社等から工場のライン作業等を請け負う、いわゆるアウトソーシング
を中心に全国で事業展開を行っている。
 なお、原告は、全国で労働者派遣業を営む株式会社スタッフ・サービスの
グループ会社である。
(2) 株式会社共和テック(以下「共和テック」という。)は、各種機械の製
造、組立、検査、据付業務等を主な目的として、平成11年12月24日に被告に
より設立された株式会社である(なお、共和テックは、本件訴訟の相被告であった
が、本件口頭弁論終結後の平成14年12月26日、原告との間で訴訟上の和解が
成立した。)。
 被告は、設立時の代表取締役に選任されていたが、平成13年6月25日
に、その地位を退任した。
(3) 被告は、平成11年6月21日に原告に入社し、同年12月5日に退職す
るまでの間、原告に勤務していた。
2 争点
(1) 被告の原告在職中の債務不履行及び不法行為
(2) 被告の原告退職後の債務不履行及び不法行為
(3) 著作権侵害を伴う違法な営業活動に関する不法行為
(4) 損害の発生及び額
第3 当事者の主張
1 争点(1)(被告の原告在職中の債務不履行及び不法行為)について
〔原告の主張〕
(1) 被告は、原告在職中、一貫して熊本北営業所長として、同支店管轄地域の
営業活動の責任者として顧客からの受注業務及び配属社員の配置を統括していた。
(2) 被告は、原告に在職中の平成11年11月ころから、「共和テック」の名
称で原告の受注先である有限会社トリオ電子(以下「トリオ電子」という。)、有
限会社池松機工(以下「池松機工」という。)に働きかけ、現に原告において受注
している業務請負作業につき、共和テックへの契約の変更を要請し、かつ原告配属
社員に対し共和テックに移籍するように勧誘するなどし、原告の配属社員3名を共
和テック名義で池松機工に配属せしめた。
(3) 被告の上記行為は、明らかに原告に対する雇用契約上の競業避止義務及び
誠実義務に反するとともに、原告に対する不法行為にも該当する。
〔被告の主張〕
(1) 原告の主張(1)記載の事実は否認する。
 被告は、熊本北営業所長の肩書が付与されていても、アルバイトとして雇
用されていたにすぎず、配属社員もいなかった。
(2) 同(2)記載の事実は否認する。
 被告は、原告を退職した後、共和テックの代表者として、トリオ電子と池
松機工に働きかけて契約をしたことはあるが、原告在職中に、原告が主張するよう
な行為をしたことはない。
 被告は、原告を退職する際、当時の上司であった佐賀支店のB支店長に対
し、当時の取引先の業務の引継をしたが、その後、B支店長から、トリオ電子、池
松機工をそのまま共和テックで管理して欲しいと依頼され、これらの会社と取引を
開始したものである。
(3) 同(3)記載の事実は争う。
2 争点(2)(被告の原告退職後の債務不履行及び不法行為)について
〔原告の主張〕
(1) 原告の行うアウトソーシング業は、製造業及び物流業を中心とした各企業
から一部業務を請け負い、その業務の繁忙等に合わせてタイムリーに、また適切な
人材を供給して請負業務を実施することが最も肝要なノウハウとなる。特に受注を
伸ばすためには、各企業からいつごろ、またどの程度の受注が発生する可能性があ
るかにつき、常に情報を蓄積しておく必要がある。さらに、取引先の多様な受注に
応じ、適切な能力を有する人材を即時供給できるような多数の人材を登録しておく
必要がある。
 また、アウトソーシング業においては、取引先企業に関する情報や、各企
業先において就労する配属者、派遣社員の情報の管理がとりわけ重要となり、原告
にとっても、こうした情報の漏洩は、致命的な信用失墜につながる。
 被告は、原告在職中はもとより、退職後も、原告に対し雇用契約上の付随
義務として、競業避止義務、誠実義務を負担しているものであり、とりわけ、取引
先企業の情報及び知識を利用して原告との競業を行う行為は、上記競業避止義務な
いし誠実義務に違反する債務不履行ないし不法行為を構成する。
(2) 被告は、原告退職直後である平成11年12月24日に、被告が原告在職
中から業務請負業として活動していた共和テックを株式会社共和テックとして法人
化し、同社の代表取締役に就任した。
