弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴をいずれも棄却する。
     控訴費用は控訴人らの負担とする。
         事    実
 〔申立〕
 控訴人ら代理人は「原判決を取り消す。本件を静岡地方裁判所に差し戻す。」と
の判決を、被控訴人ら代理人は主文第一項同旨の判決をそれぞれ求めた。
 〔主張〕
 当事者双方の主張は次のとおり付加、訂正するほか、原判決事実摘示中「第二 
当事者の主張」のとおりであるから、これを引用する。
 一 原判決二枚目表七行目の「日蓮正宗宗制及び宗規」を「日蓮正宗宗制(以下
『宗制』という。)及び日蓮正宗宗規(以下『宗規』という。)」と改める。
 二 同三枚目表末行の「能化」の次に「(僧階が権僧正以上の者)」を加え、同
裏二行目の「ここで」から三行目の「称する。」までを削除する。
 三 同四枚目表三行目の「総監、重役」の次に「(総監、重役は法人事務の決定
機関である責任役員会の構成員である〔宗制六条二項〕。)」を加え、五行目の
「(同条三項)。ここで総監及び重役とは、」から七行目末尾までを「(宗規一四
条三項)。」と、同裏八、九行目の「日蓮正宗宗規」を「宗制、宗規」とそれぞれ
改める。
 四 同五枚目裏四行目の「A上人遷化後に」の次に「法主選定のための」を加え
る。
 五 同七枚目裏六行目の「教義」の次に「上」を加え、八行目の「ここで」を削
除し、一〇行目の「書き写すことである。」を「書き写すことであるが、」と、末
行から八枚目一行目の「法主が書写したもの(曼荼羅と呼ばれる。)は」を「法主
が書き写したものは曼荼と呼ばれ、これが」とそれぞれ改める。
 六 同一〇枚目裏五行目の「血脈相承は」から九行目末尾までを「法主はその後
継者としてふさわしい僧侶ただ一人を選んで血脈相承を行うものとされている(こ
のような血脈相承方法を『唯授一人』という。)。」と、末行の「『口伝相承』に
より」から同一一枚目表二行目末尾までを「口頭で行われ、仏法における重要な相
承方法とされ、口伝と呼ばれている。」とそれぞれ改める。
 七 同一一枚目表四、五行目の「秘伝とされる。その意味は、血脈相承の」を
「、その」と、五、六行目の「秘密とされるということである。」を「秘密とされ
(秘伝)、」とそれぞれ改める。
 八 同一三枚目表一〇行目の「確然と」を「画然と」と改め、裏七行目の「日蓮
正宗」を削除する。
 九 同一四枚目表三行目の冒頭に「同条は」を加え、同じ行の「規定」から四行
目の「同条は、」までを「規定であり、」と、同裏末行の「表明したものであ
る。」を「表明したもので、」とそれぞれ改める。
 一〇 同一六枚目表一行目の「その者を」を「右方法によつて定められた次期法
主の候補者を」と改め、同裏五行目の冒頭に「法主の就任時期については宗規中に
明文の規定はないが、被控訴人日蓮正宗の不文の準則によつて『当代法主の退位又
は遷化のとき』と定まつている。従つて、」を加える。
 一一 同一七枚目表一〇行目の「原告らにおいても」をから同裏一行目の「確定
した。」までを「控訴人らは控訴人らが主体となつて昭和五四年八月二五日に開い
た第三回壇徒大会において、被控訴人Bを第六七世法主と仰ぎ信伏随従するとの信
仰を積極的に表明し、その後も約一年半にわたり被控訴人Bを法主・管長として仰
いでいた。」と改める。
 一二 同一八枚目表四行目の末尾に行を改めて次のとおり加える。「しかし、A
上人から血脈相承を受けた者は被控訴人B以外には存在しないから、被控訴人Bの
血脈相承を否定することは、日蓮正宗の正統教義によれば、同宗における『宗祖の
血脈』が断絶することを意味し、同宗は存続し得ないことになる。そこで、正信会
の代表者らは被控訴人Bの血脈相承を否定するにあたつて、宗祖の血脈は法主から
法主へのみ秘伝されるものではなく、正しい大衆に相承されるという、いわゆる
『血脈二管論』を骨子とし、結論として正信会にこそ正しく宗祖の血脈が受け継が
れているとの、血脈相承に関する日蓮正宗の根本教義に真つ向から違背する内容の
異端教義を創唱するに至つた。」
 一三 同二一枚目表五行目の「関与しない者」を「関与し得ない者」と改める。
 一四 同二二枚目表二行目の冒頭に「憲法は国民が公共の利益に反しない限り自
由なる信仰をなすことを保証するとともに、信仰に対する国家的保護を禁止してい
るところ、本来権利能力なき社団である宗教団体に法人格を付与するために宗教法
人法が制定された(同法一条一項)。そして、宗教団体に法人格を付与するについ
ては、法人の機関、権限等について明確に規定させて宗教団体の世俗的側面につい
ては国法の関与するところとし、反面、宗教的側面については、国家機関の関与す
ることを禁止した。しかして、同法八五条によつて宗教団体に対する国家機関によ
る干渉が禁止されているのは、あくまで『信仰、規律、慣習等宗教上の事項』につ
いて調停、干渉すること、及び『宗教上の役職員の任免進退』に関し勧告、誘導、
干渉することであつて、法人組織上の機関に関する争いについては、むしろ国法が
関与することを明定しているものと解すべきである。従つて、ある者が」を、三行
目の「被告として」の次に「右」を、七行目の「そして、」の次に「本件のよう
に」を、同じ行の「宗教活動上の」の次に「主宰者たる」をそれぞれ加え、九行目
の「場合において、裁判所が」を「場合には、宗教上の地位の承継に関する選任準
則は裁判所が認識しうる法規範としての選任準則でなければならないし、かかる選
任準則は選任の効果が一定の客観的事実に係わるものとして裁判所において選任行
為の存否の認定判断ができるものでなければならない。従つて、裁判所は」と改
め、末行の「宗教活動上の」の次に「主宰者たる」を加え、裏三行目の「本件は」
を「本件においては」と改め、五行目の「適法に法主に就任し」から末行の「本件
では、」までを削除する。
 一五 同二三枚目表二行目の「とされている。したがつて、本件においては」を
「かどうかが争われているのであるから」と、六、七行目の「争点となる。」を
「について審理、判断されるへきである。」とそれぞれ改める。
 一六 同二五枚目表九行目の「選定を受けた者が」の次に「他に任命、認証、承
認等の手続を経ることなく」を、同裏五行目の「同様選定により」の次に「直ち
に」をそれぞれ加える。
 一七 同二八枚目表二行目の「として述べるところは、」を「、信仰上の信念と
深くかかわると主張する血脈相承は種々の意義で用いられているが、少なくとも法
主選任準則との関係においては、宗祖の悟りの承継者もしくは教団の統率者として
の権威付けの儀式という面と、宗規一四条二項の『選定』の意思表示たる面を有
し、前者の面においてはこれを宗内に周知させる必要があり、血脈相承が行われた
ときには宗内に公示されるから、右公示がなされたことは、法主選任準則の要件事
実を推認させる間接事実となり、その存否は裁判所において認定することができ、
また後者の面においては法主選任という組織法的効果をもたらす意思表示の存否を
問題とすれば足り、右意思表示そのものは何ら教義的色彩を帯ひるものではないか
ら、これについても裁判所による認定は可能である。従つて、被控訴人らの主張
は、」と改める。
 〔証拠〕(省略)
         理    由
 一 控訴人らは、いずれも自らが被控訴人日蓮正宗の教師の資格を有する僧侶
で、同被控訴人に包括される各末寺の住職、主管又は在勤教師であり、かつ、住職
又は主管たる控訴人らは同時に各末寺の代表役員又は責任役員たる地位にあると主