(3)ア その後、被告は、平成12年11月ころ、原告の都城営業所長であった
Cに対し、共和テックの名称を使用した「C」名の名刺を送付し、同人自宅を共和
テック都城営業所として、同人をして共和テックの営業を行わせた。
イ さらに、被告は、原告の鹿児島東営業所長であったDに対し、遅くとも
平成12年8月ころまでの間に共和テックの名称を使用した「D」名の名刺を送付
し、共和テックとしての営業活動を行うよう働きかけた。
(4) 被告は、共和テックの代表者として、取引先及び配属者に関する原告の情
報を利用して、原告の取引先であるオーム工機、オーム電機、伊澤製作所、テクノ
デザイン、山清工業九州、江東電機及び株式会社南光(以下「南光」という。)と
取引を行った。特に南光については、原告が発注を受け配属者の選定を行ったとこ
ろで、共和テックは、Cから紹介を受けて、受注に至ったものである。
(5) 被告の上記(3)の行為は、原告の元熊本北営業所長である被告がその地位
を利用して原告の現職営業所長に対し、共和テックの営業を行わせるものとして極
めて悪質であり、また、上記(4)の行為は、被告の上記(1)記載の競業避止義務ない
し雇用契約上の義務に反するものである。
 したがって、被告のこれらの行為は、原告に対する債務不履行及び不法行
為に該当する。
〔被告の主張〕
(1) 原告の主張(1)記載の事実は争う。
 被告は、原告を退職した後は、原告に対し雇用契約上の付随義務として競
業避止義務及び誠実義務を負担するものではない。
(2) 同(2)記載の事実のうち、被告が原告在職中から共和テックの名称で業務
請負業として活動していた事実は否認し、その余の事実は認める。
(3)ア 同(3)ア記載の事実は認める。
 被告は、Cが原告を退職すると聞いて、退職後に採用する予定で名刺を
送付したものであり、Cが原告在職中に共和テックの取引に関与したことはない。
イ 同イ記載の事実について、被告が原告を退職した後の期間に同行為を行
ったことは認める。
 被告は、Dが原告を退職すると聞いて、退職後に採用する予定で名刺を
送付したが、その後、Dから何の連絡もなかったため、Dを通じて取引を行ったこ
とはない。
(4) 同(4)記載の事実は否認する。
(5) 同(5)記載の事実は争う。
 上記(1)記載のとおり、被告は、原告を退職した後は競業避止義務及び誠実
義務を負うものではない。
3 争点(3)(著作権侵害を伴う違法な営業活動に関する不法行為)について
〔原告の主張〕
(1)ア 原告は、平成11年7月ころ、株式会社コーブ・イトウ広告社(以下
「コーブ・イトウ広告社」という。)に対し、「株式会社テクノサービス 営業案
内」と題するパンフレット(甲4の1)及び「株式会社テクノサービス システム
案内」(甲5の1)と題するパンフレットの作成を依頼し、その納品を受けた。
 上記各パンフレットの著作権は、制作会社であるコーブ・イトウ広告社
に帰属するが、原告は、同社から複製権の実施について許諾を受けている。
イ 共和テックは、上記各パンフレットを、コーブ・イトウ広告社及び原告
に無断で複製し、著作権を侵害した上、各パンフレットを営業活動に用い、大量に
各事業所に頒布している。
(2)ア 原告は、平成10年7月ころ、フジサンケイアドワーク株式会社に対
し、「テクノサービスインフォメーション」と題する情報誌の作成を依頼し、同情
報誌には、「アウトソーシング」を平明に解説し、原告の業務内容を説明する広告
を掲載している(甲6の1)。原告は、同情報誌の著作権を有している。
イ 共和テックは、上記広告中、原告の名称を被告の名称に変更しただけの
パンフレット(甲6の2)をフジサンケイアドワーク株式会社及び原告の承諾なく
作成し、著作権を侵害した上、同パンフレットを営業活動に用い、大量に各事業所
に頒布している。
(3) 被告は、共和テックの代表取締役として、原告が上記各著作権を保有して
いることを認識しながら、故意に著作権法違反行為を伴う営業活動を実施し、もっ
て、原告に損害を与えたものであり、原告に対し、不法行為責任又は商法266条
の3の責任を負う。
〔被告の主張〕
 共和テックが原告主張の各パンフレットを各事業所に頒布したことは認める
が、その余の事実は否認する。甲6の1の広告は、キャッチフレーズを記載したも