張する者であるところ、控訴人らの本件訴えは、被控訴人Bの法主への選任手続が
違法もしくは不存在であるにもかかわらず、同被控訴人において被控訴人日蓮正宗
の法主に選任され、その結果として代表役員及び管長の地位にあると自称している
として、被控訴人日蓮正宗及び被控訴人Bに対して同被控訴人が被控訴人日蓮正宗
の代表役員及び管長の地位を有しないことの確認を求めるものである。
 二 そこで先ず、本件訴えについて控訴人らが原告適格及び訴えの利益を有する
か否かについて判断する。
 1 成立に争いのない甲第一号証、第一〇ないし第一二号証、第四五号証、乙第
五号証の一ないし七、第六号証の一、二、第八号証、第九号証、第一一号証、第二
二、第二三号証、第三三ないし第三五号証、第三七号証、第三九ないし第五三号
証、第五六、第五七号証、原本の存在・成立につき争いのない甲第二九号証、第三
〇号証、乙第三〇号証の一ないし八、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認
められる乙第二五号証、第二九号証の一ないし五及び弁論の全趣旨を総合すると、
次の事実が認められる。
 (一) 被控訴人日蓮正宗は、明治九年二月一九日に大石寺、北山本門寺、京都
要法寺、富士妙蓮寺、小泉久遠寺、西山本門寺、伊豆実成寺が日蓮宗興門派として
勝劣派から分離し、さらに、明治三三年九月一八日に大石寺が日蓮宗富士派として
右興門派から分離独立し、明治四五年六月七日に日蓮正宗と公称するようになり、
昭和二六年に宗教法人法が施行されてからは同法に基づく宗教法人組織となり、現
在の被控訴人日蓮正宗に至つている宗教団体であつて、宗祖日蓮が、建長五年(西
暦一二五三年)に立宗を宣したのを起源とし、弘安二年(西暦一二七九年)日蓮が
本門戒壇の本尊を建立したことによつて宗体の確立を見たものとされている。
 (二) 被控訴人日蓮正宗においては、その宗教上の最高権威者は法主と呼称さ
れるが、法主は宗祖日蓮からその仏法の一切を承継した代々の承継者として位置付
けられており、その承継もしくは承継行為は「血脈相承」と呼ばれ、あたかも父か
ら子へと血統が受け継がれていくのと同様に、宗祖の遺した仏法の一切が、中断す
ることなく、また、いささかも変えられることなく、そのまま代々の法主によつて
承継されるものであるとされている。
 (三) そして、被控訴人日蓮正宗の昭和五三年一〇月七日改正の宗制、宗規
(以下「現行の宗制、宗規」という。)においても、被控訴人たる宗教団体は、
「宗祖日蓮立教開宗の本義たる弘安二年の戒壇の本尊を信仰の主体とし、法華経及
び宗祖遺文を所依の教典として、宗祖より付法所伝の教義をひろめ、儀式を行」う
こと等をその目的とし(宗制三条)、「外用は法華経予証の上行菩薩、内証は久遠
元初自受用報身である日蓮大聖人が、建長五年に立宗を宣したのを起源とし、弘安
二年本門戒壇の本尊を建立して宗体を確立し、二祖日興上人が弘安五年九月及一〇
月総別の付嘱状により宗祖の血脈を相承して三祖日目上人、日道上人、日行上人と
順次に伝えて現法主に至る」ことをその伝統とする(宗規二条)と規定し、法主の
地位については、宗祖以来の唯授一人の血脈を相承」する者である(宗規一四条一
項)と定め、その権限としては「本尊を書写し、日号、上人号、阿闍梨号を授与す
る」こと(同条同項)、次期法主を選定すること(同条二項)、前法主に本尊の書
写、日号の授与を委嘱すること(同条六項)が認められている。そして、被控訴人
日蓮正宗が明治三三年に興門派から分離独立した直後に制定された日蓮宗富士派宗
制寺法(右宗制寺法は数次の改正を経た後、その名称を宗制、宗規と変更して現行
の宗制、宗規に至つている。)以来今日に至るまで同趣旨の規定が宗制、宗規にお
かれていた(もつとも、右宗制寺法以後、少なくとも昭和三九年一〇月一五日改正
の宗制、宗規までの間は、「管長は宗祖以来唯授一人の法脈を相承して法主と称す
る」旨定められていたが、その趣旨は現行宗制、宗規と同一てある。)。
 (四) 一方被控訴人日蓮正宗においては、管長は一宗を総理し、法主の職にあ
る者をもつて充てる(宗規一三条)とされ、代表役員の就任の前提となる法主につ
いては、法主が次期法主を選定し、法主がやむを得ない事由により次期法主を選定
することができないときは、総監(代表役員によつて任命される代表役員の補佐者
て、宗務院の最高責任者として宗務を執行し、代表役員、重役とともに責任役員と
なる〔宗制六条二項、一六条ないし一八条〕。)、重役(宗会で選定され、三名の
責任役員の一人となる者〔宗制六条二項〕。)及び能化(権僧正の僧階の者〔宗規
一九一条二項〕。)が協議して、次期法主を選定するとされており(同一四条二、
三項)、管長の具体的権限としては被控訴人日蓮正宗の責任役員会の議決に基づい
て、「1」宗制の制定、改廃及び公布、「2」宗会の招集、停会及び解散、「3」
訓諭、令達の公布、「4」宗務、布教、教育、その他の職制並びに役職員の認証、
任免、「5」住職、主管の任免及び僧階の昇級、並びに寺院教会の等級の認証、
「6」僧侶、檀徒、信徒に対する褒賞及び懲戒並びに懲戒の減免、復級、復権、又
は僧籍の復帰、「7」被控訴人日蓮正宗並びに寺院及び教会の財産の監督、「8」
宗費の賦課徴収、義納金の徴収等の外に、教義に関して正否を裁定する権限を有し
ており(宗規一五条)、法主及び法主の地位を前提とする管長を解任する手続につ
いては現行の宗制、宗規上なんら規定がなく、法主が退任又は遷化しないかぎり
は、法主及び法主の地位を前提とする管長が代わることはない。
 (五) また、被控訴人の日蓮正宗の代表役員は、三名の責任役員のうちの一名
であつて(宗制五条)、管長の職にある者をもつて充て(同六条一項)、同被控訴
人を代表し、その事務を総理する(同八条)ものであつて、その権限としては、
「1」宗会の招集(同二四条一項)、「2」宗会において選出された宗会議長、副
議長の認証(同二五条一項)、「3」参議会を構成する半数の参議の任命(同二九
条二項)、「4」寺院又は教会の設立等に対する承認(同四〇条)、「5」寺院又
は教会が不動産等の処分等をする場合の承認(同四一条)等であるが、代表役員を
解任する手続については現行の宗制、宗規上には規定がなく、その地位の前提たる
法主、管長の地位に変動が生じないかぎり代表役員の地位も変動することがない。
 以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。
 以上認定の事実によれば、被控訴人日蓮正宗の管長の権限のうち、教義に関して
正否を裁定する以外の権限は、おおむね管長の宗教上の地位に基づく固有の権限と
いうよりは、一宗を総理する管長としての団体法上の地位から派生する権限である
ということができるが、少なくとも教義に関して正否を裁定する権限は、管長の宗
教上の地位から派生する権限であると解され、そうすると管長は団体法上の地位と
宗教上の地位とを併有するものということができ、また、代表役員は宗教法人法に
基づき被控訴人日蓮正宗を代表する地位を有するものということができる。
 2 控訴人らの本件訴えは、被控訴人Bが同日蓮正宗の管長又は代表役員の地位
にあることによつて、控訴人らの具体的権利が害され、又は控訴人らと同日蓮正宗
との法律関係に影響が生ずることを前提として、その具体的権利又は法律関係の確
認を求めるものではなく、もつぱら一般的に被控訴人Bが同日蓮正宗の管長及び代
表役員の地位を有しないことの確認を求めるものであり、しかも、同被控訴人の管
長及び代表役員の地位、権限が前記認定のとおりであることからすれば、被控訴人