のにすぎず、著作権法の保護の対象となる著作物とはいえない。
4 争点(4)(損害の発生及び額)について
〔原告の主張〕
(1) 原告は、①被告の原告在職中の債務不履行及び不法行為(争点(1))、②
被告の原告退職後の債務不履行及び不法行為(争点(2))、③被告による著作権侵害
を伴う違法な営業活動に関する不法行為(争点(3))により、次の損害を被った(こ
れらは選択的主張)。
ア 原告は、被告の上記行為により、トリオ電子及び池松機工に対する売上
額が少なくとも4800万円減少した。原告の利益率は30%であるから、原告
は、得られたであろう利益額1440万円(4800万円×0.3)の損害を被っ
た。
イ 原告は、被告の上記行為により、南光に対する売上額が少なくとも90
0万円減少し、得られたであろう利益額300万円(900万円×0.3)の損害
を被った。
ウ 原告は、被告の上記行為により、オーム工機、オーム電機、伊澤製作
所、テクノデザイン、山清工業九州及び江東電機に対する売上額の合計が少なくと
も約1億0300万円ないし1億1700万円程度減少し、得られたであろう利益
額約4000万円の損害を被った。
(2) よって、原告は、被告に対し、金5740万円(1440万円+300万
円+4000万円)及びこれに対する不法行為後の日にして訴状送達の日の翌日で
ある平成13年3月29日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損
害金を請求する。
〔被告の主張〕
 原告の主張事実は否認する。
第4 争点に対する判断
1 争点(1)(被告の原告在職中の債務不履行及び不法行為)について
(1) 原告は、被告が、原告に在職中の平成11年11月ころから、共和テック
の名称で原告の受注先であるトリオ電子や池松機工に働きかけ、原告が受注してい
た業務請負作業につき、共和テックへの契約の変更を要請し、かつ原告配属社員に
対し共和テックへの移籍を勧誘するなどし、原告の配属社員3名を共和テック名義
で池松機工に配属せしめたと主張する。
(2) この点に関し、当時原告の熊本南営業所長であったE作成の顛末書(甲
9)によれば、Eが、被告が原告を退職した後に被告に会った際、被告から、業務
請負の仕事をする意向であり、原告で担当していたトリオ電子、池松機工の稼働配
属社員を共和テックに移籍(スライド)する予定であることや、被告は、原告在職
中から、共和テックの設立登記手続を行い、トリオ電子や池松機工の幹部と配属社
員の移籍について了解を得ていたことなどを聞いたとの記載がある。
 しかし、被告が原告退職後に、共和テックの代表者として、トリオ電子と
池松機工に働きかけて契約したことは当事者間に争いがないが、原告在職中にトリ
オ電子や池松機工に対し配属社員を移籍するように働きかけた事実については、E
作成の顛末書中の上記記載部分があるのみであり、それも被告から聞いたという伝
聞の内容であり、その内容も必ずしも具体的、客観的なものとはいえない。
 また、乙3の1・2によれば、共和テックがトリオ電子や池松機工との間で
生産管理業務の請負契約を締結したのは平成12年1月5日以降であることが認め
られる。さらに、甲10、13によれば、原告の配属社員としてトリオ電子で働い
ていたFは、平成12年1月5日ころ、被告から他の会社へ移った方が良いと言わ
れたこと、同じく原告の配属社員として池松機工で働いていたGは、平成11年1
2月ころ(12月の何日かは明らかではない。)、被告からそのまま勤務しておい
てくれと言われて引き続き池松機工で働いていたところ、後日支払われた給料は、
原告ではなく共和テックからの支払となっていたことが認められる。しかし、いず
れの事実も、被告が、原告を退職する前に、トリオ電子や池松機工の配属社員に対
し共和テックへの移籍の働きかけをしたことを裏付けるものではない。
 その他に原告の前記主張を裏付ける証拠もないから、上記顛末書のみによ
って、被告が、原告在職中に、トリオ電子や池松機工に対し共和テックへの契約の
変更を要請し、あるいはトリオ電子や池松機工の原告配属社員に対し共和テックへ
の移籍を勧誘するなどした事実を認めることはできないものというべきである。