Bがその地位にあることから直ちに控訴人らの具体的権利又は法律関係に何らかの
影響があるとも解されない。 ところで、被控訴人日蓮正宗において管長及び代表
役員の地位が団体としての活動上(管長については信仰上も)極めて重要なもので
あることは前記のとおりであるから、特定の個人がこの地位を有するかどうかが末
寺所属の僧侶にとつて重大な関心事であり、殊に信仰上の問題については直接の影
響を及ぼしうるものであることは明らかであるし、特定の個人が右地位を有するか
どうかによつて被控訴人日蓮正宗の活動や団体内部の諸関係が大きな影響を受ける
可能性があることも否定できないところである。しかし、右のような信仰上の影響
は、その性質からいつて、それ自体について法的救済を求めることができるような
<要旨>ものとはいい難い。また、信仰活動以外の面での影響に関して法的救済の適
否を考えると、一般に社団的</要旨>な性格を有する団体において通常見られるよ
うに、その構成員が団体の理事者等の役員の任免に関与しうるものとされている場
合には、構成員たる地位は役員の任免に関する団体法上の権利を包含するものてあ
り、特定の者が当該役員たる地位を有するかどうかは右団体法上の権利に直接関わ
る問題であるということができるから、構成員は原則としてその特定の者につき役
員たる地位の存否を争う適格と法律上の利益を有するものと解すべきであるが、こ
れに対し構成員が右のような権利を有しない場合においては、その構成員は、自己
の権利義務又は直接自己に関わる具体的法律関係の存否の問題を離れて、いわば一
般的に、特定の者についてその役員たる地位の存否を争う適格及び法律上の利益を
当然には有しないものと解すべきである。もとより、このような訴訟を許すことに
は、それによつて団体内部の紛争を対世的効力ある判決により解決することができ
る(最高裁判所昭和四四年七月一〇日第一小法廷判決・民集二三巻八号一四二三頁
参照)という利点が存するが、他方において、単に団体の構成員であることによつ
て当然にこの種の訴訟を提起する適格を有するものと解することは、個々の場合に
おいて当該団体の具体的性格に即して定まるべき構成員の法的地位を画一的に取り
扱い、当該団体の準則上役員の任免に容喙しえない者にも右のような訴訟上の請求
の形でその選任に異議を唱えることも広く許すことを意味し、その結果として団体
の自律性を害し、いたずらにその内部関係の紛糾を招くことにもなりかねないので
あり、前記のようにこのような訴訟の実体判決が対世的効力を有することも、むし
ろそのような強力な効果を有する訴訟を提起しうる適格を広く認めることの妥当性
を疑わしめるものである。これらの点を考慮すると、上記のようにこの種訴訟の原
告適格を緩やかに解する見解は採りえないものといわなければならない。そこで本
件の被控訴人日蓮正宗の場合についてみると、前記のように、その管長、代表役員
の地位の前提となる法主たる地位は歴代の法主の間の血脈相承に基づいて取得され
るところ、前掲甲第一号証及び弁論の全趣旨によれば、右血脈相承は、宗教上の秘
儀としてその内容の全体を客観的に把握することのできない性質のものであるが、
現法主(ときによつては前法主。宗規一四条五項)が特定の者を次期法主とする意
思をもつてこの者に対する口伝によつて行う一定内容の行為であることが認められ
るから、その存否が専ら信仰上の価値判断にかかつているような事柄とは異なつて
一個の客観的な社会的事実としての側面を有するものであることは否定できないの
であり、したがつて、これを全面的に司法的判断の対象外にあるものと断ずること
ができるかどうかには若干問題がないわけではない。しかしながら、前記のとお
り、宗規によれば法主による次期法主の選定が行われない場合には総監、重役及び