2 争点(2)(被告の原告退職後の債務不履行及び不法行為)について
(1) 被告が原告退職後に競業避止義務(ないし職務上知り得た秘密を利用しな
い義務)を負うか否かについて
ア 証拠(甲2、乙1、証人H)によれば、次の事実が認められる。
(ア) 原告は、製造業を営む各企業から、ライン作業等製造過程の一部に
つき業務を請け負い、原告に登録された配属社員を各製造現場に配置し、請負業務
に当たらせている。そして、原告は、各地に支店及び営業所を設置し、各営業所に
営業所長を配置した上で、営業所長を当該営業所管轄の責任者として、当該営業所
を管轄する地域の受注活動及び配属社員の配置を行わせる態勢をとっている。
(イ) このアウトソーシング事業を実施するに際して、各企業がアウトソ
ーシングを行うニーズがあるかを把握することや、各企業から業務請負の依頼があ
った際に、的確に人材を調達、配属するために、予備人材としての登録者を確保す
ることが重要となる。
 原告は、登録者を確保するために、業界誌、職業紹介の募集広告誌、
新聞等の折込み広告によって登録者を募集し、この募集のために一般管理費の約2
割にも及ぶ経費を支出し、また、企業のニーズを把握するために、営業マン、営業
所長等が、労力をかけて巡回セールスを行い、このために人件費、パンフレット制
作費等の経費を支出している。
(ウ) 原告では、一定のエリアを統括する統括支店を設置しており、そこ
で、企業のニーズを記載した受注カード、登録者に関する情報を記載したキャリア
カード及び登録カードの各原本を、鍵のかかるキャビネットに保管している。そし
て、営業所長は、受注を受けた企業の受注カード並びに配属社員のキャリアカード
及び登録カードのコピーを受け取ることになっており、これらの原本が渡されるこ
とはない。
(エ) 被告は、平成11年6月21日に原告に入社し、熊本北営業所長と
して勤務するようになったが、その際、「在職中、退職後を問わず、職務上知り得
た会社の秘密事項(派遣社員の個人情報、顧客企業に関する情報を含む)を第三者
に漏洩しない。又、他に利用しない。」(5項)、「前項(5項)違反により会社
に損害を与えた場合は、賠償請求に応ずる。」(6項)との内容を含む誓約書(甲
2)に署名押印して原告に差し入れた。また、原告と被告との間で取り交わされた
雇用契約書(乙1)にも、秘密遵守に関して同様の条項が記載されている。
 しかしながら、上記の誓約書、雇用契約書中には、退職後においても
競業避止義務を負う旨の条項はない。
 また、被告が原告に勤務していた当時は、原告の就業規則に、退職後
の競業避止義務に関する規定はなかったが、被告が退職後に競業行為を行ったこと
がきっかけとなって、就業規則を変更し退職後の競業避止義務に関する条項を付加
した。
イ そうすると、被告は、原告に対し、上記誓約書の差し入れにより原告を
退職した後においても職務上知り得た原告の秘密事項(派遣社員の個人情報、顧客
企業に関する情報を含む。)を第三者に漏洩したり、他に利用しないという契約上
の秘密保持義務を負っていたものというべきである。
 しかし、被告が原告に勤務していた当時は、原告の就業規則に退職後の
競業避止義務に関する規定はなく、原告と被告との間において、社員が退職後に競
業避止義務を負う旨の合意をした事実は認められず、その他、原告における被告の
地位、在職期間、原告の業務形態を考慮しても、被告が原告を退職した後も競業避
止義務を負うことを根拠づけるような事情はうかがわれない。
(2) 被告の上記秘密保持義務(派遣社員の個人情報、顧客企業に関する情報等
を第三者に漏洩したり、他に利用しない義務)の違反行為の有無について
ア 被告は、原告の熊本北営業所長としてトリオ電子、池松機工に対する配
属社員の派遣業務を担当していたから、トリオ電子や池松機工の受注カードに記載
した各企業のニーズ等の情報や、原告がトリオ電子や池松機工に派遣していた配属
社員のキャリアカード及び登録カードに記載された同社員の技能、履歴等の個人情
報を把握していたものと推認される。
 被告は、前記のとおり、原告を退職後、共和テックを設立して人材派遣
業務を開始し、それまで原告が派遣していたトリオ電子や池松機工への配属社員
を、共和テックが派遣することとしたものであるが、被告の同行為は、原告在職中
に得たトリオ電子、池松機工に関する企業情報や、これらの各会社に配属されてい
た登録社員の情報を、そのまま自らの業務のために用いた行為であるといわざるを
得ず、被告の同行為は、上記(1)イ記載のとおり、被告が原告に対して負う契約上の
秘密保持義務に違反するものというべきである。
イ なお、被告は、原告を退職する際、当時の上司であった佐賀支店のB支
店長に対して当時の取引先の業務の引継ぎをしたが、その後、B支店長から、トリ
オ電子、池松機工をそのまま共和テックで管理して欲しいと依頼され、これらの会
社と取引を開始したものであると主張し、乙4(被告作成の陳述書)にはこれに沿
う記載部分がある。
 しかし、証人Hによれば、Hが被告を退職した後、Bに対して被告がト
リオ電子や池松機工に対する派遣業務を行うことになった事実関係を尋ねたとこ
ろ、Bからは、被告が主張するような事実関係の報告を受けてはおらず、かえっ
て、被告の退職後の派遣業務には何ら関与していないとの報告を受けたことが認め
られ、その他に被告の主張を裏付ける証拠もないから、被告の上記主張を認めるこ
とはできない。
 なお、仮に被告が主張するような事実経緯があったとしても、原告社内
において、Bが、原告が顧客から受けた業務委託の受注を他社に振り替える権限を
有していたことを認めるに足りる証拠もないから、被告がそれまで原告の熊本北営
業所長として行ってきたトリオ電子、池松機工への配属社員の派遣業務を共和テッ
クの名で行うことについて、原告の承諾があったとみることはできず、原告の社員
であるBが、秘密保持義務に違反する被告の上記行為に関与したということができ
るとしても、被告の行為の違法性が阻却されることにはならない。
ウ また、原告は、被告が、オーム工機、オーム電機、伊澤製作所、テクノ
デザイン、山清工業九州、江東電機、南光の各会社との間で、人材派遣業務を行っ
たことが、原告との義務に違反するものであると主張する。
 しかし、被告が原告に対し退職後の競業避止義務を負わず、派遣社員の
個人情報、顧客企業に関する情報等の秘密情報を第三者に漏洩したり、他に利用し
ないという契約上の秘密保持義務を負っていたにすぎないことは、前記のとおりで
ある。そして、証人Hによれば、上記各会社は、原告が人材派遣業務を行っていた
取引先であって、被告が原告在職中に派遣業務を担当していた会社ではないことが
認められるが、かつて原告が人材派遣業務を行っていた取引先であるというだけ
で、被告が同会社との間で人材派遣業務を行う行為が、原告在職中に得た派遣社員
の個人情報、顧客企業に関する情報等を利用したものということはできず、その
他、被告が上記義務に違反して、同各会社に対し人材派遣業務を行ったことを認め
るに足りる証拠はない。
エ(ア) なお、原告は、被告が原告の都城営業所長のCや、鹿児島東営業所
長のDに対し、共和テックの名称を使用した名刺を作成して送付し、同人らに共和
テックのための営業活動をさせたことが、競業避止義務違反ないし不法行為である
と主張する。
(イ) この点に関し、証拠(甲11、12、乙4、証人H)によれば、次
の事実が認められる。
a 被告は、原告退職後、当時原告の都城営業所長であったCに会い、
Cが原告をすぐにでも退職する意向を有していたことから、退職後は共和テックが
採用すると約束し、その後、Cに対して、C名義の共和テックの名刺を送付した。
Cは、原告在職中であるにもかかわらず、南光の所在地が鹿児島県内であって担当
エリア外であったため、共和テックの名刺を用いて営業し、その結果、共和テック
が、南光から3名の人材派遣の受注を得た。なお、Cは、南光以外には共和テック
の名刺を使っていない。
 また、共和テックの募集広告には、連絡先としてCの自宅の住所が
記載されていた。
b 当時原告の鹿児島東営業所長であったDは、被告が原告退職後に共
和テックとして営業を始めたことを聞いていたが、平成12年3月ころ共和テック
の募集広告を見て被告に電話をしたところ、被告は、「テクノ(原告)を辞めた
ら、(共和テックの仕事を)やって下さいよ。書類を送りますから。」と言って、
その後D名義で作成した共和テックの名刺をDの下に送付した。なお、Dは同名刺