能化の協議によつて次期法主が選定されるものとされ、一般の末寺の僧侶は法主の
任免に関与する機会を有しないところからすれば、管長及び代表役員たる地位の存
否を争う適格及び法律上の利益を有する者は、被控訴人日蓮正宗及び当該役員たる
ことを主張する者自身のほか、右総監、重役、能化に限られ、末寺の代表役員等で
ある控訴人らはこれを有しないものというべきである(もつとも、後述のとおり教
師たる資格を有する僧侶は宗会の議員の選挙権を有するところ、既に述べたように
重役は宗会によつて選定されるのであるから、その限りで控訴人らも法主の選定に
関与しているといえなくもないが、その関係は間接的であつて、右原告適格及び法
律上の利益を根拠づけるに足りない。)。従つて、控訴人らの本件訴えは、控訴人
らの原告適格及び訴えの利益の点において不適法というべきである。
 3 右の点につき控訴人らは、被控訴人日蓮正宗の管長は宗務全般、殊に控訴人
ら僧侶や控訴人らの所属する末寺について絶大な権限を有し、人事、財務に関する
管長の権限の行使によつて控訴人らは、経済上、法律上の利害を直接左右される立
場にあるから、控訴人らには被控訴人Bが同日蓮正宗の管長の地位を有しないこと
の確認を求める利益があると主張する。なるほど、被控訴人日蓮正宗の管長は前記
認定のような権限を有し、その権限の行使方法如何によつては、控訴人らの利益を
害する場合もあることは想像されなくはないが、仮にそのような事態が生じた場合
には、その段階において、控訴人らが被る具体的な不利益の除去を求めることがで
きるのであるから、控訴人らの右主張は採用することができない。
 4 さらに控訴人らは、控訴人らが被控訴人日蓮正宗の各種機関の構成員の選挙
権、被選挙権を有する外、その経費を負担し、しかも、同被控訴人は控訴人ら僧侶
に対する人事権、懲戒権を有しているから、控訴人らと同被控訴人とは法律上、財
産上の利害関係があるとして、控訴人らには被控訴人Bが同日蓮正宗の代表役員の
地位を有しないことの確認を求めるについての原告適格があると主張する。そし
て、前掲甲第一号証及び弁論の全趣旨によれば、現行の宗制、宗規上、控訴人らは
いずれも被控訴人日蓮正宗の教師たる資格を有する者として(住職、主管が教師の
中から任命されることは宗規一七二条によつて明らかである。)宗会議員、監正員
等の選挙権を有し(宗制二三条、三三条、五九条、宗規二四条、九六条、一四一
条、日蓮正宗寺族同心会規約四条、六条)、被控訴人日蓮正宗の宗費を負担する
(宗規二七〇条)ことが認められ、また、同被控訴人が控訴人ら僧侶に対する人事
権、懲戒権を有していることは管長の権限に関して前述したとおりであるが、この
ことがら直ちに被控訴人日蓮正宗の代表役員が誰であるかが控訴人らの具体的権利
関係に影響を及ぼすものであるとは到底いい難く、被控訴人日蓮正宗が控訴人らに
対して何らかの懲戒権を行使する等、控訴人らに何らかの具体的な不利益処分、取
扱いがなされた場合には、その具体的不利益処分等の無効確認を求める等の訴えを
提起することか可能なのであるから、控訴人らの主張を採用することはできない。
 三 以上のとおりであるから、控訴人らの本件訴えはいずれも不適法であり、こ
れを却下した原判決は結論において相当である。よつて本件控訴はいずれも理由が
ないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法九五条、
八九条、九三条一項を適用し、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 鈴木重信 裁判官 加茂紀久男 裁判官 片桐春一)

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