は一枚も使用しなかった。
(ウ) Cに関する上記事実関係についてみると、被告は、Cが原告在職中
であることを認識しながら、Cに対し、同人が原告に対して負う在職中の競業避止
義務に反し、共和テックと南光との間の取引を締結するように積極的に働きかけた
ものではないというべきである。既に述べたとおり、被告は原告を退職後には競業
避止義務を負っていない以上、Cの行為が原告に対する競業避止義務違反であると
はいえても、被告の行為が原告に対して負う雇用契約上の義務違反ないし不法行為
に当たるとはいえない。
 また、Dに関する上記事実関係についてみると、Dは、共和テックの
名刺の送付を受けたものの、これを1枚も使用していないのであるから、被告が、
同行為について、原告に対して負う雇用契約上の義務違反ないし不法行為による責
任を負うものではない。
3 争点(3)(著作権侵害を伴う違法な営業活動に関する不法行為)について
(1) 「株式会社テクノサービス 営業案内」と題するパンフレット(甲4の
1)及び「株式会社テクノサービス システム案内」と題するパンフレット(甲5
の1)の複製行為について
 原告は、これらのパンフレットの著作権はコーブ・イトウ広告社に帰属
し、同会社から複製権の実施を許諾されていることを理由に、共和テックが各パン
フレットを複製して頒布した行為が原告の各パンフレットに係る著作権の侵害に当
たると主張する。しかし、原告の上記主張を前提としても、これらのパンフレット
の著作権はコーブ・イトウ広告社に帰属していて、原告は複製権の実施を許諾され
ているものにすぎないというのであるから、共和テックが各パンフレットを複製し
て頒布した行為は、コーブ・イトウ広告社に対する複製権侵害には当たるとして
も、原告に対する複製権侵害を構成するものではない。原告の上記主張は失当であ
る。
(2) 「アウトソーシング」についての情報誌の広告(甲6の1)の複製行為に
ついて
ア 証拠(甲6の1、証人H)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、フジサ
ンケイアドワーク株式会社に「テクノサービスインフォメーション」と題する情報
誌の作成を依頼して、これを頒布しており、同情報誌に掲載された「アウトソーシ
ング」に関して説明した広告(甲6の1)は、原告において作成したもので、原告
が著作権を有するものであることが認められる。
イ 被告は、同広告は著作物性を欠くと主張するので、この点について判断
する。
(ア) 同広告は、アウトソーシングの経営戦略上の意義や業務内容を説明
する内容のものであるが、冒頭に「ビジネスの新しい合い言葉、それは『アウトソ
ーシング』。」と記載し、その下に目立つように「(小声で…)アウトソーシング
って知ってる?」「エッ!知らない?」「今日の朝礼で、社長が言ってただろ!こ
れからは、アウトソーシングだって!」「…で、いったいどんな意味?」「そ…そ
れは…」と各文言が漫画の吹出しのように丸枠で囲まれており、しかも、その文字
の大きさや太さに変化をつけて、あたかも対話がなされているように表現されてい
る。その上で、「アウトソーシング」の文字が左右いっぱいに広がる大きさで書か
れており、全体として、「アウトソーシング」が将来性あるビジネスとして強調さ
れる構成となっている。そして、アウトソーシングの経営戦略上の意義や業務内容
が説明されている。
(イ) 以上のような広告の記載内容に加えて、文字の配置、文字の大きさ
及び太さの変化等を考慮すると、同広告は、思想又は感情を創作的に表現したもの
であって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものとして、著作権法2条1
項1号の著作物と認めるに足りるものというべきである。
ウ 共和テックがパンフレット(甲6の2)を各事業所に頒布したことは当
事者間に争いがない。また、共和テックが頒布したパンフレット(甲6の2)は、
その記載内容を見ると、原告の広告(甲6の1)の社名・住所等の記載部分を共和
テックの社名・住所等の記載に変更し、メモ欄に共和テックの担当営業社員の名刺
のコピーを貼付したものであり、上記広告の記載の大部分をそっくり使用してお
り、原告が著作権を有する広告(甲6の1)を複製したものであることが認められ
る。
(3) 被告は、原告に勤務し営業活動をしていたから、前記広告が原告の著作物
であることを知っていたものと推認され、共和テックの代表取締役として、これを
原告に無断で複製した行為は、原告の広告の著作権(複製権)を侵害するものとい
える。
4 争点(4)(損害の発生及び額)について
(1) 被告が、原告との契約上の秘密保持義務(上記2(1)イ)に違反して、ト
リオ電子及び池松機工に対し配属社員をスライドさせたことについて
ア 証拠(甲27、28、乙3の1・2、証人H)によれば、共和テックは、平
成12年1月から4月までの間、トリオ電子に対し男子1名、女子1名を、池松機
工に対し男子2名、女子1名を派遣したが、これらはすべて、以前原告が各企業に
派遣していた派遣社員であったこと、派遣社員1名当たりの月間平均売上額は、概
ね25万円であること、原告の平成11年後の業務請負の売上高は約206億円で
あるのに対し、売上利益は約50億円であり、その売上利益率は約24%(50億
円÷206億円)であることが認められる。
イ 一方、証拠(甲13、22、27、乙3の1・2、証人H)によれば、池松
機工に配属されていたGは平成12年3月ころに池松機工を辞めたこと、原告はト
リオ電子との契約を平成12年1月14日に終了させたものの、同年2月28日に
派遣業務の受注が復活したこと、共和テックは、通常3か月単位で派遣社員と契約
すること、派遣社員は、正社員として勤務したいという意向が強く、そうした勤務
先が見つかれば辞めてしまったり、また、派遣先の仕事が自分に合わないとか、職
場の人間関係が合わない等の理由で辞めるケースがあることとの事情が認められ
る。
ウ 上記イの事情を考慮すると、被告の上記義務違反により、原告が被った
損害、すなわち、被告の同行為と相当因果関係にある原告が得られたであろう利益
額の算定に当たっては、被告のトリオ電子及び池松機工に対する6か月間の売上額
を基にするのが相当である。
 そうすると、原告の損害は、被告がトリオ電子及び池松機工に派遣した
配属社員の人数(5名)に、各配属社員の派遣行為により原告が得られたであろう
利益額(月額25万円×0.24)及び上記算定期間(6か月)をそれぞれ乗じて
得られる180万円(5名×25万円×0.24×6か月)となる。
(2) 共和テックが、原告の著作物を無断複製したパンフレット(甲6の2)を
各事業所(取引先)に頒布したことは前記のとおりであり、原告は、同著作権侵害
行為により、原告の派遣業務の取引先が奪われたと主張する。
 しかし、被告ないし共和テックが、上記(1)アのスライド行為以外に原告の
派遣業務の取引先から受注を受けたことがあるとしても、それは、被告ないし共和
テックの営業活動の成果というべきであり、同パンフレットの頒布行為がその営業
活動にいくらかの寄与をしている可能性は否定できないとしても、同パンフレット
の頒布行為がなければ共和テックが原告の派遣業務の取引先の会社から受注を受け
ることができなかったという関係にあることを認めるに足りる証拠はない。
 そうすると、被告ないし共和テックが同パンフレットを制作頒布したこと
と原告の取引先が奪われたこととの間には相当因果関係が認められないから、パン
フレットの無断複製行為を理由とする損害賠償請求は理由がない。
(3) 以上によれば、原告の請求は、被告に対し、債務不履行による損害賠償と
して180万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成13年3月2
9日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限
度で理由がある。
5 よって、主文のとおり判決する。
      大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官   小  松  一  雄
裁判官   阿  多  麻  子
裁判官   前  田  郁  勝

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